特許第5884225号(P5884225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5884225グラフトカバー引き込みのための引き込み機構および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884225
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】グラフトカバー引き込みのための引き込み機構および方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/95 20130101AFI20160301BHJP
   A61M 25/092 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   A61F2/95
   A61M25/092 500
【請求項の数】19
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-506156(P2013-506156)
(86)(22)【出願日】2011年3月21日
(65)【公表番号】特表2013-524935(P2013-524935A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011029157
(87)【国際公開番号】WO2011133272
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年3月20日
(31)【優先権主張番号】12/763,903
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502129357
【氏名又は名称】メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】アルゼンチン ジェフリー
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/067819(WO,A1)
【文献】 特表2004−527316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/95
A61M 25/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフトカバー引き込み機を備えるグラフト送達システムであって、
前記グラフトカバー引き込み機が、
中空スロット付きスクリューギアと、
中空グラフトカバー前進ナットと、
スペーサーグラフトカバーアンカーと、を備え、
前記中空スロット付きスクリューギアが、
外面と、
前記外面から延在するネジ山と、を有し
前記中空グラフトカバー前進ナットが、
第1の内面と、
前記第1の内面に対して遠位にある第2の内面と、
前記第1の内面と前記第2の内面との間に配置された近位端縁面と、
前記第2の内面から延在するネジ山と、を有し
前記中空スロット付きスクリューギアのネジ山が前記中空グラフトカバー前進ナットに嵌合するように前記中空スロット付きスクリューギアが前記中空グラフトカバー前進ナットの内部に取り付けられ、
前記スペーサーグラフトカバーアンカーが、
前記中空スロット付きスクリューギアのネジ山と前記中空グラフトカバー前進ナットの前記第1の内面との間にある前記中空グラフトカバー前進ナットの近位端に着脱可能な形で収まるように構成された遠位端を有し、
グラフトカバーに固定され、
前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が、前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内にあり前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面と接触し、前記中空グラフトカバー前進ナットが、第1の回転方向に前記中空スロット付きスクリューギアを中心に回転するとき、前記中空グラフトカバー前進ナットが長手方向近位方向に移動して前記スペーサーグラフトカバーアンカーが長手方向近位方向に移動し、前記グラフトカバーが引き込まれ、
前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が、前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内にあり、前記スペーサーグラフトカバーアンカーが、前記中空スロット付きスクリューギア上を長手方向近位方向にスライド動作されるとき、前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内から取り外され、前記グラフトカバーも前記スライド動作により引き込まれる、
グラフト送達システム。
【請求項2】
前記中空グラフトカバー前進ナットが単一の一体型部品であることを特徴とする、請求項1に記載のグラフト送達システム。
【請求項3】
前記中空スロット付きスクリューギアが、
第1のスクリューギア部と、
第2のスクリューギア部と、
をさらに有し、
前記第1のネジ部と前記第2のスクリューギア部との間の第1の分離によって少なくとも1つの長手方向のスロットが規定され、前記第1のネジ部と前記第2のスクリューギア部との間の第2の分離によって、第2の長手方向のスロットが規定されることを特徴とする、
請求項1に記載のグラフト送達システム。
【請求項4】
前記スペーサーグラフトカバーアンカーが
前記中空スロット付きスクリューギアの周囲に延在する外側本体と、
前記中空スロット付きスクリューギアの内側に配置され、前記グラフトカバーに固定された内側本体と、
前記少なくとも1つの長手方向のスロットを通って延在し、前記内側本体を前記外側本体に連結する第1のスペーサーと、
前記第2のスロットを通って延在し、前記内側本体を前記外側本体に連結する第2のスペーサーと
をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載のグラフト送達システム。
【請求項5】
前記スペーサーグラフトカバーアンカーが単一の一体型部品であることを特徴とする、請求項4に記載のグラフト送達システム。
【請求項6】
前記外側本体が近位端部をさらに有し、前記第1および第2のスペーサーが前記外側本体の前記近位端部から前記内側本体に延在することを特徴とする、請求項4に記載のグラフト送達システム。
【請求項7】
前記外側本体が複数の片持梁をさらに有し、各片持梁が前記外側本体の前記近位端部から遠位方向に延在し、遠位端を有し、さらに前記スペーサーグラフトカバーアンカー組立体の前記遠位端が、前記片持梁の前記遠位端を有することを特徴とする、請求項6に記載のグラフト送達システム。
【請求項8】
各片持梁が前記片持梁の遠位端で嵌合タブをさらに有し、前記嵌合タブが、前記片持梁の外面から放射状に外に延在することを特徴とする、請求項7に記載のグラフト送達システム。
【請求項9】
前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端が、近位部を有し、
前記近位部が、空間を規定する内周面をもち、前記内周面が、前記第1の内面であり、 前記近位端縁面が、前記空間の遠位端に位置し、
前記空間の近位端が開いていて、前記第2の内面と前記第2の内面から延在する前記ネジ山とが、前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に対し遠位にある、
ことを特徴とする、請求項8に記載のグラフト送達システム。
【請求項10】
前記中空グラフトカバー前進ナットが前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に隣接し、かつ近位にある前記内周面に形成された凹型溝を有し、前記片持梁の前記遠位端縁面が前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に接触するように、前記片持梁の前記遠位端にある前記嵌合タブが前記凹型溝に引っ掛かることを特徴とする、請求項9に記載のグラフト送達システム。
【請求項11】
前記外側本体が、前記外側本体の前記近位端部から遠位側に延在し、遠位端を有する中空シリンダーをさらに有し、前記スペーサーグラフトカバーアンカー組立体の前記遠位端が前記中空シリンダーの前記遠位端を有することを特徴とする、
請求項6に記載のグラフト送達システム。
【請求項12】
前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端が、近位部を有し、
前記近位部が、空間を制限する内周面をもち、前記内周面が、前記第1の内面であり、 前記近位端縁面が、前記空間の遠位端に位置し、
前記空間の近位端が開いており、前記第2の内面と前記第2の内面から延在する前記ネジ山とが前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に対し遠位にあることを特徴とする、
請求項11に記載のグラフト送達システム。
【請求項13】
前記中空シリンダーの前記遠位端が前記グラフトカバー前進ナットの前記空間に挿入されると、前記中空シリンダーの前記遠位端縁面が前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に接触することを特徴とする、請求項12に記載のグラフト送達システム。
【請求項14】
グラフトカバー引き込み機を備えるグラフト送達システムであって、
(i)中空スクリューギアと、
(ii)前記スクリューギア上に取り付けられたスクリューギア駆動組立体と、
(iii)スペーサーグラフトカバーアンカーと、を備え、
(i)前記中空スクリューギアが、
第1のスクリューギア部と、
第2のスクリューギア部と、を有し、
前記第1のスクリュー部と前記第2のスクリューギア部との間の第1の分離によって、第1の長手方向のスロットが規定され、前記第1のスクリュー部と前記第2のスクリューギア部との間の第2の分離によって第2の長手方向のスロットが規定され、
(ii)前記スクリューギア駆動組立体が、
中空グラフトカバー前進ナットと、
複数のスクリューギアの歯と、を有し、
前記中空グラフトカバー前進ナットが、近位部をもち、
前記近位部が、
近位端縁面と、
空間を規定する円周面をもつ第1の内面と、をもち
前記近位端縁面が、前記空間の遠位端に位置し、
前記空間の近位端が、開いており、
前記複数のスクリューギアの歯が、前記グラフトカバー前進ナットの第2の内面上に形成されており、前記第2の内面が、前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に対し遠位にあり、
(iii)前記スペーサーグラフトカバーアンカーが、
前記スクリューギアの周囲に延在し、前記空間内に着脱可能な形で配置されるように構成された遠位端縁を有する外側本体と、
前記中空スクリューギア内に配置され、グラフトカバーに付加された内側本体と、
前記第1の長手方向のスロットを通って延在し、前記内側本体を前記外側本体に連結する第1のスペーサーと、
前記第2のスロットを通って延在し、前記内側本体を前記外側本体に連結する第2のスペーサーと、を有し、
(i)前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が、前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内にあり、さらに前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面と接触しているとき、(ii)前記中空グラフトカバー前進ナットが前記中空スクリューギアを中心に第1の回転方向に回転されると、前記中空グラフトカバー前進ナットが長手方向近位方向に移動して前記スペーサーグラフトカバーアンカーが長手方向近位方向に移動し、前記グラフトカバーが引き込まれ、
前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が、前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内にあり、前記スペーサーグラフトカバーアンカーが近位方向に、前記中空スクリューギア上を長手軸方向でスライド動作されるとき、前記スペーサーグラフトカバーアンカーの前記遠位端が前記中空グラフトカバー前進ナットの前記近位端内から取り外され、前記グラフトカバーも前記スライド動作により引き込まれる
グラフト送達システム。
【請求項15】
前記スペーサーグラフトカバーアンカーが単一の一体型部品であり、前記中空グラフトカバー前進ナットが単一の一体型部品であることを特徴とする、請求項14に記載のグラフト送達システム。
【請求項16】
前記外側本体が複数の片持梁をさらに有し、各片持梁が、前記外側本体の近位端部から遠位方向に延在し、遠位端縁面を有し、さらに前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に隣接する前記外側本体の前記遠位端縁面が端縁面片持梁の前記遠位端縁面を有することを特徴とする、
請求項14に記載のグラフト送達システム。
【請求項17】
各片持梁が前記片持梁の遠位端に嵌合タブをさらに有し、前記嵌合タブは、前記片持梁の外面から放射状に外に延在することを特徴とする、請求項14に記載のグラフト送達システム。
【請求項18】
前記グラフトカバー前進ナットが
前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に対して隣接し、かつ近位にある前記内周面に形成された凹型溝をさらに有し、前記片持梁の前記遠位端縁面が、前記グラフトカバー前進ナットの前記近位端縁面に接触するように、前記片持梁の前記遠位端にある前記嵌合タブが前記凹型溝に引っ掛かることを特徴とする、請求項17に記載のグラフト送達システム。
【請求項19】
前記外側本体が前記外側本体の近位端部から遠位方向に延在し、遠位端縁面を有する中空シリンダーをさらに有し、前記スクリューギア駆動組立体の前記近位端縁面に隣接する前記外側本体の前記遠位端縁面が前記中空シリンダーの前記遠位端縁面を有することを特徴とする、請求項14に記載のグラフト送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、医療装置および手順に関し、詳細には、血管系にステントグラフトまたはステントなどの自己拡張補綴具を配備する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体の血管または他の類似の器官内に埋め込む補綴具は、医療業界において一般に公知である。例えば、生体適合性素材で形成された補綴グラフト(例えば、ダクロンまたは延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)チューブ)が、損傷されたまたは閉塞した生来の血管を置き換えまたはバイパスするのに採用されてきた。
【0003】
フレームにより支持されたグラフト素材は、ステントグラフトまたは腔内グラフトとして公知である。一般に、疾患(内腔修復または排除)により薄くまたは厚くなった動脈瘤および血管壁の治療または分離のためにステントおよびステントグラフトを使用するのは公知である。
【0004】
多くのステントおよびステントグラフトは、「自己拡張」であり、すなわち、収縮されまたは縮ませられ状態で血管系に挿入され、抑制がなくなると拡張できる。自己拡張ステントおよびステントグラフトは、通常は、外方への半径方向力をもたらすように構成された(例えば、曲げられたまたは切られた)ワイヤまたはチューブを採用し、ステンレス鋼またはニチノール(ニッケル−チタニウム)のような適切な弾性素材を採用する。ニチノールはまた、形状記憶特性を採用してもよい。
【0005】
自己拡張ステントまたは自己拡張ステントグラフトは、通常チューブ状に構成され、そしてステントまたはステントグラフトの使用が意図される血管の直径よりわずかに大きい直径を持つサイズである。一般に、ステントおよびステントグラフトが治療目的に使用されるときは、切開手術を用いた外傷性および侵襲的方法で処置するのではなく、ステントおよびステントグラフトは、通常、侵襲性が低い腔内送達を通して配置される。すなわち、皮膚を切断して、好都合な(および外傷性が少ない)エントリポイントで拡張の連続により内腔または脈管にまたは経皮的にアクセスし、収縮されたステントまたはステントグラフトを、脈管の内腔を通して補綴物が配置されるべき部位に送る。
【0006】
1例において、腔内配置は、軸方向に相対移動可能に配列された、ときどき内側チューブ(プランジャー)と呼ばれる同軸の内側チューブと、ときどきシースと呼ばれる外側チューブとを備えている送達カテーテルを用いて達成される。ステントまたはステントグラフトは収縮され、内側チューブの前方のシースの遠位端に配置される。
【0007】
次いで、カテーテルが操作され、通常は血管(例えば、内腔)を通して、ステントまたはステントグラフトを収容するカテーテルの端部が意図された治療部位の近くに位置決めされるまで送られる。次いで、内側チューブを静止状態に維持しながら、送達カテーテルのシースが退避させられる。内側チューブは、シースが退避させられるとき、ステントグラフトが後退するのを防ぐ。
【0008】
シースが退避させられるとき、ステントまたはステントグラフトは徐々に露出される。ステントまたはステントグラフトの露出された部分は、拡張した部分の少なくとも一部が、血管壁内部の一部と表面と実質的に適合した表面接触をなすように、半径方向に拡張する。
【0009】
ステントまたはステントグラフトの近位端は、血流路に沿って心臓に最も近い端部であり、一方、ステントまたはステントグラフトの遠位端は、配置の間、血流路に沿って心臓から最も遠い端部である。対照的および注目すべきは、カテーテルの遠位端は、普通、操作者(ハンドル)から最も遠い端部と識別され、一方、カテーテルの近位端は操作者(ハンドル)に最も近い端部である。
【0010】
記述を明瞭にするため、本明細書で使用されるとき、カテーテルの遠位端は操作者から最も遠い端(ハンドルから最も遠い端)であり、一方でステントグラフトの遠位端は、操作者に最も近い端(ハンドルに最も近い端またはハンドル自身)である。すなわち、カテーテルの遠位端およびステントグラフトの近位端はハンドルから最も遠い端であり、一方、カテーテルの近位端およびステントグラフトの遠位端はハンドルに最も近い端部である。しかし、アクセス位置によって、ステントグラフトおよび送達システムの記載の遠位および近位端の記述語が、実際の使用において一致または反対であるかもしれないことを、当業者は理解するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
いくつかの自己拡張ステント配置システムおよびステントグラフト配置システムは、シースが抜き戻されるにつれて、ステントグラフト形態(ラッパ状またはキノコ状)の近位端で、ステントまたはステントグラフトの露出がだんだん増加するよう構成されている。したがって、執刀医はシースを制御された、予測可能な形で引き込むために、制御した力を注意深く慎重に加えなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの例において、ステントまたはステントグラフト送達システムは、グラフトカバー引き込み機を備える。グラフトカバー引き込み機は、少なくとも1つの長手軸方向のスロットを有しているスクリューギア、ならびにそのスクリューギアと連動する駆動およびクイックリリース組立体を有する。このスクリューギアは、本明細書で、中空スロット付きスクリューギアと呼称されることもある。駆動およびクイックリリース組立体は、分離することのできる近位部および遠位部を有する。
【0013】
駆動およびクイックリリース組立体の遠位部は、スクリューギアを使って、グラフトカバーを引き込むために、スクリューギアを中心に第1の回転方向に回転する。駆動およびクイックリリース組立体は、スクリューギアとの嵌合を利用した引き込みから使用者が遠位部ではなく、近位部をつかみ、近位部のみをスクリューギアに沿ってスライドさせることによる引き込みへと移行する。
【0014】
スクリューギアとの嵌合を利用することからスライド動作による引き込みへと移行するのに、ボタンは必要とされず、観察画面から目を離す必要もなく、駆動およびクイックリリース組立体から手を離すことも必要としない。したがって、グラフトカバー引き込み機は、従来の一部のグラフトカバー引き込み組立体の操作で必要とされた面倒なステップを除去する。
【0015】
1つの例において、グラフトカバー引き込み機は、(i)少なくとも1つの長手軸方向のスロットを含むスクリューギア;ならびに(ii)スクリューギアと連動する駆動およびクイックリリース組立体を有する。駆動およびクイックリリース組立体は、(a)近位端縁面を備えたスクリューギア駆動組立体;および(b)スクリューギア駆動組立体の近位端縁面に隣接し、グラフトカバーに付加された遠位端縁面を備えたグラフトカバーアンカー組立体を有する。スクリューギア駆動組立体がスクリューギアを中心に第1の回転方向に回転すると、スクリューギア駆動組立体の長手方向の動きによって、グラフトカバーアンカー組立体が近位方向に移動し、グラフトカバーが引き込まれる。グラフトカバーアンカー組立体をつかみ、グラフトカバーアンカー組立体をスクリューギア駆動組立体から離す方向にスライドすることにより、グラフトカバーアンカー組立体は、スクリューギア駆動組立体から分離される。グラフトカバーアンカー組立体をスクリューギア駆動組立体から分離するのに必要なのは、つかむこととスライドすることだけである。
【0016】
もう1つの例では、グラフトカバー引き込み機は、(i)中空スロット付きスクリューギア、(ii)スクリューギアに取り付けられた中空グラフトカバー前進ナット、および(iii)スペーサーグラフトカバーアンカーを有する。中空スロット付きスクリューギアは、第1のスクリューギア部および第2のスクリューギア部を有する。第1のネジ部と第2のスクリューギア部との第1の分離によって、第1の長手軸方向のスロットが規定される。第1のネジ部と第2のスクリューギア部との第2の分離によって、第2の長手軸方向のスロットが規定される。
【0017】
中空グラフトカバー前進ナットは、本明細書において、グラフトカバー前進ナットと呼称されることもある。中空グラフトカバー前進ナットは、第1の内面およびその第1の内面に対して遠位にある第2の内面を有する。中空グラフトカバー前進ナットは、第1の内面と第2の内面との間に配置された近位端縁面、および第2の内面から延在するネジ山をさらに有する。中空スロット付きスクリューギアは、中空スロット付きスクリューギアのネジ山が中空グラフトカバー前進ナットのネジ山と嵌合するように、中空グラフトカバー前進ナットの内部に取り付けられる。
【0018】
本明細書において、グラフトカバーアンカーと呼称されることもあるスペーサーグラフトカバーアンカーは、中空スロット付きスクリューギアのネジ山と中空グラフトカバー前進ナットの第1の内面との間の中空グラフトカバー前進ナットの近位端内に着脱可能な形で収まるように構成された遠位端を有する。スペーサーグラフトカバーアンカーは、グラフトカバーに付加されている。
【0019】
(i)スペーサーグラフトカバーアンカーの遠位端が、中空グラフトカバー前進ナットの近位端内にあり、中空グラフトカバー前進ナットの近位端縁面と接触し、さらに(ii)中空グラフトカバー前進ナットが中空スロット付きスクリューギアを中心に第1の回転方向に回転するとき、グラフトカバーは引き込まれる。スペーサーグラフトカバーアンカーが、中空スロット付きスクリューギア上を長手方向で近位方向にスライドされ、スペーサーグラフトカバーアンカーの遠位端が、中空グラフトカバー前進ナットの近位端内にあるとき、スペーサーグラフトカバーアンカーの遠位端は、中空グラフトカバー前進ナットの近位端内から除去され、グラフトカバーもスライドにより引き込まれる。
【0020】
1つの例において、中空スロット付きスクリューギア、中空グラフトカバー前進ナットおよびスペーサーグラフトカバーアンカーは、それぞれグラフト送達システムのハンドルの長手軸と一致する長手軸を有しているので、同軸であると呼ばれる。さらに、中空グラフトカバー前進ナットは、1つの例において、単一の一体型部品である。本明細書で使われる「一体型」は、その部品が1つのピースだけで構成されており、その部品を形成するために複数のピースが結合されたのではないことを意味する。同様に、1つの例において、スペーサーグラフトカバーアンカーは、グラフトカバー上に成形された単一の一体型部品である。
【0021】
中空グラフトカバー前進ナットの近位端は、空間を限定する内周面を有する近位部を有する。内周面は、中空グラフトカバー前進ナットの第1の内面である。近位端縁面は、空間の遠位端に位置し、空間の近位端は開いている。第2の内面およびその第2の内面から延在するネジ山は、グラフトカバー前進ナットの近位端縁面に対し遠位にある。
【0022】
グラフトカバーアンカーは、スクリューギアの周囲に延在する、外側本体を有する。グラフトカバーアンカーの内側本体は、スクリューギアの内部に配置され、グラフトカバーに付加される。グラフトカバーアンカーの第1のスペーサーは、第1の長手軸方向のスロットを通って延在し、内側本体を外側本体に接続する。同様に、グラフトカバーアンカーの第2のスペーサーは、第2のスロットを通って延在し、内側本体を外側本体に接続する。
【0023】
1つの例において、外側本体は複数の片持梁をさらに有する。各片持梁は、外側本体の近位端部から遠位方向に延在する。各片持梁は、遠位端縁面を有する。スペーサーグラフトカバーアンカー組立体の遠位端は、片持梁の遠位端を有する。
【0024】
さらなる例において、各片持梁は、片持梁の遠位端にある嵌合タブを有する。嵌合タブは、片持梁の外面から放射状に外に延在する。この例では、グラフトカバー前進ナットは、グラフトカバー前進ナットの近位端縁面に対して隣接し、かつ近位にある内周面に形成された凹型溝を有する。片持梁の遠位端にある嵌合タブは、片持梁の遠位端縁面が、グラフトカバー前進ナットの近位端縁面に接触するように、凹型溝に引っ掛かる。ただし、グラフトカバーアンカーが、中空グラフトカバー前進ナットに引っ掛かっていても、中空グラフトカバー前進ナットは、依然として、中空グラフトカバー前進ナットの近位端内にあるグラフトカバーアンカー部分を中心に自由に回転できる。
【0025】
もう1つの例では、外側本体は、外側本体の近位端部から遠位側に延在する中空シリンダーも有する。中空シリンダーは、遠位端縁面を有する。スクリューギア駆動組立体の近位端縁面に隣接する外側本体の遠位端部は、中空シリンダーの遠位端面を有する。
【0026】
グラフト送達システムを操作する方法は、駆動およびクイックリリース組立体の遠位部をつかみ、駆動およびクイックリリース組立体をスクリューギア上で第1の回転方向に回転させ、グラフトカバーを第1の方向に長手方向を移動することを含む。この方法は、さらにつかむ位置を駆動およびクイックリリース組立体の近位部に変えて、駆動およびクイックリリース組立体の近位部のみをスクリューギア上を長手方向にスライドさせることも含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】グラフトカバー引き込み機を含む送達システムを示す図である。
図2図1のグラフトカバー引き込み機の一部を示す近接透過図である。
図3A】駆動およびクイックリリース組立体を何回も回転させた後のグラフトカバー引き込み機を示す近接図である。
図3B】駆動およびクイックリリース組立体の近位部をスライドさせて、駆動およびクイックリリース組立体の遠位部から離した後の図3Aのグラフトカバー引き込み機を示す近接図である。
図4】スクリューギアの輪郭形状のない、ボックス付きシリンダーの側面を斜めから見た側面図である。
図5A】近位端表面を含むスクリューギア駆動組立体を斜めから見た透過図である。
図5B】遠位端表面を含むスクリューギア駆動組立体を斜めから見た透過図である。
図6】遠位端表面を含む輪郭形状付きネジ駆動グリップを斜めから見た透過図である。
図7A】近位端表面を含むグラフトカバー前進ナットを斜めから見た透過図である。
図7B】遠位端表面を含むグラフトカバー前進ナットを斜めから見た透過図である。
図7C】グラフトカバー前進ナットを、例えば、図7Bの7Cから7Cのカット線上で見た断面図である。
図8】グラフトカバーアンカー組立体を斜めから見た透過図である。
図9】輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップを斜めから見た透過図である。
図10A】外側本体の遠位端面を含むグラフトカバーアンカーを斜めから見た図である。
図10B】外側本体の遠位端面を含むグラフトカバーアンカーの遠位端を斜めから見た図である。
図10C】内側本体の近位端を含むグラフトカバーアンカーの近位端を斜めから見た図である。
図11】スクリューギアの両方のスロットの長手軸の中心線を通って延在し、長手軸を含むカット面上での図2のハンドルの遠位部の横断面を示す図である。
図12】スクリューギアの両方のスロットの長手軸の中心線を通って延在し、長手軸を含むカット面上の図2のハンドルの代替実現形態(実施形態)の遠位部の横断面を示す図である。
【0028】
図面において、要素の参照番号の最初の数字は、その参照番号の付いた要素が最初に登場する図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ステントグラフトの配備中にグラフトカバーを引き込むための現在の技術は適正かつ機能的である。しかし、グラフトカバーの引き込みに用いられる従来の機構は、一般に、複雑かつ高価である。グラフト送達システム100は、グラフトカバー引き込み機110を備えたハンドルを含むことで、これらの制約を克服する。本明細書において、グラフト送達システム100は、実現形態としてステント送達システムおよびステントグラフト送達システムを包含するが、これはグラフトカバー引き込み機110の実現形態および用途はどちらのシステムでも同一であるためである。
【0030】
この例において、グラフトカバー引き込み機110は、本明細書で中空スロット付きスクリューギア130と呼称されることもあるスクリューギア130、ならびに本明細書で組立体120と呼称されることもある駆動およびクイックリリース組立体120を含む。スクリューギア130の遠位端は、ハンドルの遠位端に固定的に連結されている、すなわち、輪郭形状付き付きストレインリリーフ要素101に固定的に連結されている。スクリューギア130の近位端は、ハンドルの近位端に固定的に連結されている。
【0031】
駆動およびクイックリリース組立体120は、近位部150および遠位部140を含む。近位部150および遠位部140は、それぞれ、ハンドルの長手軸と一致する長手軸を有しているので、同軸構成要素である。
【0032】
図1および図2に示されている初期位置では、近位部150は、遠位部140に接触し、ハンドル100の長手軸方向に沿った、遠位部140の長手軸方向の動きは、以下でより詳しく説明するように、近位部150に伝播する。
【0033】
スクリューギア駆動組立体140と呼称されることもある遠位部140は、スクリューギア130と嵌合し、組立体140が、スクリューギア130を中心に第1の回転方向193、または第2の回転方向194に回転すると、長手方向を移動する。グラフトカバー105と収縮ステントとの間またはグラフトカバー105と収縮ステントグラフトとの間の移動に抵抗する摩擦力は極めて高いので、スクリューギア130のネジ山と嵌合したスクリューギア駆動組立体140を使うことで得られる機械効率が、グラフトカバー105の初期移動を助ける。スクリューギア駆動組立体140がスクリューギア130を中心に回転すると、スクリューギア駆動組立体140は、スクリューギア130のネジ山に沿って長手方向を移動する。
【0034】
初期状態では、スクリューギア駆動組立体140の近位端縁面は、グラフトカバーアンカー組立体150と呼称されることもある近位部150の遠位端縁面に接触(隣接)している。グラフトカバーアンカー組立体150は、スクリューギア130のネジ山と嵌合せずに、スクリューギア130を囲み、スクリューギア130に沿って、長手方向にスライドする。
【0035】
以下でより詳しく説明するように、グラフトカバーアンカー組立体150は、スクリューギア130のスロット131ごとに、スペーサーを含み、該スペーサーは、スクリューギア130のスロットに沿ってスライドする。グラフトカバーアンカー組立体150は、グラフトカバー105にも固定的に連結されているので、本明細書で組立体150と呼称されることもあるグラフトカバーアンカー組立体150が、スクリューギア130上をスライドすると、グラフトカバー105は組立体150と一体となって移動する。
【0036】
以下でより詳しく説明するように、駆動およびクイックリリース組立体120は、駆動およびクイックリリース組立体120のスクリューギア駆動組立体140をつかんで、スクリューギア駆動組立体140をスクリューギア130を中心に第1の回転方向193、例えば、(カテーテルの近位端から見て)反時計回りに回転させることで、使用者がグラフトカバー105を引き込めるようにする。第1の回転方向193にスクリューギア駆動組立体140が回転すると、スクリューギア駆動組立体140は、スクリューギア130のネジ山上を移動し、それにより、近位方向192に長手方向で移動する。スクリューギア駆動組立体140は、グラフトカバーアンカー組立体150の組立体140の付いた部分を中心に回転するが、(図示されている構成の)スクリューギア駆動組立体140の長手方向の動きは、グラフトカバーアンカー組立体150に伝わるため、グラフトカバーアンカー組立体150は、スクリューギア130に沿って、長手方向を近位方向192にスライドし、グラフトカバー105を引き込む。
【0037】
グラフトカバー105をより速やかに引っ込めるには、使用者はスクリューギア駆動組立体140にかけた握力を解放し、使用者の手をスライドして、グラフトカバーアンカー組立体150をつかみ、長手方向の引き込み力をかけて、組立体150を近位方向192にスライドする。スクリューギア130の使用(スクリューギア130との嵌合)から、スクリューギア130上のスライドに移行する際、どんなボタンも押す必要がなく、使用者が組立体120から手を離す必要もない。代わりに、使用者はつかむ位置を組立体120の遠位部140から近位部150に移せばよい。この例では、組立体120の外面の触って容易に検知できる輪郭形状によって、使用者はハンドルを見ずにつかむ位置を変えることができる。
【0038】
したがって、使用者は送達システム100を操作して、グラフトカバーの引き込みモードを切り替える方法を確かめるのに観察画面から目を離す必要はない。グラフトカバーを引き込む際、すなわち、関連するネジの機械効率を利用してグラフトカバーを引き込むか、クイック引き込みモードでグラフトカバーを引き戻すかにかかわらず、使用者の手は、組立体120の上に置き続けることができる。
【0039】
図2は、グラフトカバー引き込み機110の近接図である。スクリューギア130は、第1のスクリューギア部230Aおよび第2のスクリューギア部230Bを含む。第1のスクリューギア部230Aおよび第2のスクリューギア部230は、図2では、スロット131のみが確認できる複数あるスロットによって分離される部分を有するように構成されている。
【0040】
スクリューギア駆動組立体140は、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241およびグラフトカバー前進ナット242を含む。この例では、本明細書で中空グラフトカバー前進ナット242と呼称されることもあるグラフトカバー前進ナット242は、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241内に固定的に取り付けられているため、2つの要素は単一の要素として動作し、すなわち、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241を回転すると、グラフトカバー前進ナット242も回転する。輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241の外面の輪郭形状の直径は、一般に、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241の遠位端から近位端に向って減少する。
【0041】
グラフトカバーアンカー組立体150は、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251およびグラフトカバーアンカー252を含む。本明細書でスペーサーグラフトカバーアンカー252と呼称されることもあるグラフトカバーアンカー252は、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ151内に固定的に取り付けられているため、2つの要素は単一の要素として動作する。また、グラフトカバーアンカー252はグラフトカバー105に固定的に連結されており、すなわち、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251を移動すると、グラフトカバーアンカー252も移動する。輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251の外面の輪郭形状の直径は、一般に、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ241の遠位端から近位端に向って増加する。
【0042】
図5A、5Bおよび6において、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241は、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241内の特徴を解説するために、透過フレームとして示してある。しかし、他の例では、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241は不透明である。輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241を透明に描いたのは、分かり易くする目的のためだけであり、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ141の特徴を制限するものではない。
【0043】
図8および9において、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251は、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251内の特徴を解説するために、透過フレームとして示してある。しかし、他の例では、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251は不透明である。輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251を透明に描いたのは、分かり易くする目的のためだけであり、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251の特徴を制限するものではない。
【0044】
図2に戻ると、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241をつかみ、スクリューギア駆動組立体140を第1の回転方向193に回転すると、グラフトカバー前進ナット242がスクリューギア130を中心に、さらに組立体140内にあるグラフトカバーアンカー組立体150部分を中心にして回転する。グラフトカバー前進ナット242をスクリューギア130を中心に回転すると、スクリューギア駆動組立体140は近位方向192へ長手方向に沿って移動する。
【0045】
上述し、最初に図2で示したように、スクリューギア駆動組立体140の近位端縁面は、グラフトカバーアンカー組立体150の遠位端縁面に接触する。したがって、スクリューギア駆動組立体140が近位方向192へ長手方向に沿って移動すると、スクリューギア駆動組立体140の近位端縁面は、長手方向の力をグラフトカバーアンカー組立体150の遠位端縁面に加えるため、それによって、グラフトカバーアンカー組立体150は、近位方向192で、スクリューギア130に沿って長手方向にスライドする。
【0046】
したがって、スクリューギア駆動組立体140をスクリューギア130を中心に、スクリューギア130に沿って何回も回転させた後、グラフトカバー105の一部は引き込まれている。駆動およびクイックリリース組立体120は、輪郭形状付きストレインリリーフ要素101を基準にして近位方向に、図3Aに示されているスクリューギア130上の位置に向って移動している。スクリューギア駆動組立体140およびグラフトカバーアンカー組立体150は、依然として互いに接触していることに留意されたい。
【0047】
図3Aに示されている位置では、シースを引き込むために必要とされる長手方向の力は、緊密に収縮されたステントまたはステントグラフトの全体長をその完全に収縮され、よって最大静摩擦抵抗位置から、部分的に配備された遥かに低い部分的に収縮された静摩擦抵抗位置に初期に移動するときに、シースを引き込むために必要とされた初期の非常に高い力から減少しているため、スクリューギア駆動組立体140によって供給される機械効率は、もはや必要とされず、操作者はグラフトカバー105をさらに近位方向192に素早くスライドすることを必要とする。これを行うには、操作者は、つかむ位置を駆動およびクイックリリース組立体120の遠位部140から移動して、組立体120の近位部150をつかむだけでよい。次に操作者は、長手方向の引き込み力を加えて、近位部150を近位方向192にスライドする。近位部150をつかみ、さらに長手方向に力を加えることによって、近位部150を遠位部140から分離するスライド動作が生じ、近位部150だけが近位方向192に移動する。図3Bを参照されたい。近位部150をスライドさせると、グラフトカバー105は、スクリューギア駆動組立体140を使う(急速に回転させる)ことで可能なよりも素早く引き込まれる。
【0048】
グラフトカバー105をその十分に(そしてより)遠位の位置に移動する必要がある場合は、遠位部140も、その十分に(そしてより)遠位な位置に移動しなければならない。近位部150が依然として長手方向で遠位部140から分離されている限り、スクリューギア130上の少なくとも1つのネジ山が、遠位部140の近位端から、近位部150の最も遠位な端までは見えるので、操作者は、遠位部140をつかんで、力を加え、長手軸上の動作だけを使って、遠位部140を遠位方向191に移動することができる。
【0049】
2つの組立体が嵌合しておらず、少なくとも1つのネジ山で分離されているときは、スロット131の横からの潰れを防止するグラフトアンカー組立体150内のスペーサーがスクリューギア駆動組立体140から取り外されているため、スクリューギア駆動組立体140のこの長手方向の動きが可能になる。したがって、スクリューギア部230A、230Bは、長手方向のスライド動作力がスクリューギア駆動組立体140に加えられ、スクリューギア駆動組立体140内のネジ山の歯によってスクリューギア部230A、230Bに対する内方向への力が生じると、互いに向って屈曲(弾性的に曲がる)することができる。近位部150が組立体140と分離されているので、近位部150のスペーサーは、組立体140内のスクリューギア部230Aと230Bとの間隔を維持することで、屈曲を防止する位置にないため、スクリューギア部230A、230Bの内部屈曲は、近位部150による抵抗を受けない。
【0050】
スクリューギア駆動組立体140がその目的の位置まで移動した後、グラフトカバーアンカー組立体150は、遠位方向191にスライドできるようになり、グラフトカバー105は遠位方向191に移動する。グラフトカバーアンカー組立体150は、グラフトカバーアンカー組立体がスクリューギア駆動組立体140に接触するまで、遠位方向191にスライドさせることができる。
【0051】
スクリューギア130
【0052】
図4は、他の部品から分離されたスクリューギア130の輪郭形状のない枠付きシリンダーの側面を斜めから見た図である。上述したように、スクリューギア130は、第1のスクリューギア部230Aおよび第2のスクリューギア部230Bを含む。第1のスクリューギア部230Aから第2のスクリューギア部230までの第1の分離(距離)によって、スロット131が定義される。同様に、第1のスクリューギア部230Aから第2のスクリューギア部230までの第2の分離(距離)によって、第2のスロット432が定義される。スクリューギア130は、上に記したように、中空スロット付きスクリューギア130と呼称されることもある。スクリューギア130は、ハンドルの長手軸と一致する長手軸を有する。
【0053】
スクリューギア駆動組立体140
【0054】
図5Aは、近位端面501を含むスクリューギア駆動組立体140を斜めから見た図である。図5Bは、遠位端面502を含むスクリューギア駆動組立体140を斜めから見た図である。
【0055】
図6は、遠位端面602を含む輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241を斜めから見た図である。1つの例において、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241は、弾性重合体から作られる。1つの例において、弾性重合体のショアA硬度は40から50である。輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241の内面の直径は、グラフトカバー前進ナット242が輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241に挿入でき、さらに挿入後に、グラフトカバー前進ナット242が、使用者が正常な握力でつかんだときに、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241を基準にして動かないように選択される。外面の外側輪郭形状は、遠位端面602からその反対の端へと減少していく円筒形の直径である。
【0056】
図7Aは、近位端面705を含むグラフトカバー前進ナット242を斜めから見た図である。図7Bは、遠位端面706を含むグラフトカバー前進ナット242を斜めから見た図である。図7Cは、図7Bの7C−7Cのカット線上での、グラフトカバー前進ナット242の断面図である。1つの例において、グラフトカバー前進ナット242は、金型を使って形成される単一の一体型部品である。
【0057】
この例では、グラフトカバー前進ナット242の本体は、第1の内面を有する近位本体部710、複数のネジ山704を有する第2の内面を含む中間本体部720、および遠位本体部730を含む。(図7Aから7Cを参照されたい)。これらの本体部の各々の外面は円筒形の円周面である。中間本体部720(図7C)の外径720_ODは、遠位本体部730の外径730_ODよりも短い。遠位本体部730の外径730_ODは、近位本体部710の外径710_ODより短い。
【0058】
この例では、近位本体部710は、長手軸390と位置が揃った軸を有する中空シリンダーである。ただし、近位本体部710の外面を表す円筒形は、解説の目的のためだけに使ったものであり、制限する意図はない。例えば、近位本体部710の外面は、内側の円状円周面の内径が710_IDの六角形または四角形などの、異なる形状にすることができる。
【0059】
近位本体部710の外面の形状に関係なく、近位本体部710は、空間を規定する内周面701を含む。第1の内面は内周面701である。空間の近位端は開いており、空間の遠位端の一部は、その中に開いたネジ穴のある近位端縁面703によって制限される。
【0060】
図7Cの例では、凹型溝702が、内周面701の遠位端で内周面701に形成されている。近位端縁面703は、凹型溝702の底部から、近位端縁面703に対して遠位にあるグラフトカバー前進ナット241の内周面、すなわち第2の内面上に形成された複数のネジ山704の穴の外径に向って延在する。近位端縁面703は、グラフトカバー前進ナット242の、したがって、スクリューギア駆動組立体140の近位端縁面である。駆動およびクイックリリース組立体120が、スクリューギア駆動組立体140を使って、近位方向192に移動されているとき、近位端縁面703は、グラフトカバーアンカー組立体150に接触する。
【0061】
内径710_IDは、グラフトカバーアンカー252の遠位端部が、グラフトカバー前進ナット242の近位端710の内周面701によって制限される空間に収まるように選択される。ネジ山704は、グラフトカバー前進ナット242の内周面の周囲に延在し、スクリューギア130と嵌合する。遠位端部730は、輪郭形状付きスクリュードライブグリップ241が簡単に外れるのを防止するために、中間部720の外側の円筒形の円周面から外に向って放射状に延在するリブである。
【0062】
グラフトカバーアンカー組立体150
【0063】
図8は、グラフトカバーアンカー組立体150を斜めから見た図である。図9は、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251を斜めから見た図である。1つの例において、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251は、弾性重合体から作られる。1つの例において、弾性重合体のショアA硬度は40から50である。輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251の内面の直径は、グラフトカバーアンカー252をつかんで、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251に挿入でき、さらに挿入後に、グラフトカバーアンカー252が、使用者が正常な握力をかけたときに、グラフトカバーリリースグリップ251を基準にして動かないように設定される。
【0064】
図10Aは、外側本体1010の遠位端縁面1005を含むグラフトカバーアンカー252を斜めから見た図である。図10Bは、外側本体1010の遠位端縁面1005を含むグラフトカバーアンカー252の遠位端を斜めから見た図である。図10Cは、内側本体1020の近位端を含むグラフトカバーアンカー252の別の斜めから見た図である。1つの例において、グラフトカバーアンカー252は、金型を使って形成される単一の一体型部品である。
【0065】
この例では、グラフトカバーアンカーの外側本体1010は、長手軸390と一致する長手軸を有する中空シリンダーである。複数の片持梁1013A、1013Bが中空シリンダーの外側本体1010に形成される。片持梁1013A、1013Bの各々は、外側本体1010の近位端部1010Pから遠位端縁面1005Pに遠位方向に延在する。1つの片持梁1013A、1013Bの側面縁面は、別の片持梁1013B、1013Aの対応する側面縁面からスロット1014A、1014Bによって分離される。
【0066】
この例では、各片持梁1013A、1013Bは、その片持梁の外面で径方向の外向きに延在するリブ1012A、1012Bを含む。各リブ1012A、1012Bは、グラフトカバーアンカー252が輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251に挿入されているとき、各リブ1012A、1012Bの遠位の円周側面縁面は、輪郭形状付きグラフトカバーリリースグリップ251の遠位端縁面に隣接するように配置される。図8を参照されたい。スクリューギア駆動組立体140とグラフトカバーアンカー組立体150が接触しているとき、各片持梁1013A、013Bのリブ1012A、1012Bに対して遠位に位置する部分は、スクリューギア駆動組立体140の近位部710の内部にある空間まで延在するように構成されている。(図1、2および3Aを参照されたい)。
【0067】
この例では、任意の嵌合タブ1015A、1015Bは、片持梁1013A、1013Bの各々の遠位端にある外面に位置している。本体1010の外面からの嵌合タブ1015A、1015Bの径方向の高さは、スロット1014A、1014Bの各々の位置でゼロであり、片持梁1013A、1013Bの各々の中心の弧の位置で最大の高さになるまで徐々に増加する。
【0068】
各片持梁1013A、1013Bのリブ1012、1012Bに対して遠位に位置する部分がグラフトカバー前進ナット242の近位端内の空間に挿入されると、嵌合タブ1015A、1015Bは、グラフトカバー前進ナット242(図7C)の凹型溝702に引っ掛かる。嵌合タブ1015A、1015Bが凹型溝702に引っ掛かっていて、使用者がグラフトカバーアンカー組立体150をつかむと、つかんだことから生じる力の径方向内側成分が、片持梁1013A、1013Bを径方向内側へ押圧(屈曲)するので、嵌合タブ1015A、1015Bが凹型溝702との嵌合から外れる。したがって、グラフトカバーアンカー組立体150をつかむと、組立体150を近位方向192にスライドさせることで、グラフトカバーアンカー組立体150とスクリューギア駆動組立体140を併用することで可能なよりも素早く、グラフトカバー105を引き込むことができる。
【0069】
外側本体1010は、スクリューギア130の外側で、スクリューギア130から径方向に隔てられている。ただし、第1のスペーサー1031(リブ)は、外側本体1010から、スクリューギア130のスロット131、432(図4)の1つを通って、スクリューギア130の内部にある内側本体1020に向って延在する。同様に、第2のスペーサー1032も、外側本体1010からスクリューギア130のスロット131、432のうちのもう一方を通って、内側本体1020に延在する。第1のスペーサー1031は、スクリューギア130の一方のスロットを満たす幅(厚み)Wを有し、第2のスペーサー1032は、スクリューギア130のもう一方のスロットを満たす同じ幅Wを有する。
【0070】
したがって、第1のスペーサー1031および第2のスペーサー1032は、第1のスクリューギア部230Aと第2のスクリューギア部230Bとの間の最小間隔を維持し、グラフトカバーアンカー組立体150が、スクリューギア130上を長手方向にスライドするときに、それらが互いに向って屈曲(または曲がる)するのを防ぐ構造部材として働く。第1および第2のスペーサー1031、1032は、スクリューギア部品230A、230Bの間に適正な間隔を維持する。
【0071】
内側本体1020も、長手軸390と一致する長手軸を有する中空シリンダーである。保持栓1040は、内側本体1020の近位端から延在する。止血シール1101(図11)は保持栓1040に取り付けられる。中央通路1021は、内側本体1020を通って、本体1020の遠位端面から保持栓1040の近位端へと延在する。グラフトカバー105の近位部は、中心通路1021に固定される。
【0072】
1つの例において、グラフトカバーアンカー252はグラフトカバー105に成形される。グラフトカバーをグラフトカバーアンカー252に固定するための記述された手法は、説明の目的で記載されたもので、制限する意図はない。その他のグラフトカバーアンカーも、記述した特性を有していれば使用できるが、グラフトカバーアンカーに、シースと呼称されることもあるグラフトカバーを固定するのに異なる手法が使われる。
【0073】
図11は、スロット131、432の両方の長手方向の中心線を通って延在し、長手軸390を含むカット面上から見た、図2のハンドルの遠位部の断面図である。グラフトカバー105内の要素は、わかり易いように、図11から削除した。
【0074】
図11では、嵌合タブ1015A、1015Bが凹型溝702に引っ掛けられている。また、遠位端縁面1005は、近位端縁面703と接触しているため、スクリューギア駆動組立体140がスクリューギア130を中心に回転すると、グラフトカバーアンカー252にかかるグラフトカバー前進ナット242の長手方向の力によって、グラフトカバーアンカー組立体150がスクリューギア130上を移動する。
【0075】
凹型溝702および嵌合タブ1015A、1015Bの使用は任意である。図12はハンドルの遠位部の代替例の断面図である。グラフトカバー105_12、ストレインリリーフ要素101_12、スクリューギア駆動組立体140_12およびグラフトカバーアンカー組立体150_12は、以下に記述する例外を除き、それぞれ、グラフトカバー105、ストレインリリーフ要素101、スクリューギア駆動組立体140およびグラフトカバーアンカー組立体150に相当する。
【0076】
グラフトカバー前進ナット242_12は、グラフトカバー前進ナット242_12に凹型溝702が付いていない点を除き、グラフトカバー前進ナット242と同一である。同様に、グラフトカバーアンカー252_12は、1つの例において、グラフトカバーアンカー252_12は、嵌合タブ1015A、1015Bを外側本体の遠位端に含んでいない点を除き、グラフトカバーアンカー252と同一である。また、一部の例では、片持梁は必要とされないため、したがって使用されず、グラフトカバーアンカー252_12の外側本体は固体中空シリンダーである。
【0077】
スクリューギア駆動組立体140_12は、スクリューギア駆動組立体140について上述したのと同様の形で機能するため、機能性についてはここで繰り返さない。同様に、グラフトカバーアンカー組立体150_12も、グラフトカバーアンカー組立体150_12のスクリューギア駆動組立体140_12との嵌合を外すのに、グラフトカバーアンカー組立体150_12をつかむことに関係する径方向の力を必要としない点を除き、グラフトカバーアンカー組立体150について上述したのと同様の形で動作する。
【0078】
図11および12の両方において、グラフトカバー引き込み機を構成する構成要素は、各々、ハンドルの示されている長手軸と一致する長手軸を有している。また、図11および12の両方において、軸の下に位置する組立体部分は、軸の上に位置する組立体部分の鏡像であり、すなわち、これらの断面に対して、長手軸を中心に対称性が存在する。
【0079】
グラフト送達システムを操作する方法は、駆動およびクイックリリース組立体の遠位部をつかみ、駆動およびクイックリリース組立体をスクリューギア上で第1の回転方向に回転させ、グラフトカバーを第1の方向に長手方向移動するステップ、およびつかむ位置を駆動およびクイックリリース組立体の近位部に変え、駆動およびクイックリリース組立体の近位部のみをスクリューギア上を長手方向にスライドするステップを含む。
【0080】
本発明に従う実施形態を記述してきたが、当業者であれば、以上で具体的に記述された実施形態の変更および変型は、記述された本発明の範囲および精神の中に収まるものであることを理解するであろう。
図1
図2
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図3A
図3B