特許第5883543号(P5883543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883543ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び射出成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883543
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20160301BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160301BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160301BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20160301BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20160301BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08L63/00
   C08K3/22
   C08K3/34
   C08K5/103
   B29C45/00
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-522750(P2015-522750)
(86)(22)【出願日】2014年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2014065077
(87)【国際公開番号】WO2014199915
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-124368(P2013-124368)
(32)【優先日】2013年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501183161
【氏名又は名称】ウィンテックポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】丸山 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−351657(JP,A)
【文献】 特開平06−041371(JP,A)
【文献】 特開2002−128998(JP,A)
【文献】 特開2004−263174(JP,A)
【文献】 特開2007−161946(JP,A)
【文献】 特表2007−524731(JP,A)
【文献】 特開2008−115209(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/050859(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/136592(WO,A1)
【文献】 特開2010−280793(JP,A)
【文献】 特開2013−103983(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/069489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固有粘度0.70〜1.00g/dLのポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)臭素系難燃剤として(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤を合計で20〜65質量部と、(C)アンチモン系難燃助剤10〜30質量部と、(D)平均粒子径が3μm以上であるタルク3〜15質量部と、(E)水酸基価100以上の多価水酸基含有化合物1〜10質量部とを含むことを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(F)滴下防止剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し0.5〜5質量部含む、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(G)ガラス繊維を、全体に対し10〜40質量%含む、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
有機成分全体における臭素含有量が10〜20質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
厚さ0.2mmでのUL94規格に基づく燃焼性がV−0である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなり、少なくとも一部に厚さ0.2〜0.5mmの薄肉部を有する射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関し、より詳細には、薄肉成形品における難燃性や、成形時の流動性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも呼ぶ。)樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性等を有するため、特に電気・電子部品分野の種々の成形品の材料として広く用いられている。
【0003】
このような成形品に用いられる樹脂組成物には、一般的に高い難燃性を有することが求められるため、PBT樹脂の難燃性を改善するべく種々の検討がなされてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。また近年は、各種部品の小型軽量化の要求から、成形品の肉厚はますます薄くなる傾向にあるため、成形時におけるPBT樹脂の流動性を向上させる技術も検討されてきている(例えば、特許文献4参照)。さらにこれらの技術を組み合わせて、PBT樹脂に難燃性と流動性の双方を付与する検討もなされてきている(例えば、特許文献5〜6参照)。しかし、成形品の肉厚が薄くなるほど難燃性の達成は困難となるため、実際には流動性向上の効果を十分に発揮できるような極めて薄肉の成形品における難燃性を達成できるようなPBT樹脂組成物は未だ知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−263174号公報
【特許文献2】特開2007−161946号公報
【特許文献3】特開2008−115209号公報
【特許文献4】国際公開第2009/050859号公報
【特許文献5】特開2009−173857号公報
【特許文献6】特開平04−351657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、成形時において薄肉に成形し得るほどに十分な流動性を有し、薄肉に成形した場合でも優れた難燃性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いてなる射出成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は以下の通りである。
〔1〕(A)固有粘度0.70〜1.00g/dLのポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)臭素系難燃剤として(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤を合計で20〜65質量部と、(C)アンチモン系難燃助剤10〜30質量部と、(D)タルク3〜15質量部と、(E)水酸基価100以上の多価水酸基含有化合物1〜10質量部とを含むことを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0007】
〔2〕さらに、(F)滴下防止剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し0.5〜5質量部含む、前記〔1〕に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0008】
〔3〕さらに、(G)ガラス繊維を、全体に対し10〜40質量%含む、前記〔1〕または〔2〕に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0009】
〔4〕有機成分全体における臭素含有量が10〜20質量%である、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
〔5〕前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなり、少なくとも一部に厚さ0.2〜0.5mmの薄肉部を有する射出成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形時において薄肉に成形し得るほどに十分な流動性を有し、薄肉に成形した場合でも優れた難燃性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いてなる射出成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】流動性の測定に用いる試験片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)固有粘度0.70〜1.00g/dLのポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)臭素系難燃剤として(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤を合計で20〜65質量部と、(C)アンチモン系難燃助剤10〜30質量部と、(D)タルク3〜15質量部と、(E)水酸基価100以上の多価水酸基含有化合物1〜10質量部とを含むことを特徴としている。
本発明のPBT樹脂は、上記(A)〜(E)成分を所定量含むことで、UL94に準拠した厚さ0.2mmの難燃性をV−0とし、所定の射出成形により成形する成形品における厚さ0.5mmの薄肉部の流動長を40mm以上とすることができる。つまり、成形時において流動性に優れ、薄肉に成形した場合でも難燃性に優れる。
以下、本発明のPBT樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0014】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0015】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0016】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は0.70〜1.00dL/gであり、好ましくは0.72〜0.95dL/g、さらに好ましくは0.75〜0.90dL/gである。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られるPBT樹脂組成物が特に難燃性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.70dL/g未満では優れた難燃性が得られず、1.00dL/gを超えると優れた流動性が得られない。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0017】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4−16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5−10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8−12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6−12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0019】
PBT樹脂において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2−6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0021】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0022】
[(B)臭素系難燃剤]
本発明のPBT樹脂組成物は(B)臭素系難燃剤として(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤を含有する。本発明のPBT樹脂組成物は、特定の(B)臭素系難燃剤と、後述する(D)タルクおよび(E)多価水酸基含有化合物を組み合わせて用いることにより、PBT樹脂組成物に高い難燃性を付与しつつ、顕著な流動性の改善効果を示す。(B)の特定の臭素系難燃剤以外の難燃剤との組み合わせを配合した場合は、十分な難燃性と流動性の改善効果が得られない。
【0023】
(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤としては、下記式(1)で表されるポリ(テトラブロム)ビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい。
【化1】
【0024】
また、(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤として、両方または一方の末端が封止された臭素化エポキシ系難燃剤を使用してもよい。末端を封止した臭素化エポキシ系難燃剤を使用すれば、成形時の樹脂組成物の流動性が高くなるため好ましい。「流動性が高くなる」とは、実施例に記載の方法で測定した厚さ0.5mmでの流動長が、40mm以上である。
【0025】
末端封止された臭素化エポキシ系難燃剤の中でも、下記式(2)で表されるビスフェノールA型エポキシ化合物を用いると、得られる樹脂組成物の機械的特性も優れるため好ましい。なお、末端封止にはブロモフェノールが好ましく使用されるが、ブロモフェノールの中でもトリブロモフェノールが特に好ましく使用される。
【化2】

(上記式(2)中の、xは1以上5以下の整数である。)
【0026】
本発明において(B)臭素系難燃剤として用いる(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤は、平均重合度nが10〜50であり、且つ難燃剤として使用できるものであることが好ましい。平均重合度はより好ましくは11〜40、さらに好ましくは11〜20である。平均重合度が10以上であれば、臭素化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量が大きくなり過ぎないため、PBT樹脂との反応による成形加工性の低下を抑制することができ、また、平均重合度が50以下であれば、PBT樹脂組成物の流動性を損なわずに難燃性を付与することができる。
【0027】
臭素化エポキシ系難燃剤の製造には公知の製造方法が用いられる。例えばテトラブロムビスフェノールAとエピクロルヒドリンを反応させて得られるテトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテルに、更にそのエポキシ基1当量に対して、テトラブロムビスフェノールAをその水酸基が0〜0.96当量になるように混合し、塩基性触媒、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、トリブチルアミン等の存在下に100〜250℃で加熱反応させることにより得ることができる。
【0028】
本発明において(B)臭素系難燃剤として用いる(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤は、ペンタブロモベンジルアクリレート及び/又はペンタブロモベンジルメタクリレートに由来する単位を含む重合体である。臭素化ポリアクリレート系難燃剤の平均重合度は、本発明の効果を阻害しない範囲で制限されず、20〜160であるのが好ましく、50〜120であるのがより好ましい。かかる範囲のものを用いることで、得られるPBT樹脂組成物が耐熱性と流動性に優れるものとなる。
【0029】
本発明において好適に使用できる(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤の具体例としては、ポリペンタブロムベンジルアクリレート、ポリテトラブロムベンジルアクリレート、ポリトリブロムベンジルアクリレート、ポリペンタブロムベンジルメタクリレート等が挙げられるが、ポリペンタブロムベンジルアクリレートが特に好ましい。
【0030】
本発明における(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤と(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤の含有量は、両者の合計量として、PBT樹脂100質量部に対し、20〜65質量部であり、好ましくは30〜55質量部である。当該合計含有量が20質量部未満であるとPBT樹脂の難燃化効果が十分でなく、また65質量部を超えると組成物の機械的特性が低下したり、異物が発生し成形品の外観が悪化したりする等の欠点が現れてくる。また、(B−1)臭素化エポキシ系難燃剤と(B−2)臭素化ポリアクリレート系難燃剤の含有割合は、特に限定されないが、(B−1)/(B−2)=100/0〜50/50であれば、本発明の難燃性、流動性改良効果が特に発揮されるため好ましい。
【0031】
本発明のPBT樹脂組成物中の有機成分全体における臭素含有量が10〜20質量%であることが好ましく、12〜18質量%であることがより好ましく、13〜17質量%であることが特に好ましい。当該臭素含有量が上記範囲内であると、組成物の機械的特性が低下したり、成形品の外観が悪化したりすることなく、十分な難燃化効果を得ることができる。
【0032】
[(C)アンチモン系難燃助剤]
本発明のPBT樹脂組成物には、難燃助剤として(C)アンチモン系難燃助剤が含まれる。本発明において用いるアンチモン系難燃助剤は、アンチモンを含有し、良好な難燃効果が得られるものであれば、本発明の効果を阻害しない範囲で特に限定されない。本発明において好適に使用されるアンチモン系難燃助剤の具体例としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ハロゲン化アンチモン等が挙げられる。中でも供給性やコスト面で三酸化アンチモンを用いることが好ましい。
【0033】
アンチモン系難燃助剤の形態は特に限定されないが、平均粒子径が0.1〜10μmの粒子状であるものが好ましく、平均粒子径が0.3〜5μmであるものがより好ましく、0.5〜2μmであるものが特に好ましい。前記平均粒子径が10μmより大きいと、得られるPBT樹脂組成物に機械的な応力が加えられたときに破壊の起点となりやすく脆さを生じる他、難燃性も低下する。また、0.1μmより小さいと、(A)PBT樹脂と(B)臭素系難燃剤との反応を促し、成形安定性を損なうおそれがある。
【0034】
前記平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)にて、分散媒として蒸留水を用いて測定し、メジアン径として得ることができる。
【0035】
本発明のPBT樹脂組成物中の(C)アンチモン系難燃助剤の含有量は、(A)PBT樹脂100質量部に対し10〜30質量部であり、好ましくは10〜20質量部である。この含有量が10質量部より小さい場合には難燃助剤としての効果が十分発揮されず、また30質量部より大きい場合には機械的特性が低下する等の欠点が現れてくる。また、(B)臭素系難燃剤の含有量との関係としては、PBT樹脂組成物中における、臭素系難燃剤中の臭素原子及びアンチモン系難燃助剤中のアンチモン原子の質量の合計量が、PBT樹脂組成物中の有機成分の合計量に対して10〜28質量%であってもよく、好ましくは15〜26質量%、特に好ましくは18〜24質量%であってもよい。また、PBT樹脂組成物中における、臭素系難燃剤中の臭素原子の質量と、アンチモン系難燃助剤中のアンチモン原子の質量との比率(臭素原子/アンチモン原子)が、2/1〜4/1であってもよい。アンチモン系難燃助剤が上記を満たすように配合されることで、臭素系難燃剤による難燃性付与効果を効果的に高めることができる。
【0036】
[(D)タルク]
本発明の樹脂組成物には、無機難燃助剤としてさらに(D)タルクが含まれる。タルクとは、ケイ酸塩鉱物の一種であり、水酸化マグネシウム及びケイ酸塩等を含む。
【0037】
従来、タルクは、PBT樹脂組成物中に、強化剤、核剤、電気特性向上剤、高熱伝導剤等として添加されてきた。しかし、本発明者らの検討の結果、前述の臭素系難燃剤及びアンチモン系難燃助剤とともにタルクを含むPBT樹脂組成物においては、タルクは優れた難燃助剤として作用することを見出した。
【0038】
従来は、例えば、難燃ポリプロピレン樹脂組成物にタルクを添加すると、該樹脂組成物から得られる成形体の難燃性が低下してしまうことが知られていた(清野充ら、「PPの燃焼特性におよぼす難燃剤及びタルクの分布状態の影響」、成形加工、Vol.22 No.5 2010等を参照されたい)。このような知見からすれば、ポリプロピレン同様に結晶性樹脂であるポリブチレンテレフタレートと、タルクとが配合された樹脂組成物から得られる成形品の難燃性が高いという本発明の効果は予想外であると言える。
【0039】
本発明における(D)タルクの平均粒子径は、3μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上であり、特に好ましくは10μm以上である。タルクの平均粒子径が3μmであると、難燃性が特に有利となるため好ましい。タルクの平均粒子径の上限は特に限定されないが、100μm以下であれば、得られるPBT樹脂組成物中での分散性が有利となるため好ましい。ここで、タルクの平均粒子径とは、レーザー回折法による測定装置を用い、JIS Z8825−1に準拠して測定を行い、頻度分布を算術平均した平均粒子径を指す。
【0040】
本発明における(D)タルクの含有量は、(A)PBT樹脂100質量部に対して3〜15質量部であり、好ましくは5〜10質量部、特に好ましくは6〜8質量部である。タルクの含有量がPBT樹脂100質量部に対して3〜15質量部であると、難燃性と機械的特性の両立が可能であるため特に好ましい。逆に、タルクの含有量が3質量部未満であると、得られるPBT樹脂組成物の難燃性は十分ではない。タルクの含有量が15質量部を超えると、得られるPBT樹脂組成物の機械的特性が十分ではない。また、原因は明確ではないが、過剰量のタルクを添加すると、靭性等の機械的特性だけでなく難燃性も低下する場合がある。
【0041】
本発明のPBT樹脂組成物中には、(D)タルクと、(B)臭素系難燃剤と、(C)アンチモン系難燃助剤との合計量に対して5.0〜40.0質量%、好ましくは6.0〜35.0質量%のタルクが含まれることが好ましい。このような割合でタルクが配合されることにより、得られるPBT樹脂組成物に優れた流動性と難燃性、さらには優れた機械的物性を付与することができる。
【0042】
[(E)多価水酸基含有化合物]
(E)多価水酸基含有化合物は、一分子中に水酸基を2個以上有する化合物である。この(E)多価水酸基含有化合物は、流動性改良剤として働く。通常、(A)PBT樹脂に流動性改良剤を添加すると、流動性を向上できても、(A)PBT樹脂そのものが有する機械的強度や靱性等の特性の低下を避けることができない。しかし、多価水酸基含有化合物を使用することにより、(A)PBT樹脂の特性を高いレベルで保持しつつPBT樹脂組成物の溶融時の流動性を効率よく向上できる。
【0043】
(E)多価水酸基含有化合物は、従来公知の方法で製造したものを使用してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0044】
(E)多価水酸基含有化合物は日本油化学会2.3.6.2−1996 ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法)に準拠して測定した水酸基価が、100以上であることが好ましく、より好ましくは200以上である。上記水酸基価が100以上であれば、上記流動性向上の効果がより高まる傾向にあることに加え、耐加水分解性をも向上させる効果が得られるため好ましい。一方、上記水酸基価が大き過ぎる場合、(A)ポリブチレンテレフタレートとの反応が過剰に進む事で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量が低下し、機械特性や耐熱性、耐薬品性といった優れた特性を損なうおそれがある他、成形時のガス発生による成形品の外観不良や金型汚れを生じるおそれがある。好ましい水酸基価は1000以下であり、600以下であることがより好ましい。
【0045】
(E)多価水酸基含有化合物の含有量は、(A)PBT樹脂100質量部に対して1〜10質量部であり、好ましくは1.5〜7.5質量部であり、さらに好ましくは2〜5質量部である。当該含有量が1質量部未満であると、流動性向上の効果が十分に得られず、10質量部を超えると、成形品からの染み出しを生じたり、成形時のガス発生による成形品の外観不良や金型汚れを生じたりするおそれがある。
【0046】
PBT樹脂組成物に溶融時の流動性を付与する観点、又は得られる成形品に(A)PBT樹脂の物性をほとんど低下させずに付与する観点から、(E)多価水酸基含有化合物として、グリセリン脂肪酸エステル又はジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルを使用することが好ましい。次いで、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルの順で具体例等を示す。
【0047】
先ず、グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン及び/又はその脱水縮合物と脂肪酸とからなるエステルである。グリセリン脂肪酸エステルの中でも、炭素数12以上の脂肪酸を用いて得られるものが好ましい。炭素数が12以上の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等が挙げられる。好ましくは炭素数12以上32以下の脂肪酸であり、特に好ましくは炭素数12以上22以下の脂肪酸である。具体的には、ラウリン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸又はベヘニン酸が特に好ましい。炭素数12以上の脂肪酸を用いることで、樹脂の耐熱性を充分に維持することができ、また高温環境下における(E)多価水酸基含有化合物の染み出しが抑制できる傾向にあるため好ましい。炭素数が32以下であれば、上記流動性改善の効果が高いため好ましい。
【0048】
好ましいグリセリン脂肪酸エステルを例示すると、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンステアリン酸部分エステル、テトラグリセリンステアリン酸部分エステル、デカグリセリンラウリン酸部分エステル、グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート等が挙げられる。
【0049】
次いで、ジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルとしては、例えば、ジグリセリンに酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルや、ジグリセリンに酸化エチレンを付加重合して得られるポリオキシエチレンジグリセリルエーテルが挙げられる。本発明においては、これらのエーテルの中でも、特に、ポリオキシエチレンジグリセリルエーテルの使用が好ましい。
【0050】
なお、ジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルなどのアルキレンオキシド単位を含む多価アルコール化合物は、通常液体のため、ハンドリング性の観点、又は高温環境下では成形品の安定性の観点から、固体のグリセリン脂肪酸エステルを使用することがより好ましい。
【0051】
[(F)滴下防止剤]
本発明のPBT樹脂組成物には、難燃剤と共にフッ素系樹脂等の(F)滴下防止剤を用いることが好ましい。
【0052】
滴下防止剤は、燃焼時の樹脂の滴下を防止するために使用される。(F)滴下防止剤の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、フッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィンが挙げられ、中でもポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体が好適に使用される。これらの滴下防止剤は1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0053】
(F)滴下防止剤の含有量は、(A)PBT樹脂100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましく、0.8〜4質量部がより好ましく、1〜3質量部がさらに好ましい。
【0054】
[(G)ガラス繊維]
本発明のPBT樹脂組成物には、機械的強度の向上のために(G)ガラス繊維を含有することが好ましい。ガラス繊維の繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は1〜10mmのものが好ましく、ガラス繊維の直径は5〜20μmのものが好ましい。
本発明のPBT樹脂組成物において、(G)ガラス繊維は、全体に対し、0〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは15〜30質量%含有する。
【0055】
[他の成分]
本発明のPBT樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の成分以外の成分が配合されていてもよい。具体的には、PBT樹脂以外の熱可塑性樹脂、ガラス繊維以外の繊維状充填剤(炭素繊維、金属繊維、有機繊維等)、非繊維状充填剤(ガラスフレーク、ガラスビーズ・パウダー等)、酸化防止剤、安定剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤等を挙げることができる。
【0056】
本発明のPBT樹脂組成物中のその他の成分の含有量は、その合計量が、全体に対して、0〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは10〜30質量%(例えば20質量%)とすることができる。
【0057】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明のPBT樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法が使用できる。例えば、各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置により溶融混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分を同時に投入する方法、一部の成分は混練の途中から投入する方法等、何れも使用できる。なお、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。
【0058】
<射出成形品>
本発明の射出成形品は、既述の本発明のPBT樹脂組成物を射出成形してなり、少なくとも一部に厚さ0.2〜0.5mmの薄肉部を有する。本発明の射出成形品は、本発明のPBT樹脂組成物を射出成形してなるものであるため、成形時における流動性に優れ、0.2〜0.5mmの薄肉部を形成でき、かつそのような薄肉部での難燃性に優れる。
本発明の射出成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記のように本発明のPBT樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1〜7、比較例1〜23]
それぞれの実施例・比較例において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、(B)臭素系難燃剤、(C)アンチモン系難燃助剤、(D)タルク、(E)多価水酸基含有化合物、(F)滴下防止剤、(G)ガラス繊維を、各々下記表1〜表3に示す部数を配合し、後述の方法にてPBT樹脂組成物を調製した。次いで、得られたPBT樹脂組成物を用い以下の評価を行った。
なお、上記各成分の詳細は以下の通りである。
PBT1(IV=0.88):ウィンテックポリマー(株)製
PBT2(IV=0.69):ウィンテックポリマー(株)製
PBT3(IV=0.45):ウィンテックポリマー(株)製
難燃剤1(臭素化エポキシ系難燃剤(Br−EP)):ブロモケム・ファーイスト(株)製 F3100、臭素含有率:約52質量%
難燃剤2(臭素化ポリアクリレート系難燃剤(Br−AC)):ブロモケム・ファーイスト(株)製 FR−1025、臭素含有率:約72質量%
難燃剤3(臭素化ポリカーボネート系難燃剤(Br−PC)):帝人化成(株)製 ファイヤーガード7500
難燃剤4(臭素化フタルイミド系難燃剤(Br−イミド)):アルベマール日本(株)製 SAYTEX BT93W
難燃剤5(臭素化ポリスチレン系難燃剤(Br−PS)):Great Lakes Chemical Corporation製 PDBS−80M
アンチモン系難燃助剤(三酸化アンチモン):日本精鉱(株)製 PATOX−M、平均粒子径:1.2μm
無機難燃助剤1(タルク1):林化成(株)製 タルカンパウダーPKNN(平均粒子径:13.5μm)
無機難燃助剤2(マイカ):Suzorite Mining Inc.製 スゾライトマイカ150−S
無機難燃助剤3(炭酸カルシウム):東洋ファインケミカル(株)製 ホワイトンP−30
無機難燃助剤4(酸化亜鉛):三井金属鉱業(株)製 酸化亜鉛1種
無機難燃助剤5(酸化マグネシウム):協和化学工業(株)製 キョウワマグMF−150
無機難燃助剤6(ベーマイト):Nabaltec社製 ACTILOX B60
無機難燃助剤7(タルク2):松村産業(株)製 クラウンタルクPP(平均粒子径:2.3μm)
無機難燃助剤8(タルク3):林化成(株)製 ミクロンホワイト#5000A(平均粒子径:5.0μm)
無機難燃助剤9(タルク4):日本タルク(株)製 タルク3A(平均粒子径:17.5μm)
多価水酸基含有化合物1(グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート):理研ビタミン(株)製 リケマールHC−100(水酸基価420)
多価水酸基含有化合物2(グリセリントリステアレート):理研ビタミン(株)製 ポエムS−95(水酸基価87)
滴下防止剤(ポリテトラフルオロエチレン):旭硝子(株)製 フルオンCD−076
ガラス繊維:日東紡績(株)製 CSF3PE−941(平均繊維径φ13μmチョップドストランド)
【0061】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製]
上記の材料を以下の表1〜表3に示す割合(単位は質量部)でブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α)にて250℃で溶融混練し、ペレット状のPBT樹脂組成物を得た。
【0062】
(1)難燃性
上記のようにして得られた樹脂組成物にて、アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片(長さ125mm、幅13mm、厚さ0.2mm)を用いて燃焼性について試験し、UL94に記載の評価方法に従って評価した。良好な難燃性を示すV−0の判定基準を満たす場合を「OK」、満たさない場合を「NG」として評価結果を表1に示す。なお、試験片の成形においては、短辺側から長手方向に射出すると流動性が足りず充填が困難なため、長辺側に幅125mm、厚さ0.2mmのフィルムゲートを設けた金型を用いて射出成形した。成形条件は、シリンダー温度260℃、金型温度100℃、射出速度350mm/s、保圧力50MPa、保圧時間1.0秒、冷却時間4.0秒の成形条件で行なった。
一方、上記試験片とは別に、厚さが0.5mmのものと、0.8mmの試験片(長さ及び幅は上記試験片と同じ)を用意し、上記と同様に試験を行なった。
また、厚さが0.2mmの試験片について、UL94の燃焼性試験における、2回目の接炎時のドリッピングの有無を観察し、結果を表4に示した。
【0063】
(2)流動性
上記のようにして得られた樹脂組成物を、射出成形機にてシリンダー温度250℃、金型温度65℃、射出圧力125MPa、射出速度70mm/s、射出時間5.0秒、冷却時間5.0秒の成形条件で、図1に示すように、幅5.0mm、厚さ0.2mmの棒状の試験片を成形し、図1においてハッチングで示す部位の長さDを測定した。測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
なお、表2と表3において難燃性の結果が「−」である比較例2、4、8、13、15、17は、難燃性試験において試験片を成形しようとしたが、流動性の不足により成形できず難燃性試験を実行できなかった。
また、比較例4については、実施例の成形条件では流動性不足により燃焼性試験片を成形することができなかったが、シリンダー温度を280℃に上げることで、かろうじて成形することができた。そして、その試験片を用いて、難燃性試験を行なったところ、成形時の熱でPBT樹脂が分解していたため、燃焼時に著しい滴下が見られ「NG」となった。
【0069】
表1より、本発明を適用した実施例1〜7はいずれも、難燃性と流動性に優れたPBT樹脂組成物が得られたことが分かる。これに対して、比較例1〜23においては、難燃性と流動性を同時に満足させることができなかった。
また、以下の通り、各実施例・比較例から以下のことが分かる。すなわち、
(1)PBTの固有粘度のみが実施例1と異なる比較例3では難燃性の評価に劣っていたことから、PBTを低粘度とすると難燃性が悪化する。
(2)実施例1と比較例5とでは、流動性においてほぼ同じ評価結果となっているが、比較例5においては(E)多価水酸基含有化合物を添加せずに流動性を向上させており、難燃性が劣る結果となったが、実施例1は当該(E)成分を用いて流動性を向上させており、難燃性をも確保できた。
また、比較例7は、(B)成分を多量に含有させているため、異物の発生による成形品の外観不良を生じた。
【0070】
表4より、平均粒子径が3μm以上のタルクを用いた実施例1および9〜10では、ドリッピングが発生せず、特に難燃性に優れたPBT樹脂組成物が得られたことが分かる。
図1