【実施例】
【0030】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0031】
本実施例は、生体の少なくとも心拍間隔を測定可能で生体に着用可能な生体情報測定装置であって、生体に接触する複数の電極と、この電極から得た電圧の変化を電気的に処理して心電図信号を作成する信号処理手段と、前記心電図信号から該心電図信号中の一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波の間隔若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間隔から心拍間隔を測定する心拍間隔測定手段と、三軸加速度測定手段と、温度測定手段とを備え、前記心拍間隔測定手段によって得られた心拍間隔と前記三軸加速測定手段によって得られた三軸加速度と前記温度測定手段によって得られた温度とを、同時に無線で送信する無線送信手段を備えたものである。
【0032】
具体的には、本実施例は、
図1に図示したように、生体情報測定装置2は信号処理手段3と心拍間隔測定手段4と三軸加速度測定手段5と温度測定手段6と無線送信手段7とからなり、
図1,2に図示したように電極1が設けられている。被測定者は生体情報測定装置2に複数の電極1を取り付けた状態でそれらを身体に取り付けて心拍間隔等を測定する。電極は3つ以上設けても良いが、心拍間隔測定のためであれば2つあればよい。また、本実施例には測定結果表示用の表示手段(ディスプレイ)が設けられている。
【0033】
このように構成することで、本実施例は、心拍間隔だけでなく、加速度センサ(三軸加速度測定手段5)で人の姿勢や運動を測定でき、さらに内蔵された温度計(温度測定手段6)で人の置かれた環境温度を測定することができ、被測定者の負担にならず心拍間隔と三軸加速度と温度とを同時期に測定することができる。これらの測定値は自律神経バランスと併せて人のストレス状態を評価するために有用な指標とすることができ、より実用的な生体情報測定装置となる。
【0034】
また、本実施例は、前記信号処理手段3にハイパスフィルタが設けられ、前記心拍間隔測定手段4は前記ハイパスフィルタを通過した前記心電図信号を等時間隔でサンプリングし、以下に詳述する方法でR波若しくはS波に関する頂点を2点検出し、このR波若しくはS波に関する頂点同士の間隔を前記一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波の間隔若しくは前記一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間隔として心拍間隔を測定するように構成されている。
【0035】
ここで心拍間隔とは、
図5に図示したような前記一のR波11と該一のR波と隣り合う他のR波11との時間的間隔(心拍間隔15)、若しくは、前記一のS波12と該一のS波と隣り合う他のS波12との時間的間隔(心拍間隔16)のことである。具体的には、所定の時間心臓の拍動周期を測定した際、波高がピークとなる一のR波11とその後時間が経過し再び波高がピークとなる他のR波11(隣り合うR波11)との時間的間隔が心拍間隔15であり、波高がピークとなる一のS波12とその後時間が経過し再び波高がピークとなる他のS波12(隣り合うS波12)との時間的間隔が心拍間隔16である。この時間は秒(s)で表される。被測定者によって個人差があるため、R波11の波高が大きい被測定者に対しては隣り合うR波11を利用して心拍間隔15を測定すれば良く、また、S波12の波高が大きい被測定者に対しては隣り合うS波12を利用して心拍間隔16を測定すれば良い(心拍間隔15と16は同じ時間的間隔になるため)。
【0036】
また、
図5のQ波10からS波12までの幅はQRS幅14と呼ばれ、QRS幅14内にある波のうち、R波11はQ波10の後に(Q波10が現れてから時間が経過して)現れるQ波10と反対方向にピークがある波であり、S波12はR波11の後に(R波11が現れてから時間が経過して)現れるR波11と反対方向にピークがある波を示している。
【0037】
生体情報測定装置2は、身につける際に被測定者の負担にならないようできる限り小さく構成し、小さなバッテリで長時間運用できる方が望ましい。そこで、本実施例においてはバッテリを長寿命にするため、同時期に測定した心拍間隔と三軸加速度と温度とを一つの組(生体情報組)として同時に内部の記録手段8若しくは外部の記録装置に送信するように無線送信手段7を構成している。
【0038】
例えば、心拍数が60bpm(60拍/分)ならば無線送信は1秒に1回程度でよくバッテリサイズの縮小と電池の寿命を延ばすことに貢献できる。前記生体情報組は1組から10組まで内部の記録手段8若しくは外部の記録装置に同時に無線で送信することが現実的であり、生体情報組を例えば、3組同時に送信するように構成した場合には、心拍数が60bpmの時は3秒に1回程度の無線通信になり、さらにバッテリサイズの縮小と電池の寿命を延ばすことに貢献できる。また、同時に10組より多くの組を送信することも可能であるが、無線送信するにもかかわらずデータのリアルタイム性が損なわれ、心拍間隔を即時に表示して確認できるというメリットがなくなるため、10組までのほうが良い。本実施例では、生体情報組を3組同時に送信している。
【0039】
具体的には、
図6に図示した別例1のように生体情報測定装置に無線送信手段7の他に記録手段8があれば、生体情報測定器単体で生体情報を記録でき、一般的なホルター心電計とは異なり生体情報組のみを記録するので、例えば小さな半導体メモリに記録することが可能となり、バッテリのサイズを縮小し電池の寿命を延ばし、生体情報測定装置のサイズ縮小にも貢献できる。
【0040】
また、無線送信手段7の他に、記録手段8及びモード設定手段17を具備することで、測定された生体情報組を所望の用途に応じてモードを選択して処理することが可能となる。具体的には、前記モードはモード設定手段17を用いて、送信モード、記録モード若しくは記録送信モードから選択し設定する。
【0041】
送信モードに設定すると、測定された生体情報組を無線送信手段7を用いてパソコンやタブレット端末,スマートフォンなどの外部の記録装置に送信することが可能となり、記録モードに設定すると、測定された生体情報組を内部の記録手段8を用いて記録することが可能となり、更には記録送信モードに設定すると、測定された生体情報組を内部の記録手段8を用いて記録しながら無線送信手段7を用いて外部の記録装置に送信することが可能となり、より実用性に優れたものとなる。
【0042】
生体情報組は1つの心拍間隔に対応するが、1つのみでは一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間の三軸加速度の変化がわからない。そのため、三軸加速度の変化をみるためには複数の生体情報組を確認する必要があり、例えば人の転倒のような突発的な加速度の変化を検出するためには、三軸加速度測定手段5は一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間における三軸夫々の加速度の絶対値の最大値を測定できるように構成するのが望ましい。また、人の姿勢測定を重視する場合、突発的な加速度を測定する必要はないので、三軸加速度測定手段5は一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間における三軸夫々の加速度の平均値を測定できるように構成するのが望ましい。さらに、人が走る、歩くなどの運動の様子を詳細に測定するために三軸加速度測定手段5は一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間における三軸夫々の加速度の最大値と最小値を同時に測定できるように構成するのが望ましい。また、上述の三軸夫々の加速度の絶対値の最大値、三軸夫々の加速度の平均値、三軸夫々の加速度の最大値と最小値のうち、2組以上を測定できる構成としても良い。
【0043】
心拍間隔測定手段4には、一般にはマイコンが使われるが、
図3に図示したように一般的な心電図にはベースラインの揺動と
図5の心電図に示される(S波12が現れてから時間が経過して現れる)T波13と識別するために、R波に関する頂点若しくはS波に関する頂点を検出するには何らかのフィルタ回路が必要である(ベースラインとは、P波9の起伏の始まりの位置から隣り合うP波9の起伏の始まりの位置までを直線で結んだラインのことを指す。)。
【0044】
そこで、信号処理手段3として、8Hzから30Hzの範囲で設定される所定の閾値以上の周波数のみを通過させるハイパスフィルタ(フィルタ回路)、例えば10Hz以上の周波数のみを通過させるハイパスフィルタを適用すれば、
図4のようにベースラインの揺動が抑えられ、簡単にR波若しくはS波に関する頂点を検出することができる。周波数が8Hzより小さいとベースラインの揺動を抑えることが困難であり、また30Hzより大きいとR波のデータが取れなくなるため(R波の起伏には30Hz以下の成分までしか含まれていないために30Hz以上の周波数のみを通過させるとR波が確認できなくなるため)、8Hzから30Hzの範囲で設定される閾値以上の周波数のみを通過させるほうがよい。
【0045】
このように、R波若しくはS波に関する頂点の検出が簡単であれば、マイコンのプログラムステップ数を削減でき、消費電力を抑えられバッテリサイズの縮小と電池の寿命を延ばすことに貢献できる。
【0046】
なお、ハイパスフィルタのみを適用した場合、心電図に筋電などのノイズが混入し、これをマイコンがR波若しくはS波と誤検出する可能性がある。そこで、この可能性を減少させるために、信号処理手段3にはハイパスフィルタに加え、ローパスフィルタも設けた方がよい。前記ローパスフィルタは、R波を通過させる必要があるため、30Hzよりも大きな値、例えば31Hzから2000Hzの範囲で設定される所定の閾値以下の周波数のみを通過させるものである。2000Hzより大きいと生体信号はないため無意味なので、上限を2000Hzに設定している。
【0047】
ここで、R波に関する頂点とS波に関する頂点と心拍間隔の関係について説明する。
図7は電極1から得られる心電
図18である。この心電図に信号処理手段3がもつハイパスフィルタを適用すると
図8の処理済み心電
図21が得られる。本実施例では、15Hz以上の周波数のみを通過させるハイパスフィルタを適用している。心拍間隔測定手段4が検出するのは処理済み心電
図21の頂点である。
【0048】
図8に示す頂点r’(1)22と頂点r’(2)23が測定された時刻と同時刻の
図7における心電
図18上の点は、それぞれ点r(1)19と点r(2)20である。点r(1)19と点r(2)20はR波の頂点(波のピークとなる箇所)ではないが、人の心電図のQRS夫々の波形は相似的なので(波高の違いはあってもQRS夫々の波形は同じであるため)、処理済み心電
図21の隣り合う頂点の間隔、つまり頂点r’(1)22と頂点r’(2)23の間隔はほぼ心拍間隔に等しい。ここで、(
図8における頂点r’(1)22の波をR波と便宜上置き換えて、)頂点r’(1)22と頂点r’(2)23をR波に関する頂点という。もしも、電極1から得られる心電図においてS波がR波よりも大きな波高を持つならば、処理済み心電
図21の頂点r’(1)22と頂点r’(2)23はS波に関する頂点となる。なお、
図8においては、頂点r’(1)22をR波に関する頂点としている。
【0049】
次に、R波に関する頂点若しくはS波に関する頂点の検出方法を、
図9を用いて説明する。
図9は
図8のQRS幅14部分を拡大したものである。まずハイパスフィルタを適用させた処理済み心電
図21を等時間隔でサンプリングし、隣接して振幅Vが、V(0)<V(1)>V(2)かつV(n)>V(n+1)<V(n+2)かつV(m)<V(m+1)>V(m+2)、若しくは、V(0)>V(1)<V(2)かつV(n)<V(n+1)>V(n+2)かつV(m)>V(m+1)<V(m+2)の関係にあるサンプリング点を検索する。ここで振幅Vの引数は時系列を表し、0<n<mである。ただし、これらの値Vはベースライン24周辺のノイズを避けるために所定のノイズ閾値外の値、具体的には、ノイズ上限閾値26よりも大きな値若しくはノイズ下限閾値25よりも小さな値であるという条件を課す。さらにmがある一定の値を超えないというQRS幅条件若しくはm−nがある一定の値を超えないというRS幅条件を課す。QRS幅はQR幅とRS幅に区分けでき、ほぼ同じ幅となり、人の正常なQRS幅は0.12s以下でありQRS幅条件はmが0.12以下若しくはRS幅条件はm−nが0.06以下になるため、QRS幅条件値とRS幅条件値はそれぞれ0.12sと0.06s以下程度となり、それぞれ最大値の0.12s若しくは0.06sが好適である。
【0050】
また、前記のサンプリング点を検索する条件のうち、V(0)<V(1)>V(2)かつV(n)>V(n+1)<V(n+2)かつV(m)<V(m+1)>V(m+2)を下突条件、V(0)>V(1)<V(2)かつV(n)<V(n+1)>V(n+2)かつV(m)>V(m+1)<V(m+2)を上突条件と呼ぶことにする。下突条件・上突条件いずれの場合もV(n+1)がR波若しくはS波に関する頂点であり、
図8の頂点r’(1)22や頂点r’(2)23はV(n+1)が測定された時刻と同時刻の位置を表している。なお、
図8及び
図9は下突条件で検出された点を表しており、
図8の頂点r’(1)22がR波に関する頂点であれば、
図9におけるV(n+1)もR波に関する頂点である。
【0051】
心電図においてR波かS波の波高のいずれかが常に大きい場合は、常に上突条件若しくは下突条件いずれかの同じ条件を課して隣り合うR波若しくはS波に関する頂点のいずれか一方を検出していく。しかし、心電図においてR波とS波が同程度の波高を持つ場合、上突条件と下突条件が不規則に一致し、従って心拍間隔の測定値にジッタが生じる(R波の後に隣り合うR波を測定せずにS波を測定し、本来測定しなければならないデータとずれが生じる)。そこで、一度下突条件若しくは上突条件でR波若しくはS波に関する頂点を検出したら、下突条件若しくは上突条件を課しながらR波若しくはS波に関する頂点を検出することでジッタを避けることができる。即ち、例えば一度上突条件でR波に関する頂点を検出したら以後はR波に関する頂点のみを検出する。
【0052】
例えば、生体情報組を3組同時に無線送信する場合、はじめに1点目のR波に関する頂点を検出した場合、隣り合う2点目のR波に関する頂点を検出後、1点目と2点目の頂点間の時間的間隔を算出すると共に2点目のR波に関する頂点と隣り合う3点目のR波に関する頂点を検出し、2点目と3点目の頂点間の時間的間隔を算出すると共に3点目のR波に関する頂点と隣り合う4点目のR波に関する頂点を検出し、3点目と4点目の頂点間の時間的間隔を算出して各頂点間の時間的間隔とこれに関連する他の生体情報(三軸加速度及び温度)とをまとめて無線送信する。
【0053】
また、日内変動によってR波若しくはS波の波高は変化するので、一方の波高が他方の波高よりも常に大きくなったら、条件を入れ替えるべきである。例えば、上突条件を課して測定していたが、下突条件を課していた時の波高が上突条件を課していた時の波高よりも常に大きい状態となったときには、下突条件に移行すべきである(即ち、例えば、上突条件を課してS波に関する頂点を検出し続けている状態でも、R波の波高は監視し続ける。)。
【0054】
ここで、検索された条件を満たす部位における波高値を、|V(1)−V(n+1)|若しくは|V(n+1)−V(m+1)|のいずれか大きい方とする。そして前記上突条件を満たす部位における波高値Uhと前記下突条件を満たす部位における波高値Lhとの比Uh/Lhが、閾値Th以下となった場合は前記下突条件を課すようにし、前記波高値Lhと前記波高値Uhとの比Lh/Uhが、閾値Th以下となった場合は前記上突条件を課してR波に関する頂点からS波に関する頂点へ、若しくはS波に関する頂点からR波に関する頂点へ切り替えるように心拍間隔測定手段4を構成している。ここで閾値Thは0.4から0.7が好適である。閾値Thが0.7より大きいと入れ替わりが頻繁に生じる可能性がある。入れ替わる瞬間はジッタが生じてしまうため、入れ替わりは出来るだけ頻繁でないほうがよい。また、閾値Thが0.4より小さいと入れ替わりが生じなくなる。
【0055】
また、一のR波と隣り合う他のR波の間には筋電などによるノイズが入ることがあるので、誤ってノイズをR波若しくはS波に関する頂点と検出してしまう可能性がある。一方で、人の正常な心拍間隔の変動は±25%程度なので、ある程度次の(隣り合う)R波若しくはS波に関する頂点の出現時刻を予測できる。従って、R波若しくはS波に関する頂点のいずれかを一度検出したら、その後一定の時間内はR波若しくはS波に関する頂点を検出しない条件を課せば、筋電などのノイズによるR波若しくはS波に関する頂点の誤検出を抑えることができる。また、前述したローパスフィルタを適用することでさらに誤検出を抑えることができる。人の心拍数は最大200拍/分程度なので、R波若しくはS波に関する頂点を検出しない時間は0.3s以下、若しくは直前の測定心拍間隔の50%程度が好適である。
【0056】
本実施例は上述のように構成したから、生体に電極を接触させてこの電極から得た電圧の変化を電気的に処理して心電図信号を作成し、心電図信号から該心電図信号中の一のR波及び該一のR波と隣り合う他のR波の間隔若しくは一のS波及び該一のS波と隣り合う他のS波の間隔から心拍間隔を測定する際、マイコン等による極めて簡単なデータ処理で心拍間隔を測定できることになり、心電図の波形データそのものを記憶せずに心拍間隔の測定結果のみを記憶させることが可能となる。
【0057】
従って、本実施例は、小さい容量のメモリを使用でき、それだけ装置を小型化できるから、着用者の負担を少なくでき、バッテリを長寿命化できる等、良好に長期間継続的に着用して利用できる生体情報測定装置となる。