(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伸縮性かつ導電性である導線と電気的に接触した状態にある電極をさらに含み、前記電極は使用者の皮膚に接触するように配置される、請求項1または2に記載のファブリック。
【背景技術】
【0003】
電極および導線(tracks)を含むファブリック(生地)は、生理的信号を記録する能力を有し日常的活動の間に使用される着用可能な衣類の実現を可能とすることは、最先端技術水準において公知である。電極は人体の皮膚と接触して配置され、生じる電気的な生理信号が調べられる。心電図(ECG)または筋電図(EMG)は、この衣類によってモニターされる生理的信号の例である。
【0004】
しかしながら、信号の安定性、ノイズ、および感受性は、様々な理由によって影響され得る;運動および信号の長期獲得(long term acquisition)が2つの最も顕著なものである。
【0005】
衣類に統合される電極および導線は、侵襲性が最小限であり、柔軟であり、運動時を含めて人体にとって快適であり、反復的な洗浄に対して耐性であるシステムでなければならない。
【0006】
ノイズを低くするために、従来型の電極は皮膚に付着させるための粘着剤を使用する。ファブリックに統合された電極により、ファブリックの身体への圧力を利用して粘着剤を排除することが達成される。圧力を生じさせるために、ファブリックは柔軟かつ伸縮性であり、あらゆる型の身体に適応することができる。もし配線システムに伸縮性がなければ身体によるあらゆる動作によって電極が定位置から移動してしまうことになり、伸縮性のある回路は電極とコネクターとの間でばねとして作用する。この理由で、ファブリックに統合された伸縮性かつ非方向性の配線システムを見出す必要がある。
【0007】
Anjum Saleemらによる文献“Fabrication of extrinsically conductive silicone rubbers with high elasticity and analysis of their mechanical and electrical characteristics”, Polymers 2010, vol. 2 (3), pp. 200-210には、伝導性(conductive)のフィラーにより強化されこの機能性が付与されたシリコーンゴムを見出す必要性およびその試みが記載されており、この文献はそれを達成することの困難を提示している。シリコーンゴムを浸透閾値まで伝導性フィラーと混合しても、伝導性を得るほど十分に溝(seam)がつかず、炭素繊維だけが半伝導性の値を達成することができる。炭素繊維が有する問題は、それらはシリコーンの機械的特性を低下させてしまうことであり、従ってそれらは高伸縮性の製品には適していない。
【0008】
ファブリックにおけるシリコーン伝導性ゴムの使用は様々な特許に記載されているが、これらの文献が説明しているように、ファブリックに直接プリントする室温硬化伝導性シリコーンゴムの使用はまだ解決されていない。
【0009】
生理的信号を取得するためのファブリックについての現在の最先端技術水準は様々な短所を提示しており、例えば、スマートライフ・テクノロジー社が出願人である米国特許公報第7779656号は、編む技術、特に糸が伝導的性質を有する衣類に応用される技術を記載している。そのような衣類は着用者の生理的信号をモニターすることに有用である。電極はその衣類に取り付けられるかまたは組み入れられ、導線は、衣類の別の部分に位置する末端コネクターに接続される伝導性糸である。導線は、2つの可能な方向性でファブリックに統合されており、従って、電極が様々な場所に位置する場合には、導線は電極と末端コネクターとを接続するうえで著しい制約を有する。この状況を本出願書類の
図1Aに示す。
【0010】
エレクトロニクス・アンド・テレコミュニケーションズ・リサーチ・インスティテュートが出願人である米国特許公報第7783334号は、導電性ファブリックから作られており生理的信号を検出する電極、検出された生理的信号が伝達される導線、その伝達線に接続され、生理的信号を受け取り、その生理的信号に関係する身体状態に関する情報を測定する生理的信号測定ユニット、および、前記生理的信号測定ユニットが挿入されるポケットを含む、生理的信号測定用の衣類を記載している。その導線は、導電性の細線から作られており、衣類に統合されてはおらず、縫いひだにより衣類に固定されている。この選択肢はいくつかの制約があり、導線がファブリックに統合されていないことはこの衣類は着心地が良くないことを意味し、一方で導線は金属細線でできているので導線の伸縮性は低い。
【0011】
米国特許出願第2010198038号は、平坦な表面を有する材料、前記材料の平坦な表面上に提供され、カーボンナノチューブを含有する伝導性インクから形成される配線層、および前記配線層に接続された電極を含む、電極シートを記載している。この伝導性インクは伸縮性を有さない。この伝導性インクの組成はシリコーンゴムの組成とは全く異なる。このインクは平坦な領域に適用する必要がある。その領域が布地である場合には、布地の織り目が穴を有するので、第1の層を適用する必要がある。伝導性インクの最大の問題は、その機械的特性である。ファブリックは水、磨耗、伸張、衝撃等に耐えるものでなければならないからである。現在の伝導性インクはこの要求に合わない。伝導特性についてだけではなく機械的特性についても材料の記述は重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、この技術分野において知られていることから、ファブリックに統合され伸縮性かつ導電性である領域(導線であってもよい)を含むファブリックの開発は、依然として重要な関心事項であるということが導き出される。
【0013】
ECGのような、ある種の生理的信号を取得することにおいて、正確な診断を行なうためには複数の信号を得ることが重要である。ECG信号を取得するためのファブリック中の電極の数は、信号を収集する装置に導線を介して電極を接続することの可能性に制限される。柔軟、伸縮性、かつ伝導性の材料で作られる導線は、必要な限りの数の電極を接続するための目標点である。
【0014】
導線の制約のため電極の位置および数が衣類の性能を改変し得、ファブリックの性能を低下させないためには、導線はファブリック中に統合させなければならない。
【0015】
ECGのような、ある種の生理的信号を取得することにおいて、電極が身体に付着することを確実にすることが重要であり、ファブリックに統合されている場合には、電極は皮膚に付着するための粘着剤を含まない。その目的のためには、活動中の電極の移動を減少させることが、従来型の電極により得られる信号と張り合うために極めて必須となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の側面において、少なくとも1つの伸縮性かつ導電性である領域をファブリックに統合された状態で有する前記ファブリックが提供され、その領域は、導電性の材料が添加されたシリコーンゴムの層を含み、その伸縮性かつ導電性である領域の厚さは120〜800μmである。伸縮性かつ導電性である領域は、生理的信号(例えばECG信号)を取得するための電極に接続することができる導線である。この導電性領域はあらゆる形状およびあらゆる方向性を有し得る。このことは、必要なだけの数の電極をファブリックに配置して、そしてそれら全ての電極を上記導電性領域を介して電気コネクターに接続させる可能性を切り開くものである。各々の導電性領域が独立した導線のように機能する。
【0017】
従って、本発明によれば、「伸縮性かつ導電性である領域」および「伸縮性かつ導電性である導線」という用語はそれぞれ互換可能である。
【0018】
導電性材料が添加されたシリコーンゴムを含む導電性領域を有するファブリックは、導線の柔軟性、伸縮性、および伝導性を向上させる。導電性材料が添加されたシリコーンゴムの柔軟性および伸縮性は、ファブリックの動きによって伝導性が中断されないことを可能にする。さらに、シリコーンは洗浄してもその特性を失わない。
【0019】
ファブリックに統合された伸縮性かつ導電性の領域を含む前記ファブリックが、優れた柔軟性および伸縮性の特性ならびに優れたファブリック・導電性領域の統合を付与し得ることを示唆するものはこの技術分野に存在しない。
【0020】
いったん浸透閾値に達すれば、伝導性材料の量は重要ではなく、この値は伝導性フィラーおよびシリコーンに依存する。本発明の1つの目的は、シリコーン伝導性ゴムを有する伸縮性ファブリックにおいて低い抵抗値を達成してこれを保持し、この伝導性シリコーンをあらゆる形状および方向性で適用できるようにすることである。
【0021】
従って、本発明の一側面はファブリックに関し、そのファブリックは前記ファブリックに統合された少なくとも1つの導電性領域を含み、ここで導電性領域は、5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層を含む。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つの伝導性領域は1〜20個の導電性領域を意味する。より好ましくは1〜10個の導電性領域である。より好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9個の導電性領域である。
【0023】
本発明の導電性材料が添加されたシリコーンゴムは、室温硬化シリコーンである。
【0024】
室温硬化シリコーンは、室温において化学反応により硫化または硬化するシリコーンである。
【0025】
シリコーンゴムの伝導特性は、伝導性材料(例えばカーボン繊維(CF)、カーボンブラック(CP)、ニッケル被覆グラファイト(NG)、銅繊維(Cu))がどれだけ緊密であるかに依存する。上述のAnjum Saleemらの文献に記載されているように、伝導性材料(例えばCF)は少なくとも浸透閾値を達成する量に至ることが重要である。この点はカーボン繊維(CF)の数およびそれらの間の距離に依存するので、その材料を引き伸ばすと浸透閾値を下回ることは明らかであり、伸張中の伝導性を確保するためには、材料は浸透閾値を超えて可能な限り飽和点に近くしなければならないが、しかし飽和点に近付くにつれシリコーンは機械的特性を失う。上記文献に提示されているように、最適の混合物であっても低い抵抗値を得るためには十分ではない。
【0026】
ファブリックに統合された伸縮性かつ導電性である領域の調製方法は、伝導性を中断させる気泡を排除するために、シリコーンゴムをファブリックに直接適用する際に圧力を適用する工程を含む。この用途のための適用システムは、低速度および高圧力を用いたスクリーン印刷法である。適用される圧力は0.2〜0.8 Kg/m
2であり、好ましくは0.3〜0.5 Kg/m
2であり、0.45 Kg/m
2の圧力が特に好ましい。
【0027】
低速度により、高粘度のシリコーンゴムが、高圧力が適用されるのと同じ点においてファブリックに落ち付くことが可能となる。コーティングの厚みは重要な側面であり、伝導性シリコーンコーティングが厚いほど機械的特性が良くなり、従って材料を伸張させた場合の伝導特性が良くなる。本発明の一実施態様によれば、伸縮性かつ導電性である導線は少なくとも120μmの厚さであり、好ましくは少なくとも200μmの厚さである。本発明の特定の実施態様によれば、導線の厚さは120〜800μmであり、好ましくは120〜500μmであり、さらに好ましくは250〜500μmであり、特に好ましくは300〜400μmである。
【0028】
本発明の調製方法は、室温においてシリコーンゴムを硬化させる工程を含む。本発明では、シリコーンゴムはファブリック中に硬化される。硬化時間を短縮する必要がある場合は、80℃〜200℃で予備硬化する工程が含められる。好ましくは、予備硬化工程は90℃〜165℃の温度において実施される。
【0029】
従って、本発明の別の側面は、本発明のファブリックの調製方法に関し、この方法は、
a) 5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層を、ファブリックに液体印刷する工程、
b)前記第1の層を80℃〜200℃の温度にて最大1分間予備硬化する工程、
c)前記第1の層を室温にて硬化する工程
を含む。
【0030】
本発明の別の側面は、本発明のファブリックの調製のための、5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの使用に関する。
【0031】
伸縮性かつ伝導性である領域を含む本発明のファブリックは、そのファブリックからのデータを受信ならびに収集および/または格納および/または処理および/または伝達するための装置に統合させることができる。
【0032】
従って、本発明の別の側面において、
a)本発明のファブリック、
b)前記ファブリックからのデータを受信ならびに収集および/または格納および/または処理および/または伝達するための電子機器
を含む装置が提供される。
【0033】
本発明のファブリックを用いて衣類を仕立てることが可能である。
【0034】
従って、本発明の別の側面は、本発明の装置を含む衣類に関する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上述したように、本発明の第1の側面はファブリックに関し、そのファブリックは前記ファブリックに統合された導電性領域
1を少なくとも1つ含み、前記導電性領域
1は5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの層を含む。このファブリックは1%〜200%伸張することができる。
【0037】
本発明に適するいくつかのファブリックが当業者に知られており、それは好ましくは伸縮性のファブリック、例えばポリエステル、ナイロンである。伸縮性のファブリックの非限定的な例は、3% w/wから20% w/wの間の一定の割合のエラスタンを含むファブリックである。
【0038】
柔軟、伸縮性かつ導電性である領域
1が伸びるときは、ファブリック支持体はその層の実質的に全長にまで渡る。シリコーンの柔軟性および伸縮性によって導電性領域
1が非常に良好に順応して保持されることが可能になり、伝導性が中断されない。
【0039】
上述したように、ファブリックに統合された導電性領域
1は導線として機能し得る。従って、本発明の特定の実施態様において、ファブリックは少なくとも1つの導電性領域
1(導線)、前記導線
1と電気的に接触する少なくとも1つの電極
2、および前記導線
1に設置された少なくとも1つの電気コネクター
3を含む。従って、導電性領域
1すなわち導線は、使用者の皮膚に接触配置された電極
2からの電気信号を、前記導電性領域
1すなわち導線に設置された電気コネクター
3に伝達する。コネクター
3は、前記ファブリックからのデータを受信ならびに収集および/または格納および/または処理および/または伝達するための電子機器と接触していてもよい。
【0040】
本明細書に記載される導電性領域は、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層を含む。硬化処理の前のシリコーンゴムは液状の高粘度状態にある。シリコーンは高粘度状態にあるときにファブリックにプリントされる。これは、シリコーン・ファブリックの結合が粘着剤を用いない結合であることを意味する。ファブリックにプリントされる際の高粘度状態シリコーンは、ファブリックの穴を浸透することができ、ファブリックの繊維の構造に固定される。その結果、本発明において記載される導電性領域はファブリックに統合される。
【0041】
従って、少なくとも1つの伸縮性かつ導電性である導線をファブリックに統合された状態で含む前記ファブリックも本発明の範囲に包含され、ここで、前記伸縮性かつ導電性である導線は導電性材料が添加されたシリコーンゴムを含み、このファブリックは、
a)ファブリックに、0.2〜0.8 Kg/m
2の圧力を適用しながら、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1のコーティングをスクリーン印刷すること;
b) 80℃〜200℃の温度において最大1分間、前記第1のコーティングを予備硬化すること;
c)前記第1のコーティングを室温において硬化すること
という工程により得ることができ、プリントされた上記コーティングの厚さは120〜800μmである。
【0042】
あるいは、導電性領域をファブリックに直接プリントするのではなく、ファブリックと伝導性領域との間に第2のシリコーン層が設けられる。ファブリック上にプリントされる第2のシリコーン層は、ファブリックの穴を浸透してファブリックの繊維の構造に固定されるので、ファブリックに統合される。続いて、導電性材料が添加されたシリコーンゴムが前記第2のシリコーン層上にプリントされ、化学結合によってシリコーンの分子構造に統合することができる。いずれの場合にも、ファブリック密着強度が改善される。最終的な結果として、導電性材料が添加されたシリコーンゴムおよび第2のシリコーンゴムが一緒にファブリックに統合される。
【0043】
導電性を付与するためにシリコーンゴムに添加される導電性材料は、カーボンブラック、グラファイト、または、例えば銀、ニッケル、および銅のような様々な金属の粉末から選択される。好ましくは導電性材料はカーボンブラックである。
【0044】
本明細書で使用される「カーボンブラック」という用語は、制御された条件下における気体または液体の炭化水素の不完全燃焼または熱分解によって産生される、コロイド粒子の形態の炭素を表す。その物理的外観は、黒く微細なペレットまたは粉末である。反応条件に関連して異なる種類のカーボンブラックが存在し、これらは例えばファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックである。
【0045】
好ましい実施態様において、伝導性材料の割合は10%〜35%である。より好ましい実施態様において、伝導性材料の割合は15%〜30%である。別の好ましい実施態様において、伝導性材料の割合は20%〜25%である。
【0046】
ファブリックと第1の層との間の結合を好適にするために、ファブリックと導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層
1との間に第2のシリコーンゴム層を置くことが可能である。
【0047】
従って、本発明のこの側面の一実施態様において、ファブリックは、ファブリックと導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層
1との間に設置された第2のシリコーンゴム層をさらに含む。
【0048】
本発明のこの側面の別の実施態様において、ファブリックは、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの層
1を被覆する、絶縁性材料のコーティングをさらに含む。絶縁性材料の例は滑り止めシリコーンである。このシリコーンは少なくとも0.5の材料/皮膚摩擦係数を有する。
【0049】
本発明のファブリックは、皮膚に接触して配置される電極
2を含む場合に生理的信号を取得することができる。
【0050】
従って、本発明のこの側面の別の実施態様において、ファブリックは、導電性領域
1と電気的に接触しており使用者の皮膚に接触して配置される電極
2を含む。
【0051】
本明細書で使用される「電極」という用語は、皮膚と接触する伝導性層の領域を表し、ここで生理的信号が受信され、または電気的刺激が使用者に伝達される。
【0052】
この側面の好ましい一実施態様において、電極
2は、伝導性繊維および非伝導性繊維から構成される伝導性ファブリックを含む。より好ましくは、電極
2は伝導性繊維から構成される伝導性ファブリックを表す。
【0053】
好ましくは、伝導性繊維は銀コーティングされたナイロン(例えばレアード・ソーコイト・インダストリーズ社のX-static(登録商標)糸)で構成され、非伝導性繊維はナイロンで構成される。伝導性繊維の非限定的な例としては、銀、銅、ニッケル、ステンレス鋼、金、伝導性材料でコーティングされた非伝導性繊維、またはこれらの混合物から構成された繊維がある。非伝導性繊維の非限定的な例としては、羊毛、絹、綿、亜麻、ジュート、アクリル繊維、ポリアミドポリエステル、ナイロン、および/または伸縮性糸(例えばインビスタ(登録商標)社のLYCRA(登録商標)ブランドのスパンデックス)がある。
【0054】
この側面の好ましい一実施態様において、電極
2は、5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの層であり、これはファブリック中に統合される。柔軟、伸縮性、かつ伝導性である電極が伸びる際には、ファブリック支持体はその層の実質的に全長にまで渡る。シリコーンの柔軟性および伸縮性により、電極が非常によく順応して、かつ実質的に全領域に渡って患者の皮膚と電気的表面接触して保持されることが可能となる。
【0055】
心電図(ECG)測定において、人体の皮膚と電極との間の接触抵抗は約数MΩであり得る。従って、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの一端(電極接触部分)から他方の端(コネクター部分)の抵抗値が1000 KΩ以下であれば、導電性材料が添加されたシリコーンゴムが約50%伸張された場合における実用性のためには十分である。
【0056】
従って、この側面の一実施態様において、導電性材料が添加されたシリコーンゴムのcmあたりの電気抵抗は1000 KΩ/cm以下であり、好ましくは500 KΩ/cm以下である。本発明のこの側面の別の実施態様において、導電性材料が添加されたシリコーンゴムのcmあたりの電気抵抗は50Ω/cm〜100 kΩ/cmであり、好ましくは1 KΩ/cm〜100 KΩ/cmであり、特に好ましくはcmあたりの抵抗の値は50Ω/cm〜10 KΩ/cmである。
【0057】
この側面の別の実施態様において、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの硬化温度は20℃〜200℃である。より好ましい実施態様では硬化温度は50℃〜140℃である。別の好ましい実施態様では硬化温度は100℃〜120℃である。
【0058】
導電性材料が添加されたシリコーンゴムは、白金触媒、ケイ素に結合したアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、オルガノ水素ポリシロキサン、および導電性材料を含有する。
【0059】
従って、この側面の一実施態様において、5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムは、
a) ケイ素に結合したアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、
b) オルガノ水素ポリシロキサン、
c) 白金触媒、および
d) 導電性材料
を含む。
【0060】
ケイ素に結合したアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンの例としては、ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサンガム、ジメチルアリルシロキシ末端ジメチルポリシロキサンガム、フェニルメチルビニルシロキシ末端ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体ガム、ジメチルビニルシロキシ末端メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体ガム、およびシラノール末端メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体ガムがある。
【0061】
オルガノ水素ポリシロキサンの例としては、トリメチルシロキシ末端メチル水素ポリシロキサン、トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサン・メチル水素シロキサン共重合体、ジメチルフェニルシロキシ末端メチルフェニルシロキサンメチル水素シロキサン共重合体、環状メチル水素ポリシロキサン、および、ジメチル水素シロキシユニットとSiO
4/
2ユニットとから構成される共重合体がある。
【0062】
ヒドロシリル化反応により硬化するシリコーン組成物のための硬化促進触媒として、いくつかの白金触媒が知られている。白金触媒の例としては、白金黒、活性炭上の白金、シリカ微細粉末上の白金、クロロ白金酸、クロロ白金酸のアルコール溶液、白金オレフィン複合体、白金四塩化物、白金ビニルシロキサン複合体、クロロ白金酸・オレフィン複合体、クロロ白金酸メチルビニルシロキサン複合体がある。
【0063】
この側面の好ましい一実施態様において、5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムは、
a) 60% w/w〜75% w/wの割合のジビニルポリジメチルシロキサン、
b) 7% w/w〜15% w/wの割合のジオキソシラン、
c) 5% w/w〜15% w/wの割合のカーボンブラック、
d) 0.001% w/w〜0.05% w/wの割合の白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(CAS No. 68478-92-2)、および
e) 3% w/w〜7% w/wの割合のポリジメチル水素シロキサン
を含む。
【0064】
ファブリックと伸縮性かつ導電性である材料との間で高度な接着強度が達成されるが、これは、コーティング材料が繊維の間の隙間に容易に浸透して、ファブリックの繊維の構造に固定され、伸縮性かつ導電性である材料のファブリックへの統合がもたらされるからである。
【0065】
液体印刷は、ラミネート加工と液体コーティングとを組み合わせたコーティング法であり、本事例ではコーティングされるシリコーンは液状(高粘度)シリコーンであるが、両側に適用されるのではなく、ラミネート加工処理と同様にしてファブリックの一方の側だけに適用される。コーティングの厚さの程度によってファブリックの特性が変わるので、コーティングの際には厚みの制御が重要である。
【0066】
この技術分野においてよく知られているように、液体印刷という用語には、液体状態にある印刷材料が支持体に沈着される印刷プロセスのファミリーが包含される。このプロセスのファミリーに含まれるものとしては、スクリーン印刷およびデジタル印刷がある。デジタル印刷プロセスにおいては、デジタル的に処理されたデザインを再現するディスペンサーによって材料が直接適用される。スクリーン印刷プロセスでは、型板を用いて液体材料が沈着される。型板は異なるデザインおよび厚さで作ることができる。
【0067】
上述したように、本発明の別の側面において、本発明のファブリックの調製方法が提供され、その方法は、
a) 5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1のコーティングを、ファブリックに液体印刷する工程、
b)前記第1のコーティングを80℃〜200℃の温度にて最大1分間予備硬化する工程、
c)前記第1のコーティングを室温にて硬化する工程
を含む。
【0068】
本発明の一実施態様によれば、液体印刷プロセスはスクリーン印刷プロセスである。
【0069】
本発明において使用される「室温」という用語は、20℃〜30℃の温度、例えば25℃を表す。
【0070】
プリント回路板とは、伝導性材料を板上にプリントすることにより板にコーティングされた伝導性配線システムであり、異なる目的を達成するために異なる電気部品をこの伝導性配線システムに結合させることができる。本発明は、伸縮性および柔軟性の機械的特性を有する回路を記述するものであり、ここで、上記板はファブリックのメッシュであり、上記配線システムはファブリックにプリントされた伝導性シリコーンである。いったんシリコーンが硬化すると電気部品を接続することが不可能になるので、このシリコーンを配線システムとして使用するためには、液体の伝導性シリコーンが適用される前に電気部品がファブリックに設置され、この方法は以下の工程を含む好ましい実施態様として記述される:
a)熱接着剤で電極をコーティングする工程、
b)前記電極をファブリックに固定する工程、
c) 5% w/w〜40% w/wの量の導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層を、ファブリックに液体印刷する工程、
d)前記第1の層を80℃〜200℃の温度にて最大1分間予備硬化する工程、
e)前記導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層を覆って絶縁性材料の層をコーティングする工程、
f)室温にて硬化する工程、
g)コネクターを設置する工程。
【0071】
好ましい一実施態様において、導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層は、120〜800μmの厚さ、好ましくは200〜500μmの厚さ、特に好ましくは300〜400μmの厚さでスクリーン印刷される。
【0072】
電極は、導線と電気的に接触するようにしてファブリックに設置される。
【0073】
上記工程a)およびb)は電極を調製するプロセスを記述し、工程c)〜f)は導電性領域を調製するプロセスを記述する。導電性領域を調製するプロセスである工程c)〜g)を、電極を調製するプロセスである工程a)およびb)の前に実施してもよい。
【0074】
ファブリックが、ファブリックと導電性材料が添加されたシリコーンゴムの第1の層との間に置かれた第2のシリコーンゴム層をさらに含む場合には、工程d)の前に、シリコーンを液体印刷する工程およびその第2のシリコーンを予備硬化する工程を実施し得る。
【0075】
明細書および特許請求の範囲を通して、「〜を含む(comprise)」という語およびその変形は、他の技術的特徴、添加物、構成成分、または工程を排除することを意図するものではない。さらに、「〜を含む」という語は「〜からなる」という場合を包含する。本発明の追加の対象物、有利な点、及び特徴は、本明細書を精読した当業者には明らかとなり、あるいは、本発明を実施することにより知得することができる。以下の実施例および図面は、例示として提供されるものであり、本発明を限定することは意図していない。図面に関連して請求項で括弧書きされている参照符号は、単に請求項の明瞭性を高めようとする試みにすぎず、特許請求の範囲を限定するものとして解するべきではない。さらに、本発明は、本明細書に記載される具体的実施態様および好ましい実施態様の全ての可能な組合せを包含する。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
異なるレベルの伸張度において本発明のファブリックの性能を測定し、それがいかに信号の質に影響するかを評価した。この実施例におけるファブリックは、伝導性シリコーン(アルピナ・テクニーシェ・プロダクテ社のVP97065/30)を含む導電性領域と、伝導性繊維および非伝導性繊維から構成される導電性ファブリックの2つの電極とを含み、その伝導性繊維は銀コーティングされたナイロン(レアード・ソーコイト・インダストリーズ社のX-static(登録商標)糸)から構成され非伝導性繊維はナイロンから構成されている。
【0077】
伝導性シリコーンVP97065/30を含む導電性領域を通して伝達される信号を試験し評価するために、導電性領域を異なるレベルで伸張させて信号がどれだけ歪むかを評価する試験を行なった。
【0078】
静止状態、導電性領域が約25%伸張された状態、および導電性領域が約50%伸張された状態という、3つの状態が評価された。信号は、PS420マルチパラメータ患者ECGシミュレータ(フルーク社)により産生されて電極を通過し、伝導性シリコーンを含む導電性領域を通って、信号を受信して視覚化およびさらなる解析用のコンピュータに伝達するための電子機器に伝導される。
【0079】
導電性領域の伸張のレベルは以下のとおりであった。
静止:導電性領域は伸張されておらず、もとの長さ6.5 cmを維持している。
25%伸張:導電性領域はもとの長さの約25%伸張されており、8.125 cmとなっている。
50%伸張:導電性領域はもとの長さの約50%伸張されており、9.75 cmとなっている。
【0080】
各状態(静止、25%伸張、50%伸張)について、ECGシミュレータの9〜10回の心拍からなる信号の2つの間隔をとらえた(シミュレータは1分間あたり60拍動に設定されているので、各間隔は10秒間)。
【0081】
異なるレベルの伸張度において異なる心電図信号を取得する際に、それらの信号についてある種の測定を行なって、伝導性シリコーンを含む導電性領域の性能を評価する。以下は、信号について実施された測定である。
【0082】
[視覚的測定]
この測定は、単に信号を観察することにより、検出される形状およびノイズに関して取得信号の質を直接認定するものであった。この視覚的認定は、いかなる拍動(QRS群)および特徴的波動が認識可能であり、それらのいずれについてはノイズが大きすぎて心臓専門医により認識されないかを確認するためにも使用される。導電性領域伸張の異なるレベルの各々について、合計500回の拍動を分析した。
【0083】
[信号に関する測定]
伸張の各レベルにおいて記録された信号について以下の測定を行なった。これらの測定は、記録された信号の手動および自動分析を伴うものである。
【0084】
相互相関:異なるレベルの伸張の間で信号を分離し、互いに比較して相関させた。相互相関は、2つの波形のうちの1つに適用された時間差の関数としての、2つの波形の類似性の尺度であった。常に同じ拍動を発生し信号間で変化しないECGシミュレータを使用したので、相互相関は非常に有用であった。これは、2つの信号間(1つは伸張なし、もう1つは伸張あり)で相互相関を行うとすれば、それらの間の差異はノイズだけであることを意味する。この測定は、0(類似性がなく、完全に異なる)から1(信号は同等である)までに渡る。
【0085】
RMSノイズ:心拍間でT-P間隔のRMS(二乗平均平方根)を計算した。この測定は各伸張レベルについて行われ、平均され、信号中のノイズの見積もりを提供する。これらの測定は手動で(各間隔の始点と終点を選んで)行なった。
【0086】
どちらの値も、信号中に存在するノイズおよび導電性材料が添加されたシリコーンゴムの伸張により導入される歪みについての非常に重要かつ非常に優れた評価基準であった。
【0087】
[結果]
この節は、実施された試験プロトコールにより得られた結果を示す。これらの結果は、前節で説明した全ての測定を含む。視覚的結果および信号に関する測定という2節に分けて情報を提示した。
【0088】
[直接コンピュータから信号のキャプチャーを取って得られた視覚的結果]
ECGストリップを横切る線は、伸張が開始されストリップの最後まで維持された点を示す。
【0089】
a) 25%伸張
2つの例(
図2、
図3)において、ストリップの左部分(線の左側)においては導電性領域は引き伸ばされておらず、ストリップの右部分(線の右側)においては導電性領域が25%引き伸ばされている。
b) 50%伸張
2つの例(
図4、
図5)において、ストリップの左部分(線の左側)においては導電性領域は引き伸ばされておらず、ストリップの右部分(線の右側)においては導電性領域が50%引き伸ばされている。
【0090】
これらの信号より、導電性領域の伸張によって信号の質はほとんど影響を受けていないことが容易に観察された。導線が50%伸張された場合にはより多くのノイズが存在しかつ見られたが、しかしこのノイズは信号を乱すほどのものではなく、全ての波動および特徴点を依然として見ることができ、また、後処理においてノイズは容易にフィルター除去された。
【0091】
[信号測定結果]
この節では、上記で説明したように、信号に関して手動および自動で行なわれた測定によって得られた結果を示す。これらの結果は、信号のノイズおよび質についてのより精確なアプローチを提供する。
【0092】
a) RMSノイズ
25%伸張
これらの結果は異なる4つの間隔について示されており、そのうちの2つでは導電性領域が伸張されておらず(伸張なし1および伸張なし2)、他の2つでは導電性領域が25%伸張されている(25%伸張1および25%伸張2)。
【表1】
【0093】
どちらの場合においても、導電性領域の伸張がない信号は、その後導電性領域が伸張されたときよりもノイズが少なかった。これは平均の結果においてより明確である。
【表2】
【0094】
50%伸張
これらの結果は異なる4つの間隔について示されており、そのうちの2つでは導電性領域が伸張されておらず(伸張なし1および伸張なし2)、他の2つでは導電性領域が50%伸張されている(50%伸張1および50%伸張2)。
【表3】
【0095】
どちらの場合においても、導電性領域の伸張がない信号は、その後導電性領域が伸張されたときよりもノイズが少なかった。これは平均の結果においてより明確である。
【表4】
【0096】
2つの状態の間の差が非常に低度であったことも非常に顕著であり、従ってこれは導電性領域の伸張によるノイズはほとんど存在しないことを示している。
【0097】
相互相関
この測定は、信号の質の見積もりを与えるものであり、その数値が1に近いものが最良である(伸張されていない導電性領域でとらえられる信号が、伸張された導電性領域でとらえられる信号と同等であることを示すからである)。下記の表5は25%伸張および50%伸張についての結果を示す。
【表5】
【0098】
表5は、どちらの状況においても、信号はノイズによる乱れがほとんどないことを示している。予測されたように、50%伸張の方がわずかに劣るが、しかし最悪の場合でも96%の類似性(わずか4%のノイズ)であって、これらの結果はきわめて良好であった。
【0099】
ここに示されるデータを分析して、上記伝導性の導電性領域の性能を規定するいくつかの結論を抽出した。すなわち、この導電性領域は生体電位(特に、ここで示されたように、心電図信号)を伝達することに適しており、伸張された状況において非常に良好に動作し、信号の乱れ(ノイズ)はほとんどなく、導電性領域が伸張された際に心電図の全ての特徴点および波動が完全に認識され、従ってECGの目視検査に問題は生じなかった。
【0100】
本出願において引用される参考文献
US7779656
US7783334
US2010198038
Anjum Saleem et al., “Fabrication of extrinsically conductive silicone rubbers with high elasticity and analysis of their mechanical and electrical characteristics”, Polymers 2010, vol. 2 (3), pp. 200-210