(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムなどの高分子フィルムは、ハードコート層などの機能層を積層してディスプレイなどの光学用途に使用され、高分子フィルムと機能層との接着性を向上させるためにこれらの中間層として易接着層が設けられるのが一般的である。この場合、高分子フィルムや機能層の屈折率に対して、易接着層の屈折率との差が大きくなると光の干渉斑が発生するという問題を解消するために、易接着層の屈折率を高分子フィルムと機能層の屈折率の中間にすることが提案されている。
【0003】
例えばポリエステルフィルム上に機能層としてハードコート層を積層する場合の易接着層用のポリエステルとして、特許文献1には、2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸およびビス(4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを共重合成分とする共重合ポリエステルが提案され、また、特許文献2には、ナフタレンジカルボン酸、炭素数が4〜10のポリメチレンジオールまたはポリメチレンジカルボン酸を共重合成分とする共重合ポリエステル、さらに、特許文献3には、2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸およびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を共重合成分とする共重合ポリエステルが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている共重合ポリエステルは、ポリエステルフィルム上に塗布する際に通常採用されるインラインコート法では、共重合ポリエステルのガラス転移温度が高いために塗布後の延伸工程で塗布層に割れが発生し易くなるだけでなく、耐ブロッキング性も不十分で改善が求められている。
【0005】
また、特許文献2に記載の共重合ポリエステルは耐溶剤性が不十分なため、大粒子の添加なしではハードコート層を塗設する際に易接着層がハードコート塗液の溶剤によって膨潤し、界面が荒れて干渉斑が生じるだけでなく、耐ブロッキング性も不十分であるという問題もある。
【0006】
さらに、特許文献3に記載の共重合ポリエステルは、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の共重合割合が大きいので高温高湿度下での接着性が向上しているものの、特許文献1と同じく共重合ポリエステルのガラス転移温度が高いために塗布後の延伸工程で塗布層に割れが発生しやすくなるだけでなく、耐ブロッキング性も不十分であるという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、ハードコート層など機能層の塗液に使用される有機溶剤に対する膨潤性が低く(耐溶剤性に優れ)、耐ブロッキング性および易接着性に優れ、しかも通常採用されるインラインコーティング法で塗布しても延伸工程で塗布層に割れの発生しがたい、特に易接着層用のコーティング剤として好適な共重合ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸および他の芳香族ジカルボン酸を含有し、ジオール成分として、ビス(4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンおよびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物に加えて側鎖に炭素数2以上のアルキル基を有する特定のアルキレングリコールを含有する共重合ポリエステルが上記の課題を同時に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、「ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として、酸成分としては2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を60〜80モル%、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜9モル%および他の芳香族ジカルボン酸成分を
17〜35モル%含有し、ジオール成分としては下記式(1)で示されるグリコール成分を50〜80モル%、下記式(2)で示されるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を10〜30モル%および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を5〜25モル%含有する共重合ポリエステル」により達成される。
【0011】
【化1】
(式中、R
1は、水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を表わし、R
2は、炭素数2〜9のアルキル基を表わし、n,mは、それぞれ0〜8の整数を表わし、かつn+mは2〜8である。)
【0012】
【化2】
(式中、k,lはそれぞれ1以上の整数であって、k+lは2〜8である。)
【0013】
また、本発明の共重合ポリエステルは、その好ましい態様として、他の芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分またはイソフタル酸成分であること、式(1)で表されるグリコール成分が2−ブチル−2−エチル−プロパンジオールであること、の少なくとも1つの要件を具備するものを包含する。
さらに、本発明によれば、上記の共重合ポリエステルを水に分散した水分散体も提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合ポリエステルを用いれば、ハードコート層などの機能層の塗液に使用される種々の有機溶剤に対する膨潤性が低く、耐ブロッキング性および接着性に優れ、しかも通常採用されるインラインコーティングでも延伸工程での塗布層割れが発生しがたい易接着層を形成することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の共重合ポリエステルは、ポリエステルの全酸成分を基準として、酸成分としては2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を60〜80モル%、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分を1〜9モル%および他の芳香族ジカルボン酸成分を10〜35モル%含有し、かつジオール成分として前記式(1)で示されるグリコール成分を50〜80モル%、前記式(2)で示されるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を10〜30モル%および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分5〜25モル%を含有するものである。
【0017】
酸成分としての2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合が下限未満になると、耐溶剤性が悪化するため、機能層用塗布液中の有機溶剤に接触した際に膨潤して共重合ポリエステル塗布層の厚み斑に起因する干渉斑が発生するだけでなく、耐ブロッキング性も低下するため好ましくない。他方、上限を越えると、共重合ポリエステルのガラス転移温度(Tg)が高くなり過ぎるため、例えばポリエステルフィルムにインラインコーティングして塗布層を形成する際に延伸性が低下し、塗布層に割れが発生しやすくなるので好ましくない。なお、好ましい2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合の下限は、62モル%、さらに64モル%であり、他方上限は75モル%、さらに70モル%である。
【0018】
また、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合が下限未満になると、ポリエステルの親水性が低下して親油性が強くなるため、共重合ポリエステルを水分散化して水性塗布液とする際の水分散化が難しくなるだけでなく、耐溶剤性も低下するので好ましくない。他方、上限を越えると、フィルム上に塗布して易接着性フィルムとしたときの耐ブロッキング性が低下するので好ましくない。好ましいスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合の下限は、耐溶剤性の点から、2モル%、さらに3モル%、特に5.5モル%が好ましく、他方好ましい上限は、耐ブロッキング性の点から8モル%である。特に耐ブロッキング性の要求が大きい場合は、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の割合は、少なめの1〜5モル%が好ましく、他方、耐溶剤性の要求がより大きい場合は、5.5〜8モル%が好ましい。
【0019】
このスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、5−カリウムスルホイソフタル酸成分、5−リチウムスルホイソフタル酸成分、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸成分等が挙げられるが、水分散性良化の点から、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、5−カリウムスルホイソフタル酸成分、5−リチウムスルホイソフタル酸成分が好ましく、なかでも5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分が最も好ましい。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルは、上述の酸成分に加えて、他の芳香族ジカルボン酸成分を10〜35モル%併用することにより、耐溶剤性や共重合ポリエステルのガラス転移温度を適正な範囲とする。この他の芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸成分、テレフタル酸成分、ビフェニルジカルボン酸成分等を挙げることができる。これらのなかでもイソフタル酸成分とテレフタル酸成分が好ましく、イソフタル酸成分が特に好ましい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステルの酸成分としては、本発明の目的を阻害しない範囲内で、芳香族ジカルボン酸成分以外の酸成分、例えば脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、オキシカルボン酸成分などを少量共重合してもよいが、多くなりすぎると耐溶剤性や耐ブロッキング性が低下する傾向にあるので、4モル%以下、好ましくは2モル%以下、特に0モル%とするのが好ましい。
【0022】
次に、本発明の共重合ポリエステルのジオール成分としての前記式(1)で示されるグリコール成分は、側鎖に炭素数2〜9、好ましくは炭素数2〜4のアルキル基を少なくとも1個有しており、これにより耐ブロッキング性が良好なものとなる。側鎖がメチル基だけであるか、側鎖がない場合には、耐ブロッキング性が低下するので好ましくない。
【0023】
n,mはそれぞれ0〜8、好ましくは1〜4の整数であって、n+mは、共重合ポリエステルのガラス転移温度を適正な範囲とするために2〜8が必要であり、好ましくは2〜3である。n+mが下限未満であると、共重合ポリエステルのガラス転移温度が高くなり過ぎて、ポリエステルフィルム上に塗布した際に塗布層に割れが発生しやすくなったり、機能層の接着性が低下するので好ましくない。逆に上限を超えると、ガラス転移温度が低くなりすぎて耐ブロッキング性が低下する。
【0024】
このようなグリコール成分としては、例えば2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2−ブチル−1,3−プロパンジオール等があげられ、なかでも2−ブチル−2−エチルプロパンジオールが好ましい。
【0025】
前記式(1)で示されるグリコール成分の割合が下限未満になると、フィルム上に塗布して得られる易接着性フィルムの耐ブロッキング性が低下するので好ましくない。他方、上限を超えると、得られる共重合ポリエステルの例えばテトラヒドロフラン(THF)のような親水性溶媒への溶解性が落ちて共重合ポリエステル水分散体にするのが難しくなるだけでなく、後述する前記式(2)で示されるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物や9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の割合が低下するので好ましくない。好ましい割合の下限は、55モル%、さらに60モル%であり、他方上限は75モル%、さらに70モル%である。
【0026】
また、前記式(2)で示されるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物は、水分散性と接着性とを維持しながら耐溶剤性を良好なものとする点から10〜30モル%である必要があり、好ましい下限は、12モル%、さらに14モル%であり、他方好ましい上限は、25モル%、さらに21モル%である。前記式(2)におけるk,lはそれぞれ1以上の整数で、k+lが2〜8の範囲である必要であり、kまたはlが0の場合には共重合しがたくなり、一方、k+lが8を超える場合には、耐ブロッキング性が不十分となる。なお、得られる共重合ポリエステルのガラス転移温度を下げるためにはk+lは4以上が好ましく、耐ブロッキング性の点からは6以下、特に4以下が好ましい。またエチレンオキサイド付加物に変えて、例えば側鎖を有するプロピレンオキサイド付加物を使用すると、確かに接着性、親水性溶媒への溶解性はエチレンオキサイド対比向上するが、耐溶剤性が悪化するので好ましくない。
【0027】
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の割合は、耐溶剤性および高屈折率化の点から5〜25モル%の範囲が必要で、好ましい下限は7モル%、さらに10モル%であり、他方上限は20モル%、さらに15モル%である。なお、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を共重合するとガラス転移温度が高くなりやすいので、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の割合と前記2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合との合計は、80モル%以下であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の共重合ポリエステルは、そのジオール成分として、上述した前記式(1)のグリコール成分、前記式(2)のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、他の脂肪族または脂環族グリコール、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を併用しても構わないが、多くなりすぎると耐溶剤性や耐ブロッキング性が低下する傾向にあるので、4モル%以下、好ましくは2モル%以下、特に0モル%とするのが好ましい。
【0029】
本発明の共重合ポリエステルの好ましい固有粘度の範囲は、0.2〜0.8dl/gであり、下限はさらに0.3dl/g、特に0.4dl/gであることが好ましく、上限はさらに0.7dl/g、特に0.6dl/gであることが好ましい。ここで固有粘度は、オルトクロロフェノールを用いて35℃において測定した値である。
また、本発明の共重合ポリエステルのガラス転移温度は、耐ブロッキング性およびフィルム上にインラインコートする際の塗膜形成性などの点から、40〜70℃の範囲にあることが好ましく、さらに45〜70℃の範囲にあることが好ましい。
【0030】
以上に詳述した本発明の共重合ポリエステルは、従来公知のポリエステル製造技術により製造することができる。例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸等の他の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体および5−ナトリウムスルホイソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を、前記式(1)のグリコール成分および9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、前記式(2)のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物と反応せしめてモノマーもしくはオリゴマーを形成し、その後真空下で重縮合せしめることによって所定の固有粘度の共重合ポリエステルとする方法で製造できる。その際、反応を促進する触媒、例えばエステル化もしくはエステル交換触媒、重縮合触媒を用いることができ、また種々の添加剤、例えば安定剤等を添加することもできる。
【0031】
本発明の共重合ポリエステルは、ポリエステルフィルムなどのフィルム上に機能層を塗布するための易接着層用として好適に用いられるが、特にポリエステルフィルム上に易接着層を形成する場合には、ポリエステルフィルムを製膜する際に塗布するインラインコーティング法が好ましいので、該共重合ポリエステルを水分散体として用いることが好ましい。水分散体とする方法は特に限定する必要はないが、例えば以下の方法で製造することができる。
【0032】
まず、共重合ポリエステルを、20℃で1リットルの水に対する溶解度が20g以上でかつ沸点が100℃以下、また100℃以下で水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解する。この有機溶媒としてはジオキサン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等を例示することができる。かかる溶液にさらに小量の界面活性剤を添加することもできる。
【0033】
共重合ポリエステルを溶解した有機溶媒には次いで、攪拌下好ましくは加温高速攪拌下で水を添加し、青白色から乳白色の分散体とする。また攪拌下の水に前記有機溶液を添加する方法によっても青白色から乳白色の分散体とすることもできる。
【0034】
得られた分散体について、さらに常圧または減圧下にて親水性の有機溶媒を蒸発留去すると、目的の共重合ポリエステル水分散体が得られる。共重合ポリエステルを水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解した場合には、該有機溶媒留去時に水が共沸するので水の減量分を考慮し、前もって多めの水に分散しておくことが望ましい。加えて、留去後の固形分濃度が40質量%を越えると、水に分散する共重合ポリエステルの微粒子の再凝集が起こり易くなり、水分散体の安定性が低下するため、親水性の有機溶媒を留去後の固形分濃度は、40質量%以下とすることが好ましい。一方、固形分濃度の下限はとくにないが、濃度が低すぎると乾燥に要する時間が長くなるため、0.1質量%以上とするのが好ましい。前記共重合ポリエステル水分散体中の共重合ポリエステルの微粒子の平均粒径は、通常1μm以下であり、好ましくは0.8μm以下である。
【0035】
かくして得られる共重合ポリエステル水分散体は、フィルムの片面または両面に塗布し、乾燥することによって該フィルムに易接着性を付与することができる。
共重合ポリエステル水分散体を塗布するに際して、アニオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤等の界面活性剤を該水分散体に必要量添加して用いることができる。有効な界面活性剤としては、フィルムがポリエステルフィルムの場合、表面張力を40dyne/cm以下に降下できて濡れを促進するものがあげられ、公知の多くの界面活性剤を使用することができる。その一例としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、第4級アンモニウムクロリド、アルキルアミン塩酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ塩等をあげることができる。
【0036】
ポリエステル水分散体には、必要に応じて帯電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤等を添加してもよい。
またポリエステル水分散体にはフィラーを添加してもよい。添加するフィラーとしてはシリカ、シリコーン、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。粒子の平均粒子径は20〜500nmが好ましく、共重合ポリエステルの質量を基準として、1〜10質量%含有することが望ましい。粒子の含有量が下限未満の場合は、粒子による耐ブロッキング効果が十分に発揮されず、他方上限を超えると、得られるフィルムのへーズが悪化しやすくなる。
【0037】
本発明において、共重合ポリエステル水分散体を塗布するフィルムとしては、ポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートまたはこれに他の共重合成分を共重合させたコポリマーからなるフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムは未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、ニ軸延伸フィルムのいずれでもよいが、ニ軸延伸フィルムが好適である。
【0038】
このようなポリエステルフィルムは、それ自体公知の方法を適用して製造できる。たとえばニ軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ポリエチレンテレフタレートを溶融し、シート状に押出し、冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムを得、次いで該未延伸フィルムを二軸方向に延伸し、熱固定し、必要であれば熱弛緩処理することによって製造することができる。その際のフィルムの表面特性、密度、熱収縮率の性質は、延伸条件その他の製造条件により変わるので、必要に応じて適宜条件を選択することができる。たとえば、上記の製造方法においてポリエチレンテレフタレートを、Tm+10℃ないしTm+30℃(ただし、Tmはポリエチレンテレフタレートの融点)の温度で溶融し、押出して未延伸フィルムを得、該未延伸フィルムを一軸方向(縦方向または横方向)にTg−10℃ないしはTg+50℃の温度(ただし、Tgはポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度)で2〜5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向(1段目延伸が縦方向の場合には、2段目は横方向となる)にTg〜Tg+50℃の温度で2〜5倍の倍率で延伸することで二軸延伸フィルムとすることができる。この場合、面積延伸倍率は9〜22倍、さらには12〜22倍にするのが好ましい。その後、さらに、得られたフィルムは(Tg+60)〜Tm℃の温度、例えば200〜240℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は例えば1〜60秒である。
【0039】
本発明の共重合ポリエステル水分散体をポリエステルフィルムに塗布する工程は特に制限されないが、通常未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムに共重合ポリエステル水分散体を塗布した後、加熱乾燥してからさらに延伸するインラインコーティング法が一般的であり、なかでも機械方向に一軸延伸したフィルムに塗布したのちに幅方向に延伸する方法または未延伸フィルムに塗布した後に同時二軸延伸する方法が好ましい。
【0040】
塗布は常法により可能であり、例えばキスコート、リバースコート、グラビアコート、ダイコート等を用いて塗布することができる。塗布量は、乾燥後の最終的層厚で0.01〜5μm(dry)が好ましく、さらに好ましくは0.01〜2μm(dry)、最も好ましくは0.01〜0.3μm(dry)である。
【0041】
かくして得られる易接着性ポリエステルフィルムは、接着力が高く、耐熱性、耐水性、耐ブロッキング性に優れ、しかもハードコート層など有機溶剤を用いた塗液を塗布した際の膨潤も抑えられており、例えば包装材料、磁気カード、磁気テープ、磁気ディスク、光学材料、印刷材料、グラフィック材料、感光材料、加飾材料等、特に光学材料として有用である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部は、特に断らない限り重量部を意味する。
【0043】
(1)耐溶剤性(有機溶剤での膨潤率)
共重合ポリエステルをチップの状態で、5メッシュ(目開き4000μm)の金網のふるい1と9メッシュ(目開き2000μm)の金網のふるい2とにこの順でかけて、ふるい1を通過し、ふるい2を通過しなかったチップ40gをサンプリングした。そして、サンプリングしたチップを入れたビーカーに酢酸エチル100mLを注ぎ、1時間静置した。その後、チップを前記ふるい2の上に取り出し、取り出してから23℃、50%RHの雰囲気下で2時間静置後、質量を測定し、以下の式により膨潤率を算出した。
膨潤率(%)=(浸漬後の質量−浸漬前の質量)/浸漬前の質量×100
その結果として膨潤率が15%未満の場合を膨潤性良好○、15%以上の場合を膨潤性悪×とし表記した。
【0044】
(2)親水性溶媒への溶解性
冷却還流管を接続したフラスコに共重合ポリエステルをチップの状態で2g入れ、テトラヒドロフラン(THF)20mLを注ぎ、3時間加熱還流した。その後、室温まで冷却し、12時間静置した後、目視にてチップの溶け残りがないか確認し、チップの溶け残りがない場合を溶解性○、チップの溶け残りがある場合を溶解性×とした。
【0045】
(3)ガラス転移温度(Tg)
TA Instrument社製、商品名:DSC 2920 Modulated DSCにて測定した。なお、測定は昇温速度20℃/分にて行った。
【0046】
(4)易接着層付きポリエステルフィルム
35℃のオルトクロロフェノール中で測定した固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを溶融押出して厚み158μmの未延伸フィルムを得、次いでこれを機械軸方向に85℃で3.5倍延伸した後、後述で調製した塗布液を一軸延伸フィルムの片面に、乾燥後の塗布量が20mg/m
2となるように塗布した。その後、105℃で3.9倍に横方向(機械軸方向及び厚み方向に直交する方向)に延伸し、200℃で4.2秒間熱処理を施し、厚さ12μmの易接着層付きニ軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0047】
(5)接着性
上記(4)で作成した片面に易接着層を設けたポリエステルフィルムの易接着層側の表面に、下記の組成からなるUV硬化組成物をマイヤーバーを用いて塗付し、直ちに70℃1分で乾燥し、強度80W/cmの高圧水銀灯で30秒紫外線照射して硬化させ、膜厚5μmのハードコート層を形成した。ハードコート層の上にスコッチテープNo.600(3M社製)巾19.4mm、長さ8cmを気泡の入らないように貼着し、この上をJIS.C2701(1975)記載の手動式荷重ロールでならし、貼着積層部5cm間を東洋ボールドウィン社製テンシロンUM−11を使用してヘッド速度300mm/分で、この試料をT字剥離した。そして、剥離後のポリエステルフィルムの表面を観察し、ハードコート層が剥離していないものを○、剥離が見られるものを×として、評価した。なお、T字剥離において、積層体はスコッチテープ側を下にして引き取り、チャック間を5cmとする。
<UV硬化組成物>
ペンタエリスリトールアクリレート :45質量%
N−メチロールアクリルアミド :40質量%
N−ビニルピロリドン :10質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン: 5質量%
【0048】
(6)耐ブロッキング性
上記(4)で作成した片面に易接着層を設けたポリエステルフィルムを機械軸方向に10cm、横方向に20cmとなるように裁断したものを2枚用意し、易接着層の設けられた表面と、易接着層の設けられていない表面とを重ねあわせ、これに0.6kg/cm
2の圧力をサンプル全面に60℃×80%RHの雰囲気下17時間かけた後、フィルムの横方向におけるサンプルの一端において、端から1cmをT字型になるように折り返し、上記テンシロンUM−11のチャックにはさみ、T字方向に10cm/分の速度でフィルムの横方向に沿って完全に剥離したときにかかる積算応力を剥離長さで除して幅10cmあたりの平均剥離力を算出し、以下の基準で評価した。
○:平均剥離力が 380mN/10cm未満
×:平均剥離力が 380mN/10cm以上
【0049】
(7)屈折率の測定
共重合ポリエステルを90℃で板状に乾固させて、アッベ屈折率計(D線589nm)で測定した。
【0050】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、イソフタル酸ジメチル34部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル13部、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール81部、ビスフェノールAエチレンオキシド付加体(前記式(1)におけるn+m=4)51部、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン28部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.1部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。
次いで、この反応系に、イルガノックス1010(チバガイギー社製)0.5部を添加した後、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を1mmHgまで減圧して重縮合反応を行ない、固有粘度0.47dl/gの共重合ポリエステルを得た。
得られた共重合ポリエステルの組成を表1に示す。
【0051】
<共重合ポリエステル水分散体の調製>
得られた共重合ポリエステル20部をテトラヒドロフラン80部に溶解し、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水180部を滴下して青みがかった乳白色の分散体を得た。次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。かくして固形分濃度10質量%のポリエステル水分散体を得た。島津製作所製SA−CP4Lを用いて、この水分散体中の共重合ポリエステルの微粒子の平均粒径を測定したところ、0.12μmであった。
【0052】
<塗布液の調製>
得られたポリエステル水分散体180部にノニオン系界面活性剤:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12.8)2部、フィラーとして平均粒径0.03μmのシリカ0.5部を加え、さらに水618部を加えて塗布液を調製した。
得られた共重合ポリエステル水分散体および塗布液を用いた易接着層付きポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[実施例2〜7,比較例1〜16]
共重合成分の種類および仕込み量を、表1の組成になるように変える以外は実施例1と同様に行なって、表1に示す共重合ポリエステルを得た。次いで、これら共重合ポリエステルを用いる以外は、実施例1と同様に行なって共重合ポリエステル水分散体、さらには塗布液を調製した。なお、比較例11、12では、重合反応性が悪くて共重合ポリエステルを得ることができなかった。
得られた共重合ポリエステル、共重合ポリエステル水分散体および塗布液を用いた易接着層付きポリエステルフィルムの特性を表1に示す。なお、親水性溶媒への溶解性が×だった共重合ポリエステルは、それ以上の評価は行わなかった。
【0054】
【表1】
【0055】
表1中のNDAは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、IAはイソフタル酸成分、TAはテレフタル酸成分、NSIAは5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分、SAはセバシン酸成分、BPA−4は三洋化成工業製のビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物成分(ニューポールBPE−40)、BPA−2は三洋化成工業製のビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物成分(ニューポールBPE−20T)、BP−23Pは三洋化成工業製のビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物成分(ニューポールBP−23P)、BEPDは2−ブチル−2−エチル−プロパンジオール成分、BPEFは9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分、NPGはネオペンチルグリコール成分、1,3−PDは1,3−プロパンジオール、1,2−BDは1,2−ブタンジオール、1,3−BDは1,3−ブタンジオール、HGはヘキシレングリコール(2−メチルペンタン−2,4−ジオール)、2BPは2−ブチル−1,3−プロパンジオール、EGはエチレングリコール、DEGはジエチレングリコールを意味する。