(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による油圧回路を備えるクレーンの実施の形態を、図面を参照して説明する。
―第1の実施の形態―
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る油圧回路を備えるクレーン100の外観側面図である。クレーン100は、走行体101と、走行体101上に旋回可能に設けられた旋回体103と、旋回体103に回動可能に軸支されたブーム104とを有する。旋回体103には巻き上げ用のウインチドラムである巻上ドラム105と、ブーム起伏用のウインチドラムである起伏ドラム106とが搭載されている。
【0011】
巻上ドラム105には巻上ロープ105aが巻回され、巻上ドラム105の回転により巻上ロープ105aが巻き取られ、または繰り出され、フック110が昇降する。起伏ドラム106には起伏ロープ106aが巻回され、起伏ドラム106の回転により起伏ロープ106aが巻き取られ、または繰り出され、ブーム104が起伏する。
【0012】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るクレーン100に搭載されたウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。
図2では、起伏用の油圧モータなどを駆動する油圧回路については図示を省略している。クレーン100は、エンジン125と、第1ポンプ111、第2ポンプ112およびパイロットポンプ113と、油圧モータ150と、巻上ドラム105と、ブレーキ装置160と、制御弁ユニット140と、リリーフ弁145と、オイルクーラ170とを備えている。
【0013】
第1ポンプ111および第2ポンプ112ならびにパイロットポンプ113は、エンジン125により駆動されて、タンク119内の作動油を圧油として吐出する。第1ポンプ111から吐出される圧油は、制御弁ユニット140のコントロールバルブ141を介して油圧モータ150に供給され、第2ポンプ112から吐出される圧油は、ブレーキ161に供給され、パイロットポンプ113から吐出される圧油は、ブレーキペダル124のブレーキ弁122に供給される。
【0014】
油圧モータ150は、第1ポンプ111から吐出され、制御弁ユニット140のコントロールバルブ141で流量と方向が制御された圧油が供給されることによって回転駆動される。
【0015】
巻上ドラム(ウインチドラム)105は、油圧モータ150の駆動によって回転する。コントロールバルブ141が位置(A)側に動作すると巻上方向に油圧モータ150が回転し、コントロールバルブ141が位置(B)側に動作すると巻下方向に油圧モータ150が回転する。コントロールバルブ141が中立位置(N)に保持されているときには、油圧モータ150は停止する。
【0016】
巻上ドラム105は、遊星減速機構151を介して油圧モータ150の駆動力が伝達されて回転する。ブレーキ装置160は、遊星減速機構151のキャリア軸156を制動することにより巻上ドラム105の自由回転を阻止する。
【0017】
ブレーキ装置160には、複数の摩擦板を備える湿式多板式のブレーキ装置を採用している。このようなブレーキ装置160は摩擦板の面積が大きいため、フック110に吊り下げられる吊り荷のフリーフォール作業において十分なブレーキ力を発揮することができる。しかし、その反面、摩擦板間の油の粘性による回転抵抗(いわゆるドラグトルク)が大きく、フリーフォール時の速度が不足しやすい。作動油の粘性抵抗は、温度が低いほど大きくなる(
図5参照)。そこで、本実施の形態では、作動油の温度を適宜上昇させることで粘度を低下させて、ドラグトルクの低減を図る。ブレーキ装置160の詳細については後述する。
【0018】
制御弁ユニット140は、油圧モータ150と第1ポンプ111とを接続する油路に設けられている。制御弁ユニット140は、操作レバーの操作量に応じて操作されるウインチ作動用のコントロールバルブ141と、コントローラ120からの制御信号により切り換えられる油路選択弁142と、回路保護用のリリーフ弁143とを含んで構成される。
【0019】
回路保護用のリリーフ弁143は、第1ポンプ111の吐出口と油路選択弁142とを連通する油路(センタバイパスライン)181と、油路選択弁142とタンク119とを連通する冷却油路182との間に介挿されている。リリーフ弁143の設定圧力は、たとえば、30MPa程度に設定されている。
【0020】
コントロールバルブ141は、操作レバーが操作されていないときには、中立位置(N)に保持され、操作レバーの操作に応じて位置(A)の方向または位置(B)の方向に移動する。コントロールバルブ141が中立位置(N)に保持されているとき、第1ポンプ111から供給された圧油は油圧モータ150側に流れることなく、油路選択弁142に流れ、油路選択弁142により選択された油路を介してタンク119に回収される。
【0021】
油圧モータ150は、コントロールバルブ141を介して給排される圧油によって、正逆方向に回転する。後述する遊星減速機構151のキャリア軸156がブレーキ装置160で制動されているときに、油圧モータ150が一方向に回転すると巻上ロープ105aを巻き上げる方向に巻上ドラム105が回転し、油圧モータ150が他方向に回転すると巻上ロープ105aを巻き下げる方向に巻上ドラム105が回転する。
【0022】
油圧モータ150の出力軸150aは遊星減速機構151のサンギア131に連結されている。サンギア131にはプラネタリギア152が噛合され、プラネタリギア152には巻上ドラム105の内周側に設けられたリングギア153が噛合されている。プラネタリギア152はキャリア軸156により支持され、キャリア軸156はブレーキ161のブレーキケース162の側壁を貫通してブレーキ内に達している(
図3参照)。
【0023】
油路選択弁142は、コントロールバルブ141とタンク119との間に配置され、コントローラ120からの制御信号(励磁電流)により切り換えられる電磁切換弁である。ソレノイド142aにオン信号が出力され、ソレノイド142bにオフ信号が出力されると、油路選択弁142は位置(A)に切り換えられる。ソレノイド142aにオフ信号が出力され、ソレノイド142bにオン信号が出力されると、油路選択弁142は位置(B)に切り換えられる。ソレノイド142a,142bのそれぞれにオフ信号が出力されると、油路選択弁142は、中立位置(N)に切り換えられる。
【0024】
油路選択弁142と、タンク119とは、冷却油路182によって接続されている。冷却油路182には、作動油を冷却するオイルクーラ170が配置されている。オイルクーラ170には、エンジン125によって回転する冷却ファンからの冷却風が送風され、冷却風と作動油との間で熱交換することにより、作動油が冷却される。なお、冷却油路182には、オイルクーラ170と並列にチェック弁172が設けられている。
【0025】
油路選択弁142と、タンク119とは、バイパス油路183によっても接続されている。バイパス油路183は、オイルクーラ170と並列に設けられている。
【0026】
油路選択弁142と、タンク119とは、さらに加熱油路184によって接続されている。加熱油路184には作動油を加熱させるためのリリーフ弁145が配置されている。加熱油路184は、オイルクーラ170と並列に設けられており、本実施の形態では、バイパス油路183と合流している。
【0027】
油路選択弁142が中立位置(N)に切り換えられると、第1ポンプ111から吐出された圧油は冷却油路182に導入される。冷却油路182に導入された圧油は、オイルクーラ170を通過することで冷却された後、タンク119に回収される。油路選択弁142が位置(A)に切り換えられると、第1ポンプ111から吐出された圧油はバイパス油路183に導入される。バイパス油路183に導入された圧油は、オイルクーラ170を通過せずに、タンク119に回収される。
【0028】
油路選択弁142が位置(B)に切り換えられると、第1ポンプ111から吐出された圧油は加熱油路184に導入される。油路選択弁142が位置(B)に切り換えられると、第1ポンプ111の吐出油がリリーフ弁145によって遮断されるため、油圧回路内の圧力が上昇する。回路圧力がリリーフ弁145の設定圧力に達するとリリーフ弁145が開いて、リリーフした圧油が加熱油路184と兼用されるバイパス油路183を介してタンク119に回収される。作動油は、この過程で温度が上昇する。すなわち、油路選択弁142およびリリーフ弁145は、作動油を加熱する加熱手段として機能する。なお、リリーフ弁145の設定圧力は、回路保護用のリリーフ弁の設定圧力よりも低い圧力、たとえば20MPa程度に設定されている。
【0029】
本実施の形態における作動油の温度上昇に関して試算すると以下のようになる。
リリーフ弁145の通過前後における作動油の温度変化を△T(K)とすると、△Tは、次の(1)式で表される。
△T(K)=△P/γ/C ・・・(1)
ここで、△Pはリリーフ弁145の通過前後における作動油の圧力の差であり、γは作動油の比重であり、Cは作動油の比熱である。
【0030】
たとえば、△Pを1(MPa)とし、γを0.8(kg/m
3)とし、Cを1.89(J/kg・K)とすると、△Tは0.66(K)となる。すなわち、リリーフ弁145を通過した作動油は、その温度が0.66度上昇することとなる。
【0031】
巻上ドラム102の回転を停止するブレーキ装置160は、複数の摩擦板を有する湿式多板式のブレーキ161と、ブレーキ弁122と、ブレーキ保護用のリリーフ弁133とを含んで構成される。
【0032】
ブレーキ161の構成について、
図3を参照して説明する。
図3は、ブレーキ161の構成とブレーキ161内を通過する作動油の流れを示す図である。図中、白抜きの矢印によりブレーキ161の摩擦板間を通過する作動油の流れを模式的に示している。なお、破線で示す矢印は、リリーフ弁133を介してブレーキ161に導入される作動油の流れを模式的に示している。
【0033】
図3に示すように、ブレーキ161は、ブレーキケース162内に複数の摩擦板、すなわち、インナディスク164およびアウタディスク165を備えた湿式多板式のブレーキである。ブレーキ161は、ブレーキペダル124を操作すると、パイロットポート161dを介して油室168oに圧力が作用し、摩擦板が圧接されることでブレーキ力を発生させるポジブレーキである。
【0034】
本実施形態では、以下のように吊り荷を動力巻上げし、動力降下し、自由降下する。ブレーキペダル124の踏み込みにより遊星減速機構151のキャリア軸156を制動した状態で、油圧モータ150を正転、逆転して吊り荷の動力巻上と動力降下を行う。また、油圧モータ150を停止した状態でブレーキペダル124の踏み込みを緩めて吊り荷を自重で自由落下させる。
【0035】
ブレーキケース162には、キャリア軸156の端部が収容されるキャリア軸室168cと、円環状の摩擦板が収容されるディスク室166と、キャリア軸156が挿通される側と反対側の端部において、ブレーキケース162とブレーキディスク167のプレッシャープレート167dによって区画形成される油室168oとが形成されている。油室168oは、ブレーキ弁122を介してパイロットポンプ113に接続されている(
図2参照)。
【0036】
インナディスク164とアウタディスク165は、ディスク室166において軸方向に交互に配置されている。キャリア軸156には複数枚のインナディスク164がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合され、インナディスク164はキャリア軸156と一体に回転可能となっている。ブレーキケース162の内周面には複数枚のアウタディスク165がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合されている。なお、インナディスク164とアウタディスク165の表面には格子状の溝が形成されているため、インナディスク164とアウタディスク165とが圧接された状態であっても、油は溝を介して摩擦板間を流れることになる。
【0037】
キャリア軸156端部の軸方向側方にはブレーキディスク167が配置されている。ブレーキディスク167には、油室168oとキャリア軸室168cとを区分するように配置されるプレッシャープレート167dと、プレッシャープレート167dからインナディスク164側に延在する押し当て部167cとが設けられている。キャリア軸室168cとバイパス用給油ポート161cおよび排油ポート161bとは、押し当て部167cに設けられる貫通孔167f,167eを介して連通されている。なお、給油ポート161aは、摩擦板が収容されたディスク室166を経由してキャリア軸室168cに連通している。
【0038】
プレッシャープレート167dに、油室168o内の圧力が作用すると、押し当て部167cがインナディスク164とアウタディスク165とを圧接する。これによりインナディスク164の表面に摩擦力が作用し、キャリア軸156の回転が阻止される。
【0039】
図2に示すように、ブレーキ弁122は、ブレーキペダル124により操作される。ブレーキペダル124の非操作時には、パイロットポンプ113からの圧油は、ブレーキ161に流れることなくタンク119に回収される。ブレーキペダル124を操作していないときには、パイロットポンプ113からの圧油がブレーキ弁122を介して油室168oに供給されていないため、インナディスク164とアウタディスク165とは圧接されずに、キャリア軸156が回転可能となる。このとき、フック110に吊り下げられた吊り荷は自重で自由降下する。
【0040】
ブレーキペダル124を踏み込むと、パイロットポンプ113からの圧油がブレーキ弁122の踏み込み量に応じた圧力に調圧されてパイロットポート161dから油室168oに供給される。したがって、ブレーキペダル124を操作すると、油室168o側のプレッシャープレート167dの全面にブレーキ弁122で調圧された圧力が加わり、押し当て部167cによりインナディスク164とアウタディスク165とを圧接してキャリア軸156を制動することができる。
【0041】
ブレーキペダル124の踏み込み量を調節することで、ブレーキディスク167がインナディスク164とアウタディスク165とを圧接する力を調節することができる。キャリア軸156の制動力はこの圧接力に依存して変化するので、ブレーキペダル124を踏み込むほど制動力が大きくなる。
【0042】
ブレーキケース162には、ディスク室166に連通する給油ポート161aと、キャリア軸室168cに連通するバイパス用給油ポート161cおよび排油ポート161bが設けられている。排油ポート161bは、キャリア軸156の軸方向に直交する平面であって、かつ、バイパス用給油ポート161cが配置される平面上に複数設けられている。
【0043】
複数の排油ポート161bは、キャリア軸156の軸心を中心としてバイパス用給油ポート161cに対してほぼ180度対称となる位置の近傍にまとめて設けられている。このように、バイパス用給油ポート161cと排油ポート161bとの距離を確保することで、バイパス用給油ポート161cから導入される温められた作動油が低温の作動油と充分に混ざり合うため、効率よくブレーキ161を温めることができる。
【0044】
ディスク室166において給油ポート161aが接続される部分のブレーキケース内面には、円環状に流路166cが形成され、この円環状の流路166cはインナディスク164、アウタディスク165の径方向外方に設けられる外周側流路166b(
図3の拡大図参照)と連通している。
【0045】
図2に示すように、第2ポンプ112の吐出口とブレーキ161の給油ポート161aとを連通する油路168には、ブレーキ161のバイパス用給油ポート161cに接続されたリリーフ用の油路169が接続されている。油路169には、ブレーキ161を保護するためのリリーフ弁133が設けられている。なお、ブレーキ161内を流れる作動油の温度が低いほど粘性抵抗が大きくなる(
図5参照)。このため、冬季や寒冷地などの低温環境下で使用する場合にブレーキ161の圧力が増加しやすい。
【0046】
ブレーキ161の摩擦板間を通過する油の流路抵抗によりブレーキ161内の圧力が上昇して所定圧(リリーフ弁133の設定圧力)に達すると、リリーフ弁133が開いて、第2ポンプ112で加圧された圧油がリリーフ弁133を通過して、バイパス用給油ポート161cからブレーキ161内のキャリア軸室168cに供給される。リリーフ弁133が開放した際に温度が上昇した作動油をブレーキ161に導入するようにしたので、リリーフ弁133が開放したときにもブレーキ161を温めることができる。
【0047】
ブレーキケース内における作動油の流れについて
図3および
図4を参照して説明する。
図4(a)は軸方向から見たときのブレーキ161の摩擦板間を通過する作動油の流れを示す模式図であり、
図4(b)はブレーキ161の摩擦板間をバイパスする作動油の流れを示す模式図である。
【0048】
図3および
図4(a)に示すように、リリーフ弁133が開放されていない通常の状態(リリーフ弁非作動時)にあるとき、作動油は、ブレーキケース162の給油ポート161aからディスク室166に供給される。ディスク室166に供給された作動油は、円環状のディスク室166の外周側流路166bに沿って流れるとともに外周側流路166bから軸中心に向かって流れて、インナディスク164とアウタディスク165の間を通過した後、キャリア軸室168cに流入する。キャリア軸室168cに流入した作動油は、貫通孔167eを介して排油ポート161bから排出されてタンク119に戻る。
【0049】
図3および
図4(b)に示すように、リリーフ弁133が開放されている状態(リリーフ弁作動時)にあるとき、作動油は、ブレーキケース162のバイパス用給油ポート161cから貫通孔167fを介してキャリア軸室168cに供給されて、ディスク室166にほとんど流入することなくそのまま排油ポート161bから排出されてタンク119に戻る。
【0050】
つまり、リリーフ弁133が開放されていない通常の状態において、給油ポート161aから作動油が供給されると、給油ポート161aと排油ポート161bとの間において摩擦板間の油路を含むように主流路が形成される。リリーフ弁133が開放された状態において、バイパス用給油ポート161cから作動油が供給されると、バイパス用給油ポート161cと排油ポート161bとの間において摩擦板間の油路を含まないようにバイパス流路が形成される。本実施の形態では、キャリア軸室168cがバイパス流路を構成している。
【0051】
バイパス流路は、摩擦板間を含んでいないため、圧力損失が小さく抑えられており、リリーフ弁133からの作動油はスムーズに排油ポート161bから排出されてタンク119に回収される。
【0052】
図2に示すコントローラ120は、CPUや記憶装置であるROMおよびRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成されている。コントローラ120は、クレーン100のシステム全体の制御を行っており、後述する所定の条件が成立したときに油路選択弁142を所定の位置に切り換えて、油路(センタバイパスライン)181を冷却油路182、バイパス油路183、加熱油路184のいずれかに接続する。
【0053】
図2に示すように、コントローラ120には、温度センサ171と、インジケータランプ129と、油路選択弁142とが接続されている。温度センサ171は、検出部がブレーキ161内に設けられ、ブレーキ161内の作動油の温度Tを検出する。インジケータランプ129は、加熱中であるか否かを示す表示部であって、作動油の加熱中には点灯され、作動油の非加熱中には消灯される。
【0054】
コントローラ120は、温度センサ171で検出された温度信号を受信し、作動油の温度Tと、予め記憶装置に記憶された第1閾値T1および第2閾値T2に基づいて油路選択弁142の動作を制御する。第1閾値T1および第2閾値T2は、作動油の粘性を考慮して決定される。
図5は、作動油の温度と粘性抵抗との関係を示す図である。第1閾値T1は、作動油を加熱するか否かを判断するための閾値であり、粘性の影響の大きい温度帯が0℃未満であることを考慮し、たとえば、0℃に設定される。第2閾値T2は、作動油を冷却するか否かを判断するための閾値であり、たとえば、30℃に設定される。
【0055】
コントローラ120は、温度センサ171で検出された作動油の温度Tが第1閾値T1未満であるか否かを判定する。コントローラ120は、温度Tが第1閾値T1未満である場合には、作動油が低温状態にあると判定し、
図2に示す油路選択弁142のソレノイド142bにオン信号を出力し、ソレノイド142aにオフ信号を出力して、油路選択弁142を位置(B)に切り換える。
【0056】
コントローラ120は、温度センサ171で検出された作動油の温度Tが第1閾値T1以上、かつ、第2閾値T2未満であるか否かを判定する。コントローラ120は、温度Tが第1閾値T1以上、かつ、第2閾値T2未満である場合には、作動油が中温状態(適正温度範囲)にあると判定し、油路選択弁142のソレノイド142bにオフ信号を出力し、ソレノイド142aにオン信号を出力して、油路選択弁142を位置(A)に切り換える。
【0057】
コントローラ120は、温度センサ171で検出された作動油の温度Tが第2閾値T2以上か否かを判定する。コントローラ120は、温度Tが第2閾値T2以上である場合には、作動油が高温状態にあると判定し、油路選択弁142のソレノイド142a,142bのそれぞれにオフ信号を出力して、油路選択弁142を中立位置(N)に切り換える。
【0058】
以下、作動油を加熱あるいは冷却するための油温制御プログラムによる処理を
図6に示すフローチャートを参照して説明する。
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る油温制御プログラムにより実行される油温制御の動作を示したフローチャートである。エンジンスイッチ(不図示)がオンされると、
図6に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ120で繰り返し実行される。
【0059】
図6に示すように、ステップS100において、コントローラ120は、温度センサ171で検出された作動油の温度Tの情報を取得して、ステップS110へ進む。ステップS110において、コントローラ120は、作動油の温度Tが第1閾値T1未満か否かを判定する。ステップS110で肯定判定されるとステップS120へ進み、否定判定されるとステップS130へ進む。
【0060】
ステップS120において、コントローラ120は、油路選択弁142のソレノイド142bにオン信号を出力してソレノイド142bを励磁し、ソレノイド142aにオフ信号を出力してソレノイド142aを消磁し、ステップS125へ進む。これにより、油路選択弁142が位置(B)に切り換えられる。
【0061】
ステップS125において、コントローラ120は、インジケータランプ129を点灯させる制御信号を出力し、リターンする。
【0062】
ステップS110において、温度Tが第1閾値T1以上と判定されるとステップS130へ進む。ステップS130において、コントローラ120は、温度Tが第2閾値未満か否かを判定する。ステップS130で肯定判定されるとステップS140へ進み、否定判定されるとステップS150へ進む。
【0063】
ステップS140において、コントローラ120は、油路選択弁142のソレノイド142aにオン信号を出力してソレノイド142aを励磁し、ソレノイド142bにオフ信号を出力してソレノイド142bを消磁し、ステップS145へ進む。これにより、油路選択弁142が位置(A)に切り換えられる。
【0064】
ステップS145において、コントローラ120は、インジケータランプ129を消灯させる制御信号を出力し、リターンする。
【0065】
ステップS150において、コントローラ120は、油路選択弁142のソレノイド142a,142bのそれぞれにオフ信号を出力してソレノイド142a,142bのそれぞれを消磁し、ステップS155へ進む。これにより、油路選択弁142が中立位置(N)に切り換えられる。
【0066】
ステップS155において、コントローラ120は、インジケータランプ129を消灯させる制御信号を出力し、リターンする。
【0067】
本実施の形態の動作をまとめると、次のようになる。作業者がエンジン125を始動したとき、作動油の温度Tが低く、第1閾値T1未満であると、油路選択弁142が位置(B)に切り換えられる(ステップS110→S120)。
【0068】
油路選択弁142が位置(B)に切り換えられると、第1ポンプ111から吐出された油が加熱油路184のリリーフ弁145によって遮断され、油圧回路内の圧力が上昇し、回路圧力がリリーフ弁145の設定圧力に達すると、リリーフ弁145が開く。リリーフした圧油は、温度が上昇しており、タンク119に導入され、回路内を環流することにより、作動油全体の温度が徐々に温まる。ここで、リリーフした圧油は、オイルクーラ170を通過せずに、タンク119に回収されるため、加熱動作中にオイルクーラ170に圧油が流れて冷却されるといったことが防止され、効率よく作動油を温めることができる。これにより、ブレーキ161を短時間で温めることができるため、低温環境下で使用された場合であっても、ブレーキ161の引きずり抵抗によるフリーフォール速度の不足を解消して作業効率の向上を図ることができる。
【0069】
加熱動作中、すなわち油路選択弁142が位置(B)に切り換えられている間は、油圧モータ150の背圧が高くなるため、油圧モータ150の動きが悪くなる。本実施の形態では、加熱動作中はインジケータランプ129が点灯している(ステップS125)。このため、作業者は、加熱動作中であることを知ることができ、加熱動作が終了するまで待機する。
【0070】
作動油の温度Tが上昇し、第1閾値T1以上になると、油路選択弁142が位置(A)に切り換えられ(ステップS130→S140)、インジケータランプ129が消灯する(ステップS145)。作業者は、インジケータランプ129が消灯したのを見て、加熱動作(暖機運転)が終了したことを確認すると、作業を開始する。油路選択弁142が位置(A)に切り換えられると、圧油はバイパス油路183に導入され、オイルクーラ170を通過せずに、タンク119に回収される。
【0071】
作動油の温度Tの適正範囲、すなわち第1閾値T1以上かつ第2閾値T2未満では、作動油を加熱させたり、冷却させる必要はない。このため、作動油の温度Tが適正であるときには、オイルクーラ170を通過させずに、バイパスさせてタンク119に導く。
【0072】
作動油が適正温度範囲にあるときに、作動油をオイルクーラ170に導入する構成を採用すると、特に冬季に作業する場合や寒冷地で作業する場合において、作動油の温度Tが低下して、粘性が高くなってしまうおそれがある。これに対して、本実施の形態によれば、作動油の温度が下がりすぎることを防止することができる。さらに、オイルクーラ170を通過する際に圧力損失が発生することに起因して油圧モータ150の背圧が上昇する頻度を減らすことができる。
【0073】
周囲温度がそれほど低くない場合には、クレーン100を作業している間に油圧モータ150などの各油圧アクチュエータの動作により、作動油の温度は徐々に上昇する。作動油の温度Tが第2閾値T2以上になると、油路選択弁142が中立位置(N)に切り換えられる(ステップS130→S150)。
【0074】
油路選択弁142が中立位置(N)に切り換えられると、圧油はオイルクーラ170に流れ、冷却された後、タンク119に回収される。
【0075】
本実施の形態の利点について
図7および
図8に示す第1の比較例、および、
図9に示す第2の比較例と比較して具体的に説明する。
図7は第1の比較例に係るクレーンに搭載されたウインチ装置の構成を示す油圧回路図であり、
図8は
図7の油圧回路における作動油の流れを示す図である。
【0076】
図7に示すように、第1の比較例に係る油圧回路が本実施の形態に係る油圧回路と異なる点は、第1の比較例では、作動油加熱用のリリーフ弁145を有する加熱油路184およびバイパス油路183が設けられていない点、ならびに、位置(A)と位置(B)と位置(N)との間で切り換えられる油路選択弁142に代えて、位置(B)と位置(N)との間で切り換えられる油路選択弁942が設けられている点にある。
【0077】
図8(a)に示すように、第1の比較例では、油路選択弁942が中立位置(N)に保持されているときには、第1ポンプ111から吐出された圧油は、コントロールバルブ141、および、油路選択弁942を介して冷却油路182に流れ込み、オイルクーラ170を通過して冷却された後、タンク119に回収される。
【0078】
図8(b)に示すように、第1の比較例では、油路選択弁942が位置(B)に切り換えられると、回路圧力が上昇し、所定圧力に達すると、リリーフ弁143が開く。リリーフした圧油は、温度が上昇しており、タンク119に導入され、回路内を環流することにより、作動油全体の温度が徐々に温まる。しかし、リリーフした圧油は、オイルクーラ170を通過するため、リリーフにより温度上昇した作動油がオイルクーラ170により冷却されてしまい、作動油を効率よく温めることができない。
【0079】
第1の比較例において、作動油の温度が少しずつ上昇すると、温度上昇にともなって粘性抵抗が低減し、オイルクーラ170の通過抵抗が減る。このため、オイルクーラ170の通過流量が増える。また、作動油の温度上昇にともない、外気温度と作動油の温度差が大きくなるため、オイルクーラ170の冷却効率が上昇する。その結果、第1の比較例では、温度が高くなるほど、一層、作動油の温度上昇が妨げられてしまい、作動油が適正温度に至るまでに多大な時間を要することになる。
【0080】
これに対して、
図2に示す第1の実施の形態の油圧回路では、加熱動作中は、オイルクーラ170を通過することがないため、効率よく作動油を温めることができる。
【0081】
図9は、第2の比較例に係るクレーンに搭載されたウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。第2の比較例に係る油圧回路は、第1の比較例に係る油圧回路とほぼ同様の構成とされている。第2の比較例に係る油圧回路が第1の比較例に係る油圧回路と異なる点は、第2の比較例では、コントローラ120からの制御信号(励磁電流)に応じて、圧油の流れを遮断するストップ弁989がオイルクーラ170の入口側に設けられている点にある。
【0082】
図9に示すように、第2の比較例では、コントローラ120からストップ弁989のソレノイドにオン信号が出力されると、ストップ弁989が位置(B)に切り換えられて、圧油の流れを遮断する。これにより、圧油は、オイルクーラ170を通過せずに、チェック弁172を介してタンク119に流れる。第2の比較例のように、ストップ弁989を設けることで、オイルクーラ170に作動油を通過させないようにすることができるが、ストップ弁989を配置するスペースを確保する必要があり、装置の大型化およびコストの増加が生じるおそれがある。
【0083】
これに対して、
図2に示す第1の実施の形態の油圧回路では、リリーフ弁145を追加するのみでよいため、第2の比較例に比べて簡素な構成で、効率的に作動油の温度を上昇させることができ、装置の大型化およびコスト増を抑えることができる。
【0084】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)作動油の温度が第1閾値T1未満であることが検出され、作動油が低温状態にあると判定されると、第1ポンプ111から吐出された圧油が加熱油路184に導入されるように油路選択弁142が位置(B)に切り換えられる。作動油の温度が第2閾値T2以上であることが検出され、作動油が高温状態にあると判定されると、第1ポンプ111から吐出された圧油が冷却油路182に導入されるように油路選択弁142が位置(N)に切り換えられる。
【0085】
これにより、作動油が低温状態にある場合には、リリーフ弁145を利用して作動油を加熱させ、温度が上昇した作動油をオイルクーラ170を通過させずに油圧回路内で環流させることで効率よく作動油を加熱することができる。作動油が高温状態にある場合には、作動油をオイルクーラ170に通過させて冷却し、温度が低下した作動油を油圧回路内で環流させることで効率よく作動油を冷却することができる。
【0086】
特許文献1に記載の湿式クラッチ装置では、排気ガスを利用した加熱手段としての加熱管路および排気制御弁を、バイパス弁とは別に設けているため、装置が大型化するおそれがある。これに対して、本実施の形態では、油路選択弁142が加熱手段の一部であり、油路選択弁142が加熱手段としての機能と、オイルクーラ170をバイパスさせるためのバイパス弁としての機能を具備している。このため、本実施の形態によれば、装置が大型化することを防止することができる。
【0087】
特許文献1に記載の湿式クラッチ装置では、排気制御弁を開くことにより、排気管内の排気ガスを加熱管路に流入させる構成とされているため、排気管内圧力の管理が困難になるという問題、加熱管路内に煤が溜まるといった問題や、排気ガス導入に伴う振動を抑制するための機構が必要になるといった問題がある。これに対して、本実施の形態では、上記のような問題が発生することはなく、簡素な構成で、効率よく作動油を加熱して、ブレーキ161を短時間で温めることができる。その結果、低温環境下で使用された場合であっても、ブレーキ161の引きずり抵抗によるフリーフォール速度の不足を解消することができるため、作業効率の向上を図ることのできる。
【0088】
(2)作動油の温度が第1閾値T1以上、かつ、第2閾値T2未満であることが検出され、作動油が中温状態にあると判定されると、第1ポンプ111から吐出された圧油がバイパス油路183に導入されるように油路選択弁142が位置(A)に切り換えられる。これにより、特に寒冷地等で作業をする場合において、作動油が適正温度範囲にあるときに、オイルクーラ170を通過させることに起因して作動油の温度Tが低下して、粘性が高くなってしまうことを防止することができる。また、オイルクーラ170を通過する際に圧力損失が発生することに起因して、油圧モータ150の背圧が上昇し、作業性が低下する頻度を減らすことができる。
【0089】
―第2の実施の形態―
図10を参照して第2の実施の形態に係る油圧回路を備えたクレーンについて説明する。
図10は、本発明の第2の実施の形態に係るクレーン100に搭載されたウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、相違点について主に説明する。
【0090】
図10に示すように、第2の実施の形態に係る油圧回路が第1の実施の形態に係る油圧回路と異なる点は、第2の実施の形態では、位置(A)と位置(B)と位置(N)との間で切り換えられる油路選択弁142に代えて、位置(B)と位置(N)との間で切り換えられる油路選択弁242が設けられている点にある。
【0091】
図10に示すように、第2の実施の形態では、油路選択弁242が中立位置(N)に保持されているときには、第1ポンプ111から吐出された圧油は、コントロールバルブ141、および、油路選択弁242を介して冷却油路182に流れ込み、オイルクーラ170を通過して冷却された後、タンク119に回収される。
【0092】
油路選択弁142が位置(B)に切り換えられると、第1ポンプ111の吐出油が加熱油路184のリリーフ弁145によって遮断され、油圧回路内の圧力が上昇し、回路圧力がリリーフ弁145の設定圧力に達すると、リリーフ弁145が開く。リリーフした圧油は、温度が上昇しており、タンク119に導入され、回路内を環流することにより、作動油全体の温度が徐々に温まる。リリーフした圧油は、オイルクーラ170を通過せずに、タンク119に回収されるため、加熱動作中にオイルクーラ170に圧油が流れて冷却されるといったことは防止され、効率よく作動油を温めることができる。
【0093】
第2の実施の形態では、作動油の温度Tが第1閾値T1未満の場合には、油路選択弁242を位置(B)に切り換えて、作動油の加熱動作を実行し、作動油の温度がT1以上の場合には、油路選択弁242を位置(N)に切り換えて、作動油の冷却動作を実行する。
【0094】
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した(1)の作用効果と同様に、簡素な構成で、作動油が低温状態にあるときには、リリーフ弁145を利用して作動油を加熱させ、温度が上昇した作動油をオイルクーラ170に通過させずに油圧回路内で環流させることで効率よく作動油を加熱することができる。
【0095】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
[変形例]
(1)上記した実施の形態では、ポジティブ型のブレーキ161を備える油圧回路について説明したが、本発明はこれに限定されない。ネガティブ型のブレーキを備える油圧回路についても、本発明を適用することができる。
【0096】
(2)本発明は、巻上ロープ105aにより吊り荷を巻上げまたは巻下げるウインチ装置のブレーキ装置に適用する場合に限定されない。種々の建設機械における回転機械を制動するブレーキ装置や、クラッチ装置の作動油を加熱する油圧回路に適用することができる。たとえば、クレーン100の走行体101に対する旋回体103の旋回動作を制動するブレーキ装置に適用できる。湿式多板ブレーキ付きの走行装置などにも適用できる。
【0097】
(3)上記した実施の形態では、温度センサ171をブレーキ161に導入する構成としたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、タンク119に温度センサ171を設置してもよい。
【0098】
(4)上記した実施の形態では、第1ポンプ111および第2ポンプ112、パイロットポンプ113を駆動する原動機としてエンジン125を採用した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。電動モータを原動機として採用し、電動モータによって第1ポンプ111および第2ポンプ112、パイロットポンプ113を駆動するようにしてもよい。
【0099】
(5)上記した実施の形態では、油路選択弁142,942を電磁切換弁としたが、電磁比例弁としてもよい。
【0100】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で自由に変更、改良が可能である。