特許第5883373号(P5883373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883373
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20160301BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   B60C11/03 300D
   B60C11/13 C
   B60C11/03 100C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-251505(P2012-251505)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-97765(P2014-97765A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 進
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−240773(JP,A)
【文献】 特開平05−178026(JP,A)
【文献】 特開2003−182315(JP,A)
【文献】 特開2000−225812(JP,A)
【文献】 特開昭61−085206(JP,A)
【文献】 特開2012−136187(JP,A)
【文献】 特開平10−203118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、最もトレッド接地端側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、該ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に配された一対のショルダー陸部と、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向内側のミドル陸部とを具えた空気入りタイヤであって、 前記ショルダー陸部には、複数本のショルダー横溝が設けられ、
前記ショルダー横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の一方側に傾斜して少なくとも前記トレッド接地端までのび、
前記各ショルダー横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、
前記ショルダー横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ショルダー横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、
しかも、前記ショルダー横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度βは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度αよりも大きい部分を含み、
前記ミドル陸部には、ミドル横溝が設けられ、
前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝に連通してのびる幅広部と、前記幅広部に連なり、かつ、前記幅広部よりも小さい溝幅の幅狭部とを含み、
前記幅狭部の溝幅は、0.3〜1.0mmであり、
前記幅広部は、タイヤ軸方向内側から外側に向かって溝幅が漸増し、
前記ミドル横溝のタイヤ軸方向の外端部には、溝底面が隆起したタイバーが設けられ、
前記タイバーには、前記ミドル横溝に沿ってのびる横サイピングが設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の前記一方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのび、
前記ミドル横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、
前記ミドル横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ミドル横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、
しかも、前記ミドル横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度δは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度γよりも大きい部分を含む請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の他方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのび、
前記ミドル横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、
前記ミドル横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ミドル横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、
しかも、前記ミドル横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度δは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度γよりも大きい部分を含む請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記傾斜角度の差β−αは、前記傾斜角度の差δ−γよりも大きい請求項2又は3記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ショルダー横溝は、タイヤ軸方向外側に設けられかつ一定の溝幅を有する主部と、タイヤ軸方向内側に設けられかつ前記主部よりも小さい一定の溝幅を有する副部と、前記主部と前記副部との間を継ぎかつタイヤ軸方向内側に向かって溝幅が漸減する接続部とを含み、
前記副部は、前記一方側の溝壁面の傾斜角度αと、前記他方側の溝壁面の傾斜角度βとが等しく、
前記副部は、前記主部の溝中心線を滑らかに延長した仮想延長線よりも他方側に設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記幅狭部は、前記一方側の溝壁面の傾斜角度δと、前記他方側の溝壁面の傾斜角度γとが等しい請求項2又は3記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショルダー横溝の溝壁面の傾斜角度を改善した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド部に、タイヤ軸方向に対して傾斜してのびる横溝を具えた空気入りタイヤが提案されている。横溝は、ウェット走行時、トレッド部と路面との間の水膜を効果的にタイヤ軸方向外側に排出するため、タイヤのウェット性能を向上させる。
【0003】
しかしながら、横溝を有する空気入りタイヤは、トレッド部のパターン剛性が周方向で不均一になる。従って、このような空気入りタイヤは、トレッド部の偏摩耗、特に、タイヤ回転軸に直角な断面において、横溝間の両端部が早期に摩耗するヒールアンドトゥ摩耗が生じ易いという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、横溝の角度や溝幅を一定範囲に限定し、パターン剛性を向上させた空気入りタイヤが提案されている。しかしながら、このような空気入りタイヤは、横溝の排水性が低下し、ウェット性能が低下するおそれがあった。
【0005】
下記特許文献1は、タイヤ回転方向の後着側の溝壁面の傾斜角度を、先着側の溝側壁の傾斜角度よりも小さくすることを提案している。しかしながら、このような空気入りタイヤにおいても、偏摩耗の抑制については、さらなる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−002019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ショルダー横溝の溝壁面の傾斜角度を改善することを基本として、ウェット性能を維持しつつ陸部の偏摩耗の発生を抑制しうる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち、請求項1記載の発明は、トレッド部に、最もトレッド接地端側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、該ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に配された一対のショルダー陸部と、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向内側のミドル陸部とを具えた空気入りタイヤであって、 前記ショルダー陸部には、複数本のショルダー横溝が設けられ、前記ショルダー横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の一方側に傾斜して少なくとも前記トレッド接地端までのび、前記各ショルダー横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、前記ショルダー横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ショルダー横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、しかも、前記ショルダー横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度βは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度αよりも大きい部分を含み、前記ミドル陸部には、ミドル横溝が設けられ、前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝に連通してのびる幅広部と、前記幅広部に連なり、かつ、前記幅広部よりも小さい溝幅の幅狭部とを含み、前記幅狭部の溝幅は、0.3〜1.0mmであり、前記幅広部は、タイヤ軸方向内側から外側に向かって溝幅が漸増し、前記ミドル横溝のタイヤ軸方向の外端部には、溝底面が隆起したタイバーが設けられ、前記タイバーには、前記ミドル横溝に沿ってのびる横サイピングが設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の前記一方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのび、前記ミドル横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、前記ミドル横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ミドル横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、しかも、前記ミドル横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度δは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度γよりも大きい部分を含む請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、前記ミドル横溝は、前記ショルダー主溝からタイヤ周方向の他方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのび、前記ミドル横溝の一対の溝縁は、前記一方側の溝縁と、他方側の溝縁とを含み、前記ミドル横溝の溝中心線と直角な断面において、前記ミドル横溝は、前記一方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる一方側の溝壁面と、前記他方側の溝縁からタイヤ半径方向内方に直線状にのびる他方側の溝壁面とを含み、しかも、前記ミドル横溝は、前記断面において、前記一方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記一方側の溝壁面の傾斜角度δは、前記他方側の溝縁を通りトレッド踏面と直角なトレッド法線に対する前記他方側の溝壁面の傾斜角度γよりも大きい部分を含む請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、前記傾斜角度の差β−αは、前記傾斜角度の差δ−γよりも大きい請求項2又は3記載の空気入りタイヤである。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、前記ショルダー横溝は、タイヤ軸方向外側に設けられかつ一定の溝幅を有する主部と、タイヤ軸方向内側に設けられかつ前記主部よりも小さい一定の溝幅を有する副部と、前記主部と前記副部との間を継ぎかつタイヤ軸方向内側に向かって溝幅が漸減する接続部とを含み、前記副部は、前記一方側の溝壁面の傾斜角度αと、前記他方側の溝壁面の傾斜角度βとが等しく、前記副部は、前記主部の溝中心線を滑らかに延長した仮想延長線よりも他方側に設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤである。また、請求項6記載の発明は、前記幅狭部は、前記一方側の溝壁面の傾斜角度δと、前記他方側の溝壁面の傾斜角度γとが等しい請求項2又は3記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、ショルダー横溝が、ショルダー主溝からタイヤ周方向に一方側に傾斜して少なくともトレッド接地端までのびる。このようなショルダー横溝は、ウェット走行時、トレッド部と路面との間の水膜効果的に排出し、ウェット性能を向上させる。
【0014】
また、ショルダー横溝の溝壁面は、タイヤ周方向の前記一方側の溝壁面の傾斜角度βが、タイヤ周方向の他方側の溝壁面の傾斜角度αよりも大きい部分を含む。このようなショルダー横溝は、ウェット性能を低下させることなく陸部のパターン剛性を均一にし、陸部の偏摩耗を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態を示すトレッド部の展開図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図1のショルダー陸部の部分拡大図である。
図4図3のB−B断面図である。
図5図1のミドル陸部の部分拡大図である。
図6図5のC−C断面図である。
図7図5のD−D断面図である。
図8図5のE−E断面図である。
図9】本発明の他の実施形態を示すトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1は、例えば、乗用車用空気入りタイヤとして好適に利用される。タイヤ1のトレッド部2には、最もトレッド接地端Te側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝3、3、及び、ショルダー主溝3のタイヤ軸方向内側でタイヤ赤道C上をタイヤ周方向に連続してのびるセンター主溝4が設けられる。
【0017】
「トレッド接地端」Teは、正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置を意味する。そして、このトレッド接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離がトレッド接地幅TWとして定められる。なお、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0018】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めているリムであり、JATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"となる。また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0019】
また、「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" であるが、タイヤが乗用車用の場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0020】
本実施形態のショルダー主溝3及びセンター主溝4は、タイヤ周方向に直線状にのびる。このようなショルダー主溝3及びセンター主溝4は、ウェット走行時、トレッド部2と路面との間の水膜を効果的に排出する。
【0021】
ショルダー主溝3の溝幅W1(溝の長手方向と直角な溝幅を意味する。)及びセンター主溝4の溝幅W2は、慣例に従って種々定めることができる。しかしながら、これらの溝幅が小さい場合、ウェット性能が悪化するおそれがある。逆に、これらの溝幅が大きい場合、トレッド部2の接地面積や剛性が低下し、操縦安定性が悪化するおそれがある。このため、ショルダー主溝3の溝幅W1は、例えば、トレッド接地幅TWの4.5〜7.5%が望ましい。また、センター主溝4の溝幅W2は、例えば、トレッド接地幅TWの3.0〜6.0%が望ましい。同様に、ショルダー主溝3及びセンター主溝4の溝深さは、例えば、6.0〜12.0mmが望ましい。
【0022】
トレッド部2には、ショルダー主溝3のタイヤ軸方向外側に配された一対のショルダー陸部5、5、及び、ショルダー主溝3とセンター主溝4との間のミドル陸部6、6が形成されている。
【0023】
本実施形態のミドル陸部6のタイヤ軸方向の幅W3は、例えば、トレッド接地幅TWの13.0〜20.0%に設定される。
【0024】
ショルダー陸部5のタイヤ軸方向の幅W4は、例えば、トレッド接地幅TWの22.0〜28.0%に設定される。
【0025】
ショルダー横溝10は、ショルダー主溝3からタイヤ周方向の一方側に傾斜して少なくともトレッド接地端Teまでのびる。このようなショルダー横溝10は、ウェット走行時、トレッド部2と路面との間の水膜を効果的にタイヤ軸方向外側に排出し、タイヤのウェット性能を向上させる。
【0026】
図1に示されるように、本実施形態では、タイヤ赤道Cの左側のショルダー陸部5Lに配されたショルダー横溝10Lは、ショルダー主溝3から図1の上方に傾斜してトレッド接地端Teまでのびる。また、タイヤ赤道Cの右側のショルダー陸部5Rに配されたショルダー横溝10Rは、ショルダー主溝3から図1の下方に傾斜してトレッド接地端Teまでのびる。
【0027】
各ショルダー横溝10の一対の溝縁11は、前記一方側の溝縁12と、他方側の溝縁13とを含む。なお、前記「一方側」とは、ショルダー横溝10のタイヤ周方向の傾斜方向と同じ側を意味する。即ち、図1では、左側のショルダー陸部5Lに配されたショルダー横溝10Lは、上側の溝縁11が一方側の溝縁12であり、下側の溝縁11が他方側の溝縁13である。同様に、右側のショルダー陸部5Rに配されたショルダー横溝10Rは、下側の溝縁11が一方側の溝縁12であり、上側の溝縁11が他方側の溝縁13である。このように、一方側、他方側は、夫々、タイヤ赤道Cの各側で判断される。
【0028】
図2に示されるように、ショルダー横溝10は、一方側の溝縁12からタイヤ半径方向内方にのびる一方側の溝壁面14と、他方側の溝縁13からタイヤ半径方向内方にのびる他方側の溝壁面15とを含む。これらの溝壁面14、15は、直線状であり、小円弧を介して溝底に連なっている。
【0029】
さらに、ショルダー横溝10は、一方側の溝縁12を通りトレッド踏面2sと直角なトレッド法線7aに対する一方側の溝壁面14の傾斜角度βは、他方側の溝縁13を通りトレッド踏面2sと直角なトレッド法線7bに対する他方側の溝壁面15の傾斜角度αよりも大きい部分を含む。
【0030】
従来、トレッド部に、タイヤ軸方向に対して傾斜してのびる横溝が設けられると、そのタイヤ周方向の一方側の陸部と他方側の陸部とでパターン剛性差が生じ、偏摩耗が生じ易い。本発明のショルダー横溝10は、溝壁面14、15の傾斜角度を規定することにより、該パターン剛性差を緩和し、陸部の偏摩耗、とりわけヒールアンドトゥ摩耗を効果的に抑制する。
【0031】
上述の効果をより一層発揮させるために、傾斜角度の差β−αは、好ましくは、3°以上、より好ましくは8°以上であり、好ましくは15°以下、より好ましくは12°以下である。
【0032】
図3には、ショルダー陸部5の部分拡大図が示される。図3に示されるようにショルダー陸部5には、ショルダー横溝10とショルダーサイピング19とが、タイヤ周方向に交互に隔設される。
【0033】
ショルダー横溝10は、タイヤ軸方向外側に設けられる主部16と、該主部16のタイヤ軸方向内側に設けられる副部17と、主部16と副部17との間を継ぐ接続部18とを含む。
【0034】
主部16は、一定の溝幅W5でタイヤ軸方向にのびる。主部16の溝幅W5は、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは4.0mm以上であり、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは6.0mm以下である。このような主部16は、ショルダー横溝10の排水性を向上させる。
【0035】
副部17は、主部16よりも小さい一定の溝幅W6を有する。副部17の溝幅W6は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、また好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下である。このような副部17は、ショルダー陸部5のパターン剛性の低下を最小限に抑え、ショルダー陸部5の偏摩耗を抑制し、かつ、タイヤ1の操縦安定性を向上させる。
【0036】
副部17は、ショルダー主溝3に対して傾斜しているのが望ましい。また、副部17とショルダー主溝3とのなす角度θ1は、好ましくは60°以上、より好ましくは65°以上であり、好ましくは80°以下、より好ましくは75°以下である。このような副部17は、ショルダー横溝10の排水性を維持しつつ、副部17のタイヤ周方向両側の陸部5a、5aの偏摩耗を抑制する。
【0037】
副部17は、主部16の溝中心線16cを滑らかに延長した仮想延長線16eよりも他方側に設けられているのが望ましい。これにより、ショルダー横溝10の一方側の陸部のパターン剛性の低下が抑制され、ひいては偏摩耗が抑制される。
【0038】
図4に示されるように、副部17は、一方側の溝壁面14の傾斜角度βと、他方側の溝壁面15の傾斜角度αとが等しいのが望ましい。このような副部17は、ショルダー横溝10の排水性を維持しつつ、ショルダー陸部5の内縁5i(図3に示す)の剛性を高め、タイヤ1の操縦安定性を向上させる。
【0039】
図3に示されるように、接続部18は、主部16と副部17との間を継ぎかつタイヤ軸方向内側に向かって溝幅が漸減する。このような接続部18は、主部16及び副部17によるタイヤ軸方向の剛性の段差を小さくし、ひいてはショルダー陸部5の偏摩耗を抑制する。
【0040】
ショルダーサイピング19は、例えば、0.3〜1.0mmの溝幅でタイヤ軸方向にのびるのが望ましい。また、本実施形態のショルダーサイピング19は、前記一方側に凸となる緩やかな円弧でタイヤ軸方向にのびる。また、ショルダーサイピング19のタイヤ軸方向の内端19iは、ショルダー横溝10の接続部18よりもタイヤ軸方向内側に位置している。さらに、ショルダーサイピング19のタイヤ軸方向の外端19oは、トレッド接地端Teよりもタイヤ軸方向内側である。このようなショルダーサイピング19は、タイヤ1のウェット性能を向上させつつ、ショルダー陸部5の剛性の低下を抑え、ひいては偏摩耗を抑制する。
【0041】
図5には、ミドル陸部6の部分拡大図が示される。図5に示されるように、ミドル陸部6には、ミドル横溝20とミドルサイピング21とが、タイヤ周方向に交互に隔設される。
【0042】
本実施形態のミドル横溝20は、ショルダー主溝3からタイヤ周方向の前記一方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのびる。なお、前記「一方側」とは、ショルダー横溝10のタイヤ周方向の傾斜方向と同じ側を意味する。即ち、図1で示されるように、タイヤ赤道Cの左側のミドル陸部6Lに配されたミドル横溝20Lは、ショルダー主溝3から上方に傾斜してタイヤ軸方向内側にのびる。また、タイヤ赤道Cの右側のミドル陸部6Rに配されたミドル横溝20Rは、ショルダー主溝3から下方に傾斜してタイヤ軸方向内側にのびる。
【0043】
ミドル横溝20の傾斜方向は、本実施形態に限定されるものでは無い。図9に示されるように、ミドル横溝20は、ショルダー主溝3からタイヤ周方向の他方側に傾斜してタイヤ軸方向内側にのびても良い。
【0044】
図5に示されるように、ミドル横溝20の一対の溝縁22は、前記一方側の溝縁23と、他方側の溝縁24とを含む。本実施形態では、図1に示されるように、タイヤ赤道Cの左側のミドル陸部6Lに配されたミドル横溝20Lは、上側の溝縁が一方側の溝縁23であり、下側の溝縁が他方側の溝縁24である。また、右側のミドル陸部6Rに配されたミドル横溝20は、下側の溝縁が一方側の溝縁23であり、上側の溝縁が他方側の溝縁24である。
【0045】
図6に示されるように、ミドル横溝20は、一方側の溝縁23からタイヤ半径方向内方にのびる一方側の溝壁面25と、他方側の溝縁24からタイヤ半径方向内方にのびる他方側の溝壁面26とを含む。
【0046】
さらに、ミドル横溝20は、一方側の溝縁23を通りトレッド踏面2sと直角なトレッド法線7cに対する一方側の溝壁面25の傾斜角度δは、他方側の溝縁24を通りトレッド踏面2sと直角なトレッド法線7dに対する他方側の溝壁面26の傾斜角度γよりも大きい部分を含む。
【0047】
このようなミドル横溝20は、溝のタイヤ軸方向に対する傾斜により生じるパターン剛性差を、溝壁面25、26の傾斜角度を規定することにより緩和し、陸部の偏摩耗、とりわけヒールアンドトゥ摩耗を効果的に抑制する。
【0048】
上述の効果をより一層発揮させるために、傾斜角度の差δ−γは、好ましくは、2°以上、より好ましくは4°以上であり、好ましくは10°以下、より好ましくは8°以下である。
【0049】
従来、ミドル陸部よりもショルダー陸部の方が、ヒールアンドトゥ摩耗が発生し易い。このため、図1図2及び図6に示されるように、ショルダー横溝10の溝壁面14、15の傾斜角度の差β−αは、ミドル横溝20の溝壁面25、26の傾斜角度の差δ−γよりも大きいのが望ましい。このようなショルダー横溝10及びミドル横溝20は、ショルダー陸部5とミドル陸部6とのパターン剛性を均一にし、ヒールアンドトゥ摩耗を効果的に抑制する。
【0050】
図5に示されるように、ミドル横溝20は、ショルダー主溝3に連通してのびる幅広部27と、該幅広部27に連なり、かつ、幅広部27よりも小さい溝幅でセンター主溝4に連なる幅狭部28とを含む。
【0051】
幅広部27は、タイヤ軸方向内側から外側に向かって溝幅W7が漸増している。これにより、ミドル横溝20を通る排水量が効果的に増加し、ウェット性能が向上する。また、本実施形態の幅広部27は、ショルダー主溝3との連通部27jで、前記他方側の溝縁24を、溝幅W7が拡大する方向に湾曲させている。このような幅広部27は、ミドル横溝20の排水性をさらに向上させる。
【0052】
幅広部27の溝幅W7は、小さい場合、ウェット性能が低下するおそれがあり、大きい場合、ミドル陸部6に偏摩耗が生じるおそれがある。このため、幅広部27の溝幅W7は、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは4.0mm以上であり、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは6.0mm以下である。
【0053】
幅広部27とショルダー主溝3との角度θ2は、好ましくは50°以上、より好ましくは55°以上であり、好ましくは70°以下、より好ましくは65°以下である。このような幅広部27は、ミドル陸部6の偏摩耗の発生を抑制しつつ、排水性を向上しうる。
【0054】
幅狭部28は、幅広部27よりも小さい一定の溝幅W8で直線状にのび、センター主溝4に連通する。幅狭部28の溝幅W8は、例えば、0.3〜1.0mmに形成されるのが望ましい。このような幅狭部28は、ミドル陸部6の剛性を確保し、操縦安定性を向上させる。
【0055】
幅狭部28は、幅広部27の溝中心線27cを滑らかに延長した仮想延長線27eよりも一方側に設けられているのが望ましい。これにより、ミドル横溝20の一方側の陸部のパターン剛性の低下が抑制され、ひいては偏摩耗が抑制される。
【0056】
図7に示されるように、幅狭部28は、一方側の溝壁面25の傾斜角度δと、他方側の溝壁面26の傾斜角度γとが等しいのが望ましい。このような幅狭部28は、ミドル横溝20の排水性を維持しつつ、ミドル陸部6の内縁6iの剛性を高め、タイヤ1の操縦安定性を向上させる。
【0057】
図8に示されるように、ミドル横溝20のタイヤ軸方向の外端部20oには、溝底面20dが隆起したタイバー29が設けられるのが望ましい。このようなタイバー29は、ミドル横溝20によるトレッド部2のパターン剛性の低下を効果的に抑制する。
【0058】
タイバー29は、その大きさにより、パターン剛性及びミドル横溝20の排水性に影響を与える。即ち、ミドル横溝20の最大溝深さd1からタイバー29の位置での溝深さd2を引いたタイバー高さh1が小さい場合、パターン剛性が低下するおそれがあり、大きい場合、ミドル横溝20の排水性が低下するおそれがある。このため、タイバー高さh1は、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは、2.0mm以上であり、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは2.5mm以下である。
【0059】
同様の観点から、図5に示されるように、タイバー29のタイヤ軸方向の幅W9は、ミドル陸部6のタイヤ軸方向の幅W3の好ましくは0.10倍以上、より好ましくは0.20倍以上に設定され、また好ましくは、0.40倍以下、より好ましくは0.30倍以下に設定される。
【0060】
さらに、タイバー29には、ミドル横溝20に沿ってのびる横サイピング30が設けられるのが望ましい。このような横サイピング30は、ウェット性能を向上させ、かつ、走行時のミドル横溝20のポンピング音を抑制する。
【0061】
本実施形態のミドルサイピング21は、例えば、ショルダー主溝3に連通し、0.3〜1.0mmの溝幅でタイヤ軸方向にのびるのが望ましい。また、ミドルサイピング21は、他方側に凸となる緩やかな円弧でタイヤ軸方向にのびる。さらに、ミドルサイピング21のタイヤ軸方向の内端21iは、ミドル横溝20の幅広部27のタイヤ軸方向の内端27iよりもタイヤ軸方向外側である。このようなミドルサイピング21は、ミドル陸部6の剛性の分布を適正化し、ひいてはミドル陸部6の偏摩耗を抑制する。
【0062】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0063】
図1又は図9のトレッドパターンを有する乗用車用ラジアルタイヤ(195/65R15)が試作された。また、各試供タイヤについて、以下の条件で走行後のショルダー陸部のヒールアンドトゥ摩耗量が測定された。ヒールアンドトゥ摩耗量は、ショルダー横溝の一方側及び他方側の溝縁での陸部の摩耗量の差を意味する。結果は、比較例1を100と指数であり、数値が小さい程、ヒールアンドトゥ摩耗量が小さく良好であることを示す。
装着リム:15×6JJ
内圧:230kPa
テスト車両:国産FF乗用車、排気量1800cc
タイヤ装着位置:後輪
走行距離:20000km
テストの結果が表1に示される。
【0064】
【表1】
【0065】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例に比べ、ヒールアンドトゥ摩耗量が有意に減少しているのが確認できる。
【符号の説明】
【0066】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 ショルダー主溝
5 ショルダー陸部
7 トレッド法線
10 ショルダー横溝
12 一方側の溝縁
13 他方側の溝縁
14 一方側の溝壁面
15 他方側の溝壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9