特許第5883560号(P5883560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883560ビニルスルホン酸、その重合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883560
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】ビニルスルホン酸、その重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 309/20 20060101AFI20160301BHJP
   C07C 303/44 20060101ALI20160301BHJP
   C08F 28/02 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20160301BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160301BHJP
【FI】
   C07C309/20
   C07C303/44
   C08F28/02
   H01L21/312 A
   H01M8/02
【請求項の数】8
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2010-505835(P2010-505835)
(86)(22)【出願日】2009年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2009056286
(87)【国際公開番号】WO2009119806
(87)【国際公開日】20091001
【審査請求日】2012年3月21日
【審判番号】不服2014-11458(P2014-11458/J1)
【審判請求日】2014年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2008-85670(P2008-85670)
(32)【優先日】2008年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-85693(P2008-85693)
(32)【優先日】2008年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-143072(P2008-143072)
(32)【優先日】2008年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-143400(P2008-143400)
(32)【優先日】2008年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-167810(P2008-167810)
(32)【優先日】2008年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591057522
【氏名又は名称】旭化成ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】秋風 裕
(72)【発明者】
【氏名】宮井 武彦
(72)【発明者】
【氏名】一色 和彦
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 辰己 雅夫
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3312735(US,A)
【文献】 米国特許第2597696(US,A)
【文献】 米国特許第2619452(US,A)
【文献】 国際公開第2008/078767(WO,A1)
【文献】 Krell E. et al, 5.Separating process,Handbook of Laboratory Distillation,Elsevier,1982年1月1日,pp.283−291
【文献】 Preston J. et al, A convenient preparation for ethylenesulfonic acid,Journal of Polymer Science,1964年,Vol.2,NO.12,pp.5364−5365
【文献】 J.F.King,et.al.、Can.J.Chem.、1984年、Vol.62、p.1977−1995
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D401/00-421/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)と、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属と、の両方を含有し、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下であるビニルスルホン酸。
【請求項2】
二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下である請求項1に記載のビニルスルホン酸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合させる工程を含むビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の製造方法
【請求項4】
請求項1又は2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させる工程を含むビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のビニルスルホン酸の製造方法であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂による脱金属処理する工程、
得られた脱金属処理物を以下の薄膜蒸留装置を用いて精製する工程を含む方法。
(薄膜蒸留装置)
ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部が高耐食性材料で形成され、
蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えたビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置。
【請求項6】
前記薄膜蒸留装置において、蒸留塔の中間部が、蒸留塔の塔頂から底部までの長さを100とする場合に、塔頂から30〜60の位置にある請求項5に記載のビニルスルホン酸の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のビニルスルホン酸を含む電気・電子材料。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のビニルスルホン酸を含むフォトレジスト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルスルホン酸及びその重合体、それらの製造方法及び製造に適した装置、並びにそれらを含む電気・電子材料に主に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルスルホン酸は、機能性ポリマーや導電性材料を構成するモノマーとして、高い注目を集めるようになっている。
【0003】
しかし、一般的に市販されているビニルスルホン酸は二重結合含量が75重量%以下であった。このため、ビニルスルホン酸を多孔性基材に含浸させた後、重合しようとしても重合が十分進行せず、プロトン伝導性ポリマーとして機能するものが得られなかった。
【0004】
特許文献1には、純度98%のビニルスルホン酸も記載されている。しかし、金属含有量は数ppmであった。
【0005】
近年、ビニルスルホン酸又はその重合体は、機能性ポリマーや導電性材料を構成する成分として、また、電子機器や半導体向けの材料として着目されている。
【0006】
たとえば、ビニルスルホン酸又はその重合体を、レジスト樹脂組成物(特許文献2)、レジスト保護膜用樹脂組成物(特許文献3、4)、CMPスラリー(特許文献5、6)、アルカリ二次電池用セパレータ(特許文献7、8)、燃料電池電解質膜(特許文献1、9)、導電性ポリマードーパント(特許文献10、11)等に利用することが報告されている。
【特許文献1】国際公開2006/059582号パンフレット
【特許文献2】特許公開2000−035672号公報
【特許文献3】特許公開平10−120968号公報
【特許文献4】特許公開2006−259382号公報
【特許文献5】特許公開2004−031905号公報
【特許文献6】特許公開2006−179678号公報
【特許文献7】特許公開2000−195489号公報
【特許文献8】特許公開2003−031198号公報
【特許文献9】特許第4048063号
【特許文献10】特許公表2005−536595号公報
【特許文献11】特許公開2005−190940号公報
【0007】
しかし、これらの用途には、金属や不純物の混入を嫌うものが少なくない。
【0008】
例えば、半導体向け材料の場合、その材料に含まれる不純物、特に金属不純物は、ウエハ製造工程中にウエハ内部へ拡散しウエハを汚染するなどの問題を生じさせる可能性がある。また金属汚染は、絶縁膜の信頼性の低下、リーク電流の発生、成膜の異常などを誘発し、半導体装置に大きな悪影響を与える可能性がある(特許文献12、13、14参照)。
【特許文献12】特許公開2007−150153号公報
【特許文献13】特許公開2004−189820号公報
【特許文献14】特許公開2001−250807号公報
【0009】
また近年、高分子電解質膜を利用した固体高分子型燃料電池が、環境負荷が少なく、二酸化炭素排出削減の観点から、自動車用、家庭定置用など様々な用途で検討されている。
【0010】
この高分子電解質膜として、従来、パーフルオロ骨格の側鎖にスルホン酸基が結合したパーフルオロアルキルスルホン酸型高分子が用いられている。また、種々の改良が施されたパーフルオロスルホン酸型高分子が開発されてきている。しかし、高分子の製造工程が複雑で、コストの大幅低減が困難なフッ化炭素系材料を使用するため、費用が高くなる。
【0011】
そこで、フッ素系ポリマーを使用しない、かつプロトン伝導度を向上させた炭化水素系高分子電解質膜が開発されてきている。炭化水素系高分子電解質膜は、合成が容易であり、多岐にわたる分子構造に対応でき物性がコントロールしやすい。またリサイクルの観点からも、フッ素を含んでいないため、有害物質が発生しない点で有利である。
【0012】
しかし、炭化水素系高分子の場合は、パーフルオロアルキルスルホン酸型高分子に比べ、化学的安定性が劣るとされている。これは水素と酸素が電解質膜を介してクロスリークして電極触媒上で反応して過酸化水素を発生し、それから生じるラジカルで膜が劣化することが原因である。また鉄イオンは過酸化水素の酸化能力を促進する触媒であるため、膜劣化を加速させる。(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Fuel Cell Technology and Applications / Handbook of Fuel Cells.p647-662.2003
【0013】
しかし、これまで、ビニルスルホン酸やその重合体について、金属含有量が十分に低減されたものは知られていない。
【0014】
一方、ビニルスルホン酸を製造する方法については、各種の方法が知られている(非特許文献2参照)。例えば、特許文献15には、ビニルスルホン酸ナトリウムを塩酸で脱ナトリウム処理することによりビニルスルホン酸を製造する方法が記載されている。また、特許文献16には、イセチオン酸を、五酸化ニリン酸或いはピロリン酸を脱水剤として脱水処理することによりビニルスルホン酸を製造する方法が記載されている。
【0015】
しかし当該記載された方法では十分な品質のものが得られなかった。
【非特許文献2】国近三吾、片桐孝夫、工業化学雑誌、第64巻第5号、1961、pp.929-932
【特許文献15】米国特許第3312735号
【特許文献16】米国特許第2597696号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の主な目的は、二重結合含量が高く、かつ金属含有量が低いビニルスルホン酸を提供することである。また、当該ビニルスルホン酸を構成成分とする単独重合体及び共重合体及びその製造方法を提供することである。また当該ビニルスルホン酸又はその重合体を含む電気・電子材料を提供することである。更に、前記ビニルスルホン酸の製造に適した装置又は方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決することを主な目的として、鋭意検討を重ねた結果、優れた性質を有するビニルスルホン酸が得られることを見出し、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、以下のビニルスルホン酸、単独重合体、共重合体、製造方法、装置並びに電気・電子材料を提供する。
【0019】
項1:二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下であることを特徴とするビニルスルホン酸。
【0020】
項1−1.項1に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を、下記式
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0021】
項1−2:項1に記載のビニルスルホン酸であって、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂により脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0022】
好ましくは、脱金属処理が下記式で表される脱金属率が95%以上である処理である項1−2に記載のビニルスルホン酸:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0023】
項1−3:得られた脱金属処理物を更に薄膜蒸留により精製して得られる、項1−1又は1−2に記載のビニルスルホン酸。
【0024】
項2.二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下であることを特徴とするビニルスルホン酸。
【0025】
項2−1.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を、下記式
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0026】
項2−2:項2に記載のビニルスルホン酸であって、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂により脱金属処理して得られるビニルスルホン酸。
【0027】
好ましくは、脱金属処理が下記式で表される脱金属率が95%以上である処理である項2−2に記載のビニルスルホン酸:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0028】
項2−3:得られた脱金属処理物を更に薄膜蒸留により精製して得られる、項2−1又は2−2に記載のビニルスルホン酸。
【0029】
項2−4.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を、
(1)ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されている薄膜蒸留装置、又は
(2)蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、前記留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置、好ましくは、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置
を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0030】
項2−5.項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を、
(1)ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されている薄膜蒸留装置、又は
(2)蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、前記留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置、好ましくは、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えた前記(1)に記載の薄膜蒸留装置
を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0031】
項A.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸からなる電気・電子材料用原料。又は、電気・電子材料を製造するための項1又は項2に記載のビニルスルホン酸の使用。
【0032】
項3:項1又は項2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体。
【0033】
項3−1:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸を単量体とするビニルスルホン酸単独重合体、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸を単量体とするビニルスルホン酸単独重合体。
【0034】
項3−2:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸共重合体、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体と重合して得られるビニルスルホン酸共重合体。
【0035】
項B:項3、項3−1又は項3−2に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体からなる電気・電子材料用原料。又は、電気・電子材料を製造するための項3、項3−1又は項3−2に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の使用。
【0036】
項4:項1又は項2に記載のビニルスルホン酸を単独で又はこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させる工程を含むビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の製造方法。
【0037】
項4−1:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを特徴とするビニルスルホン酸単独重合体の製造方法、又は、項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを特徴とするビニルスルホン酸単独重合体の製造方法。
【0038】
項4−2:項1〜1−3のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを含むビニルスルホン酸共重合体の製造方法、又は項2〜2−5のいずれかに記載のビニルスルホン酸をこれと共重合可能な1又は複数の他の単量体とラジカル重合、光重合又は放射線重合させることを含むビニルスルホン酸共重合体の製造方法。
【0039】
項5.ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部が高耐食性材料で形成されているビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置。
【0040】
特に、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタルで形成されていることを特徴とするビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置。
【0041】
項6.蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えることを特徴とする項5に記載の薄膜蒸留装置。
【0042】
特に、脱金属処理後のビニルスルホン酸を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備えることを特徴とする項5に記載の薄膜蒸留装置。
【0043】
項7.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸の製造方法であって、
ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製する工程を含むことを特徴とする方法。
【0044】
項C.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0045】
特に、項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を下記式:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
で表される脱金属率が95%以上となるように脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0046】
項D.項1又は項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項5又は6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0047】
特に項2に記載のビニルスルホン酸であって、
ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理し、
得られた脱金属処理物を項6に記載の薄膜蒸留装置を用いて精製して得られる(得られた)ビニルスルホン酸。
【0048】
項8:項1又は2に記載のビニルスルホン酸を含む電気・電子材料。
【0049】
項9:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含む電気・電子材料。
【0050】
項10:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含む燃料電池用高分子電解質膜。
【0051】
項E:項10に記載の高分子電解質膜を含む燃料電池。
【0052】
項11:項1又は2に記載のビニルスルホン酸、或いは項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を含むフォトレジスト組成物。
【0053】
項12:項3に記載のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体をドーパントとして含む導電性ポリマー組成物。
【0054】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0055】
なお、本明細書において、特記しない限り、「ppm」は「重量ppm」、「ppb」は「重量ppb」を示す。
【0056】
1.ビニルスルホン酸
(1)二重結合含量
本発明のビニルスルホン酸は、二重結合含量が95重量%以上、特に97重量%以上、更には99重量%以上である。
【0057】
本発明において、二重結合含量とは、二重結合を定量してビニルスルホン酸の純度に換算したもの、換言すると、ビニルスルホン酸100g中に含まれる二重結合のモル数にビニルスルホン酸の1グラム当量を乗じた値を意味する。
【0058】
二重結合含量は、よう素価の測定値から、次式:
二重結合含量(重量%)=(よう素価)×(108.1/2)/126.9
により求めることができる。
(ここで108.1はビニルスルホン酸の分子量で、126.9はよう素の原子量である。)。
【0059】
(2)金属含有量
本発明のビニルスルホン酸は、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、好ましくは500ppb以下、特に300ppb以下である。更に、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が、1ppm以下、好ましくは800ppb以下、特に500ppb以下である。
【0060】
特に、本発明のビニルスルホン酸は、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、好ましくは50ppb以下、特に10ppb以下である。更に、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が、100ppb以下、好ましくは50ppb以下、特に20ppb以下である。
【0061】
アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)などが挙げられる。
【0062】
第一遷移金属としては、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
【0063】
好ましい本発明のビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下
であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0064】
更に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、かつ、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0065】
特に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下
であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0066】
更に好ましいビニルスルホン酸としては、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、かつ、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下であるビニルスルホン酸が挙げられる。
【0067】
更に、ビニルスルホン酸は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、鉛(Pb)の各金属含有量も低いことが好ましく、それぞれ100ppb程度、好ましくは50ppb程度以下のものが好ましく用いられる。
【0068】
金属含有量は公知の方法に従って測定することができる。例えば、ICP質量分析(ICP−MS)方法、ICP発光分光分析(ICP−OES/ICP−AES)、原子吸光法などを用いることができる。一般的にはICP−MSが好ましく用いられる。
【0069】
本発明のビニルスルホン酸は、不純物及び金属の含有量が低減されており、電気・電子材料用の原料として好適に用いることができる。換言すると、本発明のビニルスルホン酸は、電気・電子材料の製造において原料として好適に使用することができる。
【0070】
電気材料としては、燃料電池電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料などが挙げられる。また電子材料としては、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料などが挙げられる。
【0071】
例えば、ビニルスルホン酸を基材に含浸した後に単独重合させたものや他の重合性モノマーと共重合させたものを、燃料電池の高分子電解質として使用することができる。
【0072】
またビニルスルホン酸、或いはそれを単独で重合させたものや他の重合性モノマーと共重合させたものを、フォトレジスト用組成物や電池用の高分子バインダー又はセパレータの材料として使用することができる。またビニルスルホン酸を重合させたものを、半導体製造用の研磨スラリーにおけるアニオン性ポリマー酸分散剤や、有機発光ダイオード(OLED)などのELデバイスに用いる導電性ポリマーのドーパントなどとして使用することができる。
【0073】
2.ビニルスルホン酸の製造方法
本発明のビニルスルホン酸は、上記特性を有するものであれば、その製法は特に限定されないが、下記製法によって得られるものが好ましい。
【0074】
製法1:ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程を有するビニルスルホン酸の製造方法であって、前記脱金属処理における下記式で表される脱金属率が95%以上である方法:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0075】
製法2:ビニルスルホン酸塩を脱金属処理する工程を有するビニルスルホン酸の製造方法であって、前記脱金属処理が強酸性イオン交換樹脂を用いて行う処理である方法。
【0076】
製法3.更に、得られた脱金属処理物を薄膜蒸留装置を用いて精製する工程を有する上記製法1又は2に記載の製法。
【0077】
製法4.薄膜蒸留装置が、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されている装置である上記製法3に記載の製法。
【0078】
製法5.薄膜蒸留装置が、ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分の全部又は一部がタンタル製である装置である上記製法3に記載の製法。
【0079】
製法6.薄膜蒸留装置が、蒸留原料を蒸発する蒸留塔と、
前記蒸留塔の中間部に設けられたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器を備える装置である上記製法4又は5に記載の製法。
【0080】
原料のビニルスルホン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩またはそれらの混合物を挙げることができる。このうち特にビニルスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。
【0081】
ビニルスルホン酸塩は、組成物の形態で供されるものでもよい。例えば、ビニルスルホン酸塩の他にイセチオン酸塩やビススルホエチルエーテルの塩などを含む組成物を原料として用いてもよい。組成物を用いる場合、組成物全体におけるビニルスルホン酸塩の割合は通常25重量%以上程度である。
【0082】
脱金属処理とは、ビニルスルホン酸塩から金属を除去して水素に交換する処理をさす。換言すると、ビニルスルホン酸塩から金属イオンを除去してビニルスルホン酸に変換する処理をいう。
【0083】
脱金属処理工程を一般式で示すと、下記のようになる:
CH=CHSOM → CH=CHSO
(ここで、Mは塩を形成する金属を示す。具体的には、ナトリウムやカリウムなどを示す)。
【0084】
脱金属率は95%以上、特に97%以上、更に99%以上であることが好ましい。
【0085】
脱金属率とは、下記式で表される値をいう:
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0086】
脱金属率とは、換言すると、原料に含まれる金属の水素への交換率である。例えば、原料としてナトリウム塩を用いる場合は、ナトリウムから水素への交換率(ナトリウム交換率)である。更に別言すると、原料に含まれる金属塩化合物の低減率である。
【0087】
脱金属率は、公知の方法により酸価を測定することにより求めることができる。例えば、中和滴定により酸価を測定して求めることができる。
【0088】
脱金属率が95%以上であると、化合物の分解又はその影響が著しく低減される。また脱金属処理後の精製工程において薄膜蒸留を導入することが可能になり、高い回収率で大量に蒸留を行うことが可能になる。さらに、高品質のビニルスルホン酸を得ることが可能になり、蒸留工程の留出時に着色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。また経時変色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。
【0089】
脱金属処理の方式は特に限定されないが、強酸性イオン交換樹脂を用いて行うことが好ましい。換言すると、ビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理を行うことが好ましい。
【0090】
強酸性イオン交換樹脂に接触させる方法は、常法に従って行うことができるが、イオン交換樹脂をカラムに充填し、ビニルスルホン酸塩水溶液を通液させて行うことが、イオン交換が確実に行えるため、好ましい。
【0091】
強酸性イオン交換樹脂の種類は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されず、公知のものから適宜選定することができる。例えば、架橋された不溶性の有機高分子化合物の側鎖に強酸基を有する化合物を用いることができる。強酸基の例としては、硫酸基、リン酸基およびスルホン酸基などが挙げられる。
【0092】
強酸性イオン交換樹脂の具体的な例としては、ダイヤイオン(登録商標)(SK1B、SK116、PK216等)、アンバーライト(登録商標)(IR−120B、IR−124等)、ダウエックス(登録商標)(50wx8、HCR−S、モノスフィア 650C等)、レバチット(登録商標)(S−100等)などが挙げられる。
【0093】
強酸性イオン交換樹脂を用いて脱金属処理を行うことにより、高い割合でビニルスルホン酸塩を低減することができ、化合物の分解を抑え、収率を向上させることが可能になる。
【0094】
また品質に優れ、着色の少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。
【0095】
また強酸性イオン交換樹脂を用いることにより1度の処理で効率よく脱金属処理を行うことができる。
【0096】
また後の精製工程において薄膜蒸留の導入が可能になり、大量に蒸留を行うことが可能になる。
【0097】
強酸性イオン交換樹脂を用いて行う脱金属処理において、脱金属率は、95%以上、特に97%以上、更には99%以上であることが、ガスの発生が低減されること、また蒸留における回収率がより向上すること等の点から、好ましい。
【0098】
上記脱金属処理により得られた処理物は、更に公知の方法によって精製することが好ましい。脱金属処理物とは、ビニルスルホン酸塩又はその組成物を脱金属処理して得られた物、具体的には脱金属処理により得られたビニルスルホン酸またはその組成物を意味する。
【0099】
精製方法は、公知の方法から適宜設定し得るが、蒸留、特に薄膜蒸留による精製が好ましい。
【0100】
薄膜蒸留で精製することにより、品質に優れ、留出時の着色が少なく、経時着色の問題が少ないビニルスルホン酸を得ることが可能になる。また高い回収率で、大量に精製を行うことが可能になる。
【0101】
特に、ビニルスルホン酸塩を脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留により精製することが好ましい。
【0102】
またビニルスルホン酸塩を強酸性イオン交換樹脂に接触させて脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留により精製することが好ましい。
【0103】
特にビニルスルホン酸塩を強酸性イオン樹脂に接触させて脱金属率が95%以上となるように脱金属処理して得られた処理物を薄膜蒸留することが好ましい。
【0104】
これにより、蒸留時における化合物の分解が低減され、回収率をより向上させることができる。また蒸留におけるガスの発生が低減され、減圧度を安定して保持することが容易となる。また、連続蒸留が可能となり、大量に蒸留させることが可能になる。更に、残渣が、高粘性の固形状のものでなく流動性のあるものとして得られる。このため、装置や設備の洗浄が容易である。また得られるビニルスルホン酸は品質の高いものとなり、留出時にはほとんど無色のビニルスルホン酸が得られる。また経時変色の少ないビニルスルホン酸が得られる。
【0105】
薄膜蒸留は、公知の方法に従って行うことができる。
【0106】
薄膜蒸留の条件は、適宜設定し得るが、通常温度が150〜250℃程度、好ましくは150〜230℃程度である。
【0107】
また圧力は通常10〜400Pa程度、好ましくは10〜200Pa程度である。
【0108】
このような条件で行う場合、分解や重合がより抑制される。
【0109】
薄膜蒸留は、必要に応じて二度以上繰り返して行うこともでき、連続蒸留とすることもできる。
【0110】
薄膜蒸留装置は、公知のものを用いることができるが、ビニルスルホン酸又はその組成物に接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されているものが好ましい。
【0111】
更に、薄膜蒸留装置は、蒸留残渣が混入しないように、蒸留塔の中間部にビニルスルホン酸蒸気の留出口が設けられ、更に冷却部が蒸留塔の外部に形成されているものが好ましい。
【0112】
具体的な薄膜蒸留装置の例としては、下記3.に記載の装置が挙げられる。
【0113】
本発明のビニルスルホン酸の製法には、必要に応じて上記以外の工程を更に付加することができる。例えば原料精製工程などを付加することができる。
【0114】
また、ビニルスルホン酸の製造に関する公知技術を必要に応じて付加することができる。
【0115】
上記製法により、二重結合含有量が高く、かつ、金属含有量が低いビニルスルホン酸を得ることができる。換言すると、本発明で用いるビニルスルホン酸には、製法1〜6のいずれかによって得られるビニルスルホン酸が含まれる。上記製法によって得られるビニルスルホン酸は着色が少なく、経時変色も少ない。
【0116】
3.装置
本発明は、ビニルスルホン酸の製造方法において好適に用いられる薄膜蒸留装置を提供する。換言すると、本発明は、ビニルスルホン酸製造用薄膜蒸留装置又はビニルスルホン酸精製用薄膜蒸留装置を提供する。
【0117】
本発明の薄膜蒸留装置は、ビニルスルホン酸又はその組成物に接する部分の全部又は一部が、高耐食性材料で形成されている。
【0118】
ビニルスルホン酸又はその組成物と接する部分(以下、ビニルスルホン酸接触部ともいう)とは、蒸留原料となる脱金属処理後のビニルスルホン酸組成物や蒸発したビニルスルホン酸蒸気、そのビニルスルホン酸蒸気が凝縮されたビニルスルホン酸などと接する部分を意味し、接液部及び/又は接ガス部とも換言される。
【0119】
ビニルスルホン酸接触部を備える部材としては、例えば、送液用の配管、蒸留塔の内壁、撹拌部、ワイパー部、冷却部、撹拌シール部、蒸留原料の導入口、留出ライン、受器、残渣排出ライン等が挙げられる。
【0120】
高耐食性材料としては、JIS規格R−3503 ほうけい酸ガラス−1や、耐食試験法において完全耐食と判定される金属材料が挙げられる。
【0121】
JIS規格R−3503 ほうけい酸ガラス−1とは、JIS規格(日本工業規格)R−3503において、線膨張係数3.5×10−6・K−1以下、かつ、アルカリ溶出量0.10ml/g以下あるいは31μg/g以下として等級付けられるガラスである。
【0122】
また、耐食試験法において完全耐食と判定される金属材料とは、浸食度が0.05mm/年以下である金属材料をさす。耐食試験法としては、例えば、「化学装置便覧」(化学工学協会編 丸善出版、1970年発行、p.500)におけるa.項の方法に従って、テストピースを165℃のビニルスルホン酸中に浸し、一定時間後における重量変化と外観変化を測定する方法が挙げられる。
【0123】
JIS規格ほうけい酸ガラス−1に属するガラスとしては、パイレックス(登録商標)、ハリオ(登録商標)、デュラン(登録商標)などの製品が挙げられる。
【0124】
また、完全耐食と判定される金属材料としては、タンタルが挙げられる。
【0125】
ビニルスルホン酸接触部が、高耐食性材料で形成されていると、これらの部材又は部分からの不純物の混入を抑制することができる。従来、ビニルスルホン酸接触部においては、金属としてSUSなどが使用されており、これらの材料から、ビニルスルホン酸中に不純物が混入してしまうことがあったが、上記構成によれば、材料に由来する不純物の混入が低減される。
【0126】
以下、高耐食性材料がタンタルの場合を例として説明する。
【0127】
ビニルスルホン酸接触部の全部又は一部がタンタル製、換言すると、タンタルで形成されているとは、ビニルスルホン酸接触部を備えた部材の全部または少なくとも1つがタンタル製である場合を含む。また、1つの部材が有するビニルスルホン酸接触部の少なくとも一部が、タンタル製、即ち、タンタルで形成されている場合を含む。
【0128】
尚、タンタル製とは、タンタル以外の成分を実質的に含んでいない材料によって形成されていることを意味する。換言すると、タンタル以外の成分は、0.3重量%、特に、300ppmより少ない量しか含んでいない材料で形成されていることを意味する。
【0129】
本発明の装置には、撹拌回転部及び/又はワイパー部のみがタンタル製である装置が含まれる。また撹拌回転部全体がタンタル製である装置や、ワイパー部の1部がタンタル製である装置が含まれる。また、薄膜形成部材の全部又は一部がタンタル製である装置が挙げられる。特に、従来、金属で形成されていた部材又は部分がタンタル製となっていることが好ましい。
【0130】
より具体的に、流下式薄膜蒸留装置であれば、撹拌回転部やワイパー部の全部又は一部がタンタル製である装置が挙げられる。また、遠心式薄膜蒸留装置であれば、ローター部やディスク部がタンタル製である装置が挙げられる。
【0131】
装置の一例としては、下記装置A:
蒸留原料の導入口と、
導入された原料を蒸発する蒸留塔と、
蒸留塔の塔頂部に配置された撹拌駆動部と、
蒸留塔内部に配置された、タンタル製の攪拌回転部と、
撹拌回転部に連結された、タンタル製の部分を少なくとも含むワイパー部と、
蒸留塔に連結された真空ポンプ吸引口と、
前記蒸留塔の内部に配置された冷却部と、
前記冷却器で凝縮されたビニルスルホン酸を受けるビニルスルホン酸受器と
蒸留塔の塔底に配置された残渣受器と
を備えた装置が含まれる。
【0132】
例えば、図1に示す装置がこれに含まれる。
【0133】
また、他の装置として、ビニルスルホン酸蒸気が蒸留塔の中間部から出て、蒸留塔の外部に設置された冷却部に到達するように構成された装置が挙げられる。
【0134】
当該装置は、冷却部が蒸留塔の外へ設置されたことにより、蒸留残渣のビニルスルホン酸蒸気への混入がより制限されている。また、ビニルスルホン酸蒸気が、蒸留塔の中間部より排出されるため、撹拌駆動部等の塔頂部分の腐食等による不純物の混入を抑制することができる。
【0135】
中間部とは、蒸留塔の塔頂から底部までの長さを100とする場合に、塔頂から30〜60、好ましく、40〜50程度の位置を意味する。
【0136】
このような装置の一例としては、下記装置B:
蒸留原料の導入口と、
導入された原料を蒸発する蒸留塔と、
蒸留塔の塔頂部に配置された撹拌駆動部と、
蒸留塔内部に配置された、タンタル製の攪拌回転部と、
撹拌回転部に連結された、タンタル製の部分を少なくとも含むワイパー部と、
蒸留塔の塔底に配置された残渣受器と、
前記蒸留塔の中間部に配置されたビニルスルホン酸蒸気の留出口と、
蒸留塔の外に配置され、留出口から得られるビニルスルホン酸蒸気を凝縮する冷却器と、冷却器で凝縮されたビニルスルホン酸を受けるビニルスルホン酸受器と、
ビニルスルホン酸受器に連結した真空ポンプ吸引口と
を備えた装置が含まれる。
【0137】
例えば、図2に示す装置がこれに含まれる。
【0138】
蒸留塔は、通常、加熱手段を備えたものである。また蒸留塔には必要に応じて温度センサー等の公知の手段を付加することもできる。
【0139】
撹拌駆動部は、撹拌回転部を回転するための動力部である。撹拌駆動部は、通常、蒸留塔で発生した蒸気による腐食を防ぐために、撹拌シール部により密閉されている。
【0140】
上記装置を用いて精製を行うことにより、二重結合含有量が高く、かつ、金属含有量が低いビニルスルホン酸を得ることができる。換言すると、本発明で用いるビニルスルホン酸には、上記薄膜蒸留装置を用いて精製することにより得られるビニルスルホン酸が含まれる。
【0141】
特に、二重結合含量が95重量%以上であり、かつ、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下であるビニルスルホン酸は、
上記装置A又は装置Bを用いて精製することにより、適切に製造することができる。
【0142】
特に、装置Bを用いることにより、好適に製造することができる。
【0143】
4.単独重合体
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、上記ビニルスルホン酸を単量体として重合させることにより得られる。換言すると、本発明は、上記ビニルスルホン酸を構成成分とする単独重合体を提供する。
【0144】
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、二重結合含有量が高く、かつ金属含有量が低いビニルスルホン酸から得られるため、不純物がほとんど無く、金属含有量も低く、品質に優れている。
【0145】
本発明の重合体は、好ましくは、金属含有量が、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下である。
【0146】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下
である。
【0147】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下である。
【0148】
特に好ましくは、本発明の重合体は、金属含有量が、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下である。
【0149】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下である。
【0150】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、及び、(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下である。
【0151】
単独重合体の分子量も、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography、以下、「SEC」)法で測定した重量平均分子量で500〜400,000程度、特に2,000〜300,000程度である。
【0152】
尚、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、移動相が有機溶媒であるゲル浸透クロマトグラフィー (GPC, Gel Permeation Chromatography) と、移動相が水溶液であるゲルろ過クロマトグラフィー (GFC, Gel Filtration Chromatography) とに分けられるが、本明細書においてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)とは、その両者を含むものとする。
【0153】
本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、不純物及び金属の含有量が少なく、品質に優れ、電気・電子材料用原料として好適に用いることができる。換言すると、本発明のビニルスルホン酸単独重合体は、電気・電子材料の製造において原料として好適に使用することができる。
【0154】
電気材料としては、燃料電池用電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料などが挙げられる。
【0155】
また電子材料としては、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料などが挙げられる。
【0156】
より具体的には、本発明の重合体は、燃料電池の電解質膜用ポリマー、フォトレジスト用高分子、導電性ポリマーのドーパント、有機EL薄膜用高分子などとして用いることができる。
【0157】
特に電子材料用、例えば半導体用等の金属汚染の防止が重要な分野で好適に用いられる。
【0158】
5.単独重合体の製法
ビニルスルホン酸単独重合体の製造方法は特に限定されないが、一般に、ラジカル重合、光重合又は放射線重合により行うことができる。
【0159】
ラジカル重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、少量の開始剤を添加して加熱することにより、行われる。開始剤としては、過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物、あるいはレドックス開始剤を用いることが出来る。
【0160】
光重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、光を照射して行われる。例えば、太陽光線、紫外線等を照射することにより行うことができる。その際、必要に応じて、光重合開始剤、光重合促進剤等を加えてもよい。特に、光重合はN,N−ジメチルホルムアミドの存在下に行うことが好ましい。
【0161】
放射線重合は、ビニルスルホン酸あるいはその水溶液に、放射線を照射して行われる。
【0162】
本発明の単独重合体は、金属含有量を更に低減するために、公知の方法に従って、精製を行うこともできる。精製の方法は特に限定されないが、例えば、溶媒再沈法、イオン交換法等を挙げることができる。
【0163】
溶媒再沈法とは、できるだけ少量の溶媒に重合体を溶解させ、この重合体に対して溶解度の低い溶媒に滴下して沈殿を生じさせて行う精製法である。イオン交換法とは、溶媒に重合体を溶解させ、イオン交換樹脂を用いて金属イオンの交換を行う精製法である。
【0164】
6.共重合体
本発明の共重合体は、上記ビニルスルホン酸を構成成分とする共重合体を提供する。即ち、本発明の共重合体は、上記ビニルスルホン酸を必須の単量体として含むものである。
【0165】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、上記ビニルスルホン酸を他の単量体の1又は2以上と共重合させることにより得られる。
【0166】
他の単量体とは、上記ビニルスルホン酸とは異なる重合性化合物であって、共重合体の構成単位の一つとなる化合物である。
【0167】
他の単量体は、上記ビニルスルホン酸と共重合可能な物質であれば、特に限定されないが、ビニル単量体が好ましく用いられる。
【0168】
ビニル単量体としては、例えば、スルホン酸基含有ビニルモノマー、カルボキシル基含有ビニルモノマー、エステル基含有ビニルモノマー、窒素含有ビニルモノマー、ハロゲン含有ビニルモノマー、脂肪族ビニルモノマー、芳香族ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0169】
具体的に、スルホン酸基含有ビニルモノマーとしてはアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などが挙げられる。
【0170】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0171】
エステル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0172】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどのモノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが含まれる。
【0173】
窒素含有ビニルモノマーとしては、アリルアミン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルホルムアミド、(メタ)アクリルアミド、プロピルアクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、シアノメチルスチレンなどが挙げられる。
【0174】
ハロゲン含有ビニルモノマーとしては塩化ビニル、クロロプレン、(メタ)アリルクロライド、クロロエチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0175】
脂肪族ビニルモノマーとしては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0176】
芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0177】
上記他の単量体は、1種のみ用いてもよく、また2種以上を用いてもよい。
【0178】
例えば、本発明の共重合体には、ビニルスルホン酸を、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種と共重合して得られる共重合体が含まれる。
【0179】
尚、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタアクリル酸を意味する。同様に(メタ)アクリル酸エステルはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを、(メタ)アクリル酸アミドはアクリル酸アミド及び/又はメタアクリル酸アミドを意味する。(メタ)アクリロニトリルはアクリルニトリル及び/又はメタアクリルニトリルを意味する。
【0180】
上記単量体は、金属含有量が少ないことが好ましい。
【0181】
例えば、
(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下、及び、
(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下程度の単量体を用いることが好ましい。
【0182】
アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)などが挙げられる。
【0183】
第一遷移金属としては、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
【0184】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下、(ii)カルシウム(Ca)の含有量が100ppb以下、50ppb以下、及び、(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が100ppb以下、特に50ppb以下である単量体を用いることが好ましい。
【0185】
これらの単量体における金属含有量の低減は、公知の方法に従って行うことができ、通常、蒸留や昇華によって行うことができる。
【0186】
その際、単量体の重合を防止する目的で、高温を避けるために減圧下で処理し、また適当な重合禁止剤を添加して行うことが望ましい。
【0187】
重合禁止剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、4−tert−ブチルカテコール、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジニトロ−p−クレゾールなどが挙げられる。
【0188】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、二重結合含有量が高く、かつ金属含有量が低いビニルスルホン酸から得られるため、不純物の含有量が低く、金属含有量も低く、品質に優れている。
【0189】
本発明の共重合体には、共重合体における(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下であるものが含まれる。
【0190】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が1ppm以下のもの
が含まれる。
【0191】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が1ppm以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が1ppm以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が1ppm以下のものが含まれる。
【0192】
本発明の共重合体には、共重合体における(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、及び、(ii)アルカリ土類金属及び第一遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が200ppb以下であるものが含まれる。
【0193】
特に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が200ppb以下、及び、
(iii)第一遷移金属から選ばれる少なくとも1つの金属の含有量が200ppb以下の
ものが含まれる。
【0194】
更に、(i)ナトリウム(Na)の含有量が200ppb以下、
(ii)カルシウム(Ca)の含有量が200ppb以下、及び、
(iii)鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各金属の含有量が200p
pb以下のものが含まれる。
【0195】
共重合体を構成する単量体の割合は、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、通常、ビニルスルホン酸1〜99モル%、特に10〜90モル%程度、及び、他の単量体99〜1モル%、特に90〜10モル%程度である。
【0196】
例えば、本発明の共重合体には、ビニルスルホン酸10〜90モル%を他の単量体90〜10モル%と重合させて得られる共重合体が含まれる。
【0197】
共重合体の分子量も、目的に応じて設定することができ、特に限定されないが、SEC法で測定した重量平均分子量で500〜50,000,000程度、特に2,000〜5,000,000程度である。
【0198】
本発明のビニルスルホン酸共重合体は、金属含有量が少なく、電気・電子材料用原料として好適に用いることができる。
【0199】
電気材料用としては、燃料電池電解質膜用、有機EL薄膜用、電池周辺材料用などが挙げられる。
【0200】
また電子材料用としては、半導体周辺材料用、導電性高分子材料用、回路基板材料用などが挙げられる。
【0201】
より具体的には、本発明の共重合体は、燃料電池の電解質膜用ポリマー、フォトレジスト用高分子、導電性ポリマーのドーパント、有機EL薄膜用高分子などの材料及び/又はその原料として用いることができる。
【0202】
特に電子材料用、例えば半導体用等の金属汚染の防止が重要な分野で好適に用いられる。
【0203】
7.共重合体の製法
ビニルスルホン酸共重合体の製造方法は特に限定されないが、一般に、ラジカル重合、光重合又は放射線重合により行われる。
【0204】
ラジカル重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、少量の開始剤を添加して加熱することにより、行われる。開始剤としては、過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物、あるいはレドックス開始剤を用いることが出来る。
【0205】
光重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、それに光を照射して行われる。例えば、太陽光線、紫外線等を照射することにより行うことができる。また必要に応じて、光重合性の架橋剤、光重合開始剤、光重合促進剤等を加えてもよい。特に、N,N−ジメチルホルムアミドの存在下に行うことが好ましい。
【0206】
放射線重合は、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸水溶液と、他の単量体又はその水溶液を混合し、それに放射線を照射して行われる。
【0207】
他の単量体を2種以上用いる場合、それらは同時に混合してもよく、又、逐次混合してもよい。
【0208】
本発明の共重合体は、金属含有量を更に低減するために、公知の方法に従って、精製を行うことができる。精製の方法は特に限定されないが、例えば、溶媒再沈法、イオン交換法等を挙げることができる。
【0209】
溶媒再沈法とは、できるだけ少量の溶媒に重合体を溶解させ、この重合体に対して溶解度の低い溶媒に滴下して沈殿を生じさせて行う精製法である。イオン交換法とは、溶媒に重合体を溶解させ、イオン交換樹脂を用いて金属イオンの交換を行う精製法である。
【0210】
8.電気・電子材料
本発明は、上記ビニルスルホン酸、その単独重合体又は共重合体を含む電気・電子材料を提供する。換言すると、上記本発明のビニルスルホン酸、その単独重合体又は共重合体は、電気・電子材料を製造するための原料として好適に使用できる。
【0211】
尚、本発明において、電気・電子材料とは、電気材料及び/又は電子材料を意味する。
【0212】
本発明のビニルスルホン酸を含む電気・電子材料としては、燃料電池用高分子電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料等が挙げられる。
【0213】
また、本発明のビニルスルホン酸単独重合体及び/又は共重合体を含む電気・電子材料としては、燃料電池用高分子電解質膜、有機EL薄膜、電池周辺材料、半導体周辺材料、導電性高分子材料、回路基板材料等が挙げられる。
【0214】
特に、本発明のビニルスルホン酸単独重合体及び/又は共重合体は、燃料電池用高分子電解質膜、フォトレジスト組成物及び導電性ポリマー組成物の材料として好適に用いられる。
【0215】
(1)燃料電池用高分子電解質膜
高分子電解質膜は、本発明のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体を成膜することにより得ることができる。
【0216】
成膜方法に特に制限はないが、溶液状態より成膜する方法(溶液キャスト法)あるいは溶融状態より成膜する方法(溶融プレス法あるいは溶融押し出し法など)等により行うことができる。膜の厚みは、特に制限はないが、所望の特性を得るために適宜設定できる。膜厚は、溶液キャスト法では溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。また、溶融プレス法あるいは溶融押し出し法ではスペーサー厚、ダイギャップ、引き取り速度などにより制御できる。また、高分子電解質膜を製造する際に、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で使用できる。
【0217】
得られた電解質膜は燃料電池用として好適に使用できる。燃料電池の作製方法は特に限定されず、高分子電解質膜として本発明の重合体を用いた膜を用いる以外は公知の方法に従って行うことができる。また燃料電池の構成も特に限定されず、公知の構成を採用することができる。例えば、酸素極と、燃料極と、酸素極および燃料極の間に挟持された電解質膜と、酸素極の外側に配置された酸化剤流路を有する酸化剤配流板と、燃料極の外側に配置された燃料流路を有する燃料配流板とから構成されたもの等が挙げられる。
【0218】
(2)フォトレジスト組成物
フォトレジスト組成物は、本発明のビニルスルホン酸、あるいはその単独重合体又は共重合体を、通常の方法に従い、水や有機溶剤に混合することにより、製造することができる。フォトレジスト組成物には、必要に応じ、他の成分、例えば、他の水溶性重合体やアルカリ可溶性重合体、界面活性剤、光重合性の架橋剤、光重合開始剤、増感剤、光酸発生剤等を含めることもできる。
【0219】
重合体の割合は、水あるいは有機溶剤、他の成分、及びリソグラフィの条件等に伴い、適宜設定することができる。
【0220】
上記フォトレジスト組成物を利用して、レジスト被膜を形成し、半導体素子の感光膜パターンを形成することができる。
【0221】
レジスト被膜の形成方法も常法に従って行うことができるが、一般には、フォトレジスト組成物を基板に塗布した後、加熱固化し、溶剤を揮発させることにより形成される。
【0222】
塗布方法としては、回転塗布、流延塗布、ロール塗布などの方法が挙げられる。また基板としては、シリコンウェハー、ガラス、アルミナ、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0223】
形成されたレジスト被膜に露光した後、余分な部分のレジストを除去し、パターンに従って、エッチングを行い、最後にレジストを完全に除去することにより、パターンを形成することができる。露光源としては、半導体レーザー、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、エキシマレーザー、電子線などがあげられる。
【0224】
(3)導電性ポリマー組成物
本発明のビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体は、導電性ポリマーのドーパントとして用いることができる。
【0225】
導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。
【0226】
導電性ポリマー組成物は、ビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体と前記導電性ポリマーと前記導電性ポリマーをイオン結合させたり、ビニルスルホン酸単独重合体又は共重合体の存在下に、導電性ポリマーを形成するモノマーを電解重合、化学重合させたりして製造することができる。
【0227】
導電性ポリマー組成物は成膜して、導電性ポリマー膜として用いることもできる。成膜方法としては、適当な溶媒に溶解して行うキャスティング法あるいはスピンコート法、溶融する導電性高分子を用いる溶融法、電解重合法、真空蒸着法、プラズマ重合法、ラングミュアーブロジェット法、分子セルフアセンブリ法などが挙げられる。
【0228】
導電性ポリマー組成物又はそれから得られる膜は、様々な光電子工学部品の用途、例えばポリマー発光ダイオード、有機太陽光発電、二次電池、導電性高分子センサー、薄膜トランジスタ素子、エレクトロルミネセンス素子、電解コンデンサなどに用いることができる。
【発明の効果】
【0229】
本発明のビニルスルホン酸は、二重結合含量が高く、かつ、金属含有量が低い。このような本発明によれば、着色が少なく、経時変色も少ない、高品質のビニルスルホン酸が得られる。
【0230】
そして、当該ビニルスルホン酸を単量体に用いて得られる本発明のビニルスルホン酸単独重合体及び共重合体は、不純物の存在がほとんど無く、金属含有量も低く、品質にも優れる。
【0231】
このような優れた性質から、本発明のビニルスルホン酸、単独重合体及び共重合体は、高温かつ強い酸化雰囲気下の過酷な環境においても十分な耐久性を有するため、電気・電子材料、例えば、燃料電池の電解質膜、フォトレジスト組成物、導電性ポリマー組成物等、又はその原料として好適に利用し得る。
【0232】
更に本発明は、高品質のビニルスルホン酸の製造に適した薄膜蒸留装置を提供する。本発明の装置を用いて精製すれば、二重結合含量が高く、かつ、金属含有量が低いビニルスルホン酸が得られる。そして、本発明によれば、薄膜蒸留装置を連続運転させて高品質のビニルスルホン酸を大量生産することも可能となる。
【0233】
このように、本発明は、高品質ビニルスルホン酸の工業的生産を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0234】
図1】本発明の実施例II-1で用いた薄膜蒸留装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施例II-2〜II-4で用いた薄膜蒸留装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0235】
1…ビニルスルホン酸受器:ガラス(パイレックス(登録商標))製
2…残渣受器:ガラス(パイレックス(登録商標))製
3…ヒーター
4…撹拌駆動部(撹拌モーター)
5…撹拌回転部:タンタル製
6…冷却部:ガラス(パイレックス(登録商標))製
7…撹拌シール部:フッ素樹脂(テフロン(登録商標))製
8…ビニルスルホン酸組成物導入口
9…真空ポンプ吸引口
10…蒸留塔:ガラス(パイレックス(登録商標))製
11…ワイパー部:タンタル製部分とフッ素樹脂(テフロン(登録商標))製部分で構成
12…塔壁流下物回収用壁面:ガラス(パイレックス(登録商標))製
13…ビニルスルホン酸蒸気の留出口
【発明を実施するための最良の形態】
【0236】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0237】
材料及び測定方法
原料となるビニルスルホン酸塩として、ビニルスルホン酸ナトリウムを用いた。
【0238】
金属含有量の測定は、ICP質量分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製 型名:Xシリーズ X7 ICP−MS)にて内標準法で定量を行い、同時に実施した操作ブランク値を差し引いて含有量を求めた。
【0239】
酸価およびよう素価の測定は、日本工業規格 JIS K0070−1992に準じて
行った。酸価は、中和滴定法で測定した。
【0240】
二重結合含量は、よう素価の測定値から、下記式により計算した。
二重結合含量(重量%)=(よう素価)×(108.1/2)/126.9
ここで108.1はビニルスルホン酸の分子量で、126.9はよう素の原子量である。
脱金属率(脱ナトリウム率)は、酸価の測定値から下記式により決定した。
脱金属率(%)={(脱金属処理後の酸価)/(脱金属処理前の酸価)}×100
【0241】
また製造工程の収率を、よう素価の測定値から、下記式により計算した。
収率(%)={(脱金属処理後のよう素価)/(脱金属処理前のよう素価)}×100
【0242】
また蒸留工程の回収率を、よう素価の測定値から下記式により計算した。
回収率(%)={(蒸留後のよう素価)/(蒸留前のよう素価)}×100
【0243】
また共重合体の重量平均分子量は、下記A又はBの条件にて測定した。
【0244】
A条件:0.2M硝酸ナトリウム水溶液を溶媒に、ポリエチレンオキシドを標準試料として、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法で測定した。カラムは、東ソー株式会社製 SECカラム TSK−GELのα−2500とα−3000とα−4000の三本を連結して用いた。
【0245】
B条件:0.1重量%臭素化リチウム/N,N−ジメチルホルムアミド溶液を溶媒に、ポリスチレンを標準試料として、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法で測定した。カラムは、昭和電工株式会社製 GPCカラム KF−803とKF−804とKF−805の三本を連結して用いた。
【0246】
吸光度は、紫外可視分光光度計(株式会社 島津製作所製UV−2450)を用い、光路長1cmの石英セルに測定サンプルを入れ、波長248又は365nmで吸光度を測定した。
【0247】
示差熱−熱重量同時測定(TG-DTA)は理学製TG8120を用い、窒素雰囲気下
、昇温速度10℃/分、温度範囲30〜450℃で測定した。またこの測定で開始時から10%の重量が減った時点を10%熱分解温度(Td10%)とした。
【0248】
尚、特記しない限り、各例中の%はモル%、収率はモル収率を示す。
【0249】
比較例I−1:塩酸による脱ナトリウム処理及びバッチ蒸留
25%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)7.5Kgに35%塩酸3Kgを加え、室温で30分撹拌した。次いで減圧下、水を約4L濃縮し、析出した塩を濾別することにより、脱ナトリウム処理を行った。この脱ナトリウム処理をさらに2度行い、ビニルスルホン酸ナトリウムのナトリウムを水素に交換させて、ビニルスルホン酸水溶液を得た。
【0250】
脱ナトリウム処理前の酸価と3度の脱ナトリウム処理後の酸価から求めた脱ナトリウム率は93.5%であった。また脱ナトリウム処理前のよう素価と3度の脱ナトリウム処理後のよう素価から求めた収率は94.8%であった。
【0251】
得られたビニルスルホン酸水溶液4.5Kgを5Lガラスフラスコで減圧下蒸留を行い、ビニルスルホン酸2.1Kgを得た。回収率は67%であった。減圧度は500〜1000Pa程度となり、変動が大きく、減圧度を保持することが困難であった。また、得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量98重量%、Fe含量750ppb、Na含量5.7ppm、Ca含量240ppb、Cr含量330ppb、Ni含量220ppbで、留出時から濃い暗紫色に着色した。また残渣は黒色の流動性の無いものが生じた。
【0252】
比較例I−2:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及びバッチ濃縮
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。
【0253】
この脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物0.6Kgを減圧下濃縮した。その結果、二重結合含量75重量%、Fe含量1000ppb、Na含量0.11重量%、Ca含量430ppb、Cr含量130ppb、Ni含量24ppbのビニルスルホン酸が得られた。
【0254】
実施例I−1:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0255】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して4.2Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は160〜200℃とした。その結果、減圧度は70Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は94%程度に保たれた。
【0256】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97.5重量%、かつ、Fe含量455ppb、Na含量465ppb、Ca含量50ppb、Cr含量120ppbで、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0257】
実施例I−2:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は96.5%であった。また収率は97.0%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0258】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して5.2Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は180〜220℃とした。その結果、減圧度は70〜90Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は90%程度に保たれた。
【0259】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量96重量%、Fe含量730ppb、Na含量220ppb、Ca含量130ppb、Cr含量155ppb、Ni含量145ppbで、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0260】
実施例I−3:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は96.8%であった。また収率は95.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物400kgを減圧下濃縮した。
【0261】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して8.3Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は170〜190℃とした。その結果、減圧度は55〜100Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は73%程度に保たれた。
【0262】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97重量%、Fe含量44ppb、Na含量35ppb、Ca含量160ppb、Cr含量9ppb、Ni含量6ppbで、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0263】
実施例I−4:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は96.8%であった。また収率は95.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0264】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して3.5Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は190〜200℃とした。その結果、減圧度は65〜130Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は14%程度に保たれた。
【0265】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97重量%の高純度で、留出時は薄い黄色であった。
【0266】
この蒸留時に生じた残渣を上記と同じ条件で、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。その結果、回収率は17%程度で、得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量98重量%の高純度で、留出時は薄い黄色であった。
【0267】
再度、この蒸留時に生じた残渣を上記と同じ条件で、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。同じようにこの操作を5回繰り返した。
【0268】
この5回で得られたビニルスルホン酸は、いずれも、二重結合含量99重量%であり、かつ、Fe、Na、Ca、Cr、及びNiの各含量が1ppm未満で、留出時は薄い黄色であった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0269】
実施例I−5:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は99%であった。また収率は90%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0270】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して5.2Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は209〜221℃とした。その結果、減圧度は15〜25Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は90%程度に保たれた。
【0271】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97.2重量%、Fe含量415ppb、Na含量62ppb、Cr含量141ppb、Ni含量113ppbで、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0272】
実施例I−6:ビニルスルホン酸の紫外線照射による重合
20mlのサンプル瓶内で、実施例I−3で得られたビニルスルホン酸2gとN,N−ジメチルホルムアミド(片山化学社製 試薬特級)1g(ビニルスルホン酸1モルに対し0.74モル)を混合した後、UV照射機を用いて360nmの紫外線を照射した。重合温度35〜45℃で1時間重合後、系内は透明樹脂状の固体となった。
【0273】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0274】
得られたポリマーは薄黄色透明の固体で、サイズ排除クロマトグラフィー(以下「SEC」)(A条件)で測定したところ、重量平均分子量5.0×10の重合物であった。
【0275】
実施例I−7:ビニルスルホン酸のラジカル重合
重合管で、10gの実施例I−3で得られたビニルスルホン酸を10gのイオン交換水と混合し、0.2gのアゾビスイソブチロニトリルを添加して、十分に減圧脱気封管後、60℃で、暗所で重合を行った。
【0276】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0277】
得られたポリマーは薄黄色透明の固体で、SEC(A条件)で測定したところ、重量平均分子量3.3×10の重合物であった。
【0278】
比較例II−1:塩酸による脱ナトリウム処理
25%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)7.5Kgに35%塩酸3Kgを加え、室温で30分撹拌した。次いで減圧下、水を約4L濃縮し、析出した塩を濾別することにより、脱ナトリウム処理を行った。この脱ナトリウム処理をさらに2度行い、ビニルスルホン酸ナトリウムのナトリウムを水素に交換させて、ビニルスルホン酸水溶液を得た。
【0279】
脱ナトリウム処理前の酸価と3度の脱ナトリウム処理後の酸価から求めた脱ナトリウム率は93.5%であった。また脱ナトリウム処理前のよう素価と3度の脱ナトリウム処理後のよう素価から求めた収率は94.8%であった。
【0280】
得られたビニルスルホン酸水溶液4.5Kgを5Lガラスフラスコで減圧下蒸留を行い、ビニルスルホン酸2.1Kgを得た。回収率は67%であった。減圧度は500〜1000Pa程度となり、変動が大きく、減圧度を保持することが困難であった。また、得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量98重量%、Fe含量750ppb、Na含量5.7ppm、Ca含量240ppb、Cr含量330ppb、Ni含量220ppbで、留出時から濃い暗紫色に着色した。また残渣は黒色の流動性の無いものが生じた。
【0281】
比較例II−2:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及びバッチ濃縮
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。
【0282】
この脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物0.6Kgを減圧下濃縮した。その結果、二重結合含量75重量%、Fe含量1000ppb、Na含量0.11重量%、Ca含量430ppb、Cr含量130ppb、Ni含量24ppbのビニルスルホン酸が得られた。
【0283】
比較例II−3:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0284】
得られたビニルスルホン酸組成物を連続して4.2Kgフィードし、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は160〜200℃とした。その結果、減圧度は70Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は94%程度に保たれた。
【0285】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97.5重量%、かつ、Fe含量455ppb、Na含量465ppb、Ca含量50ppb、Cr含量120ppbで、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0286】
実施例II-1:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0287】
図1に示す薄膜蒸留装置を用い、得られたビニルスルホン酸組成物を連続して3.6Kgフィードして、減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は160〜200℃とした。その結果、減圧度は70Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は96%程度に保たれた。
【0288】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97重量%、Fe含量24ppb、Na含量25ppb、Ca含量30ppb、Cr含量5ppb、Ni含量4ppbの高純度で、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0289】
なお、タンタルについて、化学装置便覧(化学工学協会編 丸善出版、1970年発行、p.500)におけるa.項の方法に従って、テストピースを165℃のビニルスルホン酸中に浸し、19時間後における重量変化と外観変化を測定することにより耐食試験を行った結果、浸食度は0.05mm/年以下であった。
【0290】
実施例II-2:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は98.4%であった。また収率は94.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0291】
図2に示す薄膜蒸留装置を用い、得られたビニルスルホン酸組成物を連続して3.6Kgフィードして、減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は160〜200℃とした。その結果、減圧度は70Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は96%程度に保たれた。
【0292】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97重量%、Fe含量7ppb、Na含量25ppb、Ca含量20ppb未満、Cr含量1ppb未満、Ni含量1ppb未満の高純度で、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0293】
実施例II-3:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は96.8%であった。また収率は95.3%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0294】
図2に示す薄膜蒸留装置を用い、得られたビニルスルホン酸組成物を連続して3.5Kgフィードし、減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は190〜200℃とした。その結果、減圧度は65〜130Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は14%程度に保たれた。
【0295】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量97重量%の高純度で、留出時は薄い黄色であった。
【0296】
この蒸留時に生じた残渣を上記と同じ条件で、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。その結果、回収率は17%程度で、得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量98重量%の高純度で、留出時は薄い黄色であった。
【0297】
再度、この蒸留時に生じた残渣を上記と同じ条件で、薄膜蒸留装置で減圧下連続蒸留を試みた。同じようにこの操作を5回繰り返した。
【0298】
この5回で得られたビニルスルホン酸は、いずれも二重結合含量99重量%、Fe含量10〜15ppb、Na含量10ppb未満、Ca含量20ppb未満、Cr含量1ppb未満、Ni含量1ppb未満の高純度で、留出時は薄い黄色であった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0299】
試験例1
実施例I-2及び実施例II-2で得られたビニルスルホン酸の248nmと365nmの吸光度の測定結果を表1に示す。
【0300】
【表1】
【0301】
表1に示されるように実施例I−2及びII-2で得られたビニルスルホン酸は共に吸光
度が小さかった。特に実施例II-2で得られたビニルスルホン酸は、より吸光度が小さく、すなわち透過率がより大きくなることがわかった。
【0302】
このことより、この金属含有量が少ないビニルスルホン酸をフォトレジスト組成物に使用すると、露光時の光の透過率が高く、現像後に形成されるフォトレジスト膜のレジストパターンを安定した線幅で形成することができると予想される。
【0303】
実施例II-4:強酸性イオン交換樹脂による脱ナトリウム処理及び薄膜蒸留
あらかじめ塩酸で再生した強酸性イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)モノスフィア 650C)26Lを内径200mm、高さ900mmのカラム塔に充填し、カラム下より25重量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(旭化成ファインケム株式会社製、N−SVS−25)12.2Kgを流入し、次にイオン交換水100Kgでカラム下より洗浄して脱ナトリウム処理を行った。1回の脱ナトリウム処理前後の酸価から求めた脱ナトリウム率は99%であった。また収率は88.4%であった。このようにして脱ナトリウム処理により得られた希薄ビニルスルホン酸組成物300kgを減圧下濃縮した。
【0304】
図2に示す薄膜蒸留装置を用い、得られたビニルスルホン酸組成物を連続して15.4Kgフィードして、減圧下連続蒸留を試みた。温度条件は185〜200℃とした。その結果、減圧度は100〜150Paに保たれ、安定に蒸留運転を継続することができた。また亜硫酸ガスの臭気は全くなく、回収率は80%程度に保たれた。
【0305】
得られたビニルスルホン酸は、二重結合含量98.1重量%、Fe含量1.5ppb、Na含量10ppb、Ca含量20ppb未満、Cr含量1ppb未満の高純度で、留出時は薄い黄色であり、6ヶ月経時後も着色の進行はみられなかった。また蒸留時に残渣が生じたものの、黒褐色で流動性のあるものとなり、容易に洗浄できた。
【0306】
実施例II-5:ビニルスルホン酸の紫外線照射による重合
20mlのサンプル瓶内で、実施例II-2で得られたビニルスルホン酸2gとN,N−
ジメチルホルムアミド(片山化学社製 試薬特級)1g(ビニルスルホン酸1モルに対し0.74モル)を混合した後、UV照射機を用いて360nmの紫外線を照射した。重合温度35〜45℃で1時間重合後、系内は透明樹脂状の固体となった。
【0307】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0308】
得られたポリマーは薄黄色透明の固体で、SEC(A条件)で測定したところ、重量平均分子量5.0×10の重合物であった。
【0309】
実施例II-6:ビニルスルホン酸のラジカル重合
重合管で、10gの実施例II-2で得られたビニルスルホン酸を10gのイオン交換水
と混合し、0.2gのアゾビスイソブチロニトリルを添加して、十分に減圧脱気封管後、60℃で、暗所で重合を行った。
【0310】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のテトラヒドロフランに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0311】
得られたポリマーは薄黄色透明の固体で、SEC(A条件)で測定したところ、重量平均分子量3.3×10の重合物であった。
【0312】
比較例II-4:ポリビニルスルホン酸ナトリウム
ポリビニルスルホン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)の分子量測定及び熱物性を評価した。分子量はSEC(A条件)で測定したところ、その重量平均分子量は9.0×10であった。
【0313】
試験例2
実施例I-7及びII-5で得られたポリマー及び比較例II-4のポリマーの示差熱−熱重
量同時測定(TG-DTA)測定結果を表2に示す。ここでTd10%は10%熱分解温
度を示す。
【0314】
【表2】
【0315】
表2に示されるように、本発明のビニルスルホン酸を用いて得られた重合体は、150℃以上のTd10%を有することがわかった。
【0316】
比較例II-4のポリビニルスルホン酸ナトリウムはスルホン酸基がナトリウム塩の形と
なっているために、熱安定性は優れていることがわかる。しかし、ポリビニルスルホン酸ナトリウムは金属塩であるため、水溶性で、水存在下ではイオン化する。したがって燃料電池膜としては不適当である。
【0317】
ビニルスルホン酸は、構造上、ビニル基とスルホン酸基のみで構成される。そのため、ビニルスルホン酸を単量体として形成されたポリマーは、他のスルホン酸基含有ビニル単量体を用いて形成されたポリマーと比較して、スルホン酸基の密度が非常に高い。
【0318】
更に本発明のビニルスルホン酸を用いて得られるポリマーは、不純物が少なく、金属含有量も少ないため、よりスルホン酸基の密度が高まっている。
【0319】
更に、表2の結果に示されるように、本発明のビニルスルホン酸を用いて得られたポリマーは、熱安定性にも優れており、固体高分子型燃料電池の一般的な作動温度である室温から120℃程度で充分に安定であることが推測できる。
【0320】
更に、本発明のポリマーは、低金属量のビニルスルホン酸を用いて得られることから、金属含有量も低減され、高分子電解質膜の耐酸化性も向上させることが推定できる。
【0321】
このことから、本発明のポリビニルスルホン酸重合体は、優れた燃料電池用高分子電解質膜の優れた材料として使用できると考えられる。
【0322】
試験例3:PEDOT/PVSの化学酸化重合およびその電気伝導度
ポリビニルスルホン酸(以下「PVS」)水溶液中で、3,4−エチレンジオキシチオフェンを化学酸化重合して、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下「PEDOT」)とポリビニルスルホン酸(以下「PVS」)からなる導電性ポリマー組成物PEDOT/PVSを合成した。
【0323】
100mlナスフラスコに、実施例II-5のポリビニルスルホン酸0.135g、イオン交換水50ml、3,4−エチレンジオキシチオフェン0.71gを加えて1時間撹拌した。
【0324】
過硫酸アンモニウム1.14gを加え、十分にアルゴン置換し、室温で12時間重合した。重合反応終了後、3日間イオン交換水で、排除分子量3,500の透析膜(Spectrum社製、Spectra/Por(登録商標))を用いて透析し、低分子成分を除去した。
【0325】
得られたPEDOT/PVS分散液をテフロン(登録商標)板上にキャスト成膜し、40℃で一夜加熱乾燥後、四深針測定器(共和理研 K−705RS)を用いて室温で電気伝導度を測定した。
【0326】
比較のためにPEDOT/PSS(ポリスチレンスルホン酸)(アルドリッチ社製)の電気伝導度を同様に測定した結果を表3に示す。
【0327】
【表3】
【0328】
表3に示されるように、PEDOT/PSSの電気伝導度より、PEDOT/PVSが高い値を示した。
【0329】
PEDOTはPSSをドーパントとして水に分散しており、PVSもPSSと同様にドーパントとして機能していると考えられる。
【0330】
また構造上、PSSは芳香環を有しているため、ガラス転移点が高く、基板との接触性が劣る。一方、PVSは芳香環を持たないため、ガラス転移点が低く、基板との接触性が優れることが予想される。
【0331】
すなわちPVSはPSSよりも優れた導電性ポリマーのドーパントとして用いることが出来ると考えられる。
【0332】
実施例III-1:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
4.5ml石英セルに、実施例I-1で得られたビニルスルホン酸0.5g、メタクリル酸メチル0.5g及びN,N−ジメチルホルムアミド0.5gを加えて、均一に混合した。メタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、メタクリル酸メチルに対して0.1重量%のハイドロキノンモノメチルエーテルを入れ、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0333】
得られた混合物に、20分間紫外線を照射した。その後、その反応液を大量のメタノール中に滴下し白色固形物を分離した。得られた白色固形物を50℃一昼夜加熱真空乾燥してポリマーを得た。得られたポリマーは白色透明の固体で、SEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量1.1×10の重合物であった。
【0334】
実施例III-2:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの重量を表4に記載の値とする以外は、実施例III-1と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0335】
実施例III-3:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの重量を表4に記載の値とする以外は、実施例III-1と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0336】
実施例III−1〜III−3で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表4に示す。尚、以下で、モル%は、単量体の重量(g)から算出したモル数に基づいて、共重合体を構成する単量体全体のモル数を100としたときの各単量体のモル数の割合を示す。
【0337】
【表4】
【0338】
実施例III-4:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル重合
50mlのナスフラスコに、実施例I-1で得られたビニルスルホン酸1.73gとアクリル酸(和光純薬工業株式会社製試薬)0.29g、開始剤として過硫酸アンモニウム44mg、反応溶媒としてイオン交換水4mlを加えた。なお、過硫酸アンモニウム44mgは、ビニルスルホン酸とアクリル酸の合計mol数に対し1mol%に相当する。
【0339】
ビニルスルホン酸、アクリル酸及び過硫酸アンモニウムを溶解後、窒素置換を充分に行い、60℃で16時間撹拌した。室温冷却後、メタノール15mlを加え、ろ過、洗浄により残存する開始剤を除去した。
【0340】
メタノールろ液を濃縮し、大量のテトラヒドロフラン中に滴下し、白色固形物を分離した。そして得られた白色固形物を、60℃、2日間加熱減圧乾燥し、ポリマーを得た。
【0341】
得られたポリマーは水、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミドなどに可溶であった。また得られたポリマーをSEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量8×10の重合物であった。
【0342】
実施例III-5:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル重合
ビニルスルホン酸とアクリル酸の重量を表5に記載の値とする以外は、実施例III-4と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0343】
実施例III-6:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル重合
ビニルスルホン酸とアクリル酸の重量を表5に記載の値とする以外は、実施例III-4と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0344】
実施例III-4〜III−6で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表5に示す。
【0345】
【表5】
【0346】
実施例III-7:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
4.5ml石英セルに、実施例I-1で得られたビニルスルホン酸0.5g、アクリルアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)0.5g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.5gを加えて、均一に混合後、20分間UV照射して、重合物を得た。
【0347】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のアセトニトリルに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のアセトニトリルに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。得られた重合体をSEC(A条件)で測定したところ、重量平均分子量4.0×10の重合物であった。
【0348】
実施例III-8:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリルアミドの重量を表6に記載の値とする以外は、実施例III-7と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0349】
実施例III-9:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリルアミドの重量を表6に記載の値とする以外は、実施例III-7と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0350】
実施例III-7〜III-9で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表6に示す。
【0351】
【表6】
【0352】
実施例III-10:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
55mmφのシャーレに、実施例I-1で得られたビニルスルホン酸0.6g、アクリロニトリル2.0g、N,N−ジメチルホルムアミド0.3g及びアゾビスイソブチロニトリル25mgを加えて、均一に混合した。アクリロニトリルは、アクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、アクリロニトリルに対して0.1重量%のハイドロキノンモノメチルエーテルを入れ、減圧下蒸留を行って精製したもの、N,N−ジメチルホルムアミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0353】
混合物に、25分間紫外線を照射した。その後、得られた重合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解後、溶液の20倍重量のイオン交換水に滴下した。得られた沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0354】
得られたポリマーは白色透明の固体で、SEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量2.0×10の重合物であった。
【0355】
実施例III-11:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリロニトリル及びN,N−ジメチルホルムアミドの重量を表7に記載の値とする以外は、実施例III-10と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0356】
実施例III-12:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリロニトリル及びN,N−ジメチルホルムアミドの重量を表7に記載の値とする以外は、実施例III-10と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0357】
実施例III-10〜III-12で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表7に示す。
【0358】
【表7】
【0359】
表4から表7に示されるように、本発明のビニルスルホン酸を用いて、充分な重量平均分子量を有するビニルスルホン酸の共重合物が得られることがわかった。
【0360】
実施例III-13:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
10mm石英セルに、実施例I-5で得られたビニルスルホン酸0.9g、アクリロニトリル1.0g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45gを加えて、均一に混合後、40分間UV照射して、重合物を得た。アクリロニトリルは、アクリロニトリル(東京化成工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したもの、N,N−ジメチルホルムアミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0361】
得られた重合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解後、溶液の20倍重量のイソプロピルアルコールに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、100mlのイソプロピルアルコールで洗浄後、50℃一昼夜加熱真空乾燥して0.28gの重合体を得た。
【0362】
得られた重合体をSEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量3.2×10の重合物であった。また重合体を塩化ナトリウムでイオン交換後、水酸化ナトリウム水溶液で滴定し重合体におけるビニルスルホン酸ユニットの割合を測定すると12.8重量%であった。
【0363】
実施例III-13の結果より、高純度かつ低金属量のビニルスルホン酸を用いて得られたアクリロニトリルとの共重合物は、ビニルスルホン酸ユニットを多く含み、かつ高分子量の重合体を得ることが出来ることがわかった。
【0364】
ビニルスルホン酸ユニットを多く含むということから、プロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を得ることができると考えられる。
【0365】
また、高分子量のビニルスルホン酸共重合体は、成膜性が良好で、強固な膜が作成できると考えられる。
【0366】
実施例IV-1:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
4.5ml石英セルに、実施例II-1で得られたビニルスルホン酸0.5g、メタクリル酸メチル0.5g及びN,N−ジメチルホルムアミド0.5gを加えて、均一に混合した。メタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、メタクリル酸メチルに対して0.1重量%のハイドロキノンモノメチルエーテルを入れ、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0367】
得られた混合物に、20分間紫外線を照射した。その後、その反応液を大量のメタノール中に滴下し白色固形物を分離した。得られた白色固形物を50℃一昼夜加熱真空乾燥してポリマーを得た。
【0368】
得られたポリマーは白色透明の固体で、SEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量1.1×10の重合体であった。
【0369】
実施例IV-2:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの重量を表8に記載の値とする以外は、実施例IV−1と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0370】
実施例IV-3:ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とメタクリル酸メチルの重量を表8に記載の値とする以外は、実施例IV-1と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0371】
実施例IV-1〜IV-3で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表8に示す。
【0372】
【表8】
【0373】
実施例IV-4:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル共重合
50mlのナスフラスコに、実施例II-1で得られたビニルスルホン酸1.73gとアクリル酸(和光純薬工業株式会社製試薬)0.29g、開始剤として過硫酸アンモニウム44mg、反応溶媒としてイオン交換水4mlを加えた。なお、過硫酸アンモニウム44mgはビニルスルホン酸とアクリル酸の合計mol数に対して1mol%に相当する。
【0374】
ビニルスルホン酸、アクリル酸及び過硫酸アンモニウムを溶解後、窒素置換を充分に行い、60℃で16時間撹拌した。室温冷却後、メタノール15mlを加え、ろ過、洗浄により残存する開始剤を除去した。
【0375】
メタノールろ液を濃縮し、大量のテトラヒドロフラン中に滴下し、白色固形物を分離した。そして得られた白色固形物を、60℃、2日間加熱減圧乾燥し、ポリマーを得た。
【0376】
得られたポリマーは水、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミドなどに可溶であった。また得られたポリマーをSEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量8×10の重合体であった。
【0377】
実施例IV-5:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル共重合
ビニルスルホン酸とアクリル酸の重量を表9に記載の値とする以外は、実施例IV-4と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0378】
実施例IV-6:ビニルスルホン酸とアクリル酸のラジカル共重合
ビニルスルホン酸とアクリル酸の重量を表9に記載の値とする以外は、実施例IV-4と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0379】
実施例IV-4〜IV-6で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表9に示す。
【0380】
【表9】
【0381】
実施例IV-7:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
4.5ml石英セルに、実施例II-2で得られたビニルスルホン酸0.5g、アクリルアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)0.5g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.5gを加えて、均一に混合後、20分間UV照射して、重合物を得た。
【0382】
得られた重合物をイオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のアセトニトリルに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、再度イオン交換水に溶解後、水溶液の20倍重量のアセトニトリルに滴下し、生成した沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。得られた重合体をSEC(A条件)で測定したところ、重量平均分子量4.0×10の重合体であった。
【0383】
実施例IV-8:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリルアミドの重量を表10に記載の値とする以外は、実施例IV−7と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0384】
実施例IV-9:ビニルスルホン酸とアクリルアミドの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリルアミドの重量を表10に記載の値とする以外は、実施例IV-7と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0385】
実施例IV-7〜IV-9で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表10に示す。
【0386】
【表10】
【0387】
実施例IV-10:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
55mmφのシャーレに、実施例II-2で得られたビニルスルホン酸0.6g、アクリロニトリル2.0g、N,N−ジメチルホルムアミド0.3g及びアゾビスイソブチロニトリル25mgを加えて、均一に混合した。アクリロニトリルは、アクリロニトリル(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、アクリロニトリルに対して0.1重量%のハイドロキノンモノメチルエーテルを入れ、減圧下蒸留を行って精製したもの、N,N−ジメチルホルムアミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0388】
混合物に、25分間紫外線を照射した。その後、得られた重合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解後、溶液の20倍重量のイオン交換水に滴下した。得られた沈殿物をろ過し、50℃一昼夜加熱真空乾燥して重合体を得た。
【0389】
得られたポリマーは白色透明の固体で、SEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量2.0×10の重合物であった。
【0390】
実施例IV-11:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリロニトリル及びN,N−ジメチルホルムアミドの重量を表11に記載の値とする以外は、実施例IV-10と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0391】
実施例IV-12:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
ビニルスルホン酸とアクリロニトリル及びN,N−ジメチルホルムアミドの重量を表11に記載の値とする以外は、実施例IV-10と同様にして重合を行って共重合体を得た。
【0392】
実施例IV-10〜IV-12で用いた単量体の重量、モル%、及び得られた共重合体の重量平均分子量を表11に示す。
【0393】
【表11】
【0394】
表8から表11に示されるように、本発明のビニルスルホン酸を用いて、充分な重量平均分子量を有するビニルスルホン酸の共重合物が得られる。
【0395】
実施例IV-13:ビニルスルホン酸とアクリロニトリルの紫外線照射による共重合
10mm石英セルに、実施例II-4で得られたビニルスルホン酸0.9g、アクリロニトリル1.0g、及びN,N−ジメチルホルムアミド0.45gを加えて、均一に混合後、40分間UV照射して、重合物を得た。アクリロニトリルは、アクリロニトリル(東京化成工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したもの、N,N−ジメチルホルムアミドは、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製試薬)をパイレックス(登録商標)ガラス製四径フラスコに仕込み、減圧下蒸留を行って精製したものを使用した。
【0396】
得られた重合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解後、溶液の20倍重量のイソプロピルアルコールに滴下した。得られた沈殿物をろ過し、100mlのイソプロピルアルコールで洗浄後、50℃一昼夜加熱真空乾燥して0.19gの重合体を得た。
【0397】
得られた重合体をSEC(B条件)で測定したところ、重量平均分子量3.8×10の重合物であった。また重合体を塩化ナトリウムでイオン交換後、水酸化ナトリウム水溶液で滴定し重合体におけるビニルスルホン酸ユニットの割合を測定すると13.8重量%であった。
【0398】
実施例IV-13の結果より、高純度かつ低金属量のビニルスルホン酸を用いて得られたアクリロニトリルとの共重合物は、ビニルスルホン酸ユニットを多く含み、かつ高分子量の重合体を得ることが出来ることがわかった。
【0399】
ビニルスルホン酸ユニットを多く含むということから、プロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を得ることができると考えられる。
【0400】
また、高分子量のビニルスルホン酸共重合体は、成膜性が良好で、強固な膜が作成できると考えられる。
【0401】
試験例4
実施例II-2で得られたビニルスルホン酸を用い、Q値、e値を求めた。
【0402】
ここで、Q値およびe値とは、Alfrey −Price の式に示される定数であり、
次の生長反応
[式1]
【0403】
の速度定数k12
[式2]
【0404】
で表されると仮定して得られるものである。
【0405】
式中、P1はM1・の一般反応性(共鳴安定化)、Q2はM2の共鳴安定化の程度を表し、e1およびe2はそれぞれM1・およびM2の極性効果を表す。
【0406】
基準としてスチレンが選ばれており、そのQ値は1.0,e値は-0.8である。
【0407】
実施例II-2で得られたビニルスルホン酸とスチレンとの共重合体を合成し、その結果、得られたビニルスルホン酸のQ値は0.09、e値は1.3であった。
【0408】
非特許文献2のビニルスルホン酸(エチレンスルホン酸)は、Q値が0.09、e値が1.3と記載されている。
【0409】
それらの値を用い、次式により、各種共重合モノマーとの反応性比r1、r2を求めた。
[式3]
【0410】
式中、Q、eはM1となるビニルスルホン酸のQ値、e値を示す。また、Q2、e2はM2となる各種共重合モノマーのQ値、e値を示す。尚、共重合モノマーのQ値、e値は、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION (JOHN WILEY & SONS INC PUBLISHED p. II−318−319)から引用した下記表に示す値を用いた。
【0411】
【表12】
【0412】
本発明及び非特許文献2におけるビニルスルホン酸のQ値及びe値を表13に示す。また得られた反応性比r1及びr2の結果を表13に示す。
【0413】
【表13】
【0414】
その結果、本発明のビニルスルホン酸を用いた場合は、r1が1.9〜2.7倍となり、共重合体中にビニルスルホン酸が多く取り込まれることが推定された。
【0415】
このことから、本発明のビニルスルホン酸を用いることで、各種ビニルモノマーとの共重合効率は大幅に改善することが示唆され、ビニルスルホン酸含量が増加した共重合体が得られると考えられる。
【0416】
ビニルスルホン酸含量が増えると、重合体中のスルホン酸基含量も多くなり、プロトン伝導度がより向上すると考えられるため、本発明の共重合体は優れた燃料電池用高分子電解質膜の材料となると考えられる。
【0417】
更に、本発明のビニルスルホン酸重合体は、低金属量のビニルスルホン酸を用いて得られることで、金属含有量も低減されているため、高分子電解質膜の耐酸化性も向上させることができると考えられる。
図1
図2