(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Zが、ポリ(アルキレングリコール)、多糖類、ポリ(ビニルアルコール)、ポリピロリドン、ポリオキシエチレンブロックコポリマー(PLURONIC(登録商標))、およびそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載のポリマーコンジュゲート。
Xが、1,6ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン(CPH)、またはポリCPH(PCPH)とポリセバシン酸無水物との組合せを含む、請求項7に記載のポリマーコンジュゲート。
Zが、ポリ(アルキレングリコール)、多糖類、ポリ(ビニルアルコール)、ポリピロリドン、ポリオキシエチレンブロックコポリマー、およびそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項11に記載のポリマーコンジュゲート。
前記眼内血管新生疾患または障害が、脈絡膜血管新生を伴う加齢黄斑変性症、増殖性糖尿病網膜症、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、変性近視、フォンヒッペル−リンドウ病、推定眼ヒストプラスマ症候群(POHS)、および網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、および網膜中心動脈閉塞症などの虚血に伴う状態、腫瘍を伴う血管新生、眼創傷を伴う血管新生、網膜血管新生、角膜移植後拒絶反応、血管新生を引き起こす手術に由来する合併症、血管新生を引き起こす損傷に由来する合併症、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項39に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0036】
I.定義
本明細書で使用する「活性剤」とは、身体において局所的、および/または全身的に作用する、生理的または薬理学的な活性物質を指す。活性剤は、疾患または障害の処置(例えば、治療剤)、予防(例えば、予防剤)、または診断(例えば、診断剤)のために、患者に投与される物質である。本明細書で使用する「点眼薬」または「点眼活性剤」とは、眼の疾患または障害の1つもしくは複数の症状を緩和する、その発症を遅延させる、または上記症状を予防するために患者に投与される薬剤、あるいは眼の画像化または他には眼評価に有用な診断剤を指す。
【0037】
本明細書で使用する「有効量」または「治療有効量」とは、特に眼の疾患もしくは障害の1つまたは複数の症状の緩和、その発症の遅延、または上記症状の予防に有効なポリマー薬物コンジュゲートの量を指す。加齢黄斑変性症の場合、有効量のポリマー薬物コンジュゲートは、患者における視力喪失を遅延させる、低減する、または予防する。本明細書で使用する「生体適合性」および「生物学的に適合性がある」とは、任意の代謝物またはその分解産物と共に、レシピエントに対して一般に非毒性であり、かつレシピエントに対して何ら顕著な有害な影響を引き起こさない物質を一般に指す。一般的に言えば、生体適合性物質とは、患者に投与した場合、顕著な炎症性または免疫応答を誘発しない物質である。
【0038】
本明細書で使用する「生分解性ポリマー」とは、生理的条件下で、酵素作用および/または加水分解により分解または浸食を受けて、より小さな単位、または対象により代謝、排出、もしくは排泄することが可能な化学種になるポリマーを一般に指す。分解時間は、ポリマー組成、形態(多孔度など)、粒子寸法、および環境の関数である。
【0039】
本明細書で使用する「親水性」とは、水に対する親和性を有する特性を指す。例えば、親水性ポリマー(または親水性ポリマーセグメント)は、水溶液に主に可溶であり、かつ/または水を吸収する傾向を有するポリマー(またはポリマーセグメント)である。一般に、ポリマーが親水性であればある程、ポリマーは水に溶解する、水と混合する、または水により湿潤する傾向が高い。
【0040】
本明細書で使用する「疎水性」とは、水に対する親和性が無いか、または水をはじくことさえある特性を指す。例えば、ポリマー(または、ポリマーセグメント)が疎水性であればある程、ポリマー(または、ポリマーセグメント)は水に溶解しない、水と混合しない、または水により湿潤しない傾向が高い。
【0041】
親水性および疎水性は、以下に限定されないが、ポリマーまたはポリマーセグメントの群の範囲内の親水性/疎水性のスペクトルなどの相対語で述べることができる。2種以上のポリマーを議論する一部の実施形態では、用語「疎水性ポリマー」とは、親水性が一層高い別のポリマーと比べた場合の、ポリマーの相対的な疎水性に基づいて定義することができる。
【0042】
本明細書で使用する「ナノ粒子」は、約10nm〜約1ミクロン未満、好ましくは100nm〜約1ミクロンの平均直径などの直径を有する粒子を一般に指す。粒子は、どのような形も有することができる。球形を有するナノ粒子は、一般に「ナノ球体」と呼ばれる。
【0043】
本明細書で使用する「マイクロ粒子」は、約1ミクロン〜約100ミクロン、好ましくは約1ミクロン〜約50ミクロン、より好ましくは約1〜約30ミクロンの平均直径などの直径を有する粒子を一般に指す。マイクロ粒子は、どのような形態も有することができる。球形を有するマイクロ粒子は、一般に「マイクロ球体」と呼ばれる。
【0044】
本明細書で使用する「分子量」とは、別段の指定がない限り、バルクポリマーの相対的な平均鎖長を一般に指す。実際、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または毛細管粘度測定法を含めた様々な方法を使用して見積もるかまたは特徴づけることができる。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)とは対照的に、重量平均分子量(Mw)として報告される。毛細管粘度測定法は、特定の一連の濃度、温度、および溶媒条件を使用して、希釈ポリマー溶液から決定される固有の粘度として、分子量が見積もられる。
【0045】
本明細書で使用する「平均粒子サイズ」とは、粒子集団中の粒子の統計的な平均粒子サイズ(直径)を一般に指す。本質的に球状の粒子の直径とは、物理的または流体力学的直径を指すことがある。非球状粒子の直径は、流体力学的直径を優先的に指すことがある。本明細書で使用する場合、非球状粒子の直径は、粒子表面の2点間の最大の直線距離間を指すことがある。平均粒子サイズは、動的光散乱などの分野で公知の方法を使用して測定することができる。
【0046】
「単分散」および「均一なサイズ分布」とは、本明細書では互換的に使用され、粒子のすべてが同じかまたはほとんど同じサイズのナノ粒子またはマイクロ粒子の集団を説明するものである。本明細書で使用する場合、単分散分布とは、分布の90%以上がメジアン粒子サイズの15%以内、より好ましくはメジアン粒子サイズの10%以内、最も好ましくはメジアン粒子サイズの5%以内におさまる粒子分布を指す。
【0047】
本明細書で使用する「薬学的に許容される」とは、信頼できる医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織に接触させて使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比と釣り合いのとれている、化合物、担体、賦形剤、組成物、および/または剤形を指す。
【0048】
本明細書で使用する「分岐点」とは、複数の親水性ポリマーセグメントを疎水性ポリマーセグメントの一端に、または複数の疎水性ポリマーセグメントを親水性セグメントの一端に接続する働きをするポリマー薬物コンジュゲートの一部分を指す。
【0049】
本明細書で使用する「HIF−1阻害剤」とは、HIF−1レベル、および/またはそのプロモーター領域における低酸素応答性エレメントを含有している遺伝子の転写を刺激する能力を低下する薬物を指す。
【0050】
本明細書で一般に使用される「インプラント」とは、埋込み部位において長期間にわたり1種または複数のHIF−1阻害剤を放出することにより、治療的利益がもたらされるよう、身体の特定の領域に、好ましくは注射または外科的埋め込みにより埋め込みまれるよう構造化されているか、あるサイズに作製されているか、その他には構成されている、ポリマーデバイスまたは要素のことを指す。例えば、眼内インプラントは、好ましくは注射または外科的埋め込みにより眼内に配置させるよう、および長期間にわたり1種もしくは複数のHIF−1阻害剤を放出することにより1つまたは複数の眼の疾患あるいは障害を処置するよう構造化されているか、あるサイズに作製されているか、その他には構成されている、ポリマーデバイスまたは要素のことを指す。眼内インプラントは一般に、眼の生理的条件と生体適合性があり、有害な副作用を引き起こさない。一般に、眼内インプラントは、眼の視力を乱すことなく、眼に配置することができる。
【0051】
本明細書において定義されている値の範囲は、その範囲内の値すべて、およびその範囲内にあるすべての部分範囲を含む。例えば、範囲が0〜10の整数として定義される場合、その範囲は、その範囲内の整数すべて、ならびにその範囲内の任意の部分範囲および部分範囲のすべてを包含する(例えば、1〜10、1〜6、2〜8、3〜7、3〜9など)。
【0052】
II.ポリマー薬物コンジュゲート
1種または複数のHIF−1阻害剤の放出制御のために、ポリマービヒクルにコンジュゲートされているかまたはその中に分散されている、1種または複数のHIF−1阻害剤を含む放出制御コンジュゲートが提供される。HIF−1阻害剤の放出制御コンジュゲートの投与により、活性が増強されて延長する一方、毒性は低下するか、またはなくなる。
【0053】
一部の実施形態では、1種または複数のHIF−1阻害剤は、眼へ送達するためのポリマーマトリックス中に分散されているか、または封入されている。ポリマーマトリックスは、非生分解性または生分解性ポリマーから形成することができる。しかし、このポリマーマトリックスは生分解性であることが好ましい。眼へ送達するために、ポリマーマトリックスから、インプラント、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはそれらの組合せ物を形成することができる。投与すると、ポリマーマトリックスの分解、1種または複数の阻害剤のポリマーマトリックスからの拡散、またはそれらの組合せのいずれかの際に、1種または複数のHIF−1阻害剤は長期間にわたり放出される。ポリマー薬物コンジュゲートの使用により、より一層制御された薬物搭載、および薬物放出プロファイルを有する粒子を形成することができる。
【0054】
一部の実施形態では、放出制御製剤は、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成された粒子を含有している。ポリマー薬物コンジュゲートは、ブロックコポリマーに共有結合している1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している、ブロックコポリマーである。典型的には、ポリマー薬物コンジュゲートは、HIF−1阻害剤、1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメント、および1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントを含有している。ある種の場合には、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントが、分岐点により1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメントに付着している。ポリマー薬物コンジュゲートの使用により、より一層制御された薬物搭載、および薬物放出プロファイルを有する粒子を形成することができる。さらに、コンジュゲートの溶解度は、可溶な薬物濃度、したがって毒性を最小限にするよう制御することができる。
【0055】
ある種の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、生体浸食性ポリマーセグメントに共有結合的に付着している1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している。好ましくは、HIF−1阻害剤が付着している生体浸食性セグメントは、水溶液中での溶解度が低い1種または複数のモノマーからなる。ある種の実施形態では、1種または複数のモノマーは、水中に2g/L未満、より好ましくは1g/L未満、より好ましくは0.5g/L未満、最も好ましくは0.3g/L未満の溶解度を有する。
【0056】
A.ポリマー薬物コンジュゲートの構造
ブロックコポリマーに共有結合的に付着しているHIF−1阻害剤を含有しているポリマー薬物コンジュゲートが提供される。
【0057】
一実施形態では、コンジュゲートは、式
【化6】
(式中、
Aは、出現毎に独立して、HIF−1阻害剤を表し;
Xは、出現毎に独立して、疎水性ポリマーセグメントを表し;
Yは、存在しないか、または分岐点を表し;
Zは、出現毎に独立して、親水性ポリマーセグメントを表し;
o、p、およびqは、独立して0または1であり;
mは、A−X分岐の数を表し、1〜20の間の整数であり;
nは、Z、Z−X、およびZ−X−A分岐の数を表し、0〜20の間、より好ましくは1〜20の間の整数であるが、但し、mとnの両方が1に等しい場合、Aはドキソルビシンではない)
を有する。
例示的なポリマー薬物コンジュゲートは、以下に示されている一般式:
【化7】
(式中、
Aは、出現毎に独立して、HIF−1阻害剤を表し;
Xは、出現毎に独立して、疎水性ポリマーセグメントを表し;
Yは、存在しないか、または分岐点を表し;
Zは、出現毎に独立して、親水性ポリマーセグメントを表し;
mは、A−X分岐の数を表し、1〜20の間の整数であり;
nは、Z、Z−X、およびZ−X−A分岐の数を表し、0〜20の間、より好ましくは1〜20の間の整数であるが、但し、mとnの両方が1に等しい場合、Aはドキソルビシンではない)
により表される。
【0058】
Aは、出現毎に独立して、HIF−1阻害剤である。一部の例では、活性剤は、ドキソルビシン(DXR)またはダウノルビシン(DNR)などのアントラサイクリンである。
【0059】
1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメントは、生体適合性のある任意の疎水性ポリマーまたはコポリマーとすることができる。一部の場合、疎水性ポリマーまたはコポリマーは、生分解性である。適切な疎水性ポリマーの例には、以下に限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、またはポリカプロラクトンなどのポリエステル、ポリセバシン酸無水物などのポリ無水物、およびそれらのコポリマーが含まれる。好ましい実施形態では、疎水性ポリマーは、ポリセバシン酸無水物などのポリ無水物、またはそのコポリマーである。
【0060】
1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメントの分解プロファイルは、インビボでの活性剤の放出速度に影響を及ぼすよう、選択することができる。例えば、疎水性ポリマーセグメントは、7日〜2年、より好ましくは7日〜56週、より好ましくは4週〜56週、最も好ましくは8週〜28週までの期間をかけて分解するよう、選択することができる。
【0061】
1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、任意の、生体適合性がある、非毒性の親水性ポリマーまたはコポリマーとすることができる。ある種の実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリ(アルキレングリコール)を含有している。特定の実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、線状PEG鎖である。
【0062】
一部の場合、ポリマー薬物コンジュゲートは、1つの親水性ポリマーセグメント(すなわち、nは1に等しい)しか含有していない。好ましい実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、2つ以上の親水性ポリマー鎖(すなわち、nは2以上である)を含有している。ある種の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、2〜6つ、より好ましくは3〜5つの親水性ポリマー鎖を含有している。一実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、3つの親水性ポリマーセグメントを含有している。
【0063】
疎水性および親水性ポリマーセグメントの両方が存在している場合、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントの分子量の合計は、好ましくは疎水性ポリマーセグメントの分子量よりも大きいことになる。一部の場合、親水性ポリマーセグメントの分子量の合計は、疎水性ポリマーセグメントの分子量の、少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも15倍である。
【0064】
分岐点は、存在する場合、3つ以上の官能基を含有している有機分子とすることができる。好ましくは、分岐点は、少なくとも2つの異なるタイプの官能基(例えば、1種または複数のアルコールと1種または複数のカルボン酸、あるいは1種もしくは複数のハライドと1種もしくは複数のカルボン酸または1種もしくは複数のアミン)を含有することになる。こうした場合、分岐点上に存在している異なる官能基が独立して合成的に対処され、制御された化学量論比で、分岐点への疎水性セグメントおよび親水性セグメントの共有結合的付着を可能にする。ある種の実施形態では、分岐点は、クエン酸、酒石酸、粘液酸、グルコン酸、または5−ヒドロキシベンゼン−1,2,3,−トリカルボン酸などのポリカルボン酸である。
ある種の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、多価分岐点を介して共有結合的に接続している、単一疎水性ポリマーセグメント、および2種以上の親水性ポリマーセグメントから形成される。このタイプの例示的なポリマー薬物コンジュゲートは、以下に示される一般式
【化8】
(式中、
Aは、出現毎に独立して、HIF−1阻害剤を表し;
Xは、疎水性ポリマーセグメントを表し;
Yは分岐点を表し;
Zは、出現毎に独立して、親水性ポリマーセグメントを表し;
nは、0〜300の間、より好ましくは0〜50の間、より好ましくは0〜30の間、最も好ましくは0〜10の間の整数である)
により表される。
【0065】
Aは、出現毎に独立して、HIF−1阻害剤である。一部の例では、HIF−1阻害剤は、ドキソルビシン(DXR)またはダウノルビシン(DNR)などのアントラサイクリンである。
【0066】
疎水性ポリマーセグメントは、生体適合性のある、任意の疎水性ポリマーまたはコポリマーとすることができる。一部の場合、疎水性ポリマーセグメントは、生分解性でもある。適切な疎水性ポリマーの例には、以下に限定されないが、乳酸およびグリコール酸のコポリマー、ポリ無水物、ポリカプロラクトン、およびそれらのコポリマーが含まれる。ある種の実施形態では、疎水性ポリマーはポリセバシン酸無水物などのポリ無水物である。
【0067】
1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、任意の、生体適合性がある、非毒性の親水性ポリマーまたはコポリマーとすることができる。親水性ポリマーセグメントは、例えば、ポリ(アルキレングリコール)、多糖類、ポリ(ビニルアルコール)、ポリピロリドン、またはそれらのコポリマーとすることができる。好ましい実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントはポリエチレングリコール(PEG)であるか、またはこれからなる。
【0068】
ある種の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、2〜6つの間、より好ましくは3〜5つの間の親水性ポリマー鎖を含有している。一実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、3つの親水性ポリマーセグメントを含有している。
【0069】
分岐点は、例えば、複数の官能基を含有している有機分子とすることができる。好ましくは、分岐点は、少なくとも2つの異なるタイプの官能基(例えば、アルコールと複数のカルボン酸、またはカルボン酸と複数のアルコール)を含有することになる。ある種の実施形態では、分岐点はクエン酸分子などのポリカルボン酸である。
【0070】
一部の実施形態では、分岐点は、1つの疎水性ポリマーセグメントと3つの親水性ポリエチレングリコールポリマーセグメントとを接続する。ある種の場合、ポリマー薬物コンジュゲートは、式I
【化9】
(式中、
Aは、HIF−1阻害剤であり;
Lは、出現毎に独立して、エーテル(例えば、−O−)、チオエーテル(例えば、−S−)、二級アミン(例えば、−NH−)、三級アミン(例えば、−NR−)、二級アミド(例えば、−NHCO−;−CONH−)、三級アミド(例えば、−NRCO−;−CONR−)、二級カルバメート(例えば、−OCONH−;−NHCOO−)、三級カルバメート(例えば、−OCONR−;−NRCOO−)、尿素(例えば、−NHCONH−;−NRCONH−;−NHCONR−、−NRCONR−)、スルフィニル基(例えば、−SO−)、またはスルホニル基(例えば、−SOO−)を表し;
Rは、出現毎に個々に、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アルケニル、アルキニル、アリール、またはヘテロアリール基(アルキル、シクロプロピル、シクロブチルエーテル、アミン、ハロゲン、ヒドロキシル、エーテル、ニトリル、CF
3、エステル、アミド、尿素、カルバメート、チオエーテル、カルボン酸、およびアリールから個々に選択される1〜5つの間の置換基により場合により置換されている)であり、
PEGは、ポリエチレングリコール鎖を表し、
【0071】
Xは、疎水性ポリマーセグメントを表す)
によって表すことができる。
【0072】
ある種の実施形態では、分岐点はクエン酸分子であり、親水性ポリマーセグメントはポリエチレングリコールである。こうした場合、ポリマー薬物コンジュゲートは、式IA
【化10】
(式中、
Aは、HIF−1阻害剤であり;
Dは、出現毎に独立して、OまたはNHを表し;
PEGは、ポリエチレングリコール鎖を表し;
Xは、疎水性ポリマーセグメントを表す)
によって表すことができる。
【0073】
一部の実施形態では、Dは、出現毎に、Oである。別の実施形態では、Dは、出現毎に、NHである。さらに別の実施形態では、Dは、出現毎に独立して、OまたはNHである。
一部の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、以下の式
【化11】
(式中、
Aは、HIF−1阻害剤であり;
Xは、疎水性ポリマーセグメント、好ましくはポリ無水物である)
により定義される。
【0074】
B.HIF−1阻害剤
ポリマー薬物コンジュゲートは、1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している。任意の適切なHIF−1阻害剤をポリマー薬物コンジュゲートに取り込むことができる。好ましくは、1種または複数のHIF−1阻害剤は、HIF−1α阻害剤である。阻害剤は、低分子および/もしくは生体分子、または高分子(例えば、タンパク質、酵素、核酸、成長因子、多糖類、脂質など)とすることができる。一部の例では、低分子活性剤は、約2000g/mol未満、好ましくは約1500g/mol未満、より好ましくは約1200g/mol未満、最も好ましくは約1000g/mol未満の分子量を有する。別の実施形態では、低分子活性剤は、約500g/mol未満の分子量を有する。生体分子は、典型的に、約2000g/molより大きい分子量を有しており、アミノ酸(ペプチド、タンパク質、酵素など)または窒素ベースの単位(核酸)などの反復単位から構成することができる。
【0075】
好ましい実施形態では、1種または複数のHIF−1阻害剤は、アントラサイクリンである。ドキソルビシン(DXR)およびダウノルビシン(DNR)などのアントラサイクリンは、DNAに結合し、癌細胞の増殖を抑制する癌化学治療剤である。細胞増殖に対するそれらの活性とは関係なく、DXRおよびDNRは、HIF−1の転写活性を抑制する。
【0076】
アントラサイクリンは、そのアグリコンが四環式アントラキノン誘導体である、グリコシドである。用語アントラサイクリンの範囲に包含されるものは、天然産生物のアントラサイクリン類、ならびに合成または半合成アナログ、ならびにそれらの誘導体、それらのプロドラッグ、およびそれらの薬学的に許容される塩である。「アナログ」および「誘導体」とは、本明細書で使用する場合、典型的には、アントラサイクリン核、すなわち四環式核を保有しているが、核に付着している1つまたは複数の官能基に違いがある、化合物を指す。一部の実施形態では、誘導体およびアナログは、分子に付着しているアグリコン部位、および/または糖残基に違いがある。
【0077】
治療的利益をもたらす、どのようなアントラサイクリンも、ポリマー薬物コンジュゲートに取り込むことができる。好ましくは、アントラサイクリンは、癌化学療法における抗腫瘍剤として臨床用途のために使用されるか、または好適な化合物である。アントラサイクリンの分類における天然産生物の例には、ダウノルビシンおよびドキソルビシンが含まれ、これらはStreptomyces属に属する微生物によって産生される。
【0078】
好ましいアントラサイクリンの例には、ドキソルビシン、ダウノルビシン、13−デオキシドキソルビシン(GPX−100としても公知である)、イオドキソルビシン(iodoxorubicin)、エピルビシン、THP−アドリアマイシン、イダルビシン、メノガリル、アクラシノマイシンA(アクラルビシンとしても公知である)、ゾルビシン、ピラルビシン、バルルビシン、アムルビシン、イオドキソルビシン、ネモルビシン、(4R)−1−(4−カルボキシ−1−オキソブチル)−4−ヒドロキシ−L−プロリル−L−アラニル−L−セリル(2R)−2−シクロヘキシルグリシル−L−グルタミニル−L−セリル−L−ロイシン(L377202としても公知である)、4’デオキシ−4’−ヨードドキソルビシンが含まれる。ポリマー薬物コンジュゲートに取り込むことができるさらなるアントラサイクリンは、当該分野で公知である。例えば、SuaratoらChimicaoggi、9〜19頁(1990年4月);J W Lown: Pharmac. Ther. 60巻、185〜214頁(1993年);F M Arcamone: Biochimie、80巻、201〜206頁(1998年);C Monneret: Eur. J. Med. Chem.36巻、483〜493頁(2001年);および米国特許第4,438,015号、同第4,672,057号、同第5,646,177号、同第5,801,257号、および同第6,284,737号を参照されたい。
【0079】
ポリマー薬物コンジュゲートは、アントラサイクリンの薬学的に許容される塩も含有することができる。一部の場合、安定性の増強、または望ましい溶解度もしくは溶出プロファイルなどの、塩の1つまたは複数の有利な物理特性に起因して、ポリマー薬物コンジュゲートにアントラサイクリンの塩を取り込むことが望ましいことがある。アントラサイクリン化合物の塩は、当該分野で公知の標準法を使用して調製することができる。適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、Lippincott Williams & Wilkins、Baltimore、MD、2000年、704頁に見いだすことができる。
【0080】
ポリマー薬物コンジュゲートは、アントラサイクリンのプロドラッグも含有することができる。アントラサイクリンのプロドラッグは、化合物の投与後にインビボか、または投与前にインビトロのいずれかで、生物学的に活性なアントラサイクリンに変換することができる化合物である。適切なアントラサイクリンプロドラッグの例は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第5,710,135号(Leendersら)、米国特許第6,268,488号(Barbas,IIIらによる)、WO92/19639(J. lacquesyらによる)、Cancer Res.54巻、2151〜2159頁(1994年)(K. Bossletら)、Bioorg. Med. Chem Lett.2巻、1093〜1096頁(1992年)(S. Andrianomenjanaharyら)、およびAnti−Cancer Drug Des.9巻、409〜423頁(1994年)(J.−P.Gessonら)を参照されたい。
【0081】
他の適切なHIF−1阻害剤には、非限定的に、エキノマイシン(NSC−13502)などのポリアミド(これらは、HIFとDNAの間の相互作用を阻害する)(Kongら、Cancer Research、65巻(19号):9047〜9055頁(2005年)およびOlenyukら、Proc Natl Acad Sci USA、101巻、1676816773(2004年));ケトミンなどのエピジチオジケトピペラジン(これは、HIFとp300との間の相互作用を阻害する)(Kungら、Cancer Cell、6巻(3号)33〜43頁(2004年));YC−1(3−(5’−ヒドロキシメチル−2’−フリル)−1−ベンジルインダゾール)などのベンゾアザヘテロサイクル(Yeoら、Journal of the National Cancer Institute.95巻(7号):516〜525頁(2003年));KF58333などのラジシコールおよびそのアナログ(Kurebayashiら、Cancer Research 92巻、1342〜1351頁(2001年));テムシロリムス(CCI779)およびエベロリムス(RAD001)などのラパマイシンおよびそのアナログを含むラパマイシン系(Majumderら Nature Medicine 10巻、594〜601頁(2004年));17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)および17−ジメチルアミノエチルアミノ−17−デメトキシ−ゲルダナマイシン(17−DMAG)などのゲルダナマイシンおよびそのアナログを含むゲルダナマイシン系;キノカルマイシンモノシトレート(KW2152)およびそのヒドロシアノ化生成物DX−52−1(NSC−607097)(Rapisardaら、Cancer Research. 62巻(15号)、43164324(2002年));トポテカン(NSC609699)、カンプトテシン、20−エステル(S)(NSC−606985)、および9−グリシンアミド−20(S)−カンプトテシンHCl(NSC−639174)などのカンプトテシンアナログ(トポイソメラーゼI阻害剤)(Rapisardaら、Cancer Research 62巻(15号)、4316〜4324頁(2002年));パクリタキセル、ドセタキセル、2−メトキシエストラジオール、ビンクリスチン、ディスコデルモライドおよびエポチロンBなどの微小管破壊剤(Escuinら、Cancer Research 65巻(19号)、9021〜9028頁(2005年));PX−12(1−メチルプロピル2−イミダゾリルジスルフィド)およびプロイロチンなどのチオレドキシン阻害剤(Welshら、Molecular Cancer Therapeutics.2巻、235243(2003年));ワートマニンおよびLY294002などのP13キナーゼ阻害剤(Jiangら、Cell Growth and Differentiation 12巻、363〜369頁(2001年));PD98059(2’−アミノ−3’メトキシフラボン)などのタンパク質キナーゼ−1(MEK−1)阻害剤;PX−12(1−メチルプロピル2−イミダゾリルジスルフィド);プロイロチンPX−478;キノキサリン、1,4−二酸化物;酪酸ナトリウム(NaB);ニトロプルシド(nitropurruside)ナトリウム(SNP);103D5R(Tanら、Cancer Research 65巻、605〜612頁(2005年));PX−478(S−2−アミノ3−[4V−N,N,−ビス(2−クロロエチル)アミノ]−フェニルプロピオン酸N−オキシドジヒドロクロライド)(Welshら、Molecular Cancer Therapeutics 3巻、233〜244頁(2004年));[(E)−(1S,4S,10S,21R)−7−[(Z)−エチリデン]−4,21−ジイソプロピル−2−オキサ−12,13−ジチア−5,8,20,23−テトラアザビシクロ−[8,7,6]−トリコス−16−エン−3,6,9,19,22−ペンタノン(FR901228、デプシペプチド)およびFK228(FR901228)(NSC630176)などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Mie−Leeら、Biochemical and Biophysical Research Communications 300巻(1号)、241〜246頁(2003年));ゲニステイン;インダノン;スタウロスポリン;クマリン;バルビツール酸およびチオバルビツール酸のアナログ;(アリールオキシアセチルアミノ)安息香酸のアナログ;2−メトキシエストラジオールおよびそのアナログ、ジゴキシン、および他の強心性配糖体(Zhangら、PNAS 105巻、19579頁)、アクリフラビン(Leeら、PNAS 106巻、17910)、およびヒドロキサム酸化合物が含まれる。
【0082】
ある種の実施形態では、HIF−1阻害剤は、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、ゲルダナマイシン、エキノマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、またはボルテゾミブである。
【0083】
C.疎水性ポリマーセグメント
ポリマー薬物コンジュゲートは、1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメントを含有することができる。疎水性ポリマーセグメントは、ホモポリマーまたはコポリマーとすることができる。
【0084】
好ましい実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは生分解性ポリマーである。疎水性ポリマーが生分解性である場合、ポリマー分解プロファイルは、インビボでの活性剤の放出速度に影響を及ぼすよう、選択することができる。例えば、疎水性ポリマーセグメントは、7日間〜2年間、より好ましくは7日間〜56週間、より好ましくは4週間〜56週間、最も好ましくは8週間〜28週間までの期間をかけて分解するよう選択することができる。
【0085】
適切な疎水性ポリマーの例には、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸−co−グリコール酸)などのポリヒドロキシ酸;ポリ3−ヒドロキシブチレートまたはポリ4−ヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシアルカノエート;ポリカプロラクトン;ポリ(オルトエステル);ポリ無水物;ポリ(ホスファゼン);ポリ(ヒドロキシアルカノエート);ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン);チロシンポリカーボネートなどのポリカーボネート;ポリアミド(合成および天然ポリアミドを含む)、ポリペプチド、およびポリ(アミノ酸);ポリエステルアミド;ポリエステル;ポリ(ジオキサノン);ポリ(アルキレンアルキレート);疎水性ポリエーテル;ポリウレタン;ポリエーテルエステル;ポリアセタール;ポリシアノアクリレート;ポリアクリレート;ポリメチルメタクリレート;ポリシロキサン;ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)コポリマー;ポリケタール;ポリホスフェート;ポリヒドロキシバレレート;ポリアルキレンオキサレート;ポリアルキレンスクシネート;ポリ(マレイン酸)、およびそれらのコポリマーが含まれる。
【0086】
好ましい実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、ポリ無水物である。ポリ無水物は、脂肪族ポリ無水物、不飽和ポリ無水物、または芳香族ポリ無水物とすることができる。代表的なポリ無水物には、ポリアジピン酸無水物、ポリフマル酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリマレイン酸無水物、ポリリンゴ酸無水物、ポリフタル酸無水物、ポリイソフタル酸無水物、ポリアスパラギン酸無水物、ポリテレフタル酸無水物、ポリイソフタル酸無水物、ポリカルボキシフェノキシプロパン無水物、ポリカルボキシフェノキシヘキサン無水物、およびこれらのポリ無水物と他のポリ無水物の様々なモル比でのコポリマーが含まれる。他の適切なポリ無水物は、米国特許第4,757,128号、同第4,857,311号、同第4,888,176号、および同第4,789,724号に開示されている。ポリ無水物は、ポリ無水物のブロックを含有しているコポリマーとすることもできる。
【0087】
ある種の実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、ポリセバシン酸無水物である。ある種の実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、ポリ(1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン−co−セバシン酸)(ポリ(CPH−SA))である。ある種の実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、ポリ(1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン−co−セバシン酸)(ポリ(CPP−SA))である。
【0088】
特定の用途にとっての最適な薬物放出速度などの特性を有する粒子を形成するポリマー薬物コンジュゲートを調製するため、疎水性ポリマーの分子量は、変えることができる。疎水性ポリマーセグメントは、約150Da〜1MDaの分子量を有することができる。ある種の実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、約1kDa〜約100kDaの間、より好ましくは約1kDa〜約50kDaの間、最も好ましくは約1kDa〜約25kDaの間の分子量を有する。
【0089】
一部の場合、疎水性ポリマーセグメントは、ポリマー薬物コンジュゲートの1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントの平均分子量よりも小さい分子量を有する。好ましい実施形態では、疎水性ポリマーセグメントは、約5kDa未満の分子量を有する。
【0090】
D.親水性ポリマー
ポリマー薬物コンジュゲートは、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントも含有することができる。好ましくは、ポリマー薬物コンジュゲートは、2つ以上の親水性ポリマーセグメントを含有している。一部の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、2〜6つの間、より好ましくは3〜5つの間の親水性ポリマーセグメントを含有している。ある種の実施形態では、ポリマー薬物コンジュゲートは、3つの親水性ポリマーセグメントを含有している。
【0091】
親水性ポリマーセグメントの各々は、独立して、任意の、生体適合性がある(すなわち、それは、深刻な炎症性または免疫応答を誘発しない)、非毒性の親水性ポリマーまたはコポリマーとすることができる。適切なポリマーの例には、以下に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)などのポリ(アルキレングリコール)、ならびにエチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリビニルピロリドン、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(サッカライド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、およびそれらのコポリマー、ターポリマー、ならびに混合物が含まれる。
【0092】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、ポリ(アルキレングリコール)鎖を含有している。ポリ(アルキレングリコール)鎖は、8〜500の間の反復単位、より好ましくは40〜500の間の反復単位を含有することができる。適切なポリ(アルキレングリコール)には、ポリ(エチレングリコール)、ポリプロピレン、1,2−グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリプロピレン1,3−グリコール、およびそれらのコポリマーが含まれる。ある種の実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントは、PEG鎖である。このような場合、PEG鎖は、米国特許第5,932,462号において記載されているものなど、線状または分岐状とすることができる。ある種の実施形態では、PEG鎖は線状である。
【0093】
1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントの各々は、独立して、約300Da〜1MDaの分子量を有することができる。親水性ポリマーセグメントは、上で列挙したいかなる分子量の範囲の分子量も有していてよい。ある種の実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントの各々は、約1kDa〜約20kDaの間、より好ましくは約1kDa〜約15kDaの間、最も好ましくは約1kDa〜約10kDaの間の分子量を有する。好ましい実施形態では、1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントの各々は、約5kDaの分子量を有する。
【0094】
E.分岐点
コンジュゲートは、場合により、複数の親水性ポリマーセグメントを疎水性ポリマーセグメントの一端に接続する働きをする分岐点を含有している。この分岐点は、任意の有機、無機、または有機金属部位とすることができ、この有機金属部位は、3つ以上の付着点を提供するよう、多価である。好ましい実施形態では、分岐点は、複数の官能基を含有している有機分子である。
【0095】
官能基は、炭素でも水素でもない少なくとも1個の原子を含有している任意の原子または原子群とすることができるが、但し、基は、疎水性および親水性ポリマーセグメントと反応することができなければならない。適切な官能基には、ハロゲン(臭素、塩素、およびヨウ素);酸素含有官能基(ヒドロキシル、エポキシド、カルボニル、アルデヒド、エステル、カルボキシル、および酸塩化物など)、窒素含有官能基(アミンおよびアジドなど)、および硫黄含有基(チオールなど)が含まれる。官能基はまた、アルキン、アルケン、またはジエンなどの、1つまたは複数の非芳香族パイ結合を含有している炭化水素部位であってもよい。好ましくは、分岐点は、少なくとも2つの異なるタイプの官能基(例えば、1種または複数のアルコールと1種または複数のカルボン酸、あるいは1種または複数のハライドと1種または複数のアルコール)を含有することになる。こうした場合、分岐点上に存在している異なる官能基は、独立して合成的に対処されて、制御された化学量論比で、分岐点への疎水性セグメントおよび親水性セグメントの共有結合的付着を可能にする。
【0096】
疎水性および親水性ポリマーセグメントと分岐点上の官能基との反応に続いて、1つまたは複数の疎水性ポリマーセグメントおよび1つまたは複数の親水性ポリマーセグメントが、連結部位を介して分岐点に共有結合的に結ばれることになる。連結部位のアイデンティティ(identity)は、前記官能基および疎水性ポリマーセグメントと親水性ポリマーセグメントの反応に富む位置のアイデンティティによって決まることになる(これらの要素が反応し、連結部位または連結部位の前駆体を形成する)。ポリマーセグメントと分岐点とを接続する適切な連結部位の例には、二級アミド(−CONH−)、三級アミド(−CONR−)、二級カルバメート(−OCONH−;−NHCOO−)、三級カルバメート(−OCONR−;−NRCOO−)、尿素(−NHCONH−;−NRCONH−;−NHCONR−、−NRCONR−)、カルビノール(−CHOH−、−CROH−)、エーテル(−O−)、およびエステル(−COO−、−CH
2O
2C−、−CHRO
2C−)が含まれ、式中、Rは、アルキル基、アリール基、または複素環式基である。ある種の実施形態では、ポリマーセグメントは、エステル(−COO−、−CH
2O
2C−、CHRO
2C−)、二級アミド(−CONH−)、または三級アミド(−CONR−)を介して分岐点に接続しており、式中、Rは、アルキル基、アリール基、または複素環式基である。
【0097】
ある種の実施形態では、この分岐点は、クエン酸、酒石酸、粘液酸、グルコン酸、または5−ヒドロキシベンゼン−1,2,3,−トリカルボン酸などのポリカルボン酸である。例示的な分岐点には、次の有機化合物が含まれる:
【化12】
【0098】
F.ポリマー薬物コンジュゲートの合成
ポリマー薬物コンジュゲートは、当該分野で公知の合成法を使用して調製することができる。ポリマー薬物コンジュゲートの調製に関する代表的な方法論は、以下で議論されている。所与のポリマー薬物コンジュゲートの合成に関する適切な経路は、官能基の適合性、保護基戦略、および不安定な結合の存在と関係するので、その経路は、全体として、ポリマー薬物コンジュゲートの構造、コンジュゲートを構築しているポリマーのアイデンティティ、活性剤のアイデンティティ、および化合物の構造などの、いくつかの要因を鑑みて決定することができる。
【0099】
以下に議論する合成的な方法論に加えて、本明細書において開示したポリマー薬物コンジュゲートの調製に有用な代替的反応および戦略は、当該分野で公知である。例えば、March、「Advanced Organic Chemistry」、第5版、2001年、Wiley−Interscience Publication、New Yorkを参照されたい。
【0100】
一般に、ポリマー薬物コンジュゲートは、最初にポリマー薬物コンジュゲートのポリマー構成要素を形成し、次に活性剤を共有結合的に付着させることにより調製される。例えば、スキーム1および2は、単一ポリエチレングリコール鎖が付着しているポリ(セバシン酸無水物)ポリマーセグメントに結合しているドキソルビシンを含有しているポリマー−ドキソルビシンコンジュゲートの合成を例示している(DXR−PSA−PEG)。
【化13】
【化14】
【0101】
第1工程で、セバシン酸を無水酢酸中で還流し、アセチル化ポリセバシン酸前駆体(PreSA)を形成する。次に、過剰のPreSAをポリエチレングリコールメチルエーテルと一緒にして、無水ホットメルト重合条件下で重合する。次に、スキーム2に示される通り、得られたポリマー(PEG−PSA)をドキソルビシンと反応させて、ポリマー薬物コンジュゲート(DXR−PSA−PEG)を形成することができる。
【0102】
分岐点(クエン酸)を介して疎水性ポリマーセグメント(ポリ(セバシン酸無水物))に付着している複数の親水性ポリマーセグメント(3つのPEG鎖)を含有している例示的なポリマー薬物コンジュゲートの合成が、スキーム3および4に記載されている。
【0103】
分岐点を含有しているポリマー薬物コンジュゲートの場合、ポリマー薬物コンジュゲートの合成は、典型的には、疎水性ポリマーセグメントおよび親水性ポリマーセグメントを分岐点に逐次付着させて、ポリマー薬物コンジュゲートのポリマー部分を形成することにより開始されることになる。スキーム3において示される通り、最初に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、および触媒量の4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、クエン酸をCH
3O−PEG−NH
2と反応させて、PEG鎖とクエン酸分岐点の3つのカルボン酸残基との間にアミド連結を形成させる。次に、得られた化合物をアシル化ポリセバシン酸前駆体(PreSA)と反応させて、無水ホットメルト重合状態下で重合する。スキーム4に示される通り、得られたポリマー(PEG
3−PSA)は、次に、ドキソルビシンと反応させて、ポリマー薬物コンジュゲートを形成する(DXR−PSA−PEG
3)。
【化15】
【化16】
【0104】
III.HIF−1阻害剤の制御送達用粒子およびインプラント
コンジュゲートから形成されるか、またはマトリックス中に分散させるかもしくは封入したコンジュゲートを有する、1種または複数のHIF−1阻害剤を制御送達するためのポリマーインプラント(例えば、ロッド、ディスク、ウエハーなど)、マイクロ粒子、およびナノ粒子が提供される。一部の実施形態では、粒子またはインプラントは、ポリマーマトリックス中に分散されるか、または封入された1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している。好ましい実施形態では、粒子またはインプラントは、ポリマーに共有結合している1種または複数のHIF−1阻害剤を含有しているポリマー薬物コンジュゲートから形成される。
【0105】
A.ポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子
マイクロ粒子およびナノ粒子は、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成することができる。一部の場合、粒子は、単一ポリマー薬物コンジュゲートから形成される(すなわち、粒子は、同じ活性剤、疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および親水性ポリマーセグメント(複数可)を含有しているポリマー薬物コンジュゲートから形成される)。
【0106】
別の実施形態では、粒子は、2種以上の異なるポリマー薬物コンジュゲートの混合物から形成される。例えば、粒子は、異なるHIF−1阻害剤、および同じ疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および親水性ポリマーセグメント(複数可)を含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成することができる。こうした粒子は、例えば、2種以上のHIF−1阻害剤を共投与するために使用することができる。他の場合、粒子は、同じHIF−1阻害剤、ならびに異なる疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および/または親水性ポリマーセグメントを含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成される。こうした粒子は、例えば、HIF−1阻害剤の放出速度を変えるために使用することができる。粒子は、異なるHIF−1阻害剤、ならびに異なる疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および/または親水性ポリマーセグメントを含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成することもできる。
【0107】
粒子は、ポリマー薬物コンジュゲートと1つまたは複数のさらなるポリマーとのブレンドから形成することもできる。これらの場合、1つまたは複数のさらなるポリマーは、以下の項目Bにおいて記載されている、非生分解性または生分解性ポリマーのいずれかとすることができるが、生分解性ポリマーが好ましい。これらの実施形態では、1つまたは複数のさらなるポリマーのアイデンティティおよび量は、例えば粒子安定性、すなわち送達が望まれる部位への分布に必要な時間、および送達のための望ましい時間に影響を及ぼすよう、選択することができる。
【0108】
10nm〜1000ミクロンの間の平均粒子サイズを有する粒子が、本明細書に記載されている組成物において有用である。好ましい実施形態では、粒子は、10nm〜100ミクロンの間、より好ましくは約100nm〜約50ミクロンの間、より好ましくは約200nm〜約50ミクロンの間の平均粒子サイズを有する。ある種の実施形態では、粒子は、500〜700nmの間の直径を有するナノ粒子である。粒子は、どのような形も有することができるが、一般に球状の形である。
【0109】
一部の実施形態では、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子集団は、単分散粒子集団である。別の実施形態では、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子集団は、多分散粒子集団である。1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子集団が多分散粒子集団である一部の例では、粒子サイズ分布の50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%を超えるものが、メジアン粒子サイズの10%以内におさまる。
【0110】
好ましくは、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成された粒子は、それらの表面に、PEGなどのかなりの量の親水性ポリマーを含有している。
【0111】
B.ポリマーマトリックス中に分散している1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している粒子
ポリマーマトリックス中に分散されるか、または封入された1種または複数のHIF−1阻害剤を含有している粒子も形成することができる。マトリックスは、非生分解性または生分解性マトリックスから形成することができるが、生分解性マトリックスが好ましい。ポリマーは、インビボ安定性に必要な時間、すなわち送達が望まれる部位への分布に必要な時間、および送達のための望ましい時間に基づいて選択される。
【0112】
代表的な合成ポリマーは、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸−co−グリコール酸)などのポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリアルキレン、ポリ(エチレングリコール)などのポリアルキレングリコール、ポリ(エチレンオキシド)などのポリアルキレンオキシド、ポリ(エチレンテレフタレート)などのポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリ(塩化ビニル)などのポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリスチレン、ポリウレタンおよびそれらのコ−ポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、およびセルロース硫酸ナトリウム塩などの誘導体化セルロース(本明細書では、まとめて「合成セルロース」と言う)、アクリル酸、メタクリル酸のポリマー、またはエステルを含めたそれらのコポリマーもしくは誘導体、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)(本明細書では、まとめて「ポリアクリル酸」と言う)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、それらのコポリマー、およびブレンドである。本明細書で使用する場合、「誘導体」には、置換、化学基の付加(例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化)、および当業者により慣例的になされる他の修飾を有するポリマーが含まれる。
【0113】
好ましい生分解性のポリマーの例には、乳酸およびグリコール酸などのヒドロキシ酸のポリマー、ならびにPEGとのコポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、それらのブレンド、およびコポリマーが含まれる。
【0114】
好ましい天然ポリマーの例には、アルブミンおよびプロラミンなどのタンパク質、例えば、ゼイン、および多糖類(アルギネートなど)、セルロース、ならびにポリヒドロキシアルカノエート(例えば、ポリヒドロキシブチレート)が含まれる。
【0115】
マトリックスのインビボ安定性は、ポリエチレングリコール(PEG)と共重合したポリラクチドcoグリコリドなどのポリマーを使用することにより、製造中に調節することができる。PEGは、外部表面上に露出している場合、これは親水性であるので、これらの物質が循環する時間が延びることがある。
【0116】
好ましい非生分解性ポリマーの例には、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、それらのコポリマー、およびそれらの混合物が含まれる。
【0117】
10nm〜1000ミクロンの間の平均粒子サイズを有する粒子が、本明細書に記載されている組成物において有用である。好ましい実施形態では、粒子は、10nm〜100ミクロンの間、より好ましくは約100nm〜約50ミクロンの間、より好ましくは約200nm〜約50ミクロンの間の平均粒子サイズを有する。ある種の実施形態では、粒子は、500〜700nmの間の直径を有するナノ粒子である。粒子は、どのような形も有することができるが、一般に球状の形である。
【0118】
C.マイクロ粒子およびナノ粒子を形成する方法
マイクロ粒子およびナノ粒子は、当該分野で公知のポリマーマイクロ粒子またはナノ粒子の形成に適した任意の方法を使用して形成することができる。粒子形成のために使用される方法は、ポリマー薬物コンジュゲートまたはポリマーマトリックス中に存在しているポリマーの特性、ならびに所望の粒子サイズ、およびサイズ分布を含めた様々な要因に依存することになる。一部のHIF−1阻害剤は、ある種の溶媒の存在下で、ある種の温度範囲、および/またはある種のpH範囲において不安定であるので、粒子中に取り込まれているHIF−1阻害剤のタイプもまた、要因の1つとなり得る。
【0119】
単分散粒子集団が望ましい状況では、粒子は、単分散ナノ粒子集団が生じる方法を使用して形成することができる。あるいは、多分散ナノ粒子分布が生じる方法を使用することができ、かつ粒子を粒子形成後のふるいがけなどの当該分野で公知の方法を使用して分離し、所望の平均粒子サイズおよび粒子サイズ分布を有する粒子集団を供給することができる。
【0120】
マイクロ粒子およびナノ粒子を調製するための一般技法には、以下に限定されないが、溶媒蒸発、ホットメルト粒子形成、溶媒除去、スプレードライ、転相、コアセルベーション、および低温キャスティングが含まれる。粒子製剤化の適切な方法は、以下に簡単に記載されている。pH調節剤、崩壊剤、保存剤、および抗酸化剤を含む、薬学的に許容される賦形剤を、場合により、粒子形成中の粒子に取り込ませることができる。
【0121】
1.溶媒蒸発
この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(または、ポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)は、塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒に溶解される。次に、ポリ(ビニルアルコール)などの界面活性剤を含有している水溶液中に、ポリマー薬物コンジュゲートを含有している有機溶液を分散させる。有機溶媒のほとんどが蒸発して、固体ナノ粒子が残るまで、得られたエマルションを撹拌する。得られたナノ粒子は水により洗浄し、凍結乾燥装置中で一晩乾燥する。様々なサイズおよび形態を有するナノ粒子は、この方法により得ることができる。
【0122】
ある種のポリ無水物などの不安定なポリマーを含有しているポリマー薬物コンジュゲートは、水の存在により、作製過程中に分解することがある。これらのポリマーに関すると、以下の、完全に無水の有機溶媒中で実施される2つの方法を使用することができる。
【0123】
2.ホットメルト粒子形成
この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(またはポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)は最初に溶融され、次に、(シリコーンオイルのような)非混和性溶媒中に懸濁させ、連続撹拌しながらポリマー薬物コンジュゲートの融点より5℃高く加熱する。一旦乳エマルションが安定すると、ポリマー薬物コンジュゲート粒子が凝固するまで冷却する。得られたナノ粒子を石油エーテルなどの適切な溶媒を用いるデカンテーションにより洗浄すると、自由流動性粉末が得られる。この技法により調製された粒子の外部表面は、通常、滑らかで密である。ホットメルト粒子形成は、ある種のポリ無水物などの加水分解的に不安定なポリマー薬物コンジュゲートを含有している粒子を調製するために使用することができる。好ましくは、この方法によりマイクロ粒子を調製するために使用されるポリマー薬物コンジュゲートは、全体で75,000ダルトン未満の分子量を有することになる。
【0124】
3.溶媒除去
溶媒除去も、加水分解的に不安定なポリマー薬物コンジュゲートから粒子を調製するために使用することができる。この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(または、ポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)は、塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒に分散させるか、または溶解する。次に、この混合物を有機オイル(シリコーン油など)中で撹拌することにより懸濁させ、エマルションを形成する。固形粒子がエマルションから形成し、これを続いて上清から単離することができる。この技法により生じた球状の外的形態は、ポリマー薬物コンジュゲートのアイデンティティに大きく依存する。
【0125】
4.スプレードライ
この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(または、ポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)は、塩化メチレンなどの有機溶媒に溶解される。圧縮ガスの流通により駆動されるマイクロ化ノズルによって、溶液が汲み出され、得られたエアゾルを加熱した空気サイクロン中に懸濁して、マイクロ液滴から溶媒を蒸発させて粒子を形成させる。この方法を使用して、0.1〜10ミクロンの間の粒子を得ることができる。
【0126】
5.転相
転相法を使用して、ポリマー薬物コンジュゲートから粒子を形成することができる。この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(またはポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)を「良好な」溶媒に溶解し、溶液をポリマー薬物コンジュゲーにとって強い非溶媒中に注ぎ入れると、都合のよい条件下で、自発的にマイクロ粒子またはナノ粒子が生成する。この方法を使用して、例えば約100ナノメートル〜約10ミクロンを含む広範囲のサイズで、ナノ粒子を生成することができ、典型的には、狭い粒子サイズ分布を有する。
【0127】
6.コアセルベーション
コアセルベーションを使用する粒子形成技術は、当該分野、例えばGB−B−929 406、GB−B−929 40 1、および米国特許第3,266,987号、同第4,794,000号、および同第4,460,563号において公知である。コアセルベーションは、2種の非混和液相中へのポリマー薬物コンジュゲート(またはポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)溶液の分離を含む。1つの相は密なコアセルベート相であり、この相は高濃度のポリマー薬物コンジュゲートを含有している一方、第2相は低濃度のポリマー薬物コンジュゲートを含有している。濃厚なコアセルベート相内で、ポリマー薬物コンジュゲートが、ナノスケールまたはマイクロスケールの液滴を形成し、この液滴が粒子へと固化する。コアセルベーションは、温度変化、非溶媒の添加またはマイクロ塩(単一コアセルベーション)の添加によって、または他のポリマーの添加によって誘発され、これによりインターポリマー複合体(複合コアセルベーション)を形成することができる。
【0128】
7.低温キャスティング
放出制御マイクロスフィアの超低温キャスティングの方法が、Gombotzらの米国特許第5,019,400号に記載されている。この方法では、ポリマー薬物コンジュゲート(または、ポリマーマトリックスおよび1種または複数のHIF−1阻害剤)を溶媒に溶解する。次に、この混合物を液状非溶媒を含有している容器に、ポリマー薬物コンジュゲート溶液の凝固点よりも低い温度で微粒子化すると、ポリマー薬物コンジュゲート液滴が凍結する。液滴、およびポリマー薬物コンジュゲート用の非溶媒が温められると、液滴中の溶媒が解凍し、非溶媒中に抽出されてマイクロスフィアが固化する。
【0129】
D.ポリマー薬物コンジュゲートから形成されるインプラント
インプラントは、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成することができる。好ましい実施形態では、インプラントは眼内インプラントである。適切なインプラントには、以下に限定されないが、ロッド、ディスク、ウエハーなどが含まれる。
【0130】
一部の場合、インプラントは、単一ポリマー薬物コンジュゲートから形成される(すなわち、インプラントは、同じ活性剤、疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および親水性ポリマーセグメント(複数可)を含有しているポリマー薬物コンジュゲートから形成される)。
【0131】
別の実施形態では、インプラントは、2つ以上の異なるポリマー薬物コンジュゲートの混合物から形成される。例えば、インプラントは、異なるHIF−1阻害剤、および同じ疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、ならびに親水性ポリマーセグメント(複数可)を含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成することができる。こうしたインプラントは、例えば、2種以上のHIF−1阻害剤を共投与するために使用することができる。他の場合、インプラントは、同じHIF−1阻害剤、ならびに異なる疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および/または親水性ポリマーセグメントを含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成される。こうしたインプラントは、例えば、HIF−1阻害剤の放出速度を変えるために使用することができる。インプラントは、異なるHIF−1阻害剤、ならびに異なる疎水性ポリマーセグメント、分岐点(存在する場合)、および/または親水性ポリマーセグメントを含有している2種以上のポリマー薬物コンジュゲートから形成することもできる。
【0132】
インプラントは、ポリマーマトリックス中に分散させるか、または封入した1種または複数のHIF−1阻害剤を有するポリマーマトリックスからも形成することができる。マトリックスは、上の項目Bにおいて記載されている、非生分解性または生分解性ポリマーのいずれかから形成することができるが、生分解性ポリマーが好ましい。ポリマーマトリックスの組成は、インビボ安定性に必要な時間、すなわち送達が望まれる部位への分布に必要な時間、および送達のための望ましい時間に基づいて選択される。
【0133】
インプラントはポリマー薬物コンジュゲートと、上の項目Bにおいて記載されている1つまたは複数のポリマーとのブレンドから形成することもできる。
【0134】
1.インプラントのサイズおよび形
インプラントは、ファイバー、シート、フィルム、マイクロスフィア、球状、円形ディスク、ロッド、またはプラークなどの任意の幾何学的形状とすることができる。インプラントのサイズは、インプラントの耐久性、インプラントの場所、インプラント挿入が提案される方法を考慮したサイズ制限、取り扱いの容易さなどの要因により決まる。
【0135】
シートまたはフィルムが使用される場合、シートまたはフィルムは、取り扱いの容易さのため、少なくとも約0.5mm×0.5mm、通常、約3〜10mm×5〜10mmの範囲で、厚みが約0.1〜1.0mmになる。ファイバーが使用される場合、ファイバー直径は、一般に約0.05〜3mmの範囲になり、ファイバー長は、一般に、約0.5〜10mmの範囲になる。
【0136】
インプラントのサイズおよび形はまた、放出速度、処置期間、および埋込部位の薬物濃度を制御するために使用され得る。より大きなインプラントは、比例的により多くの用量を送達することになるが、質量比に対する表面に応じて、より遅い放出速度を有することが可能である。インプラントの具体的なサイズおよび幾何学的形状は、埋込部位に適するよう選択される。
【0137】
眼内インプラントは、形が球状または非球状とすることができる。球形のインプラントに関すると、インプラントは、針による投与の場合、最大寸法(例えば、直径)が約5μm〜約2mmの間、または約10μm〜約1mmの間を有することができ、外科的埋込みによる投与の場合、1mm超、または2mm超(3mmなど)、または最大10mmを有することができる。インプラントが非球状の場合、インプラントは、針による投与の場合、最大寸法または最小寸法は約5μm〜約2mm、または約10μm〜約1mmの間を有することができ、外科的埋込みによる投与の場合、1mm超、または2mm超(3mmなど)、または最大10mmを有することができる。
【0138】
ヒトにおける硝子体腔は、例えば1〜10mm長を有する、様々な幾何学的形状の比較的大きなインプラントを収容することができる。インプラントは、寸法が約2mm×0.75mm直径を有する円筒状ペレット(例えば、ロッド)であってもよい。インプラントは、約7mm〜約10mm長、および直径が約0.75mm〜約1.5mmを有する、円筒状ペレットであってもよい。ある種の実施形態では、インプラントは、直径が約0.5mm、長さが約6mm、および重量が約1mgの押出しフィラメントの形態である。一部の実施形態では、寸法は針により眼内に注射するよう既に承認されているインプラント(直径460ミクロンで長さ6mm、および直径370ミクロンで長さ3.5mm)であるか、またはそれに類似したものである。
【0139】
眼内インプラントはまた、硝子体中などの眼の中のインプラントの挿入とその後のインプラントの収容の両方を容易にするよう、少なくともやや可動性があるように設計することができる。インプラントの全重量は、通常、約250〜5000μg、より好ましくは約500〜1000μgである。ある種の実施形態では、眼内インプラントは、約500μg、750μg、または1000μgの質量を有する。
【0140】
2.製造方法
インプラントは、当該分野で公知の適切ないかなる技法も使用して製造することができる。インプラントの調製に適した技法の例には、溶媒蒸発法、相分離法、界面法、成形法、射出成形法、押出成形法、共押出成形法、カーバープレス(carver press)法、型抜き法、熱圧縮、およびそれらの組合せが含まれる。インプラントの製造に適した方法は、インプラント中に存在しているポリマー/ポリマーセグメントの特性、インプラント中に存在している1種または複数のHIF−1阻害剤の特性、およびインプラントの所望の形およびサイズを含む、多くの要因を考慮して選択することができる。インプラントの調製に適した方法は、例えば、米国特許第4,997,652号および米国特許出願第2010/0124565号において記載されている。
【0141】
ある種の場合、インプラント製造中に溶媒の必要性を回避するために、押出成形法を使用することができる。押出成形法を使用する場合、ポリマー/ポリマーセグメントおよびHIF−1阻害剤は、製造に必要な温度、通常、少なくとも摂氏約85度において安定となるように選択される。しかし、ポリマー構成要素および1種または複数のHIF−1阻害剤の性質に応じて、押出成形法は、摂氏約25度〜摂氏約150度、より好ましくは摂氏約65度〜摂氏約130度の温度を使用することができる。
【0142】
インプラントは、インプラント表面全体または一部分を被覆するコーティングを提供するために、共押出成形されてもよい。こうしたコーティングは、浸食性または非浸食性であってもよく、HIF−1阻害剤、水、またはそれらの組合せに対し、不透過性、半透過性、または透過性であってもよい。こうしたコーティングを使用して、インプラントからのHIF−1阻害剤の放出をさらに制御することができる。
【0143】
インプラントを作製するために、圧縮法が使用されることがある。圧縮法は、多くの場合、押出成形法よりも速い放出速度を有するインプラントが生じる。圧縮法は、約50〜150psi、より好ましくは約70〜80psi、さらにより好ましくは約76psiの圧力を使用することができ、摂氏約0度〜摂氏約115度、より好ましくは摂氏約25度の温度を使用することができる。
【0144】
IV.医薬製剤
医薬製剤は1種または複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートを含有している。代表的な賦形剤には、溶媒、希釈剤、pH調節剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、湿潤剤、粘度調節剤、等張化剤、安定化剤、およびそれらの組合せが含まれる。適切な薬学的に許容される賦形剤は、一般に安全と認められる(generally recognized as safe)(GRAS)物質から好ましくは選択され、望ましくない生物学的副作用または不要な相互作用を引き起こすことなく、個体に投与することができる。
【0145】
一部の場合、本医薬製剤は、HIF−1阻害剤の放出制御のために、1種のタイプのコンジュゲートまたはポリマー粒子しか含有していない(例えば、ポリマー薬物コンジュゲート粒子を含有している製剤であって、医薬製剤に取り込まれているポリマー薬物コンジュゲート粒子は同じ組成を有する、製剤)。別の実施形態では、医薬製剤は、HIF−1阻害剤の放出制御のために、2種以上の異なるタイプのコンジュゲートまたはポリマー粒子を含有している(例えば、医薬製剤は、2種以上のポリマーコンジュゲート粒子集団を含有しており、この場合、ポリマー薬物コンジュゲートの粒子集団は、異なる化学組成、異なる平均粒子サイズ、および/または異なる粒子サイズ分布を有する)。
【0146】
A.さらなる活性剤
ポリマー粒子中に存在している1種または複数のHIF−1阻害剤に加えて、この製剤は1種または複数のさらなる治療剤、診断剤、および/または予防剤を含有することができる。該活性剤は、低分子活性剤、あるいは酵素もしくはタンパク質、ポリペプチドまたは核酸などの生体分子とすることができる。適切な低分子活性剤には、有機化合物および有機金属化合物が含まれる。いくつかの例では、低分子活性剤は、約2000g/mol未満、より好ましくは約1500g/mol未満、最も好ましくは約1200g/mol未満の分子量を有する。低分子活性剤は、親水性、疎水性、または両親媒性化合物とすることができる。
【0147】
一部の場合、1種または複数のさらなる活性剤は、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子中に封入するか、分散するか、他には会合することができる。ある種の実施形態では、1種または複数のさらなる活性剤は、薬学的に許容される担体に溶解するか、または懸濁することもできる。
【0148】
眼疾患の処置用の医薬組成物の場合、製剤は、1種または複数の点眼薬を含有していてもよい。特定の実施形態では、点眼薬は、後眼部の疾患もしくは障害を処置する、予防するか、または診断するために使用される薬物である。点眼薬の非限定例には、抗緑内障剤、抗血管新生剤、抗感染症剤、抗炎症剤、成長因子、免疫抑制剤、抗アレルギー剤、およびそれらの組合せが含まれる。
【0149】
代表的な抗緑内障剤には、プロスタグランジンアナログ(トラボプロスト、バイマトプロスト、およびラタノプロストなど)、ベータ−アドレナリン(beta−andrenergic)受容体アンタゴニスト(チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、およびカルテオロールなど)、アルファ−2−アドレナリン受容体アゴニスト(ブリモニジンおよびアプラクロニジンなど)、炭酸脱水酵素阻害剤(ブリンゾラミド、アセタゾラミン、およびドルゾラミドなど)、縮瞳剤(すなわち、ピロカルピンおよびエコチオペートなどの副交感神経興奮剤)、セロトニン作動剤、ムスカリン作動剤、ドーパミンアンタゴニスト、およびアドレナリンアゴニスト(アプラクロニジンおよびブリモニジンなど)が含まれる。
【0150】
代表的な抗血管新生剤には、以下に限定されないが、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標))、および他の抗VEGF化合物(アフリベルセプト(EYLEA(登録商標))を含む)などの血管内皮細胞成長因子(VEGF)に対する抗体;MACUGEN(登録商標)(ペガプタニナトリウム(pegaptanim sodium)、抗−VEGFアプタマーまたはEYE001)(Eyetech Pharmaceuticals社);色素上皮由来因子(PEDF);セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))およびロフェコキシブ(VIOXX(登録商標))などのCOX−2阻害剤;インターフェロンアルファ;インターロイキン12(IL−12);レナリドマイド(REVLIMID(登録商標))などのサリドマイド(THALOMID(登録商標))およびその誘導体;スクアラミン;エンドスタチン;アンジオスタチン;ANGIOZYME(登録商標)(Sirna Therapeutics社)などのリボザイム阻害剤;NEOVASTAT(登録商標)(AE−941)(Aeterna Laboratories社、Quebec City、カナダ)などの多機能性抗血管新生剤;スニチニブ(SUTENT(登録商標))などの受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤;ソラフェニブ(Nexavar(登録商標))およびエルロチニブ(Tarceva(登録商標))などのチロシンキナーゼ阻害剤;パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))およびセツキシマブ(ERBITUX(登録商標))などの上皮成長因子受容体に対する抗体、ならびに当該分野で公知の他の抗血管新生剤が含まれる。
【0151】
抗感染症剤には、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生虫剤、および抗真菌剤が含まれる。代表的な抗ウイルス剤には、ガンシクロビルおよびアシクロビルが含まれる。代表的な抗生剤には、アミノグリコシド(ストレプトマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、およびトブラマイシンなど)、アンサマイシン(ゲルダナマイシンおよびヘルビマイシンなど)、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、グリコペプチド(バンコマイシン、テイコプラニン、およびテラバンシンなど)、リンコサミド、リポペプチド(ダプトマイシンなど)、マクロライド(アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、およびエリトロマイシンなど)、モノバクタム、ニトロフラン、ペニシリン、ポリペプチド(バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシンBなど)、キノロン、スルホンアミド、ならびにテトラサイクリンが含まれる。
【0152】
一部の場合、活性剤は、オロパタジンおよびエピナスチンなどの抗アレルギー剤である。
【0153】
抗炎症剤には、非ステロイド性とステロイド性抗炎症剤の両方が含まれる。適切なステロイド活性剤には、グルココルチコイド、プロゲスチン、ミネラルコルチコイド、およびコルチコステロイドが含まれる。
【0154】
点眼薬は、中性形態または薬学的に許容される塩の形態で存在することができる。一部の場合、安定性の増強、または望ましい溶解度もしくは溶解プロファイルなどの、塩の1つまたは複数の有利な物理特性のため、活性剤の塩を含有している製剤を調製するのが望ましいことがある。
【0155】
一般に、薬学的に許容される塩は、水中もしくは有機溶媒中、または上記2つの混合物中で、遊離酸または塩基形態の活性剤と化学量論量の適切な塩基または酸とを反応させることにより調製することができる。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。薬学的に許容される塩には、無機酸、有機酸、アルカリ金属塩、およびアルカリ土類金属塩に由来する活性剤の塩、ならびに薬物と適切な有機リガンド(例えば、四級アンモニウム塩)との反応により形成される塩が含まれる。適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、Lippincott Williams & Wilkins、Baltimore、MD、2000年、704頁に見いだされる。薬学的に許容される塩の形態で時として投与される点眼薬の例には、チモロールマレエート、ブリモニジンタートレート、およびジクロフェナクナトリウムが含まれる。
【0156】
一部の場合、活性剤は、眼を画像化するか、他には評価する診断剤である。例示的な診断剤には、常磁性分子、蛍光化合物、磁気分子、および放射性核種、X線イメージング剤、および造影剤が含まれる。
【0157】
ある種の実施形態では、医薬組成物は、1種または複数の局所麻酔剤を含有している。代表的な局所麻酔剤には、テトラカイン、リドカイン、アメトカイン、プロパラカイン、リグノカイン、およびブピバカインが含まれる。一部の場合、ヒアルロニダーゼ酵素などの1種または複数のさらなる薬剤も製剤に加えて、局所麻酔剤の分散を促進させ、改善させる。
B.眼投与用製剤
【0158】
ポリマー薬物コンジュゲートから形成された粒子は、好ましくは、眼に注射するための溶液または懸濁液として製剤化される。
【0159】
眼投与用医薬製剤は、好ましくは、1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子の無菌水溶液または懸濁液の形態にある。許容可能な溶媒には、例えば、水、リンガー溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、および等張食塩溶液が含まれる。製剤はまた、1,3−ブタンジオールなどの無毒で、非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の無菌溶液、懸濁液、またはエマルションとすることもできる。
【0160】
一部の例では、製剤は液体形態で分配されるか、または包装される。あるいは、眼投与用製剤は、例えば適切な液体製剤の凍結乾燥によって得られる固体として包装することができる。固体は、投与前に、適切な担体または希釈剤により再構成することができる。
【0161】
眼投与用の溶液、懸濁液、またはエマルションは、眼投与に適したpHを維持するために必要な有効量の緩衝液により緩衝することができる。適切な緩衝液は当業者により周知であり、有用な緩衝液の一部の例は、アセテート、ボレート、カーボネート、シトレート、およびホスフェートの緩衝液である。
【0162】
眼投与用の溶液、懸濁液、またはエマルションは、製剤の等張範囲を調節するための1種または複数の等張化剤も含有することができる。適切な等張化剤は、当該分野で周知であり、一部の例には、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、および他の電解質が含まれる。
【0163】
眼投与用の溶液、懸濁液、またはエマルションは、点眼用調製物の細菌汚染を防止するための1種または複数の保存剤も含有することができる。適切な保存剤は当該分野で公知であり、ポリヘキサメチレンビグアニジン(PHMB)、塩化ベンザルコニウム(BAK)、安定化オキシクロロ複合体(他には、Purite(登録商標)としても知られている)、酢酸フェニル水銀、クロロブタノール、ソルビン酸、クロルヘキシジン、ベンジルアルコール、パラベン、チメロサール、およびそれらの混合物を含む。
【0164】
眼投与用の溶液、懸濁液、またはエマルションは、分散剤、湿潤剤、および懸濁化剤などの、当該分野で公知の1種または複数の賦形剤も含有することができる。
【0165】
V.使用方法
1種または複数のHIF−1阻害剤を送達するための放出用量制御製剤は、癌および肥満症を含む、血管新生を伴う患者における、疾患または障害を処置するために使用することができる。好ましい実施形態では、医薬組成物は、眼の血管新生を伴う患者における、疾患または障害を処置または予防するために投与される。1種または複数のHIF−1阻害剤は、投与されると、治療的利益を生じるのに十分高いが、細胞毒性を回避するのに十分低い濃度で、長期間をかけて放出される。
【0166】
眼に投与される場合、粒子は長期間、好ましくは3日、7日、10日、15日、21日、25日、30日、または45日よりも長くかけて、低用量の1種または複数の活性剤を放出する。ポリマー薬物コンジュゲートの構造またはポリマーマトリックスの構成、粒子形態、および投与される粒子の用量は、暗順応ERGのb波の振幅の低下および/または網膜変性などの副作用を最小化しながら、長期間にわたり、治療有効量の1種または複数の活性剤を眼に投与するよう調整することができる。
【0167】
A.眼の疾患および障害
1種または複数のHIF−1阻害剤の放出制御用粒子を含有している医薬組成物は、眼の1つもしくは複数の疾患または障害を処置あるいは予防するために、それを必要としている患者の眼に投与することができる。一部の場合、眼の疾患または障害は、後眼部に影響を及ぼす。本明細書で使用する場合、後眼部とは、前部硝子体膜、およびその後ろにある光学構造体のすべて(硝子体液、網膜、脈絡膜、および視神経など)を含めた、眼の後ろ3分の2を指す。
【0168】
好ましい実施形態では、本明細書で提供される1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成される粒子を含有している医薬組成物は、眼内の血管新生疾患を処置または予防するために投与される。ある種の実施形態では、粒子は、ダウノルビシンまたはドキソルビシンなどの、アントラサイクリンを含有しているポリマー薬物コンジュゲートから形成される。
【0169】
眼疾患、特に眼の血管新生を特徴とするものが、深刻な公衆衛生上の懸念となっている。眼内の血管新生疾患は、眼の1つまたは複数の領域における、抑制が利かない脈管の増殖を特徴とする。抑制が利かない血管新生化は、眼における1つまたは複数の構造物に損傷を与える、かつ/または曇らせ、視力が喪失する。眼内の血管新生疾患には、増殖性網膜症、脈絡膜血管新生(CNV)、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病、および他の虚血関連性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、変性近視、フォンヒッペル−リンドウ病、眼のヒストプラスマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、および網膜血管新生(RNV)が含まれる。眼内の血管新生疾患は、世界中で何百万もの人が苦しんでおり、多くの場合、深刻な視力喪失、クオリティーオブライフおよび生産性の低下に至る。
【0170】
加齢黄斑変性症(AMD)は、老年者の間の重症で不可逆な視力喪失の主要原因である。Bresslerら、JAMA、291巻、1900〜1901頁(2004年)。AMDは、ドルーゼンとして知られている淡黄斑、網膜色素上皮(RPE)の破裂、脈絡膜血管新生(CNV)、および円板状黄斑変性症などの幅広い範囲の臨床的および病理学的所見を特徴としている。AMDは、ドライ型(すなわち、非滲出型)またはウエット型(すなわち、滲出型)のどちらかとして分類される。ドライ型AMDは、ドルーゼンと呼ばれる病変の存在を特徴としている。ウエット型AMDは、視野の中心部における血管新生を特徴としている。
【0171】
それほど一般的でないが、ウエット型AMDは、AMDを伴う重症な視力喪失の80%〜90%の原因である(Ferrisら、Arch. Ophthamol.102巻、1640〜2頁(1984年))。AMDの原因は分かっていない。しかし、AMDを発症するリスクは、年齢の進行に伴って高まることは明らかである。AMDはまた、家族歴、喫煙、酸化ストレス、糖尿病、アルコール摂取、および日光への暴露を含むリスク要因にも関連している。
【0172】
ウエット型AMDは、黄斑領域のCNVを典型的に特徴としている。脈絡膜毛細血管が増殖し、ブルッフ膜に浸透して、網膜色素上皮(RPE)まで到達する。一部の場合、毛細血管が網膜下の空間にまで伸びることがある。新しく形成した毛細血管の浸透が高まると、RPE下、および/または神経感覚網膜下もしくはその内部で、漿液または血液が蓄積する。中心窩が腫脹するかまたは剥離すると、視力低下が起こる。線維性異形性(fibrous metaplasia)および組織化が続いて起こり、AMDの最終段階を構成し、恒久的な視力喪失を伴う、円板状瘢痕と呼ばれる網膜下腫瘤(subretinal mass)が増大する(D’Amico D J. N. Engl. J. Med.、331巻、95〜106頁(1994年))。
【0173】
ブドウ膜炎などの、他の眼の疾患および障害も既存の治療法を使用して処置するのが困難である。ブドウ膜炎は、虹彩、毛様体、または脈絡膜などの、ブドウ膜のいずれかの構成要素の炎症を指す一般用語である。覆っている網膜の炎症(網膜炎とよばれる)、または視神経の炎症(視神経炎と呼ばれる)が、ブドウ膜炎を伴うか、または伴わずに起こることがある。
【0174】
とりわけ、未承認(unrecognize)または不適当に処置された場合、ブドウ膜炎の眼の合併症により、深刻で非可逆性の視力喪失が生じることがある。ブドウ膜炎の最も頻繁に起こる合併症には、網膜剥離、網膜、視神経、または虹彩の血管新生、および嚢胞様黄斑浮腫が含まれる。視力にとって最も重要な網膜の中央部5%にあたる網膜黄斑内に、腫脹、漏出、および背景糖尿病網膜症(BDR)が起こると、黄斑浮腫(ME)が起こり得る。MEは、重症の視力障害の一般的な原因である。
【0175】
眼内の神経脈管疾患、および眼の慢性炎症に伴う疾患を医薬品により処置する試みが多く行われてきた。臨床的に有用な治療を開発するための試みは、治療有効量の医薬品を眼組織中に投与して、長期間維持することの困難さにより悩まされてきた。さらに、多くの医薬品は、眼組織に投与した場合、深刻な副作用および/または毒性を示す。
【0176】
眼内血管新生疾患は、眼の血管新生を特徴とする眼の疾患または障害である。血管新生は、角膜、網膜、脈絡膜層、または虹彩を含む、眼の1つまたは複数の領域で起こり得る。ある種の例では、眼の疾患または障害は、眼の脈絡膜層における新しい血管の形成(すなわち、脈絡膜血管新生、CNV)を特徴としている。一部の例では、眼の疾患または障害は、網膜静脈に由来し、かつ網膜の内側(硝子体の)表面に沿って伸長する血管の形成を特徴としている(すなわち、網膜血管新生、RNV)。
【0177】
眼の例示的な血管新生疾患には、脈絡膜血管新生を伴う加齢黄斑変性症、増殖性糖尿病網膜症(網膜、網膜前方、または虹彩の血管新生を伴う糖尿病網膜症)、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、変性近視、フォンヒッペル−リンドウ病、推定眼ヒストプラスマ症候群(POHS)、ならびに網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、および網膜中心動脈閉塞症などの虚血を伴う状態が含まれる。
【0178】
血管新生は、腫瘍によって引き起こされ得る。腫瘍は、良性または悪性腫瘍のいずれかとすることができる。例示的な良性腫瘍には、過誤腫および神経線維腫が含まれる。例示的な悪性腫瘍には、脈絡膜黒色腫、虹彩のブドウ膜黒色腫、毛様体のブドウ膜黒色腫、網膜芽細胞腫、または転移性疾患(例えば、脈絡膜転移)が含まれる。
【0179】
血管新生は、眼の創傷に関連することがある。例えば、創傷は、角膜裂傷などの眼球への外傷性損傷の結果であることがある。あるいは、創傷は眼科手術の結果となることがある。
【0180】
ポリマー薬物コンジュゲートは、硝子体網膜手術後の増殖性硝子体網膜症のリスクを予防するか低減する、角膜手術(角膜移植およびエキシマレーザー手術など)後の角膜混濁を予防する、線維柱帯切除術の閉塞を予防する、または翼状片の再発を予防するかもしくは実質的に遅延させるために投与することができる。
【0181】
ポリマー薬物コンジュゲートは、炎症に伴う眼疾患を処置または予防するために投与することができる。こうした場合、ポリマー薬物コンジュゲートは、好ましくは抗炎症剤を含有する。例示的な炎症性眼疾患には、以下に限定されないが、ブドウ膜炎、眼内炎、および眼の外傷または手術が含まれる。
【0182】
眼疾患はまた、HIV網膜症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、および眼内炎などの感染性眼疾患でもあり得る。
【0183】
1種または複数のポリマー薬物コンジュゲートから形成された粒子を含有している医薬組成物はまた、ドライアイ、マイボーム腺炎、緑内障、結膜炎(例えば、アレルギー性結膜炎、春季カタル、巨大乳頭結膜炎、アトピー性角結膜炎)、虹彩血管新生を伴う血管新生緑内障、および虹彩炎などの、眼の他の部分に影響を及ぼす、1つまたは複数の疾患を処置または予防するために使用することもできる。
【0184】
1.投与方法
a.投与形式
本明細書に記載されている製剤は、硝子体内注射(例えば、硝子体の前面、中央部、または背面注射)、結膜下注射、前房内注射、側頭縁部を介する前眼房への注射、基質内注射、脈絡膜下空間への注射、角膜内注射、網膜下注射、および眼内注射により、眼に局所投与することができる。好ましい実施形態では、医薬組成物は、硝子体内注射によって投与される。
【0185】
本明細書に記載されているインプラントは、当該分野で公知の埋込みに適した方法を使用して、眼に投与することができる。ある種の実施形態では、インプラントは22ゲージの針などの針を使用して硝子体内に注射される。硝子体内へのインプラントの配置は、インプラントのサイズ、インプラントの形、および処置すべき疾患または障害を考慮して変えることができる。
【0186】
一部の実施形態では、本明細書に記載されている医薬組成物および/またはインプラントは、1つまたは複数のさらなる活性剤と共投与される。本明細書で使用する「共投与」とは、1種または複数のHIF−1阻害剤の放出制御製剤と1種または複数のさらなる活性剤とを、同じ剤形内で、および異なる剤形を使用して同時に、または本質的に同時に投与することを指す。本明細書で使用する「本質的に同時に」とは、一般に、10分以内、好ましくは5分以内、より好ましくは2分以内、最も好ましくは1分以内を意味する。
【0187】
一部の実施形態では、本明細書に記載されている医薬組成物および/またはインプラントは、眼の血管新生疾患または障害に関する1つまたは複数のさらなる処置と一緒に共投与される。一部の実施形態では、本明細書に記載されている医薬組成物および/またはインプラントは、1種または複数の抗血管新生剤(ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ラニビズマブすなわちLUCENTIS(登録商標)、またはアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))など)と共投与される。
【0188】
b.投与
好ましくは、粒子は、長期間にわたり、有効量の1種または複数のHIF−1阻害剤を放出することになる。好ましい実施形態では、粒子は、少なくとも2週間の期間にわたり、より好ましくは少なくとも4週間の期間にわたり、より好ましくは少なくとも6週間の期間にわたり、最も好ましくは少なくとも8週間の期間にわたり、有効量の1種または複数のHIF−1阻害剤を放出する。一部の実施形態では、粒子は、3ヶ月以上の期間にわたり、有効量の1種または複数のHIF−1阻害剤を放出する。
【0189】
一部の場合、医薬製剤は、脈絡膜血管新生を低減するため、それを必要としている患者に、治療有効量で投与される。一部の場合、医薬製剤は、網膜血管新生を低減するため、それを必要としている患者に、治療有効量で投与される。
【0190】
c.治療効果
加齢黄斑変性症の場合、患者における治療効果は、以下の1つまたは複数のものによって測定することができる。すなわち、ベースラインから所望の時間までの最高矯正視力(BCVA)の平均変化の評価、ベースラインと比較した、所望の時間で15文字(3行)未満の視力を失う患者の割合の評価、ベースラインと比較した、所望の時間で15文字(3行)またはそれ以上の視力を得る患者の割合の評価、所望の時間で20/2000またはそれより悪いスネレン等価視力を有する患者の割合の評価、米国国立眼病研究所の視覚機能の質問表の評価、ならびに蛍光眼底血管造影法を使用する所望時間におけるCNVサイズおよびCNV漏出量の評価である。
【0191】
ある種の実施形態では、CNVを最近発症し、本明細書に記載されている製剤で処置されている患者の少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%、最も好ましくは少なくとも40%は、視覚を3行以上改善する。
【0192】
B.他の疾患および障害
1種または複数のHIF−1阻害剤を送達するための放出用量制御製剤は、癌および肥満症を含む、血管新生を伴う患者における、疾患または障害を処置するために使用することができる。
【0193】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することにより、さらに理解される。
【実施例】
【0194】
(実施例1)ポリ無水物薬物コンジュゲート粒子の調製
ポリマーの合成
(ポリエチレングリコール)
3−co−ポリ(セバシン酸)(PEG
3−PSA)を、溶融重縮合により調製した。手短に言えば、セバシン酸を無水酢酸中で還流し、セバシン酸プレポリマー(Acyl−SA)を形成させた。クエン酸−ポリエチレングリコール(PEG
3)を、当該分野で公知の方法(Ben−Shabat, S.ら、Macromol. Biosci.6巻、1019〜1025頁(2006年))を使用して調製した。CH
3O−PEG−NH
22.0g、クエン酸26mg、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)83mg、および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)4.0mgを塩化メチレン10mLに加えた。この混合物を室温で一晩撹拌し、次に沈殿させ、エーテルにより洗浄して真空下で乾燥し、PEG
3を単離した。次に、Acyl−SA(90%w/w)およびPEG
3(10%w/w)を180℃で30分間重合した。窒素ガスを15分毎に30秒間フラスコに掃引した。反応を30分間進行させた。ポリマーを周囲温度まで冷却し、クロロホルムに溶解し、過剰の石油エーテル中に沈殿させた。沈殿物をろ過により集め、一定重量になるまで真空下で乾燥した。
【0195】
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子の形成
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子は、ジクロロメタン3mLおよびDMSO1mL中に、PEG
3−PSAとDXRとを規定した比で溶解し、50℃で2時間反応させた後、1%ポリビニルアルコール(25kDa、Sigma社)を含有している水溶液100mL中にホモジナイズ(L4RT、Silverson Machines社、East Longmeadow、MA)することにより調製した。次に、撹拌しながら、室温でクロロホルムを2時間蒸発させることにより、粒子が固化した。粒子を遠心分離(4℃、20,000×gで、20分間)によって集め、2倍の蒸留水で3回洗浄した。粒子サイズは、ZetaSizer Nano ZS(Malvern Instruments社、Southborough、MA)を使用する動的光散乱法により決定した。サイズ測定は、25℃において、90°の散乱角で行った。
【0196】
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子からインビトロでのDXR放出
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を、2mg/mLで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中に懸濁し、旋回台(140RPM)上、37℃でインキュベートした。選択した時間点において、上清を遠心分離(13,500×g、5分間)により集め、粒子を新しいPBS中で再懸濁した。DXR含有量は、480nmにおける吸光度により測定した。
【0197】
結果
上記で調製したDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子は、DXRを23.6%(重量基準)含有し、かつ平均粒子サイズ647nmを有した。インビトロ研究により、最大2週間、37℃においてPBS中に浸漬した条件下で、初期の急激な薬物放出段階がなく(すなわち、「バースト効果」がない)、DXRが、セバシン酸を含むコンジュゲートとして、ナノ粒子から定常的に放出されたことが示された。
【0198】
(実施例2)CNVのマウスモデルにおける脈絡膜血管新生の処置
材料および方法
病原体をもたないC57BL/6マウス(Charles River社、Wilmington、MA)を、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research、およびJohns Hopkins University Animal Care and Use Committeeの指針に準拠して処置した。
【0199】
以前に記載されているブルッフ膜のレーザー光凝固誘発性破裂により、脈絡膜NVを誘発させた(Tobe, Tら、Am. J. Pathol.135巻(5号)、1641〜1646頁(1998年))。手短に言えば、5〜6週齢のC57BL/6雌性マウスを塩酸ケタミン(100mg/kg体重)により麻酔にかけ、瞳孔を拡張した。OcuLight GLダイオードレーザー(Iridex社、Mountain View、CA)のスリットランプ投射システムおよび網膜を見るためのコンタクトレンズとしてハンドヘルドの(handheld)カバーガラスを用いて、レーザー光凝固(75μmのスポットサイズ、期間0.1秒、120mW)を各眼の後極の9時、12時、および3時の位置に行った。ブルッフ膜の破裂を示す、レーザー時の気泡の発生は、CNVを得る際の重要な要因である;したがって、本検討では、気泡が発生した単なる火傷を含めた。
【0200】
ブルッフ膜のレーザー誘発性破裂の直後に、眼内注射するため、マウスを様々な処置群に無作為化した。Harvard Pump Microinjection Systemおよびガラス製プルマイクロピペットを使用して、解剖用顕微鏡下で硝子体内注射を行った。
【0201】
注射の1、4、7および14日後に、Micron III(登録商標)カメラ(Phoenix Research Laboratories Inc.社、Pleasanton、CA)を用いて眼底写真を撮影した。14日後に、フルオレセイン標識デキストラン25mg/ml(2×10
6ダルトンの平均分子量;Sigma Aldrich社、St.Louis、MO)を含有しているPBS1mlによりマウスを灌流し、蛍光顕微鏡検査法により、脈絡膜フラットマウントを試験した。画像は、Nikon Digital Still Camera DXM1200により取得した(Nikon Instruments Inc.社、New York、NY)。画像解析ソフトウェア(Image−Pro(登録商標)Plus;Media Cybernetics社、Silver Spring、MD)を使用して、処置群に関してマスクされている研究者により、各破裂部位におけるCNV面積の合計を測定した。
【0202】
酸素誘発性虚血性網膜症の処置
出生後日数(P)7およびP12において、75%酸素中に置かれたC57BL/6マウスを部屋の空気に戻し、PBS、またはダウノルビシン、ドキソルビシン、もしくはDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を含有しているPBSの眼内注射を行った。P17では、網膜表面上の網膜NVの面積を測定した。手短に言えば、P17マウスに、ラット抗マウス血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM−1)抗体(Pharmingen社、San Jose、CA)1μlを眼内注射し、12時間後、これらのマウスを安楽死させ、眼を室温で5時間、PBS緩衝ホルマリンに固定した。網膜を解剖して洗浄し、Alexa488によりコンジュゲートしたヤギ−抗ラットポリクローナル抗体(Invitroge社、Carlsbad、CA)を1:500希釈で用いて、室温で45分間インキュベートし、フラットマウントした。処置群に関してマスクされている観察者が、画像解析により網膜あたりのNVの面積を測定した。
【0203】
VEGF誘発性網膜血管新生の処置
光受容体においてVEGFを発現するヘミ接合ロドプシン/VEGFトランスジェニックマウスに、P14において、PBS、またはDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子10μgを含有しているPBS1μlを眼内注射した。P21、P28、P35、P42、またはP49に、マウスに麻酔をかけ、フルオレセイン標識デキストラン(平均分子量2×10
6、Sigma−Aldrich社)により灌流し、網膜フラットマウントを400倍の拡大倍率で蛍光顕微鏡検査法(Axioskop2 plus、Zeiss社、Thornwood、NY)により試験すると狭い被写界深度がもたらされ、その結果、網膜の外側縁部に沿った血管新生に焦点を合わせると、網膜血管の残りが焦点外になり、血管新生の描写および定量化が簡単になる。画像は、三色電荷結合素子ビデオカメラ(Cool SNAPTM−Pro、Media Cybernetics社、Silver Spring、MD)およびフレームグラバーによりデジタル化した。染色された血管新生を蛍光により認識するよう、画像解析ソフトウェア(Image−Pro Plus 5.0、Media Cybernetics社、Silver Spring、MD)を設定し、網膜あたりの血管新生の合計面積を計算した。画像解析を行う研究者は、処置群に関してマスクされている。
【0204】
網膜電図(ERG)の記録
成体C57BL/6マウスに、PBS、あるいは0.1、1.0もしくは10μgのダウノルビシンまたはドキソルビシン、あるいは1.0もしくは10μgのDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を含有しているPBS1μlを眼内注射した。注射後、Espion ERG Diagnosys機器を使用し、暗順応および明順応ERGを1日目、7日目、および14日目に記録した。暗順応記録に関しては、マウスに暗闇で一晩順応させ、明順応記録に関しては、マウスを強度30cd/m
2でバックグラウンド白色光に10分間順応させた。マウスを、塩酸ケタミン(100mg/kg体重)およびキシラジン(5mg/kg体重)を腹腔内に注射して麻酔をかけた。0.5%トロピカミドおよび0.5%フェニレフリン塩酸塩(参天製薬株式会社、大阪、日本)を含有しているMidrin Pにより瞳孔を拡張した。マウスを39℃に加熱したパッド上に置き、隅角プリズム溶液(Alcon Labs社、Fort Worth、TX)の適用後、白金耳電極を各角膜に配置した。参照電極は、両眼間の前頭皮の皮下に配置し、接地電極を尾部に挿入した。マウスの頭を、両眼に等しい照射が確実となる、全体野ボウル型照射器の標準化位置に保持した。両眼の記録は、平衡電気的インピーダンスにより同時に行った。暗順応ERGは、−3.00〜1.40log cd−s/m2の範囲の白色光を強度レベル11で記録した。各フラッシュ強度について、6回の測定値を平均した。明順応ERGは、30cd/m2のバックグラウンドで、0.60〜1.40log cd−s/m2の範囲の白色光を強度レベル3で記録した。各フラッシュ強度について、5回の測定値を平均した。
【0205】
外核層(ONL)の厚みの測定
ONL厚みを測定した。成体C57BL/6マウスに、PBS、あるいは0.1、1.0もしくは10μgのダウノルビシンまたはドキソルビシン、あるいは1.0もしくは10μgのDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を含有しているPBS1μlを眼内注射した。マウスを安楽死させ、角膜輪部の12:00の位置に印を付け、眼を取り除き、最適な切断温度の化合物に埋め込んだ。視神経に沿って12:00または9:00の経線に対して平行に10マイクロメートルの凍結切片を切り出し、4%パラホルムアルデヒドに固定した。切片をヘマトキシリンおよびエオシンにより染色し、Axioskop microscope(Zeiss社、Thornwood、NY)により試験し、画像を、三電荷結合素子(CCD)カラービデオカメラ(IK−TU40A、東芝、東京、日本)およびフレームグラバーを用いてデジタル化した。Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics社、Silver Spring、MD)を使用してONLの輪郭を描いた。処置群に関してマスクされている観察者により、ONLの厚みを6箇所の位置、すなわち上極と視神経の間の距離の25%(S1)、50%(S2)、および75%(S3)、ならびに下極と視神経の間の距離の25%(I1)、50%(I2)、および75%(I3)で測定した。
【0206】
統計解析
データは、平均値±SEMとして表した。統計解析は、スチューデントt検定を使用して行い、P<0.05を有意であると見なした。
【0207】
結果
アントラサイクリンは脈絡膜および網膜のNVを抑制する。
血管新生AMD患者における薬物効果(Saishin, Y.ら、J. Cell Physiol.、195巻、241〜248頁(2003年))を予測する脈絡膜NVのマウスモデル(Tobe,T.らAm.J.Pathol.153巻、1641〜1646頁(1998年))において、DNR10μgの眼内注射により、脈絡膜NVが抑制される一方、1または0.1μgの注射は、有意な効果を有さなかった(
図1A)。同様に、DXR10μgの眼内注射により脈絡膜NVが抑制され、1または0.1μgの注射は、有意な効果を有さなかった(
図1B)。
【0208】
増殖性糖尿病網膜症における効果を予測するモデルである、酸素誘発性虚血性網膜症を有する新生仔マウスでは、DNR1μgの眼内注射により、網膜NVの面積が著しく低下し、0.1μgでは僅かに低下し、0.01μgでは有意な効果を有さなかった(
図2A)。NVおよび硝子体血管を選択的に染色する技法である、抗PECAM1によるインビボでの免疫蛍光染色後、網膜フラットマウント上でNVを視覚化した。DXR1μgの眼内注射により、網膜NVの面積が有意に低下したが、0.1または0.01μgは、そうではなかった(
図2B)。DNRまたはDXR1μgを注射した5日後、沈殿した薬物を網膜の表面上に視覚化した。僚眼における脈絡膜または網膜NVの平均面積は、両方の眼をビヒクル注射したマウスの眼におけるものとは有意な違いがなく、DNRまたはDXRの眼内注射に起因する全身的作用は存在しないことを示している。
【0209】
網膜機能に対するDNRまたはDXRの眼内注射の効果
DNRおよびDXRは、代謝拮抗剤およびHIF−1阻害剤であるので、本発明者らは、ERGによって評価される網膜機能に対するそれらの効果を試験した。DNRまたはDXR1μgの眼内注射の14日後、暗順応および明順応のb波の平均振幅が有意に低下したが、0.1μgのDNRまたはDXRではそうではなかった。これらのデータにより、DNRおよびDXRは、眼のNVを強く抑制する一方、遊離薬物のボーラス注射は網膜毒性を引き起こし得ることが示される。
【0210】
ジゴキシンの眼内注射後の網膜毒性
ジゴキシン0.01〜0.25μgを眼内注射することにより、HIF−1の転写活性および眼のNVが抑制されることが以前に実証されている(Yoshida, T.ら、FASEB J.24巻、1759〜1767頁(2010年))。網膜機能に対するDXRおよびDNRの有害作用が、HIF−1活性の抑制と関連するかを探索するため、網膜機能に対するジゴキシン0.25および0.05μgの眼内注射の影響を測定した。ジゴキシン0.25μgを眼内注射した1週間後、暗順応のa波の平均振幅、暗順応のb波の平均振幅、および明順応のb波の平均振幅は有意に低下した。網膜における6つの測定位置の内の3つにおいて、外核層の厚みも低下しており、光受容体細胞の死亡を示している。これらの結果は、ジゴキシン0.25μgを眼内注射した後、かなりの毒性があることと一致している。ジゴキシン0.05μgの眼内注射はそれほど有毒ではなかったが、暗順応および暗順応のb波の平均振幅の著しい低下を依然として引き起こした。したがって、アントラサイクリンおよびジゴキシンの両方について、遊離薬物の眼への注射は、網膜毒性のリスクをもたらす。
【0211】
眼のNVに対するDXR−ポリマーナノ粒子の効果
DXRナノ粒子の眼内注射の効果を、レーザー誘発性脈絡膜NVを有するマウスにおいてまず試験した。ブルッフ膜のレーザー誘発性破裂の後、C57BL/6マウスに、10、1、または0.1μgのDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を眼内注射した。DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子1μgを投与された動物の眼底写真により、注射1日後に網膜後部を覆うナノ粒子の大きなオレンジ色の塊が、時間をかけてゆっくりと減少し、かつ14日目でも依然として容易に目視可能であることが示された。粒子は5週間もの期間、目視可能のままであった。
【0212】
14日目に蛍光顕微鏡検査法により脈絡膜NVを視覚化するために、フルオレセイン標識デキストランにより灌流したマウスでは、DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を眼内注射された目における脈絡膜NVの面積は、PBSを注射された僚眼と比べてより小さいように見えた。画像解析により、PBSを注射した目と比較して、DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を10、1または0.1μg注射した眼では、脈絡膜NVの平均面積はずっと小さいものであった(
図3A)。
【0213】
既に定着した脈絡膜NVに対するDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子の効果を、NVを7日間成長させ、次にDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子1μgを注射することにより調べた。注射の7日後に、DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を注射した眼は、PBSを注射した対照の眼において観察されるものよりもかなり小さな脈絡膜NVの平均面積を有しており、また7日目に存在していた脈絡膜NVのベースライン量よりもやはりかなり小さいものであった(
図3B)。これは、DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子が、定着した脈絡膜NVの退行を引き起こすことを示している。
【0214】
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子製剤も、虚血誘発性網膜血管新生のモデル(Smith, L. E. H.ら、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.35巻、101〜111頁(1994年))を使用して調べた。DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子1μgの眼内注射により、PBSを注射した僚眼と比較して、網膜NVの平均面積はかなり低下した(
図4)。
【0215】
rho/VEGFトランスジェニックマウスにおけるDXR−ポリマーナノ粒子の眼内注射後のNV抑制の延長
ロドプシンプロモーターが光受容体においてVEGF発現を駆動するrho/VEGFトランスジェニックマウスは、生後(P)7日目に開始したVEGFの発現を持続し、治療剤の活性期間を試験するための優れたモデルを提供する(Okamoto, N.ら、Am. J. Pathol.151巻、281〜291頁(1997年))。
【0216】
P14に、ヘミ接合rho/VEGFマウスに、一方の眼にDXR−PSA−PEG
3ナノ粒子10μgおよび僚眼にPBSを眼内注射した。4週間目(
図5A)または5週間目(
図5B)の、網膜下NVの平均面積は、ビヒクル注射僚眼よりも、DXRナノ粒子注射眼の方がかなり小さかった。
【0217】
DXRナノ粒子1または10μgを眼内注射すると、ERGまたはONL厚みにより測定される毒性を引き起こさなかった。
DXR−PSA−PEG
310μgの眼内注射後の14日目では、PBSを注射した眼と比較すると、暗順応または明順応のb波の振幅に有意な差異は存在しなかった。外核層の厚みも差異は存在しておらず、DXRナノ粒子が光受容体の細胞死を引き起こさなかったことを示している。
【0218】
(実施例3)ウサギにおける薬物動態試験
材料および方法
PEG
3−PSAポリマーの調製
(ポリエチレングリコール)
3−co−ポリ(セバシン酸)(PEG
3−PSA)は、溶融縮合により合成した。手短に言えば、セバシン酸を無水酢酸中で還流し、セバシン酸プレポリマー(Acyl−SA)を形成させた。ポリエチレングリコール(PEG
3)を、塩化メチレン10mLに加えた、CH
3O−PEG−NH
2(2.0g)、クエン酸(26g)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;83mg)、および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、4.0mg)を混合することにより調製し、室温で一晩撹拌し、次に沈殿させて、エーテルで洗浄して真空下で乾燥した。次に、acyl−SA(90%w/w)およびPEG
3(10%w/w)を180℃で30分間重合した。窒素ガスを15分毎に30秒間フラスコに掃引した。ポリマーを周囲温度まで冷却し、クロロホルムに溶解し、過剰の石油エーテル中に沈殿させた。沈殿物をろ過により集め、一定重量になるまで真空下で乾燥すると、PEG
3−PSAポリマーが生成した。
【0219】
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子およびマイクロ粒子の調製
DXR−PSA−PEG
3ナノ粒子を調製するため、PEG
3−PSA80mgをジクロロメタン(DCM)6mLに溶解し、ドキソルビシン塩酸塩(DXR)(NetQem LLC、Durham、NC)20mgをジメチルスルホキシド(DMSO)2mLに溶解した。ポリマーおよび薬物の溶液を混合し、50℃で30分間維持した。L4RTホモジナイザー(Silverson Machines社、East Longmeadow、MA)を使用し、10,000rpmで3分間、得られた混合物を1%ポリビニルアルコール(PVA)溶液(25kDa、Polyscience社、Niles、IL)50mL中でホモジナイズした。粒子懸濁液を室温で2時間撹拌し、ジクロロメタンを除去した。粒子を遠心分離(4℃、20,000×g、20分間)によって集め、凍結乾燥前に、超純水で3回洗浄した。
【0220】
DXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子は、同様の方法で調製した。手短に言えば、PEG
3−PSA200mgをDCM3mLに溶解し、DMSO1.5mL中に溶解したDXR40mgと混合した。50℃で30分間インキュベートした後、混合物をPVA100mL中、3,000rpmで1分間ホモジナイズした。2時間撹拌した後、粒子を遠心分離(9,000×g、25分)により集め、凍結乾燥前に3回洗浄した。
【0221】
粒子特性
粒子サイズを、Coulter MultisizerIV(Beckman−Coulter Inc.社、Fullerton、CA)を用いて決定した。マイクロ粒子の各回分について、100,000個を超える粒子をあるサイズにして、平均粒子径を決定した。粒子形態は、冷陰極電界放出型SEM(JEOL JSM−6700F、Peabody、MA)を使用する走査型電子顕微鏡(SEM)により特徴づけた。薬物搭載量は、DCMおよびDMSO中に粒子の乾燥粉末を溶解することにより決定し、UV分光光度計を使用して吸光度を490nmで測定した。
【0222】
動物手順
色素が沈着したダッチベルテッドウサギをこれらの研究に使用した(n=10)。動物は、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement of Use of Animals in Ophthalmic and Research、およびJohns Hopkins University Animal Care and Use Committeeの指針に準拠して処置した。眼内注射および水性体液の回収のために、ケタミン(25mg/kg)およびキシラジン(2.5mg/kg)の筋肉内注射により、動物に麻酔をかけた。鎮静すると、瞳孔を2.5%塩酸フェニレフリンおよび10%トロピカミドにより拡張した。眼球表面の麻酔は、0.5%塩酸プロパラカインの局所点眼法を使用して行った。
【0223】
注射に関すると、26ゲージの針を側頭上部の縁部の後方1.5mmの硝子体腔に、針の先端が硝子体中央部に向かうよう、注意深く導入した。GB−AMD−101マイクロ粒子またはナノ粒子懸濁液の0.1mL体積分を右眼に送達し、ビヒクル(PBS)0.1mLを左眼に送達した。導入部位からの逆流を防ぐために、針を抜き取る前に、10秒間、定位置で保持した。麻酔から戻るまで、動物をケージに返しモニターした。
【0224】
指示した時間に、輪部から30ゲージの針を挿入して、水性体液を取り出すことにより、水性体液(約0.1mL)を抜き取った。試料は使用するまで−80℃で保管した。検討の終わり(ナノ粒子処置動物に関しては105日目、およびマイクロ粒子処置動物に関しては115日目)に、動物をペントバルビタールに基づく安楽死(>150mg/Kg)を用いて安楽死させた。動物は眼球を除去され、硝子体を単離して使用するまで−80℃で保管した。
【0225】
ウサギの水性体液および硝子体試料中の放出薬物コンジュゲートのHPLC定量
HPLCによる薬物含有量の定量前に、水性体液試料100μLまたは硝子体試料をメタノール200μLと混合し、4℃で3時間インキュベートした。遠心分離(15,000×g、10分)および0.2μmPTFEフィルターによるろ過後、ろ液150μLをc18逆相カラム(5μm、4.6×250mm、Grace、Deerfield IL)を装備したWatersHPLCシステムに注入した。放出薬物コンジュゲートを、水およびアセトニトリル(60%:40%、v/v)を含有するイソクラティック移動相により1mL/分で溶出し、蛍光検出器(励起波長:500nm、発光波長:551nm)を使用して検出した。推定検出限界は、10ng/mLであった。異なる濃度の一連のDXR水溶液を較正標準として使用した。データはEmpower3クロマトグラフィーデータソフトウェアを使用して分析した(Waters Corporation社、Milford MA)。
【0226】
結果
DXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子およびナノ粒子
DXR−SA−PEG
3コンジュゲートからなるマイクロ粒子およびナノ粒子を合成し、記載した通りに特徴付けを行った。粒子は、凍結乾燥前、およびビヒクル(PBS)中に再構成した後に、あるサイズにした。マイクロ粒子は、凍結乾燥前に、平均サイズ27.2+1.0μmを示し、ナノ粒子は0.98+0.02μmを示した(表1、
図6)。マイクロ粒子の平均薬物搭載量は13%であり、ナノ粒子の平均薬物搭載量はは20%であった(表1)。
【表1】
【0227】
SEM解析により、予期したサイズの離散性粒子であることを実証した。
図6Aおよび
図6Bは、マイクロ粒子およびナノ粒子の体積基準のサイズ分布をそれぞれ示している。
【0228】
ウサギへのIVT投与後の薬物放出期間
ウサギは、右眼にDXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子またはナノ粒子、および左眼にビヒクル単独(PBS)の硝子体内注射(0.1mL)を受けた。指示した時間に、水性体液を集め(約0.1mL)、HPLCに基づく定量アッセイを使用して、放出された薬物コンジュゲートの存在について分析した。115日目(マイクロ粒子群)または105日目(ナノ粒子群)に、動物を安楽死させ、水性体液および硝子体を集めた。各動物について、AHにおける放出薬物のレベルを硝子体中のものと比較した。
【0229】
ウサギはすべて、硝子体内への粒子投与後、薬物放出が持続していることを示した(
図7A、表2)。
【表2】
【0230】
マイクロ粒子とナノ粒子の処置動物の両方のAHにおいて、研究期間(それぞれ、115日および105日)、HPLCアッセイの定量限界(10ng/mLまたは20nM)より十分高いレベルが観察された(
図7A)。硝子体と比べたAHにおける放出薬物レベルの直接比較により、硝子体のレベルは、AHにおいて測定されるレベルよりも、AHと比べて硝子体中では最大188倍高いという、かなり高いものであることが示された(表3、
図7B)。115日目におけるマイクロ粒子処置動物に関する平均放出薬物レベルは、AHにおいては0.09+0.13μMであり、硝子体においては7.12+12.92μMであった。105日目におけるナノ粒子処置動物に関すると、平均放出薬物レベルは、AHにおいては0.23+0.31μMであり、硝子体においては11.91+10.45μMであった(表3)。硝子体における薬物レベルは、AHにおいて測定された薬物レベルよりも77〜90倍高いものであった。
【0231】
図7Aは、硝子体に注射したマイクロ粒子およびナノ粒子により処置されたウサギの水性体液(AH)における、放出されたDXR薬物コンジュゲートの量(nM)を時間(日数)の関数として示したグラフである。
図7Bは、それぞれ、105日目および115日目のナノ粒子およびマイクロ粒子処置ウサギの、水性体液(AH)ならびに硝子体における放出薬物量を比較した棒グラフである。
【表3】
【0232】
ウサギの眼へのDXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子またはナノ粒子の硝子体内送達により、それぞれ少なくとも115日間または105日間(本検討の期間)持続する長期薬物放出がもたらされた。硝子体中で測定された放出薬物レベルは、水性体液中において測定されたレベルよりも、平均が77〜90倍高いという、かなり高いものであった。
【0233】
これらのデータは、眼内送達するとDXR−PSA−PEG
3からの持続放出を実証しており、DXR−PSA−PEG
3の持続放出は、NV AMDを含むNV眼疾患の処置に対する有望な治療法になることを示唆している。
【0234】
(実施例4)完全生分解性DXR−PSA−PEG
3ロッドの合成、およびそのインビトロ評価
3種のドキソルビシン(DXR)薬物搭載レベル10%、30%および50%を有する、直径0.5mm、長さ0.5cm、および質量1mgのロッド型DXR−PSA−PEG
3を首尾よく作製することができた。DXRコンジュゲートのインビトロでの放出は、3種のロッドタイプすべてにより、少なくとも25日間、持続放出されることを実証した。
【0235】
材料および方法
PEG
3−PSAポリマーの調製
(ポリエチレングリコール)
3−co−ポリ(セバシン酸)(PEG
3−PSA)を溶融縮合により合成した。手短に言えば、セバシン酸を無水酢酸中で還流し、セバシン酸プレポリマー(Acyl−SA)を形成させた。ポリエチレングリコール(PEG
3)は、塩化メチレン10mLに加えた、CH
3O−PEG−NH
2(2.0g)、クエン酸(26g)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;83mg)、および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、4.0mg)を混合することにより調製し、室温で一晩撹拌し、次に沈殿させて、エーテルで洗浄して真空下で乾燥した。次に、acyl−SA(90%w/v)およびPEG
3(10%w/v)を180℃で30分間重合した。窒素ガスを30秒毎に15分間フラスコに掃引した。ポリマーを周囲温度まで冷却し、クロロホルムに溶解し、過剰の石油エーテル中に沈殿させた。沈殿物をろ過により集め、一定重量になるまで真空下で乾燥すると、PEG
3−PSAポリマーが生成した。
【0236】
DXR−PSA−PEG
3ロッドの調製
DXR−PSA−PEG
3ロッドを調製するため、3種の異なる濃度のDXRを使用して、10%、30%および50%(w/w)の薬物搭載レベルを有するロッドを作製した。10%、30%および50%の薬物搭載ロッドに関すると、PEG
3−PSAおよびドキソルビシン塩酸塩(DXR)(NetQem LLC、Durham、NC)を9:1、7:3、および1:1(w/w)の比でCHCl
3に加えた。PEG
3−PSAおよびDXRを50℃で1時間インキュベートし、その後、CHCl
3を真空により除去した。反応生成物をすりつぶして微粉末にし、次に、成形型として使用した直径0.5mmのガラス管中に圧縮した。ロッドを成形型から押し出し、長さ0.5cmに裁断した。各ロッドは、約1mg(0.9〜1.2mg)の重量であった。
【0237】
インビトロ薬物放出
1つのロッド(約1mg)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)1mlに加え、回転台(140RPM)上で、37℃でインキュベートした。選択した時点において、上清を集め、新しいPBSを加えた。DXR−コンジュゲート濃度を、480nmにおける吸光度により測定した。
【0238】
結果
3種の異なる薬物搭載レベル10%、30%および50%を有するロッド型DXR−PSA−PEG
3を作製した。DXR−PSA−PEG
3コンジュゲートから、直径0.5mm、長さ0.5cm、および質量1mgを有するロッドを形成した。
【0239】
インビトロ薬物放出期間は、薬物搭載レベルが10%、30%、および50%を有するDXR−PSA−PEG
3ロッドを使用して評価した(
図8)。3つのロッドすべてからの薬物放出が、少なくとも25日間持続した。
【0240】
これらのデータは、ロッド型DXR−PSA−PEG
3コンジュゲートの合成が可能であることを実証する。異なる薬物濃度を有するDXR−PSA−PEG
3コンジュゲートからなるロッドを首尾よく合成し、ロッドのすべてがインビトロでの薬物放出を持続することを示した。これらのデータはまた、サイズ、質量、および薬物含有量が異なるロッドを作製することができること、ならびに薬物放出速度を最適化し、各被送達薬物および各治療的指標にとって最も効果的な薬物送達プロファイルを得ることができることも示唆している。
【0241】
(実施例5)DXR−PCPH−PSA−PEG
3ポリマーコンジュゲートの作製
完全生分解性DXR−PSA−PCPH−PEG
3ポリマー薬物コンジュゲートからなるマイクロ粒子を合成し、これは、DXR−−PSA−PEG
3マイクロ粒子と比べて、よりゆっくりとした薬物放出速度、およびより一層持続した薬物放出期間を示した。ポリマーへのCPHの付加により、ポリマー薬物コンジュゲートの疎水性が高まり、おそらくDXR溶解度の低下により、薬物放出期間が延びる結果となった。
【0242】
材料および方法
1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン(CPH)の合成
1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン(CPH)をConix(1966年)により記載される通り合成した。手短に言えば、p−ヒドロキシ安息香酸(27.6g)および水酸化ナトリウム(16.0g)を水(80mL)中で撹拌し、還流温度まで加熱した。還流温度を維持しながら、1,6−ジブロモヘキサン(96%、15.7mL)を30分間かけて加え、さらに3.5時間還流した。水(10mL)に溶解した水酸化ナトリウム(4.0g)をこの混合物に加え、さらに2時間還流した後、反応混合物を室温で一晩置いた。二ナトリウム塩をろ過により単離し、メタノール40mLにより洗浄し、蒸留水に溶解した。溶液を60〜70℃に温め、6N硫酸により酸性にした。二塩基酸をろ過により単離し、真空下で一定重量になるまで乾燥した。
【0243】
PreCPHの合成
1,6−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン(CPH)(10.0g)を、窒素下、無水酢酸200mL中で30分間還流し、続いてろ過により未反応二酸、および蒸発により溶媒を除去した。残渣をジメチルホルムアミドおよびエチルエーテルから再結晶し、乾燥エチルエーテルにより洗浄して、真空下で一定重量になるまで乾燥した。
【0244】
PEG
3−PSA−PCPHプレポリマーの合成
(ポリエチレングリコール)
3−co−ポリ(セバシン酸)co−ポリ(CPH)(PEG
3−SA−CPH)を溶融縮合により合成した。手短に言えば、セバシン酸を無水酢酸中で還流し、セバシン酸プレポリマー(Acyl−SA)を形成させた。ポリエチレングリコール(PEG
3)を、塩化メチレン10mLに加えた、CH
3O−PEG−NH
2(2.0g)、クエン酸(26g)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;83mg)、および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、4.0mg)を混合することにより調製し、室温で一晩撹拌し、次に沈殿させて、エーテルで洗浄して真空下で乾燥した。次に、PEG
3(10%、w/v)、acyl−SA(60%w/v)およびpreCPH(30%w/v)を180℃で30分間重合した。窒素ガスを30秒毎に15分間フラスコに掃引した。ポリマーを周囲温度まで冷却し、クロロホルムに溶解し、過剰の石油エーテル中に沈殿させた。沈殿物をろ過により集め、一定重量になるまで真空下で乾燥すると、PEG
3−PSA−PCPHプレポリマーが生成した。
【0245】
DXR−−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子の調製
DXR−−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子を調製するため、PEG
3−PSA−PCPH200mgをジクロロメタン(DCM)3mLに溶解し、DMSO1.5mLに溶解したドキソルビシン塩酸塩(DXR)(NetQem LLC、Durham、NC)40mgと混合した。50℃で30分間インキュベートした後、混合物をPVA100mL中、3,000rpmで1分間ホモジナイズした。2時間撹拌した後、粒子を遠心分離(9,000×g、25分)により集め、凍結乾燥前に3回洗浄した。
【0246】
粒子特性
粒子サイズを、Coulter MultisizerIV(Beckman−Coulter Inc.社、Fullerton、CA)を用いて決定した。マイクロ粒子の各回分について、100,000個を超える粒子をあるサイズにして、平均粒子径を決定した。
【0247】
インビトロ薬物放出
DXR−−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子(2mg)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中で懸濁し、回転台(140RPM)上で、37℃でインキュベートした。選択した時点において、上清を遠心分離(13,500×g、5分間)により集め、粒子を新しいPBS中で再懸濁した。DXR−コンジュゲートは、480nmにおける吸光度により測定した。
【0248】
結果
DXR−−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子を合成し、これは、13.9%の薬物搭載レベルを有する24.3±8.7μmの平均サイズを示した。
【0249】
DXR−−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子とDXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子(平均サイズ22.5±8.3μm)との間で、インビトロ薬物放出期間を比較した。DXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子は、45日間、薬物放出が持続することを示した一方、DXR−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子は、より遅い薬物放出速度および75日にわたる薬物放出の持続を実証した(
図9)。
【0250】
完全生分解性DXR−PSA−PCPH−PEG
3ポリマー薬物コンジュゲートからなるマイクロ粒子を合成した。DXR−PSA−PCPH−PEG
3マイクロ粒子は、DXR−PSA−PEG
3マイクロ粒子、すなわち粒子にPCPHポリマーが付加していないものと比べて、より遅い薬物放出速度、およびより一層持続した薬物放出期間を示した。ポリマーへのPCPHの付加により、放出された薬物コンジュゲートの疎水性が高まり、このコンジュゲートはDXRの溶解度を低下させることが予期され、その結果、薬物放出期間が延びた。
【0251】
これらのデータは、放出される薬物コンジュゲートの疎水性を高めるために、ポリマーの化学的性質を変えることにより、薬物放出レベルおよび期間を改変し得ることを実証しており、これらのパラメータを最適化すると、送達される各薬物および各治療的指標にとって最も効果的な薬物送達プロファイルを得ることができることを示唆している。