特許第5884488号(P5884488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884488
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20160301BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20160301BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20160301BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20160301BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20160301BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/133
   H01M4/136
   H01M4/58
   H01M4/587
   H01M4/36 E
   H01M10/48 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-699(P2012-699)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-140734(P2013-140734A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 丈
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/027503(WO,A1)
【文献】 特開2001−307717(JP,A)
【文献】 特開2005−340152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/136
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 4/587
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質を含む正極と、
開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するとともに、ホウ素を含有する黒鉛とホウ素を含有しない黒鉛とを含む負極とを備え、
前記ホウ素を含有する黒鉛と前記ホウ素を含有しない黒鉛との混合比率は、前記正極の平坦領域充電深度では前記負極の傾斜領域が存在するとともに、前記正極の傾斜領域充電深度では前記負極の平坦領域が存在するような混合比率である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極の平坦領域と傾斜領域との変化点Aと、前記正極の充電終止点との間の充電深度に、前記負極の傾斜領域と平坦領域との変化点Bが存在する、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ホウ素を含有する黒鉛と前記ホウ素を含有しない黒鉛との質量比率が30/70以上90/10以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質を含む正極と、
開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するとともに、ホウ素を含有する黒鉛とホウ素を含有しない黒鉛とを含む負極とを備え、
前記ホウ素を含有する黒鉛と前記ホウ素を含有しない黒鉛との混合比率は、前記正極の傾斜領域の充電深度で前記負極の傾斜領域が存在し、かつ、前記正極の充電終止点の充電深度が前記負極の傾斜領域に存在するような混合比率である、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の電極については、従来より種々の提案がなされている。(たとえば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
上記特許文献1では、0.1〜10質量%のホウ素を含有したホウ素添加グラファイトや、ホウ素添加ハードカーボンを負極に用いたリチウムイオン電池が開示されている。特許文献1には、ホウ素添加炭素を負極に用いることによって、負極電位が一般的な黒鉛に比べて上昇し、負極表面への金属リチウムの析出を抑制することができることが記載されている。
【0004】
上記特許文献2では、Fe、Ni、Mn、CoおよびMgのうち2種以上の金属元素からなるオリビン系正極と、ソフトカーボンからなる負極とを用いたリチウムイオン電池が開示されている。この特許文献2では、オリビン系正極を2種以上の金属元素から形成することにより、正極の電位曲線に2段階の平坦領域(プラトー領域)を設けている。
【0005】
上記特許文献3では、集電体側のメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からなる層と、表面側の0.05質量%のホウ素を含有した黒鉛からなる層との2層構造を有する負極を用いたリチウムイオン電池が開示されている。この特許文献3には、MCMBの開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有していることが開示されている。
【0006】
上記特許文献4では、低結晶性炭素で被覆した被覆黒鉛50質量%と、ホウ素を0.014質量%含有させたホウ素含有黒鉛50質量%とを混合して形成した負極を用いたリチウムイオン電池が開示されている。この特許文献4には、ホウ素含有黒鉛によって充電時の負極の開回路電位が相対的に高くなるのを、被覆黒鉛によって低くすることができることが記載されている。
【0007】
上記特許文献5では、コークス、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料を負極に用いて、充電状態における炭素材料の単位重量当たりの充電電気量の変化に対する開回路電位の傾きと、その炭素材料の真密度とを所定の範囲内に設定したリチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−335167号公報
【特許文献2】特開2009−104983号公報
【特許文献3】特開2001−307717号公報
【特許文献4】特開2007−122975号公報
【特許文献5】特開2007−265831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池では、電池電圧に基づいて充電深度(SOC)が算出され、その充電深度に基づいて充放電が制御される。しかしながら、上記特許文献2に開示されたオリビン系正極および上記特許文献3に開示されたMCMBや一般的な黒鉛を用いた負極は、両方ともに電位曲線に広い範囲の平坦領域が存在するため、これら正極および負極を用いた電池では、充電深度の広い範囲で電池電圧が一定となる。一般的には、電池の充電深度は電池電圧から算出されることが多く、電池電圧が傾斜を有していると充電深度を算出し易くなる。しかしながら、充電深度の広い範囲で電池電圧が一定である、つまり、電池電圧が平坦である電池では、電池電圧の違いに基づく充電深度の算出が困難となり、さらには、充電深度に基づく充放電の制御が困難になるという問題があった。
【0010】
これに対して、上記特許文献1に開示されたホウ素添加炭素からなる負極はなだらかな傾斜の電位曲線を有しているので、この炭素を負極に用いた電池では電池電圧に基づく充電深度の算出が容易となる。しかしながら、ホウ素添加をしていない炭素と比較してホウ素添加炭素からなる負極は高い電位を有しているため、電池のエネルギー密度が低下するという問題点が生じる。また、電位曲線に傾斜を有する難黒鉛化炭素や易黒鉛化炭素などを負極として用いた電池においても電池電圧に基づく充電深度の算出が容易となるが、これら炭素は黒鉛と比較して充放電容量が小さく、かつ、負極電位も高いため、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0011】
上記特許文献2に開示のオリビン系正極活物質は他の正極活物質と比較して熱安定性が高く、電池の高安全化を図ることができる。一方、このオリビン系正極を用いた電池では、高いエネルギー密度、および充電深度の広い範囲での充放電制御の容易性が求められている。このような課題に対して、上記特許文献1〜5には具体的な解決手段が提示されていない。
【0012】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、オリビン系正極を用いた非水電解質二次電池において、高エネルギー密度を有しており、かつ、電池電圧に基づく充電深度の算出が容易である非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による非水電解質二次電池は、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO4(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質を含む正極と、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するとともに、ホウ素を含有する黒鉛(以下、「ホウ素含有黒鉛」とする)とホウ素を含有しない黒鉛(以下、「ホウ素非含有黒鉛」とする)とを含む負極とを備え、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率は、正極の平坦領域充電深度では負極の傾斜領域が存在するとともに、正極の傾斜領域充電深度では負極の平坦領域が存在するような混合比率である。
【0014】
ここで、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率とは、質量比率である。また、ここで、平坦領域とは、活物質の質量当り容量に対する開回路電位の変化が1mV/mAh・g−1未満の領域であり、傾斜領域とは、活物質の質量当り容量に対する開回路電位の変化が1mV/mAh・g−1以上の領域である。
【0015】
この発明の第1の局面による非水電解質二次電池では、上記の構成によって、負極電位の低い電位範囲で電位曲線に傾斜を設けることができるので、その負極を用いた電池では高い電池電圧の範囲で電池電圧に傾斜を設けることができる。その結果、電池電圧が高いことに起因して電池の高エネルギー密度化を図ることと、電池電圧に傾斜領域を設けることに起因して充電深度の算出が容易になることとを両立することができる。充電深度の算出が容易になることで、充放電の制御および電池残量の推定が容易となる。
【0016】
上記第1の局面による非水電解質二次電池において、好ましくは、正極の平坦領域と傾斜領域との変化点Aと、正極の充電終止点との間の充電深度に、負極の傾斜領域と平坦領域との変化点Bが存在する。このように構成すれば、充電終止点までの充電深度の全範囲で電池電圧に傾斜を設けることができる。
【0017】
上記第1の局面による非水電解質二次電池において、好ましくは、ホウ素を含有する黒鉛とホウ素を含有しない黒鉛との質量比率が30/70以上90/10以下である。このように構成すれば、負極の傾斜領域を拡大することができる。
【0018】
この発明の第2の局面による非水電解質二次電池は、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質を含む正極と、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するとともに、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛とを含む負極とを備え、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率は、正極の傾斜領域の充電深度で負極の傾斜領域が存在し、かつ、正極の充電終止点の充電深度が負極の傾斜領域に存在するような混合比率である。
【0019】
この発明の第2の局面による非水電解質二次電池では、上記のように、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率を、正極の傾斜領域の充電深度で負極の傾斜領域が存在し、かつ、正極の充電終止点の充電深度が負極の傾斜領域に存在するような混合比率にすることによって、正極の充電終止点までの全範囲にわたって確実に電池電圧に傾斜領域を設けることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記のように、電池電圧が高いことに起因して電池の高エネルギー密度化を図ることと、電池電圧に傾斜領域を設けることに起因して充電深度の算出が容易になることとを両立することが可能な非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態による電池の全体構成を示した断面図である。
図2】ホウ素を含有する黒鉛とホウ素を含有しない黒鉛との混合比率を変化させた場合の負極の開回路電位曲線を示した図である。
図3】本発明の実施例1〜3による電池の正極および負極の開回路電位曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態による電池1の構成について説明する。なお、電池1は、本発明の「非水電解質二次電池」の一例である。
【0024】
本発明の一実施形態による電池1は、図1に示すように、発電要素2を備えている。発電要素2は、正極3と負極4とセパレータ5とが巻回されることによって形成されている。正極3では、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔からなる正極集電体の両面に正極活物質を含有する正極合剤が塗布されている。負極4では、銅箔からなる負極集電体の両面に負極活物質を含有する負極合剤が塗布されている。
【0025】
また、発電要素2は、電池ケース6の内部に収納されているとともに、発電要素2が電池ケース6の内部に収納された状態で電池ケース6の開口部を塞ぐように、電池蓋7が電池ケース6に取り付けられている。発電要素2の正極3は電池蓋7に接続されているとともに、発電要素2の負極4は電池蓋7の負極端子8に接続されている。また、電池ケース6には、図示しない注液口が形成されている。その注液口を介して電池ケース6の内部に非水電解質を注入した後に、注液口を封止することによって、電池1が形成されている。
【0026】
本実施形態では、正極活物質には、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質が含まれており、負極活物質は、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合材料を含む。
【0027】
負極活物質に含まれるホウ素非含有黒鉛として、天然黒鉛、人造黒鉛、または、黒鉛以外の炭素材料で被覆した黒鉛材料(被覆黒鉛)などを用いてもよい。また、ホウ素含有黒鉛のホウ素の含有量については、本発明の作用効果を奏することができる限りにおいて特に限定されない。また、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合材料では、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛とが均一に混合されていてもよいし、ホウ素含有黒鉛からなる第1の層と、ホウ素非含有黒鉛からなる第2の層とに分かれていてもよい。この場合、第1の層を表面側(正極側)に配置し、第2の層を集電体側に配置するのが好ましい。
【0028】
本実施形態では、負極活物質のホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率は、正極の平坦領域が存在する充電深度では負極の傾斜領域が存在し、かつ、正極の傾斜領域が存在する充電深度では負極の平坦領域が存在するか、または、正極の充電終止点が負極の傾斜領域に存在するような混合比率(質量比率)に設定されている。具体的には、図2に示すように、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率によって、負極の開回路電位曲線における平坦領域および傾斜領域の範囲を調整することが可能である。なお、たとえば図2の「Bあり/Bなし=30/70」とは、負極活物質中のホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率(質量比率)が30:70であることを意味する。
【0029】
ここで、ホウ素非含有黒鉛のみ(Bあり/Bなし=0/100)を負極に用いた場合には、低い開回路電位(約0.08V)で広い平坦領域を有する。一方、ホウ素含有黒鉛のみ(Bあり/Bなし=100/0)を負極に用いた場合には、黒鉛のみの場合と比較して開回路電位が全体的に貴にシフトするとともに、開回路電位曲線が全体にわたってなだらかに傾斜する(平坦領域が存在しない)。ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛とを混合した場合には、その混合比率に応じて、低い開回路電位で平坦領域を有するホウ素非含有黒鉛の性質と、開回路電位が貴にシフトして傾斜領域が増大するホウ素含有黒鉛の性質との両方が現れる。すなわち、ホウ素含有黒鉛の割合を増加させるのに伴って、開回路電位曲線の平坦領域の範囲が狭くなるとともに、開回路電位が全体的に貴にシフトする。傾斜領域から平坦領域に変化する変化点B(B0〜B3)に着目すると、(Bあり/Bなし=0/100)の場合の変化点B0で約185mAh・g−1、(Bあり/Bなし=30/70)の場合の変化点B1で約245mAh・g−1、(Bあり/Bなし=50/50)の場合の変化点B2で約270mAh・g−1、(Bあり/Bなし=70/30)の場合の変化点B3で約305mAh・g−1となる。
【0030】
このように、ホウ素含有黒鉛の割合を増加させるのに伴って、傾斜領域から平坦領域に変化する変化点Bが充電深度の高い方向(図2および図3の右側)へシフトする。一方、ホウ素非含有黒鉛の割合が高いほど、負極の開回路電位が全体的に低く(卑に)なるため、電池電圧を高くして電池のエネルギー密度を高くすることができる。負極活物質のホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率を、正極の傾斜領域と平坦領域との関係に応じて上記のように調整することによって、電池電圧が高いことに起因して電池の高エネルギー密度化を図ることと、電池電圧に傾斜領域を設けることに起因して充電深度の算出が容易になることとを両立することができる。充電深度の算出が容易になることで、充放電の制御および電池残量の推定が容易となる。
【0031】
また、正極活物質には、開回路電位曲線が平坦領域と傾斜領域とを有するLiMPO(Mは金属の少なくとも一種)で表されるオリビン系正極活物質であれば、いかなる種類の活物質でも使用可能である。金属Mとしては、たとえばFe、Ni、Mn、Cu、CoおよびVなどの遷移金属が好ましい。
【0032】
本発明では、「ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率は、正極の平坦領域が存在する充電深度では負極の傾斜領域が存在するとともに、正極の傾斜領域が存在する充電深度では負極の平坦領域が存在するような混合比率である」構成を有する。この構成を実現する方法としては、電池内の正極活物質と負極活物質との質量比率を設定した後に、負極活物質内のホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合比率を調整する方法がある。つまり、この方法では正極の平坦領域と傾斜領域との変化点を把握してから、その正極の変化点に合わせて負極の平坦領域と傾斜領域との変化点を調整する。
【0033】
本発明では、正極の平坦領域と傾斜領域との変化点Aと、正極の充電終止点との間の充電深度に、負極の傾斜領域と平坦領域との変化点Bが存在することが好ましい(図3参照 実施例1)。この形態では、負極の変化点Bが正極の充電終止点を越える形態(図3 実施例3)と比較して負極電位を低くすることができるとともに、充電深度の全範囲において正極および負極の少なくとも一方の傾斜領域を設けることができる。また、本実施形態では、正極の変化点Aと負極の変化点Bとが同一の充電深度に存在してもよいし、負極の変化点Bが正極の変化点Aより低い充電深度(図2および図3の左側)に存在してもよい(図3 実施例2)。また、正極の充電終止点より高い充電深度(図2および図3の右側)に負極の変化点Bが存在してもよい(図3 実施例3)。この形態では、負極電位が若干高くなるものの、負極電位に基づいて、充電深度の全範囲の電池電圧に傾斜領域を設けることができる。
【0034】
なお、正極合剤および負極合剤には、必要に応じて、導電助剤、結着剤および粘度調整剤などを含有させてもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック(AB)、カーボンブラックなどを用いることが可能である。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリアクリロニトリルなどを単独または混合して用いることが可能である。また、粘度調整剤としては、N−メチルピロリドン(NMP)などを用いることが可能である。
【0035】
電池1のセパレータ5としては、不織布および合成樹脂微多孔膜などを用いることが可能である。なお、加工のしやすさおよび耐久性向上の観点から、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなるポリオレフィン系微多孔膜を用いることがより好ましい。
【0036】
また、電池1の非水電解質には、電解質塩を非水溶媒に溶解させたものを用いる。非水電解質の電解質塩としては、LiClO、LiPF、LiBFなどを用いることが可能である。また、上記電解質塩を単独または2種以上混合して用いることも可能である。なお、導電性向上の観点から、電解質塩としてLiPFを用いることが好ましい。
【0037】
非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネートおよびジブチルカーボネートなどを用いることが可能である。また、非水溶媒は、非水電解質の導電性や粘度を調整するという観点から、上記した複数の非水溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0038】
[実施例]
次に、本発明の効果を確認するために行った非水電解質二次電池の評価試験について説明する。具体的には、図1に示した上記実施形態に対応する実施例として、以下の実施例1〜3による電池1を作製した。
【0039】
(実施例1)
(1)正極板の作製
正極活物質としてLiFePO、導電助剤としてアセチレンブラックおよび結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、正極活物質、導電助剤および結着剤の比率をそれぞれ88質量%、6質量%および6質量%とした混合物にNMP(N−メチルピロリドン)を適量加えて粘度を調整した正極合剤スラリーを作製した。この正極合剤スラリーを厚み20μmのアルミニウム箔の両面に塗布して乾燥させることにより正極3を作製した。正極3には正極合剤が塗布されていないアルミニウム箔が露出した部位を設け、アルミニウム箔が露出した部位と正極リードとを接合した。なお、電池内の正極活物質と負極活物質との質量比率が正極活物質:負極活物質=1.8:1.0となるように、正極合剤および負極合剤の塗布質量を定めた。
【0040】
(2)ホウ素含有炭素の作製
ホウ素含有炭素の合成方法は以下のとおりである。ピッチコークスとホウ酸とを所定比率で混合し、その混合物をアルゴン気流中1000℃まで加熱して1000℃で10時間保持した後に、さらに2400℃まで加熱して2400℃で20時間保持した。その後、室温まで冷却して粉砕することで、ホウ素の含有量が0.05質量%であるホウ素含有炭素を得た。なお、ホウ素含有炭素におけるホウ素の含有量は0.01質量%〜1.0質量%が好ましい。
【0041】
(3)負極板の作製
負極活物質としてホウ素含有黒鉛50質量%とホウ素非含有黒鉛50質量%とを含む混合材料(Bあり/Bなし=50/50)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、負極活物質および結着剤をそれぞれ90質量%および10質量%とした混合物にNMPを適量加えて粘度を調整した負極合剤スラリーを作製した。この負極合剤スラリーを厚み15μmの銅箔の両面に塗布して乾燥させることにより負極4を作製した。負極4には負極合剤が塗布されていない銅箔が露出した部位を設け、銅箔が露出した部位と負極リードとを接合した。
【0042】
(4)未注液二次電池の作製
作製した正極3と負極4との間にポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ5を介在させて、正極3と負極4とを巻回することにより発電要素2を作製した。発電要素2を電池ケース6の開口部から電池ケース6内に収納して、正極リードを電池蓋7に接合し、負極リードを負極端子8に接合した後に、電池蓋7を電池ケース6の開口部に嵌合させてレーザー溶接で電池ケース6と電池蓋7とを接合することによって非水電解質が電池ケース6内に注液されていない未注液状態の電池を作製した。
【0043】
(5)非水電解質の調製および注液
エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:2:5(体積比)の混合溶媒にLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を調製した。この非水電解質を電池ケース6の側面に設けた注液口から電池ケース6の内部に注液した後に、注液口を栓で封口することで実施例1の電池1を作製した。
【0044】
(実施例2)
負極活物質としてホウ素含有黒鉛30質量%とホウ素非含有黒鉛70質量%とを含む混合材料(Bあり/Bなし=30/70)を用いたこと以外は実施例1と同様の電池1を作成した。
【0045】
(実施例3)
負極活物質としてホウ素含有黒鉛70質量%とホウ素非含有黒鉛30質量%とを含む混合材料(Bあり/Bなし=70/30)を用いたこと以外は実施例1と同様の電池1を作成した。
【0046】
(6)初期容量の確認試験
各電池を用いて、以下の充放電条件にて初期放電容量確認試験をおこなった。25℃において450mAの定電流で3.5Vまで充電し、さらに3.5Vで定電圧にて充電し、定電流充電および定電圧充電を含めて合計3時間充電した。充電後に450mAの定電流にて2.0Vの放電終止電圧まで放電をおこない、この放電容量を「初期容量」とした。
【0047】
(7)正極板および負極板の開回路電位測定
各電池の電池ケースの側面に孔を設けて、セパレータで被覆したリチウム金属からなる参照極を挿入し、参照極と電解液とを接触させて正極および負極の電位を測定した。具体的には、放電状態から充電深度の1%を450mAの定電流で充電した後に休止1時間を設けて正極および負極の開回路電位を測定した。この充電、休止および電位測定のサイクルを充電深度100%まで実施した。
【0048】
実施例1〜3による正極および負極の開回路電位の測定結果を図3に示す。図3に示したように、実施例1(Bあり/Bなし=50/50)では、負極の変化点Bが正極の変化点Aと正極の充電終止点との間に存在している。実施例1の形態では、正極電位および負極電位の少なくとも一方の傾斜領域に起因して、使用される充電深度の全範囲に亘って電池電圧に傾斜領域を設けることができる。ここで、「使用される充電深度」とは放電終止電圧から充電終止電圧までの電池の充電深度であり、本実施例における図3の横軸では正極電位と負極電位との電位差が2.0Vと3.5Vと間の充電深度である。また、図2から明らかなように、実施例1では、ホウ素含有黒鉛(比較例2)と比較して負極の開回路電位が全体として低いため、電池電圧を高くすることが可能である。これにより、実施例1では、電池の高エネルギー密度化を図ることができる。
【0049】
実施例2(Bあり/Bなし=30/70)では、負極の変化点Bが正極の変化点Aより低い充電深度に存在する。また、実施例2の形態では、正極の変化点Aから充電深度の低い方向に正極の平坦領域の1/10以下の範囲内に、負極の変化点Bの存在することが好ましい。実施例2の形態では、正極の平坦領域の大部分が負極の傾斜領域となるため、使用される充電深度の広い範囲で電池電圧に傾斜領域を設けることができる。
【0050】
また、図2から明らかなように、ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との混合材料においてホウ素非含有黒鉛の質量比率を大きくすることによって、負極電位をより低くすることができる。その結果、電池電圧を高くして電池のエネルギー密度を図ることができる。
【0051】
実施例3(Bあり/Bなし=70/30)では、負極に変化点Bが正極の充電終止点より高い充電深度に存在する。実施例3の形態では、ホウ素含有黒鉛の質量比率が大きいために負極電位が実施例1および実施例2のそれらより高くなり、電池のエネルギー密度が若干小さくなるが、正極終止点Eより高い充電深度まで負極電位の傾斜領域が存在するので、使用される充電深度の全範囲で電池電圧に傾斜領域を設けることができる。
【0052】
また、ハイブリッド自動車などの自動車用途では、回生エネルギーによって大電流での充電が行われたときに、分極が大きくなり一時的に負極電位が大きく降下する。負極電位がリチウムの析出電位よりも低下すると金属リチウムが負極表面に析出するおそれがある。これに対して、実施例3では、充電終止時の負極電位が、平坦領域よりも高い電位である傾斜領域に存在する。充電終止時の負極電位を高くすることで、負極電位がリチウムの析出電位より下回りにくくして、大電流での充電によって生じる金属リチウムの析出を抑制することができる。
【0053】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0054】
たとえば、上記実施例では、電池内の正極活物質と負極活物質との質量比率が正極活物質:負極活物質=1.8:1.0となるようにした。それ以外に、電池内の正極活物質と負極活物質との質量比率を変更することで正極の変化点Aと負極の変化点Bとの充電深度の位置の関係を調整することができる。たとえば、実施例1においては、正極活物質の質量比率を大きくすることで正極の変化点Aをより高い充電深度(図3の右側)にシフトすることができ、正極の変化点Aを負極の変化点B2よりも高い充電深度の存在させることができる。ホウ素含有黒鉛とホウ素非含有黒鉛との質量比率を変更することで正極の変化点Aと負極の変化点Bとの充電深度の位置の関係を調整する形態だけではなく、上記のように電池内の正極活物質と負極活物質の質量比率を変更することによっても正極の変化点Aと負極の変化点Bとの充電深度の位置の関係を調整することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 電池(非水電解質二次電池)
3 正極
4 負極
図1
図2
図3