(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正常判定部は、前記第1偏差が前記第1所定値以内で、かつ、前記第2偏差が前記第2所定値以内である時間が所定時間以上となった場合に前記ヨーレート検出手段が正常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両挙動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両挙動制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。
【0017】
制御部20には、車輪Wの車輪速度を検出する車輪速センサ91と、ステアリングSTの操舵角を検出する操舵角センサ92(操舵角検出手段)と、車両CRの横方向に働く加速度(横加速度)を検出する横加速度センサ93(横加速度検出手段)と、車両CRの旋回角速度(実ヨーレート)を検出するヨーレートセンサ94(ヨーレート検出手段)とが接続されている。各センサ91〜94の検出結果は、制御部20に出力される。
【0018】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93およびヨーレートセンサ94からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0019】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両挙動制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両挙動制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0020】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0021】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0022】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0023】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0024】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0025】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0026】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0027】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0028】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0029】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0030】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0031】
オリフィス5aは、その協働作用によってポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および後述する調圧弁Rが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0032】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0033】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0034】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0035】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20により開放(開弁)される。
【0036】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0037】
次に、制御部20の詳細について説明する。
図3に示すように、制御部20は、各センサ91〜94および圧力センサ8から入力された信号に基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。制御部20は、目標液圧設定部21、ブレーキ液圧計算部22、弁駆動部23、モータ駆動部24、異常検出部25、正常検出部26および記憶部29を備えている。
【0038】
目標液圧設定部21は、各センサ91〜94から入力された信号に基づいて制御ロジックを選択し、当該制御ロジックに応じて各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの目標液圧PTを設定する。この設定の方法は、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されない。
【0039】
一例を挙げれば、まず、操舵角センサ92が検出した操舵角と、車体速度とから、想定される車両CRのヨーレートを目標ヨーレートとして算出する。そして、実ヨーレートから目標ヨーレートを減算して、ヨーレート偏差を算出する。このヨーレート偏差から、車両のオーバーステアまたはアンダーステアの状態を判定し、このオーバーステアまたはアンダーステアを修正するのに必要なモーメント量を算出する。さらに、このモーメント量をブレーキ液圧に換算することで各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの各目標液圧PTを設定することができる。
【0040】
本実施形態においては、目標液圧設定部21は、異常検出部25および正常検出部26から異常または正常の判定結果が入力されており、その判定結果に応じて目標液圧PTを調整し、実際に適用する適用液圧PTnを決定する機能を有する。
【0041】
具体的には、ヨーレートセンサ94の異常が検出された後、正常が検出されるまでの間は、所定の上限液圧PT
LIM以下の低い値にブレーキ液圧(適用液圧PTn)を制限する。つまり、計算した目標液圧PTが、上限液圧PT
LIMよりも大きい場合には、今回適用する適用液圧PTnは、上限液圧PT
LIMとする。
なお、目標液圧PTを計算する際には、過度に高いブレーキ圧とならないように、上限液圧が設定されることがある。ここでのヨーレートセンサ94の異常時に適用される「所定の上限液圧PT
LIM」は、正常時よりも控えめにブレーキ圧を与えることを意図しているので、ヨーレートセンサ94が正常であるときの上限液圧よりも小さな値に設定されている。
【0042】
本実施形態においては、上限液圧PT
LIMは、車両挙動制御のための加圧条件が長く続く場合には、徐々に(時間の経過と共に)低下されるようになっている。このため、目標液圧設定部21は、異常が検出されてからの時間をカウントし、このカウントに応じて、上限液圧PT
LIM1,PT
LIM2,PT
LIM3,PT
LIM4がこの順に小さくなるように設定されている。加圧条件が満たされなくなり、一連の車両挙動制御が終了するときには、上限液圧PT
LIMは、初期値にリセットされる。
【0043】
以上のようにして、目標液圧設定部21は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダHの適用液圧PTnを設定する。
設定された各適用液圧PTnは、弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。
【0044】
ブレーキ液圧計算部22は、圧力センサ8によって検出されたブレーキ液圧、すなわちマスタシリンダ圧と弁駆動部23による各電磁弁1,2,6の駆動量に基づいて各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのブレーキ液圧(推定ブレーキ液圧)を計算する。
計算されたブレーキ液圧は、弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力される。
【0045】
弁駆動部23は、各適用液圧PTnおよび各推定ブレーキ液圧に基づいて各制御弁手段V、調圧弁Rおよび吸入弁7の駆動を制御するものである。詳細には、弁駆動部23は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダHのブレーキ液圧が適用液圧PTnに一致するように、液圧ユニット10内の各入口弁1、出口弁2、切換弁6および吸入弁7を作動させるパルス信号を液圧ユニット10へ出力する。このパルス信号は、例えば、ホイールシリンダHの現在のブレーキ液圧と適用液圧PTnとの差が大きいほど多くのパルスを出力するようにする。
このような弁駆動部23は、制御弁手段Vを駆動する制御弁手段駆動部23aと、調圧弁Rを駆動する調圧弁駆動部23bと、吸入弁7を駆動する吸入弁駆動部23cとを備えている。
【0046】
制御弁手段駆動部23aは、適用液圧PTnと推定ブレーキ液圧との差から、ホイールシリンダHの圧力を増加(加圧)すべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方に電流を流さないことで、入口弁1を開放し、出口弁2を閉じる。また、ホイールシリンダHの圧力を減少(減圧)させるべき場合には、入口弁1および出口弁2の双方に電流を流し、入口弁1を閉じ、出口弁2を開放させることで、ホイールシリンダHのブレーキ液を出口弁2から流出させる。さらに、ホイールシリンダHの圧力を保持すべき場合には、入口弁1に電流を流し、出口弁2には電流を流さないことで、入口弁1と出口弁2の双方を閉じる。
【0047】
調圧弁駆動部23bは、通常時は、調圧弁Rに電流を流さない。また、目標液圧設定部21から適用液圧PTnの入力があった場合には、調圧弁Rに適用液圧PTnに対応する電流を流す。調圧弁Rに電流が流されると、電流に応じた電磁力によって調圧弁R(切換弁6)の弁体が車輪液圧路B側へ付勢される。ポンプ4による加圧によって車輪液圧路B側の圧力が弁体の付勢力以上となると、ブレーキ液は出力液圧路A1側へ逃げることができる。これにより、車輪液圧路Bおよび吐出液圧路D側の圧力が所定圧に調整されるようになっている。
【0048】
吸入弁駆動部23cは、通常時は、吸入弁7に電流を流さない。また、目標液圧設定部21が出力した適用液圧PTnからホイールシリンダHの圧力を増加させるべき場合であって、圧力センサ8が検出したマスタシリンダ圧が適用液圧PTnより低い場合には、ポンプ4での加圧を可能にするため吸入弁7に電流を流す。これにより、吸入弁7が開いてマスタシリンダMCからポンプ4へブレーキ液が吸入されるようになっている。
【0049】
モータ駆動部24は、各適用液圧PTnおよび各推定ブレーキ液圧に基づいてモータ9の回転数を決定し、駆動する。すなわち、モータ駆動部24は、回転数制御によりモータ9を駆動するものであり、例えば、デューティ制御により回転数制御を行う。
【0050】
異常検出部25は、車輪速センサ91、操舵角センサ92、横加速度センサ93およびヨーレートセンサ94から入力された信号に基づいてヨーレートセンサ94の異常
を検出する公知の手段である。この異常の
検出は、例えば、特開2009−067124号公報に開示されている方法を用いることができる。この
検出結果は、目標液圧設定部21に出力される。
【0051】
正常検出部26は、ヨーレートセンサ94の正常を検出する手段であり、
図4に示すように、舵角ヨーレート算出部26Aと、第1偏差算出部26Bと、横Gヨーレート算出部26Cと、第2偏差算出部26Dと、正常判定部26Eとを備える。
【0052】
舵角ヨーレート算出部26Aは、車輪速センサ91から入力される車輪速に基づいて車体速度を算出し、この車体速度と操舵角センサ92が検出した操舵角とに基づいて、舵角ヨーレート(規範ヨーレート)Ysを算出する公知の手段である。算出された舵角ヨーレートYsは、第1偏差算出部26Bに出力される。
【0053】
第1偏差算出部26Bは、舵角ヨーレート算出部26Aが算出した舵角ヨーレートYsと、ヨーレートセンサ94が検出した実ヨーレートYとの偏差を算出する手段である。この偏差(第1偏差D1)は、正の値(絶対値)とされ、正常判定部26Eに出力される。
【0054】
横Gヨーレート算出部26Cは、車輪速センサ91から入力される車輪速に基づいて車体速度を算出し、この車体速度と横加速度センサ93が検出した横加速度とに基づいて、横GヨーレートYgを算出する公知の手段である。算出された横GヨーレートYgは、第2偏差算出部26Dに出力される。
【0055】
第2偏差算出部26Dは、横Gヨーレート算出部26Cが算出した横GヨーレートYgと、ヨーレートセンサ94が検出した実ヨーレートYとの偏差を算出する手段である。この偏差(第2偏差D2)は、正の値(絶対値)とされ、正常判定部26Eに出力される。
【0056】
正常判定部26Eは、第1偏差D1および第2偏差D2に基づいてヨーレートセンサ94の正常を判定する手段である。具体的には、正常判定部26Eは、予め記憶された第1所定値C1と第1偏差D1とを比較し、第1偏差D1が第1所定値C1以内であり、かつ、予め記憶された第2所定値C2と第2偏差D2とを比較し、第2偏差D2が第2所定値C2以内であるときに、第1タイマTM1をインクリメントし、第1タイマTM1が第1しきい値TM1thに達した場合には、ヨーレートセンサ94の正常を判定する。このような判定が可能なのは、ヨーレートセンサ94が正常である場合には、高摩擦係数路を走行中であれば、舵角ヨーレートYsと、実ヨーレートYが略同じであるだけでなく、横GヨーレートYgと実ヨーレートYも略同じとなるはずだからである。これにより、低摩擦係数路を走行中に、たまたま、舵角ヨーレートYsと、実ヨーレートYが略同じである場合であっても、横GヨーレートYgはこれらと異なる値となるので、誤って正常判定をすることがなくなる。この判定結果は、目標液圧設定部21に出力される。
【0057】
記憶部29は、センサの検出値や、各種の値の計算に必要な変数や定数などを記憶する手段である。
【0058】
次に、以上のように構成された車両挙動制御装置100の制御部20の動作について説明する。ここでは、本発明に関連する部分として、
図5を参照して、正常検出部26による正常の検出の処理を説明するとともに、
図7を参照して異常検出後、正常検出前の加圧制御の処理を説明する。
【0059】
図5に示すように、制御部20は、正常または異常の状態を示すフラグFを参照し、Fが0か否か(フラグFは0のときに異常、1のときに正常を示すものとする)判定する(S1)。Fが1の場合(S1,No)、つまり、現時点で正常な場合には、正常の検出をすることなく、処理を終了する。一方、Fが0の場合(S1,Yes)、つまり、現時点で異常が判定されている場合には、舵角ヨーレート算出部26Aが車輪速センサ91および操舵角センサ92の出力値から舵角ヨーレートYsを算出するとともに、横Gヨーレート算出部26Cが車輪速センサ91および横加速度センサ93の出力値から横GヨーレートYgを算出する(S2)。
【0060】
次に、第1偏差算出部26Bは、第1偏差D1を、舵角ヨーレートYsと実ヨーレートYの差の絶対値により算出し、第2偏差算出部26Dは、第2偏差D2を、横GヨーレートYgと実ヨーレートYの差の絶対値により算出する(S3)。
【0061】
そして、正常判定部26Eは、第1偏差D1が第1所定値C1以内か(S4)、および第2偏差D2が第2所定値C2以内か(S5)を判定し、これらをともに満たす場合(S4およびS5でYes)、第1タイマTM1をインクリメントする(S6)。一方、ステップS4およびステップS5でいずれかでも満たさない場合には(S4またはS5でNo)、正常の判定をすることなくステップS9に進み、第1タイマTM1をリセットする。
【0062】
ステップS6で第1タイマTM1をインクリメントした後、正常判定部26Eは、第1タイマTM1が第1しきい値TM1th以上か否か判定し(S7)、第1タイマTM1が第1しきい値TM1thより小さい場合には(S7,No)、正常の判定をすることなく処理を終了する。一方、第1タイマTM1が第1しきい値TM1th以上の場合には(S7,Yes)、正常を判定し(S8、フラグFを1にする。)、第1タイマTM1をリセットして(S9)、処理を終了する。
【0063】
以上のような処理により、正常判定される場合の各パラメータの変化について
図6を参照して説明する。
図6においては、車両CRが高摩擦係数路において、左旋回した後、右旋回する場合を想定している。
図6(a)に示すように、車両CRが左旋回中にヨーレートセンサ94で検出された実ヨーレートYが、時刻t11においてなんらかの異常によりある値に固着したとする。このとき、異常検出部25は、公知の判定方法により、時刻t12に異常を判定する((g)を参照)。その後、左旋回中の時刻t13において、ヨーレートセンサ94の値の固着が解消され、正常な値を出力し始めたとする。
【0064】
この時刻t11〜t13の間において、舵角ヨーレートYsと、横GヨーレートYgとは、ヨーレートセンサ94の値の影響を受けないので、車両CRの旋回状態を略正確に示すように変化する((b),(c)を参照)。そのため、第1偏差D1および第2偏差D2は、ヨーレートセンサ94の値の変動に応じて、(d),(e)のように変化する。時刻t11〜t13の間においては、第1偏差D1および第2偏差D2は、比較的大きな値をとるが、時刻t13において、ヨーレートセンサ94が正常な値を出力し始めると、第1偏差D1および第2偏差D2は、ともに0に近い値をとる。このため、時刻t13において第1偏差D1が第1所定値C1以内となり、また、第2偏差D2が第2所定値C2以内となるので、このときから、正常判定部26Eにより第1タイマTM1がカウントされ始める。そして、このヨーレートセンサ94の正常な状態が続いて時刻t14になり、第1タイマTM1が第1しきい値TM1thに達すると、正常が判定される((g)参照)。
【0065】
このようにして、本実施形態の車両挙動制御装置100においては、異常検出部25によりヨーレートセンサ94の異常が検出された後、正常検出部26により正常を検出することができる。このため、なんらかのノイズにより一時的に異常が検出された後において、正常状態に戻ったときには、通常の車両挙動制御を再開することが可能となる。そして、この判定の際に、舵角ヨーレートYsと実ヨーレートYとの偏差である第1偏差D1が第1所定値C1以内であることだけでなく、横GヨーレートYgと実ヨーレートYとの偏差である第2偏差D2が第2所定値C2以内であることも条件として、ヨーレートセンサ94の正常を検出するので、ヨーレートセンサ94の正常を正確に判定することができる。
【0066】
次に、
図7を参照して、異常検出後、正常検出前の加圧制御の処理を説明する。
図7に示すように、制御部20は、加圧条件を満たすかどうかを判定し(S11)、加圧条件を満たさない場合には(S11,No)、第2タイマTM2をリセットして(S31)処理を終了する。このときに、上限液圧PT
LIMを初期値にリセットするとよい。一方、加圧条件を満たす場合には(S11,Yes)、目標液圧設定部21は、目標液圧PTを計算する(S12)。そして、目標液圧設定部21は、フラグFが0か否か判定し(S13)、Fが1の場合、つまり、ヨーレートセンサ94が正常と判定されている場合には、今回の適用液圧PTnを計算した目標液圧PTにし(S14)、第2タイマTM2をリセットする(S15)。
【0067】
一方、フラグFが0であった場合(S13,Yes)、目標液圧設定部21は、第2タイマTM2をインクリメントする(S16)。そして、第2タイマTM2がしきい値TM2th1より小さいか否かを判断し(S17)、第2タイマTM2がしきい値TM2th1より小さい場合(S17,Yes)、上限液圧PT
LIMを上限液圧PT
LIM1にする(S18)。第2タイマTM2がしきい値TM2th1以上の場合(S17,No)、第2タイマTM2がしきい値TM2th2より小さいか否か判断し(S19)、しきい値TM2th2より小さい場合(S19,Yes)、上限液圧PT
LIMを上限液圧PT
LIM2にする(S20)。第2タイマTM2がしきい値TM2th2以上の場合(S19,No)、さらに、第2タイマTM2がしきい値TM2th3より小さいか否か判断し(S21)、しきい値TM2th3より小さい場合(S21,Yes)、上限液圧PT
LIMを上限液圧PT
LIM3にする(S22)。第2タイマTM2がしきい値TM2th3以上の場合、上限液圧PT
LIMを上限液圧PT
LIM4にする(S23)。
【0068】
このようにして上限液圧PT
LIMが決定すると、目標液圧設定部21は、目標液圧PTと上限液圧PT
LIMを比較し、目標液圧PTが上限液圧PT
LIMより大きければ(S24,Yes)、上限液圧PT
LIMを適用液圧PTnとし(S25)、目標液圧PTが上限液圧PT
LIM以下の場合(S24,No)、目標液圧PTを適用液圧PTnとする(S26)。そして、目標液圧設定部21は、適用液圧PTnを弁駆動部23およびモータ駆動部24に出力する。これにより適用液圧PTnで加圧制御がなされる(S27)。
【0069】
このような処理による、異常判定後の加圧制御をする場合の各パラメータの変化について
図8を参照して説明する。
図8に示すように、ヨーレートセンサ94が正常にあった状態で((a)参照)、時刻t21に加圧条件が満たされると((e)参照)、目標液圧PTが(b)のように立ち上がり、適用液圧PTnも、目標液圧PTに倣って立ち上がる。
【0070】
時刻t22において、異常検出部25によってヨーレートセンサ94の異常が検出されると、目標液圧設定部21は、適用液圧PTnを上限液圧PT
LIMに小さくし、第2タイマTM2のカウントを開始する。そして、第2タイマTM2のカウントがしきい値TM2th1,TM2th2,TM2th3に達する度に、適用液圧PTnを少しずつ小さくしていく(時刻t23,t24,t25参照)。なお、本実施形態では、上限液圧PT
LIMを初めてPT
LIM1に下げるまでの時間(しきい値TM2th1に相当)を、2回目および3回目に上限液圧PT
LIMを下げるまでの時間(TM2th2−TM2th1,TM2th3−TM2th2に相当)よりも長くしている。
【0071】
なお、
図8においては、ヨーレートセンサ94が正常と判定されている状態で加圧条件が満たされた場合を例に説明したが、異常と判定されている状態で加圧条件が満たされた場合には、上限液圧PT
LIMの範囲内の液圧で加圧制御が開始されることになる。また、第2タイマTM2は、加圧制御の最初から(加圧条件と、F=0の条件を満たした時から)カウントされることになる(図示せず)。
【0072】
このように、本実施形態の車両挙動制御装置100によれば、異常検出部25によってヨーレートセンサ94の異常が検出された後も、正常時以下の液圧で加圧制御を行うことができるので、車両を少しでも安定化させることができる。また、異常と判定されているときの加圧制御は、徐々に小さくなる上限液圧PT
LIMの範囲内で控えめに行われるので、ヨーレートセンサ94が異常である場合に必要以上に加圧することを抑制することができる。
【0073】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0074】
例えば、前記実施形態においては、ヨーレートセンサ94の正常の判定のために、第1偏差D1が第1所定値C1以内であり、かつ、第2偏差D2が第2所定値C2以内である状態が第1しきい値TM1thだけ続いた場合にヨーレートセンサ94の正常を判定したが、第1偏差D1が第1所定値C1以内であり、かつ、第2偏差D2が第2所定値C2以内である場合に直ちにヨーレートセンサ94の正常を判定しても構わない。もっとも、前記実施形態のように、第1偏差D1が第1所定値C1以内であり、かつ、第2偏差D2が第2所定値C2以内である状態が第1しきい値TM1thだけ続くことを条件とした方がヨーレートセンサ94の出力値の一時的なノイズにより誤って正常と判定することを抑制することができる。
【0075】
前記実施形態においては、異常が検出された後の加圧制御において、適用液圧PTn(上限液圧PT
LIM)を徐々に小さくする場合の一形態として段階的に小さくしていったが、滑らかに、例えば一定勾配で小さくしていってもよい。また、必ずしも上限液圧PT
LIMを時間の経過とともに小さくしなくてもよい。