(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、酸素を除く構成元素が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.5≦REM/Zrを満たし、且つ、円相当径が0.2μm超2μm未満の酸化物が300個/mm2以上存在することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
更に、質量%で、Ni:0.05〜1.50%、Cu:0.05〜1.50%、Cr:0.05〜1.50%、Mo:0.05〜1.50%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁や高層建造物、船舶、ラインパイプなどの溶接構造物の大型化に伴い、このような溶接構造物には50mm以上の板厚の厚鋼板が適用されることが多くなってきており、50mm以上の板厚の厚鋼板の溶接が不可避となっている。以上のような実情もあり、溶接施工効率向上を目的とした大入熱溶接が求められている。
【0003】
しかしながら、大入熱溶接時のHAZは、加熱によって高温のオーステナイト(γ)領域に長時間保持された後、徐冷されるため、加熱時におけるγ粒の成長、冷却過程における粗大フェライト(α)粒の生成に代表されるような組織の粗大化がもたらされやすく、それが大入熱溶接時のHAZの靭性低下の原因となっている。そのため、大入熱溶接時におけるHAZの靭性(以下、HAZ靭性とも述べる。)を安定して高い水準に保つ技術を開発することが、必要課題となっている。
【0004】
HAZ靭性を確保するための手段としては、酸化物、窒化物、硫化物等の介在物粒子によるγ粒成長ピン止め、介在物粒子を起点とする粒内α生成による組織の微細化に関する技術等が提案されている。こうした技術の提案例として、特許文献1や特許文献2に記載の技術があり、鋼材中に微細なTi窒化物をγ粒成長ピン止め粒子として分散析出させることで、大入熱溶接時のHAZで生じるオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性の劣化を抑えることが開示されている。しかしながら、Ti窒化物は、溶接入熱を増大させると消失しやすく、安定したHAZ靭性を得るためには、特別な工夫が必要となる。
【0005】
発明者らも、特許文献3において、微細Ti窒化物のサイズおよび個数を精密に制御することで、大入熱HAZ靭性を改善する技術を提案している。しかしながら、想定する入熱は55kJ/mmにとどまっており、更なる溶接入熱の増大に対応するためには、いっそうの改善が必要である。
【0006】
また、特許文献4〜7では、高温で安定な酸化物系介在物をγ粒成長ピン止め粒子として利用する技術が提案されている。しかしながら、酸化物系介在物はTi含有窒化物に比べて数が少なく、十分なピン止め効果を得ることができないため、大入熱溶接に対して対応することが十分にはできず、尚一層の改善が必要である。
【0007】
すなわち、特許文献4には、REMやZrを含む酸化物を存在させることによって良好なHAZ特性が得られると記載されてはいるものの、想定した入熱は低い水準にとどまっており、必ずしも大入熱溶接で良好なHAZ特性が得られるとはいいえない。また、特許文献5には、特許文献4と同様にREMやZrを含む酸化物を利用する技術が記載されており、HAZ靭性としてシャルピー吸収エネルギーを評価しているものの、材料の信頼性という観点では、平均値のみならずその最小値も高い水準に保障する必要があると考えられる。
【0008】
更には、特許文献6には、酸化物系介在物とTi含有介在物の両方をγ粒成長ピン止め粒子として利用することで、高いHAZ靭性を得る技術が記載されている。しかしながら、特許文献6では、大入熱溶接を模擬した熱サイクル試験にてHAZ靭性の評価を行っているが、最高加熱温度が1400℃と一部のTi含有窒化物が残存する温度にて行っている。ところが、HAZの最高加熱温度が部分的に1450℃を上回る高熱となり、Ti含有窒化物の消失がいっそう促進される。よって、大入熱HAZ靭性を正確に評価するためには、実際に大入熱溶接試験を行うことが望ましい。また、発明者らは特許文献7で、微細酸化物系介在物のγ粒成長ピン止め効果を活用した技術を提案しているが、この技術は微細Mn硫化物の再析出抑制を併用した技術であり、溶存酸素量、溶存硫黄量に基づき合金添加量を決定するという煩雑な制御を必要としている。
【0009】
また、介在物粒子を起点とする粒内α生成による組織の微細化に関する技術としては、特許文献8に記載のTiやREMを含む複合酸化物とMnSを利用した技術が提案されているほか、発明者らは、特許文献9で介在物形状を制御することで、粒内α生成を促進する技術を提案している。これらの技術は、粒内α生成に対し、(粒内α/介在物)界面エネルギーの低い介在物が有効との前提で構築されているものである。しかしながら、粒内αの生成に際しては、(粒内α/γ)界面エネルギーの寄与も大きく、単に(粒内α/介在物)界面エネルギーを下げるだけでは、十分な粒内αの生成を得ることができないため、大入熱HAZ靭性を十分に保障するまでには至っていない。
【0010】
更に、発明者らは、酸硫化物起点の粒内α生成を活用した高HAZ靭性技術を構築し、特許文献10として提案している。しかしながら、代償として2μm以上の比較的サイズの大きい酸硫化物粒子を一定数分散させる必要があるため、この技術でも、大入熱HAZ靭性を十分に保障するまでには至っていない。すなわち、特許文献8記載の技術では、想定する入熱量自体が小さく、また、特許文献9や特許文献10に記載の技術においても、シャルピー吸収エネルギーの平均値こそ高いものの、最小値には改善の余地があるのが現状である。
【0011】
加えて、発明者らは、組織を制御した酸化物を分散させることで、高いHAZ靭性を得ることができる技術を、特許文献11および特許文献12として提案している。これらの技術により溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板を実現することができたが、製造上において、まだ改善すべき課題が残っていた。
【0012】
特許文献11記載の技術では、所定の酸化物形態を実現するために、Ca添加前の溶存酸素量に基づいてCa添加量を制御しているが、同時にTi添加からCa添加までの時間を3〜20分に収める必要があるため、作業者の負担が増すことが懸念される。一方、特許文献12記載の技術では、Ca添加から鋳込み開始まで40分〜90分保持する必要があるため、生産性に改善点が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の実情を鑑みてなされたもので、大入熱溶接を行った場合であっても、HAZ靭性の平均値は勿論のこと、その最小値をも向上させることができ、溶接熱影響部の靭性に優れ、更には生産性にも優れた、厚鋼板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.10〜0.25%、Mn:
1.00〜
2.00%、P:
0.030%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.004〜
0.050%、Ti:0.010〜0.050%、REM:0.0003〜
0.0200%、Zr:0.0003〜
0.0200%、Ca:0.0005〜
0.0100%、N:
0.0020〜
0.0100%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物で
あり、酸素を除く構成元素が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.0≦REM/Zrを満たす酸化物を含有し、且つ、前記酸化物のうち、円相当径が
0.2μm超2μm未満の酸化物が300個/mm
2以上、円相当径が2μm以上の酸化物が100個/mm
2以下、存在すると共に、含有されるTi窒化物のうち、円相当径が1μm以上のTi窒化物が7個/mm
2以下、円相当径が20nm以上のTi窒化物が1.0×10
6個/mm
2以上、存在し、更に、前記円相当径が20nm以上のTi窒化物の大きさを、円相当径が20nmのものから小さい順に5nm置きの領域に区切って各領域毎の円相当径の範囲を(di−5)以上di未満とし、前記各領域内に存在するTi窒化物の個数密度が最多であった領域の前記diをdfとしたときの前記dfと、円相当径が20nm以上500nm未満のTi窒化物の平均円相当径daが、|da−df|/da≦0.35という関係式を満たす
厚鋼板であって、前記厚鋼板から、溶接継手用試験片を採取し、V先加工を施した後、入熱量:50kJ/mmにてエレクトロガス溶接を実施し、その表面から深さt/4の位置の溶接線近傍のHAZに切欠きを加工したシャルピー衝撃試験片を、3本採取し、−40℃でシャルピー衝撃試験を行った時の吸収エネルギー:vE−40の測定値の、平均値が180Jを超え、最小値が120Jを超え、前記厚鋼板から、溶接継手用試験片を採取し、V先加工を施した後、入熱量:60kJ/mmにてエレクトロガス溶接を実施し、その表面から深さt/4の位置の溶接線近傍のHAZに切欠きを加工したシャルピー衝撃試験片を、3本採取し、−40℃でシャルピー衝撃試験を行った時の吸収エネルギー:vE−40の測定値の平均値が120Jを超えることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
但し、前記したtは板厚、シャルピー衝撃試験片はJIS Z 2242のVノッチ試験片である。
【0016】
尚、上記記載を含め、本発明で説明する円相当径とは、酸化物およびTi窒化物の大きさに着目して、その面積が等しくなるように想定した円の直径を求めたもので、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで求めることができる。
【0017】
請求項2記載の発明は、更に、酸素を除く構成元素が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.5≦REM/Zrを満た
し、且つ、円相当径が0.2μm超2μm未満の酸化物が300個/mm
2以上存在することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
【0018】
請求項3記載の発明は、更に、質量%で、Ni:0.05〜1.50%、Cu:0.05〜1.50%、Cr:0.05〜1.50%、Mo:0.05〜1.50%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
【0019】
請求項4記載の発明は、更に、質量%で、Nb:0.002〜
0.100%および/またはV:0.002〜
0.100%を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
【0020】
請求項5記載の発明は、更に、B:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、小〜中入熱溶接は勿論のこと、大入熱溶接を行った場合であっても、HAZ靭性の平均値および最小値を向上させることができ、溶接熱影響部の靭性に優れ、更には生産性にも優れた、厚鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、比較的生産性の高い製造条件下で厚鋼板の大入熱HAZ靭性を改善する手段を探索した。その結果、酸化物起点の粒内αの生成を確保すると共に、HAZ靭性阻害因子である粗大Ti窒化物の生成を抑制し、Ti窒化物分散形態を適切に制御することで、厚鋼板の生産性と大入熱HAZ靭性を両立できることを見出した。すなわち、酸化物組成を適切に制御することで、粒内αの生成を確保できると共に、Ti窒化物のサイズ、個数を適切に制御し、旧γ粒の粗大化を抑制することで、旧γ粒界に生成する粒界フェライトを微細化できるため、優れた大入熱HAZ靭性を有する厚鋼板を得ることができることを知見した。
【0023】
より詳しくは、これら酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物を300個/mm
2以上分散させると共に、円相当径が2μm以上の酸化物は100個/mm
2以下に抑制することなどで、優れたHAZ靭性が得られることを確認した。
【0024】
以上説明したような知見を基に、本発明を完成したものであるが、各構成要件を規定した理由は下記に示す通りである。
【0025】
(酸素を除く構成元素が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.0≦REM/Zrを満たし、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm
2以上)
酸化物の円相当径を2μm未満とすることで、粒内α促進によってHAZ靭性を促進することができる。酸化物の円相当径が2μm以上になると、粗大Ti窒化物が晶出する際の障壁エネルギーが低下し、粗大Ti窒化物の生成量が増加してしまう。また、酸化物の組成が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.0≦REM/Zrという範囲から外れると十分な粒内α生成が得られなくなる。尚、酸化物中のREM/Zr比(質量%)を1.5以上とすることで、溶鋼中において酸化物の表面に生成する粗大晶出Ti窒化物量が更に減少し、いっそう優れたHAZ靭性が実現される。
【0026】
(円相当径が2μm以上の酸化物が100個/mm
2以下)
上記した組成を満足する酸化物のうち、円相当径が2μm以上の酸化物は、脆性破壊を助長し、HAZ靭性を劣化させるので、できるだけ少ないことが好ましい。こうした観点から本発明では、円相当径が2μm以上の酸化物は100個/mm
2以下と規定した。
【0027】
本発明では、Ti窒化物の形態についても詳細に規定した。Ti窒化物は、HAZ高温加熱時のγ粒粗大化を抑制し、冷却時に生成する粒界フェライトのサイズを低減することでHAZ靭性改善に寄与する。γ粒粗大化を十分抑制するためには、当然ながらTi窒化物の粒子を数多く分散させる必要があるが、本発明者らは、更にTi窒化物粒子のサイズが均一に近いほど、HAZ高温加熱時のTi窒化物の溶解速度が低下することを見出し、Ti窒化物のサイズおよび個数を適切に制御することで、大入熱溶接であってもγ粒粗大化抑制効果が得られることを明らかにした。具体的には、次の2つの条件を満足することで、高い大入熱HAZ靭性が実現される。
【0028】
(円相当径が1μm以上のTi窒化物が7個/mm
2以下)
円相当径が1μm以上のTi窒化物の個数が7個/mm
2を超えると、脆性破壊を助長し、HAZ靭性を劣化させてしまう。このようなTi窒化物は、直方体形状を有することに加えて、鋼に比べて著しく硬度が高いため、応力集中によりHAZ靭性を著しく劣化させるという特性を有する。よって、粗大Ti窒化物は粗大酸化物より厳密に制御する必要がある。
【0029】
(円相当径が20nm以上のTi窒化物が1.0×10
6個/mm
2以上)
円相当径が20nm以上のTi窒化物が1.0×10
6個/mm
2を下回ると、γ粒粗大化抑制に必要なTi窒化物粒子が確保されない。尚、円相当径20nm未満の極微細Ti窒化物粒子は、大入熱溶接時の高温加熱において、短時間で消失し、γ粒粗大化抑制に殆ど寄与しないため、特に制御は必要としない。
【0030】
(|da−df|/da≦0.35)
Ti窒化物粒子は、サイズが小さいものほどエネルギー的に不安定であり、具体的には、全粒子の平均サイズに比べ小さい粒子ほど、HAZ高温加熱時に消失しやすくなる。よって、平均サイズより大きい、或いは、平均サイズより小さくても、平均サイズに比較的近いサイズのTi窒化物粒子数が多いほど、γ粒粗大化抑制に寄与する実質的な粒子数は増加する。
【0031】
本発明では、Ti窒化物のサイズ−個数ヒストグラムにおいて、最多のTi窒化物個数が記録されたサイズと平均サイズとの差が小さくなるよう制御することで、この実質的なTi窒化物粒子数が増加し、高いγ粒粗大化抑制効果が実現されることを見出した。
【0032】
詳しく説明すると、円相当径が20nm以上のTi窒化物の大きさを、円相当径が20nmのものから小さい順に5nm置きの領域に区切って各領域毎の円相当径の範囲を(di−5)以上di未満とし、それら各領域内に存在するTi窒化物の個数密度が最多であった領域の前記diをdfとしたときの前記dfと、円相当径が500nm未満のTi窒化物の平均円相当径daとの差が、小さくなるよう制御する。この制御により、実質的なTi窒化物粒子数が増加し、高いγ粒粗大化抑制効果が実現される。
【0033】
尚、Ti窒化物の平均円相当径の算出に際しては、実施例の欄で説明する後述の条件により、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、画像解析によって、この観察視野中の各Ti窒化物の面積を測定し、その面積から各Ti窒化物の円相当径を算出した後、円相当径が20nm以上500nm未満のTi窒化物について、円相当径の算術平均を求めた。
【0034】
具体的には、|da−df|/daから求めた値が0.35を超えてしまうと、たとえTi窒化物粒子数が多くても、γ粒粗大化が十分に抑制されず、高い大入熱HAZ靭性が得られなくなる。
【0035】
(製造方法)
上記した要件を満足する本発明の厚鋼板、すなわち、酸素を除く構成元素が、質量%で、2%<Ti<40%、5%<Al<30%、5%<Ca<40%、5%<REM<50%、2%<Zr<30%、1.0≦REM/Zrを満たす酸化物を含有し、且つ、前記酸化物のうち、円相当径が2μm未満の酸化物が300個/mm
2以上、円相当径が2μm以上の酸化物が100個/mm
2以下、存在すると共に、含有されるTi窒化物のうち、円相当径が1μm以上のTi窒化物が7個/mm
2以下、円相当径が20nm以上のTi窒化物が1.0×10
6個/mm
2以上、存在し、更に、|da−df|/da≦0.35という関係式を満たす厚鋼板を製造するためには、以下の製造要件を満足するようにして、厚鋼板を製造する必要がある。
【0036】
その製造要件は、溶製時において、Mn、Si等を用いた脱酸により溶鋼中の溶存酸素量を、質量%で、0.002〜0.01%とした後、Al→Ti→(REM、Zr)→Caの順に、REMまたはZrの添加からCa添加までの時間t1が5分以上となるようにして制御しつつ、各元素を添加し、更に、鋳造時における1500〜1450℃の温度範囲での冷却時間t2を300秒以内とすると共に、鋳造時における1300〜1200℃の温度範囲での冷却時間t3を680秒以内とすれば良い。また、REM添加量[REM]とZr添加量[Zr]の質量比である[REM]/[Zr]を1.8以上、且つt1を10分以上とすることで、より適正な酸化物形態が実現され、溶鋼中において酸化物の表面に生成する粗大晶出Ti窒化物が減少することで、いっそう優れたHAZ靭性が得られる。次に、これらの製造要件の規定理由について詳しく説明する。
【0037】
・Mn、Si等を用いた脱酸により溶鋼中の溶存酸素量を、0.002〜0.01%
溶存酸素量が0.002%を下回ると、粒内α生成の起点となる適切な組成を有する酸化物を必要量確保できなくなる。また、溶存酸素量が0.01%を超えると、円相当径が2μm以上の粗大酸化物が増加し、HAZ靭性を劣化させてしまう。
【0038】
・REMまたはZrの添加からCa添加までの時間t1を5分以上
本発明で規定した酸化物は、粒内αの生成促進作用を有すると共に、粗大Ti窒化物の晶出起点として機能し難いという特徴を有する。特に、酸化物中のREM/Zr比(質量%)を1.0以上とするためには、強脱酸元素であるCaの添加に先立ち、REMまたはZrの酸化物形成反応を十分に進行させる必要がある。具体的には、REMまたはZrの添加からCa添加までの時間t1を5分以上に制御することで、所定の個数密度のREM/Zr≧1.0を満たす酸化物を得ることができる。REMまたはZrの添加からCa添加までの時間t1が10分未満であると、REM/Zr≧1.0を満たす酸化物が不足することになる。また、これに加えて、REM添加量[REM]とZr添加量[Zr]の質量比である[REM]/[Zr]を1.8以上かつt1を10分以上とすることで、REM/Zr≧1.5を満たす酸化物を、所定の個数密度で得ることができる。
【0039】
尚、溶製時において、Al→Ti→(REM、Zr)→Caの順に添加する理由は、この添加順序以外の順序で各元素を添加すると、粒内α生成の起点となる適切な組成を有する酸化物を必要数確保できなくなるからである。特に、Caは脱酸力が極めて強い強脱酸元素であるため、TiやAlに先立って添加すると、TiやAlと結びつく酸素が著しく少なくなる。
【0040】
・鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t2を300秒以内
鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t2が300秒を超えると、粗大な酸化物が増加する。或いは、凝固時の成分偏析により粗大Ti窒化物が晶出し、HAZ靭性が劣化することになる。
【0041】
・鋳造時における1300〜1200℃の温度範囲での冷却時間t3を680秒以内
鋳造時における1300〜1200℃の温度範囲での冷却時間t3が680秒を超えると、|da−df|/da≦0.35という関係式を満たすことができない。その原因は、次の通りと考えることができる。
【0042】
鋳造時に生成するTi窒化物には、A.溶鋼中で晶出するTi窒化物、B.凝固した鋼の凝固偏析部で生成するTi窒化物、C.凝固した鋼の非凝固偏析部で生成するTi窒化物があり、A→B→Cの順に生成し、その大きさ(粒子径)は、A>B>Cの順である。一方、粒子数は、A<B<Cの順であり、前記df相当の大きさのTi窒化物の大部分は、CのTi窒化物である。また、AのTi窒化物は、B,CのTi窒化物に比べて粒子数が少ないため、Ti窒化物の平均円相当径daに殆ど影響を及ぼすことがない。よって、|da−df|/daを所定の範囲に収めるには、B,CのTi窒化物の生成を制御する必要があるといえる。鋳造時における1300〜1200℃の温度範囲での冷却時間t3が680秒を超えると、CのTi窒化物の生成に先立ち、BのTi窒化物が成長するため、Ti窒化物の平均円相当径daが大きくなってしまい、|da−df|/daが0.35を超えてしまうと考えられる。
【0043】
(化学成分組成)
次に、本発明の厚鋼板における化学成分組成について説明する。本発明の厚鋼板は、先に説明した酸化物の分散状態等が適切であっても、夫々の化学成分(元素)の含有量が適正範囲内でなければ、母材(厚鋼板)の特性とHAZを良好にすることができない。従って、本発明の厚鋼板では、夫々の化学成分の含有量が、以下に説明する範囲内にあることも併せて要件とする。これらの化学成分のうち、酸化物を構成するAl、Ca、Ti等の含有量は、その作用効果から明らかなように、酸化物を構成する量を含めたものである。尚、下記の化学成分の含有量(%)は全て質量%を示す。
【0044】
C:0.03〜0.12%
Cは、鋼板の強度を確保するための必須元素である。Cの含有量が0.03%より低い場合は、必要な強度を確保できなくなる。一方で、Cの含有量が過剰になると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従って、Cの含有量は0.12%以下とする必要がある。Cの含有量の好ましい下限は0.04%、好ましい上限は0.10%である。
【0045】
Si:0.10〜0.25%
Siは、Tiの活量を向上させる元素であり、所定のTi窒化物形態を実現するために、適切に添加する必要がある。添加量が0.10%を下回ると、円相当径が20nm以上のTi窒化物の個数密度が1.0×10
6個/mm
2を確保できなくなる。また、0.25%を上回ると、粗大なTi窒化物が生成しやすくなるのに加え、硬質なMA組織が形成されるようになり、所定のHAZ靭性が得られない。好ましい下限は0.12%、より好ましい下限は0.14%、好ましい上限は0.22%、より好ましい上限は0.20%である。
【0046】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、鋼板の強度を確保するのに有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるには1.0%以上含有させる必要がある。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させるとHAZの強度が上昇しすぎて靭性が劣化するので、Mnの含有量は2.0%以下とする。Mnの含有量の好ましい下限は1.4%、好ましい上限は1.8%である。
【0047】
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは、粒界破壊を起こし易く靭性に悪影響を及ぼす不純物元素であるので、その含有量はできるだけ少ないことが好ましい。HAZ靭性を確保するという観点からして、Pの含有量は0.03%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.02%以下とする。しかし、工業的に鋼中のPを0%にすることは困難である。
【0048】
S:0.015%以下(0%を含まない)
Sは、HAZにおいて、旧オーステナイト粒界にMn硫化物を形成して、HAZ靭性を劣化させる元素であるので、その含有量はできるだけ少ないことが好ましい。HAZ靭性を確保するという観点からして、Sの含有量は0.015%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.010%以下とする。しかし、工業的に鋼中のSを0%にすることは困難である。
【0049】
Al:0.004〜0.05%
Alは、粒内αの起点となる酸化物を形成する元素である。その含有量が0.004%未満であると、所定の酸化物形態が得られなくなり、粒内変態が十分に促進されなくなるため、HAZ靭性が劣化する。一方、含有量が過剰であると、粗大酸化物が生成してHAZ靭性が劣化するので、0.05%以下に抑える必要がある。Alの含有量の好ましい下限は0.007%、好ましい上限は0.04%である。
【0050】
Ti:0.010〜0.050%
Tiは、Ti窒化物を形成する元素であると共に、REM、Zr、Caに先立ち添加することによって、粒内αの生成促進作用を有する酸化物の微細分散が可能となる。所定のTi窒化物、酸化物形態を実現するためには、Tiを0.010%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰であると粗大Ti窒化物が多く晶出してHAZ靭性を劣化させるので、0.050%以下に抑える必要がある。Tiの含有量の好ましい下限は0.012%、好ましい上限は0.035%、より好ましい上限は0.025%である。
【0051】
REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%
REM(希土類元素)およびZrは、Tiの添加後、Caの添加に先立って添加することで、粒内αの生成に有効な酸化物を形成する。これら酸化物は、Ti窒化物が複合析出することでより好適な粒内α生成サイトとなる。こうした効果は、それらの含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、いずれも0.0003%以上含有させる必要がある。しかし、これらを過剰に含有させると、酸化物が粗大になってHAZ靭性を劣化させるため、いずれも0.02%以下に抑えるべきである。これらの含有量のより好ましい下限は0.0005%、より好ましい上限は0.015%である。
【0052】
Ca:0.0005〜0.010%
Caは、Ti、REM、Zrの添加から10分以上後に添加することによって、粒内αの生成に有効で、且つ粗大Ti窒化物の晶出を抑制する酸化物を形成する。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰であると粗大酸化物が生成してHAZ靭性が劣化するので0.010%以下に抑える必要がある。Caの含有量の好ましい下限は0.0008%、好ましい上限は0.008%である。
【0053】
N:0.002〜0.010%
Nは、微細なTi窒化物を形成することによって、HAZの靭性を確保する上で有用な元素である。その含有量を0.002%以上とすることで、所望のTi窒化物を確保することができる。しかし、その含有量が過剰になると、粗大Ti窒化物の晶出が助長されるので0.010%以下に抑える必要がある。Nの含有量の好ましい下限は0.003%、好ましい上限は0.008%である。
【0054】
以上が本発明で規定する必須の含有元素であって、残部は鉄および不可避的不純物である。不可避的不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれるSn、As、Pb等の元素の混入が許容される。また、更に以下に示す元素を積極的に含有させることも有効であり、含有される化学成分(元素)の種類によって厚鋼板の特性が更に改善される。
【0055】
Ni:0.05〜1.50%、Cu::0.05〜1.50%、Cr:0.05〜1.50%、Mo:0.05〜1.50%よりなる群から選ばれる1種以上
Ni、Cu、Cr、およびMoは、いずれもが鋼板の高強度化に有効な元素であり、その効果はそれらの含有量が増加するにつれて増大する。こうした効果を有効に発揮させるためには、いずれも0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、それらを過剰に含有させると、強度の過大な上昇を招き、HAZ靭性を劣化させるため、いずれも1.50%以下に抑えることが好ましい。それらの含有量のより好ましい下限は0.10%、より好ましい上限は1.20%である。
【0056】
Nb:0.002〜0.10%および/またはV:0.002〜0.10%
NbおよびVは、炭窒化物として析出し、γ粒の粗大化を抑制することで、母材靭性を良好にするのに有効な元素である。その効果はそれらの含有量が増加するにつれて増大するが、こうした効果を有効に発揮させるためには、いずれも0.002%以上含有させることが好ましい。しかし、それらを過剰に含有させると、HAZ組織の粗大化を招き、HAZ靭性を劣化させるため、いずれも0.10%以下に抑えることが好ましい。それらの含有量のより好ましい下限は0.005%、より好ましい上限は0.08%である。
【0057】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、粗大な粒界αの生成を抑制することで、HAZ靭性を向上させる効果を有する。こうした効果は、含有量が増加するにつれて増大するが、効果的に発揮させるためには、0.0005%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0010%以上、更に好ましくは0.0015%以上である。しかし、B含有量が過剰となると、旧オーステナイト粒界からの粗大ベイナイトバケットが促進され、HAZ靭性はかえって低下する。好ましい上限は0.0050%、より好ましい上限は0.0040%、更に好ましい上限は0.0035%である。
【0058】
また、化学成分組成の説明で、Ni、Cu、Cr、Moよりなる群から選ばれる1種以上を含有することが有効であることを説明したが、その場合、それらの含有量(質量%)が、[Ni]+[Cu]+[Cr]+[Mo]<2.5%を満足することが好ましい(但し、前式で[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。)。
【0059】
粗大Ti窒化物は、溶鋼の凝固段階において、凝固偏析によりTi、Nが濃化した液相に晶出する。[Ni]+[Cu]+[Cr]+[Mo]が2.5%を超えると、凝固温度が低温化し、粗大Ti窒化物晶出の駆動力が大きくなる低温まで液相が残存するようになるため、粗大Ti窒化物の生成量が増加してしまう。
【0060】
(|da−df|/da≦0.35)
|da−df|/daは、HAZ高温加熱時のγ粒粗大化抑制に寄与するTi窒化物数と関連するパラメータである。0.35を超えると、γ粒の粗大化が十分抑制されず、所定のHAZ靭性が確保できない。好ましい上限は0.30、更に好ましい上限は0.25である。
【0061】
本発明は厚鋼板に関する発明であるが、一般に厚鋼板とは、JISで定義されるように、板厚が3.0mm以上の鋼板のことを示す。一方、本発明の厚鋼板は、50mm以上の板厚の厚鋼板の溶接を対象として発明されたものであり、対象とする鋼板は、板厚が50mm以上の鋼板であるということができると思われるが、これらは単に好ましい態様に過ぎず、本発明を50mm未満の板厚の厚鋼板へ適用することを排除するものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
本発明の実施例では、まず、表1および表2に示す各成分組成の鋼を、真空溶解炉(VIF:150kg)によって溶製した後、その溶鋼を用いて鋳片(断面形状:150mm×250mm)を鋳造し、更にその鋳片を用いて熱間圧延を行うことで、板厚80mmの熱間圧延板を得た。尚、熱間圧延条件は、圧延前加熱:1100℃×3時間、仕上げ圧延温度:780℃以上、450℃までの平均冷却速度:6℃/s、冷却停止温度:450℃とした。
【0064】
この熱間圧延板(厚鋼板)を製造するにあたり、制御した各条件を表3および表4に示す。その条件は、Al(Ti)添加前の溶鋼中の溶存酸素量[Of](質量%)、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序、REMまたはZr添加からCa添加までの時間t1、REM添加量[REM]とZr添加量[Zr]の質量比:[REM]/[Zr](表にはREM/Zrと記載)、鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t2、鋳造時の1300〜1200℃における冷却時間t3である。
【0065】
尚、表1および表2において、REMは、質量%で、Ceを50%程度とLaを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。また、表1および表2で、「−」は該当元素を添加していないことを示す。
【0066】
また、表3および表4において、Al,Ti,REM,Zr,Caの添加順序は、Al→Ti→(REM、Zr)→Caの順序のときを「○」、それ以外の順序のときを「×」で示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
以上の要件で製造した各熱間圧延板(厚鋼板)を用いて、円相当径が2μm未満かつTi、Al、Ca、REM、Zrを所定の濃度範囲で含有し、[REM]/[Zr]≧1.0である酸化物の個数密度N1、円相当径が2μm未満かつTi、Al、Ca、REM、Zrを所定の濃度範囲で含有し、[REM]/[Zr]≧1.5である酸化物の個数密度NA、円相当径が2μm以上の酸化物の個数密度N2、円相当径が1μm以上のTi窒化物の個数密度N3、円相当径が20nm以上のTi窒化物の個数密度N4、|da−df|/da、およびHAZ靭性を下記する測定により求め出した。これらの測定結果を表5および表6に示す。
【0072】
(円相当径が2μm未満の酸化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、Carl Zeiss社製の電界放射式走査型電子顕微鏡「SUPRA35(商品名)」(以下、FE−SEMと呼ぶ)を用いて観察した。その観察条件は、倍率:5000倍、観察面積:0.048mm
2とした。画像解析によって、この観察視野中の各酸化物の面積を測定し、その面積から各酸化物の円相当径を算出した。尚、各酸化物が上記した成分組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって確認した。EDXによる成分組成測定時の加速電圧は15kV、測定時間は100秒である。そして、円相当径が2μm未満となる酸化物の個数(N1、NA)を1mm
2相当の個数密度に換算して求めた。但し、円相当径が0.2μm以下となる酸化物については、EDXの信頼性が十分でないため、解析から除外した。
【0073】
(円相当径が2μm以上の酸化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、FE−SEMを用いて観察した。その観察条件は、倍率:1000倍、観察視野:0.06mm
2、観察箇所:20箇所とした。画像解析によって、この観察視野中の各酸化物の面積を測定し、その面積から各酸化物の円相当径を算出した。尚、各酸化物が上記した成分組成を満足するものであることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって確認した。EDXによる成分組成測定時の加速電圧は15kV、測定時間は100秒である。そして、円相当径が2μm以上となる酸化物の個数(N2)を1mm
2相当の個数密度に換算して求めた。
【0074】
(円相当径が1μm以上のTi窒化物の個数密度の測定)
各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、光学顕微鏡を用いて倍率:200倍で20視野撮影し、の粗大Ti窒化物の個数をカウントし、1mm
2相当の個数密度(N3)に換算して求めた。測定画像の面積は、1視野あたり0.148mm
2、1試料あたり2.96mm
2である。Ti窒化物の同定は形状および色に基づいて行い、角ばった形状且つ鮮やかなオレンジ色の介在物をTi窒化物と見なした。また、Ti窒化物の円相当径は解析ソフトにより算出した。尚、粗大Ti窒化物は、酸化物を起点として晶出することが多いが、その場合、内部の酸化物は円相当径の計測の対象から除外した。
【0075】
(円相当径が20nm以上のTi窒化物の個数密度の測定、および|da−df|/daの算出)
各厚鋼板のt/4位置から試験片を切り出し、圧延方向および板厚方向に平行な断面からレプリカTEM試験片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)で、観察倍率15000倍、観察視野6.84μm×8.05μmの条件で4視野観察したうえで、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)によってTi、Nを含む粒子を判別してTi含有窒化物とした。更に画像解析によって、その視野中のTi含有窒化物の面積を測定し、円相当径に換算して20nm以上のTi含有窒化物の個数を計測し、1mm
2あたりに換算して個数密度(N4)を求めた。加えて、得られたデータから、円相当径が20nm以上のTi窒化物の大きさを、円相当径が20nmものから小さい順に5nm置きの領域に区切って各領域毎の円相当径の範囲を(di−5)以上di未満とし、前記各領域内に存在するTi窒化物の個数密度が最多であった領域の前記diをdfとしたときの前記dfと、円相当径が20nm以上500nm未満のTi窒化物の平均円相当径daを求め、|da−df|/daを算出した。
【0076】
(HAZ靭性の評価)
各厚鋼板から、溶接継手用試験片を採取し、V先加工を施した後、入熱量:50kJ/mmにてエレクトロガスアーク溶接を実施した。これら試験片から、各厚鋼板の表面から深さt/4(t:板厚)の位置の溶接線(ボンド)近傍のHAZに切欠きを加工したシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2242のVノッチ試験片)を3本ずつ採取し、−40℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE
−40)を測定し、それらの平均値と最小値を求めた。この測定結果から、vE
−40の平均値が180Jを超え、最小値が120Jを超えるものを、HAZ靭性に優れると評価した。
【0077】
また、入熱量:60kJ/mmにてエレクトロガスアーク溶接を実施する以外は全て上記した条件と同じ条件でもシャルピー衝撃試験を行い、3本の試験片の吸収エネルギー(vE
−40)を測定して、その平均値を求めた。この測定結果から、vE
−40の平均値が120Jを超えるものを、HAZ靭性に優れると評価した。また、vE
−40の平均値が150Jを超えるものを、特にHAZ靭性に優れると評価した。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
No.1〜35は、本発明の要件を満足する発明例であり、化学成分組成、酸化物、Ti窒化物の分散等が適切になされており、入熱量を50kJ/mmにした場合のHAZ靭性(平均値および最小値)、並びに入熱量を60kJ/mmにした場合のHAZ靭性(平均値)が優れていることが分かる。すなわち、No.1〜35は、溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板であるということができる。
【0081】
更には、請求項2記載の要件を満足する厚鋼板は、vE
−40の平均値が150Jを超え、特に溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板であると評価することができる。
【0082】
これに対し、No.36〜55は、本発明の要件のうちいずれかの要件を満足しない比較例であり、入熱量を50kJ/mmにした場合のHAZ靭性(平均値および最小値)、並びに入熱量を60kJ/mmにした場合のHAZ靭性(平均値)のいずれかが、評価基準を満足していないことが分かる。