【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決することを主な目的として、鋭意検討を重ねた結果、優れた性質を有するビニルスルホン酸が得られることを見出し、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、以下のビニルスルホン酸、単独重合体、共重合体、製造方法、装置並びに電気・電子材料を提供する。
【0019】
項1:二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下であることを特徴とするビニルスルホン酸。
【0020】
項1−1.項1に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を、下記式
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0021】
項1−2:項1に記載のビニルスルホン酸であって、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂により脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0022】
好ましくは、脱金属処理が下記式で表される脱金属率が95%以上である処理である項1−2に記載のビニルスルホン酸:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0023】
項1−3:得られた脱金属処理物を更に薄膜蒸留により精製して得られる、項1−1又は1−2に記載のビニルスルホン酸。
【0024】
項2.二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下であることを特徴とするビニルスルホン酸。
【0025】
項2−1.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を、下記式
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0026】
項2−2:項2に記載のビニルスルホン酸であって、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂により脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0027】
好ましくは、脱金属処理が下記式で表される脱金属率が95%以上である処理である項2−2に記載のビニルスルホン酸:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0028】
項2−3:得られた脱金属処理物を更に薄膜蒸留により精製して得られる、項2−1又は2−2に記載のビニルスルホン酸。
【0029】
項2−4.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を、
(1)ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されている薄膜蒸留装置、又は
(2)蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、前記留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置、好ましくは、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置
を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0030】
項2−5.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を、
(1)ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されている薄膜蒸留装置、又は
(2)蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、前記留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置、好ましくは、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置
を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0031】
項A.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸からなる電気・電子材料用原料。又は、電気・電子材料を製造するための項1又は項2に記載のビニルスルホン酸の使用。
【0032】
項3:項1又は項2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体。
【0033】
項3−1:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸を単量体とするビニルスルホン酸単独重合体、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸を単量体とするビニルスルホン酸単独重合体。
【0034】
項3−2:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸共重合体、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸共重合体。
【0035】
項B:項3、項3−1又は項3−2に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体からなる電気・電子材料用原料。又は、電気・電子材料を製造するための項3、項3−1又は項3−2に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の使用。
【0036】
項4:項1又は項2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させる工程を含むビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の製造方法。
【0037】
項4−1:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを特徴とするビニルスルホン酸単独重合体の製造方法、又は、項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを特徴とするビニルスルホン酸単独重合体の製造方法。
【0038】
項4−2:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを含むビニルスルホン酸共重合体の製造方法、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを含むビニルスルホン酸共重合体の製造方法。
【0039】
項5.ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部が高耐食性材料で形成されているビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置。
【0040】
特に、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されていることを特徴とするビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置。
【0041】
項6.蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えることを特徴とする項5に記載の薄膜蒸留装置。
【0042】
特に、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えることを特徴とする項5に記載の薄膜蒸留装置。
【0043】
項7.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸の製造方法であって、
ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製する工程を含むことを特徴とする方法。
【0044】
項C.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0045】
特に、項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0046】
項D.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0047】
特に項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0048】
項8:項1又は2に記載のビニルスルホン酸を含む電気・電子材料。
【0049】
項9:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含む電気・電子材料。
【0050】
項10:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含む燃料電池用高分子電解質膜。
【0051】
項E:項10に記載の高分子電解質膜を含む燃料電池。
【0052】
項11:項1又は2に記載のビニルスルホン酸、或いは項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含むフォトレジスト組成物。
【0053】
項12:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体をドーパントとして含む導電性ポリマー組成物。
【0054】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0055】
なお、本明細書において、特記しない限り、「ppm」は「重量ppm」、「ppb」は「重量ppb」を示す。
【0056】
1.ビニルスルホン酸
(1)二重結合含量
本発明のビニルスルホン酸は、二重結合含量が95重量%以上、特に97重量%以上、更には99重量%以上である。
【0057】
本発明において、二重結合含量とは、二重結合を定量してビニルスルホン酸の純度に換算したもの、換言すると、ビニルスルホン酸100g中に含まれる二重結合のモル数にビニルスルホン酸の1グラム当量を乗じた値を意味する。
【0058】
二重結合含量は、よう素価の測定値から、次式:
二重結合含量(重量%)=(よう素価)×(108.1/2)/126.9
により求めることができる。
(ここで108.1はビニルスルホン酸の分子量で、126.9はよう素の原子量である。)。
【0059】
(2)金属含有量
本発明のビニルスルホン酸は、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、好ましくは500ppb以下、特に300ppb以下である。更に、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が、1ppm以下、好ましくは800ppb以下、特に500ppb以下である。
【0060】
特に、本発明のビニルスルホン酸は、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、好ましくは50ppb以下、特に10ppb以下である。更に、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が、100ppb以下、好ましくは50ppb以下、特に20ppb以下である。
【0061】
アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)などが挙げられる。
【0062】
第一遷移金属としては、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
【0063】
好ましい本発明のビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下
であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0064】
更に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、かつ、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0065】
特に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下
であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0066】
更に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、かつ、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0067】
更に、ビニルスルホン酸は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、鉛(Pb)の各金属含有量も低いことが好ましく、それぞれ100ppb程度、好ましくは50ppb程度以下のものが好ましく用いられる。
【0068】
金属含有量は公知の方法に従って測定することができる。例えば、ICP質量分析(ICP−MS)方法、ICP発光分光分析(ICP−OES/ICP−AES)、原子吸光法などを用いることができる。一般的にはICP−MSが好ましく用いられる。
【0069】
本発明のビニルスルホン酸は、不純物及び金属の含有量が低減されており、電気・電子材料用の原料として好適に用いることができる。換言すると、本発明のビニルスルホン酸は、電気・電子材料の製造において原料として好適に使用することができる。
【0070】
電気材料としては、燃料電池電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料などが挙げられる。また電子材料としては、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料などが挙げられる。
【0071】
例えば、ビニルスルホン酸を基材に含浸した後に単独重合させたものや他の重合性モノマーと共重合させたものを、燃料電池の高分子電解質として使用することができる。
【0072】
またビニルスルホン酸、或いはそれを単独で重合させたものや他の重合性モノマーと共重合させたものを、フォトレジスト用組成物や電池用の高分子バインダー又はセパレータの材料として使用することができる。またビニルスルホン酸を重合させたものを、半導体製造用の研磨スラリーにおけるアニオン性ポリマー酸分散剤や、有機発光ダイオード(OLED)などのELデバイスに用いる導電性ポリマーのドーパントなどとして使用することができる。
【0073】
2.ビニルスルホン酸の製造方法
本発明のビニルスルホン酸は、上記特性を有するものであれば、その製法は特に限定されないが、下記製法によって得られるものが好ましい。
【0074】
製法1:ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程を有するビニルスルホン酸の製造方法であって、前記脱金属処理における下記式で表される脱金属率が95%以上である方法:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0075】
製法2:ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程を有するビニルスルホン酸の製造方法であって、前記脱金属処理が強酸性イオン交換樹脂を用いて行う処理である方法。
【0076】
製法3.更に、得られた脱金属処理物を薄膜蒸留装置を用いて精製する工程を有する上記製法1又は2に記載の製法。
【0077】
製法4.薄膜蒸留装置が、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されている装置である上記製法3に記載の製法。
【0078】
製法5.薄膜蒸留装置が、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタル製である装置である上記製法3に記載の製法。
【0079】
製法6.薄膜蒸留装置が、蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備える装置である上記製法4又は5に記載の製法。
【0080】
原料のビニルスルホン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩またはそれらの混合物を挙げることができる。このうち特にビニルスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。
【0081】
ビニルスルホン酸塩は、組成物の形態で供されるものでもよい。例えば、ビニルスルホン酸塩の他にイセチオン酸塩やビススルホエチルエーテルの塩などを含む組成物を原料として用いてもよい。組成物を用いる場合、組成物全体におけるビニルスルホン酸塩の割合は通常25重量%以上程度である。
【0082】
脱金属処理とは、ビニルスルホン酸塩から金属を除去して水素に交換する処理をさす。換言すると、ビニルスルホン酸塩から金属イオンを除去してビニルスルホン酸に変換する処理をいう。
【0083】
脱金属処理工程を一般式で示すと、下記のようになる:
CH
2=CHSO
3M → CH
2=CHSO
3H
(ここで、Mは塩を形成する金属を示す。具体的には、ナトリウムやカリウムなどを示す)。
【0084】
脱金属率は95%以上、特に97%以上、更に99%以上であることが好ましい。
【0085】
脱金属率とは、下記式で表される値をいう:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0086】
脱金属率とは、換言すると、原料に含まれる金属の水素への交換率である。例えば、原料としてナトリウム塩を用いる場合は、ナトリウムから水素への交換率(ナトリウム交換率)である。更に別言すると、原料に含まれる金属塩化合物の低減率である。
【0087】
脱金属率は、公知の方法により酸価を測定することにより求めることができる。例えば、中和滴定により酸価を測定して求めることができる。
【0088】
脱金属率が95%以上であると、化合物の分解又はその影響が著しく低減される。また脱金属処理後の精製工程において薄膜蒸留を導入することが可能になり、高い回収率で大量に蒸留を行うことが可能になる。さらに、高品質のビニルスルホン酸を得ることが可能になり、蒸留工程の留出時に着色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。また経時変色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。
【0089】
脱金属処理の方式は特に限定されないが、強酸性イオン交換樹脂を用いて行うことが好ましい。換言すると、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理を行うことが好ましい。
【0090】
強酸性イオン交換樹脂に接触させる方法は、常法に従って行うことができるが、イオン交換樹脂をカラムに充填し、ビニルスルホン酸塩水溶液を通液させて行うことが、イオン交換が確実に行えるため、好ましい。
【0091】
強酸性イオン交換樹脂の種類は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されず、公知のものから適宜選定することができる。例えば、架橋された不溶性の有機高分子化合物の側鎖に強酸基を有する化合物を用いることができる。強酸基の例としては、硫酸基、リン酸基およびスルホン酸基などが挙げられる。
【0092】
強酸性イオン交換樹脂の具体的な例としては、ダイヤイオン(登録商標)(SK1B、SK116、PK216等)、アンバーライト(登録商標)(IR−120B、IR−124等)、ダウエックス(登録商標)(50wx8、HCR−S、モノスフィア 650C等)、レバチット(登録商標)(S−100等)などが挙げられる。
【0093】
強酸性イオン交換樹脂を用いて脱金属処理を行うことにより、高い割合でビニルスルホン酸塩を低減することができ、化合物の分解を抑え、収率を向上させることが可能になる。
【0094】
また品質に優れ、着色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。
【0095】
また強酸性イオン交換樹脂を用いることにより1度の処理で効率よく脱金属処理を行うことができる。
【0096】
また後の精製工程において薄膜蒸留の導入が可能になり、大量に蒸留を行うことが可能になる。
【0097】
強酸性イオン交換樹脂を用いて行う脱金属処理において、脱金属率は、95%以上、特に97%以上、更には99%以上であることが、ガスの発生が低減されること、また蒸留における回収率がより向上すること等の点から、好ましい。
【0098】
上記脱金属処理により得られた処理物は、更に公知の方法によって精製することが好ましい。脱金属処理物とは、ビニルスルホン酸塩又はその組成物を脱金属処理して得られた物、具体的には脱金属処理により得られたビニルスルホン酸またはその組成物を意味する。
【0099】
精製方法は、公知の方法から適宜設定し得るが、蒸留、特に薄膜蒸留による精製が好ましい。
【0100】
薄膜蒸留で精製することにより、品質に優れ、留出時の着色が少なく、経時着色の問題が少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。また高い回収率で、大量に精製を行うことが可能になる。
【0101】
特に、ビニルスルホン酸塩を脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留により精製することが好ましい。
【0102】
またビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留により精製することが好ましい。
【0103】
特にビニルスルホン酸塩を強酸性イオン樹脂に接触させて脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留することが好ましい。
【0104】
これにより、蒸留時における化合物の分解が低減され、回収率をより向上させることができる。また蒸留におけるガスの発生が低減され、減圧度を安定して保持することが容易となる。また、連続蒸留が可能となり、大量に蒸留させることが可能になる。更に、残渣が、高粘性の固形状のものでなく流動性のあるものとして得られる。このため、装置や設備の洗浄が容易である。また得られるビニルスルホン酸は品質の高いものとなり、留出時にはほとんど無色のビニルスルホン酸が得られる。また経時変色の少ないビニルスルホン酸が得られる。
【0105】
薄膜蒸留は、公知の方法に従って行うことができる。
【0106】
薄膜蒸留の条件は、適宜設定し得るが、通常温度が150〜250℃程度、好ましくは150〜230℃程度である。
【0107】
また圧力は通常10〜400Pa程度、好ましくは10〜200Pa程度である。
【0108】
このような条件で行う場合、分解や重合がより抑制される。
【0109】
薄膜蒸留は、必要に応じて二度以上繰り返して行うこともでき、連続蒸留とすることもできる。
【0110】
薄膜蒸留装置は、公知のものを用いることができるが、ビニルスルホン酸又はその組成物に接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されているものが好ましい。
【0111】
更に、薄膜蒸留装置は、蒸留残渣が混入しないように、蒸留塔の中間部にビニルスルホン酸蒸気の留出口が設けられ、更に冷却部が蒸留塔の外部に形成されているものが好ましい。
【0112】
具体的な薄膜蒸留装置の例としては、下記3.に記載の装置が挙げられる。
【0113】
本発明のビニルスルホン酸の製法には、必要に応じて上記以外の工程を更に付加することができる。例えば原料精製工程などを付加することができる。
【0114】
また、ビニルスルホン酸の製造に関する公知技術を必要に応じて付加することができる。
【0115】
上記製法により、二重結合含有量が高く、かつ、金属含有量が低いビニルスルホン酸を得ることができる。換言すると、本発明で用いるビニルスルホン酸には、製法1〜6のいずれかによって得られるビニルスルホン酸が含まれる。上記製法によって得られるビニルスルホン酸は着色が少なく、経時変色も少ない。
【0116】
3.装置
本発明は、ビニルスルホン酸の製造方法において好適に用いられる薄膜蒸留装置を提供する。換言すると、本発明は、ビニルスルホン酸製造用薄膜蒸留装置又はビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置を提供する。
【0117】
本発明の薄膜蒸留装置は、ビニルスルホン酸又はその組成物に接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されている。
【0118】
ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分(以下、ビニルスルホン酸接触部ともいう)とは、蒸留原料となる脱金属処理後のビニルスルホン酸組成物や蒸発したビニルスルホン酸蒸気、そのビニルスルホン酸蒸気が凝縮されたビニルスルホン酸などと接する部分を意味し、接液部及び/又は接ガス部とも換言される。
【0119】
ビニルスルホン酸接触部を備える部材としては、例えば、送液用の配管、蒸留塔の内壁、撹拌部、ワイパー部、冷却部、撹拌シール部、蒸留原料の導入口、留出ライン、受器、残渣排出ライン等が挙げられる。
【0120】
高耐食性材料としては、JIS規格R−3503 ほうけい酸ガラス−1や、耐食試験法において完全耐食と判定される金属材料が挙げられる。
【0121】
JIS規格R−3503 ほうけい酸ガラス−1とは、JIS規格(日本工業規格)R−3503において、線膨張係数3.5×10
−6・K
−1以下、かつ、アルカリ溶出量0.10ml/g以下あるいは31μg/g以下として等級付けられるガラスである。
【0122】
また、耐食試験法において完全耐食と判定される金属材料とは、浸食度が0.05mm/年以下である金属材料をさす。耐食試験法としては、例えば、「化学装置便覧」(化学工学協会編 丸善出版、1970年発行、p.500)におけるa.項の方法に従って、テストピースを165℃のビニルスルホン酸中に浸し、一定時間後における重量変化と外観変化を測定する方法が挙げられる。
【0123】
JIS規格ほうけい酸ガラス−1に属するガラスとしては、パイレックス(登録商標)、ハリオ(登録商標)、デュラン(登録商標)などの製品が挙げられる。
【0124】
また、完全耐食と判定される金属材料としては、タンタルが挙げられる。
【0125】
ビニルスルホン酸接触部が、高耐食性材料で形成されていると、これらの部材又は部分からの不純物の混入を抑制することができる。従来、ビニルスルホン酸接触部においては、金属としてSUSなどが使用されており、これらの材料から、ビニルスルホン酸中に不純物が混入してしまうことがあったが、上記構成によれば、材料に由来する不純物の混入が低減される。
【0126】
以下、高耐食性材料がタンタルの場合を例として説明する。
【0127】
ビニルスルホン酸接触部の全部又は一部がタンタル製、換言すると、タンタルで形成されているとは、ビニルスルホン酸接触部を備えた部材の全部または少なくとも1つがタンタル製である場合を含む。また、1つの部材が有するビニルスルホン酸接触部の少なくとも一部が、タンタル製、即ち、タンタルで形成されている場合を含む。
【0128】
尚、タンタル製とは、タンタル以外の成分を実質的に含んでいない材料によって形成されていることを意味する。換言すると、タンタル以外の成分は、0.3重量%、特に、300ppmより少ない量しか含んでいない材料で形成されていることを意味する。
【0129】
本発明の装置には、撹拌回転部及び/又はワイパー部のみがタンタル製である装置が含まれる。また撹拌回転部全体がタンタル製である装置や、ワイパー部の1部がタンタル製である装置が含まれる。また、薄膜形成部材の全部又は一部がタンタル製である装置が挙げられる。特に、従来、金属で形成されていた部材又は部分がタンタル製となっていることが好ましい。
【0130】
より具体的に、流下式薄膜蒸留装置であれば、撹拌回転部やワイパー部の全部又は一部がタンタル製である装置が挙げられる。また、遠心式薄膜蒸留装置であれば、ローター部やディスク部がタンタル製である装置が挙げられる。
【0131】
装置の一例としては、下記装置A:
蒸留原料の導入口と、
導入された原料を蒸発する蒸留塔と、
蒸留塔の塔頂部に配置された撹拌駆動部と、
蒸留塔内部に配置された、タンタル製の攪拌回転部と、
撹拌回転部に連結された、タンタル製の部分を少なくとも含むワイパー部と、
蒸留塔に連結された真空ポンプ吸引口と、
前記蒸留塔の内部に配置された冷却部と、
前記冷却器で凝縮されたビニルスルホン酸を受けるビニルスルホン酸受器と
蒸留塔の塔底に配置された残渣受器と
を備えた装置が含まれる。
【0132】
例えば、
図1に示す装置がこれに含まれる。
【0133】
また、他の装置として、ビニルスルホン酸蒸気が蒸留塔の中間部から出て、蒸留塔の外部に設置された冷却部に到達するように構成された装置が挙げられる。
【0134】
当該装置は、冷却部が蒸留塔の外へ設置されたことにより、蒸留残渣のビニルスルホン酸蒸気への混入がより制限されている。また、ビニルスルホン酸蒸気が、蒸留塔の中間部より排出されるため、撹拌駆動部等の塔頂部分の腐食等による不純物の混入を抑制することができる。
【0135】
中間部とは、蒸留塔の塔頂から底部までの長さを100とする場合に、塔頂から30〜60、好ましく、40〜50程度の位置を意味する。
【0136】
このような装置の一例としては、下記装置B:
蒸留原料の導入口と、
導入された原料を蒸発する蒸留塔と、
蒸留塔の塔頂部に配置された撹拌駆動部と、
蒸留塔内部に配置された、タンタル製の攪拌回転部と、
撹拌回転部に連結された、タンタル製の部分を少なくとも含むワイパー部と、
蒸留塔の塔底に配置された残渣受器と、
前記蒸留塔の中間部に配置されたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器と、冷却器で凝縮されたビニルスルホン酸を受けるビニルスルホン酸受器と、
ビニルスルホン酸受器に連結した真空ポンプ吸引口と
を備えた装置が含まれる。
【0137】
例えば、
図2に示す装置がこれに含まれる。
【0138】
蒸留塔は、通常、加熱手段を備えたものである。また蒸留塔には必要に応じて温度センサー等の公知の手段を付加することもできる。
【0139】
撹拌駆動部は、撹拌回転部を回転するための動力部である。撹拌駆動部は、通常、蒸留塔で発生した蒸気による腐食を防ぐために、撹拌シール部により密閉されている。
【0140】
上記装置を用いて精製を行うことにより、二重結合含有量が高く、かつ、金属含有量が低いビニルスルホン酸を得ることができる。換言すると、本発明で用いるビニルスルホン酸には、上記薄膜蒸留装置を用いて精製することにより得られるビニルスルホン酸が含まれる。
【0141】
特に、二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下であるビニルスルホン酸は、
上記装置A又は装置Bを用いて精製することにより、適切に製造することができる。
【0142】
特に、装置Bを用いることにより、好適に製造することができる。
【0143】
4.単独重合体
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、上記ビニルスルホン酸を単量体として重合させることにより得られる。換言すると、本発明は、上記ビニルスルホン酸を構成成分とする単独重合体を提供する。
【0144】
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、二重結合含有量が高く、かつ金属含有量が低いビニルスルホン酸から得られるため、不純物がほとんど無く、金属含有量も低く、品質に優れている。
【0145】
本発明の重合体は、好ましくは、金属含有量が、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下である。
【0146】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下
である。
【0147】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下である。
【0148】
特に好ましくは、本発明の重合体は、金属含有量が、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下である。
【0149】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下である。
【0150】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下である。
【0151】
単独重合体の分子量も、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography、以下、「SEC」)法で測定した重量平均分子量で500〜400,000程度、特に2,000〜300,000程度である。
【0152】
尚、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、移動相が有機溶媒であるゲル浸透クロマトグラフィー (GPC, Gel Permeation Chromatography) と、移動相が水溶液であるゲルろ過クロマトグラフィー (GFC, Gel Filtration Chromatography) とに分けられるが、本明細書においてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とは、その両者を含むものとする。
【0153】
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、不純物及び金属の含有量が少なく、品質に優れ、電気・電子材料用原料として好適に用いることができる。換言すると、本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、電気・電子材料の製造において原料として好適に使用することができる。
【0154】
電気材料としては、燃料電池用電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料などが挙げられる。
【0155】
また電子材料としては、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料などが挙げられる。
【0156】
より具体的には、本発明の重合体は、燃料電池の電解質膜用ポリマー、フォトレジスト用高分子、導電性ポリマーのドーパント、有機EL薄膜用高分子などとして用いることができる。
【0157】
特に電子材料用、例えば半導体用等の金属汚染の防止が重要な分野で好適に用いられる。
【0158】
5.単独重合体の製法
ビニルスルホン酸単独重合体の製造方法は特に限定されないが、一般に、ラジカル重合、光重合又は放射線重合により行うことができる。
【0159】
ラジカル重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、少量の開始剤を添加して加熱することにより、行われる。開始剤としては、過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物、あるいはレドックス開始剤を用いることが出来る。
【0160】
光重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、光を照射して行われる。例えば、太陽光線、紫外線等を照射することにより行うことができる。その際、必要に応じて、光重合開始剤、光重合促進剤等を加えてもよい。特に、光重合はN,N−ジメチルホルムアミドの存在下に行うことが好ましい。
【0161】
放射線重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、放射線を照射して行われる。
【0162】
本発明の単独重合体は、金属含有量を更に低減するために、公知の方法に従って、精製を行うこともできる。精製の方法は特に限定されないが、例えば、溶媒再沈法、イオン交換法等を挙げることができる。
【0163】
溶媒再沈法とは、できるだけ少量の溶媒に重合体を溶解させ、この重合体に対して溶解度の低い溶媒に滴下して沈殿を生じさせて行う精製法である。イオン交換法とは、溶媒に重合体を溶解させ、イオン交換樹脂を用いて金属イオンの交換を行う精製法である。
【0164】
6.共重合体
本発明の共重合体は、上記ビニルスルホン酸を構成成分とする共重合体を提供する。即ち、本発明の共重合体は、上記ビニルスルホン酸を必須の単量体として含むものである。
【0165】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、上記ビニルスルホン酸を他の単量体の1又は2以上と共重合させることにより得られる。
【0166】
他の単量体とは、上記ビニルスルホン酸とは異なる重合性化合物であって、共重合体の構成単位の一つとなる化合物である。
【0167】
他の単量体は、上記ビニルスルホン酸と共重合可能な物質であれば、特に限定されないが、ビニル単量体が好ましく用いられる。
【0168】
ビニル単量体としては、例えば、スルホン酸基含有ビニルモノマー、カルボキシル基含有ビニルモノマー、エステル基含有ビニルモノマー、窒素含有ビニルモノマー、ハロゲン含有ビニルモノマー、脂肪族ビニルモノマー、芳香族ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0169】
具体的に、スルホン酸基含有ビニルモノマーとしてはアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などが挙げられる。
【0170】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0171】
エステル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0172】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどのモノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが含まれる。
【0173】
窒素含有ビニルモノマーとしては、アリルアミン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルホルムアミド、(メタ)アクリルアミド、プロピルアクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、シアノメチルスチレンなどが挙げられる。
【0174】
ハロゲン含有ビニルモノマーとしては塩化ビニル、クロロプレン、(メタ)アリルクロライド、クロロエチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0175】
脂肪族ビニルモノマーとしては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0176】
芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0177】
上記他の単量体は、1種のみ用いてもよく、また2種以上を用いてもよい。
【0178】
例えば、本発明の共重合体には、ビニルスルホン酸を、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種と共重合して得られる共重合体が含まれる。
【0179】
尚、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタアクリル酸を意味する。同様に(メタ)アクリル酸エステルはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを、(メタ)アクリル酸アミドはアクリル酸アミド及び/又はメタアクリル酸アミドを意味する。(メタ)アクリロニトリルはアクリルニトリル及び/又はメタアクリルニトリルを意味する。
【0180】
上記単量体は、金属含有量が少ないことが好ましい。
【0181】
例えば、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下程度の単量体を用いることが好ましい。
【0182】
アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)などが挙げられる。
【0183】
第一遷移金属としては、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
【0184】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、50ppb以下、及び、(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下である単量体を用いることが好ましい。
【0185】
これらの単量体における金属含有量の低減は、公知の方法に従って行うことができ、通常、蒸留や昇華によって行うことができる。
【0186】
その際、単量体の重合を防止する目的で、高温を避けるために減圧下で処理し、また適当な重合禁止剤を添加して行うことが望ましい。
【0187】
重合禁止剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、4−tert−ブチルカテコール、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジニトロ−p−クレゾールなどが挙げられる。
【0188】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、二重結合含有量が高く、かつ金属含有量が低いビニルスルホン酸から得られるため、不純物の含有量が低く、金属含有量も低く、品質に優れている。
【0189】
本発明の共重合体には、共重合体における(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下であるものが含まれる。
【0190】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下のもの
が含まれる。
【0191】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下のものが含まれる。
【0192】
本発明の共重合体には、共重合体における(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が200ppb以下であるものが含まれる。
【0193】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が200ppb以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が200ppb以下の
ものが含まれる。
【0194】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が200ppb以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が200p
pb以下のものが含まれる。
【0195】
共重合体を構成する単量体の割合は、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、通常、ビニルスルホン酸1〜99モル%、特に10〜90モル%程度、及び、他の単量体99〜1モル%、特に90〜10モル%程度である。
【0196】
例えば、本発明の共重合体には、ビニルスルホン酸10〜90モル%を他の単量体90〜10モル%と重合させて得られる共重合体が含まれる。
【0197】
共重合体の分子量も、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、SEC法で測定した重量平均分子量で500〜50,000,000程度、特に2,000〜5,000,000程度である。
【0198】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、金属含有量が少なく、電気・電子材料用原料として好適に用いることができる。
【0199】
電気材料用としては、燃料電池電解質膜用、有機EL薄膜用、電池周辺材料用などが挙げられる。
【0200】
また電子材料用としては、半導体周辺材料用、導電性高分子材料用、回路基板材料用などが挙げられる。
【0201】
より具体的には、本発明の共重合体は、燃料電池の電解質膜用ポリマー、フォトレジスト用高分子、導電性ポリマーのドーパント、有機EL薄膜用高分子などの材料及び/又はその原料として用いることができる。
【0202】
特に電子材料用、例えば半導体用等の金属汚染の防止が重要な分野で好適に用いられる。
【0203】
7.共重合体の製法
ビニルスルホン酸共重合体の製造方法は特に限定されないが、一般に、ラジカル重合、光重合又は放射線重合により行われる。
【0204】
ラジカル重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、少量の開始剤を添加して加熱することにより、行われる。開始剤としては、過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物、あるいはレドックス開始剤を用いることが出来る。
【0205】
光重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、それに光を照射して行われる。例えば、太陽光線、紫外線等を照射することにより行うことができる。また必要に応じて、光重合性の架橋剤、光重合開始剤、光重合促進剤等を加えてもよい。特に、N,N−ジメチルホルムアミドの存在下に行うことが好ましい。
【0206】
放射線重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、それに放射線を照射して行われる。
【0207】
他の単量体を2種以上用いる場合、それらは同時に混合してもよく、又、逐次混合してもよい。
【0208】
本発明の共重合体は、金属含有量を更に低減するために、公知の方法に従って、精製を行うことができる。精製の方法は特に限定されないが、例えば、溶媒再沈法、イオン交換法等を挙げることができる。
【0209】
溶媒再沈法とは、できるだけ少量の溶媒に重合体を溶解させ、この重合体に対して溶解度の低い溶媒に滴下して沈殿を生じさせて行う精製法である。イオン交換法とは、溶媒に重合体を溶解させ、イオン交換樹脂を用いて金属イオンの交換を行う精製法である。
【0210】
8.電気・電子材料
本発明は、上記ビニルスルホン酸、その単独重合体又は共重合体を含む電気・電子材料を提供する。換言すると、上記本発明のビニルスルホン酸、その単独重合体又は共重合体は、電気・電子材料を製造するための原料として好適に使用できる。
【0211】
尚、本発明において、電気・電子材料とは、電気材料及び/又は電子材料を意味する。
【0212】
本発明のビニルスルホン酸を含む電気・電子材料としては、燃料電池用高分子電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料等が挙げられる。
【0213】
また、本発明のビニルスルホン酸単独重合体及び/又は共重合体を含む電気・電子材料としては、燃料電池用高分子電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料等が挙げられる。
【0214】
特に、本発明のビニルスルホン酸単独重合体及び/又は共重合体は、燃料電池用高分子電解質膜、フォトレジスト組成物及び導電性ポリマー組成物の材料として好適に用いられる。
【0215】
(1)燃料電池用高分子電解質膜
高分子電解質膜は、本発明のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を成膜することにより得ることができる。
【0216】
成膜方法に特に制限はないが、溶液状態より成膜する方法(溶液キャスト法)あるいは溶融状態より成膜する方法(溶融プレス法あるいは溶融押し出し法など)等により行うことができる。膜の厚みは、特に制限はないが、所望の特性を得るために適宜設定できる。膜厚は、溶液キャスト法では溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。また、溶融プレス法あるいは溶融押し出し法ではスペーサー厚、ダイギャップ、引き取り速度などにより制御できる。また、高分子電解質膜を製造する際に、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で使用できる。
【0217】
得られた電解質膜は燃料電池用として好適に使用できる。燃料電池の作製方法は特に限定されず、高分子電解質膜として本発明の重合体を用いた膜を用いる以外は公知の方法に従って行うことができる。また燃料電池の構成も特に限定されず、公知の構成を採用することができる。例えば、酸素極と、燃料極と、酸素極および燃料極の間に挟持された電解質膜と、酸素極の外側に配置された酸化剤流路を有する酸化剤配流板と、燃料極の外側に配置された燃料流路を有する燃料配流板とから構成されたもの等が挙げられる。
【0218】
(2)フォトレジスト組成物
フォトレジスト組成物は、本発明のビニルスルホン酸、あるいはその単独重合体又は共重合体を、通常の方法に従い、水や有機溶剤に混合することにより、製造することができる。フォトレジスト組成物には、必要に応じ、他の成分、例えば、他の水溶性重合体やアルカリ可溶性重合体、界面活性剤、光重合性の架橋剤、光重合開始剤、増感剤、光酸発生剤等を含めることもできる。
【0219】
重合体の割合は、水あるいは有機溶剤、他の成分、及びリソグラフィの条件等に伴い、適宜設定することができる。
【0220】
上記フォトレジスト組成物を利用して、レジスト被膜を形成し、半導体素子の感光膜パターンを形成することができる。
【0221】
レジスト被膜の形成方法も常法に従って行うことができるが、一般には、フォトレジスト組成物を基板に塗布した後、加熱固化し、溶剤を揮発させることにより形成される。
【0222】
塗布方法としては、回転塗布、流延塗布、ロール塗布などの方法が挙げられる。また基板としては、シリコンウェハー、ガラス、アルミナ、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0223】
形成されたレジスト被膜に露光した後、余分な部分のレジストを除去し、パターンに従って、エッチングを行い、最後にレジストを完全に除去することにより、パターンを形成することができる。露光源としては、半導体レーザー、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、エキシマレーザー、電子線などがあげられる。
【0224】
(3)導電性ポリマー組成物
本発明のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体は、導電性ポリマーのドーパントとして用いることができる。
【0225】
導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。
【0226】
導電性ポリマー組成物は、ビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体と前記導電性ポリマーと前記導電性ポリマーをイオン結合させたり、ビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の存在下に、導電性ポリマーを形成するモノマーを電解重合、化学重合させたりして製造することができる。
【0227】
導電性ポリマー組成物は成膜して、導電性ポリマー膜として用いることもできる。成膜方法としては、適当な溶媒に溶解して行うキャスティング法あるいはスピンコート法、溶融する導電性高分子を用いる溶融法、電解重合法、真空蒸着法、プラズマ重合法、ラングミュアーブロジェット法、分子セルフアセンブリ法などが挙げられる。
【0228】
導電性ポリマー組成物又はそれから得られる膜は、様々な光電子工学部品の用途、例えばポリマー発光ダイオード、有機太陽光発電、二次電池、導電性高分子センサー、薄膜トランジスタ素子、エレクトロルミネセンス素子、電解コンデンサなどに用いることができる。