【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、粒度分布d
90が10μm以下、特に好ましくは5μm以下である遷移金属化合物の非凝集ナノ粒子を含むナノ粒子組成物により解決される。本発明において、前記遷移金属化合物は、純粋な「二元系」遷移金属化合物(すなわち単一のアニオン又はカチオンから構成される)及び複数種の遷移金属カチオン及び/又はアニオンを含みうる混合型(「多元系」)すなわち「ドープ型」遷移金属化合物である。
【0016】
本明細書において、「非凝集」とは、独立した数個の粒子からなる粒子、すなわち、いわゆる凝集塊(二次粒子)を形成して粒径が15μm超となる粒子がナノ粒子組成物に存在しないことをいう。言い換えると、本発明の組成物は、いわゆる一次粒子のみからなる。
【0017】
本発明の組成物の粒度分布は単一ピークであることが好ましく、d
50値が0.2〜1μmであることが特に好ましい。驚くべきことに、本発明のナノ粒子組成物は、ほぼ微細結晶性ナノ粒子のみを含み、非晶質粒子が存在しないことがわかった。
【0018】
本発明のナノ粒子組成物は、チタン、鉄、ニッケル、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ、セリウム、バナジウム、その組み合わせの酸化物、リン酸塩、硫酸塩から選ばれる物質を含むことが好ましい。FePO
4・2H
2O(リン酸鉄(III))やFe
3(PO
4)
2(リン酸鉄(II))等のリン酸鉄、二酸化チタン(TiO
2)、Li
4Ti
5O
12、LiFePO
4、及びそのドープ化合物が特に好ましい具体例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
リン酸鉄(III)は従来から知られており、その製造方法は、例えば英国特許第962182号明細書に記載されている。しかしながら、従来のリン酸鉄(III)(FePO
4・2H
2O)の平均粒径d
50は、小さくても10〜20μm程度であった。現時点で、更に微細な粒径は達成されていないか、達成されていても、製造方法や高濃度の硫酸塩の混在のため困難を伴っていた。
【0020】
特に好適な具体的実施形態において、上記材料から製造した本発明のナノ粒子の粒度分布は単一のピークを有する。特に、FePO
4粒子及びFe
3(PO
4)
2粒子の特に好ましい平均粒度分布(d
50)は0.3〜0.8μmであり、さらに好ましくは0.4〜0.7μmである。これは、従来公知のリン酸鉄(III)及びリン酸鉄(II)の粒度分布(d
50)よりもかなり低い値である。
【0021】
現在ほとんどの場合に使用されている硫酸塩含有リン酸鉄(III)(原料物質として硫酸鉄を使用するためほぼ必然的に使用されている)とは異なり、FePO
4・2H
2Oを含む本発明のナノ粒子組成物は、ほぼ硫酸塩を含まない。本明細書において「ほぼ」とは、通常使用される分析方法によって測定精度限界内で硫酸塩が検出されないことを意味する。
【0022】
FePO
4・2H
2O又はFe
3(PO
4)
2、TiO
2又はLiFeO
4を含む本発明の組成物の更に重要な側面は、上述したように、当該組成物の粒子は微細かつ結晶性を有し非晶質状態で存在しないこと、すなわち、従来の他のFePO
4、Fe
3(PO
4)
2、TiO
2、LiFeO
4のナノ粒子の大部分において通常生成するような非晶質粒子を有さないことである。
【0023】
本発明の有利な態様において、本発明の組成物は界面活性剤を更に含む。
【0024】
驚くべきことに、界面活性剤が存在することにより、組成物における個々のナノ粒子が互いに分散し続ける(すなわち、最終乾燥後に分散し続ける)ため、高周囲湿度等の典型的な凝集形成条件下においても凝集しない粉体として本発明の組成物を使用できることがわかった。周囲湿度は、特に金属リン酸塩系、遷移金属リン酸塩系、酸化物系、炭酸塩系、及び硫酸塩系のナノ粒子に影響を及ぼす。
【0025】
前記界面活性剤はイオン性であることが好ましく、ナノ粒子の化学構造や化学的性質に応じてカチオン性またはアニオン性とすることができる。
【0026】
また、前記界面活性剤は、組成物全重量に対して0.01〜2重量%で添加可能であることがわかった。0.01重量%未満であると、ナノ粒子同士が分散し続け、凝集体を形成しないことが保証できない。また、2重量%を超えると、界面活性剤の量が多いため凝集塊が同様に形成してしまう。しかしながら、ろ過が困難になるため1重量%未満とすることが好ましい。
【0027】
特に、TiO
2、Fe
3(PO
4)
2、LiFeO
4、FePO
4を含む本発明の組成物の場合は、前記界面活性剤は、例えばPraestol
(R)凝集剤シリーズ(Stockhausen GmbH & Co社製)のように、弱カチオン性であることが好ましい。
【0028】
弱カチオン性の界面活性剤は、組成物全体の重量に対して0.01〜1重量%で添加することが有利であることがわかった。これにより、組成物中に対応する物質、特にTiO
2、LiFeO
4、Fe
3(PO
4)
2、FePO
4・2H
2Oの結晶子が微細に分散する。1重量%を超えると、後述する本発明の方法による生成物のろ過が不可能になり、ほぼ凝集塊だけが生じてしまう。
【0029】
チタン(IV)化合物の加水分解によるTiO
2の製造において、カチオン性多価電解質を添加することも既に知られているが(欧州特許出願公開第260664A2号明細書)、組成物全量に対して4重量%超、より好ましくは5.5重量%超の量が要求される。本発明のように界面活性剤を少量使用する前例はない。
【0030】
さらに、本発明の前記目的は、ナノ粒子を溶液内に析出させたあと界面活性剤を添加する工程を含む、ナノ粒子組成物の製造方法により達成される。
【0031】
遷移金属化合物の酸化物、炭酸塩、硫酸塩又はリン酸塩を含むナノ粒子組成物の製造方法は、
(a)遷移金属原料化合物の酸水溶液を準備するステップと、
(b
1)任意で、アルカリ水酸化物溶液を添加するステップと、
(b
2)好適なアニオンを含む酸を添加するステップと、
(c)析出物の析出開始後に界面活性剤を添加するステップと、
(d)前記析出物をろ取するステップと、を含む。
【0032】
本明細書において「アルカリ水酸化物溶液」とは、KOH溶液又はNaOH溶液をいう。
【0033】
本明細書において「好適なアニオン」とは、遷移金属原料化合物と共に、使用する溶媒に不溶な析出物を形成するアニオンをいう。
【0034】
例えば、TiO
2ナノ粒子の製造では水による加水分解のみが必要とされる。つまり、水は「酸」として機能する。
【0035】
ステップ(b
1)は任意である。例えばTiO
2粒子の場合、加水分解により既にTiO
2が形成されているので塩基の添加が不要だからである。
【0036】
本発明の製造方法により得られるナノ粒子は、二元系又は多元系化合物として析出する。したがって、本発明の製造方法により、ほぼ無限数の化合物を製造することができる。
【0037】
前記製造ステップ(a)〜(d)のうちの少なくとも1つのステップ、好ましくは最初のステップ(a)(残りのステップは室温で行われる)、より好ましくはステップ(a)〜(c)の全てのステップが、60〜170℃、より好ましくは60〜150℃、特に好ましくは60〜110℃の温度範囲で行われる。
【0038】
ステップ(c)における界面活性剤の添加は、通常、析出開始後、特に好ましくは析出終了後に行う。これにより、界面活性剤の添加前は超微細分散したサスペンションとして存在していた析出物が、はっきりと認識できる程度に凝析する。その結果、遠心処理等を行わなくても、市販のフィルターで簡単にろ取することができる。
【0039】
ろ取後、ナノ粒子組成物を250℃以下の温度で乾燥させることができる。
【0040】
正確な化学量論組成及び取扱い性の観点から、二元系又は多元系ナノ粒子の原料化合物は水溶性とすることが好ましい。
【0041】
驚くべきことに、本発明の製造方法を用いる結果、特に析出開始後に界面活性剤を添加することによって、粒径が0.3〜0.8μm、特に好ましくは0.4〜0.7μmである、微細な結晶性の非凝集ナノ粒子が得られることがわかった。これは、水酸化物析出法に基づく製法では予期されなかったものであり、特に、FePO
4・2H
2O、Fe
3(PO
4)
2、LiFeO
4、TiO
2等の場合に当てはまる。本明細書において「析出開始後」とは、上述したとおり、析出プロセスの終了後の界面活性剤の添加を含む。
【0042】
例えばFePO
4・2H
2Oの場合、0.009mol/LのFeCl
3・H
2O及び0.0027mol/LのH
3PO
4を用いて、FeCl
3からリン酸鉄が得られることが知られており(P. Reale and B. Scrosati Chem. Mater. 5051 2003)、化学式FePO
4・2H
2Oで表される構造の異なる3種類の相、すなわち、ストレンジャイト、メタストレンジャイトI、メタストレンジャイトIIが、それぞれ異なるpHで析出・形成される。
【0043】
本文献によれば、0.04M NaOHの添加によりストレンジャイトが形成され(pH=3〜4);何も添加しない場合はメタストレンジャイトIが形成され(pH=1〜2);0.5M HClの添加によりメタストレンジャイトIIが形成される(pH=0〜1)。単一相となるまで必要とする反応時間は、ストレンジャイトの2日、メタストレンジャイトIの7日、メタストレンジャイトIIの12日の順で大きくなる。著者はまた、強酸条件下(pH=0〜1)において混合相が形成され、前記反応時間は12日よりも短いと述べている。ストレンジャイト相はまた、同名の天然ミネラルとしても存在し、メタストレンジャイトIIは、天然のミネラルであるフォスフォシデライトと同等であると考えられている。メタストレンジャイトIは、天然及び合成のいずれの相としても記載されていない。
【0044】
生成物の低ろ過性により、また様々な相が生じる結果、問題が発生する。
【0045】
驚くべきことに、本発明の製造方法では、前記文献(Reale and Scrosati)とは異なり、「ストレンジャイトFePO
4が最初に形成された後、メタストレンジャイトI相及びメタストレンジャイトII相が長時間反応後に形成されること」は観察されなかった。
【0046】
本発明の製造方法では、通常、メタストレンジャイトIが直ちに形成される。FeCl
3溶液、好ましくはNaOH又はKOH溶液も60〜170℃、より好ましくは60〜150℃、特に好ましくは60〜110℃に加熱され、かつ、当該FeCl
3溶液の濃度の30〜50%である本発明のFePO
4・2H
2Oの製造方法の収率は90%超と高く、凝集塊(二次粒子)の無い、一次粒子の超微細分散結晶性物質が形成される。
【0047】
塩化鉄(III)を使用する場合の欠点は、原料物質の塩化物含有量が高くなることである。塩化物は、製造中及び後に使用するときに強い腐食性を示すからである。製造中は通常の金属製容器を使用することはできないため、例えば、少なくとも内側面に酸耐性塗膜を設ける。さらに、生成物を激しく洗浄して、低塩化物濃度としなければならないと考えられている。
【0048】
従来より、遷移金属化合物の製造に苛性ソーダ溶液又は苛性カリ溶液を析出剤として使用しないことが推奨されていた。非ろ過性生成物が生じ、所定以上の苛性ソーダ溶液濃度又は苛性カリ溶液濃度で高度に凝集してしまうからである。
【0049】
本発明によれば、特に、苛性ソーダ溶液又は苛性カリ溶液を塩酸鉄(III)溶液に添加することにより、発熱した反応溶液内に水酸化鉄(III)を中間生成物として析出させ更にリン酸と反応させてリン酸鉄(III)を得た場合に、本発明の粒度分布を有するナノ結晶性リン酸鉄(III)が得られる。水酸化鉄(III)を中間析出させないと、形成される凝縮核が少なすぎるため、大粒径となってしまう。
【0050】
NaOH溶液又はKOH溶液は、鉄1モルに対して約2モルの濃度で使用することが好ましく、これにより、水酸化鉄の中間析出において良好な結果が得られる。
【0051】
本発明の製造方法で得られるFePO
4・2H
2O又はFe
3(PO
4)
2は、例えば、従来公知の固相法や、同様に広く公知であるいわゆる熱水法によるリン酸鉄リチウム又は混合型(ドープ型)リン酸遷移金属リチウムの製造に特に好適である。
【0052】
さらに、本発明の前記目的は、
(a)FePO
4・2H
2Oを含む本発明のナノ粒子組成物を、
(b)LiOH、Li
2O、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、Li
2CO
3から選ばれる化学量論等量のリチウム化合物と、熱分解条件下、すなわち、固相反応により反応させる、LiFePO
4ナノ粒子の製造方法によって達成される。好ましい実施形態において、Co、Ti、Ni、V、W、Pd、Ru、Cu、Mn、Ba、Sr、Nd、Mgから選ばれる遷移金属Mの遷移金属化合物を更に添加する。
【0053】
典型的な化合物は、そのリン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物である。以上により、対応するドープ型リン酸鉄リチウムLiFe
1−xM
xPO
4(x<1)が得られる。式中、Mは、欧州特許出願公開第1,325,525A1号明細書、欧州特許第904607号明細書、及び米国特許出願公開第2003/0082454号明細書に記載されているように、前述の遷移金属元素元素の組み合わせであってもよい。本文献は、その内容全体を本明細書に援用する。
【0054】
本発明によれば、ドープ型又は非ドープ型のリン酸鉄リチウムの製造方法はまた、熱水的、すなわち溶液(通常は水溶液)中で行うことができる。具体的には、
(a)Fe
3(PO
4)
2を含む本発明のナノ粒子組成物を、
(b)LiOH、Li
2O、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、Li
2CO
3から選ばれる化学量論等量のリチウム化合物及びリン酸塩源と、熱水反応させる。
【0055】
水溶性遷移金属化合物(遷移金属Mは、Co、Ti、Ni、V、W、Pd、Ru、Cu、Mn、Ba、Sr、Nd、Mgから選ばれる)を添加することによって、対応するドープ型リン酸鉄リチウムLiFe
1−xM
xPO
4(x<1)も当該合成ルートによって得ることができる。遷移金属Mは、前述の遷移金属の組み合わせであってもよい。典型的な可溶性化合物としては、前述の遷移金属の硝酸塩、酢酸塩、塩化物、カルボン酸塩、臭化物、硫酸塩、水酸化物、リン酸塩が挙げられる(国際公開第2005/051840A1号を参照)。また、例えば、リン酸(特に非ドープ型LiFePO
4製造の場合)又はドープ型混合金属のリン酸塩が、本発明におけるリン酸塩源として使用される。
【0056】
前記熱水的製造法におけるステップ(a)〜(c)は、60〜170℃、特に好ましくは100〜150℃の温度範囲で行うと有利である。析出反応の全収率が室温で行った場合と比較して向上するからである。
【0057】
同様に、本発明によれば、Li
4Ti
5O
12を熱分解及び熱水プロセスの両方で製造することができる。熱水プロセスでは、TiO
2を含む本発明のナノ粒子組成物と、LiOH、Li
2O、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、Li
2CO
3から選ばれる化学量論等量のリチウム化合物とを、500〜750℃の温度範囲で熱水反応させる。
【0058】
驚くべきことに、FePO
4・2H
2O、Fe
3(PO
4)
2、TiO
2等を含む本発明の組成物は、焼成後、本発明の方法によりLiFePO
4又はLi
4Ti
5O
12或いはそのドープ型誘導体とした場合においてもナノ粒子の粒度を維持しており;原料物質への界面活性剤の添加は、LiFePO
4又はLi
4Ti
5O
12或いはそのドープ型誘導体の合成中における粒子の凝集抑制に効果をもたらしていることがわかった。つまり、本発明に従って界面活性剤と共に析出させたFePO
4、Fe
3(PO
4)
2又はTiO
2から、LiFePO
4又はLi
4Ti
5O
12の純粋又はドープ型超微細分散結晶性ナノ粒子が得られる。
【0059】
したがって、本発明によれば、更に反応させて生成物を得た場合でも、その微細分散性を維持する超微細分散材料を得ることができる。
【0060】
好適な実施形態において、欧州特許出願公開第1049182A1号明細書等に記載されているように、炭素源存在下で前記合成を行う。本文献は、その内容全体を本明細書に援用する。
【0061】
特に好適な実施形態において、本発明の好適な組成物(未焼成)に含有させた界面活性剤を炭素源とする。これにより、別途の炭素源添加を省略することができるため、LiFePO
4、Li
4Ti
5O
12又はそのドープ型誘導体の炭素被覆ナノ粒子の更なる製造手段が提供される。