(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883491
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】形状安定性が向上した板ガラスの形成
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-204562(P2014-204562)
(22)【出願日】2014年10月3日
(62)【分割の表示】特願2009-539247(P2009-539247)の分割
【原出願日】2007年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-61812(P2015-61812A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2014年10月31日
(31)【優先権主張番号】11/606,816
(32)【優先日】2006年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン アール バーデット
(72)【発明者】
【氏名】ロンティン ハァ
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ケー クリンゲンスミス
(72)【発明者】
【氏名】リミン ワン
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−191319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを越流させるアイソパイプから下方に延伸される帯状ガラスの形状安定性を向上させる方法であって、
(a)前記アイソパイプから延伸される帯状ガラスの横断断面形状が該延伸される帯状ガラスの流動方向から見たときに湾曲形状をなすように、前記延伸され、下方に垂れ下がる帯状ガラスの第1の面に空気圧を加えること、及び
(b)前記アイソパイプから延伸される帯状ガラスの横断断面形状が電界差により該延伸される帯状ガラスの流動方向から見たときに湾曲形状をなすものとなるように、前記延伸され、下方に垂れ下がる帯状ガラスの第1の面に前記帯状ガラスを引っ張る又は押す静電力を加えて前記帯状ガラスの横断方向に前記電界差を生じることの少なくとも1つにより、前記帯状ガラスの湾曲を誘発することによって、湾曲した帯状ガラスを生成する工程と、
前記湾曲した帯状ガラスを硬化させる工程と
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記帯状ガラスの第1の面に空気圧を加えることにより、前記帯状ガラスの前記第1の面と前記帯状ガラスの第2の面との間に2〜15N/m2の圧力差が生じることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記帯状ガラスの横断方向への電界差が106V/m程度であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記湾曲した帯状ガラスが、5〜50メートルの範囲の曲率半径を有することにより前記帯状ガラスに5mm〜100mmの範囲のたわみを生じることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
溶融ガラスを越流させるアイソパイプから下方に延伸される帯状ガラスの形状安定性を向上させる装置であって、
前記帯状ガラスの湾曲を誘発するよう動作可能な湾曲誘発要素を備え、
該湾曲誘発要素が、
(a)前記アイソパイプから延伸される帯状ガラスの横断断面形状が該延伸される帯状ガラスの流動方向から見たときに湾曲形状をなすように、前記延伸され、下方に垂れ下がる帯状ガラスの第1の面に空気圧を加える1つ以上の空気ジェット、及び/又は、
(b)前記アイソパイプから延伸される帯状ガラスの横断断面形状が電界差により該延伸される帯状ガラスの流動方向から見たときに湾曲形状をなすものとなるように、前記延伸され、下方に垂れ下がる帯状ガラスの第1の面に前記帯状ガラスを引っ張る又は押す静電力を加えて前記帯状ガラスの横断方向に前記電界差を生じる1つ以上の静電力発生器を備える
ことを特徴とする装置。
【請求項6】
前記1つ以上の空気ジェットが、前記帯状ガラスの前記第1の面と前記帯状ガラスの第2の面との間に2〜15N/m2の圧力差を生じさせるものであることを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記1つ以上の静電力発生器が、前記帯状ガラスの横断方向へ106V/m程度の電界差を生じさせるものであることを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項8】
前記1つ以上の空気ジェットが、3行3列〜5行5列に配列されたものであることを特徴とする請求項5記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲したディスプレイ用帯状ガラスを製造することにより形状的/寸法的一貫性が向上した、応力が低減されたディスプレイ用ガラスに関係する方法、システム、装置及び製品に関し、特に、液晶ディスプレイ(LCD)用板ガラスの延伸用のフュージョン・ドロー装置(FDM)で形成された湾曲した帯状ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
LCD等といったディスプレイ用の平坦なガラス製品の製造には、多くの課題がある。このプロセスにおける主要な要件は、大きな板ガラス製品において非常に一貫した製品形状を作る能力である。一般的な大きな板ガラス製品のサイズの範囲は3.3メートル四方までにもなる。
【0003】
コーニング社(Corning Incorporated)は、フュージョン法(例えば、ダウンドロー法)として知られる、フラットパネルディスプレイ等の様々な装置で用いられ得る高品質の薄い板ガラスを形成するためのプロセスを開発した。フュージョン法で製造された板ガラスは、他の方法で製造された板ガラスと比べて優れた平坦度及び平滑度を有する表面を有するので、フュージョン法は、フラットパネルディスプレイに用いられる板ガラスの製造に好ましい技術である。一般的なフュージョン法は、特許文献1および2等といった多くの文献に記載されており、当該技術分野でよく知られている。
【0004】
フュージョン法の一実施形態は、フュージョン・ドロー装置(FDM)を用いて、シート状の板ガラスを形成し、次にその板ガラスを2つのロールの間で延伸して所望の厚さに引き伸ばすことを含む。移動アンビル装置(TAM)を用いて、その板ガラスを、顧客に送られるより小さい板ガラスに切断する。
【0005】
板ガラスにおける製品の残留応力及び形状は、プロセス温度プロファイル、TAM及びガラスの切断によって生じる帯状ガラスの動き等といった、多くの要因によって生じ得る。液晶ディスプレイの製造では、板ガラスの残留応力が大きい又は板ガラスの形状が安定していないと、多くの問題が生じ得る。
【0006】
フュージョン・ドロー技術では、アイソパイプにより、大きく薄い、粘度の高いシート状の溶融ガラスが形成される。この粘度の高いシートが冷えると、例えば、温度勾配、帯の厚さのばらつき、残留応力、及び引張り駆動システムからの機械的な力により、様々な機械的な応力が生じる傾向がある。ガラスの帯の幅は一般的に2メートルほどであり、長さは2〜6メートルほどである。帯の厚さは1.1mm以下である。
【0007】
このような薄く大きなガラスの帯では、帯内における通常のプロセスの応力のばらつきで、圧縮応力の領域が帯の座屈を生じさせ得る。圧縮応力が比較的大きい場合には、多モードの形状の不安定性がトリガされ得る。フュージョン法による製造プロセスでは、このような場合には帯の形状が変動することがある。帯の形状が大きく変動すると、ガラス製品の応力及び形状が影響され得るので、製造を中断しなければならない。深刻なケースでは、この不安定性により、フュージョンプロセスの途中で帯状ガラスが破損し得る。
【0008】
液晶ディスプレイ(LCD)用板ガラスのダウンフロー延伸及びその結果の溶融(フュージョン)においては、製造業者が、高いフロー密度及び大きな帯サイズで残留応力及び形状変形が最小限に抑制されたLCD用板ガラスの安定した製造を達成することが非常に重要である。LCDパネルの製造コストを削減するために、パネルメーカーは、第7世代、第8世代以上等といったますます大型化する板ガラスを必要としている。板ガラスのサイズが増加するにつれ、製品の形状及び応力を維持するためのフュージョン法の制御能力に対する要求はますます厳しくなる。
【0009】
LCD用の帯状ガラスの形成では、プロセスの安定性を維持するために、同じ方向の曲がりを有することが望ましい。LCDの顧客にとっても、一貫した形状及び応力パターンを有する板ガラスを提供されることは望ましい。これらの顧客の要望の幾つかを満たすために、従来技術の設計による帯形成プロセスでは、
図1に示される平坦なシートが、主に重力及び駆動ローラによって安定化されたニュートラルな位置に垂直に吊り下げられる。しかし、この構成は、例えば時折生じる切断システムやプロセス温度の製造上のばらつきによる、帯の座屈及び動きの不安定性の影響を受けやすい。これらのケースでは、形状安定性が回復するまで、製品の製造が中断される。従って、FDMにおける曲がりの方向及び帯の形状を制御することは、従来技術に対して有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,338,696号明細書
【特許文献2】米国特許第3,682,609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガラス製品のサイズが増加するにつれ、残留応力及び形状変形の制御はより困難になる。それにも関わらず、より大きいサイズのガラス製品が所望されるため、許容範囲内の残留応力及び形状変形を有する、より大きいサイズのガラス製品を達成する新たな製品及び方法の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、ディスプレイ用ガラスに関係するシステム、方法、装置及び製品は、帯状ガラスの形状安定性を向上させ、応力が低減された帯状ガラスを生成し、より形状的/寸法的に安定したディスプレイ用ガラスを製造するために、湾曲した帯状ガラスを形成するものであり、フュージョン・ドロー装置(FDM)で僅かに湾曲した帯状ガラスを形成することを含み得る。
【0013】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、溶融ガラスを越流させるアイソパイプから延伸される帯状ガラスの形状安定性を向上させる方法は、帯状ガラスの湾曲を誘発することにより、湾曲した帯状ガラスを生成する工程と、湾曲した帯状ガラスを硬化させる工程とを含み得る。
【0014】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、溶融ガラスを越流させるアイソパイプから延伸される帯状ガラスの形状安定性を向上させる装置は、帯状ガラスの湾曲を誘発するよう動作可能な湾曲誘発要素を含み得る。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、帯状ガラスの形状安定性を向上させるシステムは、帯状ガラスを生成するよう動作可能なアイソパイプを有するフュージョン・ドロー装置と、帯状ガラスの湾曲を誘発するよう動作可能な湾曲誘発要素とを含み得る。
【0016】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、ディスプレイ用ガラスの形状安定性を向上させる方法は、溶融ガラスを越流させるアイソパイプから帯状ガラスを延伸する工程と、帯状ガラスの湾曲を誘発することにより湾曲した帯状ガラスを生成する工程と、湾曲した帯状ガラスを硬化させる工程と、湾曲した帯状ガラスからディスプレイ用板ガラスを生成する工程とを含み得る。
【0017】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、本発明の製品は、アイソパイプから延伸される帯状ガラスに湾曲を誘発し、該湾曲した帯状ガラスを硬化させることによって形成された湾曲した帯状ガラスから形成された、形状安定性を向上させたディスプレイ用ガラスを含み得る。
【0018】
本発明の様々な実施形態では、帯状ガラスの湾曲を誘発する工程は、所望の湾曲を有するアイソパイプを用いること、所望の傾斜を有するアイソパイプを用いること、帯状ガラスを傾斜した帯延伸方向に延伸すること、帯状ガラスの第1の面に空気圧を加えることにより第1の面に圧力差を生じること、及び/又は、帯状ガラスの第1の面に静電力を加えることにより帯状ガラスの横断方向に電界差を生じることを含み得る。
【0019】
本発明の他の様々な実施形態では、湾曲誘発要素は、所望の湾曲を有するアイソパイプ、所望の傾斜を有するアイソパイプ、帯状ガラスを傾斜した帯延伸方向に延伸するよう動作可能なオフセット延伸装置、帯状ガラスの第1の面に空気圧を加えることにより第1の面に圧力差を生じるよう動作可能な1つ以上の空気ジェット又は真空、及び/又は、帯状ガラスの第1の面に静電力を加えることにより帯状ガラスの横断方向に電界差を生じるよう動作可能な1つ以上の静電力発生器を含み得る。
【0020】
本発明の様々な更なる実施形態では、アイソパイプのルート部は所望の湾曲を有してもよく、所望の傾斜は垂直方向から5度〜20度の範囲内の角度を有してもよく、アイソパイプのルート部は所望の傾斜を有してもよく、傾斜した帯延伸方向は垂直方向から5度〜20度の範囲内の角度を有してもよく、圧力差は2〜15N/m
2であってもよく、1つ以上の空気ジェット又は真空が空気圧を加えてもよく、空気ジェット又は真空は空気ジェット又は真空の3×3〜5×5アレイからなり、1つ以上の静電力発生器が静電力を加えてもよく、帯状ガラスの湾曲は5〜50メートルの範囲の曲率半径を有することにより5mm〜100mmの範囲の曲がりを生じてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の長所は、詳細な技術的説明を読んだ後に、既存のガラス品質制御プロセスとの関係において、最もよく理解されよう。これらの長所には、大きなガラス製品を製造するためのプロセス及びシステムの拡張性が含まれ得る。
【0022】
本発明において、湾曲した帯は、帯状ガラスの形成の過程において曲がり方向を制御するよう規定される。このような方法では、その過程で、部分的に円筒形の形状を有する僅かに湾曲した帯が形成される。この湾曲した帯は展開可能な形状を有する。規定された展開可能な形状からは、製品の残留応力はほとんど生じない。規定された平坦な帯と比較して、湾曲した帯には3つの主な長所がある。
【0023】
特に、曲がりが選択された方向に制御される。帯が完全に平坦な場合には、帯内の熱機械的応力により、いずれかの方向への座屈及び曲がりの形成等といった帯の歪み又は不安定性が生じ得る。湾曲が規定されている場合には、熱機械的応力による曲がり方向の変化が生じにくくなる。
【0024】
湾曲した帯は、帯の形状を、最も安定した形である単純な曲がりに規定する。現行の平坦なフュージョン・ドロー・プロセスでは、特に、帯の幅が広く、プロセス温度にばらつきがある場合には、多モードの(複雑な)帯形状が生じ得る。経験上、プロセスにおける帯形状が単純な安定した曲がりである場合の方が、製品形状がより一貫しており、製品の応力レベルが低いことが示されている。規定された帯形状が構造的なアラインメントを支配する限りにおいて、帯に曲がり又は湾曲がある場合には、多モードの帯形状は生じにくい。一般的に、ディスプレイ用ガラスの顧客にとっては、板ガラスの曲がり方向及び応力パターンが一貫していることが望ましい。湾曲した帯は平坦な帯よりも剛性が高いので、帯の弾性が高まる。
【0025】
ディスプレイパネルの製造者にとっては、製造プロセスにおいて、板ガラスの形状は重要な属性である。例えば、ガラス形状は、ガラスが水平な架台に懸架された際に示すたるみの量にとって重要である。このたるみは、例えば、ロボットによる予測可能な操作に必要な間隙にとっても重要である。ディスプレイパネルの製造者は、しばしば、処理を改善するために、この板ガラスのたるみに対する仕様を望む。板ガラスのたるみは、板ガラスの延伸プロセスにおいて帯の形状を管理することにより制御される。この、よりよく規定されたシート形状を可能にする湾曲延伸プロセスの発明は、ディスプレイパネル製造のための一貫した板ガラスのたるみに対して、大きな利益となる。
【0026】
他の態様、特徴、長所等は、添付の図面を共に本願明細書における本発明の説明を読めば、当業者には明らかであろう。
【0027】
本発明の様々な態様を示す目的で、用いられ得る簡略化した形態を図示する(図面中、同一参照番号は同一要素を示す)が、本発明は、図示されている正確な構成及び手段に限定されず、特許される特許請求の範囲によってのみ限定されることを理解されたい。これらの図面は縮尺通りではない場合があり、これらの図面のアスペクトも互いに縮尺通りではない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】平坦なアイソパイプガラス延伸部を生じるフュージョン・ドロー装置を組み込んだ例示的なガラス製造システムを示すブロック図。
【
図2A】平坦なアイソパイプガラス延伸部を幾分見下ろす状態で示す等角ブロック図。
【
図3A】本発明の1つ以上の実施形態による、例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部を幾分見下ろす状態で示す等角ブロック図。
【
図4A】本発明の1つ以上の実施形態による、例示的な傾斜がついた湾曲したアイソパイプガラス延伸部を幾分見下ろす状態で示す等角ブロック図。
【
図5A】本発明の1つ以上の実施形態による、空気ジェット又は真空を有するフュージョン・ドロー装置からの、別の例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部を幾分見下ろす状態で示す等角ブロック図。
【
図6A】本発明の1つ以上の実施形態による、静電力発生器を有するフュージョン・ドロー装置からの、更に別の例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部を幾分見下ろす状態で示す等角ブロック図。
【
図7】本発明の1つ以上の実施形態による、湾曲したガラスを生成するために実行され得る処理動作を示すフロー図。
【
図8】本発明の1つ以上の実施形態による、湾曲したガラスの生成に関係するシステムを示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、フュージョン・ドロー装置(FDM)で僅かに湾曲した帯状ガラスを形成することにより、帯の形状安定性、残留応力の低減、及び曲がり方向の制御を提供する。湾曲した帯は、展開可能な円筒形状を有し得る。このような湾曲を有することにより、冷却及び延伸部の横断方向の温度のばらつきによって生じる熱機械的圧縮応力が解放され得る。本発明による湾曲は、熱機械的応力による曲がり方向の変化を生じにくくする。従って、曲がりが選択された方向に制御され得る。また、湾曲した帯では、湾曲した帯に圧縮応力が加えられた際に、帯の曲率を変えることによって圧縮応力が解放される。湾曲した帯は、規定の帯形状が支配する範囲において高周波モードの発生を抑え、高周波モードが生じにくくする。更に、湾曲した帯は、平坦な帯より高い剛性を有する。湾曲した帯が平坦な帯より高い剛性を有する範囲では、FDMにおける帯の動きが減少する。
【0030】
湾曲した帯状ガラスを生成するために、様々な実施形態のいずれか1つが用いられ得る。本発明の湾曲した帯を生成するための4つの例示的な方法は、(i)湾曲したアイソパイプの使用、(ii)傾斜したFDM又は傾斜した帯延伸部の使用、(iii)空気圧パネルの使用、及び(iv)静電力又は磁力の使用、又はそれらの組み合わせを含み得る。更に、本発明は、高いフロー密度大きい帯サイズにおいて低い残留応力を有する板ガラスを製造するための温度制御等といった、他の革新的な技術と組み合わせて用いられ得る。
【0031】
図1を参照すると、フュージョン法を用いて板ガラス105を製造する、平坦なアイソパイプガラス延伸部を有する例示的なガラス製造システム100の模式図が示されている。ガラス製造システム100は、溶融部110と、清澄部115と、混合部120(例えば、攪拌チャンバ120)と、送出部125(例えば、ボウル125)と、フュージョン・ドロー装置(FDM)140aと、移動アンビル装置(TAM)150とを有する。溶融部110では、矢印112で示されるようにガラスバッチ材料が導入され、溶融されて溶融ガラス126が形成される。清澄部115(例えば、清澄管115)は、溶融部110からの溶融ガラス126(この地点には図示せず)を受け取る高温処理領域を有し、ここで、溶融ガラス126から気泡が除去される。清澄部115は、清澄管−攪拌チャンバ接続管122によって混合部120(例えば、攪拌チャンバ120)に接続されている。混合部120は、攪拌チャンバ−ボウル接続管127によって送出部125に接続されている。送出部125は、下降管130を介してFDM140aに溶融ガラス126を送出する。FDM140aは、入口132と、形成部135(例えば、アイソパイプ135)と、引張りロールアセンブリ140とを有する。
【0032】
図示されるように、下降管130からの溶融ガラス126は、形成部135(例えば、アイソパイプ135)に続く入口132に流れ込む。形成部135は溶融ガラス126を受け取る開口部136を含み、溶融ガラス126はトラフ137に流れ込み、そこから溢れ出て、2つの面138a及び138b(138bは138aの後にあり見えない)を流れ下り、ルート部139と呼ばれる箇所で一体に融合する。ルート部139では2つの面138a及び138bが合わさり、そこで、溢れ出た溶融ガラス126の2枚の壁が再結合(例えば、再融合)し、引張りロールアセンブリ140によって下に向かって延伸され、板ガラス105が形成される。次に、TAM150が、延伸された板ガラス105を個々の板ガラス155に切断する。
【0033】
図2A及び
図2Bを参照すると、ブロック図は、平坦なアイソパイプガラス延伸部200を示す。平坦なアイソパイプガラス延伸部200は、ルート部139が平坦であり、従って形成部135を平坦なアイソパイプ135とする、システム100からのガラス延伸部を表す。従って、溶融ガラス126及び板ガラス105も平坦である。
【0034】
例として、ガラス製品は、コーニング社のガラス組成物番号(CORNING INCORPORATED GLASS COMPOSITION NO.)1737又はコーニング社のガラス組成物番号EAGLE
2000(商標)で構成され得る。これらのガラス材料は多くの用途を有し、特に、例えば液晶ディスプレイの製造に用途を有する。
【0035】
図3A及び
図3Bを参照すると、ブロック図は、本発明の1つ以上の実施形態による例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部300を示す。湾曲したアイソパイプガラス延伸部300は、例えば、湾曲したアイソパイプの湾曲したアイソパイプルート部339によって設けられ得る。アイソパイプが湾曲している場合には、湾曲したアイソパイプは、溶融ガラス326の湾曲した均一な粘性シートを生成する。ガラス転移温度を経て冷却されると、粘性のシート状ガラスの湾曲した形状が凍結され、湾曲した帯状ガラス305になり、これは依然として垂直に垂れ下がっているが、形状変化及び水平方向の摂動に対する耐性は高まっている。次に、帯状ガラス305は、個々の板ガラス355に切断され、これは更に個々のディスプレイ用板ガラス360に分割され得る。この形状は展開可能であり、製品の板ガラスが平坦にされた際に更なる応力は生じない。
【0036】
アイソパイプ又はアイソパイプルート部339の曲率半径の詳細な値は、プロセス温度プロファイル、機械的制約及び帯の寸法によって異なる。曲がりの方向を制御するには、5〜50メートルの範囲の曲率半径が、曲がり方向を決定するのに十分な効果を生じる。このような僅かに湾曲したアイソパイプは、FDM140aにおいて部分的に円筒形の帯状ガラスを形成する。この範囲の曲率半径では、1〜4mの板ガラスのサイズに対して曲がりの範囲は5mm〜100mmである。曲率半径が非常に大きいので、粘性シート305の均一性にも力学プロファイルにもさほど影響しない。
【0037】
湾曲した粘性シート305は、現行のアイソパイプ135を修正することにより、又は新たな設計を行うことにより達成され得る。例えば、既存のアイソパイプ135を曲げてもよく、既存のアイソパイプ135のルート部139を曲げてもよく、既存のルート部139に、湾曲したアイソパイプルート部339として機能する湾曲アダプタを取り付けてもよい。或いは、全体に所望の湾曲を有する又は湾曲したルート部339のみに所望の湾曲を有する新たなアイソパイプを設計してもよい。
【0038】
図4A及び
図4Bを参照すると、ブロック図は、本発明の1つ以上の実施形態による、例示的な傾斜がついた湾曲したアイソパイプガラス延伸部400を示す。本発明の1つ以上の実施形態によれば、傾斜がついた湾曲したアイソパイプガラス延伸部400は、FDM440において湾曲した帯状ガラス405を形成するための、例えば湾曲したルート部439を有するような、平坦な又は湾曲した形状であり得る傾斜したアイソパイプ435、及び/又は、傾斜したガラス延伸方向465を含み得る。
【0039】
傾斜したガラス延伸方向465を用いる場合、FDM440は垂直であっても又は傾斜していてもよい。帯延伸方向465と重力の方向との間の角度470が非常に小さいと、特に、延伸部の大半が帯405の中心で支持されている場合には、重力により、帯405が両縁部で湾曲する。後述するように、この非対称の状態は、生じ得る水平方向の振動も減衰させ得る。
【0040】
傾斜したガラス延伸方向465は、例えば、
図1を参照すると、引張りロールアセンブリ140又はTAM150をアイソパイプ135から前方又は後方に角度470だけオフセットすることにより達成され得る。より一般的には、傾斜したガラス延伸方向465を得るためにFDM440のオフセット延伸装置475を用いてもよく、オフセット延伸装置475のオフセット量を増減して角度470を増減することで、帯405に対する傾斜の効果が調節され得る。
【0041】
傾斜したアイソパイプ435を用いる場合、ルート部439は平坦であっても又は湾曲していてもよい。湾曲したルート部439を用いる場合、この湾曲は丸みがついた及び/又は面取りされた底縁部439be(一点鎖線で示す)に存在して、ルート部の平面はルート部139のように平坦に保たれてもよく、この場合、溶融ガラス426は、傾斜した底縁部の隅の丸みがついた両コーナー部から略同時に離れてルート部439の中心から離れてもよく、他の要因が存在せずに垂直に落ちる帯405は、延伸部300における帯305と類似のものとなる。
【0042】
この状況では、溶融ガラス426がルート部439の面138a及び138bを流れ落ちる際には、帯延伸方向465の傾斜470が存在し、その後の延伸部400は垂直(傾斜していない)又は角度470より小さい角度を有し得るので、ルート部439の湾曲が利用される。この構成では、延伸部400の角度が傾斜470以上である場合には、湾曲したルート部439の丸みがついた又は面取りされた底縁部439beはほとんど効果を有さず、上記の、湾曲していないルート部439を用いて、帯延伸方向465に傾斜470が存在する場合と大して違わない状況になる。
【0043】
傾斜したアイソパイプ435又は傾斜した帯延伸方向465を用いると、帯405は重力によって湾曲する。帯405は薄くて幅が広いので、非常に小さい傾斜角度470でも、応力を解放するのに十分な湾曲が生じる。面外変形と重力との関係に基づくと、適切な傾斜角度470は、延伸の状況(ガラス組成、温度、速度、幅、フュージョン・ドロー装置の高さ等)に応じて、図示される垂直方向から5度〜20度の範囲内であり得る。
【0044】
傾斜した帯延伸部400は、湾曲した帯の生成に加えて、生じ得る帯の動きを減衰させ得るという長所を有する。帯延伸方向465が重力の方向(即ち、垂直)である場合には、帯405はその安定した位置においてニュートラルな安定状態にあるが、水平方向に安定させる要因はない。小さい外部摂動が生じれば、帯405は、この垂直位置の周囲で水平方向に振動し得る。帯405が傾斜している場合には、摂動が、帯405に対する重力の垂直方向のベクトル及び帯延伸方向465の力の水平方向のベクトルに打ち勝って帯405を動かすには、摂動は十分に強くなければならない。傾斜した帯延伸部400は、生じ得る帯の動きを低減する減衰効果をもたらす。
【0045】
図5A及び
図5Bを参照すると、ブロック図は、本発明の1つ以上の実施形態による、複数の空気ジェット565及び/又は真空565aを有するフュージョン・ドロー装置540からの、別の例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部500を示す。空気ジェット565及び/又は真空565aから空気圧570を加えることにより、湾曲した帯505が生成され得る。空気ジェット565又は真空565aのアレイは、既存の又は新たに設計されたFDM540内に設置され得る。空気ジェット565及び/又は真空は、帯504の2つの面138a及び138bに対応する2つの面の間に圧力差を生じる。この圧力差は帯の湾曲を生じる。ジェット565及び/又は真空の数及び強さは、実際には、延伸の状況(ガラス組成、温度、速度、幅等)に応じて調節され得る。更に、空気ジェット565及び/又は真空は、帯の温度に影響するよう用いられてもよい。
【0046】
空気ジェット565及び/又は真空565aのアレイは、帯505の前面の背後の、帯505の一方の面(例えば後面138b)の、ガラス硬化ゾーンから該硬化ゾーンの約50インチ(約1.27 メートル)下方までの領域内の複数の衝撃点575に作用するよう配置される。これは、900℃〜300℃の温度範囲内にある帯505に対応する。延伸部400の傾斜による減衰と同様に、帯505の2つの面の圧力差も、帯505に対する水平方向の付勢された非接触支持を提供することにより、帯の動きを減衰させ得る。
【0047】
帯状ガラス505が大きく且つ薄いという事実により、小さい圧力差のみで、曲がり方向を制御するのに十分な帯505の湾曲が生じる。LCD用の帯状ガラス505では、2〜15N/m
2の圧力差で、5mmを超える面外変形を有する湾曲した帯が生じる。この空気圧差から生じる帯の湾曲は、最適な帯の形状を達成するよう空気ジェット565及び/又は真空565aの位置、気流圧570並びに空気の温度を変えることによって調節され得る。従って、空気圧差の使用は、帯形状の能動的な制御方法として作用する。
【0048】
帯505における過剰な局所的な形状歪みを回避するために、加えられる空気圧570は、狭い衝撃領域575に集中されるべきではない。空気ジェット565及び/又は真空565aが1つの特定の位置に集中すると、空気ジェット又は真空自体が、望ましくない展開不可能な面外変形を生じ得る。略均一な分布を有する空気ジェット又は真空のアレイは、部分的に円筒形の湾曲を生じさせるよう調節され得る。実際の適用においては、空気ジェット565又は真空565aのアレイは、帯505の横断方向における空気圧570の十分に均一な分布を生じるよう、3×3〜5×5(例えば
図5の3×4アレイ)に配置され得る。しかし、空気ジェット及び/又は真空は、帯505の横断方向に変化する圧力分布を生じてもよい。例えば、帯の前面と後面との間の圧力差は、帯の両縁部付近よりも帯の中心部の方が大きくてもよい。ジェット565又は真空565aの数はこの範囲に限定されない。空気ジェット565又は真空565aは、延伸500中に継続的にアクティブであってもよい。空気ジェット565又は真空565aが帯505の冷却の進行を僅かに変え得るという事実を補うために、システム100は、例えば、巻取り力を高めてもよく又は空気の温度を調節してもよい。帯に温度勾配及び応力が生じるのを回避するために、ジェットから発せられる空気の温度はガラスの温度と一致するのが好ましい。
【0049】
図6A及び
図6Bを参照すると、ブロック図は、本発明の1つ以上の実施形態による、静電力発生器665を有するフュージョン・ドロー装置640からの、別の例示的な湾曲したアイソパイプガラス延伸部600を示す。静電力発生器665は、電界差により、湾曲した形状を形成するために帯605を引っ張る又は押す静電力670を加え得る。静電力670の印加点675で生じ得る温度のばらつきにより、帯605に幾分の表面電荷が生じ得る。その結果生じる数パスカルの圧力で帯の形状を変えることができる場合、所望の湾曲を誘発するのに必要な電界670は10
6V/m程度である。延伸部500(空気圧570)と延伸部600(電界670)では力を及ぼす手段は異なるが、延伸部500及び延伸部600は、帯505及び605における異なる湾曲に影響するためのプロセスパラメータの調節に関しては類似している。
【0050】
図7を参照すると、フロー図は、本発明の1つ以上の実施形態による、形状安定性を向上させた帯状ガラス及び/又は応力が低減された帯状ガラスを生成するために実行され得る処理動作を示す。例示的なアセンブリプロセス700は、以下の動作の一部又は全部を含み得る。
図3、
図4、
図5及び
図6の実施形態が概して互いに排他的なものではない限りにおいて、2つ以上の実施形態に関連付けられた動作を組み合わせて、よりコストはかかり得るものの、より洗練されたプロセス700にしてもよい。
【0051】
プロセス700の動作710では、溶融ガラスがFDMのアイソパイプから溢れ出て、アイソパイプのルート部の両側を下って延伸され得る。
【0052】
動作720では、アイソパイプのルート部の両側からの溶融ガラスの層がルート部の底縁部で合体し、帯状ガラスを形成し得る。
【0053】
動作730では、例えば、帯状ガラスがガラス転移点への冷却及び硬化前の溶融ガラスの段階にある間に、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。動作730は、動作731、733、735、737及び739の1つ以上を含み得る。
【0054】
動作731では、例えばアイソパイプルート部に所望の湾曲を有するアイソパイプを用いることによって、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。
【0055】
動作733では、例えば丸みがついた底縁部を有し得るアイソパイプルート部に所望の傾斜を有するアイソパイプを用いることによって、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。
【0056】
動作735では、帯状ガラスを傾斜した帯延伸方向に延伸することによって、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。
【0057】
動作737では、帯の一方の面に、例えば空気ジェットからの空気圧を加えることによって、帯を湾曲させる圧力差を生じることにより、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。
【0058】
動作739では、帯の一方の面に、例えば静電力発生器からの静電力を加えることによって、帯を湾曲させる電界差を生じることにより、帯状ガラスに所望の湾曲が誘発され得る。
【0059】
動作740では、湾曲した帯状ガラスが更に下に延伸されて冷却及び硬化され、硬化したガラスの湾曲した帯を形成し得る。
【0060】
動作750では、硬化したガラスの湾曲した帯が、複数の湾曲した板ガラスに切断され得る。
【0061】
動作760では、湾曲した板ガラスが処理され、サイズを整えられて、液晶ディスプレイ等のディスプレイに用いるためのディスプレイ用板ガラスが製造され得る。
【0062】
図8を参照すると、ブロック図は、本発明の1つ以上の実施形態による、帯状ガラス805の生成中のガラスの形状安定性の向上に関係するシステム800を示す。システム800は、帯状ガラス805の形状安定性を向上させるシステムである。システム800は、フュージョン・ドロー装置840と少なくとも1つの湾曲誘発要素865とを含み得る。FDM840は、溶融ガラス826としての溶融ガラスの延伸のためのアイソパイプ835を含む。溶融ガラス826はアイソパイプ835から溢れ出て、下方に延伸されて湾曲誘発要素865に至り、そこで帯状ガラス805の湾曲が誘発される。湾曲した帯状ガラス805が硬化したら、湾曲した帯状ガラス805は複数の板ガラス855に切断され得る。板ガラス855は、形状安定性が向上され応力が低減されたディスプレイ用板ガラスを形成するために用いられ得る。湾曲した帯状ガラス805の切断はシステム800の外部で行われてもよい。
【0063】
湾曲誘発要素865は、
図3、
図4、
図5、
図6及び
図7で述べた実施形態及び/又は方法の1つ以上の態様を組み込み得る。例えば、湾曲誘発要素865は、湾曲したアイソパイプのルート部339、傾斜したアイソパイプのルート部439、オフセット延伸装置475、1つ以上の空気ジェット565、及び/又は1つ以上の静電発生器665を含み得る。湾曲誘発要素865の選択、又は可能な組み合わせは、所与のシステムの製造パラメータ及び選択された材料に大きく依存する。状況(少なからず設備変更関連コストを含む)が変われば、当業者は、所望の結果を達成するために湾曲誘発要素の選択及び効果を調節し得る。
【0064】
本願明細書においては、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これらの実施形態は、単に本発明の原理及び適用例を説明するためのものであることを理解されたい。従って、これらの例示的な実施形態には多くの変更がなされ得るものであり、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の精神及び範囲を逸脱することなく他の構成が考案され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0065】
300 アイソパイプガラス延伸部
339 アイソパイプルート部
400 アイソパイプガラス延伸部
435 アイソパイプ
439 ルート部
465 傾斜したガラス延伸方向
500 アイソパイプガラス延伸部
565 空気ジェット
565a 真空
600 アイソパイプガラス延伸部
665 静電力発生器