特許第5883864号(P5883864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883864月、火星、および/または小惑星において民生および/または産業施設用の資材を製造するプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883864
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】月、火星、および/または小惑星において民生および/または産業施設用の資材を製造するプロセス
(51)【国際特許分類】
   E21C 51/00 20060101AFI20160301BHJP
   B01F 3/18 20060101ALI20160301BHJP
   B01F 7/08 20060101ALI20160301BHJP
   B03C 7/02 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   E21C51/00
   B01F3/18
   B01F7/08 Z
   B03C7/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-521279(P2013-521279)
(86)(22)【出願日】2011年7月28日
(65)【公表番号】特表2013-542345(P2013-542345A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】IB2011053369
(87)【国際公開番号】WO2012014174
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年7月9日
(31)【優先権主張番号】MI2010A001412
(32)【優先日】2010年7月29日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513021800
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ デリ ストゥディ ディ カッリャリ
(73)【特許権者】
【識別番号】513021811
【氏名又は名称】ア・エッセ・イ アッジェンツィーア スパツィアーレ イタリアーナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーオ ジャーコモ
(72)【発明者】
【氏名】コンカス アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ピズ マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】オッル ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】リシェーリ ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】コッリアス ジャンルーカ
(72)【発明者】
【氏名】ザノッティ クラウディオ
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05536378(US,A)
【文献】 米国特許第03470276(US,A)
【文献】 特開平11−354132(JP,A)
【文献】 特開平05−049970(JP,A)
【文献】 特開平05−339051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 25/00−51/00
B01F 3/18
B01F 7/08
B03C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するための材料と装置のキットであって、
光発電パネル、電解槽、電圧トランス、および水素/酸素サイクルに基づく燃料電池を含む要素aと、
掘削機を含む要素bと、
衝撃イオン化用のPo210源からなるイオン化電極、および静電極を備えるセパレータ、または強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータ、および粒子分離用のディバイダを備える磁場誘起セパレータを含む要素cと、
ミキサを含む要素dと、
試料ホルダと複数の電極が設けられた反応室、アルミニウム粉末、反応混合物を封入するモールド、およびトリガとしての電気抵抗を含む要素eと、
を備えるキット。
【請求項2】
前記要素aは、エネルギー生成と貯蔵のために、
DCSU(直流スイッチングユニット)が設けられた光発電パネルと、
水素/酸素サイクルに基づき、かつプロトン交換膜を用いる再生技術燃料電池と、
電解槽と、
直流−直流コンバータユニット(DDCU)と、
遠隔電源制御装置(RPC)と、
複数の出力パネルを含む出力ユニットと、
を備え、
前記要素bは、レゴリスを抽出するために、
少なくとも電力100kWの電源ユニットと、
電気網、および掘削機に搭載された光発電パネルの双方に接続されたバッテリ充電ユニットと、
加速度計と電流計を含むセンサ補助装置と、
自動化・制御補助装置と、
遠隔制御用のデータ送受信ユニットと、
を備え、
前記要素cは、
月または小惑星のレゴリスに含まれるイルメナイトを濃縮するために、
衝撃イオン化用のセパレータと、
回転ドラムと、
Po210源からなるイオン化電極、ならびに静電極と、
レゴリス搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える要素c1、または
火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を濃縮するために、
磁場誘起セパレータと、
強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータと、
粒子分離用のディバイダと、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える要素c2であり、
前記要素dは、上記した装置を使用する工程により得られる材料を混合するために、
水平軸方向に延びる螺旋体を有するミキサと、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
アルミニウム粉末と、
を備え、
前記要素eは、混合物を燃焼するために、
反応室と、
反応混合物を封入するモールドと、
トランス、電極群、コネクタ群、抵抗素子群を含み、固体燃焼反応をトリガする補助装置と、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記光発電パネルは、面積3000〜6000m2の光発電プラントであり、互いに直交する4つの面に割り当てられるとともに、8つの独立した区画に分割されている、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するためのプロセスであって、
請求項1に記載の材料と装置のキットを、月、火星、および/または小惑星に配する第1工程と、
光発電をする第2工程と、
掘削手段により、月、火星、および/または小惑星の土壌からレゴリスを抽出する第3工程と、
月または小惑星のレゴリスに含まれるイルナイトを静電的に濃縮する、または火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を磁気的に濃縮する第4工程と、
濃縮された材料をアルミニウム粉末と混合する第5工程と、
混合された材料に熱トリガにより自己伝搬燃焼反応を誘起して資材を得る第6工程と、
前記資材を組み立てて民生および/または産業施設を建造する第7工程と、
を備えるプロセス。
【請求項5】
前記第5工程は
75〜78重量%の前記月または小惑星のレゴリスと22〜25重量%の前記アルミニウム粉末が混合されるか、または
80〜85重量%の前記火星のレゴリスと15〜20重量%の前記アルミニウム粉末が混合され
前記月または小惑星のレゴリスは、濃縮された前記イルメナイトを40〜66重量%含んでおり、
前記火星のレゴリスは、濃縮された前記酸化鉄を45〜65重量%含んでいる、請求項4に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月、火星、および/または小惑星において民生および/または産業施設用の資材を製造するプロセス、ならびに当該プロセスを実施するための材料と装置のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
今後40年以内における小惑星、月および火星での有人ミッションへの着手が、NASAの関心事であることはよく知られている。特に最近NASAは、2020年までの月、および2030年以降の火星へのミッションを発表した。
【0003】
具体的には、現在の宇宙探査プログラムの枠組みで、頭字語ISRU(In-Situ Resource Utilization:現地資源活用)およびISFR(In-Situ Fabrication and Repair:現地製造修復)がよく知られている。第1の頭字語は、月、火星、および/または小惑星において既に利用可能な資源の使用に関係する。第2の頭字語は、製造保守および修復技術の開発への取り組みに関し、さらに長い有人ミッション期間およびコスト削減を可能にしようとするものである。
【0004】
非特許文献1において、月レゴリスおよびアルミニウム粉末の使用を伴う、迫石型民生施設用の資材を月で製造するプロセスが提案されている。約67%のレゴリス類似物JSC−1AまたはJSC−1AF、および33%の325メッシュ未満の粒度を有するアルミニウムを含む混合物が、所望の形状の石英坩堝内部に投入される。混合物内に埋設されたNi−Crフィラメントを流れる18〜24Aの電流により、7〜15分後に最終生成物を得ることができる。月に迫石型民生施設用の資材を製造するために、長い反応時間および大量のアルミニウム粉末が必要であることが、本文献より読み取れる。民生施設を得るための資材の製造プロセス案が、迫石タイプの施設を対象とし、かつ専ら月ミッションに限定されることにも注目すべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Faierson, E.J., "Demonstration of concept for fabrication of lunar physical assets utilizing lunar regolith smulant and a geothermite reaction," Acta Astronautica, 67(1-2), 2010, 38-45
【非特許文献2】Caruso, JJ et al., "Cratos: A Simple Low Power Excavation and Hauling System for Lunar Oxygen Production and General Excavation Tasks," 2008 (http://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20080005206_200800.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、上記のような欠点を伴うことなく、民生施設用のみならず産業施設用の資材を獲得するためのプロセスを開発したいというニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するための材料と装置のキットであって、
光発電パネル、電解槽、電圧トランス、および水素/酸素サイクルに基づく燃料電池を含む要素aと、
掘削機を含む要素bと、
衝撃イオン化用のPo210源からなるイオン化電極、および静電極を備えるセパレータ、または強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータ、および粒子分離用のディバイダを備える磁場誘起セパレータを含む要素cと、
ミキサを含む要素dと、
試料ホルダと複数の電極が設けられた反応室、アルミニウム粉末、反応混合物を封入するモールド、およびトリガとしての電気抵抗を含む要素eと、
を備えるキットによって、上記の目的が達成される。
【0008】
また本発明は、月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するためのプロセスであって、
請求項1に記載の材料と装置のキットを、月、火星、および/または小惑星に配する第1工程と、
光発電をする第2工程と、
掘削手段により、月、火星、および/または小惑星の土壌からレゴリスを抽出する第3工程と、
月または小惑星のレゴリスに含まれるイルメナイトを静電的に濃縮する、または火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を磁気的に濃縮する第4工程と、
濃縮された材料をアルミニウム粉末と混合する第5工程と、
混合された材料に熱トリガにより自己伝搬燃焼反応を誘起して資材を得る第6工程と、
前記資材を組み立てて民生および/または産業施設を建造する第7工程と、
を備えるプロセスに関する。
【0009】
以降の詳細な説明から明らかになるように、材料と装置のキット、およびこれを用いるプロセスによれば、月、火星、および/または小惑星における民生および/または産業施設に適した資材を、現地資源を効果的に用いて生産しうる。これにより、関連するミッションのセットアップを経済的にも作業的にも手助けする。
【0010】
本発明の特徴および利点は、以降の詳細な説明、非限定的な例示を目的として示される実施例、および添付の図面により明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のプロセスを模式的に示す図である。
図2】実施例1に係る材料のX線回折パターンを示す図である。
図3】実施例2に係る材料のX線回折パターンを示す図である。
図4】実施例3に係る材料のX線回折パターンを示す図である。
【0012】
よって本発明の対象は、月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するための材料と装置のキットであって、
光発電パネル、電解槽、電圧トランス、および水素/酸素サイクルに基づく燃料電池を含む要素aと、
掘削機を含む要素bと、
衝撃イオン化用のPo210源からなるイオン化電極、および静電極を備えるセパレータ、または強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータ、および粒子分離用のディバイダを備える磁場誘起セパレータを含む要素cと、
ミキサを含む要素dと、
試料ホルダと複数の電極が設けられた反応室、アルミニウム粉末、反応混合物を封入するモールド、およびトリガとしての電気抵抗を含む要素eと、
を備える。
【0013】
本発明の説明および実施例から明らかになるように、月、火星、および/または小惑星において民生および/または産業施設用の資材を製造するために必要なもの全てをセットアップできるようにするキットの材料および装置は、現地資源を効果的に利用する。これにより宇宙ミッション中に概して大きくなるコストと材料の体積や重量とを削減する。
【0014】
好ましい実施態様によれば、本発明に係るキットにおいて、
前記要素aは、エネルギー生成と貯蔵のために、
DCSU(直流スイッチングユニット)が設けられた光発電パネルと、
水素/酸素サイクルに基づき、かつプロトン交換膜を用いる再生技術燃料電池と、
電解槽と、
直流−直流コンバータユニット(DDCU)と、
遠隔電源制御装置(RPC)と、
複数の出力パネルを含む出力ユニットと、
を備え、
前記要素bは、レゴリスを抽出するために、
少なくとも電力100kWの電源ユニットと、
電気網、および掘削機に搭載された光発電パネルの双方に接続されたバッテリ充電ユニットと、
加速度計と電流計を含むセンサ補助装置と、
自動化・制御補助装置と、
遠隔制御用のデータ送受信ユニットと、
を備え、
前記要素cは、
月または小惑星のレゴリスに含まれるイルメナイトを濃縮するために、
衝撃イオン化用のセパレータと、
回転ドラムと、
Po210源からなるイオン化電極、ならびに静電極と、
レゴリス搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える要素c1、または
火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を濃縮するために、
磁場誘起セパレータと、
強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータと、
粒子分離用のディバイダと、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える要素c2であり、
前記要素dは、上記した装置を使用する工程により得られる材料を混合するために、
水平軸方向に延びる螺旋体を有するミキサと、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
アルミニウム粉末と、
を備え、
前記要素eは、混合物を燃焼するために、
反応室と、
反応混合物を封入するモールドと、
トランス、電極群、コネクタ群、抵抗素子群を含み、固体燃焼反応をトリガする補助装置と、
レゴリスを搬送用の搬送ベルト、ならびにホッパと、
自動化・制御補助装置と、
を備える。
【0015】
好ましくは、前記パネルは、3000〜6000m、さらに好ましくは約4000mの表面を有する光発電システムである。ここで当該システムは、互いに直交する4つの表面上を延びている。各表面の寸法は約5m×100mである。光発電パネルは、太陽放射より電力を生み出すために、電池セルのフィルムで被覆された薄い高分子膜からなる。電気的な観点から、前記光発電システムは、8つの独立した区画に分割され、300〜800Vを提供できることが好ましい(より好ましくは、約600V)。太陽放射中に生み出される電力は、120kWを上回る。
【0016】
要素b)に関する限り、適切な掘削機は、非特許文献2に記載されたものとしうる。当該文献は、レゴリスの掘削や処理といった、予備的かつ補助的な作業を行なうことがいかにして可能になるかを示している。当該作業に用いられる車両は、(キットにおける要素aのように)光発電により再充電可能なバッテリで作動する。または同車両に収容された小型光発電システムが独立して用いられて作動する。
【0017】
以降の本発明に係る説明から明らかなように、光発電パネルにより生成される電気エネルギーは、月、火星、および/または小惑星の土壌からレゴリスを抽出する掘削機に当該エネルギーを供給するために、先ず用いられる。生み出されたエネルギーは、月または小惑星のレゴリスに含まれるイルメナイトを、あるいは火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を濃縮するために用いられる。濃縮処理されたレゴリスは、ミキサに送られてアルミニウム粉末と混合される。得られた混合物は、反応室へ搬送される。当該反応室から所望の資材が得られる。
【0018】
別の態様に係る本発明の対象は、月、火星、および/または小惑星において、民生およびまたは産業施設用の資材を製造するためのプロセスであって、
請求項1に記載の材料と装置のキットを、月、火星、および/または小惑星に配する第1工程と、
光発電をする第2工程と、
掘削手段により、月、火星、および/または小惑星の土壌からレゴリスを抽出する第3工程と、
月または小惑星のレゴリスに含まれるイルミナイトを静電的に濃縮する、または火星のレゴリスに含まれる酸化鉄を磁気的に濃縮する第4工程と、
濃縮された材料をアルミニウム粉末と混合する第5工程と、
混合された材料に熱トリガにより自己伝搬燃焼反応を誘起して資材を得る第6工程と、
前記資材を組み立てて民生および/または産業施設を建造する第7工程と、
を備える。
【0019】
第1工程は、上記の材料と装置のキットを、月、火星、および/または小惑星に配する。当該工程は、後続する工程(すなわち月、火星、および/または小惑星に民生および/または産業施設用の資材製作)を実施するために必要な全ての材料と装置を搬送するために、地球からの宇宙ミッションにおいて行なわれる。
【0020】
したがって、本発明に係るキットについて好適または有利であるとされる全ての態様は、本発明に係るプロセスについてもまた好適または有利であるとされる。
【0021】
第2工程は、図1に示すように、キットの光発電パネルによる発電からなる。特にキットの要素aに関し、光発電パネルは、電解槽にエネルギーを供給する。当該電解槽は、電気の供給を受け、水素を生成するために水電解を行なうことができる。当該水素は、燃料電池に供給されるべく貯蔵される。したがって、水素の使用を通じて、いつでも(暗闇になる期間でも)光発電パネルにより提供された電流を活用できるという非常に大きな利点が得られる。得られたエネルギーは、必要に応じて後続の工程を維持するために用いられる。
【0022】
第3工程は、掘削により、特にキットの要素bにおける切削機を使用することにより、月、火星、および/または小惑星からレゴリスを抽出することを想定している。
【0023】
第4工程は、月または小惑星の土壌においてイルメナイトを静電濃縮すること、または火星の土壌において酸化鉄を磁気濃縮することを想定している。イルメナイトは、チタン−酸化鉄鉱物(FeTiO)であり、同形であるヘマタイトと類似した構造を有する。
【0024】
月または小惑星レゴリスにおけるイルメナイトの濃縮には、鉱物分離に静電技術が用いられる。鉱物分離に有用な約5kV/cmの電界値を得るために、適切な電位差が電極間に与えられることにより、粒径に応じた充分な収率をもって、イルメナイトをレゴリスから効果的に分離しうることが確認されている。
【0025】
上記した月または小惑星レゴリスにおけるイルメナイトの濃縮は、上記キットの要素c1を用いて実施される。特にPo210源、イオン化電極、および静電極により構成されるい衝撃イオン化セパレータが用いられる。
【0026】
火星レゴリスにおける酸化鉄の濃縮については、磁気技術を用いて鉱物が分離される。当該磁気技術は、適切な磁場を印加して粒子上に電荷を誘導することに基づいている。帯電した粒子は、獲得した電荷を保持する傾向にあるか捨て去る傾向にあるかによって分離される。
【0027】
上記した火星レゴリスにおける酸化鉄の濃縮は、上記キットの要素c2を用いて実施される。特に、強磁性ディスクと非磁性材料が交互に配されてなるロータと、粒子分離用のディバイダとを備える磁場誘起セパレータを用いて実施される。
【0028】
第5工程は、イルメナイトまたは酸化鉄が濃縮されたレゴリスを、アルミニウム粉末と混合することを想定している。
【0029】
当該混合は、75〜78重量%の月または小惑星のレゴリスと22〜25重量%のアルミニウム粉末の組合せ、または80〜85重量%の火星のレゴリスと15〜20重量%のアルミニウム粉末の組合せで行なわれることが好ましい。このとき、月または小惑星のレゴリスは、濃縮されたイルメナイトを40〜66重量%含んでおり、火星のレゴリスは、濃縮された酸化鉄を45〜65重量%含んでいることが好ましい。
【0030】
第6工程は、電気抵抗を用いて、第5工程で混合された材料に自己伝搬燃焼反応を誘起することを想定している。そのような反応プロセスの間は、点火により反応粉末を伝わる燃焼波の形で反応が自己伝搬し、追加のエネルギーを必要としない。これは実用の観点からは極めて重要である。当該プロセスによれば、極めて良好な純度と機械的特性により特徴づけられる固体の最終生成物を、必要な外部からの電気的寄与が非常に低く、かつ非常に簡単な反応により得られるためである。
【0031】
第5工程で得られた粉末化合物は、必要に応じて圧縮され、反応室における電気点火源の下に配置される。当該電気点火源は、好ましくはタングステンコイルからなり、混合物から約2mm離間して配置される。点火温度は、電位差により生じた電流により得られる。燃焼プロセスの間、反応温度は一般に高く、約2000℃である。一方、燃焼波速度は毎秒0.5cm程度である。よって適当なモールドを用いることで、所望の寸法と形状の構造物を得ることができる。
【0032】
第7工程においては、月、火星、および/または小惑星に民生および/または産業施設を建造するために、第6工程で得られた構造物を組み立てる。適当な形状の構造物を連結することによって組立てがなされうる。
【0033】
本発明の実施例を、限定を目的とすることなく以下に示す。
【実施例】
【0034】
(実施例1:本発明による資材の調製)
Alfa Aesar社のイルメナイト(純度99.8%、粒度100メッシュ)を1.761g、Orbitec Technologies社の月レゴリスJSC−1A(45μmで篩過)を1.697g、およびAlfa Aesar社のアルミニウム粉末(純度99.5%、粒度325メッシュ)を1.092gを適切に混合した。粉末は、約80バールで作動する手動液圧プレスにより適切に圧縮された。このようにして、直径11mmおよび高さ2.3cmの円筒形試料が調製された。試料は、高温自己伝播燃焼を行なうために反応室に導入され、タングステンコイルからなる電気点火源の2mm下方に試料表面が位置するように配置された。2.6mbar未満の圧力レベルに達するように、真空条件が反応室内に適用された。そして電気抵抗に12Vの電位差が最大3秒間印加されることにより生じた72Aの電流がタングステンコイルに流され、試料がより熱的に点火された。毎秒約0.5cmの燃焼前面速度で伝搬が可能であった。燃焼温度は約2000℃であった。最終生成物の冷却は、室温に至るまで反応室内部で行なわれた。
【0035】
最終生成物の特性評価は、X線回折法(XRD)およびEDS(エネルギー分散X線分光法)を用いた走査電子顕微鏡法(SEM)を活用して行なわれた。分析の結果、最終生成物は、主にアルミナ(Al)、スピネル(MgAl)、およびヒボナイト(CaAl119)から構成され、鉄(Fe)とチタン(Ti)が存在した。
【0036】
図2は、本実施例によって得られた反応物および生成物のX線回折パターンを示す。最終生成物は、低い空隙率を有する濃い灰色の固体のように見える。
【0037】
(実施例2:本発明による資材の調製)
Sigma Aldrich社のFe(純度99%以上、粒度5ミクロン)を1.363g、Orbitec Technologies社の火星レゴリスJSC−1A(45μmで篩過)を一旦600℃で2時間オーブン加熱したものを1.835g、およびAlfa Aesar社のアルミニウム粉末(純度99.5%、粒度325メッシュ)を0.602gを適切に混合した。粉末は、約80バールで作動する手動液圧プレスにより適切に圧縮された。このようにして、直径11mmおよび高さ2.3cmの円筒形試料が調製された。このようにして、直径11mmおよび高さ2.3cmの円筒形試料が調製された。試料は、高温自己伝播燃焼を行なうために反応室に導入され、タングステンコイルからなる電気点火源の2mm下方に試料表面が位置するように配置された。7mbar未満の圧力レベルに達するように、真空条件が反応室内に適用された。そして電気抵抗に12Vの電位差が最大3秒間印加されることにより生じた72Aの電流がタングステンコイルに流され、試料がより熱的に点火された。毎秒約0.5cmの燃焼前面速度で伝搬が可能であった。燃焼温度は約2000℃であった。最終生成物の冷却は、室温に至るまで反応室内部で行なわれた。
【0038】
最終生成物の特性評価は、X線回折法(XRD)およびEDSを用いた走査電子顕微鏡法(SEM)を活用して行なわれた。分析の結果、最終生成物は、主にアルミナ(Al)、ハーシナイト(FeAl)、および鉄(Fe)から構成されていた。
【0039】
図3は、本実施例によって得られた反応物および生成物のX線回折パターンを示す。最終生成物は、低い間隙率を有する濃い灰色の固体のように見える。
【0040】
(実施例3:本発明による資材の調製)
Sigma Aldrich社のFe(純度99%以上、粒度5ミクロン)を1.474g、ジェット推進研究所の火星レゴリスMMR(Mojave Martian Regolith)を一旦700℃で2時間オーブン加熱したものを1.718g、およびAlfa Aesar社のアルミニウム粉末(純度99.5%、粒度325メッシュ)を0.604gを適切に混合した。このようにして、直径11mmおよび高さ2.3cmの円筒形試料が調製された。このようにして、直径11mmおよび高さ2.3cmの円筒形試料が調製された。試料は、高温自己伝播燃焼を行なうために反応室に導入され、タングステンコイルからなる電気点火源の2mm下方に試料表面が位置するように配置された。7mbar未満の圧力レベルに達するように、真空条件が反応室内に適用された。そして電気抵抗に12Vの電位差が最大3秒間印加されることにより生じた72Aの電流がタングステンコイルに流され、試料がより熱的に点火された。毎秒約0.5cmの燃焼前面速度で伝搬が可能であった。燃焼温度は約2000℃であった。最終生成物の冷却は、室温に至るまで反応室内部で行なわれた。
【0041】
最終生成物の特性評価は、X線回折法(XRD)およびEDSを用いた走査電子顕微鏡法(SEM)を活用して行なわれた。分析の結果、最終生成物は、主にアルミナ(Al2O3)と鉄(Fe)から構成されていた。
【0042】
図4は、本実施例によって得られた反応物および生成物のX線回折スペクトルを示す。最終生成物は、低い間隙率を有する濃い灰色の固体のように見える。
【0043】
本発明の特徴および利点は、上記に示した発明の詳細な説明と実施例から明らかである。特に、本発明に係るキットは、月、火星または小惑星において用いられる全ての材料と装置を提供することによって本発明に係るプロセスを実施することを可能にする。これにより、コストと材料の総積載量の双方を、また民生および/または産業施設の製造にかかる時間も効果的かつ著しく削減可能である。これら全ては、宇宙ミッションにおいて概して大きくなるものである。驚くべきことに本発明によれば、現地で入手可能な資源を民生および/または産業施設の製造に利用できるため、宇宙ミッションを驚くほど効果的に簡略化し、経済的にも作業的にも手助けする。
図1
図2
図3
図4