(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、酸化物焼結体について、スパッタリング中の異常放電を抑制することで長時間の安定した成膜が可能であり、しかもキャリア移動度が高い酸化物半導体膜を成膜するのに適したスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を提供するため、検討を重ねてきた。
【0016】
その結果、酸化亜鉛と;酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、酸化物焼結体をX線回折したとき、主相としてZn
2SnO
4相とInGaZnO
4相を所定の割合で含み、更に相対密度85%以上である構成としたときに所期の目的が達成されることを見出した。
【0017】
また上記目的の達成には、更に酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量を夫々適切に制御することや、平均結晶粒径を制御することも有効であることを見出した。
【0018】
詳細には、(ア)酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ガリウム、および酸化錫を含む酸化物焼結体は、X線回折したときの相構成について、Zn
2SnO
4相とInGaZnO
4相の割合を制御することによってスパッタリング中の異常放電を抑制する効果があること、(イ)相対密度を高めることによってスパッタリング中の異常放電の発生の抑制効果を一層向上できること、を突き止めた。そして、(ウ)このような相構成を有する酸化物焼結体を得るためには、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量を夫々適切に制御することが望ましいこと、(エ)酸化物焼結体の平均結晶粒径を微細化すると異常放電抑制に、より一層効果があること、を見出し、本発明に至った。
【0019】
本発明に係る酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫を混合および焼結して得られる酸化物焼結体(IGZTO)である。この焼結体は、従来のIn−Ga−Zn−O(IGZO)比べて、成膜した酸化物半導体膜が高いキャリア移動度や高い耐エッチング特性を示す傾向にある。
【0020】
更にこのような酸化物焼結体の化合物相の構成や相対密度を適切に制御することによって、スパッタリング中の異常放電を抑制しつつ、キャリア移動度が一層高い酸化物半導体膜を成膜することができる。
【0021】
次に、本発明に係る酸化物焼結体の構成について、詳しく説明する。本発明は上記酸化物焼結体をX線回折したとき、Zn
2SnO
4相、InGaZnO
4相を所定の割合で含む主相としたところに特徴がある。
【0022】
本発明におけるX線回折条件は、以下のとおりである。
【0023】
分析装置:理学電機製「X線回折装置RINT−1500」
分析条件
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメートを使用(Kα)
ターゲット出力:40kV−200mA
(連続焼測定)θ/2θ走査
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5〜90°
【0024】
この測定で得られた回折ピークについて、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードに記載されている結晶構造を有する化合物相を特定する。各化合物相とカード番号との対応は以下の通りである。
Zn
2SnO
4相:24−1470
InGaZnO
4相:38−1104
In
2O
3相:06−0416
SnO
2相:41−1445
(ZnO)
mIn
2O
3相:20−1442(m=2)、20−1439(m=3)、20−1438(m=4)、20−1440(m=5)
なお、(ZnO)
mIn
2O
3相のmは2〜5の整数である。mを規定したのはZnO相とIn
2O
3相が結合した化合物において、ZnOがIn
2O
3との関係で任意の比率を示すためである。
【0025】
次に上記X線回折によって検出される本発明を特定する化合物について詳しく説明する。
【0026】
(Zn
2SnO
4化合物、およびInGaZnO
4化合物について)
Zn
2SnO
4化合物(相)は、本発明の酸化物焼結体を構成するZnOとSnO
2が結合して形成されるものである。またInGaZnO
4化合物(相)は、本発明の酸化物焼結体を構成するInとGaとZnが結合して形成される酸化物である。発明において上記化合物は、酸化物焼結体の相対密度の向上と比抵抗の低減に大きく寄与するものである。その結果、安定した直流放電が継続して得られ、異常放電抑制効果が向上する。
【0027】
本発明では、上記Zn
2SnO
4相とInGaZnO
4相を主相として含んでいる。ここで「主相」とは、Zn
2SnO
4相とInGaZnO
4相の合計比率が上記X線回折によって検出される全化合物中、最も比率の多い化合物を意味している。
【0028】
また本発明の上記Zn
2SnO
4相、InGaZnO
4相には、Zn
2SnO
4、InGaZnO
4に、それぞれIn、Gaおよび/またはSnが固溶しているものも含まれる。
【0029】
異常放電を抑制しつつ、スパッタリング法で安定して成膜可能な酸化物焼結体とするためには、上記X線回折で特定した上記化合物相(Zn
2SnO
4相、InGaZnO
4相、In
2O
3相、SnO
2相、及び(ZnO)
mIn
2O
3相)(mは2以上5以下の整数)の合計に対するZn
2SnO
4相、InGaZnO
4相の体積比が、下記(1)〜(3)を満足することが必要である。
【0030】
(1):[Zn
2SnO
4]+[InGaZnO
4]の比((Zn
2SnO
4相+InGaZnO
4相)/(Zn
2SnO
4相+InGaZnO
4相+In
2O
3相+SnO
2相+(ZnO)
mIn
2O
3相;以下、比率(1)という。)≧75体積%(以下、各相の「体積%」を単に「%」と表記する)
比率(1)が小さくなると異常放電発生率が高くなるため、75%以上とする必要があり、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。一方、上限については、性能上は高いほどよく、例えば100%であってもよいが、製造容易性の観点から好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。
【0031】
(2):[Zn
2SnO
4]の比(Zn
2SnO
4相/(Zn
2SnO
4相+InGaZnO
4相+In
2O
3相+SnO
2相+(ZnO)
mIn
2O
3相);以下、比率(2)という)≧30%
上記比率(1)を満足していても比率(2)が小さいと、異常放電抑制効果が十分に得られないことがあるため、30%以上とする必要があり、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは55%以上である。一方、上限については特に限定されないが、InGaZnO
4相を確保する観点から好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。
【0032】
(3):[InGaZnO
4]の比(InGaZnO
4相/(Zn
2SnO
4相+InGaZnO
4相+In
2O
3相+SnO
2相+(ZnO)
mIn
2O
3相);以下、比率(3)という)≧10%
上記比率(1)および/または比率(2)を満足していても比率(3)が小さいと、相対密度を高めることができず、異常放電抑制効果が十分に得られないことがあるため、10%以上とする必要があり、好ましくは12%以上、より好ましくは15%以上である。一方、上限については特に限定されないが、Zn
2SnO
4相を確保する観点から好ましくは60%以下であり、また製造容易性の観点からは、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である。
【0033】
本発明の酸化物焼結体の化合物相は、実質的にZn
2SnO
4相、InGaZnO
4相、In
2O
3相、SnO
2相、及び(ZnO)
mIn
2O
3相(mは2以上5以下の整数)で構成されていることが望ましく、全化合物相に占めるこれらの化合物相の割合が75%以上であることが好ましい。なお、これらの化合物相のうち、In
2O
3相、SnO
2相、及び(ZnO)
mIn
2O
3相(mは2以上5以下の整数)は含まれていなくてもよい。他の含み得る化合物相としては製造上不可避的に生成されるInGaZn
2O
5相、ZnGa
2O
4相、(ZnO)
mIn
2O
3相(mは6以上の整数)などを25%以下の割合で含んでいてもよい。これらの化合物相のうち、InGaZn
2O
5相は含まれていないことが好ましい。なお、不可避的に生成する化合物相の割合は、XRDによって測定できる。
【0034】
更に本発明の酸化物焼結体の相対密度は85%以上である。酸化物焼結体の相対密度を高めることによって上記異常放電の発生抑制効果を一層向上できるだけでなく、安定した放電をターゲットライフまで連続して維持するなどの利点をもたらす。このような効果を得るために本発明の酸化物焼結体は相対密度を少なくとも85%以上とする必要があり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0035】
また高いキャリア移動度と異常放電発生抑制効果を有する上記相構成の酸化物焼結体を得るためには、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量を夫々適切に制御することが望ましい。
【0036】
具体的には酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する各金属元素(亜鉛、インジウム、ガリウム、錫)の含有量(原子%)の割合をそれぞれ、[Zn]、[In]、[Ga]、[Sn]としたとき、下記式(4)〜(6)を満足することが望ましい。
40原子%≦[Zn]≦50原子%・・・(4)
30原子%≦([In]+[Ga])≦45原子%・・・(5)
(ただし、[In]は4原子%以上、[Ga]は5原子%以上)
15原子%≦[Sn]≦25原子%・・・(6)
【0037】
本明細書において[Zn]とは、酸素(O)を除く全金属元素(Zn、In、Ga、およびSn)に対するZnの含有量(原子%;以下、各金属元素の含有量「原子%」を単に「%」と表記する)を意味する。同様に[In]、[Ga]、および[Sn]はそれぞれ、酸素(O)を除く全金属元素(Zn、In、Ga、およびSn)に対するIn、Ga、およびSnの各含有量の割合(原子%)を意味する。
【0038】
まず、上記式(4)は、全金属元素中のZn比([Zn])を規定したものであり、主に上記Zn
2SnO
4相、InGaZnO
4相を上記所定の比率(1)〜(3)に制御する観点から設定されたものである。[Zn]が少なすぎると、上記化合物相の比率(1)〜(3)を満足することが難しくなり、異常放電抑制効果が十分に得られない。したがって[Zn]は、40%以上とすることが好ましく、より好ましくは42%以上である。一方、[Zn]が高くなりすぎると相対的にIn、Ga、Snの比率が低下してかえって所望の化合物相の比率が得られなくなることから、好ましくは50%以下、より好ましくは48%以下である。
【0039】
また上記式(5)は、全金属元素中のIn比とGa比の合計([In]+[Ga])を規定したものであり、主にInGaZnO
4相を上記所定の比率(1)、(3)に制御する観点から設定されたものである。[In]+[Ga]が少なすぎると上記化合物相の比率(1)、(3)を満足することが難しくなる。したがって[In]+[Ga]は、好ましくは30%以上、より好ましくは32%以上である。一方、[In]+[Ga]が多くなりすぎると、上記化合物相の比率(2)が相対的に低下するため、好ましくは45%以下、より好ましくは43%以下である。
【0040】
なお、In、およびGaはいずれも必須の元素であり、[In]は4%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。[In]が少なすぎると酸化物焼結体の相対密度向上効果や比抵抗の低減を達成できず、成膜後の酸化物半導体膜のキャリア移動度も低くなる。
【0041】
また[Ga]は5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。[Ga]が少なすぎると上記化合物相の比率(3)が相対的に低下することがある。
【0042】
上記式(6)は、全金属元素中のSn比([Sn])を規定したものであり、主に上記Zn
2SnO
4相を上記所定の比率(1)、(2)に制御する観点から設定されたものである。[Sn]が少なすぎると、上記化合物相の比率(1)、(2)を満足することが難しくなることがあるため、好ましくは15%以上、より好ましくは16%以上である。一方、[Sn]が多すぎると上記化合物相の比率(3)が相対的に低下するため、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下である。
【0043】
金属元素の含有量は上記範囲内に制御されていればよく、また本発明の酸化物焼結体には、製造上不可避的に生成される酸化物を含んでもよい趣旨である。
【0044】
また異常放電抑制効果をより一層高めるためには、酸化物焼結体の結晶粒の平均結晶粒径を微細化することが望ましい。具体的には酸化物焼結体(あるいは該酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲット)の破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)においてSEM(走査型電子顕微鏡)により観察される結晶粒の平均結晶粒径を好ましくは30μm以下とすることによって、異常放電の発生をより一層抑制することができる。より好ましい平均結晶粒径は25μm以下、更に好ましくは20μm以下である。一方、平均結晶粒径の下限は特に限定されないが、結晶粒を微細化させすぎると、相対密度が低下することがあるため、平均結晶粒径の好ましい下限は3μm程度、より好ましくは5μm以上である。
【0045】
結晶粒の平均結晶粒径は、酸化物焼結体(またはスパッタリングターゲット)破断面の組織をSEM(倍率:400倍)で観察し、任意の方向に100μmの長さの直線を引き、この直線内に含まれる結晶粒の数(N)を求め、[100/N]から算出される値を当該直線上での平均結晶粒径とする。本発明では20μm以上の間隔で直線を20本作成して「各直線上での平均結晶粒径」を算出し、更に[各直線上での平均結晶粒径の合計/20]から算出される値を結晶粒の平均結晶粒径とする。
【0046】
更に本発明の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、比抵抗1Ω・cm以下であり、好ましくは10
−1Ω・cm以下、より好ましくは10
−2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
−3Ω・cm以下であるところに特徴がある。これにより、一層スパッタリング中での異常放電を抑制した成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。
【0047】
次に、本発明の酸化物焼結体を製造する方法について説明する。
【0048】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫を混合および焼結して得られるものであり、またスパッタリングターゲットは酸化物焼結体を加工することにより製造できる。
図1には、酸化物の粉末を(a)混合・粉砕→(b)乾燥・造粒→(c)予備成形→(d)脱脂→(e)大気焼結して得られた酸化物焼結体を、(f)加工→(g)ボンディグしてスパッタリングターゲットを得るまでの基本工程を示している。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように焼結条件を適切に制御したところに特徴があり、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0049】
まず、酸化亜鉛粉末と;酸化インジウム粉末と;酸化ガリウム粉末と;酸化錫粉末;を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、比率が上述した範囲内となるように制御することが好ましい。
【0050】
(a)混合・粉砕は、ボールミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。この際、均一に混合する目的で分散材や、後の成形工程の容易性を確保するためにバインダーを混合してもよい。
【0051】
次に、上記工程で得られた混合粉末について例えばスプレードライヤなどで(b)乾燥・造粒を行うことが好ましい。
【0052】
乾燥・造粒後、(c)予備成形をする。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形する。この予備成形は、セットする際のハンドリング性を向上させる目的で行われるため、0.5〜1.0tonf/cm
2程度の加圧力を加えて成形体とすればよい。その後、CIP(冷間静水圧)で成形(本成形)を行う。焼結体の相対密度を上昇させるためには、成形時の圧力は約1tonf/cm
2以上に制御することが好ましい。
【0053】
なお、混合粉末に分散材やバインダーを添加した場合には、分散材やバインダーを除去するために成形体を加熱して(d)脱脂を行うことが望ましい。加熱条件は脱脂目的が達成できれば特に限定されないが、例えば大気中、おおむね500℃程度で、5時間程度保持すればよい。
【0054】
脱脂後、所望の形状の黒鉛型に成形体をセットして(e)大気焼結にて焼結を行う。
【0055】
本発明では焼結温度:1350〜1600℃、該温度での保持時間:1〜50時間で焼結を行うことが好ましい(
図2)。これらの温度範囲および保持時間にすることにより、上記比率(1)〜(3)を満足する化合物相が得られる。また、焼結温度が低いと、十分に緻密化することができず異常放電抑制の効果が得られない。一方、焼結温度が高くなりすぎると、結晶粒が粗大化してしまい、結晶粒の平均結晶粒径を所定の範囲に制御できなくなり、異常放電を抑制できなくなる。したがって焼結温度は好ましくは1350℃以上、より好ましくは1400℃以上、更に好ましくは1500℃以上であって、好ましくは1600℃以下、より好ましくは1550℃以下、更に好ましくは1500℃以下とする。
【0056】
また上記焼結温度での保持時間が長くなりすぎると結晶粒が成長して粗大化するため、結晶粒の平均結晶粒径を所定の範囲に制御できなくなる。一方、保持時間が短すぎると十分に緻密化することができなくなる。したがって保持時間は好ましくは1時間以上、より好ましくは8時間以上、更に好ましくは12時間以上であって、好ましくは50時間以下、より好ましくは40時間以下、更に好ましくは30時間以下とする。
【0057】
また本発明では成形後、上記焼結温度までの平均昇温速度(HR)を100℃/hr以下とすることが好ましい。平均昇温速度が100℃/hrを超えると、結晶粒の異常成長が起こる。また相対密度を十分に高めることができないことがある。より好ましい平均昇温速度は80℃/hr以下、更に好ましくは50℃/hr以下である。一方、平均昇温速度の下限は特に限定されないが、生産性の観点からは10℃/hr以上とすることが好ましく、より好ましくは20℃/hr以上である。
【0058】
焼結工程では、焼結雰囲気を酸素ガス雰囲気(例えば大気雰囲気)、酸素ガス加圧下雰囲気とすることが好ましい。また雰囲気ガスの圧力は、蒸気圧の高い酸化亜鉛の蒸発を抑制するために大気圧とすることが望ましい。上記のようにして得られた酸化物焼結体は相対密度が85%以上である。
【0059】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、(f)加工→(g)ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。このようにして得られるスパッタリングターゲットの比抵抗も、非常に良好なものであり、比抵抗はおおむね1Ω・cm以下である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
(スパッタリングターゲットの作製)
純度99.99%の酸化インジウム粉末(In
2O
3)、純度99.99%の酸化亜鉛粉末(ZnO)、純度99.99%の酸化ガリウム粉末(Ga
2O
3)、純度99.99%の酸化錫粉末(SnO
2)を表2に示す比率で配合し、水と分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を加えてジルコニアボールミルで24時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥して造粒を行った。
【0062】
このようにして得られた粉末を金型プレスにて予備成形した後(成形圧力:1.0ton/cm
2、成形体サイズ:φ110×t13mm、tは厚み)、CIP(冷間静水圧)にて成形圧力3tonf/cm
2で本成形を行った。
【0063】
このようにして得られた成形体を、常圧にて大気雰囲気下で500℃に昇温し、該温度で5時間保持して脱脂した。
【0064】
このようにして得られた成形体を焼結炉にセットし、表3に示す条件(A〜F)で焼結を行った。得られた焼結体を機械加工してφ100×t5mmに仕上げ、Cu製バッキングプレートにボンディングし、スパッタリングターゲットを製作した。
【0065】
(薄膜トランジスタの作製)
このようにして得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法で、ガラス基板(サイズ:100mm×100mm×0.50mm)上に、酸化物半導体膜を形成した。スパッタリング条件は、DCスパッタリングパワー150W、Ar/0.1体積%O
2雰囲気、圧力0.8mTorrとした。さらにこの条件で成膜した薄膜を使用して、チャネル長10μm、チャネル幅100μmの薄膜トランジスタを作製した。
【0066】
(相対密度の測定)
相対密度は、スパッタリング後、ターゲットをバッキングプレートから取り外して研磨し、アルキメデス法により算出した。相対密度は85%以上を合格と評価した(表4中、「相対密度(%)」参照)。
【0067】
(比抵抗の測定)
焼結体の比抵抗は、上記製作したスパッタリングターゲットについて四端子法により測定した。比抵抗は1Ω・cm以下を合格と評価した。
【0068】
(結晶粒の平均結晶粒径)
結晶粒の平均結晶粒径は、酸化物焼結体破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)の組織をSEM(倍率:400倍)で観察し、任意の方向に100μmの長さの直線を引き、この直線内に含まれる結晶粒の数(N)を求め、[100/N]から算出される値を当該直線上での平均結晶粒径とした。同様に20〜30μmの間隔で直線を20本作成して各直線上での平均結晶粒径を算出し、更に[各直線上での平均結晶粒径の合計/20]から算出される値を結晶粒の平均結晶粒径とした。結晶粒は平均結晶粒径30μm以下を合格と評価した(表4中、「平均粒径(μm)参照」)。
【0069】
(化合物相の比率)
各化合物相の比率は、スパッタリング後、ターゲットをバッキングプレートから取り外して10mm角の試験片を切出し、X線回折で回折線の強度を測定して求めた。
【0070】
分析装置:理学電機製「X線回折装置RINT−1500」
分析条件:
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメートを使用(Kα)
ターゲット出力:40kV−200mA
(連続焼測定)θ/2θ走査
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5〜90°
【0071】
この測定で得られた回折ピークについて、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードに基づいて表1に示す各化合物相のピークを同定し、回折ピークの高さを測定した。これらのピークは、当該化合物相で回折強度が高く、他の化合物相のピークとの重複がなるべく少ないピークを選択した。各化合物相の指定ピークでのピーク高さの測定値をそれぞれI[Zn
2SnO
4]、I[InGaZnO
4]、I[InGaZn
2O
5]、I[In
2O
3]、I[SnO
2]、I[(ZnO)
mIn
2O
3]とし(「I」は測定値であることを表す意味)、下式によって体積比率を求めた(表4中、A、B、A+Bの体積比率(%))。
[Zn
2SnO
4]+[InGaZnO
4]=(I[Zn
2SnO
4]+I[InGaZnO
4])/(I[Zn
2SnO
4]+I[InGaZnO
4]+I[In
2O
3]+I[SnO
2]+I[(ZnO)
mIn
2O
3])×100・・・(1)
[Zn
2SnO
4]=I[Zn
2SnO
4]/(I[Zn
2SnO
4]+I[InGaZnO
4]+I[In
2O
3]+I[SnO
2]+I[(ZnO)
mIn
2O
3])×100・・・(2)
[InGaZnO
4]=I[InGaZnO
4]/(I[Zn
2SnO
4]+I[InGaZnO
4]+I[In
2O
3]+I[SnO
2]+I[(ZnO)
mIn
2O
3])×100・・・(3)
なお、m=2,3,4の(ZnO)
mIn
2O
3相のピークはいずれの試料においても無視できる程度であったため、I[(ZnO)
5In
2O
3]をI[(ZnO)
mIn
2O
3]とした。また、上記以外の化合物相のピークもほとんど観察されなかった。
【0072】
化合物相の比率は[Zn
2SnO
4]が30%以上でかつ[InGaZnO
4]が10%以上であり、[Zn
2SnO
4]+[InGaZnO
4]が75%以上のものを合格と評価した(表4中「A」、「B」、「A+B」参照)。
【0073】
(異常放電の評価)
上記焼結体を直径4インチ、厚さ5mmの形状に加工し、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを得る。そのようにして得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、DC(直流)マグネトロンスパッタリングを行う。スパッタリングの条件は、DCスパッタリングパワー150W、Ar/0.1体積%O
2雰囲気、圧力0.8mTorrとする。この時の100分当りのアーキングの発生回数をカウントし2回以下を合格と評価した(表4中、「異常放電回数」参照)。
【0074】
結果を表4に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
本発明の好ましい組成、製造条件を満足するNo.1〜3、7は異常放電が抑制されていた。すなわち、スパッタリングを行なったところ、異常放電の発生は2回以下であり、安定して放電することが確認された。またこのようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗も良好な結果が得られた。
【0080】
一方、本発明の好ましい製造条件を満足しないNo.4〜6、及び好ましい組成を満足しないNo.8、9については、異常放電が多く発生するなど所望の効果を得ることができなかった。
【0081】
具体的には、No.4は焼結工程における保持時間tが本発明の規定を外れる例であり、焼結体の相対密度が低く、また化合物相の体積比率([Zn
2SnO
4]相+[InGaZnO
4]相)も低かったため、異常放電の回数が多かった。No.5は焼結工程における焼結温度Tが本発明の規定を外れる例であり、焼結体の相対密度が低く、また化合物相の体積比率([Zn
2SnO
4]相+[InGaZnO
4]相、[Zn
2SnO
4]相)も低かったため、比抵抗が高く、また異常放電の回数が多かった。No.6は平均昇温速度HRが本発明の規定を外れ、平均結晶粒径が大きくなっている例であり、異常放電の回数が多かった。
【0082】
No.8、9の組成は、いずれも金属元素の含有比率が所定の範囲を外れると共に、化合物相の体積比率([Zn
2SnO
4]相、[InGaZnO
4]相)が、本願発明の規定を外れていた。その結果、No.8、9は異常放電の回数が多かった。