(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
(1)炭化珪素質セラミックス:
本発明の炭化珪素質セラミックスの一の実施形態は、炭化珪素結晶を含有し、炭化珪素結晶中に、「0.1〜25質量%の4H型炭化珪素結晶、及び50〜99.9質量%の6H型炭化珪素結晶」が含有されるものである。
【0023】
このように、本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、0.1〜25質量%の4H型炭化珪素結晶、及び50〜99.9質量%の6H型炭化珪素結晶を含有する。そのため、本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、温度変化による比抵抗の変化量が小さく、通電により安定して発熱させることが可能である。
【0024】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、含有される炭化珪素結晶が、4H型炭化珪素結晶、6H型炭化珪素結晶、及び15R型炭化珪素結晶を含有することが好ましく、これらの結晶から形成されていることが更に好ましい。
【0025】
ここで、炭化珪素結晶の構造としては、「六方晶系の2H型、4H型、6H型」、「立方晶系の3C型」、「菱面体晶系の15R型」等が挙げられる。これらの結晶構造は、通常、炭化珪素結晶(全体)中に混在し、結晶構造の種類によって、「温度変化による比抵抗の変化量(比抵抗の温度変化)」は異なるものである。
【0026】
炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率は、0.1〜25質量%であり、0.1〜17質量%が好ましく、0.1〜5質量%が更に好ましい。そして、炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶以外の結晶成分は、6H型炭化珪素結晶及び15R型炭化珪素結晶であることが好ましい。炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率が0.1質量%より小さいと、6H型炭化珪素結晶の結晶相を経由する電気伝導が支配的になり、温度変化による比抵抗の変化量が大きくなるため好ましくない。炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率が25質量%より大きいと、比抵抗が低くなり、通電した時に、電流が過剰に流れることがあり、電気回路等を破損させることがあるため好ましくない。
【0027】
炭化珪素結晶中には、15R型炭化珪素結晶が0.1〜20質量%含有されていてもよく、0.1〜12質量%含有されていることが更に好ましい。15R型炭化珪素結晶のバンドギャップは4H型炭化珪素結晶のバンドギャップより小さい。このため、界面近傍の酸化膜トラップ密度による反転層チャネル移動度への影響が小さい。更に15R型炭化珪素結晶のバルク移動度は異方性が低く、通電時の抵抗が安定する効果がある。一方、炭化珪素結晶中の15R型炭化珪素結晶の含有率が20質量%より大きいと、15R型炭化珪素結晶による導電が支配的となって、比抵抗の温度変化を小さくすることができなくなる。
【0028】
炭化珪素結晶中に含有されている3C型炭化珪素結晶は5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。3C型炭化珪素は準安定相であるため、熱履歴により4H型や6H型に転移する。このため炭化珪素結晶中の3C型炭化珪素結晶の含有率が5質量%より大きいと、耐熱性が低下することがある。
【0029】
炭化珪素結晶中に、15R型炭化珪素結晶、3C型炭化珪素結晶、又は15R型炭化珪素結晶と3C型炭化珪素結晶の両方、が含有される場合には、炭化珪素結晶中の、残りの成分は、6H型炭化珪素結晶であることが好ましい。ここで、「残りの成分」とは、「4H型炭化珪素結晶、15R型炭化珪素結晶及び3C型炭化珪素結晶」以外の成分、を意味する。
【0030】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、窒素の含有量(固溶量)が0.01質量%以下であることが好ましい。窒素の固溶量が0.01質量%より大きいと、過剰電流により電気回路等を破損させることがあるため好ましくない。これは、窒素の固溶量が0.01質量%より大きいと、比抵抗が低くなり、通電した時に、電流が過剰に流れることがあるためである。窒素の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法で測定した値である。
【0031】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、多孔質の焼成体(焼結体)であることが好ましい。本実施形態の炭化珪素質セラミックスが多孔質である場合、気孔率は30〜65%であることが好ましく、35〜50%であることが更に好ましい。気孔率が30%より小さいと、過剰電流により電気回路等を破損させることがある。これは、気孔率が30%より小さいと、比抵抗が低くなり、通電した時に、電流が過剰に流れることがあるからである。さらに、気孔率が30%より小さいと、熱容量が大きくなるため、通電時の昇温速度が遅くなる恐れがある。気孔率が65%より大きいと、比抵抗が高くなりやすく、通電した時に、電流が流れ難いため、十分に発熱し難くなることがある。さらに、気孔率が65%より大きいと、強度が低下し、「熱サイクルや、通電時の温度分布」によりクラックが生じる恐れがある。気孔率は、水銀ポロシメータで測定した値である。また、平均細孔径は、2〜30μmであることが好ましく、4〜20μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、比抵抗が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が30μmより大きいと、比抵抗が小さくなりすぎることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0032】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、20℃における比抵抗(R
20)が2〜100Ω・cmであることが好ましく、20〜80Ω・cmであることが更に好ましい。また400℃における比抵抗が1〜25Ω・cmであることが好ましく、5〜20Ω・cmであることが更に好ましい。これにより、本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、通電により適切に発熱させることができる。400℃における比抵抗が25Ω・cmより大きいと、通電した時に、電流が流れ難いため、十分に発熱し難くなることがある。400℃における比抵抗が1Ω・cmより小さいと、通電した時に、電流が過剰に流れることがあり、電気回路等を破損させることがある。尚、400℃における比抵抗は、通電発熱により炭化珪素質セラミックスを400℃まで昇温したときの比抵抗である。
【0033】
また、本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、20℃における比抵抗(R
20)と、最小比抵抗(R
Min)との差(R
20−R
Min)が、80Ω・cm以下であ
り、40Ω・cm以下であること
が好ましい。このように、20℃における比抵抗と、最小比抵抗との差が小さいことにより、通電した時に、通電発熱による比抵抗の変化が小さくなる。そのため、これにより、電流が過剰に流れることを防止することができる。上記比抵抗の差が、80Ω・cmより大きいと、通電した時に、電流が過剰に流れることがあり、電気回路等を破損させることがある。ここで、「最小比抵抗」とは、炭化珪素質セラミックスの温度を変化させたときに、炭化珪素質セラミックスの比抵抗の値が最も小さくなるときの当該比抵抗の値のことである。
【0034】
また、本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、比抵抗が最小(最小比抵抗)となる温度(T
R−Min)が500℃以下であることが好ましく、400℃以下であることが更に好ましい。より低い温度にて、比抵抗が上昇に転ずることにより、電流が過剰に流れることを避けることができ、電気回路等の破損を防止することが可能となる。
【0035】
炭化珪素質セラミックスは、炭化珪素同士の結合により炭化珪素質セラミックス全体が形成されていてもよいし、複数の炭化珪素粒子が珪素(金属珪素:Si)によって結合されて、炭化珪素質セラミックス全体が形成されていてもよい。これらの中でも、
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、複数の炭化珪素粒子が珪素によって結合されて、炭化珪素質セラミックス全体が形成されてい
る。つまり、本実施形態の炭化珪素質セラミックは、複数の炭化珪素粒子と、当該炭化珪素粒子同士を結合させる珪素とを含有するものであ
る。このとき、炭化珪素粒子が上記炭化珪素結晶(「0.1〜25質量%の4H型炭化珪素結晶、及び50〜99.9質量%の6H型炭化珪素結晶」が含有される炭化珪素結晶)を含有していることが好ましい。そして、炭化珪素粒子が上記炭化珪素結晶によって形成されていることが更に好ましい。
【0036】
このように、本実施形態の炭化珪素質セラミックスが、「複数の炭化珪素粒子と、当該炭化珪素粒子同士を結合させる珪素とを」含有する場合には、比抵抗を低くすることができる。また、この場合、珪素の含有率(炭化珪素粒子と珪素との合計に対する珪素の含有率)が10〜40質量%であ
り、15〜35質量%であること
が好ましい。珪素の含有率が、10質量%より少ないと、気孔率が高くなり、比抵抗が高くなりやすくなることがあり、それにより、通電した時に、電流が流れ難くなるため、十分に発熱し難くなることがある。さらに、珪素の含有率が、10質量%より少ないと、強度が低下し、熱サイクルや通電時の温度分布によりクラックが生じる恐れがある。珪素の含有率が40質量%より多いと、過剰電流により電気回路等を破損させることがある。これは、珪素の含有率が40質量%より多いと、気孔率が低くなるため、比抵抗が低くなりやすくなることがあり、それにより、通電した時に、電流が過剰に流れることがあるためである。さらに、珪素の含有率が、40質量%より多いと、熱容量が大きくなり、通電時の昇温速度が遅くなる恐れがある。
【0037】
また、本実施形態の炭化珪素質セラミックスが、「複数の炭化珪素粒子と、当該炭化珪素粒子同士を結合させる珪素とを」含有する場合には、炭化珪素粒子の平均粒子径は、10〜50μmであることが好ましく、15〜35μmであることが更に好ましい。炭化珪素粒子の平均粒子径をこのような範囲とすることにより、温度変化による比抵抗の変化量を小さくすることと、比抵抗を所望の値とすることとを両立することができる。炭化珪素粒子の平均粒子径が、10μmより小さいと、比抵抗が高くなりやすく、それにより、通電した時に、電流が流れ難くなるため、十分に発熱し難くなることがある。炭化珪素粒子の平均粒子径が、50μmより大きいと、気孔率が低くなりやすく、熱容量が大きくなりやすいため、通電時の昇温速度が遅くなる恐れがある。炭化珪素質セラミックスに含有される炭化珪素粒子の平均粒子径は、炭化珪素質セラミックスの断面及び表面をSEM観察して、画像処理ソフトによって計測した値である。画像処理ソフトとしては、ImageJ(NIH(National Institute of Health)社製)を用いることができる。具体的には、例えば、まず、炭化珪素質セラミックスから、「断面」及び「表面」を観察するためのサンプルを切り出す。炭化珪素質セラミックスの断面については、断面の凹凸を樹脂で埋め、更に研磨を行い、研磨面の観察を行う。一方、炭化珪素質セラミックスの表面については、切り出したサンプル(隔壁)をそのまま観察する。そして、「断面」5視野と「表面」5視野のそれぞれの観察結果の相加平均を、炭化珪素質セラミックスに含有される炭化珪素粒子の平均粒子径とする。
【0038】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスは、例えば、100〜800Vの電圧を印加した場合に、発熱により、400〜900℃となる。
【0039】
(2)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一実施形態は、上記本発明の炭化珪素質セラミックスの一実施形態を材質とするハニカム構造体である。
図1、2に示すように、本実施形態のハニカム構造体100は、流体の流路となる「一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2」を、区画形成する多孔質の隔壁1と、最外周に位置する外周壁3とを有する筒状の構造体である。尚、本実施形態のハニカム構造体は、必ずしも外周壁を備える必要はない。
【0040】
このように、本実施形態のハニカム構造体は、上記本発明の炭化珪素質セラミックスの一実施形態を材質とするため、温度変化による比抵抗の変化量が小さく、通電により発熱させることが可能である。そのため、本実施形態のハニカム構造体は、通電により発熱する「通電発熱体」として使用することができる。更に、本実施形態のハニカム構造体を触媒担体(通電発熱触媒担体)とし、触媒を担持して排ガスの浄化に使用した場合には、通電発熱時の温度制御を安定して行うことができる。これは、本実施形態のハニカム構造体(通電発熱触媒担体)は、温度が大きく変化しても比抵抗の変化が少ないためである。
【0041】
本実施形態のハニカム構造体100は、隔壁厚さが50〜200μmであることが好ましく、70〜130μmであることが更に好ましい。隔壁厚さをこのような範囲にすることにより、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持しても、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなり過ぎることを抑制できる。隔壁厚さが50μmより薄いと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。隔壁厚さが200μmより厚いと、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなることがある。
【0042】
本実施形態のハニカム構造体100は、セル密度が40〜150セル/cm
2であることが好ましく、70〜100セル/cm
2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm
2より低いと、触媒担持面積が少なくなることがある。セル密度が150セル/cm
2より高いと、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなることがある。
【0043】
隔壁1は、多孔質であることが好ましい。隔壁1が多孔質である場合、隔壁1の気孔率は30〜65%であることが好ましく、35〜50%であることが更に好ましい。気孔率が30%より小さいと、熱容量が大きくなり、通電時の昇温速度が遅くなる恐れがある。気孔率が65%より大きいと、強度が低下し、熱サイクルや、通電時の温度分布によりクラックが生じる恐れがある。
【0044】
また、隔壁1が多孔質である場合、隔壁1の平均細孔径は、2〜30μmであることが好ましく、4〜20μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、比抵抗が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が30μmより大きいと、比抵抗が小さくなりすぎることがある。
【0045】
また、本実施形態のハニカム構造体100の最外周を構成する外周壁3の厚さは、0.1〜2mmであることが好ましい。0.1mmより薄いと、ハニカム構造体100の強度が低下することがある。2mmより厚いと、触媒を担持する隔壁の面積が小さくなることがある。
【0046】
本実施形態のハニカム構造体100は、セル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状が、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせ、であることが好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体100に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。
【0047】
本実施形態のハニカム構造体の形状は特に限定されない。本実施形態のハニカム構造体の形状は、例えば、底面の外周形状が円形の筒状(円筒形状)、底面の外周形状がオーバル形状の筒状、底面の外周形状が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の筒状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体の大きさは、底面全体の面積が2000〜20000mm
2であることが好ましく、4000〜10000mm
2であることが更に好ましい。また、ハニカム構造体の中心軸方向の長さは、50〜200mmであることが好ましく、75〜150mmであることが更に好ましい。
【0048】
本実施形態のハニカム構造体100のアイソスタティック強度は、1MPa以上であることが好ましく、3MPa以上であることが更に好ましい。アイソスタティック強度は、値が大きいほど好ましいが、ハニカム構造体100の材質、構造等を考慮すると、10MPa程度が上限となる。アイソスタティック強度が1MPa未満であると、ハニカム構造体を触媒担体等として使用する際に、破損し易くなることがある。アイソスタティック強度は水中にて静水圧をかけて測定した値である。
【0049】
(3)通電発熱性触媒担体:
本発明の通電発熱性触媒担体の一実施形態は、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態を備え、通電により発熱する触媒担体である。「通電発熱性触媒担体」とは、通電(電流を流すこと)することにより発熱する「触媒担体」を意味する。
【0050】
このように、本実施形態の通電発熱性触媒担体は、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態を備えるため、温度変化による比抵抗の変化量が小さく、通電により発熱させることが可能である。そのため、本実施形態の通電発熱性触媒担体に触媒を担持して触媒体とし、当該触媒体を排ガスの浄化に使用した場合には、通電による発熱を安定して行うことができる。これは、本実施形態の通電発熱性触媒担体は、温度変化しても比抵抗の変化が少ないためである。
【0051】
本発明の通電発熱性触媒担体は、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態からなるものであってもよいし、上記本発明のハニカム構造体の一実施形態以外の構成要素を備えてもよい。上記本発明のハニカム構造体の一実施形態以外の構成要素としては、例えば、電圧を印加するための電極等を挙げることができる。つまり、本実施形態の通電発熱性触媒担体は、本発明のハニカム構造体の一実施形態と、「本発明のハニカム構造体の一実施形態に電圧を印加する電極」とを備えるものであることが好ましい。
【0052】
(4)炭化珪素質セラミックスの製造方法:
(4−1)本実施形態の炭化珪素質セラミックスの製造方法は、特に限定されない。本実施形態の炭化珪素質セラミックスの製造方法は、例えば、成形原料調製工程と、成形工程と、焼成工程とを有する方法を挙げることができる。成形原料調製工程は、「4H型炭化珪素結晶をそれぞれ異なる含有率で含有する」複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末を混合して成形原料を調製する工程であることが好ましい。成形工程は、上記成形原料を成形して成形体を形成する工程であることが好ましい。焼成工程は、上記成形体を焼成して4H型炭化珪素結晶の含有率が所望の値に調整された炭化珪素質セラミックスを作製する工程であることが好ましい。この場合、成形原料の調製に使用する炭化珪素質セラミックス中の炭化珪素の含有率は、60質量%以上であることが好ましい。また、成形原料の調製に使用する炭化珪素質セラミックス中の珪素(金属珪素)の含有率は、40質量%以下であることが好ましい。ここで、「複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末」の「複数種類」は、炭化珪素質セラミックス粉末を、「含有される4H型炭化珪素結晶の含有量」によって種類分け(区別)したときの「複数種類」を意味する。つまり、4H型炭化珪素結晶の含有量が異なる炭化珪素質セラミックス粉末を、異なる種類の炭化珪素質セラミックス粉末であるとする。そして、「複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末」というときは、複数の「4H型炭化珪素結晶の含有量が異なる炭化珪素質セラミックス粉末」のことを意味する。
【0053】
これにより、炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率が所望の値である、炭化珪素質セラミックスを得ることができる。つまり、まず、2種類以上の特定の(4H型炭化珪素結晶の含有率が異なる)炭化珪素質セラミックス粉末を準備する。そして、それらを所定の割合で混合する。これにより、得られる炭化珪素質セラミックスの炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率を、所望の値とすることができる。混合させる炭化珪素質セラミックス粉末の種類は、2〜5種類が好ましく、2種類が更に好ましい。
【0054】
尚、成形原料に含有する炭化珪素質セラミックス粉末は、1種類の炭化珪素質セラミックス粉末であってもよい。この場合、当該炭化珪素質セラミックス粉末に含有される炭化珪素結晶中に、4H型炭化珪素結晶が0.1〜25質量%含有され、6H型炭化珪素結晶が50〜99.9質量%含有されることが好ましい。
【0055】
成形原料中の炭化珪素質セラミックスにおける4H型炭化珪素結晶の含有率は、作製される炭化珪素質セラミックスの4H型炭化珪素結晶の含有率が所望の値になるように、調整する。尚、「4H型炭化珪素結晶の含有率」というときは、特に断りのない場合には、炭化珪素質セラミックス(又は、炭化珪素質セラミックス粉末)における炭化珪素結晶全体に対する4H型炭化珪素結晶の含有率を意味する。
【0056】
「所望の4H型炭化珪素結晶の含有率」に対して同じ又は低い「4H型炭化珪素結晶の含有率」の炭化珪素質セラミックス粉末を、「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」、又は「低4H型炭化珪素粉末」と称する。また、「所望の4H型炭化珪素結晶の含有率」に対して同じ又は高い「4H型炭化珪素結晶の含有率」の炭化珪素質セラミックス粉末を、「高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」、又は「高4H型炭化珪素粉末」と称する。「4H型炭化珪素結晶をそれぞれ異なる含有率で含有する」複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末は、「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」と、「高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」とから構成されている。「4H型炭化珪素結晶をそれぞれ異なる含有率で含有する」複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末を構成する「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」は、1種類であってもよいし複数種類であってもよい。また、「4H型炭化珪素結晶をそれぞれ異なる含有率で含有する」複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末を構成する「高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」は、1種類であってもよいし複数種類であってもよい。ここで、「所望の4H型炭化珪素結晶の含有率」は、「作製しようとする炭化珪素質セラミックス(所望の炭化珪素質セラミックス)における炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率のことである。また、炭化珪素質セラミックス粉末における「4H型炭化珪素結晶の含有率」は、炭化珪素質セラミックス粉末中の炭化珪素結晶全体に対する4H型炭化珪素結晶の含有率のことである。
【0057】
「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」における、炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率は、0.01〜15質量%であることが好ましい。そして、「高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末」における炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率は、0.5〜40質量%であることが好ましい。ここで、炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率というときは、炭化珪素結晶全体に対する4H型炭化珪素結晶の含有率を意味する。
【0058】
「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率」を、「低4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」と称する。「高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率」を、「高4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」と称する。「低4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」と、「高4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」との差は、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。30質量%より大きいと、局所的に抵抗が低くなり、温度分布が不均一になる恐れがある。低4H型−炭化珪素粉末及び高4H型−炭化珪素粉末の、いずれか一方又は両方が、複数種類ある場合には、以下の通りであることが好ましい。つまり、当該複数種類の中のいずれを選択しても、上記「低4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」と、「高4H型−炭化珪素粉末における4H型炭化珪素結晶の含有率」との差が上記範囲になることが好ましい。
【0059】
また、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中には、4H型炭化珪素結晶以外には、主として6H型炭化珪素結晶が含有されていることが好ましい。ここで、「4H型炭化珪素結晶以外には、主として6H型炭化珪素結晶が含有されている」というときは、1質量%以下の微量成分を除いて、4H型炭化珪素結晶以外には、6H型炭化珪素結晶のみが含有されていることを意味する。また、同様に、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中には、4H型炭化珪素結晶以外には、主として6H型炭化珪素結晶が含有されていることが好ましい。
【0060】
また、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中には、4H型炭化珪素結晶及び6H型炭化珪素結晶以外に、15R型炭化珪素結晶や3C型炭化珪素結晶が含有されていてもよい。また、同様に、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末における炭化珪素結晶中には、4H型炭化珪素結晶及び6H型炭化珪素結晶以外に、15R型炭化珪素結晶や3C型炭化珪素結晶が含有されていてもよい。15R型炭化珪素結晶を含有する炭化珪素質セラミックスを作製する場合には、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末、又は「これらの両方」に、15R型炭化珪素結晶が含有されることが好ましい。上記「これらの両方」とは、「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末と、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末との両方」を意味する。
【0061】
本実施形態の炭化珪素質セラミックスの製造方法について、更に詳細に説明する。炭化珪素質セラミックスの形状は、特に限定されないが、以下の製造方法の説明においては、ハニカム構造の炭化珪素質セラミックス(ハニカム構造体)を製造する方法について説明する。
【0062】
(4−2)「複数の炭化珪素粒子と、当該炭化珪素粒子同士を結合させる珪素(金属珪素)とを含有する」炭化珪素質セラミックス(珪素−炭化珪素セラミックス)を作製する場合には、以下の方法で炭化珪素質セラミックスを作製することが好ましい。
【0063】
まず、「4H型炭化珪素結晶をそれぞれ異なる含有率で含有する」複数種類の炭化珪素質セラミックス粉末を混合して成形原料を調製する(成形原料調製工程)。更に具体的には、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末と、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末とを、「得られる炭化珪素質セラミックスの炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率」が所望の値になるように、混合する。更に、当該混合物に、金属珪素粉末を混合して、成形原料を作製する。このとき、必要に応じて、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等の、珪素−炭化珪素セラミックスの製造において通常使用される添加剤を、更に混合することが好ましい。尚、各原料を混合していく順序は、特に限定されない。また、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末と高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末とを総称して、単に「炭化珪素質セラミックス原料」ということがある。
【0064】
炭化珪素質セラミックス粉末の平均粒子径は、10〜50μmであることが好ましく、15〜35μmであることが更に好ましい。10μmより小さいと、比抵抗が高くなりやすいため、通電した時に、電流が流れ難く、十分に発熱し難くなることがある。50μmより大きいと、気孔率が低くなりやすいため、熱容量が大きくなりやすく、通電時の昇温速度が遅くなる恐れがある。炭化珪素質セラミックス粉末の平均粒子径は、フラウンホーファー回折理論やミーの散乱理論を測定原理とした、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製LA−920)により測定した50%粒子径の値とする。
【0065】
成形原料中の、金属珪素の含有率と炭化珪素質セラミックス原料の含有率との合計は、30〜90質量%であることが好ましい。
【0066】
成形原料中の金属珪素の、金属珪素と炭化珪素質セラミックス原料との合計に対する比率(質量比)は、10〜40質量%が好ましく、15〜35質量%が更に好ましい。
【0067】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素質セラミックス原料及び金属珪素の合計質量を100質量部としたときに、2.0〜10.0質量部であることが好ましい。
【0068】
水の含有量は、炭化珪素質セラミックス原料及び金属珪素の合計質量を100質量部としたときに、20〜60質量部であることが好ましい。
【0069】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素質セラミックス原料及び金属珪素の合計質量を100質量部としたときに、0.1〜2.0質量部であることが好ましい。
【0070】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素質セラミックス原料及び金属珪素の合計質量を100質量部としたときに、0.5〜10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10〜30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折方法で測定した値である。
【0071】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0072】
次に、坏土(成形原料)を押出成形してハニカム成形体を形成することが好ましい(成形工程)。ハニカム成形体は、流体の流路となる「一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル」を、区画形成する多孔質の隔壁と、最外周に位置する外周壁とを有する筒状の成形体である。尚、ハニカム成形体は、必ずしも外周壁を備える必要はない。
【0073】
押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0074】
ハニカム成形体の、外形、大きさ、隔壁厚さ、セル密度、外周壁の厚さ等は、乾燥、焼成における収縮を考慮し、作製しようとするハニカム構造体の構造に合わせて適宜決定することができる。
【0075】
得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。これにより、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる。乾燥の条件として、電磁波加熱方式にて、乾燥前の水分量に対して、30〜99質量%の水分を除いた後、外部加熱方式にて、3質量%以下の水分にすることが好ましい。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。
【0076】
ハニカム成形体の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、両端面(両端部)を切断して所望の長さとすることが好ましい。切断方法は特に限定されないが、丸鋸切断機等を用いる方法を挙げることができる。
【0077】
次に、バインダ等を除去するため、仮焼成を行うことが好ましい。仮焼成は大気雰囲気において、400〜550℃で、0.5〜20時間行うことが好ましい。仮焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。
【0078】
次に、仮焼成を行ったハニカム成形体を焼成して、4H型炭化珪素結晶の含有率が所望の値に調整されたハニカム構造体(ハニカム構造の炭化珪素質セラミックス)を作製することが好ましい(焼成工程)。焼成条件は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400〜1500℃で、1〜20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200〜1350℃で、1〜10時間、酸化処理を行うことが好ましい。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。
【0079】
上記本発明の炭化珪素質セラミックスの一実施形態の製造方法は、本発明の炭化珪素質セラミックスの一実施形態を材質とするハニカム構造体を製造する方法であるため、本発明のハニカム構造体の一実施形態の製造方法でもある。更に、本発明のハニカム構造体の一実施形態の製造方法は、本発明のハニカム構造体の一実施形態を備えた通電発熱性触媒担体の製造方法でもある。
【0080】
(4−3)炭化珪素同士の結合により形成される(バインダとしての珪素を有さない)炭化珪素質セラミックスを作製する場合には、以下の方法で炭化珪素質セラミックスを作製することが好ましい。
【0081】
まず、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末(低4H型−粉末)と、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末(高4H型−粉末)とを、混合して成形原料を調製する(成形原料調製工程)。成形原料調製の際には、上記「低4H型−粉末」と「高4H型−粉末」とを、「得られる炭化珪素質セラミックスの炭化珪素結晶中の4H型炭化珪素結晶の含有率が、所望の値になる」ように混合する。そして、金属珪素を添加せず、必要に応じて添加物を加え、成形原料を得る。
【0082】
また、15R型炭化珪素結晶を含有する炭化珪素質セラミックスを作製する場合には、低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末、又は「これらの両方」に、15R型炭化珪素結晶が含有されることが好ましい。上記「これらの両方」は、「低4H型−炭化珪素質セラミックス粉末と、高4H型−炭化珪素質セラミックス粉末との両方」を意味する。
【0083】
次に、成形原料を、必要に応じて、押出し成形等により、ハニカム構造等の所望の構造に成形し、成形体を形成する(成形工程)。
【0084】
次に、得られた成形体を、公知の方法で焼成して、4H型炭化珪素結晶の含有率が所望の値に調整された炭化珪素質セラミックスを得る(焼成工程)ことができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の炭化珪素質セラミックスを実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
4H型炭化珪素結晶の含有率が0.1質量%の炭化珪素粉末、4H型炭化珪素結晶の含有率が26.0質量%の炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を、70.0:0.0:30.0の質量割合で混合した。炭化珪素粉末は、炭化珪素質セラミックス粉末である。これに、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。得られた成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。ここで、炭化珪素粉末と金属珪素粉末とを合わせて(総称して)、「セラミックス原料」と称することがある。また、4H型炭化珪素結晶の含有率が0.1質量%の炭化珪素粉末が、「低4H型炭化珪素粉末」である。そして、4H型炭化珪素結晶の含有率が26.0質量%の炭化珪素粉末が、「高4H型炭化珪素粉末」である。バインダの含有量はセラミックス原料全体を100質量部としたときに7質量部であった。また、造孔材の含有量はセラミックス原料全体を100質量部としたときに3質量部であった。また、水の含有量はセラミックス原料全体を100質量部としたときに42質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は30μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は、25μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。
【0087】
得られた円柱状の坏土を押出成形機を用いて成形し、円筒形状のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両端部を所定量切断した。
【0088】
その後、ハニカム成形体を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体(炭化珪素質セラミックス)を得た。脱脂の条件は、550℃で3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下で、1450℃、2時間とした。酸化処理の条件は、1300℃で1時間とした。得られたハニカム構造体には、窒素は固溶されていない。
【0089】
得られたハニカム構造体の隔壁の平均細孔径は15μmであり、気孔率は40%であった。平均細孔径および気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。また、ハニカム構造体の、隔壁の厚さは120μmであり、セル密度は90セル/cm
2であった。また、ハニカム構造体の底面は直径90mmの円形であり、ハニカム構造体のセルの延びる方向における長さは100mmであった。また、得られたハニカム構造体のアイソスタティック強度は7MPaであった。アイソスタティック強度は水中で静水圧をかけて測定した破壊強度である。また、得られたハニカム構造体の隔壁を構成する炭化珪素粒子の平均粒子径は、30μmであった。ハニカム構造体の隔壁を構成する炭化珪素粒子の平均粒子径は、炭化珪素質セラミックスの断面をSEM観察して、画像処理装置によって計測した値である。
【0090】
得られたハニカム構造体について、以下の方法で「比抵抗(R
20、R
Min、R
20−R
Min)」、「最小比抵抗となる温度(T
R−Min)」、「通電時の安定性」及び「耐熱性」の測定を行った。また、以下の方法で、炭化珪素質セラミックス(ハニカム構造体)中の結晶構造の比率を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
表2において、「結晶構造比率(質量%)」の欄は、焼成体中の炭化珪素質セラミックス中の炭化珪素結晶全体に対する、各結晶構造(4H型炭化珪素結晶、6H型炭化珪素結晶等)の比率(質量%)を示す。また平均粒子径(μm)の欄は、炭化珪素質セラミックス中の炭化珪素粒子の平均粒子径(μm)を示す。炭化珪素質セラミックスの断面・膜面をSEM観察して、画像処理ソフト(ImageJ)によって計測した値である。また、金属珪素の含有率(質量%)は、炭化珪素質セラミックス中の、炭化珪素粒子全体と金属珪素の合計に対する金属珪素の含有率を示す。金属珪素の含有率は、蛍光X線分析により測定した値である。また、気孔率は、炭化珪素質セラミックスからなるハニカム構造体の隔壁の気孔率を示す。
【0092】
また、表2の「通電時の安定性」の欄においては、通電時の担体内の温度分布が50℃以下の場合を「A」とした。そして、通電時の担体内の温度分布が100℃以下(且つ、50℃超)の場合を「B」とした。そして、通電時の担体内の温度分布が100℃超の場合を「C」とした。ここで、「担体内の温度分布が50℃以下」というときの「担体内の温度分布」は、担体内の最高温度と最低温度との差を意味する。「A」及び「B」は、いずれも合格である。また、表2の「耐熱性」の欄においては、3C型炭化珪素結晶の転移率が、元の含有率の5%以下の場合を「A」とした。そして、3C型炭化珪素結晶の転移率が、元の含有率の10%以下(且つ、5%超)の場合を「B」とした。「A」及び「B」は、いずれも合格である。
【0093】
(比抵抗の測定)
ハニカム構造体(炭化珪素質セラミックス)から、4mm×2mm×40mmの試験片を切り出し、4端子法により抵抗値を測定する。抵抗値は、20℃で測定し、更に、100℃から800℃まで、100℃毎に測定する。得られた抵抗値より、比抵抗を算出する。
【0094】
(結晶構造の比率の測定)
炭化珪素の結晶多形の定量は、粉末試料のX線回折法(Ruskaの方法(J.Mater.Sci.,14,2013−2017(1979)))で行う。
【0095】
(最小比抵抗となる温度)
「比抵抗の測定」において、比抵抗の値が最小となる温度を「最小比抵抗となる温度(T
R−Min)」とする。
【0096】
(通電時の安定性)
通電時の安定性は、600Vで通電した時の担体内の温度分布を、熱電対を用いて測定し(ハニカム構造体内を、均等に39箇所、温度測定する。)、担体内の平均温度が500℃に達した時の温度分布を求めることにより、評価した。
【0097】
(耐熱性)
耐熱性は、上記「通電時の安定性」の試験と同様にして、担体内の平均温度が500℃に達するまで、600Vでの通電を行い、500℃に達した後に通電を止めて50℃まで冷却する。この昇温、冷却を1サイクルとし、このサイクルを100サイクル繰り返した後の3C型炭化珪素結晶の転移率を求めることにより、評価した。3C型炭化珪素結晶の転移率は、耐熱試験前の3C型炭化珪素結晶の含有率から耐熱性試験後の3C型炭化珪素結晶の含有率を引いた値を、耐熱試験前の3C型炭化珪素結晶の含有率で除して、得られた値を100倍した値である。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
(実施例
3〜11,13〜27,30〜35,39〜51、参考例
2,12,28,29,36〜38、比較例1〜3)
製造条件の一部を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体(炭化珪素質セラミックス)を作製した。得られたハニカム構造体について、上記方法で「比抵抗」の測定を行った。結果を表2に示す。尚、表1において、「低4H型炭化珪素粉末」の「含有率(質量%)」の欄は、炭化珪素粉末全体と金属珪素の合計に対する、「低4H型炭化珪素粉末」の含有率を示す。また、「高4H型炭化珪素粉末」の「含有率(質量%)」の欄は、炭化珪素粉末全体と金属珪素の合計に対する、「高4H型炭化珪素粉末」の含有率を示す。「低4H型炭化珪素粉末」の「結晶構造比率(質量%)」の欄は、低4H型炭化珪素粉末中の炭化珪素結晶全体に対する、各結晶構造(4H型炭化珪素結晶、6H型炭化珪素結晶等)の比率(質量%)を示す。また、「高4H型炭化珪素粉末」の「結晶構造比率(質量%)」の欄は、高4H型炭化珪素粉末中の炭化珪素結晶全体に対する、各結晶構造(4H型炭化珪素結晶、6H型炭化珪素結晶等)の比率(質量%)を示す。また、金属珪素の含有率(質量%)は、炭化珪素粉末全体と金属珪素の合計に対する金属珪素の含有率を示す。また、造孔材の含有量は、「炭化珪素粉末全体と金属珪素の合計」を100質量部としたときの、含有比(質量部)で示している。
【0101】
表1、表2より、実施例1
,3〜11,13〜27,30〜35,39〜51の炭化珪素質セラミックス(ハニカム構造体)は、20℃における比抵抗(R
20)と、最小比抵抗(R
Min)との差(R
20−R
Min)が小さく、比抵抗の温度変化が小さいことがわかる。これに対し、比較例1の炭化珪素質セラミックスは、4H型炭化珪素結晶を含有しないため、R
20−R
Minが大きく、比抵抗の温度変化が大きいことがわかる。また、最小比抵抗となる温度が高いことが分かる。また、比較例2の炭化珪素質セラミックスは、4H型炭化珪素結晶の含有率が大きい。そのため、20℃における比抵抗(R
20)が小さく、通電により発熱する効果が低いと考えられる。また、比較例3の炭化珪素質セラミックスは、4H型炭化珪素結晶の含有率が大きく、6H型炭化珪素結晶の含有率が小さい。そのため、20℃における比抵抗(R
20)が小さく、更に、最小比抵抗となる温度が高いことがわかる。