(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883868
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】トルースタイトの基礎微細構造を有する、機械用のねずみ鋳鉄製部品又はコンポーネント、及びそれらを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C21D 5/00 20060101AFI20160301BHJP
C22C 37/00 20060101ALI20160301BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20160301BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
C21D5/00 Z
C22C37/00 Z
C21D9/08 H
C21D9/00 K
C21D9/00 A
【請求項の数】44
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-524371(P2013-524371)
(86)(22)【出願日】2011年8月12日
(65)【公表番号】特表2013-538940(P2013-538940A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011004064
(87)【国際公開番号】WO2012022450
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】102010034529.6
(32)【優先日】2010年8月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】レフ・モチュルスキ
(72)【発明者】
【氏名】ペール・サムエルソン
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−001404(JP,A)
【文献】
特開2002−317219(JP,A)
【文献】
特開昭63−259049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00−37/10
C21D 5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械用の構成要素又は構成要素を製造するための半製品であって、
基礎微細構造内に黒鉛を含む鋳鉄材料からなる構成要素又は構成要素を製造するための半製品であって、
基地がトルースタイトを含み、トルースタイトにより構成された前記基地が、基地全体の少なくとも95Vol%を構成し、前記基地が体積全体に占める体積割合が85Vol%を超え、
前記鋳鉄材料が、少なくとも領域によっては層状の構造になっており、且つ、層状黒鉛と共に、前記基礎微細構造を形成する、層状になったトルースタイトにより構成されており、
黒鉛層が前記トルースタイトの層の間に位置しており、
前記トルースタイトの前記層構造の層間隔が100〜150nmであることを特徴とする、構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項2】
少なくとも100kgの質量をもつ大型の構成要素又は構成要素を製造するための半製品として構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項3】
少なくとも500kgの質量をもつ大型の構成要素又は構成要素を製造するための半製品として構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項4】
パイプ状に構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項5】
前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品が、往復動内燃機関として構成された、シリンダボア直径が少なくとも200mmである大型エンジンの構成要素又は構成要素を製造するための半製品として構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項6】
前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品が、ユニフロー掃気式の2サイクル大型エンジンの構成要素又は構成要素を製造するための半製品として構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項7】
前記構成要素の全体又は構成要素を製造するための半製品の全体が、完成されて使用準備ができた状態において、トルースタイトの層の間に黒鉛層が位置するような、層状になったトルースタイトでできていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項8】
前記トルースタイトのC含有量が最低0.8%から最大4.3%の間の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項9】
前記トルースタイトのC含有量が3.8%±最高でも0.5%であることを特徴とする、請求項8に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項10】
前記トルースタイトのC含有量が3.8%±0.2%であることを特徴とする、請求項9に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項11】
最大肉厚が少なくとも50mmであることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項12】
最大肉厚が少なくとも150mmであることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項13】
それぞれ最も近い表面から少なくとも100mmの深さまでは、層状黒鉛が埋め込まれた層状トルースタイトでできていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項14】
請求項1に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品であって、それが、所与の機能のために完成された構成要素又は構成要素を製造するための半製品として構成されていることを特徴とする、構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項15】
エンジンの燃焼室を画定する、構成要素として構成されていることを特徴とする、請求項14に記載の構成要素。
【請求項16】
シリンダライナ(1)として構成されていることを特徴とする、請求項15に記載の構成要素。
【請求項17】
パイプ状の部品から切り出されたピストンリングとして構成されていることを特徴とする、請求項14に記載の構成要素。
【請求項18】
請求項1に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品であって、前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品の少なくともトルースタイト品質を表示する、実体的に明らかに見えるマーク(8)を有していることを特徴とする、構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項19】
前記マーク(8)が、シリンダライナ(1)においては燃焼室から離れた端部領域の外周に配置されていることを特徴とする、請求項18に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項20】
前記マーク(8)が、取り外せないように前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品に取り付けられている小型のプレート又はカード上に含まれていることを特徴とする、請求項18又は19のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項21】
前記マーク(8)を含む前記プレート又はカードが、前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品に関する、触れずに読み取り可能な、さらなる一つの又は複数の情報を含んでいることを特徴とする、請求項20に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項22】
前記情報が、真正性、材料組成、生産履歴及び生産工程、以前の使用法、前回の検査及び付属するデータ、行われる予定のその他の検査に関する情報であることを特徴とする、請求項21に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の構成要素又は構成要素を製造するための半製品の製造方法であって、前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品は850〜900℃の範囲の焼きなまし温度において、構成要素の最大肉厚25mmあたり少なくとも1/2時間保持され、それから、制御された温度と時間との関係にしたがって、8〜12時間の冷却時間内に120〜20℃の終了温度まで冷却され、その際、まず400℃まで比較的素早く進む冷却が行われ、次に、これに比べて比較的ゆっくりである残りの冷却が終了温度まで行われることを特徴とする方法。
【請求項24】
前記焼きなまし温度が、前記構成要素の最大肉厚25mmあたり少なくとも1/2時間の間、一定に維持されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記焼きなまし温度が、使用される鋳鉄材料の焼きならし温度に相当することを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記焼きなまし温度が880℃であることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記冷却時間の総継続時間が、肉厚1.5mmあたり1.5〜2.5分であることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記冷却時間の総継続時間が、最大肉厚1mmあたり2分であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
400℃までの前記素早い冷却が、最大肉厚25mmあたり0.5時間という時間内に行われることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記素早い冷却において、共析点から、400℃までの温度間隔が、最大肉厚25mmあたり10〜15分という時間の間に通過されることを特徴とする、請求項23又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記共析点が723℃であることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記残りの冷却の継続時間が8時間であることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
構成要素又は構成要素を製造するための半製品の新規製造において、この構成要素又は構成要素を製造するための半製品が、流し込みの後、型(2)の中に入った状態で前記焼きなまし温度まで冷却され、それから、この温度で、構成要素の最大肉厚25mmあたり少なくとも1/2時間保持されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記型(2)が前記素早い冷却中に700℃の温度において取り除かれることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
トルースタイトを形成するために処理された構成要素又は構成要素を製造するための半製品が、完成された又は中古の構成要素又は構成要素を製造するための半製品であることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
前記構成要素又は構成要素を製造するための半製品が、まず前記焼きなまし温度まで加熱され、次に、制御された温度・時間経過を用いて冷却されることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記焼きなまし温度が10時間保持されることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記冷却が、制御可能な冷却炉(3)内で行われることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項39】
前記冷却が、水平に積み上げられた、制御可能な複数の領域を持つ冷却炉(3)内で行われることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
既存の往復動内燃機関を修理する方法であって、鋳鉄材料から成る少なくとも一つの従来のシリンダライナが、適切な、請求項23から39のいずれか一項にしたがって処理されたシリンダライナに交換され、そのシリンダライナは、前記従来のシリンダライナより肉厚が小さいが、少なくとも前記従来のシリンダライナと同じ圧力負荷に適していることを特徴とする方法。
【請求項41】
前記交換シリンダライナが、前記従来のシリンダライナより高い圧力負荷に適していることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記交換シリンダライナの肉厚が前記従来のシリンダライナより小さいにもかかわらず、前記従来のシリンダライナより高い圧力負荷に適していることを特徴とする、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記交換シリンダライナは、種類又は大きさが同じエンジンのための、中古のシリンダライナが基になっていることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記中古のシリンダライナは、穴があいた中古のシリンダライナであることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎微細構造内に埋め込まれた黒鉛を含む鋳鉄材料で構成された、機械、特に大型機械の部品又はコンポーネントに関する。本発明はさらに、そのような部品又はコンポーネントの製造方法に関する。
【0002】
本出願においてコンポーネントとは、取り付けできる状態かつ機能できる状態の完成品を指す。本出願において部品とは、半完成品、又は、鋳造品、プレス品など、さらに単純な半製品であって、そこから一つ又は複数のコンポーネントを製造できるものを指す。当然のことながら、この定義は本出願においてある程度の範囲で柔軟に適用される。
【背景技術】
【0003】
発展にともなって、機械の性能はますます高まっている。それに応じて、機械コンポーネントの負荷能力に対する要求も高まっている。そのため、たとえばエンジンの燃焼室を画定するコンポーネントは、最近のエンジンにおける圧力及び温度の負荷の高まりを受容できるように構成する必要がある。そのようなコンポーネントは一般的にいわゆるねずみ鋳鉄の形の鋳鉄でできている。その鋳鉄材料ではFeC合金よりなる基地の中に黒鉛が埋め込まれている。ねずみ鋳鉄においてこの基地は一般的に、層間隔が比較的大きな層状構造を有する。このいわゆる黒鉛相はさまざまな形状をとることができる。層状の黒鉛相を持つねずみ鋳鉄の種類は広く普及している。機械加工のしやすさが良好であり、特にトライボロジー特性に優れていて、そのことはエンジン製造において特に重要である。
【0004】
層状構造を持つ既知の材料をそのまま維持する場合、負荷能力を改善するには、寸法をより大きくする、つまり肉厚を大きくするしかない。しかしながら、そのためには、関係するコンポーネントを相応に作り直すだけでなく、それらは残りのコンポーネントともはや互換性がなくなるため、同時にさらにまた、残りのコンポーネントも作り直す必要がある。さらに、材料消費量も増える。そのため寸法をより大きくすることに関連するコストは非常に高くなる。
【0005】
負荷能力を改善するもう一つの可能性としては、鋼など、鋳鉄より優れた材料を使うことが挙げられる。しかしながらそうした場合、そのようなコンポーネントを製造するには従来の鋳造装置はもはや適さず、そのため必要なコストがさらに高まることとなる。そのうえ、鋳鉄以外の材料を選択すると、互いのスライド面の領域におけるトライボロジー的な関係に悪影響が生じ、それにより早期の摩耗又はいわゆるスカッフィングのリスクが高まる可能性がある。
【0006】
球状黒鉛を持つ鋳鉄材料もまた引っ張り強さの値が比較的高い。しかしながら球状黒鉛を得るのは容易ではない。球状黒鉛を得るには、球を形成する処理剤及びMgなどの合金要素を融解物に添加する必要がある。また、球状黒鉛を持つ鋳鉄はスライド特性が比較的悪く、そのためトライボロジーの観点からは不適格である。経験によると、球状黒鉛を持つ鋳鉄からなるスライド部品は、いわゆるスカッフィングが生じる傾向がある。
【0007】
特許文献1には、球状黒鉛を持つ鋳鉄から機械部品を製造する方法が記載されており、そこでは鋳造後にオーステナイト安定温度からトルースタイトへの変態温度まで冷却する際、パーライトが析出しないように行われる。球状黒鉛では黒鉛相が球の形で金属の基礎材料内に埋め込まれている。パーライトは、層状の構造を持つ共析微細構造である。パーライト相の抑制を所望するということは、パーライトに特徴的な共析微細構造が形成されないようにすることを示唆している。さらに、全体が層状構造となった材料とならないよう、上述の特許文献1に記載の材料は必ず球状黒鉛を有する必要がある。全体が層状構造となった材料になると、加工が難しくなることがあり、また、スライド性が悪化し、それによりトライボロジー関係にとって不都合となる。また、球状の黒鉛相の生成には特別なコストが必要となる。さらに、その生成が可能となるのは、鋳物工作物を新たに製造する場合のみである。球状黒鉛を含まない中古部品においてあとから球状黒鉛を生成することはできない。したがって本書では、球状黒鉛を含まない中古部品をあとからグレードアップすることは考慮されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許第3509709号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、先述のような部品又はコンポーネントを改善して、従来の寸法、及び、隣接する部品又はコンポーネントとの互換性を保持しながら、従来の、層状構造のねずみ鋳鉄からなる部品又はコンポーネントより比較的高い負荷能力を有し、しかもそのような鋳鉄にとって適切な装置により製造でき、また、簡単に加工でき、また、良好なスライド特性が保証されるようにすることである。本発明のさらなる課題は、そのような部品又はコンポーネントを製造するための簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において第1の課題は、部品又はコンポーネントの基となる鋳鉄材料が、その部品又はコンポーネントが完成して使用準備のできた状態において、少なくとも領域によっては概ね層状構造になっており、また、その鋳鉄材料が、層状の黒鉛が埋め込まれた、基礎微細構造を形成する、層状のトルースタイトにより形成されていることにより解決される。
【0011】
層状になったトルースタイトはFeC合金であって、通常のねずみ鋳鉄又はパーライトに比較して、わずか100〜150nmという非常に微細な層間隔を有しており、そのため黒鉛が層状構造であってもねずみ鋳鉄に比較して負荷能力はかなり高くなる。しかしながら同時に、黒鉛が層状構造であり、それにより全体的に層状構造となっている結果、良好な機械加工のしやすさが保証され、また、良好なスライド特性、それにより好都合なトライボロジー関係が得られる。実際には出発材料は、先述の通常の鋳鉄又はねずみ鋳鉄のための従来の出発材料とすることができる。そのため本発明の手段を用いることにより好適に、従来の部品又はコンポーネントの寸法を保持しながら、及び、従来の鋳造装置を引き続き使用しながら、負荷能力が少なからず高くなり、その際機械加工のしやすさ及びスライド特性もたいして悪化することはない。さらに、層状黒鉛を有する通常のねずみ鋳鉄製の部品を、黒鉛を変態させずに、つまり、黒鉛の層状構造を保持したまま、熱処理により後からグレードアップすることが好適に可能である。したがって本発明により達成可能な長所は全体的にすぐれた経済性にある。その際部品又はコンポーネントは、全体的に又は領域的にのみ、層状黒鉛が埋め込まれたトルースタイトで概ねできており、それにより製作的に高度な自由が可能となる。
【0012】
従来と同様、鉄材料はFeC基地が基となっており、その中に黒鉛層が埋め込まれているが、しかしながら今や、つまり、本発明における部品又はコンポーネントにおいては、その基地には概ねトルースタイトが含まれる。合目的的には基地におけるトルースタイトの割合は少なくとも95Vol%である。全体的には基地は鉄材料の少なくとも85Vol%、望ましくは85Vol%以上を含むことができる。
【0013】
このとき特に好適な手段として挙げられるのは、黒鉛の層をトルースタイト層の間に位置させることである。それにより、上述の長所がさらに強化される。
【0014】
このとき使用される出発材料の選択は、概ね基地の基となっているトルースタイトのC含有量が最高でも2%、望ましくは0.8%となるように行われる。それにより、所望のわずかな層間隔を持ち、層状に配置された、共析微細構造が特に確実に達成される。トルースタイトにおいてそのようなC含有量が達成可能であるのは、総C含有量が4%をゆうに超えるまでの鋳鉄タイプを使用する場合である。
【0015】
所望のトルースタイトの形成は一般的に、冷却において制御された温度管理を行うことにより達成される。そのため、断面全体にわたって所望の温度管理を確実にするためには、合目的的には部品又はコンポーネントの最大肉厚は少なくとも50mm、望ましくは150mm、最大に合目的的にはおよそ300mmである。
【0016】
本発明の部品又はコンポーネントの望ましい実施形態によると、本発明の部品又はコンポーネントには、好適にはトルースタイトが生じた後に、少なくとも部品又はコンポーネント内のトルースタイト品質を表示する、実体的に明らかに見えるマークを取り付けることができる。そうすることにより、間違った、つまり、本発明のコンポーネントではないものを誤って取り付けることが回避され、それにより、保守及び維持補修作業の実施、ならびに検査の実施がしやすくなる。
【0017】
シリンダライナにおいてはこのマークは好適には、燃焼室から離れた端部の領域内の外周に配置される。この領域は一般的に視覚的に容易に見えるため、マークの読み取り又は選別が可能である。
【0018】
合目的的にはこのマークは、当該部品又はコンポーネントに取り外せないように取り付けられた小さなプレート又はカードの上に含めることができる。それにより好適に、マークを別個に製造することができ、このことは、製造精度に好適に影響する可能性がある。
【0019】
前述のようなマークが設けられていると、そのマークはエレガントな方法で、その部品又はコンポーネントに関連するさらなる情報、たとえば部品又はコンポーネントの真正性、材料組成、生産履歴及び生産工程、以前の使用法、前回の検査及び付属する検査データ、その他行われる予定の検査などの情報を保存するために使用することができる。
【0020】
上述のさらなる課題は、本発明において、部品又はコンポーネントが850〜900℃の範囲の焼きなまし温度においてしばらく保持され、その後、制御された温度・時間経過により8〜12時間の冷却時間内に120〜20℃まで冷却されることにより解決され、その際はまず、およそ400℃までの冷却が比較的素早く行われ、その後、終了温度までの残りの冷却が比較的ゆっくり行われる。
【0021】
制御された冷却という形での本発明における熱処理は、好適なやり方では、部品又はコンポーネントを新規に生産する場合は鋳造工程に続いて行うか、又は、完成された又は中古の部品又はコンポーネントを加工する場合は所望の焼きなまし温度までそれぞれ加熱した後に行うことができる。
【0022】
従来、鋳造工程の後の冷却は実際的には制御されずに、また、比較的ゆっくり行われ、そのために上述のように、製造された鋳物材料の基地の層状構造が荒く、層間隔が大きくなる。本発明における冷却工程は、焼きなまし温度850〜900℃の範囲に保持されるため、微細構造の均質化及び微細化のための焼きならし工程が生じ、その際、続いておよそ400℃まで素早く冷却されるため、微細な層状構造が保たれ、それによりトルースタイトが形成される。残りの冷却が比較的ゆっくり行われるため、後から脆化することが回避される。使用される出発材料は、実際的には、従来使用される出発材料に相当する。達成された負荷能力向上は、制御された冷却という形での本発明による熱処理のみに基づくものである。したがって本発明の方法は好適に、従来の鋳造装置を用いて実施することができ、したがって、寸法を大きくすることや、又は、より価値の高い出発材料を使用する必要もなく、従来の実施形態に比較して高い負荷能力を達成するために単純かつコスト安な可能性を提供することができる。
【0023】
本発明による冷却は、合目的的に制御可能な冷却炉内で行うことができる。それにより高い正確さが保証される。
【0024】
さらなる合目的的な手段として、850〜900℃の焼きなまし温度が、当該コンポーネントの最大肉厚の25mmあたり少なくとも1/2時間保持されることが挙げられる。これにより断面全体にわたって焼きならしを確実に行うことが保証される。
【0025】
焼きなまし温度は望ましくは880℃とすることができる。これは、基となる鋳物材料の焼きならし温度に相当する。
【0026】
さらなる合目的的手段として、当該コンポーネントの肉厚1mmあたりの全体冷却時間を1.5〜2.5分、望ましくは2分とすることが挙げられ、その際、肉厚25mmあたり1/2時間という比較的短時間で素早い冷却が行われ、また、この素早い冷却において、好適にはコンポーネントの肉厚25mmあたりわずか10〜15分という時間内に723〜400℃という温度間隔を通過する。その結果、好適な方法で最終生産物内に特に微細な層状のトルースタイトが生じ、それが特に良好な負荷能力につながる。
【0027】
上述の方法ウィンドウは肉厚が同じである部品について温度と時間との関係の限界値を示すものであるため、肉厚の変化がおよそ3〜4倍と大きい部品又はコンポーネントは、時間制御された冷却に関して追加的な調整が必要となる。しかしながら肉厚の薄い領域においては冷却が素早すぎて、その結果、所望のトルースタイト構造ではなく、所望しない固いマルテンサイト構造が生じる可能性があり、一方、同じ部品の肉厚が比較的厚い、特に300mmを超える領域においては特に内側の中心領域においてパーライト構造が生じる可能性がある。それは、所望のトルースタイト構造は冷却された表面から始まって内側に進みながら生じるためである。そのような状況は、たとえば、そのコンポーネントが、ユニフロー掃気式又は同様の大型クロスヘッドエンジン用のシリンダライナである場合に生じる可能性がある。本書、又は、類似の場合においては、制御された冷却の追加的な調整は、冷却炉の内部空間が複数の部分に分割されていることにより達成でき、その際、各部分はそれぞれ独自の冷却能力を有しており、それは、たとえば冷却ガスの循環の強度が各部分に個別に割り当てられることにより達成できる。特に、上述のような大型で全体的にパイプ状であるコンポーネントにおいては、制御された冷却は合目的的に、概ね垂直軸上に立てられたコンポーネントにおいて実施され、その際高さはしばしば数メートルにも及ぶ可能性がある。
【0028】
概ね一定の肉厚を持つパイプ状部品は、完全に所望の、まったくのトルースタイト構造を達成するために、全体にわたって概ね均一に制御された冷却をより簡単に行える。概ねトルースタイトから成るそのようなパイプは、たとえば半製品として機能することができ、そこからリングを切り出し、それを後に加工してたとえば直径の大きなピストンのピストンリングにすることができる。
【0029】
新たにコンポーネントを製造する場合、このコンポーネントは合目的的に、流し込んだ後にまず型の中に入った状態で冷却され、およそ700℃になってはじめて型から外すことができる。望ましくは880℃における焼きならしプロセス中、コンポーネントはこのときまだ型の中にあり、このことはエネルギー損失を妨げるように作用する。およそ700℃より下で型から出した状態においては特に素早い冷却が可能となる。
【0030】
そのような鋳物部品はすでに焼きならし温度において、及び、それ以下において自己支持的及び形態安定的である。そのため、新たに鋳造された、シリンダライナなどを製造するための部品もまっすぐに立てられた位置で型から出すことができ、そのことは、このように重くてまだ赤熱している部品の取扱い、及び、冷却炉に対するその位置決めがしやすくなり、冷却炉は単純に、概ね垂直方向に向けられた部品の周囲を取り囲むことができる。そのようなやり方の結果、冷却工程中であっても、冷却炉の複数のセクションを、守るべきプロセス条件に応じて、当該部品又はコンポーネントのさまざまな部分の周囲に配置すること、又は、取り除くことが比較的簡単に行え、このことは、特に肉厚の変化が大きい部品において好適である。
【0031】
しかし、上述の態様のねずみ鋳鉄製の、中古の又は完成されたコンポーネントに対して本発明による熱処理を行い、その際、基地の領域内においてできるかぎりのトルースタイトを得ることも可能である。そのためには、当該コンポーネントはまず、焼きならし温度まで加熱し次に本発明にしたがって冷却される。このとき焼きならし温度は合目的的に数時間、望ましくは10時間にわたって保たれる。
【0032】
本発明の方法により材料品質が向上し、それにより強度が高まるため、中古部品を本発明により処理する前、又は望ましくは処理した後、又はすでに処理された後に、新しくてよりきれいな表面を得るために金属切削加工することが好適な方法で可能となり、その際肉厚がそのように低下しても強度の損失につながることもない。シリンダライナの場合、このようにして以前より大きな内径が得られる。またそれにより、本発明の熱処理により事情によっては表面付近に生じたスケール層を、滑らかな表面を得るために除去することが可能となり、その際、以前の負荷能力に対して弱化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】型に入れられたシリンダライナのある冷却炉を図式的に表した図である。
【
図2】トルースタイトの構造の拡大図を図式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施例について図を用いて詳細に説明する。
【0035】
本発明の主な適用分野は、機械、特にエンジン、望ましくは大型エンジンの比較的大型の部品又はコンポーネントに関するものであり、本書では特に、そのようなエンジンの燃焼室を画定し、運転中に高い圧力負荷及び温度負荷を受ける、シリンダライナ、ピストン、ピストンリングなどのコンポーネントに関する。本書でとりあげる大型部品又はコンポーネントは、たとえば、ユニフロー掃気式2サイクル大型エンジンなどのものが挙げられる。ここで大型エンジンとは、シリンダボア直径が少なくとも200mmであるエンジンを指す。
【0036】
図1は、2サイクル大型ディーゼルエンジンなどの大型エンジンのシリンダライナ1の図である。そのようなシリンダライナ1は、円筒状のスリーブを有しており、そのスリーブには、形を合わせた、2サイクルエンジンにおいて通常のインレットスリットが設けられており、また、上端にはシリンダヘッドを収容するためのフランジを有している。肉厚aは、フランジの領域においてスリーブの領域より厚い。すでに先述した理由から、まったくのトルースタイト構造を達成するためには最大肉厚はおよそ300mmに制限する必要がある。シリンダボアの直径dはエンジン出力に依存し、大型ディーゼルエンジンにおいては800mm及びそれ以上とすることができる。そのようなシリンダライナにおいては、軸方向の長さ又は高さはほぼ3mになることもある。
【0037】
シリンダライナ1のようなコンポーネントは、鋳鉄から成る鋳物コンポーネントとして製造される。そのために、
図1に示された型2が作られ、その空洞に、使用される鋳鉄の流体状融解物が流し込まれる。シリンダライナは、立てた状態又は寝かせた状態で鋳込むことができる。型を外した後の取り扱いがしやすいため、立てた状態が望ましい。型2は、コアを有する砂型である。前記の融解物は、シリンダライナなど、通常のねずみ鋳鉄から成るコンポーネントを製造するためにすでに従来使用されていたものと同じ出発材料である。このとき、鉄材料は主にFeC合金から成っており、その合金内に、溶けていないCから成る黒鉛が黒鉛層の形で埋め込まれている。もちろん個々には、カーバイド粒子など、その他の粒子が埋め込まれることもある。合目的的には、実際的に基地を形成する基礎材料の体積割合は総体積のおよそ85V%とすることができる。
【0038】
前述の鋳鉄の融解温度はおよそ1340℃である。流体の状態で型2に流し込まれた材料は、型2に熱を伝達し、そこから周囲に熱を伝達することにより冷却され、その際に固体の状態に移行する。冷却においてはまず、型の中において自然に850〜900℃の範囲に、望ましくは880℃まで温度が下がる。以下、この温度を焼きなまし温度と記載する。これは、使用される鉄材料のいわゆる焼きならし温度であり、およそ880℃である。ここでは流し込まれたシリンダライナ1の形でまだ型の中にある鋳物部品は、焼きならしプロセスを実施するために設けられた期間、前記の焼きなまし温度に保たれる。焼きならし工程のためのこの期間は望ましくは、ここではシリンダライナ1である当該コンポーネントの最大肉厚25mmあたり半時間(0.5時間)である。そのため、最大肉厚が300mmの場合、焼きならし工程は6時間かかる。それにより、コンポーネント全体がすっかり、つまり全体にわたって、所望の焼きならしが確実に行われることが保証される。
【0039】
この焼きならし後に、所与の時間と温度との関係に基づいた、終了温度120〜20℃までの制御された冷却という形での熱処理が開始する。この冷却は、
図1に示された冷却炉3内で合目的的に実施され、冷却炉3は、制御入力4により示されているように、合目的的に制御可能である。冷却工程の時間は8〜12時間である。望ましくは、冷却時間は、当該コンポーネントの最大肉厚1mmあたり2分に決められる。したがって、最大肉厚が300mmの場合、望ましい総冷却時間は10時間となる。
【0040】
図1の冷却炉の図は、単純に表すために、固定された箱として図式化して表されている。しかしながらすでに上述したように、代替的に冷却炉は、およそ垂直な軸上に立つ、シリンダライナなどの製造に適したコンポーネントを取り囲むために、旋回、下降、上昇などができるように構成することもできる。冷却炉はまた、温度・時間ウィンドウと実際の局所的肉厚とから得られる基準値に応じて、前述のようなコンポーネントを全体的に又は部分的に収容するために、冷却炉の内部のみ又は全体的に、冷却温度に関して望ましくは別個に制御可能な複数の部分に分割することができる。この時、総冷却時間の一部の間のみ、軸方向の特定の領域を収容する必要があるということも起こり得る。特に、
図1には、周囲を取り囲んで積み重ねを形成する、望ましくは別個に制御可能な個別の炉室を複数有する冷却炉を構成するために設けられた装置が示されており、該装置は、当該コンポーネントにおける冷却媒体の循環及び作用を変化させるのみという方法以外の方法で、局所的に個々に選択可能な冷却能力を実現するよう機能させることができる。
【0041】
このとき望ましくは、概ね全体的に同じ時間における温度の局所的なバリエーションを利用して、肉が比較的薄い部品又は部品の領域において、予定前の冷却が行われること、及びそれによりトルースタイトではなくマルテンサイトが形成されることを回避するために、焼きなまし温度での保持を延長することができる。ごく一般的に、一つの同じコンポーネントの選択された複数のゾーンについて同じ時間における上述の局所的温度バリエーションは、そのコンポーネントにおいては局所的な肉厚の差に関係なく全体にわたって、つまり、概ねまったく、所望のトルースタイト構造が達成されるほど、異なる可能性がある。それによりまた、何らかの理由で所望される場合は、コンポーネントの選択された複数のゾーンにおいてトルースタイトの形成を回避し、通常のパーライト構造になるよう冷却を行うことも可能である。この2つのいずれの場合も層状構造の材料であるが、トルースタイトの層間隔は、通常のパーライトの層間隔より大幅に小さい。その限りにおいてトルースタイトは、層間隔が非常に狭い、特別な態様のパーライトということもできる。層間隔はわずか100〜150nmとなることがある。
【0042】
冷却工程は複数のフェーズで行われる。まず、焼きなまし温度からおよそ400℃までの比較的素早く進行する冷却(以下、素早い冷却と呼ぶ)が行われる。焼きなまし温度からおよそ400℃までの、この素早い冷却の時間は、望ましくは、最大肉厚25mmあたり少なくとも1/2時間、つまり、最大肉厚が300mmの場合は6時間となる。上述の、焼きなまし温度からおよそ400℃までの素早い冷却には、さらにもう一つの区分があり、その区分では、共析点からおよそ400℃までの温度領域を最大肉厚25mmあたりわずか10〜15分という時間で通過する。本書で基になっている鋳鉄の共析点は723℃の領域にある。このとき、特に微細な層構造を有する共析微細構造が得られ、該構造は、素早い冷却の結果、大部分が保持される。
【0043】
新たに流し込まれた、ここではシリンダライナ1であるコンポーネントは、本発明における焼きならし工程において、及び、素早い冷却の第1の領域においてはまだ型2の中に入っている。型からの取り出しはおよそ700℃で行われる。そのために型2は破壊及び/又は除去される。つい先ほど流し込まれた、ここではシリンダライナ1であるコンポーネントをそのようにして取り出すことは、所望の素早い冷却にとって好都合である。素早い冷却に続いて、およそ400℃からはさらなる冷却フェーズとして、所望の終了温度である120〜20℃までの残りの冷却が行われる。素早い冷却に対して、この残りの冷却は比較的ゆっくりであり、本書のようなコンポーネントの場合はおよそ8時間かかる。
【0044】
制御された比較的素早い冷却という形での上述の熱処理により、
図2に示されたような、層7の間隔が非常に微細な層状結晶構造を有するトルースタイトが形成されること、又は保持されることにつながる。
図2の顕微鏡写真的な図にはさらに、層状黒鉛粒子5及び、層7により示されたトルースタイト基地内に埋め込まれたカーバイド粒子6など、その他の個々の粒子が示されている。
図2の図式的な図において、黒鉛層5はトルースタイト層7に対して横方向に不規則に延びている。しかしまた、黒鉛層5がトルースタイト層7の間に位置し、これに対して平行に延びることも可能である。見やすさという理由からのみ、黒鉛層5の厚さは過剰に厚く表現されている。実際にはその厚さはもっと薄い。このことは、黒鉛層5がトルースタイト層7の間に位置している場合、特にあてはまる。層7の間隔bは非常に小さく、わずかにおよそ100〜150nm(ナノメートル)である。この間隔はパーライト層の間隔より非常に小さく、一般的におよそ10分の一である。そのため、本発明により形成されたトルースタイトも、より高い負荷能力を得ている。トルースタイトの破壊強さはおよそ330〜350MPAであり、これに対してパーライトはわずかおよそ250〜270MPAである。本発明により作られたトルースタイトのC含有量は、上述のようなねずみ鋳鉄の形での鋳鉄を出発材料とした場合、最低でおよそ0.8%であり、この値からさらに高い4.3%まで、望ましくは3.8%±0.5%まで、特に望ましくは±0.2%までとすることができる。
【0045】
本書で述べるコンポーネントを新規に製造する場合、コンポーネントは、
図1に示されたように、また、すでに先述したように、まず型2の中に入れられ、およそ700℃になってから型から出される。したがって焼きならし工程は、型に入れられた状態で行われる。型2がはずされるのは、素早い冷却中である。しかし、本書で述べる、すでに完成された又は中古のコンポーネントを、トルースタイト基地を得るための本発明の方法において、対応する型を用いずに処理することも可能である。その際、それらの部品はまず、850℃と900℃との間の領域の焼きならし温度まで加熱され、一定の時間この温度に保たれる。その際の時間はおよそ10時間とすることができる。次に、およそ400℃までの素早い冷却で複数のフェーズの冷却が行われ、続いて、終了温度まで残りの冷却が行われる。冷却工程はこのとき先に
図1を用いて説明したように行われる。
【0046】
この手段によりその際、穴があいているか、又は同じサイズのエンジンのために使用可能な、材料品質が比較的弱い(パーライト的な)従来の鋳鉄製の、摩耗した古いコンポーネント、たとえばシリンダライナを半完成品として、つまり再生された部品、たとえば再生されたシリンダライナのための出発部品として使用することが可能であり、その際、本発明によるトルースタイト形成により、肉厚が薄くなっても強化されるため、より高い最大シリンダ圧力を許容できるようになる。
【0047】
いずれの場合も前述の時間と温度との関係を保つことが重要である。冷却が素早すぎると、固くてしかも非常に脆いマルテンサイト的材料が生じる。冷却がゆっくりすぎると、パーライト的材料が生じる。そのような逸脱が確認された場合は、完成された又は中古部品について前述したように、焼きならし温度まで再び加熱し、この温度を望ましくはおよそ10時間保持し、次に本発明による冷却工程を行うことにより、後から修正することができる。
【0048】
本発明による手段は品質向上につながり、より高い負荷能力が受容されるため、実用においても利用され、また、本発明による部品又はコンポーネントは、実用的に従来と同じ外観を持たせることができるため、取り違えを回避するために、本発明による部品又はコンポーネントにそれぞれ、
図1には示唆されたのみである、実体的に明らかに見えるマーク8を有することは合目的的であり、このマーク8はトルースタイトが生じた後につけられ、少なくとも部品又はコンポーネント内のトルースタイト品質を表示している。このことは、新たに製造された部品又はコンポーネントにも、及び、以前に使用された又は摩耗した部品又はコンポーネントで本発明による処理により価値が高められたものについてもあてはまる。シリンダライナの場合、このマークは合目的的に燃焼室から遠い端部の領域の外周に配置することができる。この領域は、シリンダライナが取り付けられた後も視覚的によく見分けることができる。その際、マークは好適には、当該部品又はコンポーネントにはずれないように取り付け可能な小型のプレート又はカード上に含めることができる。
【0049】
前述のようなマークが設けられていると、このマークは好適に、その上に部品又はコンポーネントに関するさらなる情報、たとえば部品又はコンポーネントの真正性、材料組成、生産履歴及び生産工程、以前の使用法(中古部品の場合)、直近の検査、付属の検査データ、行われる予定のさらなる検査などに関する情報などを保存するためにも利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 シリンダライナ
2 型
3 冷却炉
4 制御入力
5 層状黒鉛
6 カーバイド粒子
7 層
8 マーク
a 肉厚
b 層7の間隔
d 直径