(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の部材の材料として上記のような非鉄金属材料を採用する場合、肉厚を薄くすることによって更に軽量化を図った上で、非鉄金属部材の強度を高める処理を行うことが考えられる。非鉄金属部材の強度を高める方法として、例えばショットピーニングがある。ショットピーニングは、被加工部材である金属部材表面に、多数の小さな金属球を高速で衝突させ、金属部材に対して表面の加工硬化および圧縮残留応力の付与を行う処理である。衝突させる小さな金属球は、ショットあるいは投射材と呼ばれる。
【0005】
図14は、ショットピーニングを説明する図である。被加工部材である金属部材200の表面に、ショット(金属球)201が高速で衝突すると、金属部材200の表面が凹まされ、表面に丸いくぼみが形成される。このように、金属部材200の表面が凹まされて変形することにより、表面の硬さが増すとともに圧縮残留応力が付与される。
【0006】
上記のようなショットピーニングを行うことにより、金属部材200の強度を高めることができる。しかしながら、金属部材200の表面にショット201が衝突したときに、金属部材200の表面から微少な金属片が分離する。そして、この微少な金属片が粉塵202となって金属部材200の周囲の環境に飛散するという課題がある。特に、マグネシウムやアルミニウムのような粉塵爆発が発生しやすい材料を含む金属部材にショットピーニングを行うときには、粉塵爆発を防止するために、集塵装置が設置された環境でショットピーニングを行う必要があり、製造工程が複雑化するとともに高コスト化していた。
【0007】
本発明は、ショットピーニング時の粉塵の飛散を防止する非鉄金属部材の製造方法、およびその製造方法によって製造された非鉄金属部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材の製造方法は、非鉄金属の所定形状のベース部材を形成する工程と、前記ベース部材の表面に密着膜を形成する工程と、前記密着膜が形成された前記ベース部材にショットピーニングを行って非鉄金属部材を得る工程とを含む。
【0009】
ある実施形態によれば、前記密着膜は、前記ベース部材の前記ショットピーニングが行われる部分において連続して形成されていてもよい。
【0010】
ある実施形態によれば、前記密着膜を形成する工程は、前記ベース部材に塗装を行う工程を含み、前記塗装の後に、前記ベース部材にショットピーニングを行ってもよい。
【0011】
ある実施形態によれば、前記ベース部材に塗装を行う工程は、前記ベース部材を加熱する工程を含んでもよい。
【0012】
ある実施形態によれば、前記ベース部材に塗装を行う工程は、複数種類の塗膜を積層する工程を含み、前記複数種類の塗膜を積層した後に、前記ベース部材にショットピーニングを行ってもよい。
【0013】
ある実施形態によれば、前記密着膜は有機塗料を含む塗膜であってもよい。
【0014】
ある実施形態によれば、前記密着膜は金属膜であってもよい。
【0015】
ある実施形態によれば、前記非鉄金属は、マグネシウム合金またはアルミニウム合金であってもよい。
【0016】
ある実施形態によれば、前記非鉄金属部材は前記ベース部材の表面に凹凸を有してもよい。
【0017】
ある実施形態によれば、前記非鉄金属部材はホイールであってもよい。
【0018】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材の製造方法を用いて製造される。
【0019】
本発明の実施形態に係る車両は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材の製造方法を用いて製造された非鉄金属部材を有する。
【0020】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材は、非鉄金属で形成されたベース部材と、前記ベース部材の表面に形成された密着膜とを有し、前記ベース部材の少なくとも一部には、複数のくぼみが形成されており、前記密着膜は、前記複数のくぼみに応じて変形しており、前記ベース部材の前記複数のくぼみが形成されている部分の圧縮残留応力は、前記複数のくぼみが形成されない場合の圧縮残留応力よりも大きい。
【0021】
ある実施形態によれば、前記ベース部材の前記複数のくぼみが形成されている部分の圧縮残留応力は、前記ベース部材の前記複数のくぼみが形成されていない部分の圧縮残留応力よりも大きくてもよい。
【0022】
ある実施形態によれば、前記非鉄金属部材はホイールであり、前記ホイールのリムの外周部に前記複数のくぼみが形成されていてもよい。
【0023】
本発明の実施形態に係る車両は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材を有する。
【0024】
以下、本発明の作用・効果を説明する。
【0025】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材の製造方法によれば、非鉄金属のベース部材の表面に密着膜を形成し、その密着膜が形成されたベース部材にショットピーニングを行って非鉄金属部材を得る。ショットピーニングにおいてショットがベース部材に衝突しても、密着膜があるため粉塵が飛散しない。ベース部材表面の密着膜が粉塵の飛散を防止するため、粉塵爆発を防止するための集塵装置が不要となり、製造工程を単純にすることができるとともに製造コストを低下させることができる。
【0026】
ある実施形態によれば、密着膜は、ベース部材のショットピーニングが行われる部分において連続して形成されていてもよい。ベース部材表面に連続して形成された密着膜により粉塵の飛散を防止することができる。
【0027】
ある実施形態によれば、密着膜を形成する工程はベース部材に塗装を行う工程を含み、塗装の後に、ベース部材にショットピーニングを行ってもよい。ベース部材表面に密着性を有する塗膜を形成することにより、粉塵の飛散を防止することができる。
【0028】
ある実施形態によれば、ベース部材に塗装を行う工程は、ベース部材を加熱する工程を含んでもよい。実施形態に係る製造方法では、塗装後にショットピーニングを行うため、ショットピーニングによりベース部材に付与された圧縮残留応力は、塗装時の加熱により減少することはない。
【0029】
ある実施形態によれば、ベース部材に塗装を行う工程は複数種類の塗膜を積層する工程を含み、複数種類の塗膜を積層した後に、ベース部材にショットピーニングを行ってもよい。実施形態に係る製造方法では、塗装後にショットピーニングを行うため、ショットピーニングによりベース部材に付与された圧縮残留応力は、塗装時の加熱により減少することはない。
【0030】
ある実施形態によれば、密着膜は有機塗料を含む塗膜であってもよい。ベース部材表面に密着性を有する塗膜を形成することにより、粉塵の飛散を防止することができる。
【0031】
ある実施形態によれば、密着膜は金属膜であってもよい。ベース部材表面に密着性を有する金属膜を形成することにより、粉塵の飛散を防止することができる。
【0032】
ある実施形態によれば、非鉄金属は、マグネシウム合金またはアルミニウム合金であってもよい。粉塵爆発が発生しやすい材料を含むベース部材を用いる場合でも、ベース部材表面の密着膜が粉塵の飛散を防止するため、粉塵爆発を防止するための集塵装置が不要となり、製造工程を単純にすることができるとともに製造コストを低下させることができる。
【0033】
ある実施形態によれば、非鉄金属部材はベース部材の表面に凹凸を有してもよい。ベース部材の表面が凹凸を有している場合でも、密着膜がその凹凸形状に対して密着を維持するため、粉塵の飛散を防止することができる。
【0034】
ある実施形態によれば、非鉄金属部材はホイールであってもよい。実施形態に係る製造方法により、ホイールの強度をより高めることができる。
【0035】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材の製造方法を用いて製造される。これにより、強度をより高めた非鉄金属部材を得ることができる。
【0036】
本発明の実施形態に係る車両は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材の製造方法を用いて製造された非鉄金属部材を有する。これにより、強度をより高めた車両を得ることができる。
【0037】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材によれば、密着膜はベース部材の複数のくぼみに応じて変形しており、ベース部材の複数のくぼみが形成されている部分の圧縮残留応力は、複数のくぼみが形成されない場合の圧縮残留応力よりも大きい。これにより、強度をより高めた非鉄金属部材を得ることができる。
【0038】
ある実施形態によれば、ベース部材の複数のくぼみが形成されている部分の圧縮残留応力は、ベース部材の複数のくぼみが形成されていない部分の圧縮残留応力よりも大きくてもよい。これにより、強度をより高めた非鉄金属部材を得ることができる。
【0039】
ある実施形態によれば、非鉄金属部材はホイールであり、ホイールのリムの外周部に複数のくぼみが形成されている。これにより、強度をより高めたホイールを得ることができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る車両は、上記の何れかに記載の非鉄金属部材を有する。これにより、強度をより高めた車両を得ることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、非鉄金属のベース部材に密着膜を形成した後、その密着膜が形成されたベース部材にショットピーニングを行う。ショットピーニングにおいてショットがベース部材に衝突しても、密着膜があるため粉塵が飛散しない。ベース部材表面の密着膜が粉塵の飛散を防止するため、粉塵爆発を防止するための集塵装置が不要となり、製造工程を単純にすることができるとともに製造コストを低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る非鉄金属部材の製造方法を説明する。以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。実施形態の説明においては、同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。
【0044】
本発明の実施形態に係る非鉄金属部材は、例えば自動二輪車のホイールである。
図1は、本実施形態に係る自動二輪車のホイール10を示す図である。ホイール10は、環状のリム12と、車軸を通すためのセンターボア部13と、リム12の内周部14とセンターボア部13とを接続するスポーク16とを有する。本実施形態のホイール10は、必要な強度と靭性を確保できる最小の肉厚にして軽量化を図っている。
【0045】
自動二輪車の完成品において、リム12の外周部15にはタイヤが装着される。この例では、ホイール10は、マグネシウム合金製のホイールである。マグネシウム合金として、例えばMg−Al−Mn系合金を用いることができる。Mg−Al−Mn系合金の一例としてはAM60B(ASTM規格)がある。AM60Bは、MDC2B(JIS規格)とも称される。なお、ホイール10は、アルミニウム合金製のホイールであってもよい。アルミニウム合金として、例えばAl−Si−Mg系合金を用いることができる。Al−Si−Mg系合金の一例としてはA356(ASTM規格)がある。A356は、AC4CH(JIS規格)とも称される。なお、これらの材料は例であり、本発明はこれらに限定されず、別の材料が用いられてもよい。
【0046】
図2は、本実施形態に係るホイール10の製造方法を示すフローチャートである。ホイール10は、例えば鋳造により形成される(ステップS11)。この例では鋳造を行うが、鋳造の代わりに鍛造を行ってもよい。鋳造では、所定の金型にマグネシウム合金材料を注ぎ込むことにより、ホイール10の所定形状のベース部材が得られる。
【0047】
次に、得られたベース部材に対して仕上げ加工を行う(ステップS12)。仕上げ加工では、鋳物表面の研磨および/または化学エッチング等を行うことにより、鋳物表面の酸化物や不純物を除去し、表面の状態を整える。次に、ホイール10のベース部材に対して化成処理を行い(ステップS13)、ベース部材表面の耐食性や塗膜の密着性を向上させる。この例では、化成処理として燐酸塩系皮膜処理を行った。
【0048】
次に、ホイール10のベース部材に密着膜を形成する(ステップS14)。密着膜は、例えば有機塗料を含む塗膜であり、ホイール10のベース部材に対して塗装を行うことで、塗膜が形成される。
図3は、ホイール10のベース部材に対する塗装工程を示す断面図である。
図3(a)は、ホイール10のベース部材11の断面の一部を示している。
図3(b)に示すように、ベース部材11のリムの外周部15に塗膜21を形成する。リムの外周部15はタイヤに覆われて外部から視認できないが、塗膜21を形成することでマグネシウム合金の耐食性が向上しており、また商品性が向上している。
【0049】
塗装においては、ベース部材11のリムの外周部15に、例えばエポキシ樹脂系の塗料を塗布し、温度約120〜140℃で約15分程度の焼き付けを行うことで、外周部15に塗膜21を形成する。塗膜21として、アクリル系、メラミン系あるいはウレタン系の塗料を用いてもよい。また、リムの外周部15の焼き付けは、下記のリムの内周部14の焼き付けと同時に行ってもよい。
【0050】
図3(c)に示すように、ベース部材11のリムの内周部14には、プライマ層24、ベースコート層26、トップコート層28の3層の塗膜を積層する。リムの内周部14は、自動二輪車の完成品において外部に露出する部分であるため、複数種類の塗膜を積層することにより外観を向上させている。
【0051】
リムの内周部14のプライマ層24は、例えばポリエステル樹脂系あるいはアクリル樹脂系などの厚膜溶剤塗料をベース部材11のリムの内周部14に塗布し、温度約120〜140℃で約15分程度の焼き付けを行うことで形成する。次に、アクリル樹脂系などの有色溶剤塗料をプライマ層24上に塗布し、温度約120〜140℃で約15分程度の焼き付けを行うことでベースコート層26を形成する。次に、クリアー溶剤塗料をベースコート層26上に塗布し、温度約140℃で約20分程度の焼き付けを行うことでトップコート層28を形成し、3層の塗膜が得られる。
【0052】
ベース部材11に塗装を行った後、塗膜が形成されたベース部材11にショットピーニングを行い(
図2のステップS15)、強度が高められたホイール10(
図1)が得られる。本実施形態のホイール10は、必要強度と靭性を確保できる最小の肉厚にして軽量化を図っているが、ショットピーニングによって更に強度を向上させることができる。
【0053】
図4は、本実施形態に係るショットピーニング装置30を示す図である。
図5は、ショットピーニングが行われるベース部材11の表面付近を示す断面図である。
図4に示すショットピーニング装置30は、圧縮気体を出力するコンプレッサー31と、ショット(投射材)41を格納するタンク32と、ショット41を投射するノズル33とを備える。被加工部材であるホイールのベース部材11は、支持装置50に支持される。コンプレッサー31から出力された圧縮気体は、ホース35を介してノズル33に送り込まれ、タンク32内のショット41は、ホース36を介してノズル33に送り込まれる。ノズル33内でショット41は圧縮気体によって加速され、ノズル33の先端から投射される。投射されたショット41をベース部材11に衝突させることで、ベース部材11の表面が凹まされて変形し、ベース部材11に圧縮残留応力が付与される。支持装置50がホイールのベース部材11を回転させる等、ベース部材11の位置や方向を変化せることにより、リムの外周部15の全周にわたってショットピーニングを行うことができる。なお、ノズル33の位置を移動させることにより、リムの外周部15の全周にわたってショットピーニングを行ってもよい。また、部分的にショットピーニングを行ってもよい。
【0054】
図5を参照して、本実施形態では、ベース部材11に塗膜21を形成した後、その塗膜21が形成されたベース部材11にショットピーニングを行う。
【0055】
ベース部材11のショットピーニングが行われた部分には複数のくぼみが形成され、塗膜21は、それらくぼみの形成に追従して変形する。この例では、ホイールのリムの外周部15に複数のくぼみが形成され、塗膜21はそれらくぼみの形成に追従して変形する。ショットピーニングによりくぼみが形成された部分の圧縮残留応力は、くぼみ形成前よりも大きくなる。また、くぼみが形成されている部分の圧縮残留応力は、ベース部材11のくぼみが形成されていない部分の圧縮残留応力よりも大きくなる。
【0056】
塗膜21は、ベース部材11のショットピーニングを行う部分において連続して形成されている。このため、ショットピーニングにおいてショット41が高速でベース部材11の表面に衝突しても、ベース部材11の表面に密着した塗膜21が僅かに削られるだけである。このように、塗膜21によりマグネシウムの粉塵の飛散が防止されるため、粉塵爆発を防止するための集塵装置が不要となり、製造工程を単純にすることができるとともに製造コストを低下させることができる。
【0057】
上述のように、ベース部材11のショットピーニングが行われた部分には複数のくぼみが形成され、その表面は凹凸を有するようになる。ベース部材11の表面に形成する膜は、それら凹凸に沿って変形するように密着性を有していることが望ましい。本実施形態では、密着性を有する有機系の塗膜21を用いているため、ベース部材11の表面の凹凸に沿って変形し、マグネシウム合金製のベース部材11の耐食性を確保することができる。
【0058】
上記の例では、密着膜として有機系の塗膜21を用いたが、無機系の密着膜を用いてもよい。例えば、密着膜は金属膜であってもよい。この場合は、ベース部材11のリムの外周部15にめっきを行うことで、外周部15に金属膜を形成する。金属膜の材料としては、延性の高い金属を用いることができ、例えば、金、銀、白金、ニッケル、銅、亜鉛、スズ等を用いることができる。
【0059】
なお、塗膜21の代わりに、ベース部材11にフィルムを貼ることも考えられるが、例えばリム12の外周部15のように、ベース部材11が凹凸を有する製品形状であるとフィルムを貼ることが困難である。また、フィルムを貼ることができたとしても、フィルムは、ショットピーニングの際にベース部材11の表面の凹凸に追従せずに剥離し、ベース部材11とフィルムとの間の密着を維持するのが困難である。また、ベース部材11とフィルムとが剥離した状態でショットピーニングを行うと、フィルムが損傷したり、剥がれたフィルムにショットが衝突して圧縮残留応力が減少したりするおそれがある。上記の塗膜や金属膜は、ベース部材11の表面の凹凸に沿って変形して密着を維持するため、塗膜や金属膜を用いることが望ましい。
【0060】
密着膜として塗膜21を用いる場合、塗膜21にショット41が強く衝突すると塗膜21のはがれが発生する可能性がある。塗膜21がはがれるとマグネシウム合金製のベース部材11の耐食性が低下したり、商品性が低下したりする。本願発明者は、ベース部材11に所望の圧縮残留応力を付与することができ、且つ塗膜21がはがれないショットピーニングの方法について鋭意研究を行い、それらを両立するショットピーニング方法を見出した。
【0061】
図6は、ショットピーニング条件と塗膜の剥がれの有無との関係を示している。この例では、ベース部材11の材料はAM60B、塗膜の材料はエポキシ樹脂系塗料、塗膜の厚さは20μmである。
【0062】
実験を行った多くのショットピーニング条件において塗膜21のはがれが発生したが、本願発明者は試行錯誤を重ね、塗膜21がはがれず且つ所望の圧縮残留応力を付与できるショットピーニング条件を見出した。ショットピーニング条件として、材料がZnで直径が0.3mmのショット(投射材)を用い、投射圧0.1MPa、投射距離200mm、投射時間60秒のとき、塗膜21がはがれず且つ所望の圧縮残留応力を付与できた。また、材料がZnで直径が0.3mmのショットを用い、投射圧0.1MPa、投射距離100mm、投射時間30秒のとき、塗膜21がはがれず且つ所望の圧縮残留応力を付与できた。また、材料がZnで直径が0.4mmのショットを用い、投射圧0.1MPa、投射距離100mm、投射時間30秒のとき、塗膜21がはがれず且つ所望の圧縮残留応力を付与できた。
【0063】
図7は、ベース部材11に付与された圧縮残留応力を示す図である。縦軸は圧縮残留応力を示し、横軸はベース部材11の表面からの深さを示している。この例におけるショットピーニング条件は、ショットの材料がZnで直径は0.3mm、投射圧0.1MPa、投射距離100mm、投射時間30秒である。
図7に示すように、マグネシウム合金製のベース部材11に約80MPaの圧縮残留応力が付与できており、強度を高めることができている。
【0064】
圧縮残留応力は、材料の表面に窪みができることに対する反作用の力で発生する。窪みは、材料の降伏点が低いほど形成されやすい。合金の組成にもよるが、マグネシウムの降伏点は約120MPaと、一般的な鋼の降伏点(約400MPa)よりも低いため、上記のような衝突エネルギーが小さい条件下でも、圧縮残留応力の付与が可能である。
【0065】
また、アルミニウムの降伏点も約200MPaと低いため、比較的小さな投射圧でも圧縮残留応力の付与が可能である。このため、アルミニウム合金製の部材の製造においても、本実施形態の製造方法を適用することにより、粉塵の飛散を防止することができるとともに、圧縮残留応力の付与を行うことができる。アルミニウムは粉塵爆発が発生しやすい材料であるため、本実施形態の粉塵の飛散を防止する製造方法は有用である。
【0066】
なお、上記のショットピーニング条件は例であり、本発明はそれらに限定されない。例えば、ショットの材料として、ガラス、樹脂、アルミナ等の密度の小さい材料を用いてもよい。
【0067】
次に、比較例として、ショットピーニングを行った後に塗装を行うマグネシウム合金製の部材の製造方法を説明する。
図8は、比較例の製造方法を示すフローチャートである。
図8に示すステップS21およびS22の工程は、
図2に示すステップS11およびS12の工程と同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0068】
ステップS22の仕上げ加工の後、マグネシウム合金製のベース部材に対してショットピーニングを行う(ステップS23)。
【0069】
図9は、比較例におけるショットピーニング工程を示す図である。比較例におけるショットピーニングは、集塵装置60が設置された環境で行う必要がある。
図14を用いて説明したように、マグネシウム合金製のベース部材の表面を直接露出させた状態で、ショットが衝突する。そうすると、衝撃でベース部材の表面から微少な金属片が分離する。マグネシウムは粉塵爆発が発生しやすい材料であるので、粉塵爆発を防止するために、集塵装置60が設置された環境でショットピーニングを行う必要がある。マグネシウム合金製のベース部材71の表面から分離して飛散した粉塵72は、集塵装置60のノズル61から吸引され、集塵装置60内部の容器に堆積される。このように、マグネシウムの粉塵が発生する場合は、集塵装置60が設置された環境が必要となり、製造工程が複雑化するとともに高コスト化する。
【0070】
なお、比較例では、塗装の前にショットピーニングを行うため、塗装のはがれを考慮する必要が無い。このため、投射条件が強めのショットピーニングを行って大きな圧縮残留応力を付与することは可能である。
図10は、ベース部材に付与された圧縮残留応力を示す図である。縦軸は圧縮残留応力を示し、横軸はベース部材11の表面からの深さを示している。
【0071】
図10に示す実線81は、上述した本実施形態の製造方法において付与された圧縮残留応力を示しており、
図7に示す圧縮残留応力と同じである。
図10に示す点線83は、比較例のショットピーニングにおいて付与された圧縮残留応力を示している。比較例におけるベース部材の材料はAM60Bであり、比較例におけるショットピーニング条件は、ショットの材料がZnで直径は0.3mm、投射圧0.3MPa、投射距離200mm、投射時間60秒である。このように、比較例では、塗装のはがれを考慮する必要が無いため、投射条件が強めのショットピーニングを行って大きな圧縮残留応力を付与することができる。しかし、後述するように、ショットピーニング後の工程において、圧縮残留応力は低下することになる。
【0072】
比較例において、集塵装置60が設置された環境でショットピーニングを行った後、化成処理を行う(ステップS24)。この化成処理では、ベース部材の表面を清浄化するためにエッチング処理を行うが、このときベース部材の表面が削られるため、ベース部材の圧縮残留応力が低下する。
図10に示す点線84は、化成処理後のベース部材の圧縮残留応力を示している。ショットピーニング直後の圧縮残留応力(点線83)と比較して、化成処理後は圧縮残留応力が低下していることが分かる。
【0073】
次に、化成処理の後、ベース部材に対して塗装を行う(ステップS25)。この比較例においては、塗料としてエポキシ樹脂系塗料を用い、温度170℃で20分の焼き付けを行った。
図10に示す点線85は、塗装後のベース部材の圧縮残留応力を示している。塗装後は圧縮残留応力がわずかになっていることが分かる。
【0074】
マグネシウムは、クリープ変形が顕著に表れる温度が約100℃と低いため、ショットピーニングによりベース部材に付与された圧縮残留応力は、塗装の焼き付け工程時の加熱により大きく減少してしまうことになる。マグネシウム合金の耐食性を向上させたり、商品性を向上させたりするためには塗装を行うことが望ましいが、その塗装によって圧縮残留応力が大きく減少するという問題がある。
【0075】
一方、
図1から
図7を用いて説明した本実施形態の製造方法では、塗装後にショットピーニングを行うため、ショットピーニングによりベース部材に付与された圧縮残留応力は、塗装の焼き付け工程時の加熱により減少することはない。このため、所望の強度の金属部材(例えばホイール10)を得ることができる。
【0076】
次に、本実施形態の製造方法の別の例を説明する。
図6を参照して説明したショットピーニング条件によって、塗膜21がはがれずに且つ所望の圧縮残留応力を付与できることを示した。以下では、そのようなショットピーニング条件よりも強いショットピーニングを塗装後のベース部材に対して行い、その後、低温塗装により塗膜の傷を修復する製造方法を説明する。
【0077】
図11は、低温塗装を含む製造方法を示すフローチャートである。
図11に示すステップS31からS34の工程は、
図2に示すステップS11からS14の工程と同じであるので、ここでは説明を省略する。ステップS35においてベース部材に対してショットピーニングを行う。この例におけるショットピーニング条件は、ショットの材料がZnで直径は0.3mm、投射圧0.3MPa、投射距離100mm、投射時間30秒である。この例では、やや強めのショットピーニングを塗装後のベース部材に対して行うため、塗膜には傷が発生する(この際、傷が大きいと露出したベース部材の表面にショットが衝突して微少な金属片が剥離する場合がある)。ステップS36の低温塗装においてその塗膜の傷を修復する。低温塗装としては、例えば、塗料としてウレタン系塗料を用い、温度80℃で塗装を行うことができる。低温塗装により傷を修復することができるが、低温塗装における焼付け時の応力緩和のため、圧縮残留応力は低下する。
【0078】
図12は、低温塗装後の圧縮残留応力を示す図である。縦軸は圧縮残留応力を示し、横軸はベース部材11の表面からの深さを示している。
図12に示す一点鎖線87は、低温塗装後の圧縮残留応力を示している。低温塗装により圧縮残留応力が低下し、上述の実施形態の製造方法により得られた圧縮残留応力(実線81)よりも低い値になってしまう。
【0079】
なお、上記の実施形態の説明では、非鉄金属部材の一例として自動二輪車のホイールを例示したが、自動二輪車の別の非鉄金属部材にも本発明は適用可能である。例えば、自動二輪車のフレームやボディにも本発明は適用可能である。
【0080】
図13は、本発明の実施形態に係る自動二輪車100を示す側面図である。自動二輪車100はメインフレーム102を備えている。メインフレーム102の前端上部にはヘッドパイプ103が設けられている。ヘッドパイプ103にはステアリングシャフト104が挿通されている。ステアリングシャフト104の上端部にはハンドル105が連結されている。
【0081】
ステアリングシャフト104の下端部には一対の伸縮可能なフロントフォーク107が連結されている。これより、ハンドル105の回転操作によってフロントフォーク107が揺動する。フロントフォーク107の下端部には前輪108が回転可能に取り付けられている。フロントフォーク107の伸縮により前輪108の振動が吸収される。また、フロントフォーク107の下端部には前輪ブレーキ110が取り付けられ、ブレーキレバーの操作により前輪108の回転を制動する。前輪108の上部には、前輪カバー111がフロントフォーク107に固定されている。
【0082】
メインフレーム102の上部には、燃料タンク115とシート116とが前後に並んで保持されている。燃料タンク115の下方には、エンジン117と変速機118とがメインフレーム102に保持されている。メインフレーム102には、カバー112が取り付けられ、ハンドル105周りやエンジン117周りを保護している。
【0083】
メインフレーム102の下部後側にはスイングアーム121が揺動可能に支持されている。スイングアーム121の後端部には、ドリブンスプロケット122および後輪123が回転可能に支持されている。後輪123には、後輪ブレーキ126が設けられている。ドライブスプロケット120とドリブンスプロケット122との間には、チェーン124が懸架されており、エンジン117で発生した駆動力は、チェーン124を介して後輪123に伝達される。
【0084】
なお、上記の実施形態の製造方法で製造されたホイール10は、前輪108および後輪123のホイールとして用いることができる。また、本発明は、ホイール以外の非鉄金属部材にも適用可能である。例えば、メインフレーム102、カバー111および112等に本発明は適用可能であるが、それら以外の部材にも適用可能であることは言うまでもない。
【0085】
また、上述の説明では、非鉄金属部材が搭載される乗り物は自動二輪車等の車両であったが、本発明は車両に限定されず、船舶や航空機にも適用可能である。また、乗り物は、人が乗る輸送機械に限定されず、無人で動作する輸送機械であってもよい。また、本発明はロボット等の機械、建築物等の構造物にも適用することができる。本発明は、非鉄金属部材を用いる機械および構造物に適用することができる。
【0086】
上述の実施形態の説明は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。本発明は、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、改変、置き換え、付加および省略などが可能である。
【解決手段】本発明の実施形態に係る非鉄金属部材の製造方法は、非鉄金属の所定形状のベース部材11を形成する工程と、ベース部材11の表面に密着膜21を形成する工程と、密着膜21が形成されたベース部材11にショットピーニングを行って非鉄金属部材10を得る工程とを含む。