(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに前記路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体の設計を支援する設計支援システムであって、
前記原地盤の段差に起因して変形し傾斜した前記道路補強構造体の平均勾配が所定の限界勾配を超えないとする第1条件から、前記道路補強構造体の仕様に関する所定の仕様パラメータの下限値又は上限値の一方を算出する第1限界値算出手段と、
前記原地盤の段差に起因して変形した前記道路補強構造体の前記補強材に作用する引張応力により前記補強材が破壊されないとする第2条件から、前記仕様パラメータの前記下限値又は前記上限値の他方を算出する第2限界値算出手段と、
前記第1及び第2限界値算出手段で得られた前記下限値と前記上限値とを提示する仕様パラメータ範囲提示手段と、
を備え、
前記仕様パラメータは、前記改良土層のヤング率(Ec)と前記補強材のヤング率(Eg)との比を表すパラメータであることを特徴とする設計支援システム。
道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに前記路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体の設計を支援する設計支援システムであって、
前記改良土層の仕様に関する改良土層仕様情報と、前記補強材の仕様に関する補強材仕様情報と、前記原地盤に発生する前記段差の想定量を示す想定段差量と、を入力させる条件入力受付手段と、
前記条件入力受付手段で得られた前記改良土層仕様情報と、前記補強材仕様情報と、前記想定段差量と、に基づいて、前記原地盤の前記想定段差量分の段差に起因する前記道路補強構造体の傾斜の平均勾配値を算出する勾配算出手段と、
前記勾配算出手段で得られた前記平均勾配値が所定の許容限界勾配値を超えないとする第1条件から、前記道路補強構造体の仕様に関する所定の仕様パラメータの下限値又は上限値の一方を算出する第1限界値算出手段と、
前記条件入力受付手段で得られた前記改良土層仕様情報と、前記補強材仕様情報と、前記想定段差量と、に基づいて、前記原地盤の前記想定段差量分の段差に起因して前記道路補強構造体の前記補強材に作用する最大引張応力値を算出する最大引張応力値算出手段と、
前記最大引張応力値算出手段で得られた前記最大引張応力値が、前記補強材仕様情報として入力された前記補強材の引張強度を超えないとする第2条件から、前記仕様パラメータの前記下限値又は前記上限値の他方を算出する第2限界値算出手段と、
前記第1及び第2限界値算出手段で得られた前記下限値と前記上限値とを提示する仕様パラメータ範囲提示手段と、
を備え、
前記仕様パラメータは、前記改良土層のヤング率(Ec)と前記補強材のヤング率(Eg)との比を表すパラメータであることを特徴とする設計支援システム。
道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに前記路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体であって、
前記改良土層のヤング率(Ec)に対する前記補強材のヤング率(Eg)の比(Eg/Ec)が、
前記原地盤の段差に起因して変形し傾斜したときの平均勾配が所定の限界勾配を超えないとする第1条件に対応する下限値よりも大きく、
前記原地盤の段差に起因して変形したときに前記補強材に作用する引張応力により前記補強材が破壊されないとする第2条件に対応する上限値よりも小さいことを特徴とする道路補強構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の補強構造体の構造においては、補強支持層や挟持シートの仕様を適切に設定しないと、段差を緩和する効果が十分に得られない。例えば、道路下の地盤に発生した段差に対して補強構造体の変形が過度に追従したり、上記段差に起因して補強構造体自体が破壊されたりすれば、結局のところ車両の円滑な走行を確保することが困難になる。よって、この種の補強構造体にあっては、車両走行を確実に確保することができるような設計が求められる。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、地震直後において車両走行を確実に確保するための道路補強構造体の設計を可能にする設計支援システム及びその道路補強構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の道路補強構造体の設計支援システムは、道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体の設計を支援する設計支援システムであって、原地盤の段差に起因して変形し傾斜した道路補強構造体の平均勾配が所定の限界勾配を超えないとする第1条件から、道路補強構造体の仕様に関する所定の仕様パラメータの下限値又は上限値の一方を算出する第1限界値算出手段と、原地盤の段差に起因して変形した道路補強構造体の補強材に作用する引張応力により補強材が破壊されないとする第2条件から、仕様パラメータの下限値又は上限値の他方を算出する第2限界値算出手段と、第1及び第2限界値算出手段で得られた下限値と上限値とを提示する仕様パラメータ範囲提示手段と、を備え、仕様パラメータは、改良土層のヤング率(Ec)と補強材のヤング率(Eg)との比を表すパラメータであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の道路補強構造の設計支援システムは、道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体の設計を支援する設計支援システムであって、改良土層の仕様に関する改良土層仕様情報と、補強材の仕様に関する補強材仕様情報と、原地盤に発生する段差の想定量を示す想定段差量と、を入力させる条件入力受付手段と、条件入力受付手段で得られた改良土層仕様情報と、補強材仕様情報と、想定段差量と、に基づいて、原地盤の想定段差量分の段差に起因する道路補強構造体の傾斜の平均勾配値を算出する勾配算出手段と、勾配算出手段で得られた平均勾配値が所定の許容限界勾配値を超えないとする第1条件から、道路補強構造体の仕様に関する所定の仕様パラメータの下限値又は上限値の一方を算出する第1限界値算出手段と、条件入力受付手段で得られた改良土層仕様情報と、補強材仕様情報と、想定段差量と、に基づいて、原地盤の想定段差量分の段差に起因して道路補強構造体の補強材に作用する最大引張応力値を算出する最大引張応力値算出手段と、最大引張応力値算出手段で得られた最大引張応力値が、補強材仕様情報として入力された補強材の引張強度を超えないとする第2条件から、仕様パラメータの下限値又は上限値の他方を算出する第2限界値算出手段と、第1及び第2限界値算出手段で得られた下限値と上限値とを提示する仕様パラメータ範囲提示手段と、を備え、仕様パラメータは、改良土層のヤング率(Ec)と補強材のヤング率(Eg)との比を表すパラメータであることを特徴とする。
【0009】
地震時に道路補強構造体の下方の原地盤に段差が発生したときに、路面における車両走行を確実に確保するためには、変形・傾斜した道路補強構造体の勾配を許容できる範囲(許容限界勾配値)内に抑えること(第1条件)と、補強材が破壊されないこと(第2条件)と、が必要である。そして、上記第1及び第2条件が満たされるためには、原地盤の段差に起因する道路補強構造体の変形挙動が適切な範囲にあることが必要である。
【0010】
本発明者らは、上記のような道路補強構造体において、改良土層のヤング率(Ec)に対する補強材のヤング率(Eg)の比(Eg/Ec)がある限定された範囲内の値のときに、上記第1及び第2条件に対応する好適な道路補強構造体の変形挙動が発揮されることを見出した。
【0011】
この知見に基づいて、上記の設計支援システムでは、Eg/Ecを表す仕様パラメータを導入し、上記の第1条件と第2条件とから、仕様パラメータの上限値及び下限値を算出し、提示することができる。よって、この上限値及び下限値に基づいて設計された道路補強構造によれば、地震によって原地盤に段差が発生したときに、変形・傾斜した道路補強構造体の勾配が許容できる範囲に抑えられ、かつ、補強材が破壊されないといった設計が可能になる。すなわち、地震直後においても車両走行を確実に確保するための道路補強構造体の設計が可能になる。
【0012】
また、具体的には、勾配算出手段は、原地盤に想定段差量分の段差が発生したときに段差部を跨いで延びる道路補強構造体の変形挙動を、段差部に相当する一方の固定支点と、低くなった側の原地盤上の一箇所に相当する他方の固定支点と、で両端支持されると共に、上方に存在する道路構成層の重量と自重量とを合わせた重量に対応する等分布荷重を受ける両持ち梁の変形挙動としてモデル化し、想定段差量を両持ち梁のスパンで除した値を平均勾配値として算出することとしてもよい。
【0013】
また、最大応力値算出手段は、原地盤に想定段差量分の段差が発生したときに段差部を跨いで延びる道路補強構造体の変形挙動を、段差部に相当する一方の固定支点と、低くなった側の原地盤上の一箇所に相当する他方の固定支点と、で両端支持されると共に、上方に存在する道路構成層の重量と自重量とを合わせた重量に対応する等分布荷重を受ける両持ち梁の変形挙動としてモデル化し、両持ち梁に生じる最大引張応力の値を、補強材に作用する最大引張応力値として算出することとしてもよい。
【0014】
本発明の道路補強構造体は、道路の路面の下に埋設され、圧縮力に抵抗する改良土層と当該改良土層の上面及び下面に設けられ引張力に抵抗するシート状の補強材とを有し、下方の原地盤に段差が発生したときに路面に発生する段差を緩和するための道路補強構造体であって、改良土層のヤング率(Ec)に対する補強材のヤング率(Eg)の比(Eg/Ec)が、原地盤の段差に起因して変形し傾斜したときの平均勾配が所定の限界勾配を超えないとする第1条件に対応する下限値よりも大きく、原地盤の段差に起因して変形したときに補強材に作用する引張応力により補強材が破壊されないとする第2条件に対応する上限値よりも小さいことを特徴とする。
【0015】
この道路補強構造体によれば、改良土層のヤング率(Ec)に対する補強材のヤング率(Eg)の比(Eg/Ec)が上記の範囲内に設定されることで、第1及び第2条件に対応する好適な道路補強構造体の変形挙動が発揮され、その結果、地震直後においても車両走行を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地震直後においても車両走行を確実に確保するための道路補強構造体の設計を可能にする設計支援システム及びその道路補強構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る道路補強構造体及び設計支援システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、路面下に埋設された道路補強構造体51によって補強された道路50の断面図である。
図1の紙面の左右方向が、道路50の走行方向である。道路50においては、原地盤53(路床)の上に道路補強構造体51が敷設され、更に道路補強構造体51の上に砕石からなる路盤57が形成されている。更に、路盤57の上に、基層59と表層61とが積層されている。なお、以下では、補強構造体51の上方にある路盤57、基層59及び表層61を合わせて「道路構成層63」と呼ぶ場合がある。
【0020】
補強構造体51は、地震時に発生する路面50a(表層61の上面)の段差や凹凸を緩和するために、道路50を補強すべく路面下に埋設されるものである。すなわち、地震時には、
図2に示すように、補強構造体51の下の原地盤53に段差が生じ、道路50の各層が変形する場合がある。このとき、発生した段差部54を跨いで延びる補強構造体51は、ある程度の曲げ剛性と強度とを有しているので、上方にある道路構成層63の重量に抵抗する。そして、補強構造体51及び道路構成層63は、原地盤53の段差形状に完全に追従して変形することなく緩やかな形状に撓む。これにより、原地盤53の段差に起因して路面50aに現れる段差や凹凸が緩和され、地震後においても道路50の車両走行を確保することができる。以下、段差部54を境界として、相対的に低くなった側の原地盤を「原地盤53a」と称し、相対的に高くなった側の原地盤を「原地盤53b」と称する。
【0021】
補強構造体51は、上記のような曲げ剛性と強度とを実現するため、改良土層71と、改良土層71の上面及び下面に設けられたシート状の補強材73とで構成されている。改良土層71は、例えば、土とセメントとを混合し硬化させたセメント改良土からなる層であり、主に圧縮力に抵抗する。補強材73は、例えば、織布からなるシート状の部材であり、主に引張力に抵抗する。すなわち、補強構造体51は、圧縮力に抵抗する改良土層71を、引張力に抵抗するシート状の補強材73で挟み込んだ構造により、曲げ剛性と強度とを備えている。なお、上下2枚の補強材73を区別して呼ぶ必要がある場合には、上の補強材を「補強材73a」とし、下の補強材を「補強材73b」とする。
【0022】
補強材73としては、例えば、ジオテキスタイル(例えば、織布、不織布、土木シート、ジオグリッド等)、鋼材、高強度シート等を採用することができる。土木シートとしては、一般的に入手容易なポリエステル製やポリエチレン製のものが好適である。鋼材としては、一般的に入手容易な平織金網、エキスパンドメタル、鉄筋金網、細線溶接金網、鉄板等が好適である。高強度シートとしては、全芳香族ポリアミド繊維や炭素繊維等で構成されるシート等がある。また、補強材73としては、ジオグリッドと織布との組み合わせ、ジオグリッドと不織布との組み合わせ、ジオグリッドとシートとの組み合わせといったように、各材料を組み合わせたものであってもよい。
【0023】
上述のような補強構造体51の機能を確実に発揮させるためには、想定される原地盤53の段差等の諸条件に応じて、補強構造体51の仕様を適切に設計する必要がある。そこで、
図3及び
図4に示す設計支援システム1は、本発明に係る設計支援システムの一実施形態であり、補強構造体51の設計を支援するものである。
図3は、本発明の一実施形態に係る設計支援システム1の構成を示す図であり、
図3は、設計支援システム1のハードウエア構成を示す図である。
【0024】
図3に示すように、設計支援システム1は、条件入力受付部3と、勾配算出部5と、下限値算出部(第1限界値算出手段)7と、最大引張応力算出部15と、上限値算出部(第2限界値算出手段)17と、補強仕様パラメータ範囲提示部9と、を備えている。
【0025】
図4に示されるように、設計支援システム1は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)201、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、ハードディスクなどの補助記憶装置204、ネットワークカードなどのデータ送受信デバイスである通信モジュール205、外部記憶媒体からの情報を読み出す外部記憶媒体読取装置206、キーボードやマウスなどの入力デバイスである入力装置207、ディスプレイ装置などの出力デバイスである出力装置208などのハードウエアにより構成されるコンピュータである。
【0026】
図3に示す条件入力受付部3、勾配算出部5、下限値算出部7、最大引張応力算出部15、上限値算出部17、及び補強仕様パラメータ範囲提示部9等の各構成要素の機能は、設計支援システム1が、コンピュータソフトウエアである設計支援プログラム210に従って動作することにより実現される。すなわち、上記各要素の機能は、
図4に示すCPU201、RAM202などのハードウエア上に設計支援プログラム210を読み込ませることにより、CPU201の制御のもとで外部記憶媒体読取装置206、入力装置207、出力装置208などを動作させるとともに、RAM202や補助記憶装置204におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うことで実現される。なお、例えばDVD等の外部記憶媒体211に電子情報として格納された設計支援プログラム210を、外部記憶媒体読取装置206を経由して補助記憶装置204やRAM202に読み込ませる(インストールする)ようにしてもよい。
【0027】
続いて、
図3に示す設計支援システム1の各構成要素の機能について説明する。
【0028】
条件入力受付部3は、ディスプレイ装置などの出力装置208(
図4)に入力画面を表示し、キーボードやマウス等の入力装置207(
図4)からのユーザのデータ入力を受け付ける。ここでは、道路50の道路幅、舗装構成(各層の厚み)等の幾何学的条件や、表層61、基層59、路盤57、及び改良土層71の単位体積重量等が入力される。また、ここでは、地震時に発生が想定される原地盤53の段差量(以下「想定段差量」といい「Δ」で表す;
図2参照)が入力される。
【0029】
さらに、条件入力受付部3からは、補強構造体51を構成する材料の条件として、改良土層71の仕様を示す改良土層仕様情報D71と、補強材73の仕様を示す補強材仕様情報D73と、が入力される。改良土層仕様情報D71には、改良土層71の圧縮強さ、改良土層71のヤング率(Ecで表す)、改良土層71の層厚等の情報が含まれる。補強材仕様情報D73には、補強材73の引張強度、補強材73のヤング率(Egで表す)補強材73の厚さ等の情報が含まれる。また、条件入力受付部3からは、補強構造体51の仕様に関する仕様パラメータとして、ヤング率比nが入力される。ヤング率比nは、補強材73のヤング率Egを改良土層71のヤング率Ecで除した値として定義される(n=Eg/Ec)。
【0030】
勾配算出部5は、原地盤53で想定段差量Δの段差が発生したと仮定したときに、補強構造体51がどの程度傾斜するかを、条件入力受付部3から入力された情報に基づいて算出する。ここでは、
図2に示すように、撓んだ補強構造体51が原地盤53aに接地する箇所を接地箇所53sとし、接地箇所53sと段差部54との水平距離をLとすれば、水平距離L
で想定段差量Δ
を除した値が、平均勾配値iとして算出される(i=
Δ/L)。この平均勾配値iが、補強構造体51の傾斜の程度を示す指標となる。
【0031】
最大引張応力算出部15は、
図2に示すような補強構造体51の撓みにより補強材73に発生する最大引張応力値σtを、条件入力受付部3から入力された情報に基づいて算出する。
【0032】
下限値算出部7は、勾配算出部5で得られた平均勾配値iが所定の許容限界勾配値ipを超えないとする条件(以下「第1条件」という)から、ヤング率比nの下限値n1を算出する。上記の許容限界勾配値ipとは、道路50を車両走行可能とするために、平均勾配値iとして許容される最大の値を示すものである。許容限界勾配値ipは、例えば10%などの固定値であってもよく、条件入力受付部3からユーザに入力させてもよい。
【0033】
上限値算出部17は、補強構造体51の補強材73に作用する引張応力により補強材73が破壊されないとする条件(以下「第2条件」という)から、ヤング率比nの上限値n2を算出する。なお、第2条件は、換言すると、最大引張応力算出部15で得られた最大引張応力値σtが、補強材仕様情報D73に含まれる補強材73の引張強度ftを超えないとする条件である。
【0034】
補強仕様パラメータ範囲提示部9は、上述のヤング率比nの下限値n1及び上限値n2に基づいて、ヤング率比nの範囲を提示する。ここでは、例えば、n1<n<n2といった演算結果が、ディスプレイ装置などの出力装置208(
図4)に画面表示される。ユーザは、上記のような演算結果を参照することで、上記のn1<n<n2の条件を満たすように補強構造体51の設計を行うことができる。
【0035】
続いて、上記の設計支援システム1による処理について
図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0036】
(条件入力)
まず、条件入力受付部3が、道路50や補強構造体51に関し以降の演算の前提となる諸条件をユーザに入力させる。ここでは、道路50の道路幅、舗装構成(各層の厚み)等の幾何学的条件や、表層61、基層59、路盤57、及び改良土層71の単位体積重量等が入力される。また、ここでは、想定段差量Δが設定され入力される(S501)。更に、条件入力受付部3は、補強構造体51を構成する材料の条件として、改良土層仕様情報D71、補強材仕様情報D73、及びヤング率比n等が入力される(S503)。
【0037】
(平均勾配値の算出)
続いて、勾配算出部5は、原地盤53に想定段差量Δの段差が発生したときの補強構造体51(
図2参照)の変形挙動をモデル化する。ここでは、変形後の補強構造体51を、
図6に示すような両持ち梁51’としてモデル化し、当該両持ち梁51’の変形挙動に基づいて、変形後の補強構造体51の平均勾配値iを求める。
【0038】
図6の両持ち梁51’は、固定支点54’,53s’で両端支持され、一方の固定支点54’に対して他方の固定支点53sを、想定段差量Δだけ低い位置に強制的に移動させたものである。ここで、固定支点54’は、高くなった側の原地盤53b(
図2)の端部、すなわち段差部54(
図2)に対応する。また、固定支点53s’は、低くなった側の原地盤53a上の接地箇所53s(
図2)に対応し、両持ち梁51’のスパンL’は、接地箇所53sと段差部54との水平距離Lに対応する。また、両持ち梁51’の全長に亘って印加される等分布荷重pは、道路構成層63の重量と補強構造体51の自重量とを合わせた重量に対応する。
【0039】
ここで、両持ち梁51’(補強構造体51)の断面二次モーメントIcrは、
【数1】
で表される。
但し、
b :補強構造体51の幅
x :補強構造体51の中立軸の位置
d :補強構造体51の有効高さ
Ag:補強材73の有効断面積
n :ヤング率比
である。これらのb、d、Ag,nの値は、ユーザから前提条件として付与されるものであり、前述の処理S501,S503において条件入力受付部3から入力される。
また、中立軸の位置xは、
【数2】
で表され、補強材73の有効断面積Agとは、補強材73の断面積に所定の補正係数を乗じたものである。
【0040】
勾配算出部5は、未知量である水平距離L(
図2)を、両持ち梁51’のスパンL’として算出することができる。すなわち、
図6の両持ち梁51’のモデルにおいて、固定支点53s’に作用するせん断力をゼロとする条件でスパンL’を決定すれば、
【数3】
で表される。従って、勾配算出部5は、
【数4】
より平均勾配値iを算出することができる(S505)。
【0041】
(第1条件の判定)
ここで、前述の第1条件を満たすために、上記処理S505で得られた平均勾配値iが、許容限界勾配値ipよりも小さい必要がある。以下の説明においては、一例として、道路50を車両が円滑に走行可能であるために平均勾配値iを10%未満にすることが必要であるものとし、許容限界勾配値ip=10%として説明する。
【0042】
この場合、下限値算出部7は、
【数5】
が満足されるか否かを判定し(S507)、不等式(5)が満足されない場合には、処理をS503に戻す。一方、不等式(5)が満足される場合には、当該不等式(5)を式(1)〜(4)に基づいて解くことで、第1条件に対応するヤング率比nの下限値n1が求められる(S509)。
【0043】
(最大引張応力の算出)
続いて、最大引張応力算出部15が、両持ち梁51’に生じる最大引張応力の値を、補強構造体51の補強材73に作用する最大引張応力値σtとして算出する(S510)。すなわち、両持ち梁51’における最大曲げモーメントMmaxは、
【数6】
で表され、
両持ち梁51’に生じる最大引張応力値σtは、
【数7】
で表される。
【0044】
(第2条件の判定)
前述の第2条件として、上記処理S511で得られた最大引張応力値σtが、補強材仕様情報D73に含まれる補強材73の引張強度ftを超えないことが必要である。よって、上限値算出部17は、
【数8】
が満足されるか否かを判定し(S513)、不等式(8)が満足されない場合には、処理をS503に戻す。一方、不等式(8)が満足される場合には、当該不等式(8)を式(1)〜(7)に基づいて解くことで、第2条件に対応するヤング率比nの上限値n2が求められる(S515)。
【0045】
(仕様パラメータ範囲提示部)
以上より、第1及び第2条件を満足するためのヤング率比n(仕様パラメータ)の範囲(n1<n<n2)が演算結果として得られる。続いて、仕様パラメータ範囲提示部9は、得られたヤング率比nの範囲(n1<n<n2)を、例えば、ディスプレイ装置などの出力装置208(
図4)に画面表示する(S517)。
【0046】
その後、ユーザは、提示されたヤング率比nの範囲(n1<n<n2)を満たすように、補強材73や改良土層71の材料選定を行えばよい(S519)。
【0047】
続いて、上記の設計支援システム1による作用効果について説明する。
【0048】
地震時に補強構造体51の下の原地盤53に段差が発生したときに、路面50aにおける車両走行を確実に確保するためには、変形・傾斜した補強構造体51の勾配を許容できる範囲(許容限界勾配値)内に抑えること(第1条件)と、補強材73が破壊されないこと(第2条件)と、が必要である。そして、上記第1及び第2条件が満たされるためには、原地盤53の段差に起因する補強構造体51の変形挙動が適切な範囲にあることが必要である。
【0049】
本発明者らは、補強構造体51において、改良土層71のヤング率(Ec)に対する補強材73のヤング率(Eg)の比(ヤング率比n;Eg/Ec)がある限定された範囲内の値のときに、上記第1及び第2条件に対応する好適な補強構造体51の変形挙動が発揮されることを見出した。すなわち、補強構造体51の下の原地盤53に段差が発生したとき、上記第1条件にヤング率比nの下限値が対応すると共に、上記第2条件にヤング率比nの上限値が対応する。
【0050】
この知見に基づいて、上記の設計支援システム1では、上記の第1条件と第2条件とから、ヤング率比nの上限値n2及び下限値n1を算出し、提示することができる。よって、この上限値n2及び下限値n1に基づいて設計された補強構造体51によれば、地震によって補強構造体51の下の原地盤53に段差が発生したときに、変形・傾斜した補強構造体51の勾配が許容できる範囲に抑えられ、かつ、補強材73が破壊されないといった設計が可能になる。すなわち、地震直後においても車両走行を確実に確保するための補強構造体51の設計が可能になる。
【0051】
続いて、上記設計支援システム1の演算を用いて行う補強構造体51の材料選定の具体的な一例について説明する。
【0052】
道路50に関して入力した条件は次の通りである。
道路構成層63の層厚=20cm
道路構成層63の単位体積重量=23.5kN/m
3
改良土層71の層厚=60cm
道路50の幅=5m
改良土層71のヤング率Ec=2・10
5kN/m
2
想定段差量Δ=40cm
許容限界勾配値ip=10%
補強材73の単位幅当たりの引張強さ=400kN/m
【0053】
(第1条件)
上述の入力条件の下、式(1)〜(4)によれば、ヤング率比n(Eg/Ec)と平均勾配値iとの関係は、
図7(a)に示すような曲線で示される。よって、平均勾配値iを10%未満とするためのヤング率比nは、20よりも大である。そして、Ec=2×10
5kN/m
2であるので、補強材73のヤング率Egを4GN/m
2よりも大きくすればよい。
【0054】
(第2条件)
また、上述の入力条件の下、式(1)〜(7)によれば、ヤング率比nと補強材73の単位幅当たりに作用する最大引張力(最大引張応力値σtに補強材73の厚さ[m]を乗じた値)との関係は、
図7(b)に示すような曲線で示される。よって、補強材73の単位幅当たりの最大引張力を400kN/m未満とするためのヤング率比nは、30よりも小である。これより、補強材73のヤング率Egを6GN/m
2よりも小さくすればよい。
【0055】
以上より、ユーザは、補強構造体51を設計する際に、単位幅当たりの引張強さ=400kN/m、ヤング率4〜6GN/m
2の補強材73を選定すると共に、層厚60cm、ヤング率2・10
5kN/m
2の改良土層71を選定すればよい。また、このような補強構造体51の上層に設ける道路構成層63を、入力条件の通り、層厚20cmとすればよい。
【0056】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、改良土層のヤング率(Ec)と補強材のヤング率(Eg)との比を表す仕様パラメータとして、Eg/Ecを用いているが、この逆数のEc/Egを仕様パラメータとしてもよい。この場合、第1条件が仕様パラメータの上限値に対応し、第2条件が仕様パラメータの下限値に対応する。また、補強構造体51の変形挙動を求めるときに、道路50を走行させる所望の車両の重量を更に考慮に含めてもよい。この場合、補強構造体51をモデル化した両持ち梁51’において、上記車両の輪荷重に対応する集中荷重を更に追加したモデルで同様の演算を行えばよい。