特許第5883308号(P5883308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883308
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】熱可塑性多層樹脂シート及び成形容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20160301BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20160301BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160301BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160301BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20160301BHJP
   B65D 1/26 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   B32B27/32 Z
   B32B5/18
   B32B27/00 H
   B32B27/30 B
   B65D65/40 D
   B65D1/26
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-28810(P2012-28810)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-163356(P2013-163356A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】中里 利勝
(72)【発明者】
【氏名】小茂田 含
(72)【発明者】
【氏名】中島 康次
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−040387(JP,A)
【文献】 特開2004−010103(JP,A)
【文献】 特開2008−213555(JP,A)
【文献】 特開2002−114265(JP,A)
【文献】 特開2008−207471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 1/26
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層を挟んで両面にソリッド層が形成され、一方の面側からノッチが形成される熱可塑性多層樹脂シートであって、ノッチ形成面を構成するソリッド層と発泡層との間に、ポリオレフィン系樹脂により形成された強度維持層が設けられ、前記発泡層を境に前記強度維持層を含むノッチ形成面側の厚みが、総厚みの25%以下であり、前記ソリッド層がポリスチレン系樹脂により形成されてなることを特徴とする熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項2】
前記発泡層の発泡倍率が1.3〜2.0倍である請求項1に記載の熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項3】
総厚みが600〜1200μmである請求項1又は2に記載の熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項4】
前記発泡層がポリスチレン系樹脂により形成されてなる請求項1から3の何れか一項に記載の熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項5】
前記強度維持層と該強度維持層に隣接する層との間に接着層を更に有する請求項1からの何れか一項に記載の熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項6】
前記強度維持層が20〜60μmの厚みを有する請求項1からの何れか一項に記載の熱可塑性多層樹脂シート。
【請求項7】
請求項1からの何れか一項に記載の熱可塑性多層樹脂シートを熱成形してなる成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性多層樹脂シート及びそれを成形してなる成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヨーグルトやミルクポーションをはじめとする乳製品の容器には、成形性に優れたスチレン系樹脂が用いられてきた。近年では、酸素に対するガスバリア性、防湿性などの特性を各層に持たせた多層構造のスチレン系発泡シートが開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
更に、近年では環境負荷低減の為、廃棄物を削減しようとする社会的動向があり、これに伴い、シート内部に発泡層を配することで軽量化を図ろうとする技術が考案されている(特許文献2参照)。
【0004】
上記従来の容器では、その内部に発泡層を設けることにより、15〜20%の軽量化が可能であるが、一方で発泡層を持たないシートと比較して容器落下強度が大きく低下するという問題を抱えている。また、一方の面側からノッチが形成される樹脂シートの場合、熱成形後のノッチ折れ性が不十分であるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2011−51264号公報
【特許文献2】特表2003−522052号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来の発泡シートでは困難であった軽量化と強度維持の両立という課題を解決し、軽量性と強度を具備する上、熱成形後のノッチ折れ性を十分なものとできる熱可塑性多層樹脂シートを提供することを目的とする。またこのような熱可塑性多層樹脂シートを用いて製造される成形容器を提供することも目的とする。
【0007】
本発明者は、発泡層を挟んで両面にソリッド層が形成され、一方の面側からノッチが形成される熱可塑性多層樹脂シートにおいて、ノッチ形成面を構成するソリッド層と発泡層との間に強度維持層を設けることで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の主たる態様によれば、発泡層を挟んで両面にソリッド層が形成され、一方の面側からノッチが形成される熱可塑性多層樹脂シートであって、ノッチ形成面を構成するソリッド層と発泡層との間に、ポリオレフィン系樹脂により形成された強度維持層が設けられ、前記発泡層を境に前記強度維持層を含むノッチ形成面側の厚みが、総厚みの25%以下である熱可塑性多層樹脂シートが提供される。
【0009】
上記において、発泡層は、発泡倍率が1.3〜2.0倍であるものが好ましい。シートの総厚みは通常は600〜1200μmの範囲とされる。前記強度維持層の厚みは例えば20〜60μmの範囲とできる。
また、前記発泡層及び前記ソリッド層は何れもポリスチレン系樹脂により形成されるのが好ましく、また前記強度維持層と該強度維持層に隣接する層との間には更に接着層を介在させてもよい。
【0010】
また本発明の別の態様によれば、本発明に係る熱可塑性多層樹脂シートを熱成形してなる成形容器が提供される。
【0011】
本発明の熱可塑性多層樹脂シートは、軽量性、強度を具備すると共に、熱成形後のノッチ折れ性を十分なものとすることが容易である。また、本発明の成形容器は、軽量性、落下強度を具備すると共に、ノッチ折れ性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の熱可塑性多層樹脂シートの巻き姿を示す概略斜視図であり、該シートの一部の断面を示す概略断面図も併せて示す。
図2】本発明の成形容器の一例を示す概略斜視図である。
図3図2の成形容器の概略側面図である。
図4】容器の打ち抜き工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1中の断面図は、本発明の一実施形態に係る熱可塑性多層樹脂シートの断面を示すもので、ノッチが形成されることとなる面を構成するソリッド層を最上層とし、下方に向けて順に、接着層、強度維持層、接着層、発泡層、ソリッド層を有する積層構造とされている。以下、発泡層、ソリッド層、強度維持層、接着層の順に各層を説明する。
【0014】
<発泡層>
前記発泡層は、本発明の分野で使用できる発泡層を形成できるものであれば、如何なる樹脂で形成してもよいが、本発明の一実施形態では、スチレン系樹脂で形成される。使用されるスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、あるいは前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト共重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン−アクリルニトリルグラフト共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0015】
なかでも汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)が成形容器の剛性、成形性の観点から好ましい。
【0016】
スチレン系樹脂は、ブタジエンゴム成分を4〜8質量%含有することが好ましい。ブタジエンゴム成分含有量は、GPPSとHIPSのブレンドにより調整するのが簡便な方法であるが、HIPSの製造段階で調整しても構わない。ブタジエンゴム成分が4質量%未満であると実用上十分な容器強度が得られなくなる可能性があり、8質量%を超えると、熱成形時に熱盤付着等の不具合を起こす可能性がある。
【0017】
スチレン系樹脂には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤を添加することができる。また、本発明の熱可塑性多層樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0018】
発泡層に添加する発泡剤としては、種々の揮発性発泡剤や分解型発泡剤がある。揮発性発泡剤としては、例えば、炭化水素、プロパン、i−ブタン、n−ブタン、i−ペンタン、n−ペンタン、あるいはこれらの混合物、そして、N、CO、N/CO、水などが挙げられる。
【0019】
分解型発泡剤として、例えば、アゾジカルボン酸アミド、ジニトロペンタメチレンテトラミン、4、4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などを挙げることができる。さらに、重炭酸ナトリウムや、クエン酸などの有機酸もしくはその塩と重炭酸塩との組み合わせなども使用することができる。また、例えば重炭酸ナトリウムや、クエン酸などの有機酸もしくはその塩と重炭酸塩との組み合わせは、低分子オレフィン化合物、流動パラフィン、牛脂油などでコーティングしても使用することができる。その他、これらの混合物を使用することも可能で、これらを2種類以上混合してもよい。これらはいずれも粉末、フレーク、又は熱可塑性樹脂とのマスターバッチとして入手することもできる。特に、ポリオレフィンをポリスチレンに混合して分解型発泡剤を使用すると、該ポリオレフィンは気泡調整剤としての効果がある。また、分解型発泡剤とN、CO、i−ブタン、n−ブタン、i−ペンタン、n−ペンタンとを併用すると気泡が細かく、かつ成形性がよい。
【0020】
発泡層の厚みとしては好ましくは300〜700μm、より好ましくは350〜500μmがよい。300μm未満であると十分な軽量性が得られない可能性があり、700μmを超えると、成形容器の強度が低下し、深絞り成形には適さない。
【0021】
本発明においては、発泡層の発泡倍率としては、好ましくは1.3〜2.0倍、より好ましくは1.4〜1.8倍である。1.3倍未満であると、シートについて十分な軽量性が得られず、2.0倍以上であると、成形容器の強度が低下し、深絞り成形には適さない。
【0022】
<ソリッド層>
ソリッド層は非発泡層であり、発泡層に用いられる樹脂と同一又は類似の樹脂によって形成されるのが好ましい。よって、本発明の好適な実施形態では、ソリッド層は、スチレン系樹脂により形成される。ソリッド層を構成するスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、又は前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト共重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン−アクリルニトリルグラフト共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0023】
なかでも汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)が成形容器の剛性、成形性の観点から好ましい。
【0024】
スチレン系樹脂は、ブタジエンゴム成分を4〜8質量%含有することが好ましい。ブタジエンゴム成分含有量は、GPPS樹脂とHIPS樹脂のブレンドにより調整するのが簡便な方法であるが、HIPS樹脂の製造段階で調整しても構わない。4質量%未満であると実用上十分な容器強度が得られなくなる可能性があり、8質量%を超えると、熱成形時に溶融樹脂の熱盤への付着等の不具合を起こす可能性がある。
【0025】
スチレン系樹脂には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤を添加することができる。また、本発明の熱可塑性多層樹脂シートやそれを熱成形して成る成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0026】
ノッチが形成される面側のソリッド層の厚みとしては、好ましくは30〜260μm、より好ましくは50〜150μmである。30μm未満であると、熱成形を経て引き伸ばされる際にソリッド層が切れて強度維持層が剥き出しになり、容器表面の印字適性が損なわれる可能性がある。また、260μmを超えると、ノッチを形成する際の刃の挿入深さを大きくする必要があり、容器形状の保持性能及び容器強度が低下する恐れがある。
【0027】
ノッチが形成されない面側のソリッド層の厚みとしては、好ましくは140〜510μm、より好ましくは170〜390μmである。140μm未満であると、熱成形して得られた容器の剛性が不十分となる可能性があり、510μmを超えると、ノッチを形成した後のノッチ折れ性が低下する可能性がある。
【0028】
<強度維持層>
強度維持層は、強度を付与するために設ける靱性に優れた層で、本発明の一実施形態では、ポリオレフィン系樹脂により形成される。かかるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他の樹脂を使用することができる。
【0029】
また、強度維持層を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ノッチなし試験片のアイゾット衝撃強さが100kJ/m以上である樹脂が特に好ましい。100kJ/m未満の樹脂では靭性が不十分となり、樹脂シート及びそれを熱成形してなる成形容器の強度が低下してしまう場合がありうる。
【0030】
ここで、ノッチなし試験片のアイゾット衝撃強さとは、ノッチなし試験片の破壊時に吸収される衝撃エネルギーを試験片の初めの断面積で除した値で表わされ、JIS K7110に記載されている手法に従って評価される。以下に試験法の概要を記しておく。
(ノッチなし試験片のアイゾット衝撃強さの評価法)
・試験片: 試験片は、ISO 2818の規定に従ってシートから切削加工する。
(推奨される試験片の形状と寸法)
長さ l=80mm±2mm
幅 b=10.0mm±0.2mm
厚さ h=4.0mm±0.2mm
・装置: 試験機は、振り子式衝撃試験機で、堅固な構造とし、試験片の破壊時に吸収される衝撃エネルギー(W)を測定できるものとする。
・試験手順及び結果の表示: 試験は少なくとも10個の試験片について行う。ノッチなし試験片のアイゾット衝撃強さAiuは次式で算出し、計算した平均値は有効数字2桁で報告する。
iu=W/hb×10(kJ/m
W:試験片に吸収された補正後の衝撃エネルギー(J)
h:試験片の厚さ(mm)
b:試験片の幅(mm)
【0031】
強度維持層の厚みとしては、好ましくは20〜60μm、より好ましくは30〜50μmがよい。20μm未満であるとシート及び成形容器に十分な強度を付与できない可能性があり、60μmを超えるとノッチ形成時、強度維持層が切断されずノッチ折れ性が悪くなる恐れがある。
【0032】
<接着層>
接着層は、任意の層で、本発明の分野で使用でき、隣接層を接着する接着性を具備するものであれば如何なる樹脂で形成してもよいが、本発明の一実施形態では、変性ポリオレフィン系樹脂が使用される。かかる変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8程度のオレフィンの単独重合体、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の炭素数2〜20程度の他のオレフィンや酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等の共重合体ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、又はその酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものが代表的なものとして挙げられる。
【0033】
なかでも、不飽和ジカルボン酸又はその無水物、特にマレイン酸又はその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、又はエチレン−プロピレン又はブテン−1共重合体ゴムが好適である。
【0034】
接着層の厚みとしては、好ましくは3〜10μm、より好ましくは4〜6μmがよい。3μm未満であると、十分な層間接着強度が得られなくなる可能性があり、10μmを超えると、熱成形の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生したり、ノッチ折れ性が不十分となる可能性がある。
【0035】
<熱可塑性多層樹脂シート>
本発明の熱可塑性多層樹脂シートの層構成は、図1の実施形態に示すように、基本的に、ソリッド層/接着層/強度維持層/接着層/発泡層/ソリッド層であるが、層構成はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の熱可塑性多層樹脂シートやそれを熱成形して成る成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂の屑等からなる層を、ノッチが形成される反対側に積層してもよい。
【0036】
熱可塑性多層シートの総厚みとしては、好ましくは600〜1200μm、より好ましくは700〜900μmである。600μm未満であると、熱成形して得られた容器の強度が不十分となる可能性があり、1200μmを超えると容器の製造コストが高くなる可能性がある。また、熱成形後の成形容器のノッチ折れ性は、形成されるノッチの深さ等に応じて変動しうるが、種々の構成の多層シートを製造し、種々のノッチ形成条件下でノッチを形成してその折れ性を試験した結果、成形容器のノッチ折れ性を十分なものとするためには、発泡層を境に強度維持層を含むノッチ形成面側の厚みを、総厚みの25%以下としておくべきであることを知見した。よって、本実施形態においては、発泡層を境に強度維持層を含むノッチ形成面側の厚み(図1に示されるように、ノッチ形成面側のソリッド層/接着層/強度維持層/接着層までの厚み)が、上述の総厚みの25%以下でなければならない。
【0037】
熱可塑性多層樹脂シートの成形方法は、特に限定されず一般的な方法を用いることができる。例えば、4台もしくはそれ以上の単軸押出機を用いて各々の原料樹脂を溶融押出し、フィードブロックとTダイによって多層樹脂シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用して多層樹脂シートを得る方法が挙げられる。
【0038】
<成形容器>
図2に、本発明の成形容器の一例を示す。
本発明の成形容器は、上記本発明の熱可塑性多層樹脂シートを成形してなる。熱成形方法としては、一般的な真空成形、圧空成形やこれらの応用として、シートの片面にプラグを接触させて成形を行うプラグアシスト法、またシートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適用することができる。
【0039】
また、本発明の成形容器はノッチを有する。ノッチは断面V字形状であり、一方の面側、すなわち発泡層を境に強度維持層を含む側に、熱盤方式等により加熱してV字形状の刃を挿入することにより形成することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0041】
実施例で用いた樹脂原料は以下の通りである。
(1)強度維持層
・アイゾット衝撃強さ(ノッチ無)が100kJ/m以上のポリオレフィン系樹脂として、低密度ポリエチレン樹脂「ノバテックLD LJ802」(日本ポリエチレン株式会社製)を用いた。
(2)接着層
・エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂「エバフレックス360」(三井・デュポンポリケミカルズ株式会社製)
(3)発泡層
・HIPS樹脂「トーヨースチロールH850N」(東洋スチレン社製、ブタジエン含有量9.3質量%)
・GPPS樹脂「トーヨースチロールG200C」(東洋スチレン社製)
・化学発泡剤「ES−275」(永和化成工業株式会社製、ポリスチレン、炭酸水素ナトリウム、タルク含量1〜10質量%、石油系炭化水素含量1〜10質量%)
(4)ソリッド層
・HIPS樹脂「トーヨースチロールH850N」(東洋スチレン社製、ブタジエン含有量9.3質量%)
【0042】
<実施例1>
4台の40mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、ソリッド層(巻き外)80μm/接着層(巻き外)5μm/強度維持層30μm/接着層(巻き内)5μm/発泡層390μm/ソリッド層(巻き内)240μmという層構成を有する総厚み750μm(発泡層を境に強度維持層を有する側の厚み120μm)の熱可塑性多層樹脂シートを得た。
【0043】
尚、スチレン系樹脂としては、ソリッド層にはHIPS樹脂、発泡層にはHIPS樹脂とGPPS樹脂を質量比50/50(HIPS/GPPS)で混合したものを用いた(ブタジエン成分含有量4.7質量%)。
【0044】
また、発泡層樹脂量に対する発泡剤添加量は、0.7PHRとした。
【0045】
この熱可塑性多層樹脂シートを下記条件で、成形、ノッチ形成、容器打ち抜き(図4)まで一連の工程で加工し、図2又は3に示す容器を得た。尚、ノッチに関しては、発泡層を境に強度維持層を有する側から形成し、ノッチの深さはノッチ形成部分の加熱温度により調整した。
使用機器:CFF−300(CKD株式会社製)
上熱盤温度:165℃
下熱盤温度:165℃
ノッチ部分加熱温度:160℃
ノッチ深さ:300μm
容器打ち抜き刃上側構造:雄刃
容器打ち抜き刃下側構造:雌刃
容器打ち抜き刃の上側下側間の間隙:20μm
【0046】
得られた熱可塑性多層樹脂シート及び容器の各種評価を下記の方法で行った。結果を表1に示す。
【0047】
(1)シート比重
シートの比重を、以下の方法にて測定した。
使用機器:電子比重計MD−200S(アルファーミラージュ株式会社製)
測定方法:試験片は、シートを3cm角にカットしたものを用いた。
測定条件:温度25℃
【0048】
(2)容器ノッチ折れ性
ノッチ形成部分を、図2に示す折り曲げ方向に折り曲げて、以下の基準で評価した。
◎:ノッチ30箇所中、一回で折れない箇所が0箇所
○:ノッチ30箇所中、一回で折れない箇所が3箇所
×:ノッチ30箇所中、一回で折れない箇所が4〜30箇所
【0049】
(3)容器落下強度
成形容器の落下強度を、以下の方法にて評価した。
図1に示す4連容器に水80gを入れ、フィルム状の蓋材で密封した試験サンプルを20個、作製した。これらを高さ40cmから水平に落下させ、破損した(容器から水が漏れる状態になった)サンプルの個数を記録し、以下の基準で評価した。
◎:4連容器20個中の破損個数が0個
○:4連容器20個中の破損個数が3個以内
×:4連容器20個中の破損個数が4〜20個
【0050】
<実施例1〜4、比較例1〜3>
強度維持層と接着層の有無、強度維持層の樹脂組成、発泡層樹脂量に対する発泡剤添加量、各層の厚みを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、熱可塑性多層樹脂シートを成形した。
【0051】
また、得られた熱可塑性多層樹脂シートを用いて、実施例1と同様にして容器を成形した。
【0052】
評価結果を表1に示す。
【表1】
表1から明らかなように、本発明例に係る多層樹脂シートを用いて形成した容器は、容器落下強度及び容器ノッチ折れ性の何れの特性も十分良好なものであったが、比較例に係る樹脂シートを用いて形成した容器は、容器落下強度及び容器ノッチ折れ性の何れかが満足できないものであった。
図1
図2
図3
図4