特許第5884098号(P5884098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京農業大学の特許一覧

特許5884098微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法
<>
  • 特許5884098-微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法 図000003
  • 特許5884098-微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法 図000004
  • 特許5884098-微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法 図000005
  • 特許5884098-微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884098
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】微生物保護剤、該微生物保護剤を含むコーティング剤、並びにそれを用いたコーティング種子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20160301BHJP
   A01C 1/06 20060101ALI20160301BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20160301BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   C12N1/00 K
   C12N1/00 L
   A01C1/06 M
   A01N63/00 F
   A01P3/00
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-502001(P2015-502001)
(86)(22)【出願日】2014年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2014083705
(87)【国際公開番号】WO2015093595
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2015年7月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-264217(P2013-264217)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22001
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】篠原 弘亮
(72)【発明者】
【氏名】根岸 寛光
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 紗代子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−201800(JP,A)
【文献】 特開2011−200149(JP,A)
【文献】 特開2007−077126(JP,A)
【文献】 特開2010−088358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
A01C 1/06
A01N 63/00
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の死滅を抑制するための粉末状の保護剤であって、
該粉末が、十和田石、大谷石、雲母からなる群から選択された少なくとも1種類の岩石粉末であり、該岩石粉末の粒径が80μm以下であることを特徴とする、
微生物保護剤。
【請求項2】
植物の病害防除に有効な作用をする微生物菌体、及び、
十和田石、大谷石、雲母からなる群から選択された少なくとも1種類の岩石粉末であって、かつ該岩石粉末の粒径が80μm以下である微生物保護剤、
を含むことを特徴とする、
種子のコ―テング剤
【請求項3】
前記微生物が、グラム陰性細菌である、
請求項2に記載のコーティング
【請求項4】
前記微生物が、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、コリモナス(Collimonas)属細菌からなる群から選択された少なくとも1種類である、
請求項2又は3に記載のコーティング剤。
【請求項5】
請求項1に記載の微生物保護剤と、微生物菌体とが種子にコーティングされたことを特徴とする、
コーティング種子。
【請求項6】
前記微生物が、植物の病害防除に有効な作用をする細菌である、
請求項5に記載のコーティング種子。
【請求項7】
前記微生物が、グラム陰性細菌である、
請求項5又は6に記載のコーティング種子。
【請求項8】
前記微生物が、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、コリモナス(Collimonas)属細菌からなる群から選択された少なくとも1種類である、
請求項5〜7のいずれか1項に記載のコーティング種子。
【請求項9】
請求項1に記載の微生物保護剤と微生物菌体とを懸濁した水性懸濁液に種子を浸漬する工程を有することを特徴とする、
コーティング種子の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記水性懸濁液に種子を浸漬しながら減圧処理を行う工程を有する、
請求項9に記載のコーティング種子の製造方法。
【請求項11】
前記水性懸濁液における微生物菌体の濃度が、107〜1012cfu/mLである、
請求項9又は10に記載のコーティング種子の製造方法。
【請求項12】
前記微生物が、グラム陰性細菌である、
請求項9〜11のいずれか1項に記載のコーティング種子の製造方法。
【請求項13】
前記微生物が、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌である、
請求項9〜12のいずれか1項に記載のコーティング種子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物保護剤及び該微生物保護剤を用いたコーティング種子並びに該コーティング種子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近代農業では、効率的に食糧を確保するため、化学農薬を中心とした病害虫防除技術が発達してきた。しかしながら、化学農薬を長年にわたり過度に使用した結果、生態系の乱れ、残留農薬による食品の安全性、化学農薬を使用する農業者の健康被害、などの問題がクローズアップされた。このため、安心・安全という観点から、毒性や残留性の低い農薬への転換が求められ、そこからさらに減農薬、無農薬への取り組みが求められつつある。
【0003】
こうした傾向の中、化学農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業に適合した病害虫防除技術として微生物防除技術が注目されている。ここでいう「微生物防除技術」とは、自然界に生息する「病原菌から植物を守る微生物」や「害虫から植物を守る微生物」を活用して作物を病害虫などの被害から守る技術のことである。この微生物防除技術は、作物、人間や環境に対する負荷が少なく、食の安全・安心確保に大きく貢献するものと期待されている。
【0004】
微生物防除技術の一つとして、従来、病害虫や病害菌に対して防除効果を有する有用微生物を種子にコートすることが知られている。しかし、この技術には、有用微生物をコートしたコーティング種子に存在する有用微生物が時間の経過とともに死滅し、その防除効果が時間とともに低下・消失するという問題がある。
【0005】
このような背景から、コーティング種子に存在する有用微生物の死滅を防ぐ技術として、日本特許公開2011−201800号公報(特許文献1)には、種子をあらかじめ減圧条件下に置くことにより種子の周囲の空気あるいは水を取り除き、その後、有用微生物を減圧条件で接種することにより、安定した微生物菌数を保持したコーティング種子の製造方法が開示されている。また、前記特許文献には、有用微生物コーティング種子の製造において、該有用微生物を保護するための微生物保護剤の例として、増粘安定剤、多糖類、親水性高分子化合物、タンパク質、アミノ酸、アミノ酸塩などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本特許公開2011−201800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献に開示された技術は、コーティング種子を製造する際に使用する微生物の死滅を抑制するために利用される微生物保護剤が、微生物の栄養源となる増粘安定剤、多糖類、親水性高分子化合物、タンパク質、アミノ酸、アミノ酸塩であるため、これらによって保護する微生物以外の有害微生物、例えば、植物病害の原因となる病原性菌など、が増殖する可能性があり、このコーティング種子では該病原性菌による植物病害の発生が懸念される。
【0008】
そこで、本発明の目的は、保護する有用微生物以外の微生物、例えば、植物病害の原因となる病原菌などの栄養源とならずに、かつ、保護する有用微生物の死滅を抑制できる粉末状の微生物保護剤を提供することにある。本発明の他の目的は、該微生物保護剤を用いることで保管中における保護する微生物の死滅を抑制したコーティング種子及び該コーティング種子の製造方法に関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが前記目的を達成する手段について鋭意検討した結果、意外にも微生物の栄養源とはならない岩石粉末が微生物の死滅を抑制し、コーティング種子中の微生物を長期間保持できるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づきなされたものであり、微生物の死滅を抑制するための粉末状の保護剤であって、該粉末が岩石粉末であることを特徴とする微生物保護剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、岩石粉末からなる微生物保護剤と微生物菌体とを植物の種子にコートしたことを特徴とするコーティング種子を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、水中に岩石粉末からなる微生物保護剤と微生物菌体とを懸濁させた水性分散液に種子を浸漬する工程を有することを特徴とするコーティング種子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微生物保護剤は、保護対象の有用微生物の死滅を長期間にわたって抑制することができ、かつ、該微生物保護剤が保護する有用微生物以外の微生物、例えば、植物病害の原因となる病原菌など有害な微生物の栄養源とならず、したがって有害な微生物の増殖が起きないという利点を有する。そして、本発明のコーティング種子は、有用微生物と微生物保護剤をともに植物種子をコーティングすることで、植物病害の原因となる病原菌などを増殖させる危険性が低く、かつ、保管期間中に有用微生物の死滅が抑制されたコーティング種子となる。また、本発明のコーティング種子の製造方法によれば、前記の利点を有するコーティング種子を効率的に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を含む液(菌体濃度約108 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理した種子における生菌数の経日的変化を示す図である(微生物保護剤として十和田石粉末を使用)。
図2】ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を含む液(菌体濃度約1011 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理した種子における生菌数の継日的変化を示す図である(微生物保護剤として大谷石粉末を使用)。
図3】ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を含む液(菌体濃度約1011 cfu/ml)に浸漬処理した種子における生菌数の継日的変化を示す図である(微生物保護剤として大谷石の粉末を使用)。
図4】ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を含む液(菌体濃度約(約1011 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理した種子における生菌数の継日的変化を示す図である(微生物保護剤として雲母粉末を使用)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.微生物保護剤
本発明の本実施形態における微生物保護剤は、微生物が死滅するのを抑制する粉末状の保護剤であって、岩石粉末であることを特徴とするものである。
【0015】
前記岩石の種類は、本発明の目的及び効果が得られれば特に制限はなく、例えば、火成岩に分類される火山岩、半深成岩及び深成岩、堆積岩に分類される砕屑岩、火山砕屑岩(火砕岩)、生物的沈殿岩(生物岩)、化学的沈殿岩及び蒸発岩、変成岩にブンルイサレル接触変性岩、広域変性岩及び動力変性岩などを挙げることができる。これら岩石のうち、微生物の死滅を抑制する効果の観点から、火山砕屑岩(火砕岩)に分類される凝灰岩や深成岩に分類される花崗岩が好ましく、その中でも緑色凝灰岩、軽石凝灰岩(浮石凝灰岩)、雲母がさらに好ましい。緑色凝灰岩のうち、特に好ましいのは日本の秋田県にある緑色凝灰岩である「十和田石」であり、軽石凝灰岩のうち、特に好ましいのは日本の栃木県にある「大谷石」である。
【0016】
前記岩石の粉末を調製する方法は、岩石を粉末にすることができれば特に制限されず、例えば、従来から用いられている粉砕機によって岩石を粉末にする方法などを挙げることができる。これらの岩石粉末は、1種類のみでも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0017】
前記岩石粉末の粒径は、本発明の目的及び効果が得られれば特に制限はないが、種子にコートする観点から、16メッシュの篩を通過したものが好ましく、特に粒径が80μm以下のものが好ましい。
【0018】
本実施形態において保護の対象となる微生物は、特に限定されないが、植物の病害防除技術に利用する観点から、植物に対して有用な効果を与える微生物が好ましい。植物に対して有用な効果を与える微生物(本明細書では「有用微生物」ということがある)は、植物に対して有用な微生物であれば特に限定されないが、例えば、菌寄生作用、抗菌作用、競合・干渉又は拮抗作用、抵抗性誘導作用や食菌作用などによって植物病原菌を抑制する効果を有する微生物、植物生育促進微生物、根粒菌、菌根菌などを挙げることができる。これら微生物のうち、糸状菌の胞子や一部のグラム陽性細菌の芽胞のような耐久器官を形成して長期間保存が可能な微生物以外の微生物を長期間保存する観点から、細菌が好ましく、その中でもグラム陰性細菌がさらに好ましい。また、グラム陰性細菌のうち、特に好ましいのはハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌又はコリモナス(Collimonas)属細菌である。
【0019】
前記ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌は、本発明者らが日本特許出願2011−211164(日本特許公開2012−92093)に開示したように、イネ科植物の細菌性病害の防除に有効である。前記ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌としては、ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)、ハーバスピリラム・ルブリスバルビカンス(Herbaspirillum rubrisubalbicans)、ハーバスピリラム・オートトロフィカム(Herbaspirillum autotrophicum)、ハーバスピリラム・クロロフェノリカム(Herbaspirillum chlorophenolicum)、ハーバスピリラム・フリシンゲンセ(Herbaspirillum frisingense)、ハーバスピリラム・ハッチエンセ(Herbaspirillum huttiense)、ハーバスピリラム・プティ(Herbaspirillum putei)、ハーバスピリラム・セロペディカ(Herbaspirillum seropedicae)からなる群から選択された少なくとも1種類があげられる。中でも、有効なハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌は、本発明者らによって発見され、日本の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)に国際寄託されたハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株(受領番号FERM ABP−22001)である。また、パントエア(Pantoea)属細菌は、本発明者らが日本特許出願2013−192200に開示したように、イネ科植物の細菌性病害の防除に有効であることが判明している。さらに、コリモナス(Collimonas)属細菌が、植物病害菌の防除に有効なことは、国際特許出願PCT/JP2013/56640(WO2014/141362)に開示されている。
【0020】
本実施形態の微生物保護剤は、有用微生物が死滅するのを抑制することができるため、以下で述べるコーティング種子などに利用することができる。また、本実施形態の微生物保護剤によれば、例えば、凍結保存処理や凍結乾燥処理を行った場合に死滅する割合が多いことから、これまで利用が困難であった微生物を長期間生存させることも可能であるため、従来利用されなかった微生物も対象とすることができる。
【0021】
2.コーティング種子
本発明の実施形態におけるコーティング種子について説明する。本発明に係るコーティング種子は、上述の微生物保護剤と微生物菌体とから実質的になる組成物を種子にコートしたものである。
【0022】
本実施形態で用いる種子は、一般的な植物の種子であればよく、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギなどのイネ科の種子、タマネギ、ネギなどのユリ科の種子、ホウレンソウ、テンサイなどのアカザ科の種子、キャベツ、ハクサイ、カリフラワー、ブロッコリー、ダイコンなどのアブラナ科の種子、ソラマメ、エンドウなどのマメ科の種子、ニンジン、セルリー、ミツバなどのセリ科の種子、レタス、シュンギク、ゴボウなどのキク科の種子、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科の種子、メロン、キュウリ、スイカ、カボチャなどのウリ科の種子、パンジー、ビオラ、ペチュニア、トルコギキョウ、ストック、アスター、シクラメン、プリムラ、キンギョソウ、ジニア、マリーゴールド、アサガオ、ヒマワリ、コスモス、ラナンキュラス、ラベンダー、ルピナス、ミムラス、ポピー、ベゴニア、ネメシア、ビンカ、トレニア、デルフィニューム、ダイアンサス、ゼラニューム、センニチコウ、スイートピー、サルビア、ガーベラ、ガザニア、カレンジュラ、グロキシニア、ケイトウ、インパチェンス、アネモネ、アゲラタムなどの花卉種子などの種子などを挙げることができる。
【0023】
コーティング種子は、前記の植物種子の表面の少なくとも一部に、上述の岩石粉末からなる微生物保護剤と有用用微生物とを同時に又は逐次的に付着させたものである。好ましいコーティング種子は、その表面が上述の岩石粉末からなる微生物保護剤と有用微生物からなる組成物によってコートされたものである。
【0024】
前記微生物は、特に限定されないが、植物の病害虫防除技術に利用する観点から、植物に対して有用な効果を与える微生物が好ましい。このような微生物としては、例えば、菌寄生作用、抗菌作用、競合・干渉又は拮抗作用、抵抗性誘導作用や食菌作用などによって植物病原菌を抑制する効果を有する微生物、植物生育促進微生物、根粒菌、菌根菌などを挙げることができる。これら微生物のうち、糸状菌の胞子や一部のグラム陽性細菌の芽胞のような耐久器官を形成して長期間保存が可能な微生物以外の微生物を長期間保存する観点から、細菌が好ましく、その中でもグラム陰性細菌がさらに好ましい。また、グラム陰性細菌のうち、特に好ましいのは上述したハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌又はパントエア(Pantoea)属細菌、コリモナス(Collimonas)属細菌である。
【0025】
本実施形態のコーティング種子の調製方法は、本発明の目的及び効果が得られる方法であれれば特に制限はなく、例えば、上述の微生物保護剤と有用微生物の菌体とを含む水性分散液(以下「菌体懸濁液」という)に種子を1〜48時間浸漬する方法、該微生物保護剤を添加した微生物菌体を含む溶液に種子を浸漬中に撹拌する方法、該微生物保護剤を添加した微生物菌体を含む菌体懸濁液に種子を浸漬しながら30分〜2時間減圧する方法、該微生物保護剤を添加した微生物菌体を含む菌体懸濁液を種子に噴霧する方法、該微生物保護剤と乾燥粉末状の微生物菌体とを種子に粉衣する方法などを挙げることができる。これらの方法の中でも、該微生物保護剤を添加した菌体懸濁液に種子を浸漬し撹拌する方法が、効率的に目的とするコーティング種子を得ることができるので好ましい。
【0026】
本実施形態のコーティング種子は、本発明の目的及び効果を妨げなければ、上述の微生物保護剤及び微生物以外の素材を含有することができる。
【0027】
本実施形態のコーティング種子は、種子にコートされた微生物の死滅が抑制されるため、長期間保管してもコートした微生物の効果が得られる。また、コーティング種子に用いた微生物保護剤は、植物病害の原因となる病原菌を増殖させることがないため、該病原性菌による植物病害の発生するリスクを低減できる。さらに、本実施形態のコーティング種子によれば、これまで利用が困難であった微生物を長期間生存させることも可能であるため、従来利用されなかった微生物も対象とすることができる。
【0028】
3.コーティング種子の製造方法
本発明の好ましい実施形態におけるコーティング種子の製造方法は、上述の微生物保護剤と微生物菌体とを懸濁した溶液に種子を浸漬する工程を有するものである。
【0029】
本実施形態において、まず始めに、上述の微生物保護剤と微生物菌体と水中に懸濁した菌体懸濁液を調製する。
【0030】
前記微生物は、既に述べた通り、植物の防除技術に利用する観点から、植物に対して有用な効果を与える有用微生物が好ましい。このような微生物としては、既に述べたように、例えば、菌寄生作用、抗菌作用、競合・干渉又は拮抗作用、抵抗性誘導作用や食菌作用などによって植物病原菌を抑制する効果を有する微生物、植物生育促進微生物、根粒菌、菌根菌などを挙げることができる。これら微生物のうち、糸状菌の胞子や一部のグラム陽性細菌の芽胞のような耐久器官を形成して長期間保存が可能な微生物以外の微生物を長期間保存する観点から、細菌が好ましく、その中でもグラム陰性細菌がさらに好ましい。また、グラム陰性細菌のうち、特に好ましいのはハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌又はパントエア(Pantoea)属細菌、コリモナス(Collimonas)属細菌である。
【0031】
前記微生物の菌体の形態は、本発明の目的及び効果が得られれば特に制限されず、微生物の培養液、菌体が液体に懸濁された液体状のものでも、乾燥された粉末状のものでも使用することができる。
【0032】
前記微生物保護剤を添加した微生物菌体を含む菌体懸濁液における菌体濃度は、植物の防除効果の観点から、107〜1012cfu/mLとすることが好ましい。
【0033】
次に、前記微生物保護剤を含む菌体懸濁液に種子を1〜48時間浸漬する。これにより、微生物保護剤及び微生物菌体が種子にコートされる。
【0034】
前記種子は、一般的な植物の種子であればよく、上に述べた各種の植物種子が使用可能である。
【0035】
また、前記微生物保護剤を含む菌体懸濁液に種子を浸漬しながら30分〜2時間減圧処理することによりコーティング種子を製造することもできる。本発明では、減圧処理を必須としないが、減圧処理により微生物保護剤及び微生物菌体の種子への定着率を向上させることができる。
【0036】
このような工程を経て、保護する微生物以外の微生物、例えば、植物病害の原因となる病原菌などを増殖させる危険性がなく、かつ、保管期間中に保護する微生物の死滅が抑制されたコーティング種子を製造することができる。
【実施例】
【0037】
(1)供試種子
供試種子として、日本産のイネであるコシヒカリの種籾を使用し、塩水選(比重1.13)及び温湯消毒(60℃、10分間)を行ったものを用いた。
【0038】
(2)供試岩石粉末
種子にコートする前記微生物保護剤の構成成分となる岩石粉末として、16メッシュの篩を通過した緑色凝灰岩である十和田石の粉末(十和田グリーンタフ・アグロサイエンス株式会社製:十和田石ケーキ、粒径80μm以下)、16メッシュの篩を通過した軽石凝灰岩である大谷石の粉末(石材加工場で加工時に出る細かな石屑)又は16メッシュの篩を通過した雲母の粉末(日本画の画材店で購入)を使用した。また、菌体懸濁液に添加する際には、121℃で20分間の条件で滅菌した。
【0039】
(3)供試菌株
種子にコートする微生物として、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を用いた。
【0040】
(4)菌体懸濁液の調製
ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株を、常法に従い、PPG液体培地(Bacto-Pepton 5g,グルコース 5g,Na2HPO4・12H2O 3g,KH2PO4 0.5g,NaCl 3g,ジャガイモ200gの煎汁 1000mL)に接種し、25℃で2日間振とう培養(160rpm)した。また、それぞれの培養液を遠心分離(8000rpm、7分間)によって菌体と培養上清液とに分離し、該培養上清液を除去することで菌体を回収し、この回収した菌体に除去した培養上清液と同量の滅菌水を加えることで2種の菌体懸濁液を調製した。なお、各菌体懸濁液の菌体濃度は、約108cfu/ml又は約1011 cfu/mlである。
【0041】
(5)コーティング種子の調製
供試種子2.8gを、供試岩石粉末が10%(w/v)濃度になるように添加した前記菌体懸濁液100mLに24時間浸漬し、これを風乾することでコーティング種子を調製した。また、前記菌体懸濁液に種子を浸漬しながら、流水アスピレーター又は真空減圧装置を用いて1時間減圧し、これを風乾したコーティング種子も調製した。なお、供試岩石粉末を含まない菌体懸濁液を用いた場合を対照とした。また、調製したコーティング種子は、冷蔵庫内(4℃)で保管し、経日的にコーティング種子中の生菌数を調べた。
【0042】
(6)コーティング種子中の生菌数の測定
コーティング種子中の生菌数の測定は、以下の方法によって行った。すなわち、コーティング種子を乳鉢に入れ、コーティング種子1粒に対して滅菌水1mLを加えて乳棒を用いて磨砕し、磨砕液を調製した。この調製した磨砕液を段階希釈(10倍、100倍及び1000倍希釈)し、これら希釈液100μLを普通寒天培地に塗布した後、25℃で5日間培養した。培養後、出現したコロニー数を計数することでコーティング種子の生菌数を算出した。
【0043】
(7)結果
図1は、微生物保護剤として十和田石粉末を使用したハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株懸濁液(約108 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理して得たコーティング種子について、該コーティング種子おける生菌数の経日的変化を、保護剤を使用しない場合と対比して示す図である。図1に示すように、十和田石粉末とハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株とをコートしたコーティング種子では、コーティング種子中のハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株の生菌数は、調製1日目では105cfu/g種子であり、調製50日後においても105cfu/g種子であった。このように保護剤の使用により調製50日後における生存率は100%と高い値を示した。
【0044】
これに対し、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株のみコートした場合、コーティング種子中のハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株の生菌数は、コーティング種子の調製1日目では104cfu/g種子であったが、調製20日後においてはハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株の生菌が認められず、また、調製50日後においても、当然ながらハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株の生菌が認められなかった。
【0045】
図2は、微生物保護剤として大谷石粉末を用いたハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株懸濁液(菌濃度約1011 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理して得たコーティング種子における生菌数の継日的変化を、微生物保護剤を使用しない場合と対比して示す図である。図2に示すように、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株と大谷石粉末を含む微生物保護剤を使用して種子コーティングした場合も、50日経過後も生菌数が維持された。ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株のみで種子コーティングした場合と比較して、より多くの生菌数が維持されることが判明した。
【0046】
図3は、微生物保護剤として大谷石粉末を用いたハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株懸濁液(菌濃度約1011 cfu/ml)に浸漬処理のみを行ったコーティング種子における生菌数の継日的変化を、微生物保護剤を使用しない場合と対比して示す図である。図3に示すように、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株と大谷石粉末を浸漬処理して得られた微生物保護剤を使用して種子コーティングした場合も、減圧処理(図3参照)した場合と比較しても遜色ない程度に生菌数が維持され、特別な減圧処理装置を使用しなくても、所期の目的が達成できることが判明した。
【0047】
図4は、微生物保護剤として雲母粉末を用いたハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株懸濁液(菌濃度約1011 cfu/ml)に浸漬しながら減圧処理したコーティング種子における生菌数の継日的変化を、微生物保護剤を使用しない場合と対比して示す図である。図4に示すように、微生物保護剤の材料として雲母粉末を使用した場合においても、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)022S4-11株のみで種子コーティングした場合と比較して、50日経過後も多くの生菌数が維持された。
【0048】
以上の実験により、十和田石粉末、大谷石粉末又は雲母粉末からなる微生物保護剤と、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌菌体とを種子にコートすることで、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌が長期間コーティング種子中で生存できることが確認された。
【0049】
図1
図2
図3
図4