(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883710
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】ACE阻害剤とパンテチンを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/16 20060101AFI20160301BHJP
A61K 31/554 20060101ALI20160301BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20160301BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
A61K31/16
A61K31/554
A61P9/12
A61P43/00 121
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-91738(P2012-91738)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2012-229210(P2012-229210A)
(43)【公開日】2012年11月22日
【審査請求日】2014年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-90269(P2011-90269)
(32)【優先日】2011年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153039
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真有
(74)【代理人】
【識別番号】100160462
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 有希子
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 善一
(72)【発明者】
【氏名】鳥住 保博
(72)【発明者】
【氏名】塙 雅明
【審査官】
磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−115507(JP,A)
【文献】
薬理学マニュアル, 2002, p.90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/16
A61K 31/554
A61P 9/12
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テモカプリル塩酸塩とパンテチンを含有する医薬組成物。
【請求項2】
高血圧症の治療用である請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症の予防および/または治療に関する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高血圧症の治療には、主に利尿剤、カルシウム拮抗剤、β遮断薬、α遮断薬、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制剤等が使用されており、これらの薬物は、単独又は併用して使用されている(例えば、非特許文献1)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制剤としては、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、ACE阻害剤と称することがある)、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)等が知られている。
【0003】
ACE阻害剤は、アンジオテンシンIアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素:Angiotensin−Converting Enzyme)を阻害して、末梢血管を拡張して降圧作用をもたらす薬物である。その中で、テモカプリル塩酸塩は、胆汁・腎排泄型のACE阻害剤であるため、腎機能の低下した高血圧症の患者に好適に使用されている。さらに、テモカプリル塩酸塩等のACE阻害剤を高血圧症の治療に使用する際には、単剤での使用のほか、一般的な利尿剤、カルシウム拮抗剤、ARB等との併用により、降圧効果が高まることが知られている(以上、例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、CoAの前駆物質であるパンテチンは、1)実験的粥状硬化の進展抑制作用、2)血清総コレステロール低下作用、3)血清中性脂肪低下作用、4)血清HDL増加作用、5)脂肪酸酸化促進作用、6)血管壁コレステロール代謝促進作用、7)血小板数の改善作用、8)腸管運動促進作用が知られている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、パンテチンが降圧作用を有するという報告は一つも見当たらない。
【0005】
これまでに、ACE阻害剤テモカプリルとパンテチンを併用することは開示されておらず、これらを併用した場合に、具体的にどのような結果をもたらすかについては、示唆もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高血圧治療ガイドライン2009 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編 p37〜p42
【非特許文献2】JAPIC 医療用医薬品集2009 (財)日本医薬情報センター発行 1901頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ACE阻害剤に係る新たな高血圧症の治療用医薬組成物を提供することである。具体的には、安全性の極めて高い佐薬成分の併用によって、少量のACE阻害剤の投与でも降圧効果が充分となる安全性の高い優れた医薬組成物を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる佐薬成分を探索すべく長年にわたり鋭意研究を行ってきた。その結果、ACE阻害剤に、パンテチンを併用することにより、優れた降圧効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ACE阻害剤とパンテチンを含有する医薬組成物。
(2)高血圧症の治療用である上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)ACE阻害剤が、アラセプリル、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、及び、リシノプリル水和物から選ばれる1種以上である上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
(4)ACE阻害剤が、テモカプリル塩酸塩である上記(1)〜(2)に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高い降圧効果と安全性を兼ね備えた医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】テモカプリル塩酸塩、パンテチン、及び、それらの併用における降圧効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるACE阻害剤は、アンジオテンシン変換酵素を阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、アラセプリル、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、及び、リシノプリル水和物が挙げられ、中でも、テモカプリル塩酸塩が好適に挙げられる。
【0013】
本発明における、上記のACE阻害剤は国内にて市販されており、容易に入手できる。なお、カプトプリルおよびパンテチンは第15改正日本薬局方に収載されている。
【0014】
本発明の医薬組成物における、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、トランドラプリル、ペリンドプリルエルブミンの1日あたりの投与量として通常0.01〜20mgであり、好ましくは0.1〜10mgであり、さらに好ましくは、0.5〜4mgである。
【0015】
本発明の医薬組成物における、イミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、キナプリル塩酸塩、ベナゼプリル塩酸塩、リシノプリル水和物の1日あたりの投与量として通常0.1〜120mgであり、好ましくは1〜60mgであり、さらに好ましくは、5〜20mgである。
【0016】
本発明の医薬組成物における、アラセプリル、カプトプリル、デラプリル塩酸塩の1日あたりの投与量として通常1〜200mgであり、好ましくは10〜110mgであり、さらに好ましくは、25〜75mgである。
【0017】
また、本発明の医薬組成物におけるパンテチンの配合量は、1日あたりの投与量として通常1〜3000mgであり、好ましくは3〜1000mgであり、さらに好ましくは、10〜600mgである。
【0018】
本発明の医薬組成物には、本発明の効果が阻害されない限り、添加剤として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、防腐剤、着色剤、安定剤、pH調節剤、溶解補助剤、清涼剤、香料、色素・着色剤などを配合することができる。
【0019】
本発明の医薬組成物の剤形は、固形剤が好ましく、その具体的な剤形としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の医薬組成物の製剤は、当該分野で公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の医薬組成物の剤形が錠剤である場合には、第15改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて製造することができる。また、本発明の医薬組成物の剤形が顆粒剤の場合には、第15改正日本薬局方製剤総則「顆粒剤」の項に準じて製造することができる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、高血圧症(腎実質性高血圧症および腎血管性高血圧症を含む)又は高血圧症に由来する疾患(より具体的には、高血圧症、心臓疾患[狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全若しくは心肥大]、腎臓疾患[糖尿病性腎症、糸球体腎炎若しくは腎硬化症]又は脳血管性疾患[脳梗塞若しくは脳出血])等の治療に有効である。さらに、本発明の医薬組成物は、優れた降圧効果を有し、有効性と安全性を兼ね備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明の医薬組成物を、上記疾患に投与する場合には、経口的に投与することが好ましい。経口的に投与する場合、上記の1日あたりの投与量を、1日1回または数回に分けて投与する。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0024】
<試験例>
1.1 試験検体
以下のように各検体を調製した。なお、メチルセルロースは和光純薬工業株式会社製のものを、テモカプリル塩酸塩およびパンテチンは第一三共株式会社製のものを用いた。
検体1(対照):0.5w/v%メチルセルロース溶液(0.5%MC液)を10mL/Kg投与する。
検体2(テモカプリル単剤):テモカプリル塩酸塩を秤量し、乳鉢中にて粉砕後に0.5w/v%メチルセルロース溶液(0.5%MC液)を加え、0.1mg/mLの懸濁液を調製し、10mL/Kg投与する。
検体3(パンテチン単剤):パンテチンを秤量し、0.5%MC液を加え、1mg/mL懸濁液を調製し、10mL/Kg投与する。
検体4(合剤):同様にしてテモカプリル塩酸塩0.2mg/mLの懸濁液を調製し、パンテチン2mg/mL懸濁液を調製し、各5mL/Kg、計10mL/Kg投与する。
【0025】
1.2 試験方法
SHR/Hos雄性ラット(11週齢、株式会社星野試験動物飼育所)20匹を溶媒群、テモカプリル塩酸塩投与群、パンテチン投与群、併用群の4群各5匹に群分けし、上記の検体を強制経口投与した。
各群のラットについては、投与開始前および投与後2時間に、ラットを加温器に10分置いた後、非観血式自動血圧測定装置((株)ソフトロン社製 BP‐98A)を用いて収縮期血圧(SBP:mmHg)を測定した。試験結果は投与前と、投与後2時間における収縮期血圧比(次式)にて評価した。
収縮期血圧比(SBP比)=被験薬投与群の平均SBP/対照群の平均SBP
【0026】
1.3 試験結果
結果を
図1(N=5)に示す。
図1より、投与前のSBP比はいずれの検体群においても違いはほとんど認められないが、投与後においてはテモカプリル、パンテチンおよびそれらの併用群のいずれも降圧作用が認められた。しかし、併用群での降圧効果は、各単剤での結果から期待される以上の優れた降圧効果が発現していることが判明した。
【0027】
<製剤例>
表1に製剤例を示すが、これに限定されるものではない。
(製剤例)錠剤
【0028】
【表1】
【0029】
ここで、ACE阻害剤(A群)はシラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、トランドラプリル、ペリンドプリルエルブミンから選択されるいずれか1剤をさし、ACE阻害剤(B群)はイミダプリル、エナラプリルマレイン酸塩、キナプリル塩酸塩、ベナゼプリル塩酸塩、リシノプリル水和物から選択されるいずれか1剤であり、ACE阻害剤(C群)はアラセプリル、カプトプリル、デラプリル塩酸塩から選択されるいずれか1剤である。
【0030】
表1の成分および分量をとり、第15改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の医薬組成物は、高い降圧効果と安全性を兼ね備えた医薬組成物である。従って、本発明は、高血圧症患者への予防または治療剤として有用である。