(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883669
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】スタータドライブギヤ
(51)【国際特許分類】
F16H 41/24 20060101AFI20160301BHJP
F02N 15/02 20060101ALI20160301BHJP
F16H 41/28 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
F16H41/24 B
F02N15/02 B
F16H41/28
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-24026(P2012-24026)
(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公開番号】特開2013-160336(P2013-160336A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181273
【氏名又は名称】自動車部品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 壮
(72)【発明者】
【氏名】齋木 直人
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−252538(JP,A)
【文献】
実開昭63−184259(JP,U)
【文献】
特開2004−183707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/24
F02N 15/02
F16H 41/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3気筒エンジンのクランク軸に連結されるドライブプレートと、前記ドライブプレートの外周面に内周面が嵌合されると共に周方向の複数箇所を溶接され、スタータピニオンに噛合されるスタータリングギヤとを備え、エンジン始動時の前記スタータリングギヤに対するスタータピニオンの噛合位置が3カ所であるスタータドライブギヤにおいて、
前記ドライブプレートにはクランク軸取付穴が円周方向に6箇所等ピッチで形成され、前記ドライブプレートと前記スタータリングギヤを溶接する溶接部が、周方向に沿って8箇所不等ピッチで形成されると共に、不等ピッチの角度が45度、45度、60度、30度、45度、45度、60度、30度の順で配置形成され、かつ、溶接により硬度低下したスタータリングギヤの歯面に前記スタータピニオンの歯が常に飛び込まないように形成され、不等ピッチで生じるアンバランスを抑えるべく前記ドライブプレートにはバランス用の穴が形成されたことを特徴とするスタータドライブギヤ。
【請求項2】
前記溶接部が前記ドライブプレートの回転中心を基準として点対称に配置されている請求項1記載のスタータドライブギヤ。
【請求項3】
前記ドライブプレートには前記トルクコンバータを取付けるための取付部が周方向に等間隔で設けられ、該取付部が、周方向に隣合う前記溶接部の間に配置されている請求項1または2に記載のスタータドライブギヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタータドライブギヤに係り、特にドライブプレートの外周に溶接接合されるスタータリングギヤおよび該スタータリングギヤに噛み合うスタータピニオンの歯欠けおよび摩耗を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AT(オートマチックトランスミッション)車の場合、エンジンのクランク軸の後端と動力伝達装置であるトルクコンバータとを連結してエンジンからトルクコンバータに回転を伝えるドライブプレートが用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一般に、ドライブプレートは、
図4に示すようにドライブプレート16の外周面にエンジンを始動させるべくスタータピニオン28bを噛合させるためのスタータリングギヤ26の内周面を嵌合させた状態で周方向の複数個所を溶接して構成されている。図中、42は溶接部(溶接ビード)である。なお、ドライブプレート16の外周面に、スタータピニオン28bに噛合されるスタータリングギヤ26の内周面を、嵌合させた状態で周方向の複数個所を溶接してなるものをスタータドライブギヤ41と呼ぶこととする。
【0004】
このスタータドライブギヤ41においては、スタータリングギヤ26が、円環状部材の外周面に外周歯を形成し、その外周歯に高周波焼入れや浸炭焼入れなどが施されることにより製作される。
【0005】
ところで、スタータドライブギヤ41は、上述のように製作された後、ドライブプレート16の外周面に嵌合された状態でドライブプレート16との間で複数個所が溶接されるが、その際に、その溶接時の熱が溶接部付近の外周歯に伝導されるため、その外周歯が焼きなまされ、歯面硬度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−252538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、従来のドライブプレートにあっては、溶接部42の間隔が等ピッチとされていたため、圧縮工程の上死点位置に応じて止まる位置が決まることから、スタータリングギヤ26の硬度低下を生じた部分がピニオンの飛び込み位置(噛合位置)に配置されてしまい、スタータピニオンの飛び込み時に歯面摩耗が促進されてしまうという問題がある。
【0008】
しかも、エンジン始動システムとして、アイドルストップシステムを導入したアイドルストップ車の場合、エンジン始動の度にスタータピニオン28bとスタータリングギヤ26の噛合が繰り返され、その噛合回数が増加するため、歯と歯の端面が衝突する際に発生するスタータリングギヤ26またはスタータピニオン28bの歯の欠けや摩耗が増加し、不噛み合い(噛合不良)によるエンジンの始動不良が発生し易くなることが予想される。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、スタータピニオンの飛び込みによるスタータリングギヤの歯面摩耗を抑制することができ、アイドルストップ車に好適なスタータドライブギヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、
3気筒エンジンのクランク軸に連結されるドライブプレート
と、前記ドライブプレートの外周面に内周面が嵌合されると共に周方向の複数箇所を溶接され、スタータピニオンに噛合されるスタータリングギヤ
とを備え、エンジン始動時の前記スタータリングギヤに対するスタータピニオンの噛合位置が3カ所であるスタータドライブギヤにおいて、
前記ドライブプレートにはクランク軸取付穴が円周方向に6箇所等ピッチで形成され、前記ドライブプレートと前記スタータリングギヤを溶接する溶接部
が、周方向に
沿って8箇所不等ピッチで形成
されると共に、不等ピッチの角度が45度、45度、60度、30度、45度、45度、60度、30度の順で配置形成され、かつ、溶接により硬度低下したスタータリングギヤの歯面に前記スタータピニオンの歯が常に飛び込まないように形成され、不等ピッチで生じるアンバランスを抑えるべく前記ドライブプレートにはバランス用の穴が形成されたことを特徴とする。
【0012】
前記溶接部が前記ドライブプレートの回転中心を基準として点対称に配置されていることが好ましい。
【0013】
前記ドライブプレートには前記トルクコンバータを取付けるための取付部が周方向に等間隔で設けられ、該取付部が、周方向に隣合う前記溶接部の間に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドライブプレートとスタータリングギヤとを溶接する溶接部を周方向に不等ピッチで形成したので、焼きなましにより強度低下したスタータドライブギヤのスタータリングギヤにおけるスタータピニオンの飛び込みによる歯面摩耗を抑制することができ、エンジン始動の度にスタータピニオンとスタータリングギヤの噛合が繰り返えされるアイドルストップ車に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が適用された車両のエンジンおよび動力伝達装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1のスタータドライブギヤを示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のX−X線断面図である。
【
図3】
図1のスタータドライブギヤを含むトルクコンバータの一部を示す断面図である。
【
図4】従来のスタータドライブギヤを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0017】
図1に示すように、エンジン1および動力伝達装置2は、FR(フロントエンジン、リアドライブ)型車両にも使用されるが、特にFF(フロントエンジン、フロントドライブ)型車両に好適に使用されるものである。また、AT車の他にCVT(無段変速機)車にも使用される。内燃機関により構成された走行用の動力源としてのエンジン1の出力は、そのエンジンのクランク軸4からトルクコンバータ6、自動変速機8、およびプロペラシャフト10をそれぞれ介して差動歯車装置12に伝達され、その差動歯車装置12から左右の駆動輪14L,14Rへ分配される。
【0018】
トルクコンバータ6は、円板状のドライブプレート16を介してクランク軸4に連結されたポンプ翼車6pと、自動変速機8の入力軸18に連結されたタービン翼車6tと、一方向クラッチ20によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車6sとを備えて構成され、クランク軸4と共に回転するポンプ翼車6pの回転がそのポンプ翼車6pによりトルクコンバータ6内を循環される作動流体を介してタービン翼車6tへ伝達される。
【0019】
自動変速機8は、複数組の遊星歯車装置およびクラッチやブレーキ等の複数の油圧係合装置を有する変速機構と、上記油圧係合装置の係合状態を切換えるためにその油圧係合装置に供給される油圧を制御する油圧制御回路とを主体として構成され、入力軸18と出力軸22との回転速度比すなわち変速比が、車両の走行状態に応じて予め設定された複数の変速比の何れか一つに選択的に切り換えられる。
【0020】
動力伝達装置2は、エンジン1を始動させるため、エンジン1が自力で回転するようになるまでそのエンジンの作動を補助するためのエンジン始動装置24を備えている。このエンジン始動装置24は、外周歯26aを有して円環状を成し、ドライブプレート16の外周面に固定されたスタータリングギヤ26と、外周歯26aと噛合可能なスタータピニオン28bを有し、スタータリングギヤ26を回転駆動するスタータモータ28と、スタータピニオン28bをスタータリングギヤ26に噛み合う噛合位置と噛み合わない非噛合位置との間で移動させるマグネットスイッチ30とを備えている。
図1においては破線で示すスタータピニオン28bがスタータリングギヤ26に噛み合う噛合位置に位置されたものであり、
図1において実線で示すスタータピニオン28bがスタータリングギヤ26と噛み合わない非噛合位置に位置されたものである。
【0021】
スタータモータ28は、
図1中に矢印aで示すようにスタータリングギヤ26の回転中心線(回転中心)Cに平行な軸心方向へ移動可能な出力軸28aと、その出力軸28aの先端部に固定されたスタータピニオン28bとを有している。また、上記マグネットスイッチ30は、ソレノイド30aと、
図1中に矢印bで示すように出力軸28aに平行な方向に移動可能に設けられ、ソレノイド30aが通電されることでソレノイド30a側に引きつけられる可動鉄心30bとを有している。
【0022】
スタータピニオン28bは、スタータモータ28によりスタータリングギヤ26が回転駆動される場合には、ソレノイド30aが通電されて可動鉄心30bがソレノイド30aのスタータリングギヤ26側に移動されることにより、
図1中に破線で示すようにスタータリングギヤ26に噛み合う噛合位置に移動されるようになっている。スタータリングギヤ26は、上記噛合位置に位置されたスタータピニオン28bを介して伝達されるスタータモータ28の出力トルクにより回転駆動されるようになっている。
【0023】
また、スタータピニオン28bは、スタータモータ28によりスタータリングギヤ26が回転駆動されない場合には、ソレノイド30aの通電が停止され、出力軸28aがスプリング32の付勢力によりスタータリングギヤ26とは反対側へ移動されることにより、
図1中に実線で示すようにスタータリングギヤ26に噛み合わない非噛合位置に移動されるようになっている。
【0024】
このように構成されたエンジン始動装置24は、エンジン始動時にスタータモータ28を作動させることでスタータピニオン28bおよびスタータリングギヤ26を介してクランク軸4を回転駆動させ、エンジン1の回転速度を予め定められた所定のエンジン点火可能回転速度まで上昇させる。
【0025】
図2乃至
図3に示すように、ドライブプレート16は、回転中心線Cと同芯に形成されたセンター穴32がクランク軸4の一端面に回転中心線Cと同心に形成された突部4aに嵌合された状態で、クランク軸4に複数のボルト34により締着されている。また、ドライブプレート16は、その外周部がトルクコンバータ6のカバー6aに複数のボルト36により締着されている。ドライブプレート6には、クランク軸取付穴38と、トルクコンバータ6のカバー取付穴40とが設けられている。
【0026】
スタータリングギヤ26は、円環状部材の外周面に回転中心線Cに平行な複数の外周歯26aが形成され、その外周歯26aに高周波焼入れが施されることによって製作される。このように製作されたスタータリングギヤ26は、ドライブプレート16の短円筒部16aの外周面に嵌合された状態でそのドライブプレート16との間で複数個所が例えばミグ溶接により固定されている。このようにエンジン1のクランク軸4に連結されるドライブプレート16の外周面16bに、スタータピニオン28bに噛合されるスタータリングギヤ26の内周面26bを、嵌合させた状態で周方向の複数個所を溶接部42にて溶接することによりスタータドライブギヤ41が作製される。
【0027】
ところで、ドライブプレート16の停止位置は、エンジン1のピストンが圧縮工程の上死点に来た時に停止する。例えば、3気筒、6気筒エンジンの場合の停止位置は3個所であり、4気筒エンジンの場合の停止位置は2個所である。従って、スタータピニオン28bの飛び込む位置も、ピストン停止位置に左右されて決まってしまう。
【0028】
しかるに、従来のスタータドライブギヤにあっては、溶接部42の間隔が等ピッチとされていたため、溶接部42の位置がスタータピニオン28bの飛び込み位置に配置される可能性が高く、スタータリングギヤの硬度低下を生じた噛合位置の歯面摩耗が促進されるという問題があった。
【0029】
そこで、本実施例では、このような問題を解消するために、前記非噛合位置に位置された前記スタータピニオン28bに対して回転中心線Cに平行な方向において対向する一方の側面16mとは反対の他方の側面16nに、回転中心線C回りの周方向において不等ピッチで8個所にドライブプレート16との溶接が施されている。
図2ないし
図3に示すように、前記ドライブプレート16と前記スタータリングギヤ26を溶接する溶接部(溶接ビード)42が周方向に不等ピッチで形成されている。
【0030】
具体的には、従来では
図4に示すようにスタータピニオン28bの飛び込み位置に配置されていた溶接部42aおよびこれと対を成す溶接部42a‘のそれぞれの位置を
図2に示すように時計方向に所定角度(例えば360度の8等分である45度の更に三分の一の角度である15度)だけずらし、これにより今までの角度α(45度)の部分である4個所の部分以外に、今までの角度αよりも広い角度β(60度)の部分である2個所と、今までの角度αよりも狭い角度γ(30度)の部分である2個所とを有する不等ピッチとされている。
【0031】
このようにスタータリングギヤ26とドライブプレート16の溶接部42の間隔を不等ピッチとしたにより、スタータピニオン28bの歯が溶接部42の溶接により硬度低下したスタータリングギヤ26の歯面へ常に飛び込まないようにすることができ、スタータピニオン28bの飛び込みによるスタータリングギヤ26の歯面摩耗を抑制することができる。
【0032】
また、トルクコンバータ6の取付部であるカバー取付穴40も周方向に隣合う前記溶接部42の間に配置されているため、カバー取付穴40に加わる力が溶接部42によりスタータリングギヤの硬度低下した部分に直接作用することを回避することができ、ドライブプレート16およびスタータリングギヤ26の変形量を抑え、必要精度(寸法、振れ、平面度、平行度)を確保することができる。
【0033】
ところで、周方向に隣合う溶接部42の間隔が広いと、ドライブプレート16の固有振動数が低下し、エンジン使用回転数以下になった場合、共振が発生し、ドライブプレートが破損してしまうおそれがある。
【0034】
そこで、前記ドライブプレート16の中心を基準として周方向に隣合う前記溶接部42間の角度をα=45度、β=60、γ=30度とし、0度より大きく且つ60度以下として溶接間隔を狭くしているため、ドライブプレート16の固有振動数がエンジン使用回転数以上に高くなり、共振を回避することができる。
【0035】
また、前記溶接部42が前記ドライブプレート16の回転中心(回転中心線)Cを基準として点対称に配置されているため、アンバランスを解消できると共に、ドライブプレート16の回転に伴う振動を抑制することができる。本実施例の場合のアンバランス量は、溶接部が等ピッチで配置された従来品と略同等である。
【0036】
なお、溶接による重量のバラツキ、ドライブプレート自体が有している重量のバラツキ、およびスタータリングギヤ自体が有している重量のバラツキにより、設計図面で規定されるアンバランス量を超えてしまうため、ドライブプレートにはバランス用の穴44またはバランスウエイトが設けられていることが好ましい。また、ドライブプレート16におけるクランク軸取付穴38とカバー取付穴40との間には、ドライブプレート16に可撓性を持たせるための開口部46が設けられていることが好ましい。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン
4 クランク軸
16 ドライブプレート
26 スタータリングギヤ
28b スタータピニオン
40 取付穴(取付部)
41 スタータドライブギヤ
42 溶接部