特許第5883383号(P5883383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5883383-押出性に優れた内面溝付管 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883383
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】押出性に優れた内面溝付管
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/40 20060101AFI20160301BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   F28F1/40 B
   F28F21/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-518394(P2012-518394)
(86)(22)【出願日】2011年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2011062455
(87)【国際公開番号】WO2011152384
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-125857(P2010-125857)
(32)【優先日】2010年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】若栗 聡史
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/131072(WO,A1)
【文献】 特開2010−096453(JP,A)
【文献】 特開2005−127570(JP,A)
【文献】 特開2001−289585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/40
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内表面に管の長手方向と並行に存在する突条型の複数のフィンを持つアルミニウム合金製の内面溝付管であって、
該内面溝付管の長手方向に直交する断面における該複数のフィンの形状および配置が該内面溝付管の円周方向で略均一であり、
該断面における内周縁の長さF(mm)と該断面における内周縁及び該複数のフィン頂部に接する円に囲まれた溝空間部の面積A(mm)との比が12≦F/A≦15の範囲内であり、
前記内面溝付管の内径が3mm〜10mmであり、
前記内面溝付管の主要部材が、Mn:1.0〜1.5質量%とCu:0.05〜0.25質量%とMg:0.025質量%以下とを含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなるアルミニウム合金で構成されており、
前記不可避不純物におけるTi、Cr、Zrの含有量の総量が0.2%以下である、内面溝付管。
【請求項2】
前記比が12≦F/A≦14の範囲内である、請求項1に記載の内面溝付管。
【請求項3】
前記管内表面の複数のフィン材料を押出加工又は引抜加工することで成形工程を含む、請求項1に記載の内面溝付管の製造方法
【請求項4】
前記フィンの高さが前記内径の10%以下である、請求項1に記載の内面溝付管。
【請求項5】
前記フィンの巾が0.2mm以上である、請求項1に記載の内面溝付管。
【請求項6】
請求項1に記載の内面溝付管を拡管する工程を含む、内面溝付管の製造方法
【請求項7】
アルミニウム合金製外部フィンに請求項6記載の製造方法により得られる内面溝付管を密着させる工程を含む、フィンアンドチューブ型の熱交換器の製造方法
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られる熱交換器を用いて、エアコンを製造する工程を含むエアコンの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製内面溝付管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートポンプエアコン等に用いられる熱交換器は省エネルギー、小型化の要求が高まってきており、熱交換器自体の小型化、高効率化が求められている。
【0003】
ヒートポンプエアコンに用いられる熱交換器としては、フィンアンドチューブ型の熱交換器が主に使用されている。このフィンアンドチューブ型の熱交換器は、予め伝熱管より径の大きい穴をあけたアルミ製のフィンに伝熱管を挿入し、伝熱管内に拡管プラグを通し、管を拡管させることによってアルミフィンと密着させることで成形される。そして、このフィンアンドチューブ型の熱交換器は、その伝熱管の管内にHFC等の冷媒を流してアルミ製のフィンの外部の空気と熱交換を行う。
【0004】
従来、フィンアンドチューブ型の熱交換器に用いられる伝熱管としては、高い熱伝導率を持つ銅合金が使用されてきたが、銅価格の高騰及び熱交換器自体の軽量化要求もあって、銅に変わってアルミニウム製の配管が用いられるようになってきている。
【0005】
熱交換器の配管として利用されている銅合金及びアルミニウム合金は、熱交換効率を高めるため内面にフィンの付いた内面溝付管が用いられている。内面溝形状としては既に様々なものが提案されているが、特に軸方向に対して一定の角度を持たせた螺旋管は熱交換効率に優れており、種々の溝形状が開発され、実用化されている(例えば特許文献1)。
【0006】
螺旋溝付管をアルミニウム合金で作製する方法として、押出加工又は引抜加工で管を成形後、特許文献2に示されるような転造加工で溝を成形するのが一般的である。
【0007】
一方で、内面溝が軸方向と平行であるストレート溝付管の場合、熱交換効率は螺旋溝付管と比較すると劣る場合もあるが、押出加工又は引抜加工のみで内面溝を付与することができ、コスト面では螺旋管に比較して優れているため、今後の適用拡大が期待される。
【0008】
ただし、従来から検討されてきたフィン形状としては、ほとんどが螺旋溝付管に関するものである。ストレート溝付管の溝形状としては、フィン組立て時にフィンが潰れないように高さの異なるフィンを持つ内面溝付管(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−260793号公報
【特許文献2】特開2001−241877号公報
【特許文献3】特開2001−289585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0011】
第一に、特許文献1および特許文献2に記載の螺旋溝付管では、押出後の素管にさらに別工程で加工を行うため、製造コストが高くなるという問題があった。また、アルミニウム合金の場合、銅合金と比較して冷間加工性が劣るため、転造加工速度を落とさなければならず、生産性の点で改善の余地を有していた。
【0012】
第二に、ストレート溝付管の溝形状としては、特許文献3のストレート溝付管以外では十分な検討がなされていない。さらに、ストレート溝付管においては、フィン形状によっては押出出来ないものもあり、押出性という観点が重要になってくるが、今までにフィン形状と押出性について検討された事例はない。
【0013】
このような状況の中で、本発明者は、押出性に優れ、かつ熱交換効率に優れたフィン形状を持つアルミニウム合金を用いた内面ストレート溝付管の開発の必要性に初めて気付くこととなった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のアルミニウム合金を用いた内面ストレート溝付管に比較して押出性及び熱交換効率に優れた最適なフィン形状を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、アルミニウム合金製内面ストレート溝付管の形状について様々な検討を重ねた結果、内面溝付管の長手方向に直交する断面における内周縁の長さと溝空間部の面積とをある一定の比率の範囲内にすることによって、押出性に優れ、かつ熱交換効率に優れた形状となることを見出すことができた。
【0016】
すなわち、本発明に係る内面溝付管は、管内表面に管の長手方向と並行に存在する突条型の複数のフィンを持つアルミニウム合金製の内面溝付管であって、該内面溝付管の長手方向に直交する断面における該複数のフィンの形状および配置が該内面溝付管の円周方向で略均一であり、該断面における内周縁の長さF(mm)と該断面における内周縁及び該複数のフィン頂部に接する円に囲まれた溝空間部の面積A(mm)との比が12≦F/A≦14の範囲内である、内面溝付管である。
【0017】
この構成によれば、内面溝付管の長手方向に直交する断面における内周縁の長さと溝空間部の面積とをある一定の比率の範囲内にすることによって、押出性に優れ、かつ熱交換効率に優れた内面溝付管を得ることができる。
【0018】
また、本発明に係る熱交換器は、アルミニウム合金製外部フィンと、該アルミニウム合金製外部フィンに密着してなる上記の内面溝付管を拡管してなる内面溝付管と、を備える、フィンアンドチューブ型の熱交換器である。
【0019】
この構成によれば、押出性に優れ、かつ熱交換効率に優れた内面溝付管を拡管してなる内面溝付管を用いているため、簡便な拡管工程によって、熱交換率に優れたフィンアンドチューブ型の熱交換器を精度よく効率的に生産することができる。
【0020】
また、本発明に係るエアコンは、上記の熱交換器を備えるエアコンである。
【0021】
この構成によれば、精度よく効率的に生産可能な熱交換率に優れたフィンアンドチューブ型の熱交換器を用いているため、熱交換率に優れたエアコンを精度よく効率的に生産することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、押出性に優れ、かつ伝熱管としての伝熱特性を十分に満足するフィン形状を有する伝熱管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る内面溝付管の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、本発明の実施形態において、A〜Bとは、A以上かつB以下を意味するものとする。
【0025】
<内面溝付管の構造>
図1は、実施形態に係る内面溝付管の断面である。この内面溝付管100は、管内表面に管の長手方向と並行に存在する突条型の複数のフィン102を持つアルミニウム合金製の内面溝付管100である。そして、該内面溝付管100の長手方向に直交する断面における該複数のフィン102の形状および配置が該内面溝付管100の円周方向で略均一である。また、該断面における内周縁の長さF(mm)と該断面における内周縁及び該複数のフィン102頂部に接する円に囲まれた溝空間部の面積A(mm)との比が12≦F/A≦14の範囲内である。
【0026】
ここで、この数値限定理由を述べる。内周縁の長さ(内周長)F(mm)および溝空間部の面積A(mm)は、所定の内径(溝底部に接する円の直径)D1が与えられた場合には、ともにフィン102の数、フィン102の高さ、フィン102の巾によって決まる数値である。フィン102の数が少ない場合、Fは小、Aは大となり、F/Aは小さくなる。フィン数が多くなると逆にF/Aは大きくなる。
【0027】
すなわち、フィン102の高さが大きい場合は圧力損失の増加を招くだけではなく、押出時にフィン102の欠落、欠損等の不具合が発生しやすくなる。さらに、熱交換器組立て時の拡管工程においてフィン102の折れが発生しやすくなるため、フィン102の高さは所定の高さ以下に制限されることが好ましい。
【0028】
そこで、10≦F/A≦15となるようにF、Aを与えることによって、押出性に優れ、かつ熱交換効率の高い内面溝付管を提供することが出来る。F/Aが10未満の場合、内周長に対して溝空間面積が大きい、すなわちフィン数が少ない状態であり、十分な熱交換効率を得ることが出来ない。そのため、F/Aが10以上であることが押出性または熱交換率の面から好ましく、11以上であることが同様の理由でより好ましく、12以上であることが同様の理由で最も好ましい。また、F/Aが15を超えるとフィン数が多い、すなわち管の重量が増えることになるため好ましくない。さらに、溝空間部面積が小さい場合、凝縮時に生成される液が十分に排出されず、熱交換効率が低下してしまう。そのため、F/Aが15以下であることが管重量の抑制または熱交換率の面から好ましく、14.5以下であることが同様の理由でより好ましく、14以下であることが同様の理由で最も好ましい。
【0029】
また、別の観点から検討すると、特にフィン102の高さの上限値が図1に示す内径D1の10%を超えると押出時のフィン102の欠落及び拡管工程時のフィン102の折れの発生する確率が高くなる。そのため、フィン102の高さは、内径D1の10%以下であることが圧力損失の抑制またはフィンの欠落・折れの抑制の面からは好ましく、7%以下であることが同様の理由でより好ましく、6%以下であることが同様の理由で最も好ましい。なお、フィン102の高さは、絶対値でいえば、1mm以下であることが圧力損失の抑制またはフィンの欠落・折れの抑制の面からは好ましく、0.7mm以下であることが同様の理由でより好ましく、0.5mm以下であることが同様の理由で最も好ましい。
【0030】
なお、内面溝付管100が相似形で拡大・縮小する場合には、内面溝付管100の内径(溝底部に接する円の直径)D1自体が2倍になれば、内周縁の長さ(内周長)F(mm)も同様に2倍になるが、溝空間部の面積A(mm)は4倍になる。そのため、12≦F/A≦14の数式が成り立つのは、通常の内径(溝底部に接する円の直径)D1の範囲内になる。その通常の内径(溝底部に接する円の直径)D1の範囲がどのような値になるのかは、当然のことながら技術常識で判断されるが、例えば、内面溝付管の内径が3mm以上であることが押出性の面から好ましく、4mm以上であればより好ましい。また、内面溝付管の内径が10mm以下であれば軽量化及び熱交換器の小型化の観点から好ましく、8mm以下であればより好ましい。
【0031】
なお、本実施形態において、フィン102の数、フィン102の巾等のフィン102の形状および配置に関する数値は、上記の関係式を満足するものであれば特に規定はしないが、フィン102の巾は0.2mm以下になると押出時にフィンの欠損する確率が著しく上昇するため、押出時にフィンの欠損する確率を抑制するためには0.2mm以上であることが望ましい。また、フィン102の巾は同様の理由で0.3mm以上であることが望ましく、0.4mm以上であることが最も望ましい。
【0032】
なお、上記の管内表面の複数のフィン102は、どのような製造工程で作成されたものであってもよいが、後述するアルミニウム合金製の材料を押出加工することで成形されたものであることが成形性およびコストの面から好ましい。
【0033】
特に、ストレート溝付管の管内表面の複数のフィン102は、内面溝が軸方向と平行であるため、押出加工のみで内面溝を付与することができる。よって、上記の管内表面の複数のフィン102は、押出加工することで成形されたものであることがコスト面では螺旋管に比較して優れているため好ましい。また、押出条件としては特に350〜550℃の熱間で押出加工したものであることが好ましい。つまり、ビレットと呼ばれるアルミニウム合金の塊を350〜550℃の熱間で、押出機を用いて強い圧力を加え、上記の複数のフィン102に対応する形をしたダイス穴から押出して、内面溝付管の円周方向で略均一な断面形状をもった複数のフィン102を精度および効率よく作ることが好ましい。
【0034】
<内面溝付管の材料>
本実施形態に係る内面溝付管100の主要部材は、特に限定するものではなく、アルミニウム合金製であればよい。ここで、「アルミニウム合金」とは、アルミニウムを主成分とする合金を意味するが、純度99.0質量%(以下、質量%を%と記す。)以上のいわゆる「純アルミニウム」を排除する趣旨ではない。すなわち、「アルミニウム合金」には、純アルミニウム(1000系)、Al−Cu系合金(2000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)、Al−Zn−Mg系合金(7000系)が含まれるものとする。もっとも、これらのアルミニウム合金の中でも、ヒートポンプの伝熱管として用いる場合には、純アルミニウムのもつ加工性、耐食性を低下させずに強度を高くしたAl−Mn系合金(3000系)を用いることが好ましい。
【0035】
アルミニウム合金の組成は、特に限定するものではないが、例えば、Mn:1.0〜1.5%とCu:0.05〜0.20%とMg:0.03%以下とを含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなることが好ましい。
【0036】
次にこのように成分を限定する理由について述べる。Mnは3000系合金において強度を向上させる主要な添加元素であり、アルミニウム中に固溶、一部は析出して強度を付与する効果をもつが、その添加量が1.0%より少ないと伝熱管としての強度が不十分となることがあり、1.5%より多いと押出加工時の押出圧力の増加を招きやすく、その結果、フィンの欠落、欠損等の不具合が発生しやすくなる。したがって、Mn添加量は1.0〜1.5%の範囲であることが伝熱管としての強度またはフィンの欠落、欠損等の不具合を抑制するためには好ましく、さらに1.0〜1.3%の範囲であることが同様の理由から好ましい。
【0037】
Cuはアルミニウム中に固溶して強度を付与する効果を持つが、Cu量が0.05%未満ではその効果が得られないことがあり、一方、0.25%を越えて添加した場合には、成形性を阻害しやすく、また耐食性も劣化しやすい。したがって、Cu添加量は0.05〜0.25%の範囲とすることが強度、成形性または耐食性の面からは好ましい。
【0038】
Mgはアルミニウム中に固溶してAl−Mn系合金の強度をさらに向上させる効果を有するが、一方でわずかでも含有されると押出時の著しい圧力の増加を招きやすく、成形性、生産性の低下の原因となる場合がある。そのため、Mg含有量は0.025%以下とすることが押出圧力の増加を抑制するためには好ましい。
【0039】
不可避的不純物としてはFe、Si、Znなどがあるが、これらはFeが0.7%以下、Siが0.6%以下、Znが0.1%以下であれば、上記の本実施形態の内面溝付管100の各種効果を阻害するものではないため好ましい。
【0040】
また、Ti、Cr、Zrは鋳塊組織を均一微細化する効果があるので含有しても良いが総量で0.2%を超えると巨大金属間化合物を形成したり押出性が低下したりするので、その含有量は総量で0.2%以下であることが好ましい。その他の不可避的不純物は各々0.05%以下であることが好ましく、総量で0.15%以下であることが好ましい。
【0041】
さらに本実施形態の内面溝付管100は、押出後、外面にZnを溶射等の方法で付着させた後、Zn拡散熱処理を施すことにより、Znの拡散した層を設けても良い。該Zn拡散層は、管材のZnが拡散していない部分よりも孔食電位が卑であるため犠牲防食作用によって管材を防食し、管材の耐食性を向上させることができる。
【0042】
<拡管済みの内面溝付管>
本実施形態に係る内面溝付管は、上記の拡管前の内面溝付管100を拡管してなる内面溝付管である。この拡管工程は、特に限定するものではないが、例えば、拡管前の内面溝付管100内に拡管プラグを通し、拡管前の内面溝付管100を拡管させる工程が簡便かつ精度がよいためよく用いられる。
【0043】
この拡管工程は、後述するフィンアンドチューブ型の熱交換器を製造する際に行われるのが通常である。すなわち、予め拡管前の内面溝付管100より径の大きい穴をあけたアルミニウム合金製のフィンに拡管前の内面溝付管100を挿入し、拡管前の内面溝付管100内に拡管プラグを通し、管を拡管させることによってアルミフィンと密着させることで、フィンアンドチューブ型の熱交換器を製造するために通常は行われる。
【0044】
<フィンアンドチューブ型の熱交換器およびエアコン>
本実施形態に係るフィンアンドチューブ型の熱交換器は、アルミニウム合金製外部フィンと、該アルミニウム合金製外部フィンに密着してなる上記の内面溝付管100と、を備える、フィンアンドチューブ型の熱交換器である。このフィンアンドチューブ型の熱交換器は、押出性に優れ、かつ熱交換効率に優れた内面溝付管を拡管してなる内面溝付管100を用いているため、面溝付管100の管内にHFC等の冷媒を流してアルミ製のフィンの外部の空気と熱交換を行う際の熱交換率に優れており、かつ簡便な拡管工程によってフィンアンドチューブ型の熱交換器を精度よく効率的に生産することができる。
【0045】
また、本実施形態に係るエアコンは、上記のフィンアンドチューブ型の熱交換器を備えるエアコンである。このエアコンは、精度よく効率的に生産可能な熱交換率に優れたフィンアンドチューブ型の熱交換器を用いているため、小型化、高効率化を実現できている。このエアコンは、特に省エネルギー、小型化の要求が高いヒートポンプエアコンとして公的に用いることができる。
【0046】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0047】
例えば、上記実施の形態では、管内表面に管の長手方向と並行に存在する突条型の複数のフィン102を持つアルミニウム合金製の内面溝付管100としたが、ここでいう「並行」とは厳密に「平行」であることを要せず、管の長手方向に対して±5°以内、好ましくは±3°以内、最も好ましくは±1°以内の傾きを有していてもよい。なぜなら、内面溝付管100の製造工程においてすべての突条型の複数のフィン102を完全に「平行」になるように製造するのは困難であるためである。
【0048】
また、上記実施の形態では、内面溝付管100の長手方向に直交する断面における該複数のフィン102の形状および配置が該内面溝付管100の円周方向で略均一であるとしたが、ここでいう「直交」とは厳密に「直角」に交差することを要せず、管の長手方向に対して±5°以内、好ましくは±3°以内、最も好ましくは±1°以内の傾きを有して交差してもよい。なぜなら、内面溝付管100を切断して断面を観察する際に内面溝付管100の長手方向に完全に「直角」になるように切断をすることは困難だからである。
【0049】
また、ここでいう「略均一」とは、完全に均一であることを要せず、複数のフィン102の高さおよび巾が平均値の±5°以内、好ましくは±3°以内、最も好ましくは±1°以内に収まっていれば形状が「略均一」であるものとする。なぜなら、すべての複数のフィン102の形状を完全に「均一」になるように製造するのは困難であるためである。また、複数のフィン102の頂点同士の間隔が平均値の±5°以内、好ましくは±3°以内、最も好ましくは±1°以内に収まっていれば配置が「略均一」であるものとする。なぜなら、すべての複数のフィン102の配置を完全に「均一」になるように製造するのは困難であるためである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実験例1>
次に本発明の実施例を比較例と共に説明する。表1に示す種々のフィン形状を持つ内面溝付管を熱間押出により作製した。押出条件としては、JIS3003及びJIS6063合金を用いて、ビレット温度500℃、押出速度20m/minで押出を行った。押出後、以下に示す評価を実施した。
【0052】
【表1】
【0053】
押出性
押出後の管を肉眼で観察してフィンの欠損、欠落等の不具合が見られた場合を「有り」、問題の無い場合を「無し」として評価を行った。
【0054】
伝熱特性
作製した種々の形状の伝熱管を二重管式熱交換器の内管に組み込み、伝熱管に冷媒としてHFCを冷媒流速300kg/msecで流し、管外側に被冷却水を流して、管内熱伝達率を測定した。
【0055】
表1に示す評価結果の説明を行う。実施例1〜9は10≦F/A≦15の条件を満たしており、押出時のフィン欠損は見られず、熱伝達率も良好である。一方、比較例10、11、15はF/Aが10≦F/A≦15の条件を満たしておらず、熱伝達率が低くなっている。比較例12〜14はフィン数が多いため、F/Aが10≦F/A≦15を満たしておらず、押出時にフィンの欠損が見られた。
【0056】
<実験例2>
表1に示す条件1の形状の押出管を表2に示す成分の合金を用いて製造を行い、以下の評価項目に沿って評価を行った。なお、押出条件は、ビレット温度500℃、押出速度20m/minとした。
【0057】
【表2】
【0058】
押出圧力
押出時に著しい圧力の増加が見られた場合を「×」、問題なかった場合を「○」として評価を行った。具体的には押出時の圧力が20MPaを超えた場合には「×」、20MPa以下18MPa以上であった場合には「△」、18MPa以下であった場合には「○」と評価した。評価結果を表3に示す。
【0059】
引張試験
押出後の管をJISZ2241に基づいて引張試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3について説明を行う。実施例16〜21は好適材料(Mn:1.0〜1.5質量%とCu:0.05〜0.25質量%とMg:0.025質量%以下とを含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなるアルミニウム合金)を用いているので、押出時に著しい圧力の増加は見られない。一方、比較例22、24はそれぞれMnまたはCuの含有率が少なすぎるため、好適材料の条件を満たさないので、機械的性質が好適材料を用いた場合にくらべて低くなっているため、強度の面で改善の余地がある。また、比較例23、25、26はMn、Cu、Mgの含有率が多すぎるため、好適材料の条件を満たさないので、押出時にある程度の圧力の増加が見られ、押出性が好適材料の場合に比べると十分ではなかった。
【0062】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明によれば、押出性に優れ、かつ伝熱管としての伝熱特性を十分に満足するフィン形状を有する伝熱管を提供することが出来、冷凍機や空調機などの熱交換器に使用される内面フィン付伝熱管として工業上顕著な効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0064】
D0:管外径
D1:溝底部に接する円の直径
100:内面溝付管
102:フィン
図1