(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883364
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】電気音響変換器とそれを用いたこもり低減装置
(51)【国際特許分類】
H04R 25/00 20060101AFI20160301BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20160301BHJP
A61F 11/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
H04R25/00 J
G10K11/16 H
A61F11/00 325
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-186017(P2012-186017)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-45289(P2014-45289A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(74)【代理人】
【識別番号】230100631
【弁護士】
【氏名又は名称】稲元 富保
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 平
【審査官】
松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−235364(JP,A)
【文献】
実開昭60−127092(JP,U)
【文献】
特開平05−333873(JP,A)
【文献】
Siegfried Bauer,Piezo-, pyro-, and ferroelectrets: soft transducer materials for electromechanical energy conversion,Dielectrics and Electrical Insulation, IEEE Transactions,米国,IEEE,2006年10月,Volume 13, Issue 5,page 953-962,[検索日 2016.1.25],URL,http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=1714917
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 11/00
G10K 11/178
H04R 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道内に音を出力する音出力手段と、外耳道内の音を集音するエレクトレット化した圧電高分子フィルムとインピーダンス変換器からなる集音手段を備え、前記音出力手段の前室に前記集音手段を配設することを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
請求項1に記載の電気音響変換器において、前記音出力手段の振動板と前記集音手段の圧電高分子フィルムの集音面が対向していることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気音響変換器において、前記音出力手段がバランストアーマチュア型の電気音響変換器であることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電気音響変換器において、前記圧電高分子フィルムが多孔性高分子フィルムであることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気音響変換器と、前記集音手段の出力信号から所定の低域周波数成分を抽出するフィルタ及びその抽出した低域周波数成分を反転増幅する増幅器からなる低域反転増幅部を備え、この低域反転増幅部の出力信号を前記音出力手段に負帰還させることを特徴とするこもり低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こもり感や圧迫感などを低減する電気音響変換器とそれを用いたこもり低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耳あな型補聴器や耳せんなどで外耳道を密閉すると、音が外耳道外の空間へ放射されないため、会話をしたり食事などで咀嚼したりすることにより、外耳道内に自声の響き音や咀嚼音などが発生し、外耳道内にこもるため、こもり感や圧迫感などがあり、不快である。
【0003】
ここでは、音を出力する電気音響変換器自体をレシーバとし、このレシーバを樹脂の成形品などに内蔵し、耳せんなどを用いて耳に装着するものをイヤホン(例、オーディオ用イヤホン)として説明する。また、外耳道を密閉することで生ずる自声の響き音や咀嚼音などで、こもり感や圧迫感などの要因となる外耳道内の音をこもり音として説明する。また、こもり音は約1kHz以下の低域周波数成分である。
【0004】
こもり感や圧迫感などへの対応策として、特許文献1には、ハウリングの発生を抑制可能である範囲で最大となるようにベントを形成した補聴器が開示されている。
【0005】
特許文献2には、密閉によるこもり音への対応として、外耳道の内壁に振動を検出する振動検出素子を設けて、振動に基づく逆位相の音を生成して、このこもり音を打消す補聴装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、密閉した外耳道内で自分の声が外耳道内に放射されることによる不自然さ(いわゆるこもり感)などを補正するために、外耳道内の音を電気信号に変換する外耳道用マイクロホンをレシーバと別体で組み込み、外耳道用マイクロホンで集音した出力信号と補聴処理手段の出力信号を比較して、外耳道用マイクロホンの出力信号が補聴処理手段の出力信号に近づくように補聴処理手段の出力信号を自動調整する信号処理手段を設ける補聴器が開示されている。
【0007】
また、音を検出する部材として、高分子フィルムであるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などをエレクトレット化して用いることが知られている。
【0008】
特許文献4には、フィルム面方向に長径が平行な円盤状の空孔を多数有する多孔性樹脂フィルムをエレクトレット化する技術が開示されている。
【0009】
また、非特許文献1には、多孔性ポリプロピレンフィルムをエレクトレット化して用いたマイクロホンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−199192号公報
【特許文献2】特開2004−48207号公報
【特許文献3】特開2007−235364号公報
【特許文献4】特開2011−84735号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】多孔性高分子フィルムを用いたマイクロホンの検討(日本音響学会研究発表会講演論文集、巻:2008 頁:ROMBUNNO.2-8-3 特殊号:秋季)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の技術では、レシーバと振動検出素子や外耳道用マイクロホンとは別体で補聴器に組み込まれるので、補聴器は夫々のスペースを設けなければならず、小型化するには不向きである。
【0013】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外耳道内の密閉によるこもり感や圧迫感などの不快感を軽減するものであり、補聴器などの小型化が図れる電気音響変換器とそれを用いたこもり低減装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、外耳道内に音を出力する音出力手段と、外耳道内の音を集音するエレクトレット化した圧電高分子フィルムとインピーダンス変換器からなる集音手段を備え、前記音出力手段の前室に前記集音手段を配設するものである。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電気音響変換器において、前記音出力手段の振動板と前記集音手段の圧電高分子フィルムの集音面が対向している。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の電気音響変換器において、前記音出力手段がバランストアーマチュア型の電気音響変換器である。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電気音響変換器において、前記圧電高分子フィルムが多孔性高分子フィルムである。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気音響変換器と、前記集音手段の出力信号から所定の低域周波数成分を抽出するフィルタ及びその抽出した低域周波数成分を反転増幅する増幅器からなる低域反転増幅部を備え、この低域反転増幅部の出力信号を前記音出力手段に負帰還させるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1乃至請求項4に係る発明によれば、音出力手段の入力信号に対する集音手段の出力信号の位相差を小さくすることができるので、位相の補正処理を必要としない。また、従来の音出力電気音響変換器に、そのサイズをほとんど変えることなく、集音電気音響変換器を組込むことができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、音出力手段から位相反転した低周波数成分を出力させるので、この帯域について、前室内の音圧を下げることができる。即ち、この電気音響変換器を外耳道に配置して外耳道を密閉すれば、当該帯域について、前室内の音響インピーダンスが下がることになるので、当該帯域の音は前室に伝わりやすくなる。従って、外耳道を密閉した状態としながらベントを設けた状態と同等となり、こもり感や自声などの響きを低減できるので、不快感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】こもり低減装置の原理説明図で、(a)は従来技術の等価回路、(b)は本発明に係るこもり低減装置の等価回路
【
図3】本発明に係るこもり低減装置のブロック構成図
【
図4】本発明に係るこもり低減装置を備えた耳せんのブロック構成図
【
図5】本発明に係るこもり低減装置を備えた補聴器のブロック構成図
【
図6】本発明に係るこもり低減装置を備えたオーディオ用イヤホンのブロック構成図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る電気音響変換器1は、
図1に示すように、音を出力する音出力手段2と音を集音する集音手段3が一体となって構成されている。
【0023】
外耳道内に挿入できる大きさにするため、より小型化が望ましく、例えば、音出力手段2としては、補聴器用のバランストアーマチュア(Balanced armature)型の電気音響変換器が適用される。
【0024】
バランストアーマチュア型の電気音響変換器は、ケース部(後室)5とカバー部(前室)6からなり、後室5と前室6は振動板7で区切られている。後室5には、振動板7を駆動する駆動部8が設けられており、前室6は所望の空間が形成され、振動板7の振動にもとづく音を音口20から出力する。なお、駆動部8はアーマチュア10、マグネット11,12、ヨーク13、コイル14などで構成されている。
【0025】
集音手段3は、バランストアーマチュア型の電気音響変換器1の前室6に収納され、主にエレクトレット化した圧電高分子フィルム15とインピーダンス変換器16からなる。圧電高分子フィルム15とインピーダンス変換器16は、カバー17の内側となる壁面17aに組み込んでいる。
【0026】
圧電高分子フィルム15は、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)や多孔性ポリプロピレンなどで形成される。圧電高分子フィルム15は、所望の面積(例、3.5mm×4mm)を有し、その両面にアルミニウムなどを蒸着することで、電極を形成して、エレクトレット化される。なお、多孔性ポリプロピレンを用いたマイクロホンの集音可能な音圧は、約50dBSPLから140dBSPLである。周波数特性は、100Hzから10kHzでほぼフラットである。
【0027】
インピーダンス変換器16は、圧電高分子フィルム15の両電極間の電圧をインピーダンス変換して出力電圧を得る。ここでは、インピーダンス変換器16をカバー17に設けたが、ケース18に設けてもよい。また、圧電高分子フィルム15とインピーダンス変換器16は、夫々をフレキシブルプリント基板に配設して前室6に組み込んでもよい。
【0028】
前室6を形成するカバー17の壁面17aに圧電高分子フィルム15とインピーダンス変換器16を接着する。例えば、圧電高分子フィルム15とカバー17を導通させる場合は、導電性接着剤や導電両面テープを使用する。音出力手段2の振動板7と、集音手段3の圧電高分子フィルム15の集音面15aが対向している。なお、振動板7と圧電高分子フィルム15の集音面15aのサイズは同サイズである必要はなく、前室6内の共通する空間に面していればよい。
【0029】
音口20は、電気音響変換器1と装置の音の通路となるチューブを接続するものである。但し、この音口17は必須ではなく、チューブを使用せずに、例えば、電気音響変換器1を補聴器や耳せんなどの本体に直接配設することもできる。また、ケース18には駆動部8への入力端子21を設け、カバー17には集音手段3への入出力端子22を設ける。
【0030】
このように電気音響変換器1を構成にすることで、ケース部(後室)5とカバー部(前室)6を別々に組み立てることができ、最終的に夫々を組み合わせればよいので、組立が容易となる。なお、音出力手段2としては、バランス型電気音響変換器に限らず、動電型や電磁型などの電気音響変換器でもよく、駆動方式は限定されない。
【0031】
次に、電気音響変換器1が適用されるこもり低減装置の原理について説明する。
図2(a)に示すように、従来技術である特許文献3の補聴器では、音出力手段(レシーバ)100と集音手段(外耳道用マイクロホン)101が別体で空間(前室)を共有しない場合には、外耳道内、チューブ、音口、前室などによるレシーバ側の伝達特性H
R及び外耳道用マイクロホン側の伝達特性H
Mが低域反転増幅部102を用いた負帰還ループに存在する。103は口腔内の音が外耳道内に至る経路のインピーダンスである。
【0032】
このような伝達特性H
R及び伝達特性H
Mがこもり低減装置の負帰還ループに存在すると、レシーバ100の入力電圧と外耳道用マイクロホン101の出力電圧間の位相が変化し易いので、レシーバ100から外耳道内のこもり音を打ち消す音を出力させるためには、低域反転増幅部102は高度な信号処理が必要となる。
【0033】
一方、
図2(b)に示すように、前室6を共有する音出力手段2と集音手段3からなる本発明に係る電気音響変換器1の場合には、音出力手段2の振動板7と集音手段3の圧電高分子フィルム15が共通する空間(前室6)に面しているので、低域反転増幅部33を用いた負帰還ループに、伝達特性H
R及び伝達特性H
Mがほとんど存在しない。従って、低域反転増幅部33は高度な信号処理を必要としない。なお、H
Iは外耳道内32と前室6間のチューブや音口の伝達特性である。
【0034】
次に、本発明に係るこもり低減装置31は、外耳道内32のこもり音を低減するもので、
図3に示すように、電気音響変換器1と低域反転増幅部33を備えており、電気音響変換器1の集音手段3の出力信号を低域反転増幅部33で処理して音出力手段2の入力信号に負帰還させる構成となっている。低域反転増幅部33は所定の低域周波数成分を抽出するフィルタとこのフィルタの出力信号を所定の増幅率で反転増幅する増幅器からなる。
【0035】
以上のように構成されたこもり低減装置31の作用について説明する。密閉された外耳道内32に電気音響変換器1を配設し、こもり音を電気音響変換器1の集音手段3で集音し、この集音手段3の出力信号から低域反転増幅部33のフィルタで所定の低域周波数成分を抽出する。抽出した低域周波数成分の信号を、低域反転増幅部33の増幅器により所定の増幅率で反転増幅して、電気音響変換器1の音出力手段2に入力する。
【0036】
すると、電気音響変換器1の前室6にこもり音とは逆位相の音を出力することになり、こもり音は前室6において当該増幅率に応じて低減される。即ち、前室6における当該低域周波数成分のこもり音を低減することは、前室6の当該低域周波数の音響インピーダンス(圧力/速度)を下げることによる。前室6と外耳道内32は連通しているので、外耳道内32の当該低域周波数成分のこもり音は、音響インピーダンスの低い前室6へ伝わり易くなる。つまり、外耳道内32は密閉されていてもベントで外界に連通しているのと同様になるので、こもり感や圧迫感が低減される。
【0037】
次に、こもり低減装置31を適用した耳せん40は、
図4に示すように、電気音響変換器1と低域反転増幅部33及び電池などの電力供給源(不図示)などを備えており、電気音響変換器1の集音手段3の出力信号を低域反転増幅部33で処理し音出力手段2の入力信号に負帰還させる。こもり低減装置31の電気回路は、アナログ又はデジタルのどちらの回路で構成してもよい。なお、耳せん40の本体(不図示)は、シリコン系やウレタン系又はABS系などの樹脂材料で外耳道内壁にフィットするように形成される。
【0038】
こもり低減装置31を適用した耳せん40の作用については、こもり低減装置31と同様であるので、説明を省略する。耳せん40は、周囲の騒音が気になるときなどに、遮音用として使用される。しかし、外耳道32を密閉した状態では、こもり感や圧迫感などがあり不快である。
【0039】
耳せん40では、こもり低減装置31がこもり音を低減させることで、外耳道内32は密閉されていても開放されているのと同様になるので、こもり感や圧迫感を低減できる。また、こもり音に限らず、頭部周囲から外耳道内32に侵入する音についても有効に低減できる。
【0040】
次に、こもり低減装置45を適用した補聴器50は、
図5に示すように、外部用マイクロホン51、補聴処理部52、こもり低減装置45及び補正部53などを補聴器本体(不図示)に収納してなる。補聴処理部52はDSP(Digital Signal Processor)などにより構成される。こもり低減装置45は、電気音響変換器1と、低域反転増幅部46及び加算部47を備えている。
【0041】
こもり低減装置45の電気回路は、アナログ又はデジタルのどちらの回路で構成してよい。なお、補聴器50としては、耳あな型補聴器や外耳道にレシーバを配置するRIC(Receiver in the canal)型補聴器やポケット型補聴器などに本発明を適用できる。
【0042】
外部用マイクロホン51は、環境音や話声を集音し電気信号に変換する。補聴処理部52は、外部用マイクロホン51からの電気信号を装用者の聴力に合わせるために、周波数ごとに増幅率を調整するなどの補聴処理をして、補聴処理信号を出力する。電気音響変換器1の集音手段3は、外耳道内32の音を集音し電気信号に変換する。外耳道内32の音は、こもり音と補聴処理信号に基づく音出力手段2からの出力音(補聴処理音)を合わせたものである。
【0043】
低域反転増幅部46のフィルタは、電気音響変換器1の集音手段3の出力信号から所定の低域周波数成分を抽出する。従って、当該低域周波数成分以外の成分は、こもり低減装置45で負帰還処理されない。低域反転増幅部46の増幅器は、抽出した低域周波数成分の信号を所定の増幅率で反転増幅する。加算部47は、低域反転増幅部46の出力信号と補正部53の出力信号を加算する。
【0044】
補正部53は、低域反転増幅部46のフィルタと同じ低域周波数成分を補聴処理信号から抽出するフィルタ53aと、その低域周波数成分を所定の増幅率で増幅する増幅器53bと、この増幅した信号と補聴処理信号を加算する加算部53cを備えており、この補聴処理信号から抽出した低域周波数成分を増幅し、補聴処理信号と加算した出力信号を出力する。
【0045】
集音手段3はこもり音とともに補聴処理音も集音するため、補聴処理部52で処理した補聴処理信号の低域周波数成分が負帰還処理により反転増幅された低域周波数成分により低減されるので、補正部53は、その低減分を補正するためのものである。そして、音出力手段2は、補正部53の出力信号と低域反転増幅部46の出力信号を加算した信号に基づき、外耳道内32に音を発する。補正部53における低域周波数成分増幅処理は、補聴処理の一部として補聴処理部52で行ってもよい。
【0046】
以上のように構成された補聴器50の作用について説明する。先ず、外部用マイクロホン51では、環境音や話声を集音して電気信号に変換する。補聴処理部52では、外部用マイクロホン51の出力信号を装用者の聴力に合わせて、周波数ごとに増幅率を調整するなどの補聴処理をして、補聴処理信号を出力する。
【0047】
電気音響変換器1では、外耳道内32のこもり音と補聴処理音を集音手段3で集音し、電気信号である出力信号を出力する。低域反転増幅部46では、集音手段3の出力信号からフィルタで当該低域周波数成分を抽出する。抽出した低域周波数成分の信号を、増幅器により当該増幅率で反転増幅して出力する。
【0048】
補正部53では、補聴処理信号からフィルタ53aで当該低域周波数の信号を抽出し、増幅器53bにより当該低域周波数成分の補聴処理音の低減分に相当する増幅率で、抽出した低域周波数成分の補聴処理信号を増幅し、加算部53cにより補聴処理信号に加算して出力する。
【0049】
低域反転増幅部46からの出力信号と補正部53からの出力信号を加えた信号を電気音響変換器1の音出力手段2に入力されることで、外耳道内32では、こもり音は低減し、補聴処理音は本来の音量を得ることができる。即ち、前室6における当該低域周波数成分のこもり音を低減することは、前室6の当該低域周波数の音響インピーダンス(圧力/速度)を下げることによるものであり、装用者は外耳道内32が密閉されていてもベントで開放されているのと同様の効果を得て、十分な補聴処理音を聴くことができる。
【0050】
また、電気音響変換器1の音出力手段2と集音手段3では、前室6である空間を共通とし、振動板7が作動することにより、当該低周波数成分では位相ズレが90°以内に収まるため、負帰還処理する場合においても、この位相ズレを考慮しなくてもよい。
【0051】
このように、本発明に係る電気音響変換器1を用いれば、簡単な構成のこもり低減装置45で、外耳道内32を密閉しても、ベントを設けたのと同様に、そのこもり音を低減することができ、こもり感や圧迫感などの不快感を低減することができる。また、外耳道内32を密閉しているので、補聴器50と外耳道32との隙間から漏れる音に起因するハウリングは発生しないため、実際にベントを設ける場合よりも大きな音を出力できる。
【0052】
次に、こもり低減装置を適用したオーディオ用イヤホン60は、
図6に示すように、オーディオ用イヤホン本体(不図示)にこもり低減装置45及び補正部53を内蔵してなる。こもり低減装置45は、電気音響変換器1と低域反転増幅部46及び加算部47を備えている。
【0053】
こもり低減装置45の電気回路は、アナログ又はデジタルのどちらの回路で構成してもよい。外耳道内32の音は、こもり音とオーディオ信号に基づく音出力手段2からのオーディオ音を合わせたものである。65はオーディオ装置である。なお、低域反転増幅部46及び補正部53はオーディオ装置65内に設けることもできる。
【0054】
オーディオ用イヤホン60においては、補聴器50と比較して、外部用マイクロホン51や補聴処理部52は使用しないが、オーディオ信号が補聴処理信号に相当する。オーディオ用イヤホン60の作用については、補聴器50と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
オーディオ用イヤホン60は、音楽を聴いたり語学学習をしたりする時などに使用される。しかし、声を発したりすると、外耳道内32に生じるこもり音(自声の響き音など)により、こもり感や圧迫感などがあり不快である。オーディオ用イヤホン60ではこもり低減装置45がこもり音を低減させることで、外耳道内32は密閉されていても開放されているのと同様になるので、こもり感や圧迫感を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、外耳道との隙間から漏れる音に起因するハウリングが発生しない補聴器、外耳道を密閉してもこもり感などによる不快感が低減される耳せん又はオーディオ用イヤホンなどを提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…電気音響変換器、2…音出力手段、3…集音手段、4…バランストアーマチュア型の電気音響変換器、5…ケース部(後室)、6…カバー部(前室)、7…振動板、8…駆動部、10…アーマチュア、15…圧電高分子フィルム、15a…集音面、16…インピーダンス変換器、17…カバー、18…ケース、20…音口、21…入力端子、22…入出力端子、31,45…こもり低減装置、32…外耳道内、33,46…低域反転増幅部、47…加算部、50…補聴器、51…外部用マイクロホン、52…補聴処理部、53…補正部、60…オーディオ用イヤホン、65…オーディオ装置。