(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スリップ車輪について前記要求トルクと前記再配分トルクとの差分から前記トルクダウン量を算出するトルクダウン量算出部を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、角加速度の絶対値に基づいて各輪にスリップが発生しているか否かを判定し、スリップが発生している場合は出力トルクを制御することによりトルクの配分を行っている。このため、配分後のモータトルクに振動が発生し、ドライバビリティが悪化する問題が生じる。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された技術では、前輪にスリップが生じて回転数が高くなった場合に、後輪へトルクを移動させる際の応答性を高めるためにハイゲインでフィードバック制御を行っている。この場合、モータやタイヤの振動が大きくなるため、トルク移動量に上限値を設けて制限をかける必要が生じる。このため、スリップ発生時に十分なトルク移動を行うことが困難となり、スリップを確実に抑制することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、各車輪を独立して駆動するシステムにおいて、各車輪のスリップの発生を抑えるとともに、モータやタイヤの振動を抑えてドライバビリティを向上させることが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、前後左右の車輪を独立に駆動する複数のモータと、各車輪の回転数を検出する車輪速センサと、各車輪に対応するモータの回転数を検出するモータ回転数センサと、前記車輪速センサが検出した各車輪の回転数のうち最も低い回転数を基準回転数とし、前記基準回転数と各車輪に対応する前記モータの回転数とに基づいて各車輪のスリップを判定するスリップ判定部と、前記スリップ判定部によるスリップ判定の結果に基づいて、スリップしているスリップ車輪の回転数が目標回転数と一致するようにトルクダウンして、各車輪を駆動する前記モータの要求トルクを再配分トルクから算出する回転数制御部と、前記スリップ車輪のトルクダウン量をスリップしていない非スリップ車輪へ再配分して前記再配分トルクを算出する再配分制御部と、を備える車両の制御装置が提供される。
【0009】
前記基準回転数、ハンドル操舵角、ヨーレート、及び目標スリップ率に基づいて各
車輪の前記目標回転数を算出する目標回転数算出部を更に備えるものであっても良い。
【0010】
また、前記スリップ車輪について前記要求トルクと前記再配分トルクとの差分から前記トルクダウン量を算出するトルクダウン量算出部を更に備えるものであっても良い。
【0011】
また、前記再配分制御部は、目標制駆動力から得られる各
車輪のトルクを取得し、前記非スリップ車輪については前記目標制駆動力から得られる各
車輪のトルクに前記トルクダウン量を加算して前記再配分トルクを算出し、前記スリップ車輪については前記目標制駆動力から得られる各
車輪のトルクを前記再配分トルクとするものであっても良い。
【0012】
また、前記再配分制御部は、前記非スリップ車輪については、前記スリップ車輪の前記トルクダウン量の合計値を前記
非スリップ車輪の数で除した値を前記非スリップ車輪へ均等に再配分して前記再配分トルクを算出するものであっても良い。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、複数のモータにより独立に駆動される前後左右の各車輪の回転数を検出するステップと、検出した各車輪の回転数のうち最も低い回転数を基準回転数とし、前記基準回転数と各車輪に対応するモータの回転数とに基づいて各車輪のスリップを判定するステップと、前記スリップ判定の結果に基づいて、スリップしているスリップ車輪の回転数が目標回転数と一致するようにトルクダウンして、各車輪を駆動する前記モータの要求トルクを再配分トルクから算出するステップと、前記スリップ車輪のトルクダウン量をスリップしていない非スリップ車輪へ再配分して前記再配分トルクを算出するステップと、を備える車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、各車輪を独立して駆動するシステムにおいて、各車輪のスリップの発生を抑えるとともに、モータやタイヤの振動を抑えてドライバビリティを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両500の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両500の構成を示す模式図である。
図1に示すように、車両500は、前輪及び後輪の4つのタイヤ(車輪)12,14,16,18、車両制御装置(コントローラ)100、後輪のタイヤ16,18のそれぞれの回転を制御する2つのモータ(駆動部)20,22、各モータ20,22と各タイヤ16,18を連結するドライブシャフト24,26、後輪の各タイヤ16,18の回転から車輪速を検出する車輪速センサ28,30、各モータ20,22の回転数を検出するモータ回転数センサ32,34、加速度センサ36、ヨーレートセンサ38を有して構成されている。また、車両500は、後輪と同様に、前輪のタイヤ20,22のそれぞれの回転を制御する2つのモータ(駆動部)、各モータと各タイヤ20,22を連結するドライブシャフト、後輪の各タイヤ16,18の回転から車輪速を検出する車輪速センサ、前輪の各モータの回転数を検出するモータ回転数センサを有して構成されている。各輪の車輪速センサによって各輪のタイヤ回転数(車輪速)N_wheel(FL,FR,RL,RR)が検出される。また、各輪のモータ回転数センサによって各輪のモータ回転数N_motor(FL,FR,RL,RR)が検出される。また、車両500は、パワーステアリング機構(P/S)40、舵角センサ42、前輪の各タイヤ16,18の操舵角を操作するステアリング44を有して構成されている。車両500は、4つのタイヤ(12,14,16,18)を独立して駆動する電動車として構成されている。
【0018】
図2は、本実施形態に係る車両の制御装置100の主要構成を示す模式図である。また、
図3は、
図2に示す構成のうち、本実施形態のスリップ制御に係る構成を示す模式図である。
図2に示すように、車両制御装置100は、目標制駆動力算出部102、駆動トルク配分制御部104、目標ヨーレート算出部106、ヨーレート制御部108、目標回転数算出部110、回転数制御部112、再配分制御部114を有して構成されている。車両制御装置100は、駆動力をギヤ比とタイヤ径からトルクに変換し、モータ軸トルクベースで計算を行う。
【0019】
図2において、目標制駆動力算出部102は、アクセル開度、ブレーキ操作量に基づいて、目標制駆動力を算出する。駆動トルク配分制御部104は、目標制駆動力に基づいて、各車輪の駆動トルクの配分をフィードフォワード(F/F)制御する。具体的には、駆動トルク配分制御部104は、加速時と減速時で前後輪へのトルク配分が異なるため、目標制駆動力に基づいて加減速の状態を判断し、車両500の加速又は減速の度合いに応じて前後輪へのトルク配分を最適に行う。また、駆動トルク配分制御部104は、ハンドル操舵角に基づいて左右輪へのトルク配分を最適に行う。
【0020】
目標ヨーレート算出部106は、ハンドル操舵角に基づいて目標ヨーレートを算出する。ヨーレート制御部108は、目標ヨーレートに対してヨーレートセンサ38が検出する実際のヨーレート(実ヨーレート)をフィードバック(F/B)制御し、目標ヨーレートを実ヨーレートに一致させるための各輪の駆動トルクを出力する。これにより、駆動トルク配分制御部104で配分したトルクによって軽微なスリップが生じた場合は、ヨーレート制御部108による制御によってスリップを抑えることができる。
【0021】
駆動トルク配分制御部104によって得られた各輪の駆動トルクと、ヨーレート制御部108によって得られた各輪の駆動トルクとから、ドライバの要求トルクに相当する上位側の要求トルクT_req_0が求まる。上位側の要求トルクT_req_0は各輪毎(FL,FR,RL,RR)に求められる。ここで、FLは左前輪、FRは右前輪、RLは左後輪、RRは右後輪を示している。上位側の要求トルクT_req_0(FL,FR,RL,RR)は、再配分制御部114へ入力される。
【0022】
回転数制御部112、再配分制御部114、及び目標回転数算出部110から、本実施形態に係るスリップ制御系が構成される。本実施形態では、駆動トルク配分制御部104によって得られた各輪の駆動トルクをヨーレート制御部108によって得られた各輪の駆動トルクによって補正し、得られた上位側の要求トルクT_req_0によって各輪のモータを駆動した場合に、各輪にスリップが生じた場合は、スリップ制御系によってスリップを確実に抑える制御を行う。このスリップ制御系では、各車輪独立で回転数制御を行い、その結果を利用したトルクの再配分制御を行うことで、デフロック相当の駆動力と安定性を確保する。より詳細には、本実施形態は、車体速度と車輪速度が乖離した状態をスリップと捉え、各車輪がバラバラにスリップすることを抑制(差動制限)することで、駆動力と安定性を確保するものである。
【0023】
図3は、回転数制御部112、再配分制御部114、目標回転数算出部110を詳細に示すブロック図である。以下では、
図3に基づいて、本実施形態に係る車両制御装置100の構成について詳細に説明する。目標回転数算出部110には、各輪のタイヤ回転数N_wheel(FL,FR,RL,RR)、ハンドル操舵角、ヨーレート、上位側の要求トルクT_req_0が入力される。目標回転数算出部110は、各輪のタイヤ回転数N_wheel(FL,FR,RL,RR)のうち、最も回転数の低い車輪の回転数をN_base_0に設定する。なお、目標回転数算出部110は、上位側の要求トルクT_req_0から回生が行われていると判断した場合は、各輪のタイヤ回転数N_wheel(FL,FR,RL,RR)のうち、最も回転数の高い車輪の回転数をN_base_0に設定する。
【0024】
また、目標回転数算出部110は、基準回転数N_base_0、ハンドル操舵角、ヨーレート等に基づいて、各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)を算出する。この際、目標回転数算出部110は、基準回転数N_base_0とハンドル操舵角、ヨーレートから、車体の滑り角を算出し、車体の滑り角と車両パラメータ(前後トレッド、ホイルベース、重心と前後車軸間との距離)、基準回転数N_base_0から各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)を算出する。各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)は、スリップが生じていない場合の回転数に相当し、スリップ判定の基準となる回転数である。また、目標回転数算出部110は、各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)と目標スリップ率とから、各輪の目標回転数N_tgt(FL,FR,RL,RR)を算出する。この際、目標回転数算出部110は、各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)に目標スリップ率を乗算したものと、各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)に目標差回転を加算したものとをそれぞれの車輪ごとに比較し、最も高い値(回生時は最も低い値)をそれぞれのN_tgt(FL,FR,RL,RR)とする。つまり、各輪の目標回転数N_tgt(FL,FR,RL,RR)は、スリップを前提にした目標回転数である。目標回転数算出部110は、算出した各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)、各輪の目標回転数N_tgt(FL,FR,RL,RR)を回転数制御部112へ出力する。
【0025】
再配分制御部114には、上位側の要求トルクT_req_0が入力される。また、再配分制御部114には、前回の制御周期における各輪のスリップ判定フラグf_slip’と、前回の制御周期における各輪のトルクダウン量T_down(FL,FR,RL,RR)が入力される。再配分制御部114は、前回の制御周期におけるトルクダウン量T_down(FL,FR,RL,RR)に基づいて、トルクダウン量の合計値をスリップしていない車輪に再配分して各輪のトルクを制御する。
【0026】
具体的には、再配分制御部114は、前回の制御周期でスリップしている車輪が1つ以上あった場合は、スリップしている各輪のトルクダウン量(前回値)T_down’の合計値T_down_totalを求める。そして、再配分制御部114は、今回の制御周期でスリップしていない車輪に対し、トルクダウン量合計値T_down_totalをある割合で配分し、各輪の上位側からの要求トルクT_req_0と足し合わせたものを回転数制御部112への各輪の要求トルクT_req_1とする。例えば、再配分制御部114は、トルクダウン量合計値T_down_totalを今回の制御周期の非スリップ車輪で均等に配分し、各輪の上位側の要求トルクT_req_0と足し合わせることで、各輪の要求トルクT_req_1を算出する。
【0027】
また、再配分制御部114は、今回の制御周期でスリップしている車輪に対しては、トルクダウン量合計値T_down_totalを配分することなく、上位側の要求トルクT_req_0を回転数制御部112への要求トルクT_req_1とする。
【0028】
このようにして算出された各輪の要求トルクT_req_1(FL,FR,RL,RR)は、回転数制御部112へ入力される。また、回転数制御部112には、目標回転数算出部110が算出した各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)、各輪の目標回転数N_tgt(FL,FR,RL,RR)が入力される。また、回転数制御部112には、各輪のモータ回転数N_motor(FL,FR,RL,RR)、各輪のタイヤ回転数N_wheel(FL,FR,RL,RR)が入力される。
【0029】
回転数制御部114は、入力された各輪の要求トルクT_req_1(FL,FR,RL,RR)、各車輪の目標回転数N_tgt(FL,FR,RL,RR)、各輪の基準回転数N_base(FL,FR,RL,RR)、各輪のモータ回転数N_motor(FL,FR,RL,RR)、各輪のタイヤ回転数N_wheel(FL,FR,RL,RR)などを用いて回転数制御を行い、その結果を最終的な各輪のモータへの要求トルクT_req_2(FL,FR,RL,RR)として出力する。このため、回転数制御部114は、左前輪(FL)のモータへの要求トルクT_req_2(FL)を算出する回転数制御部114a、右前輪(FR)のモータへの要求トルクT_req_2(FR)を算出する回転数制御部114b、左後輪(RL)のモータへの要求トルクT_req_2(RL)を算出する回転数制御部114c、右後輪(RR)のモータへの要求トルクT_req_2(RR)を算出する回転数制御部114dから構成されている。
【0030】
図4は、回転数制御部114aの構成を詳細に示す模式図である。
図4に示すように、回転数制御部114は、スリップ判定部202、外乱オブザーバ204、トルクダウン量算出部206を有して構成されている。
図4では、左前輪(FL)の制御を例に挙げて説明する。回転数制御部112aには、左前輪の要求トルクT_req_1(FL)、左前輪の基準回転数N_base(FL)、左前輪の目標回転数N_tgt(FL)、左前輪のモータ回転数N_motor(FL)、左前輪のタイヤ回転数N_wheel(FL)が入力される。なお、回転数制御部114b,114c,114dの構成は、回転数制御部114aと同様である。
【0031】
回転数制御部114のスリップ判定部202は、モータ回転数N_motor(FL)と基準回転数N_base_0(FL)の乖離度合に基づいてスリップ判定を行い、左前輪にスリップが生じている場合はスリップ判定フラグf_slip(FL)を立ち上げる(f_slip(FL)=1)。上述したように、基準回転数N_base_0(FL)は、スリップが生じていない場合の回転数に相当するため、基準回転数N_base_0(FL)とモータ回転数N_motor(FL)とが所定値以上乖離している場合は、スリップが生じていると判定する。なお、スリップ判定部202に入力される左前輪のタイヤ回転数N_wheel(FL)は、主にスリップ終了判定に用いることができ、タイヤ回転数N_wheel(FL)が基準回転数N_base_0(FL)と一致又は近似した場合は、スリップが収束したものと判定できる。
【0032】
回転数制御部112は、スリップ判定フラグf_slip(FL)に基づいて、左前輪がスリップしていない場合は、再配分制御部114から入力された左前輪の要求トルクT_req_1(FL)を最終的な左前輪のモータへの要求トルクT_req_2(FL)として出力する。
【0033】
また、回転数制御部114は、スリップ判定フラグf_slip(FL)に基づいて、左前輪がスリップしている場合は、再配分制御部112から入力された左前輪の要求トルクT_req_1(FL)に対して回転数制御を行い、左前輪のモータへの要求トルクT_req_2(FL)を出力する。このため、回転数制御部114は、目標回転数N_tgt(FL)とモータ回転数N_motor(FL)の乖離を判定し、目標回転数N_tgt(FL)に対してモータ回転数N_motor(FL)が一致するように制御を行う。
【0034】
具体的には、要求トルクT_req_1(FL)からどれだけのトルクダウンをすれば目標回転数N_tgt(FL)に対してモータ回転数N_motor(FL)が一致するかを外乱オブザーバ204を用いて演算し、得られたトルクダウン量を要求トルクT_req_1(FL)から減算して要求トルクT_req_2(FL)を出力する。この際、モータ回転数N_motor(FL)は変動し易いため、車輪速N_wheel(FL)から得られる車輪角加速度からモータイナーシャを計算し、より変動に対して安定している基準回転数N_base_0(FL)に基づいて、角加速度の変化を打ち消すようにトルクダウン量を算出することで、回転数変化を抑えることができる。各輪のモータは、回転数制御後のモータトルクT_req_2(FL,FR,RL,RR)によって制御される。
【0035】
また、トルクダウン量算出部206は、最終的に得られた要求トルクT_req_2(FL)と要求トルクT_req_1(FL)との差分からトルクダウン量T_down(FL)を算出する。
【0036】
以上のように、回転数制御部114により各輪のモータを独立して制御し、各輪のモータ回転数を拘束することで、トルクで制御する場合と比較してモータの振動を確実に抑えることができ、制御の応答性、安定性を高めることができる。また、回転数制御と独立して再配分制御を行い、再配分制御部114を回転数制御部112の上位に配置したことで、回転数制御を働かせた状態でトルクの再配分制御を行うことができ、モータの振動を抑えた状態でトルク配分を確実に行うことができる。また、再配分制御部114による再配分結果を回転数制御部112への要求トルクとすることで、再配分によるスリップや振動を回転数制御により抑制することができるため、トルク上限を設けることなくトルクの再配分を行うことが可能となり、駆動力低下を確実に抑えることができる。従って、差動制限機能に制限をかけることなくドライバビリティを向上させることができ、またトルク上限を設けない場合であってもドライバビリティを向上させることができる。
【0037】
また、回転数制御を行った後に再配分制御を行うと、最配分によってトルクが変動してしまい、モータの振動が発生する可能性がある。本実施形態のように再配分後に回転数制御を行うことで、モータに振動を生じさせることなく、安定した制御を行うことが可能となる。
【0038】
次に、
図5のフローチャートに基づいて、本実施形態に係る車両制御装置100における処理の手順について説明する。
図5では、左前輪のスリップ制御を例に挙げて説明するが、他の車輪の制御も同様に行われる。先ず、ステップS10では、4輪のうち最もタイヤ回転数の低い車輪(回生時は一番高い車輪)の回転数を基準回転数N_base_0に設定する。基準回転数N_base_0は以下の式から算出される。
N_base_0=MIN(N_wheel(FL),N_wheel(FR),N_wheel(RL),N_wheel(RR))
【0039】
次のステップS12では、基準回転数N_base_0、ハンドル操舵角、ヨーレート等に基づいて各車輪の基準回転数N_base、目標回転数N_tgtを設定する。左前輪の基準回転数N_base(FL)、目標回転数N_tgt(FL)は、以下の式から算出される。ここで、fは所定の関数である。
N_base(FL)=f(N_base_0,操舵角,ヨーレート,・・・,)
N_tgt(FL)=N_base(FL)×目標スリップ率
【0040】
次のステップS13では、各車輪のスリップ有無を判定するスリップ判定フラグの前回値(前回の制御周期における値)f_slip’を参照し、スリップしている車輪が1つ以上あるか否かを判定する。そして、スリップしている車輪が1つ以上あった場合は、ステップS14へ進む。ステップS14では、以下の式に基づいて、各輪のトルクダウン量(前回値)T_down’の合計値T_down_totalを求める。なお、前回の制御周期でスリップしていない車輪(f_slip’=0の車輪)のトルクダウン量(前回値)T_down’は0である。
T_down_total=T_down’(FL)+T_down’(FR)+T_down'(RL)+T_down’(RR)
【0041】
また、ステップS13でスリップしている車輪が1つも存在しない場合は、ステップS15へ進む。ステップS15では、各輪のトルクダウン量(前回値)T_down’の合計値T_down_totalを0とする(T_down_total=0)。
【0042】
ステップS14,15の後はステップS16へ進む。ステップS16では、左前輪のスリップ判定フラグの前回値f_slip’(FL)を参照して左前輪がスリップしているか否かを判定し、左前輪がスリップしていない場合(f_slip’(FL)≠1)の場合は、ステップS18へ進む。ステップS18では、スリップしていない左前輪に対し、トルクダウン量合計値T_down_totalをある割合で配分し、上位側からの要求トルクT_req_0(FL)と足し合わせたものを回転数制御への要求トルクT_req_1(FL)とする。例えば、トルクダウン量合計値T_down_totalの配分は、全ての非スリップ車輪で均等に配分する。この場合、左前輪の要求トルクT_req_1(FL)は、以下の式から算出される。このように、スリップしている車輪のトルクダウン量をスリップしていない車輪で補填して駆動を行う。
T_req_1(FL)=T_req_0(FL)+T_down_total/(非スリップ輪数)
なお、上記計算の際に、非スリップ輪数が0の場合はゼロ割防止を入れる。
【0043】
一方、ステップS16で左前輪がスリップしている場合(f_slip’(FL)=1)は、ステップS20へ進む。ステップS20では、左前輪の要求トルクT_req_1(FL)を上位側の要求モータトルクT_req_0とする。このように、左前輪がスリップしている場合は、トルクダウン量による補填は行わない。
【0044】
ステップS18,S20の後はステップS22へ進む。ステップS22では、左前輪の実回転数(モータ回転数)N_motor(FL)と基準回転数N_base_0(FL)を比較し、その差がある閾値t1以上であるか否かを判定する(N_motor(FL)−N_base(FL)≧t1)。そして、実回転数N_motor(FL)と基準回転数N_baseとの差分がしきい値t1以上の場合は、左前輪がスリップしていると判定し、ステップS24へ進む。ステップS24では、スリップ判定フラグf_slip(FL)を立ち上げる(f_slip(FL)=1)。
【0045】
ステップS24の後はステップS28へ進む。ステップS28では、ステップS18,S20で求めた要求トルクT_req_1(FL)や、左前輪の目標回転数N_tgt(FL)、左前輪のモータ回転数N_motor(FL)、左前輪のタイヤ回転数N_wheel(FL)を用いて回転数制御(フィードバック制御)を行い、その結果を最終的な左前輪のモータへの要求トルクT_req_2(FL)とする。なお、回転数制御部112による回転数制御の内容は上述した通りである。
【0046】
一方、ステップS22において、実回転数N_motor(FL)と基準回転数N_base_0(FL)との差分がしきい値t1よりも小さい場合は、左前輪がスリップしていないと判定し、ステップS26へ進む。ステップS26では、スリップ判定フラグf_slip(FL)を立ち下げる(f_slip(FL)=0)。
【0047】
ステップS26の後はステップS30へ進む。ステップS30では、要求トルクT_req_2(FL)をステップS18,S20で求めた再配分後の要求トルクT_req_1(FL)とする。このように、スリップしていない場合は、回転数制御により得られる要求トルクT_req_2(FL)が再配分後の要求トルクT_req_1(FL)と同一とされる。
【0048】
ステップS28,S30の後はステップS32へ進む。ステップS32では、左前輪について、再配分後の要求トルクT_req_1(FL)とモータへの要求トルクT_req_2(FL)との差分からトルクダウン量T_down(FL)を求める(T_down(FL)=T_req_1(FL)−T_req_2(FL))。ここで求めたトルクダウン量T_down(FL)は、次の制御周期のステップS14において、各輪のトルクダウン量(前回値)T_down’の合計値T_down_totalを求める際に用いられる。なお、スリップしている場合は、回転数制御により得られる要求トルクT_req_2(FL)と再配分後の要求トルクT_req_1(FL)とが同一となるため、トルクダウン量T_down(FL)は0となる。
【0049】
図6は、本実施形態に係る車両500により、路面摩擦係数が低い低μの路面でアクセルペダルを全開にして発進加速を行った場合の各輪の車輪速(タイヤ回転数N_wheel)と、各輪の車輪速の差で最も大きい値(最大差回転ΔVmax)を示す特性図である。
図6に示すように、本実施形態に係る再配分制御を行うことによって、各輪の駆動力の配分が適正に行われ、車輪速(左前輪)、車輪速(右前輪)、車輪速(左後輪)、車輪速(右後輪)はほぼ一致している。また、最大差回転(ΔVmax)も小さく抑えられている。従って、車体に振動を生じさせることなく各輪の差回転の発生を抑えることが可能であり、低μの路面においても駆動力を確実に確保することが可能である。
【0050】
一方、
図7は、前述した特許文献1に記載された手法で、
図6と同様に路面摩擦係数が低い低μの路面でアクセルペダルを全開にして発進加速を行った場合の各輪の車輪速(タイヤ回転数N_wheel)を示す特性図である。
図7に示す例では、前輪と後輪との間のトルク移動量を小さくしたノーマルモードと前輪と後輪との間のトルク移動量を大きくしたロックモードの2つのモードを示している。
【0051】
図7に示すように、ノーマルモードよりもロックモードの方が前輪と後輪との差回転が小さいが、いずれもモードにおいても、発進加速時に前輪の回転数が大きく上昇しているのに対し、後輪の回転数の上昇は低く、前輪と後輪との間に差回転が生じている。このため、前輪がホイールスピンしており、前輪の駆動力を後輪に十分に配分できていないことが判る。従って、前後輪の差回転を拘束することができず、駆動力不足が発生してしまう。
【0052】
図8は、
図6に示す本実施形態の制御と、
図7に示す従来の制御とを対比して示す特性図であって、
図6に示した最大差回転ΔVmaxと
図7に示した前後輪差回転(ノーマルモード及びロックモード)を重ねて示している。
図6に示す本実施形態の制御では、
図7に示す従来の手法の制御と対比すると、
図8に示すように、前後左右輪に差回転は殆ど発生しておらず、各輪のスリップを効果的に抑制することができる。従って、駆動力配分を適正に行うことができ、駆動力を確保することができる。
【0053】
以上説明したように本実施形態によれば、スリップしている車輪のトルクダウン量をスリップしていない車輪に再配分するようにしたため、各輪の差回転の発生を高精度に抑えることができ、駆動力の低下を抑止することが可能となる。また、回転数制御と独立して再配分制御を行い、再配分制御の後に回転数制御を行うようにしたため、回転数制御を働かせた状態でトルクの再配分制御を行うことができ、モータの振動を抑えた状態でトルク配分を確実に行うことが可能となる。そして、振動を発生させることなく各車輪間の差回転発生の抑制と制限のないトルク再配分を行うことが可能になり、振動抑制によりドライバビリティを悪化させることなく各車輪の回転数のバラツキを抑えることができる。従って、各車輪の回転数のバラツキを抑えたことによる車両挙動の安定化と、トルク再配分による最大限の駆動力確保が可能になる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【解決手段】車両の制御装置100は、前後左右の車輪を独立に駆動する複数のモータと、各車輪の回転数を検出する車輪速センサと、車輪に対応するモータの回転数を検出するモータ回転数センサと、車輪速センサが検出した各車輪の回転数のうち最も低い回転数を基準回転数とし、基準回転数と各車輪に対応するモータの回転数とを比較することで各車輪のスリップを判定するスリップ判定部202と、スリップ判定部202によるスリップ判定の結果に基づいて、スリップ輪の回転数が目標回転数と一致するように、スリップ輪を駆動するモータの要求トルクを算出する回転数制御部112と、要求トルクの算出の結果得られるスリップ輪のトルクダウン量を非スリップ輪へ再配分する再配分制御部114と、を備える