(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883859
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】歯科複合材料用充填材
(51)【国際特許分類】
A61K 6/027 20060101AFI20160301BHJP
A61K 6/083 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
A61K6/027
A61K6/083 500
【請求項の数】17
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-519062(P2013-519062)
(86)(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公表番号】特表2013-531019(P2013-531019A)
(43)【公表日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】EP2011061793
(87)【国際公開番号】WO2012007440
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2014年5月8日
(31)【優先権主張番号】10169498.2
(32)【優先日】2010年7月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513010468
【氏名又は名称】グラーツヴェルケ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】クルーバー ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ドッジ トーマス
【審査官】
鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】
特公平06−000662(JP,B2)
【文献】
特開平09−077624(JP,A)
【文献】
J Adhes Sci Technol ,2009年,Vol.23,No.7/8,Page.1177-1186
【文献】
Mater Chem Phys ,2008年,Vol.112,No.2,Page.432-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5〜5μmの平均粒径(d50)を有する長石または長石誘導体の粒子を含む歯科材料用粉末充填材であって、前記粒子が反応性基を含有するケイ素化合物によるコーティングを有し、前記歯科材料は複合材料である、歯科材料用粉末充填材。
【請求項2】
前記反応性基が重合性基を含む、請求項1に記載の粉末充填材。
【請求項3】
前記重合性基が、エポキシ基またはビニル基を含む、請求項2に記載の粉末充填材。
【請求項4】
前記重合性基が、メタクリル基またはアクリル基を含む、請求項2に記載の粉末充填材。
【請求項5】
前記長石が、斜長石またはアルカリ長石の群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の粉末充填材。
【請求項6】
前記長石が、ペルト長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石およびSiO2欠乏長石誘導体、ならびにこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の粉末充填材。
【請求項7】
前記SiO2欠乏長石誘導体は、霞石を含む、請求項6に記載の粉末充填材。
【請求項8】
前記長石が、0.5〜3.5μmの平均粒径(d50)を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の粉末充填材。
【請求項9】
前記長石が、0.8〜1.5μmの平均粒径(d50)を有する、請求項8に記載の粉末充填材。
【請求項10】
前記長石が透明である、請求項1から9のいずれか一項に記載の粉末充填材。
【請求項11】
前記充填材が、二峰性粒径分布を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の粉末充填材。
【請求項12】
前記二峰性粒径分布の一方のピークが0.5〜1μmの範囲内にあり、および第二のピークが1〜3.5μmの範囲内にある、請求項11に記載の粉末充填材。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の粉末充填材の製造方法であって、
以下の工程:
長石を粉砕する工程と、
得られる粒子を、反応性ケイ素化合物を用いてシラン処理する工程と
を有する粉末充填材の製造方法。
【請求項14】
歯科複合材料であって、
60〜90重量%の請求項1から12のいずれか一項に記載の粉末充填材と、
10〜40重量%の重合性樹脂であって、前記重合性樹脂は、前記反応性基と反応することができる重合性樹脂と、
を含有する歯科複合材料。
【請求項15】
前記歯科複合材料が、光で硬化できる、請求項14に記載の歯科複合材料。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載の硬化した複合材料を含有する歯科材料。
【請求項17】
歯科材料の製造における充填材としての請求項1から12のいずれか一項に記載の粉末充填材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科材料用充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野では、複合材料が、従来の材料、例えばアマルガムに取って代わっている。この本質的な理由の1つは、より良くなった美観である。複合材料は、歯の色に合うよう種々様々な色に着色することができる。
【0003】
複合材料は、重合性合成樹脂と充填材からなる。典型的には、重合性樹脂は、UV線を用いて硬化される。したがって、前記材料は、UV透過性である必要がある。多くの場合、硬化性合成樹脂は、アクリレート、例えばビスフェノールA−グリシジルメタクリレートである。
【0004】
現在複合材料に用いられる典型的な充填材としては、シリカ、ガラスおよびセラミックが挙げられる。複合材料において、充填材は、典型的には約70〜85%の量で含有されるので、複合材料の特性に本質的に関与する。特に複合材料の特性を決定する充填材の特性は、粒子分布と粒子形状である。
【0005】
多くの場合、充填材は、X線画像を作成する場合に充填材を鮮明な輪郭をもつ形状として認識できるように、それ自体X線不透過性である。しかし、放射線不透過性が関係しない用途もある。
【0006】
実質的に全ての複合材料において、充填材と合成樹脂の間の結合を強化するために、充填材を前処理する必要がある。複合材料の品質の一つの本質的な側面は、収縮である。収縮する複合材料は、複合材料と歯の間の間隙を広げ、この間隙は、歯科材料においてさらなる侵襲を招き得る。
【0007】
実用的応用に関連する別の特性としては、良好な研磨性、良好な取扱適性、光学的性質(例えば、UV透過性、低い変色)、良好な硬化特性が挙げられ、勿論、価格も挙げられる。
【0008】
米国特許第7,294,392B2号公報には、多孔質マトリックスを形成するために4.5μmの平均粒径d50を有する長石粒子から焼結される複合材料が開示されている。このようにして形成される多孔質マトリックスは、後の工程でシラン処理され、更なる工程でポリマーが充填される。
【0009】
欧州特許出願公告第1225867B1号公報には、≦0.3μmの平均粒径を有するシラン処理長石粒子から成る歯科材料が開示されている。
【0010】
欧州特許出願公開第0747034A1号公報から、特に、3〜6μmの平均粒径d50を有する長石粒子を含有するペースト不透明体が知られている。
【0011】
米国特許第3,400,097号公報には、ポーセリン補綴材の調製のための200〜325メッシュの粒度を有するシラン処理長石粒子から成るフリットが開示されている。
【0012】
種々様々な異なる複合材料および複合材料用充填材が存在するが、少なくとも幾つかの領域において改善されることが好ましい異なる特性を有する別の充填材に対する要求が未だにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7,294,392B2号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公告第1225867B1号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第0747034A1号公報
【特許文献4】米国特許第3,400,097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、このような充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、長石または長石誘導体の粒子であって0.25〜5μmの平均粒径(d50)を有し、および反応性基を含有するケイ素化合物によるコーティングを有する長石または長石誘導体の粒子からなる歯科材料用粉末充填材によって達成される。
【0016】
したがって、本発明によれば、前記粉末充填材は、長石または長石誘導体からなる。特に、長石誘導体としては、二酸化ケイ素欠乏材料、いわゆるフォイドまたは准長石が挙げられる。
【0017】
本発明の粒子は、0.25〜5μmの平均粒径を有する。平均粒径は、d50と呼ばれる。これは、粒子混合物の50%(重量)が、対応する直径の篩を通過することができ、同時に50%が保持されることを意味する。
【0018】
本発明の長石粒子または長石誘導体粒子は、反応性基を含有するケイ素化合物によるコーティングを有する。一方では、コーティングは、充填材と反応することができなければならないし、他方では、反応性基が残らなければならない。このような反応剤も、シリカまたはガラスを基材とした他の充填材に用いられる。
【0019】
一方、反応剤は、長石と反応することができる修飾ケイ素化合物、例えばトリメトキシシラン基を有する。
【0020】
また、生成物は、好ましくは、合成樹脂と重合することができる重合性基、例えばエポキシド基、アクリレート基またはメタクリレート基、あるいはビニル基を含有する。
【0021】
このための反応剤は、当業者には公知である。典型的な反応剤としては、例えば、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0022】
幾つかの実施形態において、充填材を被覆するために異なる変性剤を混合することが合理的である。
【0023】
長石として、斜長石またはアルカリ長石の群のメンバーが、特に適していることが判明している。適当な鉱物としては、特に、ペルト長石、曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、亜灰長石、灰長石およびSiO
2欠乏長石誘導体、例えば霞石、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
好ましくは、長石の平均粒径は、0.5〜3.5μmの範囲内にあり、好ましくは0.8〜1.5μmの範囲内にある。
【0025】
好ましくは、長石または長石誘導体は、例えば、前記の長石または長石誘導体を充填材として使用する系で光開始重合できるように、透明である。
【0026】
好ましくは、光は、青色光であり、400〜520nmの波長範囲を有する。適当な光源としては、ハロゲンランプまたは発光ダイオード、いわゆるLEDが挙げられる。
【0027】
1つの実施形態において、充填材は、少なくとも二峰性粒径分布を有する。すなわち粒度分布において2つまたはそれ以上のピークが存在する。このような場合、好ましくは、一方のピークは、0.5〜1μmの範囲内にあり、他方のピークは、1〜3.5μmの範囲内にある。このような二峰性またはそれ以上のモード分布は、例えば、材料を別々に粉砕し、所定のサイズの2つの粒度分布に篩い分けし、その後にこれらを混合することによって調製される。
【0028】
混合は、同じ重量のこれらの粒子群または異なる重量のこれらの粒子群を用いて行うことができる。例えば、一方の粒度分布は、30〜70重量%の量で用いることができ、これに対して他方の粒度分布は、70〜30重量%の範囲内で用いることができる。
【0029】
長石を適当なサイズに粉砕するために、多くの場合、2段階粉砕を用いることが合理的である。
【0030】
最初の粉砕のために特に好ましい変法は、いわゆるエアジェット自己粉砕である。この方法では、粒子を加速し、衝突させ、それによって粉砕する。したがって、長石は、約1.5μmに至る粒度範囲に粉砕できる。
【0031】
さらなる粉砕のために、特に、例えばアジテーターボールミルを使用する湿式粉砕法が適している。湿式粉砕法の後に、充填材を乾燥させる。
【0032】
特に好ましい実施形態において、粉砕媒体の屈折率が使用する長石または長石誘導体の屈折率に近い粉砕媒体が、粉砕のために用いられる。好ましくは、用いる粉砕媒体の屈折率と長石の屈折率の差は、0.005以下である。例えば、アジテーターボールミルでは、対応する屈折率のガラスビーズを、粉砕媒体として用いてもよい。好ましくは、得られる粉砕媒体は、粉砕媒体摩滅粒子由来の混濁物を0.5重量%未満含有する。これは、例えばX線蛍光分析により決定できる。
【0033】
乾燥後に、充填材は、公知の方法でシラン処理される。この方法は、他の支持体のシラン処理とは基本的に異ならない。
【0034】
特に好ましい実施形態において、60〜90重量%の粉末充填材と10〜40重量%の重合性樹脂を含有する歯科複合材料が、形成される。
【0035】
好ましくは、歯科複合材料は、光で重合させるかまたは硬化させる。通常、400〜520nmの波長範囲を有する光を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、0.3μmの粒度の本発明の充填材を示す。
【
図2】
図2は、3.5μmの粒度の本発明の充填材を示す。
【
図3】
図3は、硬化させ、表面を磨いた後の本発明の材料を使用して得られた複合材料を示す。画像は、走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施例1)
ビス−GMA(2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メチルアクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン)を、TEGDMA(2−メチル−2−プロペン酸)と一緒に含有する重合性合成樹脂を調製した。カンファーキノンと2−ジメチルアミノエチルメタクリレートを、光開始剤として用いた。
【0038】
γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで被覆された長石が、長石としての機能を果たした。重合性樹脂と充填材の混合は、手動混合で行った。以下の長石粒度を使用した。
a)粒度0.3μm
b)粒度0.8μm
c)粒度3.5μm
d)0.8μmの充填材と3.5μmの充填材が重量比で40:60の混合物
【0039】
比較例として、以下を用いた。
C1:バリウムガラス、粒度0.7μm(Schott社のGM 39923)
C2:バリウムガラス、粒度1.0μm(Schott社のGM 27884)
【0040】
(実施例2)
以下の複合材料を調製した。
充填材a)60%、合成樹脂40%
充填材b)67%、合成樹脂33%
充填材c)73%、合成樹脂27%
充填材d)74%、合成樹脂36%
充填材C1: 68%、合成樹脂32%
充填材C2: 72%、合成樹脂28%
【0041】
硬化は、6mm試験片についてDentacolor XS(Heraeus Kulzer)を用いて180秒間行った。
その後に、材料の種々の特性を調べた。結果を、以下の表に示す。
【0043】
ストロンチウムまたはバリウムガラスを基材とする通常の歯科充填材と比べると、本発明の充填材は、それと同じかまたは部分的に改善された機械的性質を示した。複合材料系において、極めて良好な硬化結果が、本発明の充填材を用いることで得られた。
【0044】
線収縮は、1.4〜1.7%であり、したがって従来技術よりも良好であった。高い充填材含有量が達成できたが、それにもかかわらず、本発明の複合材料の良好な加工性が認められた。本発明の材料は、透明性が高いので、何ら色の変化が生じなかった。