(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記状態において、前記鍔部(332)の前記第2表面(333)と前記延在部(331)との交点(335)においても、前記距離(dx)は前記最小値(d0)と同じ値を採る、請求項2に記載の回転電機。
前記鍔部(332)の前記第2表面(333)は、前記回転軸(P)に沿って見て、前記巻線(35)側に膨らむ第2曲線に沿う形状を有する、請求項1に記載の回転電機。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、界磁子と電機子とを備える電動機について記載している。界磁子と電機子とは回転軸を中心とした径方向でエアギャップを介して互いに対面し、当該回転軸を中心として互いに相対的に回転する。非特許文献1では、界磁子は界磁子用コアと、界磁子用コアの外周面に取り付けられる永久磁石とを有する。電機子は、環状のバックヨークと、複数のティースと、複数の巻線とを備えている。ティースはバックヨークから界磁子へと向って延在し巻線が巻回される延在部と、界磁子側で延在部から周方向に広がる鍔部とを有している。
【0003】
またマグネットトルクのみならずリラクタンストルクを利用できる電動機として、非特許文献2のように、永久磁石が界磁子コアに埋設される電動機が提案されている。リラクタンストルクは、いわゆるd軸インダクタンスとq軸インダクタンスとの差が大きいほど、大きい。
【0004】
なお非特許文献1,2のいずれにおいても、電機子のティースの数(スロット数)が界磁子の磁極の数(極数)よりも多い電動機について考察されている。
【0005】
また、本発明に関連する技術として特許文献1が挙げられており、特許文献1でもスロット数が極数よりも多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1,2のいずれにおいても、ティースの鍔部における磁束密度に対してなんら考察が行われていない。これは次の理由による。即ち、特許文献1及び非特許文献1,2においてはスロット数が極数よりも多い。このような回転電機においては、界磁子の磁極面の周方向における幅が周方向におけるティースの中心同士の間の距離より広い。したがってq軸の磁束はティースの延在部を流れやすく、鍔部の磁束密度に対する考察が惹起されない。
【0009】
一方、極数とスロット数との比が4対3である場合、界磁子の磁極面の周方向における幅が、周方向におけるティースの中心同士の間の距離よりも狭い。したがって永久磁石の何れかの極からその隣の極に入る磁束がティース鍔部を流れやすい。
【0010】
図11,12は、電機子に生じるヒステリシス損を示す。
図11,12の例示では等高線100〜105を用いてヒステリシス損の分布を示しており、符号の数字が高いほど等高線は高いヒステリシス損を示す。
図11は4極、6スロットの回転電機におけるヒステリシス損の一例を示し、
図12は8極、6スロットの回転電機におけるヒステリシス損を示す。なお
図11,12の例示では極数を判別できるように永久磁石も示されている。
【0011】
図13,14はそれぞれ
図11,12の電機子の一部を拡大した図である。
図11,13の例示では、ティースの鍔部においてヒステリシス損が等高線104よりも高い部分はほとんどなく、むしろティースの周方向における中央付近でヒステリシス損が最も高い等高線105が示されている。一方、
図12,14の例示では、ティースの鍔部においてヒステリシス損が等高線104よりも高くなることが分かる。
【0012】
図11,12においては同じ電機子が採用されており、極数とスロット数との比以外の条件は互いに同一である。このように
図11,12において同じ電機子が採用されることから、
図11,12で示されるヒステリシス損の相違は、おおよそ磁束密度の相違と見なすことができる。即ち、
図12に例示するように、8極、6スロットである回転電機においては、ティースの鍔部において磁束密度が高まる。言い換えると、ティースの鍔部で磁束密度が高まって磁束飽和が生じている、と理解することができ、これは、ティースの鍔部にq軸の磁束が比較的多く流れることに起因すると考えられる。
【0013】
このようにティースの鍔部を含むq軸の磁束が流れる磁路において磁束飽和が生じると、q軸インダクタンスが低下し、ひいてはリラクタンストルクが低下する。
【0014】
そこで、本発明は、リラクタンストルクの低下を抑制できる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる回転電機の第1の態様は、回転軸(P)を中心として回転するシャフトに固定される界磁子(1)と、前記界磁子に対して前記回転軸とは反対側でエアギャップを介して前記界磁子と対向する電機子(3)とを備え、前記界磁子は、前記電機子と対面する外周面(15)を有し、複数の孔(14)が前記回転軸の周りで環状に穿たれる界磁子用コア(10)と、前記複数の孔に格納され、前記回転軸を中心とした周方向で交互に極性の異なる4n(nは自然数)個の磁極面を前記外周面に形成する複数の永久磁石(11)とを備え、前記複数の孔の各々は、前記永久磁石が格納される第1孔部(12)と、前記第1孔部の前記周方向の端部側から前記外周面へと向かって延在する第2孔部(13)とを有し、
前記第2孔部の表面であり、前記界磁子用コアのうち前記永久磁石と前記外周面との間のコア部(10a)
と前記周方向で隣り合
う第1表面(13
a)は、前記永久磁石の前記周方向における中心
を通る磁極中心側へと膨らむ曲線に沿う形状を有しており、前記電機子は、前記回転軸を中心として放射状に配置される3n(nは自然数)個のティース(33)と、前記ティースの、前記界磁子とは反対側の一端同士を連結するバックヨーク(31)と、前記ティースに巻回される巻線(35)とを備え、前記ティースの各々は、前記一端から前記径方向に延在する延在部(331)と、前記延在部の前記界磁子側の一端に設けられ、前記延在部から前記周方向に延在する鍔部(332)とを有し、前記周方向で隣り合う前記磁極面の二者の間の境界が前記ティースの一つの前記周方向における中心と前記周方向にて一致する位置関係で、前記電機子および前記界磁子が互いに対面した状態において、前記ティースの前記一つに属する前記鍔部の前記巻線側の第2表面(333)と、前記第1表面(13a)の前記周方向における中点(M1)での接線(B1)及び前記第1孔部の前記外周面側の第3表面(12a)の組との間の距離(dx)は、前記延在部とは反対側の前記第2表面(333)の端部(334)において最小値(d0)を採る。
【0016】
本発明にかかる回転電機の第2の態様は、第1の態様にかかる回転電機であって、前記鍔部(332)の前記第2表面(333)は前記回転軸(P)に沿って見て直線形状を有する。
【0017】
本発明にかかる回転電機の第3の態様は、第2の態様にかかる回転電機であって、前記状態において、前記鍔部(332)の前記第2表面(333)と前記延在部(331)との交点(335)においても、前記距離(dx)は前記最小値(d0)と同じ値を採る。
【0018】
本発明にかかる回転電機の第4の態様は、第1の態様にかかる回転電機であって、前記鍔部(332)の前記第2表面(333)は、前記回転軸(P)に沿って見て、前記巻線(35)側に膨らむ第2曲線に沿う形状を有する。
【0019】
本発明にかかる回転電機の第5の態様は、第4の態様にかかる回転電機であって、前記曲線及び前記第2曲線はいずれも円弧であり、前記状態において、前記第1表面(13a)が沿う前記円弧の中心と、前記第2表面(333)が沿う前記円弧の中心とが互いに一致する。
【0020】
本発明にかかる回転電機の第6の態様は、第1から第5の何れか一つの態様にかかる回転電機であって、前記巻線(35)と前記ティース(33)との間及び前記巻線(35)と前記バックヨーク(31)との間に介在する介在部(361)と、前記鍔部(332)と前記巻線との間の前記介在部から、前記延在部(331)とは反対側に延在し、前記巻線を支持する非磁性の支持部(362)とを有するインシュレータ(36)を更に備える。
【0021】
本発明にかかる回転電機の第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様にかかる回転電機であって、前記第1孔部(12)と前記第2孔部(13)とは互いに離間する。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる回転電機の第1の態様によれば、本回転電機において、極数が4n個でありスロット数(=ティースの数)が3n個である。このような回転電機においては鍔部において磁束密度が高まりやすい。なぜなら、極数がスロット数よりも多いので、永久磁石の端がティースの鍔部と対面しやすく、ひいては永久磁石の何れかの極からその隣の極に入る磁束がティース鍔部を流れやすいからである。
【0023】
一方で、本回転電機によれば、鍔部の巻線側の第2表面と、接線および第3表面の一組との間の距離は、当該第2表面のうち延在部とは反対側の端部において最小値を採る。当該第2表面と当該一組の外周側とで規定される磁路はq軸の磁束が流れる磁路となるところ、当該距離が当該端部において最小値を採ることで、この磁路の幅の確保に資することができる。ひいてはティースの鍔部における磁束飽和を抑制することできる。磁束飽和が生じるとq軸のインダクタンスが低下し、以てリラクタンストルクが低下するところ、本回転電機によれば、このようなリラクタンストルクの低下を抑制することができる。
【0024】
本発明にかかる回転電機の第2の態様によれば、製造が容易であり、しかも巻線側に突出しないので巻線が巻回される面積(スロット面積)の低減を抑制できる。
【0025】
本発明にかかる回転電機の第3の態様によれば、q軸磁路を確保しつつも、スロット面積を大きくできる。
【0026】
本発明にかかる回転電機の第4の態様によれば、第1の態様にかかる回転電機の実現に資する。
【0027】
本発明にかかる回転電機の第5の態様によれば、第4の態様にかかる回転電機の実現に資する。
【0028】
本発明にかかる回転電機の第6の態様によれば、回転軸に沿って見て、スロット面積を増大できる。
【0029】
本発明にかかる回転電機の第7の態様によれば、第1孔部と第2孔部との間に界磁子用コアの一部が介在するので、界磁子用コアの強度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に例示するように、本回転電機は界磁子1と電機子3とを備える。なお
図1では、回転軸Pに垂直な所定の断面における回転電機の概念的な構成の一例が示されている。以下で参照する他の図面でも当該断面における構成が示される。また以下では、回転軸Pを中心とした径方向を単に径方向と呼び、回転軸Pを中心とした周方向を単に周方向と呼び、回転軸Pに沿う方向を軸方向と呼ぶ。
【0032】
界磁子1は回転軸Pを中心として回転するシャフト(不図示)に固定される。電機子3は界磁子1に対して回転軸Pとは反対側でエアギャップを介して界磁子1と対向する。
【0033】
界磁子1は界磁子用コア10と永久磁石11とを備えている。界磁子用コア10は軟磁性体(例えば鉄)で形成される。界磁子用コア10は外周面15を有しており、外周面15は径方向においてエアギャップを介して電機子3と対向する。界磁子用コア10は例えば回転軸Pを中心とした略円柱状の形状を有している。よって
図1の例示では外周面15は略円形状を有している。
【0034】
界磁子用コア10には複数の孔14が形成される。複数の孔14は回転軸Pの回りで環状に配置され、各孔14は第一孔部12と第二孔部13とを有している。第一孔部12には永久磁石11が格納される。複数の永久磁石11は例えば希土類磁石(例えばネオジム、鉄およびホウ素を主成分とした希土類磁石)であって、回転軸Pの周りで環状に配置される。
図1の例示では、各永久磁石11は直方体状の板状形状を有している。各永久磁石11は、周方向における自身の中央において、その厚み方向が径方向に沿う姿勢で配置される。なお各永久磁石11は必ずしも
図1に示す形状を採用する必要はない。各永久磁石11は、例えば軸方向に見て、回転軸Pとは反対側(以下、外周側とも呼ぶ)若しくは回転軸P側(以下、内周側とも呼ぶ)へと開口するV字形状、又は外周側若しくは内周側へと開口する円弧状の形状を有していてもよい。
【0035】
複数の永久磁石11は外周面15に4n(nは自然数)個の磁極面を形成する。4n個の磁極面の極性は周方向において交互に異なる。
図1の例示では、8個の永久磁石11が設けられており、これら8個の永久磁石11が外周面15に8個の磁極面を形成する。これは、永久磁石11の外周面15側の表面(磁極面)の極性が周方向で交互に異なるように、永久磁石11が配置されることで実現される。
【0036】
また
図1の例示では、8個の永久磁石11の各々が外周面15に一つの磁極面を形成しているが、例えば一つの磁極面が複数の永久磁石11によって形成されていてもよい。言い換えれば、
図1における永久磁石11の各々が複数の永久磁石に分割されていてもよい。
【0037】
第二孔部13は永久磁石11の周方向における両側から外周面15に向って延在する。第二孔部13は永久磁石11の外周側の表面と内周側の表面との間で磁束が短絡することを抑制する。第二孔部13には例えば非磁性体材料が充填されてもよい。非磁性体材料が充填されれば、界磁子用コア10の強度を向上することができる。一方で第二孔部13に非磁性体材料が充填されない場合には製造コストを低減できる。
【0038】
図2〜4はそれぞれ第二孔部13の概念的な構成の例を示している。
図2〜4の例示では、界磁子1のうち一の磁極に相当する部分のみが示されている。
図2の例示では、第二孔部13は表面13a〜13dを有している。表面13bは、第一孔部12の内周側の表面12bと連続しており、表面12bと略平行に延在する。なお、表面13bが表面12bよりも外周側に位置するように表面13b,12bの間に段差が形成されてもよい。これによって当該段差は永久磁石11の周方向におけるストッパとして機能することができる。表面13cは、表面12bとは反対側における表面13bの端から略径方向に延在する。表面13dは表面13cの外周側の端から略周方向に延在する。表面13aは永久磁石11の周方向における中心(磁極中心)側における表面13dの端から、第一孔部12の外周側の表面12aへと延在し、表面12aに至る。表面13aは、軸方向に見て極中心側へと膨らむ曲線に沿う形状を有している。なお表面13aは第二孔部13と隣り合う永久磁石11側において、表面12aから外周面15に向って延在する、とも把握でき、表面13dは表面13aと繋がって外周面15側で周方向に沿って延在する、とも把握できる。また
図2の例示では、表面13b〜13dは軸方向に沿って見て直線である。
【0039】
なお
図1,2の例示では、磁極面の境界(以下、極間とも呼ぶ)側において隣り合う第二孔部13同士の間(表面13c同士の間)には界磁子用コア10の一部が介在している。このコア部にはいわゆるq軸の磁束の一部が通るのでq軸のインダクタンスを向上することができる。ひいてはリラクタンストルクを向上することができる。
【0040】
また
図1,2の例示では、界磁子用コア10のうち永久磁石11に対して外周側のコア部と、第二孔部13同士の間のコア部とが外周側において互いに連結される。これにより、たとえ第二孔部13に非磁性体材料が充填されない場合であっても界磁子用コア10の強度を向上することができる。なお第二孔部13と外周面15との間のコア部の径方向における幅は、当該コア部が容易に磁束飽和する程度に狭いことが望ましい。当該コア部を経由して永久磁石11の外周側の表面と内周側の表面との間で磁束が短絡することを抑制することができるからである。
【0041】
図3の例示では、
図2の界磁子1と比較して、第二孔部13が第一孔部12と周方向で離間している。言い換えれば、第二孔部13と第一孔部12との間に界磁子用コア10の一部が介在している。これにより、たとえ第二孔部13に非磁性体材料が充填されない場合であっても界磁子用コア10の強度を向上することができる。
【0042】
図4の例示では、
図2の界磁子1と比較して、第二孔部13が表面13dを有していない。表面13aは、表面13cの外周側の端から表面12aへと延在している。
【0043】
もちろん、第二孔部13の形状は上述した例に限るものではなく、永久磁石11の外周側の磁極面と内周側の磁極面との間で磁束が短絡することを抑制することが可能な任意の形状を有していればよい。ただし、本実施の形態では表面13aは磁極中心側に膨らむ曲線に沿う形状を有する。
【0044】
再び
図1を参照して、電機子3はバックヨーク31と3n個のティース33と電機子巻線35とを備えている。バックヨーク31は軟磁性体(例えば鉄)で形成され、例えば回転軸Pを中心とした環状の形状を有している。3n個のティース33は軟磁性体(例えば鉄)で形成され、回転軸Pを中心として放射状に配置されている。バックヨーク31は界磁子1とは反対側で3n個のティース33の一端同士を磁気的に連結する。
【0045】
電機子巻線35は径方向を軸としてティース33に例えば集中巻きで巻回される。なお本願では特に断らない限り、電機子巻線は、これを構成する導線の一本一本を指すのではなく、導線が一纏まりに巻回された態様を指す。これは図面においても同様である。また、巻き始め及び巻き終わりの引き出し線、及びそれらの結線も図面においては省略した。
【0046】
かかる回転電機において、電機子巻線35に適切に電流を流すことで、電機子3は界磁子1へと回転磁界を印加することができる。これにより界磁子1は当該回転磁界に応じて回転する。換言すれば、界磁子1が回転子として機能し、電機子3は固定子として機能する。
【0047】
次に
図5も参照して、ティース33の形状について更に詳細に説明する。
図5は、一つのティース33とこれと対面する界磁子1の一部とを模式的に示している。
【0048】
ティース33は延在部331と鍔部332とを有している。延在部331はバックヨーク31から回転軸Pへと径方向に沿って界磁子1側へと延在し、電機子巻線35が巻回される。鍔部332はバックヨーク31とは反対側で延在部331と連続している。鍔部332は延在部331から周方向の互いに反対側に延在する。鍔部332によって例えば電機子巻線35の巻崩れを抑制できる。
【0049】
ティース33の界磁子1との対向面は、延在部331の界磁子1側の面と鍔部332の界磁子1側の面とによって形成され、図の例示では回転軸Pを中心とした円弧に沿う形状を有している。
【0050】
さてティース33の形状、より詳細には鍔部332の電機子巻線35側の表面333の形状を特定するために、次の位置関係で界磁子1と電機子3とが対向する状態を考慮する。即ち
図5に例示するように、ティース33の一つの周方向における中心(以下、ティース中心と呼ぶ)と、周方向における磁極面の境界(極間)の一つとが、周方向において一致する状態を考慮する。
【0051】
この状態において鍔部332の電機子巻線35側の表面333と、表面13aの周方向における中点M1に接する接線B1及び表面12aの組との間の距離dxは、表面333のうち延在部331とは反対側の端部334において最小値d0を採る。なお接線B1及び表面12aの組は、接線B1のうち接線B1と表面12aとの交点に対して極間側の部分と、表面12aのうち当該交点に対して磁極中心側の部分とを含む部分である、と把握しても良い。
【0052】
これにより、表面333と、接線B1および表面12aの組との間の距離を最小値d0以上に確保することができる。さて表面333と接線B1および表面12aの組との間の部分はq軸の磁束の一部が流れる磁路として機能する。なお、q軸の磁束は磁極中心において周方向に流れ極間において径方向に流れる。
図2の例示ではこのq軸の磁束の一部の一例が太線の矢印で示されている。したがって、q軸の磁束は第一孔部12の磁極中心側では主として表面12aに沿って流れ、第二孔部13の近傍では主として接線B1に沿って流れる。
【0053】
本回転電機によれば、表面333と接線B1及び表面12aの組との間の磁路の幅を最小値d0以上に確保することができるので、ティース33の鍔部332における磁束飽和を抑制することができる。ひいてはq軸インダクタンスの低下を抑制してリラクタンストルクの低下を抑制することができる。
【0054】
なお既に上述したようにスロット数が極数以上である回転電機においては、ティースの鍔部の磁束飽和を抑制しようとする必要性が非常に小さい。よって従来ではティースの鍔部の磁束密度を抑制しようとする指向はなかった。一方、本実施の形態のように極数とスロット数との比が4対3である本回転電機において、上述の関係を満たすティースを採用することで、従来は着目されていないティースの鍔部の磁束密度を低減することができ、本回転電機において問題となるティースの鍔部における磁束飽和を抑制できるのである。
【0055】
また
図5の例示では、鍔部332の表面333は軸方向に沿って見て直線形状を有している。よって製造が容易であり、また電機子巻線35側に突出しないので、軸方向に見て、電機子巻線35が巻回される面積(以下、スロット面積と呼ぶ)を低減させにくい。したがって、例えば同じ巻数で巻線を巻回する場合に巻線としてより太い導線を採用することができる。よって銅損の発生を抑制できる。
【0056】
また表面333と延在部331との交点335においても、表面333と、接線B1及び表面12aの組との間の距離dxが最小値d0を採ることが望ましい。これは次の理由による。即ち、例えば交点335がよりバックヨーク31側に存在すれば、鍔部332が空間的に電機子巻線35側に広がり、スロット面積を低減させる。よって、交点335においても距離dxが最小値d0を採ることで、d軸の磁路の幅の確保に資すると共に、スロット面積の確保にも資することができる。したがって銅損を抑制することができる。
【0057】
図6の例示では、ティース33の延在部331の周方向における幅W1が距離D1よりも小さい。距離D1は、周方向で互いに隣り合う第一孔部12に属する表面12aの周方向における端同士の、極間側の間の距離である。この場合、表面333と接線B1との距離を最小値d0以上にするためには、交点335がよりバックヨーク31側に位置するように表面333の傾斜を決定する必要がある。なぜなら、接線B1と外周面15との距離は、極間側に向うに従って小さくなるからである。なお
図6の例示では、表面333と接線B1とが互いに平行である。これにより、設計に際して表面333を容易に決定することができる。
【0058】
図7の例示では、幅W1が距離D1よりも大きい。この場合、交点335がバックヨーク31から離れていても、距離dxが端部334において最小値を採る表面333を採用することができる。これは、
図6と比較して、交点335が周方向において第二孔部13と離れるので、その分、交点335を界磁子1側に近づけても交点335と接線B1との間の距離を最小値d0以上に確保できるからである。
【0059】
図7の例示では、第一孔部12の表面12aと平行な場合の交点335よりもバックヨーク側に交点335が設けられている。なお交点335と接線B1との間の距離は最小値d0以上であり、
図7の例示では交点335と接線B1との間の距離は最小値d0である。よってq軸の磁路の幅を確保することができるとともに、スロット面積を比較的大きくすることができる。
【0060】
図8の例示にかかる回転電機は、表面333の傾斜という点を除いて
図7の回転電機と同一である。
図8の例示では、表面333が接線B1と平行である。これによっても、表面333と接線B1及び表面12aの組の距離は最小値d0以上であるので、q軸の磁路を確保できる。
【0061】
なお端部334の位置を固定した表面333の傾斜は、
図7の表面333と
図8の表面333との間で設定されてもよい。これによって、スロット面積が
図8のスロット面積よりも低減することを回避できる。
【0062】
図9の例示では、軸方向に沿って見て、表面333は電機子巻線35側に膨らむ曲線に沿う形状を有している。これによっても、表面333の端部334において距離dxが最小値d0を採ることで、q軸の磁束が流れる磁路の幅を確保することができる。また表面333が直線形状を有する場合に比して、当該磁路の幅をより広く確保することができる。
【0063】
また
図9の例示では、表面333は軸方向に沿って見て円弧に沿う形状を有している。表面333が沿う円弧の中心は、表面13aが沿う円弧の中心と同じであってもよい。これによれば、設計の際に円弧を決定しやすい。
【0064】
図10に例示するように、電機子3は、インシュレータ36を更に備えていても良い。インシュレータ36は絶縁性を有し、介在部361と支持部362とを有している。介在部361は軸方向から見た電機子巻線35とティース33との間及び電機子巻線35とバックヨーク31との間に介在する。これにより、電機子巻線35からティース33又はバックヨーク31へと電流が漏れることを抑制できる。また支持部362は介在部361のうち電機子巻線35と鍔部332との間の部分から延在部331とは反対側に延在する。これによって、電機子巻線35が鍔部332の端部334よりも周方向外側まで巻回されたとしても、支持部362が径方向で電機子巻線35を支持することができる。したがって、軸方向に沿って見て電機子巻線35が占める面積を増大することができ、ひいては銅損を低減することができる。
【0065】
なお支持部362は非磁性であり、軟磁性体であるティースと区別される。したがって例えば支持部362と第一孔部12との間の距離は最小値d0よりも小さくても構わない。
【0066】
またインシュレータ36は
図10の電機子3に限らず、
図2の電機子3が有していても良い。ただし、
図10に例示するように、表面333が表面13a,13dの交点を中心とした円弧形状を有していれば、スロット面積が比較的小さい。よって、インシュレータ36を設けることによるスロット面積の拡大量は大きい。