(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.電池外装用積層体
本発明の積層体は、リチウムイオン電池などの様々な電池の外装に用いられうる電池外装用積層体であって、1)金属板と、2)前記金属板の上に配置された酸変性ポリプロピレン層と、3)前記酸変性ポリプロピレン層の上に配置されたポリプロピレン層と、を有する。
【0019】
以下、本発明の電池外装用積層体の各要素について説明する。
【0020】
1)金属板
金属板の種類は、特に限定されず、電池外装材に要求される重量や強度、加工深さなどに応じて適宜選択することができる。金属板の材料の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系のいずれであってもよい。)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などが含まれる。金属板は、耐食性の観点から、各種めっき鋼板またはステンレス鋼板であることが好ましい。
【0021】
金属板の厚みは、特に限定されず、電池外装材に要求される重量や強度、加工深さなどに応じて適宜設定することができる。金属板の厚みは、15〜600μmの範囲内が好ましく、一般的に求められる電池外装材の強度および加工深さを考慮すると、20〜400μmの範囲内であることが特に好ましい。電池外装材として使用する金属板の板厚は、電池を軽量化する観点からは薄いほうが好ましい。しかしながら、金属板の板厚を15μm未満まで薄くすると、電池外装用積層体の強度および加工性が低下すると共に製造コストが上昇してしまう。一方、板厚が600μmもあれば、50mm程度の深絞り加工を行う場合であっても十分である。
【0022】
金属板は、耐食性および酸変性ポリプロプピレン層との密着性を向上させる観点から、その表面に化成処理皮膜を形成されていてもよい。
【0023】
化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理(クロム酸系)、クロムフリー処理(シラン系、有機チタン系、有機アルミ系など)、リン酸塩処理(リン酸クロム、リン酸亜鉛など)が含まれる。化成処理によって形成される化成処理皮膜の付着量は、耐食性および酸変性ポリプロプピレン層との密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。
【0024】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法により金属板の表面に化成処理液を塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0025】
2)酸変性ポリプロピレン層
酸変性ポリプロピレン層は、金属板とポリプロピレン層との間に位置して、金属板とポリプロピレン層との密着性を向上させる。
【0026】
酸変性ポリプロピレンの種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。酸変性ポリプロピレンの例には、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはその無水物でグラフト変性したポリプロピレンや、プロピレンとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合体などが含まれる。これらの中では、耐熱性の観点から、酸変性ポリプロピレンは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレンが好ましい。
【0027】
酸変性ポリプロピレン層の厚みは、特に限定されないが、10〜100μmの範囲内が好ましい。酸変性ポリプロピレン層の厚みが10μm未満の場合、金属板との密着性を十分に確保できないおそれがある。一方、酸変性ポリプロピレン層の厚みを100μm超としても、密着性の向上は認められず、製造コストが高くなる。また、電池外装用積層体の加工性が低下するおそれもある。
【0028】
3)ポリプロピレン層
ポリプロピレン層は、電池内部を外気から遮断して、電池を密封する機能を担う。すなわち、本発明の積層体を用いて電池を製造する際に、一方の積層体のポリプロピレン層を他方の積層体のポリプロピレン層または金属製電極と熱融着することにより、電池内部を外気(特に水蒸気)から遮断するとともに、電解液の液漏れを防止する。また、ポリプロピレン層は、電解液に対する金属板の耐腐食性を向上させる機能も担っている。
【0029】
ポリプロピレンの種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。ポリプロピレンの例には、単独重合ポリプロピレンが含まれる。ポリプロピレン層の厚みは、特に限定されないが、10〜100μmの範囲内が好ましい。ポリプロピレン層の厚みが10μm未満の場合、電池を製造する場合に、十分な強度で熱融着させることができないおそれがある。一方、ポリプロピレン層の厚みを100μm超としても、熱融着の強度の向上は認められず、製造コストが高くなる。また、電池外装用積層体の加工性が低下するおそれもある。
【0030】
本発明の電池外装用積層体は、ポリプロピレン層中に大きな球晶をほとんど含まないことを特徴とする。より具体的には、本発明の電池外装用積層体は、電子線によりポリプロピレン層の非晶質部を選択的にエッチングした後に、ポリプロピレン層表面を走査型電子顕微鏡で観察した場合において、露出している球晶の外径が1μm未満であることを特徴とする。たとえば、低真空SEMを用いて、金属を蒸着していない本発明の電池外装用積層体を30Paの圧力中において、加速電圧10kV、プローブ電流90eVにて5分間スキャンすることにより、ポリプロピレン層の非晶質部を選択的にエッチングすることができる。この後、エッチングされたポリプロピレン層の表面を倍率500倍で観察することで、結晶部を明瞭に観察することができる。このようにしてポリプロピレン層中の球晶の外径を測定した場合、本発明の電池外装用積層体では、球晶の外径は1μm未満である(実施例参照)。
【0031】
特許文献1および2に記載の積層体では、ポリプロピレン層の結晶化度を低減させることにより、成形加工時における大きなクラックの発生を抑制していた。また、これらの積層体の結晶化度は、X線回折により測定されていた(特許文献1参照)。しかしながら、本発明者らは、X線回折により測定される結晶化度が測定下限値未満の場合であっても、成形加工時に微細なクラックが生じることを見出した。本発明者らは、微細なクラックが生じる原因を追及すべく鋭意研究を重ねた結果、1)X線回折により測定される結晶化度が測定下限値未満の場合であっても、ポリプロピレン層中に球晶が存在しうること、および2)ポリプロピレン層中に所定径以上の大きさの球晶が存在する場合、成形加工時に球晶間に微細なクラックが発生することを解明した。
【0032】
そして、本発明者らは、ポリプロピレン層中における球晶の発生および成長を抑制すれば、成形加工後に大きなクラックのみならず、微細なクラックも発生しないという結論に至った。より具体的には、本発明者らは、ポリプロピレン層中の球晶の外径が1μm未満であれば、加工後に微細なクラックが生じないことを見出した。
【0033】
以上のように、本発明の電池外装用積層体は、ポリプロピレン層中の結晶化度が非常に低く、かつポリプロピレン層中における球晶の外径が1μm未満であるため、成形加工時に大きなクラックのみならず微細なクラックも生じることがない。したがって、本発明の電池外装用積層体を使用することで、耐電解液性に優れた電池の外装(電池ケース)を作製することができる。
【0034】
本発明の電池外装用積層体の製造方法は、特に限定されない。たとえば、本発明の電池外装用積層体は、以下の手順により製造されうる。
【0035】
2.電池外装用積層体の製造方法
本発明の電池外装用積層体の製造方法は、1)金属板を準備する第1の工程と、2)酸変性ポリプロピレン層を積層する第2の工程と、3)ポリプロピレン層を積層する第3の工程と、4)積層体を加熱する第4の工程と、5)ポリプロピレン層を冷却する第5の工程と、を有する。
【0036】
1)第1の工程
第1の工程では、基材となる前述の金属板を準備する。前述の通り、金属板の表面には化成処理皮膜を形成してもよい。
【0037】
2)第2の工程
第2の工程では、酸変性ポリプロピレン層を金属板の上に積層する。
【0038】
金属板の上に酸変性ポリプロピレン層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、金属板の上に酸変性ポリプロピレンフィルムを積層してもよいし(積層法)、金属板の上に酸変性ポリプロピレン樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。積層法の例には、熱ラミネーション法、サンドラミネーション法などが含まれる。また、酸変性ポリプロピレンフィルムは、市販のものを使用してもよいし、Tダイ押し出し機などを用いて作製してもよい。また、酸変性ポリプロピレンフィルムは、未延伸のものでもよいし、一軸または二軸延伸されたものでもよい。一方、塗布法の例には、樹脂組成物を溶融してTダイ押し出し機やバーコーター、ロールコーターなどで塗布する方法、溶融した樹脂組成物に金属板を浸漬する方法、樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコーターやロールコーター、スピンコーターなどで塗布する方法などが含まれる。
【0039】
3)第3の工程
第3の工程では、ポリプロピレン層を酸変性ポリプロピレン層の上に積層する。
【0040】
酸変性ポリプロピレン層の上にポリプロピレン層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、酸変性ポリプロピレン層の上にポリプロピレンフィルムを積層してもよいし(積層法)、酸変性ポリプロピレン層の上にポリプロピレン樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。ポリプロピレンフィルムは、市販のものを使用してもよいし、Tダイ押し出し機などを用いて作製してもよい。また、ポリプロピレンフィルムは、未延伸のものでもよいし、一軸または二軸延伸されたものでもよい。一方、塗布法の例には、樹脂組成物を溶融してTダイ押し出し機やバーコーター、ロールコーターなどで塗布する方法、溶融した樹脂組成物に酸変性ポリプロピレン層を形成した金属板を浸漬する方法、樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコーターやロールコーター、スピンコーターなどで塗布する方法などが含まれる。
【0041】
第3の工程は、第2の工程の後に行ってもよいが、第2の工程と同時に行ってもよい。すなわち、金属板の上に酸変性ポリプロピレン層を配置した後に、配置した酸変性ポリプロピレン層の上にポリプロピレン層を配置してもよい。また、金属板の上に酸変性ポリプロピレン層およびポリプロピレン層を同時に配置してもよい。
【0042】
4)第4の工程
第4の工程では、第1の工程から第3の工程により得られた積層体を、ポリプロピレン層を構成するポリプロピレン(および酸変性ポリプロピレン)の融点以上に加熱する。これにより、積層体の各層間の密着性を向上させることができる。
【0043】
積層体を加熱する方法は、特に限定されない。積層体を加熱する方法の例には、積層体をオーブンに入れる方法などが含まれる。また、積層体を加熱する温度は、ポリプロピレンおよび酸変性ポリプロピレンの融点以上であれば、特に限定されない。たとえば、加熱する温度は、165〜190℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が165℃未満である場合、ポリプロピレンおよび酸変性ポリプロピレンが十分に溶融せず、各層間の密着性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、加熱温度が190℃超の場合、ポリプロピレンおよび酸変性ポリプロピレンが熱分解してしまうおそれがある。
【0044】
5)第5の工程
第5の工程では、第4の工程で加熱されたポリプロピレン層を、100℃/秒以上の速度で、120℃以上の温度から20℃以下の温度に冷却(急冷)する。通常、第5の工程では、ポリプロピレン層だけでなく、第4の工程で加熱された積層体全体を、100℃/秒以上の速度で、120℃以上の温度から20℃以下の温度に冷却する。これにより、ポリプロピレン層中に所定径以上の大きさの球晶をほとんど発生させずに、加熱された積層体を冷却することができる。
【0045】
積層体を冷却する方法は、特に限定されない。積層体を冷却する方法の例には、積層体を水没する方法、冷却ガスを吹き付ける方法、冷却水をスプレーする方法、チルロールと接触させる方法などが含まれる。
【0046】
冷却開始温度は、120℃以上であれば特に限定されないが、120〜190℃の範囲内が好ましい。冷却開始温度が120℃未満の温度の場合、ポリプロピレン層中に結晶が発生してしまう。一方、190℃超の温度から急冷した場合、金属板に熱収縮による冷却歪が発生し、ポリプロピレン層表面の平坦度が著しく劣るおそれがある。また、最表面のポリプロピレン層が酸化して、電池外装用積層体同士の熱融着の強度が低下するおそれがある。
【0047】
冷却開始温度から冷却終了温度までの冷却速度は、100℃/秒以上であれば特に限定されない。冷却速度を100℃/秒以上とすることで、ポリプロピレン層中の結晶化を抑制することができる。
【0048】
本発明の製造方法は、冷却終了温度が20℃以下であることを特徴とする。一般的には、ポリプロピレン層中の結晶化は、ポリプロピレンの融点以下にポリプロピレン層を冷却すれば進行しないと考えられている。しかしながら、実際には、ポリプロピレン層全体が熱平衡に達するまで時間を要することから、ポリプロピレンの融点以下にポリプロピレン層を冷却しても、ポリプロピレン層中に微細な結晶が発生することがある。冷却終了温度を20℃以下とすることで、ポリプロピレン層中における球晶の発生および成長を抑制することができ、その結果ポリプロピレン層中における球晶の外径を1μm未満とすることができる(実施例1参照)。
【0049】
従来は、加熱した積層体を55℃(好ましくは30℃)以下(特許文献1参照)、または室温(特許文献2参照)にまで冷却していた。本発明者らは、前述したように、ポリプロピレン層の結晶化度がX線回折による測定下限値未満であっても、成形加工時に微細なクラックが発生しうることを見出した。また、本発明者らは、発生した球晶の外径が1μm未満であれば、成形加工後に大きなクラックだけでなく微細なクラックも生じないことを見出した。すなわち、従来、結晶化は、ポリプロピレン層の融点以下である55℃(好ましくは30℃)、または室温まで冷却すれば進行しないと考えられていた。しかしながら、実際には、ポリプロピレン層全体が完全に熱平衡に達するまで時間を要するために、X線回折では測定できない微細な球晶が成長すると考えられる。そして、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、冷却開始温度を120℃以上、冷却速度を100℃/秒以上とし、かつ冷却終了温度を20℃以下とすれば、球晶の外径が1μm未満になることを突き止めた。
【0050】
図1は、積層体(ポリプロピレン層)を、到達板温180℃の加熱処理後にオーブンから取り出し、室温である25℃まで6℃/秒の速度で徐冷したときの結果である。
図1Aは、ポリプロピレン層のX線回折の結果を示すグラフである。
図1Bは、積層体を成形加工する前のポリプロピレン層表面(エッチング後)のSEM画像である。
図1Cは、積層体を薄板成形試験機により8mmの深さに張出し成形加工した後のポリプロピレン層表面のマイクロスコープによる写真である。
【0051】
図1Aに示されるように、積層体を徐冷したときのポリプロピレン層のX線回折スペクトル中には、α晶の結晶化ピーク(2θ=14,17)が観察された。また、
図1Bに示されるように、ポリプロピレン層中には、大きな球晶(外径20μm以上)が確認された。さらに、
図1Cに示されるように、成形加工後のポリプロピレン層中には、大きなクラックが多数発生していた。
【0052】
図2は、積層体(ポリプロピレン層)を、100℃/秒以上の速度で、160℃の温度から30℃の温度に冷却(急冷)したときの結果である。
図2Aは、ポリプロピレン層のX線回折の結果を示すグラフである。
図2Bは、積層体を成形加工する前のポリプロピレン層表面(エッチング後)のSEM画像である。
図2Cは、積層体を成形加工した後のポリプロピレン層表面のマイクロスコープによる写真である。
【0053】
図2Aに示されるように、積層体を30℃の温度まで急冷したときのポリプロピレン層のX線回折スペクトル中には、α晶の結晶化ピークは観察されなかった。しかしながら、
図2Bに示されるように、ポリプロピレン層中には、微細な球晶(外径1μm以上)が確認された。また、
図2Cに示されるように、成形加工後のポリプロピレン層中には、微細なクラックが多数発生していた。
【0054】
図3は、積層体(ポリプロピレン層)を、100℃/秒以上の速度で、160℃の温度から20℃の温度に冷却(急冷)したときの結果である。
図3Aは、ポリプロピレン層のX線回折の結果を示すグラフである。
図3Bは、積層体を成形加工する前のポリプロピレン層表面(エッチング後)のSEM画像である。
図3Cは、積層体を成形加工した後のポリプロピレン層表面のマイクロスコープによる写真である。
【0055】
図3Aに示されるように、積層体を20℃の温度まで急冷したときのポリプロピレン層のX線回折スペクトル中には、α晶の結晶化ピークが観察されなかった。また、
図3Bに示されるように、ポリプロピレン層中には、微細な球晶も確認されなかった。さらに、
図3Cに示されるように、成形加工後のポリプロピレン層中には、微細なクラックも確認されなかった。
【0056】
第5の工程において、冷却速度を100℃/秒以上とし、かつ冷却終了温度を20℃以下とすることで、球晶の外径を1μm未満にできるメカニズムは、特に限定されないが、以下のように推察される。
【0057】
第5の工程において、ポリプロピレン層は、球晶の基となる核の生成と溶解を繰り返しながら冷却される。本発明のように、100℃/秒以上の速度で20℃以下まで急速に冷却すると、多数の微細な核が生成され、凍結固定される。このようにポリプロピレン層中に多数の微細な核が生成した場合、それぞれの核は、隣接する核により成長が妨げられるため、SEMにより観察することができる程度(外径が1μm以上)まで成長することができない。一方、100℃/秒の速度で30℃程度までしか冷却しなかった場合は、20℃以下まで冷却した場合と比較して、ポリプロピレン層中に生成される核の数が少数であり、熱平衡に達して凍結固定するまで核が球晶に成長する時間があると考えられる。よって、それぞれの核は、SEMにより観察することができる程度まで成長する。
【0058】
以上のように、本発明の電池外装用積層体の製造方法は、ポリプロピレン層中に外径が1μm以上の球晶を発生させることなく、ポリプロピレン層が結晶化していない、本発明の電池外装用積層体を製造することができる。
【0059】
3.二次電池
本発明の積層体は、二次電池の外装材(ケース)として好適に使用されうる。二次電池の形状は、特に限定されず、例えば直方体の角筒形状や円筒形状などである。二次電池の種類も、特に限定されず、例えばニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池、リチウムイオン電池などである。
【0060】
本発明の積層体を二次電池のケースとして使用する際には、本発明の積層体同士を貼り合わせて密閉することが好ましい。このとき、成形加工された積層体同士を貼り合わせてもよいし、一方の積層体のみが成形加工されていてもよい。本発明の積層体を成形加工する方法は、特に限定されず、プレス加工や扱き加工、絞り加工などの公知の方法から適宜選択することができる。本発明の積層体を貼り合わせる方法としては、本発明の積層体同士を合わせて、熱融着で接着する方法が好ましい。
【0061】
本発明の積層体を用いて二次電池を製造するには、本発明の積層体を成形加工して得られるケースに、正極や負極、セパレーターなどの電池素子、電解液などの電池内容部を収容し、熱融着により接着すればよい。
【0062】
以上のように、本発明の二次電池は、大きなクラックだけではなく微細なクラックも発生していない電池ケース(積層体)を使用しているため、耐電解液性に優れている。
【0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
実施例1では、冷却終了温度とポリプロピレン層中における球晶の発生との関係について調べた結果を示す。
【0065】
1.電池外装用積層体の作製
ステンレス鋼板(SUS304:厚さ0.1mm)の表面を脱脂洗浄した後、乾燥させ、市販の塗布型リン酸クロメート処理液(ZMR1320;日本パーカライジング株式会社)を全Cr換算付着量が25mg/m
2となるようにロールコーターで塗布した。クロメート処理液を塗布した鋼板を到達板温120℃になるように10秒間加熱して、化成処理皮膜を形成した。
【0066】
次いで、化成処理されたステンレス鋼板の表面に、膜厚30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルム(QE−060;三井化学東セロ株式会社、融点139℃)および膜厚30μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CP−S;三井化学東セロ株式会社、融点163℃)を積層し、140℃に加熱した加熱ラミネートロールで加熱圧着した。その後、到達板温180℃になるように50秒間加熱して、ステンレス鋼板、酸変性ポリプロピレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムを熱溶着した。
【0067】
熱溶着後、冷却開始温度の160℃になるまで放冷した(冷却速度:6℃/秒)。次いで、ポリプロピレン層が、100℃/秒以上の冷却速度で、160℃から80℃、70℃、60℃、50℃、40℃、35℃、30℃、25℃、20℃または15℃になるまで、各積層体を所定の冷却終了温度に制御した水槽中の温水または冷水に水没させて冷却した。ポリプロピレン層の温度は、0.01秒間隔で測定可能なデータロガー(メモリハイロガー 8430;日置電機株式会社)を用いて測定した。各積層体は、化成処理されたステンレス鋼板の中央に熱電対をスポット溶接後、酸変性ポリプロピレンおよびポリプロピレンを積層して作製した。
【0068】
2.X線回折法による結晶化ピークの測定
各積層体について、X線回折装置(Rint Ultima III;株式会社リガク)を用いて、ポリプロピレン層の結晶化ピークを測定し、α晶の有無を確認した。X線回折装置の測定条件は、銅管球を使用し、定格管電圧−管電流は20〜60kV−2〜60mAとし、測定範囲は5°≦2θ≦35°とした。
【0069】
3.低真空SEMによる球晶の外径の測定
低真空SEM(S−3700N;株式会社日立ハイテクフィールディング)を用いて、30Paの圧力中において、加速電圧10kV、プローブ電流90eVにて5分間スキャンすることにより、各積層体(金属未蒸着)のポリプロピレン層の非晶質部を選択的にエッチングした。この後、各積層体について、エッチングされたポリプロピレン層の表面を倍率500倍で観察した。
【0070】
また、各積層体について、球晶が観察された場合は、球晶の平均外径を測定した。球晶の平均外径は、SEM画像の一視野内から無作為に選んだ10個の球晶の外径の平均値として算出した。
【0071】
4.成形加工後のクラックの評価
各積層体について、薄板成形試験機(1420−20型;ERICHSEN社)を用いて、ポリプロピレン層側にパンチを押し当てて深絞り加工を行い、凹部のコーナー部のポリプロピレン層におけるクラックの発生状況を観察した。深絞り加工の条件は、以下に示すとおりである。
ブランク :80mm角
ビード高さ :1.5mm
ビード幅 :3mm
張り出し高さ:8mm
張り出し速度:280mm/min
パンチ :40×40×Rc10
ダイ :42×42×Rc11
シワ押さえ :30kN
【0072】
5.評価結果
図4Aおよび
図4Bは、各積層体のポリプロピレン層のX線回折の結果を示すグラフである。
図4Aおよび
図4Bに示されるように、α晶の結晶化ピーク(2θ=14,17)は、冷却終了温度が35℃以上の場合に観察された(矢印)。
【0073】
図5および
図6は、各積層体のポリプロピレン層の加工前のSEM画像および加工後のマイクロスコープによる写真である。
図5および
図6に示されるように、冷却終了温度が35〜80℃の場合、SEM画像で球晶(外径1μm以上)を確認することができ、加工後にクラックが発生していた。また、冷却終了温度が30℃の場合、X線回折でα晶の結晶化ピークは観察されなかったが、SEM画像で球晶(外径1μm以上)を確認することができ、加工後にクラックが発生していた。冷却終了温度が25℃の場合、SEM画像で微細な球晶(外径1μm以上)を確認することができたが、加工後にクラックはほとんど発生していなかった。一方、冷却終了温度が20℃以下であった場合、SEM画像で球晶を観察することもできず、また、加工後にクラックも発生していなかった。
【0074】
図7は、冷却終了温度とポリプロピレン層中の球晶の平均外径を示したグラフである。図中のエラーバーの上端は測定した外径の最大値を示しており、下端は測定した外径の最小値を示している。
図7に示されるように、冷却終了温度が25℃以上であった場合には、外径が1μm以上の球晶が生じていた。また、冷却終了温度が高くなるほど、球晶の平均外径が大きくなった。一方、冷却終了温度が20℃以下であった場合、SEM画像において観察できるサイズの球晶は、生じていなかった。
【0075】
[実施例2]
実施例2では、冷却開始温度とポリプロピレン層中における球晶の発生の関係、ならびに本発明の電池外装用積層体の耐電解液性について調べた結果を示す。
【0076】
1.電池外装用積層体の作製
実施例1と同様に、ステンレス鋼板(SUS304:厚さ0.1mm)の表面を脱脂洗浄した後、乾燥させ、市販の塗布型リン酸クロメート処理液(ZMR1320;日本パーカライジング株式会社)を全Cr換算付着量が25mg/m
2となるようにロールコーターで塗布した。クロメート処理液を塗布した鋼板を到達板温120℃になるように10秒間加熱して、化成処理皮膜を形成した。
【0077】
次いで、化成処理されたステンレス鋼板の表面に、膜厚が30μmの無水マレイン酸変性ポリプロピレンフィルム(QE−060;三井化学東セロ株式会社)および膜厚が30μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CP−S;三井化学東セロ株式会社)を積層し、140℃に加熱した加熱ラミネートロールで加熱圧着した。その後、到達板温180℃になるように50秒間加熱して、ステンレス鋼板、酸変性ポリプロピレンフィルムおよびポリプロピレンフィルムを熱溶着した。
【0078】
熱溶着後、冷却開始温度(100〜180℃)まで放冷した(6℃/秒)。そして、表1に示した条件で各積層体を冷却した。冷却方法が水没の場合、各積層体を所定の冷却終了温度に制御した温水または冷水に水没せて冷却した。なお、冷却開始温度が180℃の場合、オーブンから取り出した直後に水没させて冷却した。冷却方法がスプレーガンの場合、冷却水の温度および吐出量を調整することにより、冷却速度を変化させた。ポリプロピレン層の温度は、実施例1と同様に測定した。
【0079】
【表1】
【0080】
2.走査型電子顕微鏡(SEM)による球晶の測定
実施例1と同様の手順で、ポリプロピレン層中の球晶の外径を測定した。
【0081】
3.加工後のクラックの評価
実施例1と同様の手順で、加工後の積層体においてポリプロピレン層中にクラックが発生しているかどうかを評価した。
【0082】
4.耐電解液性試験
実施例1と同様の手順で深絞り加工した各積層体を、密閉容器内に配置した。各積層体の凹部(ポリプロピレン層が形成されている)に、深さ5mmとなるように電解液を注ぎ、85℃の加熱炉内に28日間静置した。電解液は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの混合液(1:1)に6フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/Lとなるように添加して調製した。その後、各積層体の凹部の内側をエタノールで洗浄して、乾燥させた。
【0083】
次いで、セロハンテープを各積層体の凹部内側のコーナー部のポリプロピレン層表面に貼り付けた後、セロハンテープを剥がして、樹脂層(ポリプロピレン層および酸変性ポリプロピレン層)の密着状態を評価した。樹脂層の密着状態の評価は、セロハンテープの剥離後も樹脂層が剥離しなかったものを「○」とし、セロハンテープの剥離後に樹脂層が剥離したものを「△」とし、セロハンテープを貼り付ける前に樹脂層が剥離していたものを「×」とした。
【0084】
5.評価結果
各積層体の冷却条件と各評価試験の結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
図8Aは、No.10の積層体(比較例)のポリプロピレン層のSEM画像である。
図8Bは、No.11の積層体(比較例)のポリプロピレン層のSEM画像である。
図8Cは、No.14の積層体(比較例)のポリプロピレン層のSEM画像である。
【0087】
冷却終了温度が30℃であるNo.9の積層体(比較例)では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが確認されなかった(
図4Aの30℃参照)。しかし、SEM画像から平均粒径1μmの球晶が確認され(
図6の30℃を参照)、加工後に微細なクラックが生じていた。このため、No.9の積層体の耐電解液性は、わずかに不良であった。
【0088】
冷却速度が100℃/秒未満であるNo.10の積層体(比較例)およびNo.11の積層体(比較例)では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが確認された。また、SEM画像から平均粒径5μmおよび10μmの球晶が確認され(
図8AおよびB参照)、加工後に微細なクラックが生じていた。このため、No.10の積層体およびNo.11の積層体の耐電解液性は、わずかに不良であった。
【0089】
冷却開始温度が120℃未満(100℃)であるNo.12の積層体(比較例)では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが観察された。また、SEM画像から平均粒径2μmの球晶が確認され、加工後に微細なクラックが生じていた。このため、No.12の積層体の耐電解液性は、わずかに不良であった。
【0090】
冷却速度が83℃/秒であり、かつ冷却終了温度が80℃であるNo.13の積層体(比較例)では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが観察された。また、SEM画像から平均粒径20μmの球晶が確認され、加工後にクラックが生じていた。このため、No.13の積層体の耐電解液性は、不良であった。
【0091】
冷却速度が6℃/秒であるNo.14(比較例)の積層体では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが観察された。また、SEM画像から平均粒径35μmの球晶が確認され(
図8C参照)、加工後にクラックが生じていた。このため、No.14の積層体の耐電解液性は、不良であった。
【0092】
一方、No.1〜8の積層体(実施例)では、X線回折によるα晶の結晶化ピークが観察されず、SEM画像において球晶が確認されなかった。また、加工後にクラックも生じていなかった。このため、No.1〜8の積層体の耐電解液性は、良好であった。
【0093】
以上の結果から、本発明の電池外装用積層体は、成形加工後であっても、耐電解液性に優れていることがわかる。
【0094】
本出願は、2011年9月8日出願の特願2011−196095に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。