(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のスルホン酸型液晶モノマー材料を高分子量化したスルホン化液晶ポリマー材料は、主鎖がメタクリル骨格、もしくはアクリル骨格である。このため、高分子電解質膜を薄膜化したことにより性能が向上しにくくなることがあった。また、上記の材料は、エステル結合を有するため、加水分解による分解反応が進行しやすくなることがあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するものであって、薄膜化可能な主鎖を有し、加水分解やラジカル耐性に優れ、発電性能を向上させた高分子電解質、それを用いた高分子電解質膜および固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による高分子電解質、それを用いた高分子電解質膜および固体高分子形燃料電池は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
本発明のある態様による第1の高分子電解質は、下記の化学一般式(1)(A
1,A
2はアルキ
レン基を示し、B
1は電子求引性基を示し、B
2は電子供与性基を示し、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基から選択されるプロトン酸基を示し、nは10以上10000以下の整数とする。)で表される高分子単位を有
し、前記電子求引性基はカルボニル基であり、前記電子供与性基はアミノ基であることを特徴とする。
【0009】
【化1】
【0010】
上記の高分子電解質によれば、この高分子電解質は、主鎖がフェニレン骨格に変更されている。また、耐加水分解性を向上させるために、エステル部位が除去されている。同時に、ラジカル耐性を向上させるために、電子求引性基が導入され、かつメソゲンに
ピリ
ミジンが導入されている。
【0011】
つまり、主鎖をアクリル骨格またはメタクリル骨格からフェニレン骨格に変更することで、高分子が剛直な骨格となり、高分子電解質を薄膜化させることが可能となる。さらに、高分子電解質を薄膜化した高分子電解質膜を燃料電池に用いた場合にも、発電性能を向上させることが可能となる。
また、上記の高分子電解質によれば、モノマーを容易に合成することができ、その高分子電解質からなる高分子電解質膜を柔軟にすることが可能となる。一方、電子供与性基を導入すると、例えば、メソゲン部位の電子密度が高くなり、ラジカルに攻撃されやすくなるが、その骨格に電子密度の低いピリミジン骨格を導入しているため、ラジカル安定性を維持することが可能となる。
本発明のある態様による第2の高分子電解質は、前記アルキ
レン基は、−(CH
2)
m−(mは1以上の整数とする。)であることを特徴とする。
【0012】
上記の高分子電解質によれば、アルキ
レン基を−(CH
2)
m−とすることで、高分子電解質からなる高分子電解質膜の柔軟性を維持しつつ、酸価の高い高分子電解質膜を得ることが可能となる
。
【0014】
本発明のある態様による第
3の高分子電解質は、前記化学一般式(1)に対して、ポリマー化が可能な基としてX
1,X
2を有する下記の化学一般式(2)(X
1,X
2はそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子のいずれかを示す。)で表されるイオン性材料を含んで形成されたことを特徴とする。
【0015】
【化2】
【0016】
上記の高分子電解質によれば、イオン性材料を含んで形成されているため、高分子電解質膜を薄膜化して際にも、膜電極接合体を形成することのできる十分な機械強度を得ることが可能となる
。
本発明のある態様による高分子電解質膜は、上記の第1〜
3のいずれか1つに記載の高分子電解質を用いて形成されたことを特徴とする。
【0017】
上記の高分子電解質膜によれば、上記で説明した高分子電解質を用いて形成されるため、発電性能を向上させることが可能となる。
本発明のある態様による固体高分子形燃料電池は、上の高分子電解質膜を用いて形成されたことを特徴とする。
上記の固体高分子形燃料電池によれば、上記で説明した高分子電解質を用いて形成された高分子電解質膜を用いて膜電極結合体が形成されるため、固体高分子形燃料電池としての発電性能を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高分子電解質によれば、主鎖をアクリル骨格またはメタクリル骨格からフェニレン骨格に変更することで、高分子が剛直な骨格となり、高分子電解質を薄膜化させることができる。さらに、高分子電解質を薄膜化した高分子電解質膜を燃料電池に用いた場合にも、発電性能を向上させることができる。また、本発明の高分子電解質は、電子密度の低
いピリ
ミジンに加えて、電子求引性基を有するため、ラジカル安定性を向上させることができる。
【0019】
さらに、上記の高分子電解質膜を用いて固体高分子形燃料電池を構成することにより、高い発電性能を備えた固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、添付した図面を参照して、本発明の高分子電解質、それを用いた高分子電解質膜および固体高分子形燃料電池について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に記載する各実施の形態に限定されうるものではなく、当事業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0022】
まず、
図1および
図2を参照して、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池の単セル11の全体の構成を説明する。
図1は、本発明の高分子電解質膜(高分子電解質)1の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体12を装着した固体高分子形燃料電池の単セル11の構成を示す分解断面図である。
【0023】
図1に示す固体高分子形燃料電池の単セル11は、その上下部を保護する2つのセパレータ10に膜電極結合体12が挟まれて形成される。なお、2つのセパレータ10のうちの一方のセパレータと膜電極結合体12との間には、ガス拡散層として空気極側ガス拡散層4が形成される。また、他方のセパレータと膜電極結合体12との間にも、同様にガス拡散層として燃料極側ガス拡散層5が形成される。
【0024】
そして、膜電極結合体12は、高分子電解質膜1の空気極側ガス拡散層4の面に空気極側電極触媒層2が形成される。また、膜電極結合体12は、高分子電解質膜1の燃料極側ガス拡散層5の面に燃料極側電極触媒層3が形成される。
上記の空気極側電極触媒層2と空気極側ガス拡散層4とで、電極として機能する空気極6が形成される。さらに、燃料極側電極触媒層3と燃料極側ガス拡散層5とで、同じく電極として機能する燃料極7が形成される。この空気極6と燃料極7とに、図示しない外部の負荷が接続されることで、負荷を駆動することができる。
【0025】
また、セパレータ10には、一方の面にはガスが流れる経路としてガス流路8が形成され、他方の面には冷却水が流れる経路として冷却水流路9が形成されている。
また、
図2は、
図1に示した膜電極結合体12の構成を示す要部断面図である。
図2に示す膜電極結合体12は、高分子電解質膜1の空気極6側の面に、空気極側電極触媒層2が形成されている。また、膜電極結合体12は、高分子電解質膜1の燃料極7側の面に、空気極側電極触媒層3が形成されている。
【0026】
下記の化学一般式(1)におけるA
1,A
2はアルキ
レン基を示し、B
1は電子求引性基を示し、B
2は電子供与性基を示し、Yはスルホン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基から選択されるプロトン酸基を示し、nは10以上10000以下の整数とする。
【0028】
そして、上記の化学一般式(1)に対して、ポリマー化が可能な基としてX
1,X
2を有する上記の化学一般式(2)で高分子単位が表わされる。上記の高分子電解質1は、下記の化学一般式(2)で表されるポリマー化可能な基を有するイオン性材料(以下、「モノマー」と記す。)を重合させることによって得られる。
【0030】
[モノマーについて]
上記の化学一般式(2)中のA
1,A
2はアルキ
レン基、B
1は電子求引性基、B
2は電子供与性基、Yはスルホン酸基、ヒドロキシル基、カルボキシル基から選択されるプロトン酸基をそれぞれ示す。さらに、X
1,X
2はそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子のいずれかである。X
1,X
2は同一の原子であっても、異なる原子でもよいが、同一の原子であることが好ましい。
【0031】
ここで、ポリマー化可能な基とは、具体的には、X
1またはX
2を含む基のことをいう。また、イオン性材料とは、Yで表されるプロトン酸基を有する材料のことをいう。
上記の化学一般式(2)中のA
1,A
2で表されるアルキ
レン基は、−(CH
2)
m−(mは1以上の整数である。)であることが好ましく、mが3または4であることが特に好ましい。mが3または4であることによって、その高分子電解質からなる高分子電解質膜の柔軟性を維持しつつ、酸価の高い高分子電解質膜を得ることができる。
【0032】
上記の化学一般式(2)中のB
1は電子求引性基であることが好ましい。B
1が電子求引性基であることによって、ラジカル安定性を向上させることができる。電子求引性基としては、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基などが挙げられるが、特に、B
1がカルボニル基である場合、上記の化学一般式(2)のモノマーを容易に合成でき、よりラジカル安定性を向上させることができる。
【0033】
上記の化学一般式(2)中のB
2は電子供与性基であることが好ましい。電子供与性としては、特に、アミノ基が好ましい。B
2がアミノ基であることにより、上記の化学一般式(2)のモノマーを容易に合成でき、その高分子電解質からなる高分子電解質膜を柔軟にすることができる。一方、電子供与性基を導入すると例えば、メソゲン部位の電子密度が高くなり、ラジカルに攻撃されやすくなるが、その骨格に電子密度の低
いピリ
ミジン骨格を導入しているため、ラジカル安定性を維持することができる。
なお、高分子電解質1のイオン交換容量は、上記で説明したような高分子電解質膜の性能の観点から、2.1meq/g以上2.4meq/g以下であることが特に好ましい。
【0034】
[モノマーの製造方法について]
上記の化学一般式(2)のモノマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、A
1が−(CH
2)
4−、B
1がカルボニル基、B
2がアミノ基であり、A
2が(−CH
2)
3−、Yがスルホン酸基である場合、以下のようにして合成することができる。なお、A
1、B
1、A
2、Yが上記構成でない場合であっても、以下のような合成方法および公知の合成方法を組み合わせることによって、上記の化学一般式(2)のモノマーを製造することができる。
まず、下記の化学一般式(3)で表される化合物(A)を準備する。
【0036】
ここで、X
1,X
2はそれぞれ塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれかである。反応効率の点から、1,4−ジクロロベンゼンであることが好ましい。
次に、上記の化合物(A)と、下記の化学一般式(4)で表される化合物(B)とを反応させることによって、下記の化学一般式(5)で表される化合物(C)を得ることができる。
【0038】
ここで、上記の式中のX
1は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれかである。なお、反応効率の点から、X
1は、塩素原子であることが好ましい。
【0040】
この際の反応条件は、特に限定されるものではない。但し、反応温度が、好ましくは25℃以上80℃以下、より好ましくは40℃以上70℃以下であって、反応時間が、好ましくは8時間以上48時間以下、より好ましくは16時間以上32時間以下である反応条件下で反応が行われる。
【0041】
また、上記の反応を行う際の圧力は、特に限定されるものではないため、加圧下、常圧(大気下)、または減圧下いずれかでよく、適宜設定すればよい。ただし、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気を用いて、反応を行うことが好ましい。
上記の化合物(B)は、化合物(A)100モル%に対して、50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、80モル%以上100モル%以下であることが好ましい。
【0042】
また、上記の反応を行う際に用いられる触媒としては、ルイス酸触媒であれば良い。ルイス酸触媒の例としては、無水塩化アルミニウムが挙げられる。
触媒は、化合物(A)100モル%以上に対して、100モル%以上200モル%以下であることが好ましく、100モル%以上150モル%以下であることがより好ましい。
次に、上記の化合物(C)と塩化チオニルとを反応させることによって、下記の化学一般式(6)で表される化合物(D)を得ることができる。
【0044】
この際の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度は好ましくは、25℃以上80℃以下、より好ましくは、40℃以上60℃以下、反応時間は好ましくは、1時間以上10時間以下、より好ましくは2時間以上5時間以下で反応が行われる。
反応は、反応効率の観点から、窒素雰囲気で行うことが望ましい。
上記の反応で用いられる反応溶媒としては、良溶媒であることが望ましく、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルイミダゾリノンなどが挙げられる。
【0045】
次に、下記の化学一般式(7)で表される化合物(E)と、プロパンスルトンとを反応させる。
【0047】
そして、上記の2つ化合物を反応させた結果、下記の化学一般式(8)で表される化合物(F)を得ることができる。
【0049】
この際の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度は好ましくは、25℃以上80℃以下が好ましい。また、反応時間は好ましくは、10時間以上48時間以下で行われる。なお、反応を行う雰囲気は、大気雰囲気下であってもよいし、窒素雰囲気下であってもよい。
この反応を行う際に用いられる反応溶媒としては、良溶媒であることが望ましく、より好ましくは、アルコール系溶媒であることが望ましい。具体的な反応溶媒として、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、1−ブタノールが挙げられる。
【0050】
上記のモノマーは、上記の化合物(D)と上記の化合物(F)とを反応させることにより、得ることができる。具体的には、上記の化学一般式(2)において、A
1が−(CH
2)
4−、B
1がカルボニル基、B
2がエーテル基であり、A
2が−(CH
2)
3−、Yがスルホン酸基であるモノマーが得られる。
この際の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは25℃以上80℃以下、より好ましくは40℃以上70℃以下、反応時間が好ましくは8時間以上48時間以下、より好ましくは16時間以上32時間以下で反応が行われる。
反応の際の圧力は、特に限定されるものではないが、加圧下、常圧(大気圧)下、または減圧下いずれかでよく、場合により適宜設定すればよいが、常圧下であることが好ましい。
【0051】
また、反応を行う雰囲気は特に限定されるものではないが、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
上記の化合物(D)は、上記の化合物(F)100モル%に対して、50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、80モル%以上100モル%以下であることが好ましい。
また、この際用いられる触媒としては、ルイス酸触媒であれば良く、ルイス酸触媒の例としては、無水塩化アルミニウムが挙げられる。触媒は、上記の化合物(D)100モル%に対して、100モル%以上200モル%以下であることが好ましく、100モル%以上150モル以下であることがより好ましい。
【0052】
[高分子電解質の製造方法について]
上記のモノマーの重合は、特に限定されるものではないが、特定の触媒の存在下に反応させることが好ましい。この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、配位子成分、配位子が配位された遷移金属錯体、および還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために塩を添加してもよい。
また、配位子成分としては、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、または1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジンが好ましい。上記の配位子成分である化合物は、1種類だけ単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。配位子成分は、上記のモノマー100モル%に対して、1モル%100モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましい。
【0053】
配位子が配位された遷移金属錯体としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2−ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2−ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、またはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。これらのうち、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2−ビピリジン)が好ましい。遷移金属錯体は、上記モノマー100モル%に対して、1モル%以上100モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましい。
【0054】
上記の触媒系に使用することができる還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、またはカルシウムなどが挙げられる。これらのうち、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。還元剤は、上記モノマー100モル%に対して、1モル以上100モル%以下であることが好ましく、10モル%以上30モル%以下であることが好ましい。
【0055】
また、上記の触媒系において使用することのできる塩としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物;フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物;フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物が挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。塩は、上記モノマー100モル%に対して、1モル%以上100モル%以下であることが好ましく、10モル%以上30モル%以下であることが好ましい。
【0056】
また、上記重合の際に用いられる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましい。これらの重合溶媒は、十分に乾燥してから用いることが好ましい。
【0057】
重合の際の重合温度および重合時間は、特に限定されるものではなく、分子量や、重合の濃度等によって適宜設定すればよい。例えば、重量平均分子量が10万以上50万以下の重合体を得ることを目的とする場合、反応効率の点から、重合温度が好ましくは25℃以上80℃以下、より好ましくは40℃以上70℃以下、重合時間が好ましくは8時間以上40時間以下、より好ましくは16時間以上32時間以下で重合が行われる。
【0058】
重合の際の重合圧力は、特に限定されず、加圧下、常圧(大気)下、減圧下のいずれかでよく、場合により適宜設定すればよいが、常圧下であることが好ましい。
上記のモノマーの重合度、すなわち上記の化学一般式(1)におけるnは、10以上10000以下であることが好ましく、より好ましくは、1000以上10000以下である。nが上記の範囲であることにより、高分子電解質を溶媒に容易に溶解させることができ、成膜性を良好にすることができる。
【0059】
[高分子電解質膜の製造方法について]
このようにして得られた高分子電解質を用いて高分子電解質膜を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、本発明のポリフェニレン系電解質を溶媒に溶解して溶液とした後、キャスティングにより、基材上に塗布し、フィルム状に形成する方法や、所定のギャップに制御されたアプリケータを用いて塗工、成膜する方法、ダイコータを用いて成膜する方法等が挙げられる。
【0060】
また、成膜を行うのにあたっては、溶液の粘度を10mPa・s以上10000mPa・s以下とすることが好ましく、10mPa・s以上1000mPa・s以下とすることがより好ましい。上記範囲内であると、溶媒の残留量が少なく、また溶液を乾燥する際に多量の気泡が発生する確率が低いことと、レべリング効果により厚みむらが低減できるため、安定したプロトン伝導性が確保される。
【0061】
その際の高分子電解質の濃度は、分子量にもよるが、通常、2.5重量%以上50重量%以下、好ましくは7重量%以上25重量%以下である。上記の範囲内であれば、成膜性が優れる。
また、この際に用いられる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチルラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン系極性溶媒、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上混合させてもよい。またこれらの溶媒に水を添加したものを用いてもよい。
また、粘度を調整した高分子電解質溶液は、例えば、基材にキャストされる。キャストする基材としては、金属材料、ガラス、セラミックス、プラスチックなどが挙げられる。基材の形状は特に限定されるものではない。
さらに、基材上に形成された塗膜は、好ましくは25℃以上140℃以下、0.1時間以上24時間以下で加熱され、本発明の高分子電解質膜が形成される。
【0062】
[固体高分子形燃料電池について]
固体高分子形燃料電池は、一般に、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の両面に設けた空気極側電極触媒層および燃料極側触媒層とからなる膜電極接合体と、空気極側電極触媒層および燃料極側電極触媒層と対向して配置された空気極側ガス拡散層および燃料極側ガス拡散層と、これらを挟持したセパレータとから構成される。
本発明の高分子電解質は、薄膜化しても十分な機械強度を有し、耐加水分解性およびラジカル安定性を向上させることができることから、上記固体高分子形燃料電池を構成する高分子電解質膜の材料として用いることができる。また、導電性物質および触媒物質とともに、空気極側電極触媒層または燃料極側電極触媒層を形成することもできる。
以下、本発明を実施例および比較例により詳細に説明する。ただし、本発明は、これから説明する実施例および比較例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例]
<化合物(C−1)の合成>
1,4−ジクロロベンゼン14.6g(0.1mol)、1−クロロへキサン酸を13.6g(0.1mol)を用意し、塩化アルミニウム14.6g(0.11mol)を加えて、窒素雰囲気下、1時間撹拌を行った。この反応溶液の有機成分を抽出により回収し、シクロへキサンを用いて再結晶を行った。乾燥後、下記の化学一般式(9)で表される化合物(C−1)を得た。
【0065】
<化合物(D−1)の合成>
窒素雰囲気下において、得られた化合物(C−1)50g(0.2mol)に、塩化チオニル118.9g(1mol)およびジメチルホルムアミド5mlを加えて、45℃で4時間加熱撹拌することにより、下記の化学一般式(10)で表される化合物(D−1)を得た。
【0067】
<化合物(F)の合成>
窒素雰囲気下、2−アミノ−5−フェニル
ピリ
ミジン(上記の化学一般式(7)で表わされる化合物(E))49.6g(0.29mol)に、プロパンスルトンを141.7g(1.16mol)および水酸化ナトリウム20g(0.5mol)、メタノールを200ml加えて、48時間撹拌した。
その後、ジエチルエーテルで再沈殿させ、ろ過した。ろ過物を塩酸にて洗いこみ、上記の化学一般式(8)で表わされる化合物(F)を得た。
【0068】
<モノマーの合成>
窒素雰囲気下、化合物(D−1)を10g(0.038mol)に、化合物(F)を11.1g(0.038mol)、塩化アルミニウムを5.56g(0.042mol)、30mlのジメチルホルムアミドを加えて、60℃で1時間撹拌させて、下記の化学一般式(11)で表わされる実施例のモノマーを得た。
【0070】
<高分子電解質の合成>
窒素雰囲気下、実施例のモノマーを7.79g(14.58mmol)に、トリフェニルホスフィン1.493g(5.692mmol)、ヨウ化ナトリウム0.293g(1.953mmol)、亜鉛1.281g(19.59mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド0.311g(0.475mmol)を加える。さらに、溶媒として、20mlのジメチルホルムアミドを加えて、60℃で24時間撹拌して、下記の化学一般式(12)で表わされる実施例の高分子電解質を得た。
【0072】
[比較例]
<9−ブロモ−1−デセンの合成>
500mlの三角フラスコにベンゼン100ml及びピリジン1.0gを加えて、9−デセン−1−オール25g(0.16mol)を溶解した。次に、三臭化リン43.2g(0.16mol)を溶解させたベンゼン溶液100mlを氷冷下でゆっくりと滴下した後、室温で18時間撹拌した。その後、反応液を氷水中に注ぎ、ジエチルエーテル300mlで抽出した。ここで得たエーテル−ベンゼン混合液は、無水硫酸ナトリウムで一晩脱水した。求引ろ過により硫酸ナトリウムを除き、エーテル−ベンゼンを減圧除去し、残渣を減圧蒸留して目的物9−ブロモ−1−デセンを得た。
【0073】
<4−(9−デセニルオキシフェニル)フェノールの合成>
水酸化ナトリウム0.08mol(3.40g)を100mlのエタノールに溶解させた。この溶液を4,4’−ビフェノール0.08mol(14.9g)を溶解させた100mLエタノールに少量ずつ加えて、エタノールを減圧除去した。残渣を150mLDMFに窒素気流下で加温して溶解させた(A液)。上記で調整した9−ブロム−1−デセン0.072mol(15.8g)、フェノチアジン0.1gを30mLのDMFに溶解させた(B液)。窒素雰囲気下でよく撹拌しながらA液にB液を30分程度かけて加えて、40℃で24時間反応させた。反応終了後、反応液を冷却し、300mLの10%冷希塩酸で洗浄した後、300mLのエーテルで抽出し、次いで100mL冷蒸留水で洗浄した。エーテル層は、無水硫酸ナトリウムで一晩脱水する。硫酸ナトリウムをろ過により取り除き、エーテルを減圧除去する。残渣に300mLのヘキサンを加えて、ろ過により沈殿物を得る。次いで、200mLベンゼンを加えて、ベンゼン可溶部分をベンゼンを用いたカラムクロマトグラフィーで精製してスルホン化4−(9−デセニルオキシフェニル)フェノールを得た。
【0074】
<3−[6−(9−デセニルオキシ)ビフェニルオキシ]プロピルスルホン酸の合成>
N,N−ジメチルホルムアミド30mL中に重合禁止剤であるフェノチアジン0.05gを溶解させた。そこへ、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)0.008mol(1.22g)と4−(9−デセニルオキシフェニル)フェノール0.002mol(0.65g)、3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム0.008mol(1.32g)を溶解させ、窒素雰囲気下、50℃で48時間撹拌した。反応終了後、溶媒を濃縮したジエチルエーテルを加えて、ろ過することにより沈殿を得た。次に、沈殿を蒸留水でよく洗浄した。次に、洗浄後の沈殿を6mol/LのHCl中で24時間撹拌後、遠心分離機により沈殿を得て、この沈殿をジエチルエーテルで洗浄後、乾燥して、比較例のモノマーである3−[6−(9−デセニルオキシ)ビフェニルオキシ]プロピルスルホン酸を得た。
【0075】
<3−[6−(9−デセニルオキシ)ビフェニルオキシ]プロピルスルホン酸の高分子量化>
窒素雰囲気下、3−[6−(9−デセニルオキシ)ビフェニルオキシ]プロピルスルホン酸を488mg(1mmol)、開始剤であるAIBNを6.6mg(0.04mmol)加えて、ジメチルスルホキシドを4.7ml加えた。その後、60℃で60時間熱重合して高分子量化させた。その後、アセトンで再沈殿させ、比較例の高分子電解質である3−[6−(9−デセニルオキシ)ビフェニルオキシ]プロピルスルホン酸ポリマーを得た。
【0076】
[高分子電解質の成膜]
実施例および比較例の高分子電解質をジメチルスルホキシドに溶解させた後、ガラスにキャストし、45℃で12時間、80℃で12時間、80℃で1時間真空乾燥させることで、実施例および比較例の高分子電解質膜を得た。
[評価]
<薄膜化>
実施例の高分子電解質膜は、比較例の高分子電解質膜に比較して、薄膜化しても膜電極接合体が作製できる機械強度を有していた。
<フェントン試験>
また、60℃、3%過酸化水素水溶液、4ppmFe
2+中に、実施例および比較例の高分子電解質膜を浸漬させた。その結果、実施例の高分子電解質膜の方が、比較例の高分子電解質膜より、高い耐久性を有していることを確認した。