特許第5883861号(P5883861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883861第一及び第二半導体の混合物から成る有機半導体層の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883861
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】第一及び第二半導体の混合物から成る有機半導体層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20160301BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20160301BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
   H01L31/04 182Z
   H01L31/04 112A
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 220A
   H01L29/28 310A
   H01L21/368 L
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-520177(P2013-520177)
(86)(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公表番号】特表2013-539597(P2013-539597A)
(43)【公表日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】FR2011051332
(87)【国際公開番号】WO2012010759
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年5月12日
(31)【優先権主張番号】1055990
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】モハメド・ベンワディ
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0194167(US,A1)
【文献】 特表2008−523571(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0221914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51、31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一及び第二有機半導体材料の混合物から形成される有機半導体層(38)の製造方法であって、
有効多孔率を備え、且つ前記第二半導体材料を受け入れ可能な、前記第一半導体材料から形成される多孔質固体体積(32)を形成する段階と、
前記第一半導体材料に対して不活性であり、且つ前記第二半導体材料の蒸発温度未満の蒸発温度を有する溶媒(A)中に溶解又は分散された前記第二半導体材料を含む液体(32)を少なくとも前記多孔質固体体積の外面上に堆積する段階と、
前記多孔質固体体積(32)が少なくとも部分的に前記液体で含浸されるとすぐに、前記溶媒の蒸発温度より高く、且つ前記第一及び前記第二半導体材料の蒸発温度未満の温度まで加熱することで前記溶媒(A)を蒸発させる段階と、を含み、
前記多孔質固体体積の形成が、溶媒中に溶解又は分散された前記第一半導体材料の溶液中へ気泡を導入するための気体を加える段階と、続く前記溶媒を蒸発させる段階とを含み、前記溶媒の蒸発温度が前記第一半導体材料の溶液中へ気泡を導入するための前記気体蒸発温度未満であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第一半導体材料がP3HTであり、及び前記第二半導体材料がPCBMであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一及び第二半導体材料の混合物から形成される有機半導体層の、より具体的には有機光電子装置、特にフォトダイオードの形成に関与する有機半導体層の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1を参照すると、これは先行技術の有機フォトダイオード10の簡略化された断面図であり、通常このようなフォトダイオードは、例えばガラス製である透明基板12と、例えば“ITO”と通常呼ばれるインジウムスズ酸化物から形成される第一電極を形成する層14と、例えば一般的に“PEDOT”と呼ばれるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、及び一般的に“PSS”と呼ばれるポリスチレンスルホン酸ナトリウムの混合物から形成され、このような混合物自身は通常“PEDOT:PSS”と呼ばれる注入層16であって、第一電極14から活性半導体層18への正孔の移動を容易にする注入層16と、2つの有機半導体材料P及びNの混合物、通常は2つのポリマーの混合物、例えば一般的に“P3HT”と呼ばれるポリ(3−ヘキシルチオフェン)と、一般的に“PCBM”と呼ばれる[6,6]フェニルC61酪酸メチルエステルとの混合物から形成されるPN接合を形成する活性半導体層18と、例えばカルシウム、銀、又はアルミニウムから形成され、電子のみを集めることが可能な低い仕事関数が理由でカルシウムが好まれる第二電極を形成している層20から形成された下から上への積み重ねを含む。
【0003】
動作中、電磁波放射は基板12を照射し、活性層18に到達する光子は電子正孔対を生成する。フォトダイオード10の照射に依存する値で電極14及び20に電位差を与えることによって、その後電流が集められる。
【0004】
しかしながらこのようなフォトダイオード10の効率は、P型有機半導体材料、例えばP3HTと、N型有機半導体材料、例えばPCBMとの間の活性層18に存在する接触面積に依存し、接触面積の減少に伴って効率は急速に減少する。さらに、効率は領域の大きさにも依存し、電荷が再結合せずにそれらを横切って電極へ到達できるように、領域の拡張は小さくなくてはならない。そのため、この点で理想的な活性層18は、分子スケールで均一な2つの有機半導体材料の混合物によって形成される。
【0005】
しかしながら、現在の堆積技術ではこのような均一性を得ることはできない。実際に活性層18は、その中に溶解又は分散された有機半導体材料を有する溶媒を含む溶液の堆積によって、及びその後の溶媒の蒸発によって通常は形成される。
【0006】
溶媒蒸発速度が小さすぎるときは、その後相分離が観測されることがあり、第一半導体材料の層22及び第二半導体材料の層24から最終的に層18が形成される。それ故、2つの材料の間にある接触面26は非常に小さく、フォトダイオード10の効率は減少する。
【0007】
図2Aから図2Dに示されるように、この問題はまた、例えばトルエンのような揮発性の高い溶媒を選択した場合にも生ずる。従って、当初は可能な限り均一な混合物を形成するために、例えば磁気攪拌によって2つの半導体材料をトルエン中で混合する際(図2A)、得られる溶液は非常に不安定である。熱力学的な要因の、並びに分子間の物理化学的引力及び斥力現象に由来する局所的な相分離(図2B)が、第一電極14上に溶液が堆積される前でさえ急速に現れる(図2C)。この現象は揮発性溶媒が蒸発する間続き、単一の型の材料から形成される大きな領域が層18内で最終的に観測され得る。
【0008】
こうして、領域の80%が10μm超の寸法を少なくとも1つ有することを通常は観測し得る。従って2つの有機半導体材料間の全接触面積は、ここで再び減少し、フォトダイオードの効率は低い。
【0009】
特許文献1には、第二半導体材料で充填された細孔を有する第一半導体材料から作成される多孔質体を含む有機半導体層の製造方法が記載されている。多孔質体は、溶液内で混合された2つの材料の相分離を用いることで製造され、その後溶液が固化した後、第二材料は横孔を綺麗にするために除去される。まずはこのような多孔質体の製造方法によって細孔形状及び特に寸法を正確に設定することは困難であり、且つさらに第二材料の残渣が残ることで有機半導体層の品質に不利な影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/050206号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これらの材料間に大きな接触面積、つまり第二半導体材料によって少なくとも部分的に含浸された細孔を有する第一半導体材料から作成される多孔質体を有する2つの有機半導体材料によって形成される有機半導体層の製造方法を提供することによって、上述した問題を解決することを目的とする。これは細孔形状の固定を改善することを可能にし、且つ有機半導体層の品質に不利な影響を与える可能性のある残渣が存在しない多孔質体を得ることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これを達成するために、このような層の製造方法は、第二半導体材料を受け入れ可能な有効多孔率を備え、第一半導体材料から形成される多孔質固体体積の形成と、第一半導体材料にとって不活性であり、第二半導体材料の蒸発温度未満の蒸発温度を有する溶媒であって、溶媒中に溶解又は分散された第二半導体材料を含む液体の、少なくとも多孔質固体体積の外面上への堆積と、多孔質固体体積が液体によって少なくとも部分的に一度含浸され、前記溶媒の蒸発温度より高い、且つ第一及び第二半導体材料の蒸発温度未満の温度で加熱することによる溶媒の蒸発とを含む。
【0013】
多孔質液体の形成は、溶媒中に溶解又は分散された第一半導体材料の溶液中への気泡の導入と、続いて行われる前記溶媒の蒸発とを含み、溶媒温度は気体蒸発温度未満である。
【0014】
ここで言う「有効多孔率」とは、互いに行き来可能であり材料内部への空間を形成する、外部からのアクセスが可能な、それゆえ“充填可能な”細孔を有する材料を意味する。
【0015】
言い換えると、2つの有機材料を接触させて配する前に、安定で大きな接触面積が生成される。そしてこの表面積は、2つの半導体材料の物理化学的な親和性の欠如とは無関係であり、2つの半導体材料間での改善された結合を備える非常に均一な半導体層が得られる。例えば5倍から100倍の範囲で有機フォトダイオードの効率の大幅な増加が観測され得る。
【0016】
その後、多孔質固体体積の製造により、一方では細孔径及び密度の大きな多様性を得ることが、及び他方では残渣のない“綺麗な”材料を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
実際、気体の使用により、溶媒中の1つ又は複数の材料のエマルジョンから得られうる液滴よりも小さな気泡を得ることが可能であり、従って非常に微細な孔、ひいては多孔質体を形成する第一材料の全体積に亘り均一に分布した高密度の細孔を有することが可能となる。さらに、選択される気体によっては、気泡のサイズは可変となり、より正確に細孔径を調整することが可能となる。
【0018】
さらに、気体の蒸発は最終的な多孔質固体体積中に残渣を残さない。
【0019】
本発明の実施形態によると、第一半導体材料はP3HTであり、第二半導体材料はPCBMである。
【0020】
本発明は、上述の方法により形成され、且つ第一及び第二電極間に配された半導体層を含む光電子装置も目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来技術の有機フォトダイオードの簡略化された断面図である。
図2】従来技術の有機フォトダイオードの活性層を形成するために、揮発性溶媒中に2つの有機半導体材料を含む溶液を堆積するための従来技術の方法を示す。
図3A】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3B】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3C】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3D】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3E】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3F】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
図3G】本発明による有機フォトダイオードの製造方法の様々な段階での簡略化された断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図と関連し、単に例として示される以下の説明を読むことで、本発明はより理解が深まるであろう。ここで、同一の参照符号は、同一又は類似の要素を指す。
【0023】
図3Aから図3Gを参照すると、本発明による有機フォトダイオードの製造方法は通常、ガラス基板12の形成することで開始し(図3A)、フォトダイオードの第一電極を形成するために基板12上でエッチングすることによる金属化ITO(14)の形成が続く(図3B)。その後、本方法では通常第一電極14上にPEDOT:PSS注入層16の堆積が続く(図3C)。
【0024】
本方法では、多孔質P3HT層の製造が続く。より具体的には、P3HTは例えばアルカンなどの第一溶媒“B”中に溶解又は分散される。こうして得られる溶液は、第一溶媒“B”と非混和性であり、第一溶媒“B”よりも低い蒸発温度を有する第二溶媒“C”と混合される。例えば第一溶媒はクロロベンゼン又はクロロホルムである。こうして得られる混合物は、例えば機械的攪拌によって乳化され、エマルジョン30は注入層16上に堆積される(図3D
【0025】
その後第二溶媒“C”は、例えば自身の蒸発温度以上であるが、第一溶媒“B”の蒸発温度未満の温度で加熱されることで蒸発する。その後第一溶媒“B”は、例えば自身の蒸発温度より高い温度で加熱されることで蒸発する。
【0026】
PCBM溶液を受け入れ可能な開放気孔率を有するP3HT多孔質固体層32は、こうして得られる(図3E)。層32は、全表面積500μmを超え10細孔/μmの(線形)分布を備える直径100nmの細孔を有する。
【0027】
エマルジョンの特性、並びに特に第一溶媒B中のP3HT液滴の大きさ及び第二溶媒C中の液滴濃度が、多孔質層32の最終的な気孔率を決定する。こうして50nmより大きな幅を有するマクロ孔、2nmから50nmの幅を有するメソ細孔、又は2nm未満の幅を有する微小孔を備える層32を形成することが可能である。細孔径は溶媒の性質によって、それらの非混和性の度合いによって、及びそれらの蒸発速度によって決定される。
【0028】
有利には、特に液滴が高濃度の場合、前述のエマルジョンの安定化のために添加剤も加えられ得る。例えば添加剤は界面活性剤、例えば生体高分子などの乳化剤、例えば石鹸の微粒子、又は例えばアミノトリメトキシシランなどの親水性アミン重合体であるポリマーである。
【0029】
さらに、界面活性剤の存在下において、乳化剤は2つの溶媒間の界面張力を数mN/mまで、又は数μN/mまでも下げる利点を有し、界面面積を増加させるために必要な力を減少することが可能である。これにより小さなドメインサイズが維持され、気孔率が増加する。
【0030】
その後本方法は、例えばシクロヘキサンである第三溶媒“A”中のPCBM溶液34を、多孔質層32の自由表面上に堆積することが続く。次いでこうして溶液は多孔質層32を完全に含浸する(図3F)。
【0031】
PCBMを溶解する又は分散するために用いられる第三溶媒“A”には、PCBMよりも低い蒸発温度を有し、及び有利には揮発性であるものが選択される。この溶媒には、この材料を逆に溶解することを避けるために、多孔質層32を形成する材料、この場合P3HTに対して不活性であるものが選択される。
【0032】
その後、第三溶媒の蒸発温度以上であるが、PCBMの蒸発温度未満の温度で、PCBM溶液で含浸された多孔質層32の加熱が実行される。高度の均一性を備えたP3HT及びPCBMの混合物から形成される有機半導体層38がこうして得られる(図3G)。
【0033】
その後、例えばカルシウム、アルミニウム又は銀の層である第二電極を形成する層20を、層38の自由表面へ堆積することで本方法は終わる。
【0034】
前述の多孔質層はエマルジョンによって得られる。
【0035】
変形例として、多孔質層はポリスチレンの重合によって得られる。その重合中に直接得られる多孔性を有する多孔質ポリスチレンが用いられる。ポリスチレン細孔は、まずは第一材料で、及びその後第二材料で充填される。その後、ポリスチレンは不活性な骨組みとして残る。
【0036】
本発明によると、多孔質層は気体を追加することで、つまり泡を形成することで得られる。第一材料を含む溶液内へ気泡が導入される。溶媒の蒸発中に、もし溶媒の蒸発温度が気体の蒸発温度未満であれば、その後気泡は閉じ込められたままである。こうして気体が解放されるにつれて溶媒が蒸発する。後者は、人工的に導入され得る(空気、二酸化炭素)、又は例えばポリウレタンの若しくはエポキシ樹脂の重合のような、残渣(二酸化炭素)を生成する第一材料の重合によってインサイチューで生成され得る。
【0037】
気泡の大きさ及び気体の性質により、細孔の形状、特にそれらの大きさ及び密度を正確に設定することが可能となる。
【0038】
同様に、多孔質P3HT層がPCBMで充填される実施形態が記載された。変形例として、多孔質PCBM層がP3HTで充填される。
【0039】
同様に、P3HT及びPCBMが用いられる実施形態が記載された。当然、他の種類のポリマー又は非ポリマー型の有機半導体材料が、目的とする用途に応じて用いられ得る。エマルジョンの除去後に活性有機層を提供する、エマルジョンを形成するために用いられる第一及び第二溶媒の選定は、有機半導体材料の選定に明らかに依存する。非混和性である、又は極めてわずかに共に混和するように溶媒を選定すること、且つ第二溶媒の蒸発温度が第一溶媒の蒸発温度未満であることが唯一注意すべきことである。
【0040】
同様に、有機フォトダイオードが製造される実施形態が記載された。当然、本発明による製造方法によって得られた半導体材料の混合物から形成される有機半導体層は、例えば両極性トランジスタのような他の型の有機マイクロ電子部品において用いられ得る。
【符号の説明】
【0041】
10 フォトダイオード
12 透明基板
14 第一電極
16 注入層
18 活性層
20 第二電極
22 第一半導体材料の層
24 第二半導体材料の層
26 接触面
30 エマルジョン
32 多孔質層
34 PCBM溶液
38 有機半導体層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G