【実施例1】
【0014】
図1ないし
図5は、本発明の実施例1による自動車のピラー部構造を説明するための図である。なお、
図2は、フロントピラーのピラーインナを取り外した状態を車室内側から見た図である。また本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0015】
図において、1はルーフのないオープンカーの車体を示している。この車体1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、車両前後方向に延び、その後端部3aが前記フロントピラー2に結合された左,右のエプロンメンバ3,3と、前記左,右のフロントピラー2の後側に開閉可能に支持された左,右のフロントドア4,4と、該フロントドア4内にベルトラインLに沿って車両前後方向に延び、かつ前記エプロンメンバ3と略同じ高さとなるよう配設されたドアベルトラインリインホース5,5とを備えている。前記ドアベルトラインリインホース5の上縁を通る直線が前記ベルトラインLとなっている。
【0016】
前記車体1は、車両前後方向に延び、その前端部6aに前記フロントピラー2の下端部が接続された左,右のロッカパネル6,6と、車両上下方向に延び、その下端部が前記ロッカパネル6の後端部6bに接続された左,右のセンターピラー7,7とを備えている。
【0017】
前記フロントピラー2,ロッカパネル8及びセンターピラー9によりドア開口1aが形成され、該ドア開口1aに前記フロントドア4,4が配設されている。
【0018】
前記左,右のロッカパネル6の車内側には、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ8,8が配設されている。この左,右のサイドメンバ8の前端部間にはラジエータサポート9が接続されている。
【0019】
前記左,右のエプロンメンバ3は、アウタ部材3bとインナ部材3cとを角筒状の閉断面をなすよう結合した構造を有する。このエプロンメンバ3の前端部3dと前記サイドメンバ8とは、上下方向に延びる結合部材10により結合されている。
【0020】
前記ドアベルトラインリインホース5は、鋼管製のものであり、車両側方から見たとき、前述したように、前記エプロンメンバ3と略同じ高さ位置をなし、かつ車両前方向に略直線状をなすよう配置されている。
【0021】
前記左,右のフロントピラー2は、これの全長に渡って大略角筒状の閉断面をなし、車両上下方向に略垂直に延びる下半部2aと、該下半部2aに続いて車両後斜め上方に傾斜して延びる上半部2bとを有する。
【0022】
前記左,右の下半部2aの上端部間には、車幅方向に延びるカウルパネル14が接続されており、前記左,右の傾斜部2bの上端部間には、車幅方向に延びるヘッダパネル15が一体に接続形成されている。これにより形成されたウインド開口16にウインドシールドガラス17が配設されている。
【0023】
前記左,右のフロントピラー2は、横断面視ハット形状をなすピラーアウタ20と平板形状をなすピラーインナ21とを矩形状の閉断面をなすよう前フランジ部20a,21a同士及び後フランジ部20b,21b同士を結合した構造を有する。
【0024】
前記フロントピラー2内には、前記ピラーアウタ20に沿うように形成された横断面視ハット形状のピラーリインホース22が配設されている。このピラーリインホース22は、前記下半部2aと上半部2bとに跨がるように配設され、これの前,後フランジ部22a,22bが前記前フランジ部20a,21a及び後フランジ部20b,21bに一体に結合されている。
【0025】
前記左,右のフロントピラー2の下半部2a内には、バルク部材24,24が前記エプロンメンバ3及びドアベルトラインリインホース5に車両前後方向に対向するよう配設されている。詳細には、エプロンメンバ3とドアベルトラインリインホース5と略同じ高さ位置となるようベルトラインLの延長線上に配置されている。
【0026】
前記バルク部材24は、上方から見たとき、前記下半部2aの閉断面を略閉塞するよう形成されており、これによりエプロンメンバ3からの入力を瞬時にドアベルトラインリインホース5に伝達するようになっている。
【0027】
前記バルク部材24は、前記ピラーリインホース22に溶接により結合された上,下フランジ部24a,24bと、この上、下フランジ部24a,24bに続いてそれぞれピラーインナ21に向かって車幅方向内側に突出するよう折り曲げ形成された上下一対の上,下凸部24c,24dと、該上,下凸部24c,24dを一体に連結するよう形成された平板部24eとを有する断面大略W字形状をなしている。
【0028】
これにより前記バルク部材24は、上,下凸部24c,24dにより車両前後方向に略水平に延びる複数の稜線a,bを有している。
【0029】
また前記バルク部材24の平板部24eには、ドアヒンジ部材26がピラーアウタ20及びピラーリインホース22を介在させて一体に結合されている。これによりドアヒンジ部材26の取付け面の面剛性が向上しており、ひいてはフロントドア4の支持剛性を高めている。
【0030】
前記左,右のフロントピラー2内には、パイプ状をなす鋼管製の補強部材25が配設されている。この補強部材25は、前記フロントピラー2の上半部2bに沿って直線状に延びる傾斜部25aと、該傾斜部25aの下端に続いて下半部2aに向かって屈曲して延びる結合部25bとを有する。
【0031】
前記傾斜部25aは、上半部2bの略全長に渡る長さを有し、該傾斜部25aの上端部25cには大略U字形状のブラケット27が溶接により結合されている。このブラケット27は、前記ピラーアウタ20及びピラーインナ21の前フランジ部20a,21a及び後フランジ部20b,21bに一体に溶接により結合されている(
図4参照)。
【0032】
前記結合部25bは、前記傾斜部25aに続いて所定の曲率でもって屈曲する屈曲部25dと、該屈曲部25dに続いて垂直下方に延びる下端部25eとを有する。
【0033】
ここで前記結合部25bでは、前記屈曲部25dの軸線dが前記バルク部材24の上凸部24cの稜線aの延長線と略130°程度の大きな角度で交差しているのに対し、下端部25eについてはその軸線cが前記バルク部材24の下凸部24dの稜線bの延長線と略90°で交差するように屈曲されている。そして前記結合部25bは、前記バルク部材24の稜線a,bの後部に溶接により結合されている。
【0034】
詳細には、前記バルク部材24は、前記上,下凸部24c,24dの後端部を段落ち状に切り欠くことにより形成された段部24f,24fと、各段部24fに折り曲げ形成された複数の接合部24gとを有する。そして各段部24fに結合部25bを後方から係合させ、該結合部25bに各接合部24g、ひいては稜線a,bの後部を溶接することにより一体に結合されている。
【0035】
本実施例によれば、左,右のフロントピラー2内に車両前後方向に延び複数の稜線a,bを有するバルク部材24を配置し、前記フロントピラー2内の補強部材25を上半部2bに沿って延びる傾斜部25aと、該傾斜部25aに続いて下半部2aに向かって屈曲して延びる結合部25bとを有するものとし、該結合部25bの下端部25eの軸線cがバルク部材24の下凸部24dの稜線bと直交するように屈曲させ、該結合部25bをバルク部材24の稜線a,bの後部に溶接で結合した。
【0036】
図2に示すように、ロールオーバー時にフロントピラー2の上部に加わる曲げ荷重Fによって、補強部材25の結合部25bが矢印A方向に回動変位することが懸念される。これに対して、本実施例では、前記変位方向とバルク部材24の下凸部24dの稜線bの方向とが略平行となっていることから、前記曲げ荷重Fによる変位を前記バルク部材24により支えることができ、フロントピラー2が大きく変形するのを効果的に抑制することができる。これにより車室への影響を回避でき、ひいては乗員の保護機能を高めることができる。
【0037】
一方、
図2に二点鎖線で示すように、補強部材を全長に渡って直線状に形成した場合には、補強部材の下端部が斜め上向きの矢印A′方向に回動変位することが考えられ、回動変位方向とバルク部材の稜線の方向が大きく異なるため、バルク部材がこの変位を支えきれないことが考えられる。
【0038】
本実施例では、前記補強部材25の結合部25bを、少なくとも下端部25eの軸線cが稜線bと直交するように屈曲させ、該結合部25bをバルク部材24に結合するだけの構造であるので、従来のようにピラーリインホースの板厚を大きくしたり、補強部材を新たに追加したりする必要はなく、コスト及び車体重量の増加や生産性の悪化を防止できる。
【0039】
また本実施例では、前記バルク部材24をエプロンメンバ3及びドアベルトラインリインホース5に対向するよう配置し、該バルク部材24の後部に前記補強部材25を結合したので、車両前面衝突時の入力は、エプロンメンバ3からフロントピラー2のバルク部材24の上,下の稜線a,bを伝って補強部材25の結合部25bを介してドアベルトラインリインホース5に効率よく伝達されることとなり、フロントピラー2の断面崩れを防止しつつ衝突荷重を効果的に車体後部のセンターピラー7に伝達することができる。
【0040】
また前記バルク部材24が補強部材25の結合部25bの取付けブラケットを兼ねることとなり、安価でかつ組付けを容易にできる。
【実施例2】
【0041】
図6は、本発明の実施例2によるピラー部構造を説明するための図である。図中、
図2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0042】
本実施例のピラー部構造は、補強部材25の結合部25b全長の軸線cがバルク部材24の上,下凸部24c,24dの各稜線a,bと直交するよう下方に屈曲させ、該結合部25bをバルク部材24の段部24fに溶接結合した例である。
【0043】
本実施例では、結合部25bの車両前方への回動変位をバルク部材24の各稜線a,bで受け止めることができ、フロントピラー2の変形をより効果的に抑制することができる。
【0044】
なお、前記実施例1,2では、補強部材25の接合部25bを、バルク部材24の上,下凸部24c,24dの段部24fに結合したが、本発明では、補強部材をバルク部材の稜線の後端面に溶接により結合してもよいし、あるいはバルク部材の稜線方向中央部に切欠きを形成し、補強部材を切欠き内に配置し、前側の稜線の後部に結合しても良い。このようにした場合にも、前記同様の効果が得られる。
【0045】
また前記実施例1,2では、結合部25bの少なくとも下端部25e又は全長の軸線cがバルク部材24の稜線a,bと直交するように屈曲させた場合を説明したが、本発明の結合部は、必ずしもバルク部材と直交するよう屈曲させる必要はない。要は結合部を、傾斜部をそのまま直線状に延長したものとするのではなく、結合部の回動変位方向とバルク部材の稜線の方向とが近くなるように屈曲させたものとすれば良い。