(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の局在型表面プラズモンを利用した光増強素子による光増強技術は、実用的にはいまだ不十分であり、励起光として高出力かつ大型のレーザー光を照射しなければ、十分な強度の測定光(例えば蛍光やラマン散乱光)を得ることができないなどの問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、十分に高い光増強効果の得られる光増強素子およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光増強素子は、基板と、この基板の表面上に形成された誘電体層と、この誘電体層の表面上に形成された、互いに独立した多数の金属微粒子による増強電磁場形成層とよりなり、
当該増強電磁場形成層を構成する金属微粒子は、粒径が10nm以上80nm未満の範囲内にある小径金属微粒子と、粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある大径金属微粒子とを含み、
個数基準のヒストグラムにおいて、前記小径金属微粒子に係るピークが20〜40nmの範囲内に存在し、前記大径金属微粒子に係るピークが90〜120nmの範囲内に存在し、当該大径金属微粒子は、前記小径金属微粒子群中に散在していることを特徴とする。
【0008】
本発明の光増強素子においては、前記大径金属微粒子および前記小径金属微粒子が相互に離間して前記誘電体層の表面が露出された構成とされていることが好ましい。
また、本発明の光増強素子においては、前記大径金属微粒子の各々の周囲に、複数の前記小径金属微粒子が存在する構成とされていることが好ましい。
【0009】
本発明の光増強素子においては、前記誘電体層が光透過性を有するものであり、
前記基板と前記誘電体層との間に、さらに高反射層を備えた構成とされていることが好ましい。
【0010】
本発明の光増強素子の製造方法は、上記の光増強素子を製造する方法であって、
増強電磁場形成層が、
金属膜を形成し、当該金属膜を加熱処理することによって粒子化させることにより、粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある大径金属微粒子を誘電体層の表面上において散点状に形成する大径金属微粒子形成過程、および、
金属膜を形成し、当該金属膜を加熱処理することによって粒子化させることにより、当該誘電体層の表面における隣接する大径金属微粒子間に、粒径が10nm以上80nm未満の範囲内にある小径金属微粒子を形成する小径金属微粒子形成過程が行われることによって形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光増強素子によれば、増強電磁場形成層を構成する金属微粒子が、粒径が比較的小さい多数の小径金属微粒子と粒径が比較的大きい少数の大径金属微粒子とを含み、大径金属微粒子が、小径金属微粒子群中に散在した構成とされていることにより、増強電磁場形成層を構成する各金属微粒子の近傍位置において強い増強電磁場を形成することができるので、十分に高い光増強効果が得られる。
【0012】
また、誘電体層が光透過性を有し、誘電体層と基板との間に高反射層が介在された構成とされていることにより、励起用光源から入射される励起光を受けた金属微粒子から増強電磁場形成層の裏面側に放出される光が高反射層によって反射されて当該反射光も励起光として金属微粒子に入射させることができるので、各金属微粒子の近傍位置に形成される増強電磁場が一層強められ、一層高い光増強効果を得ることができる。
【0013】
本発明の光増強素子の作製方法によれば、上記効果が発現される光増強素子を確実に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の光増強素子の一例における構成の概略を示す模式図である。
この実施の形態に係る光増強素子10は、例えば平板状の基板15と、この基板15の表面上に形成された高反射層20と、この高反射層20の表面上に形成された誘電体層30と、この誘電体層30の表面30A上に形成された多数の金属微粒子による増強電磁場形成層40とを含む多層構造を有する。この光増強素子10は、例えば、金属微粒子の表面上に直接あるいはスペーサーを介して担持させたラマン活性化学種に対する励起光照射によるラマン散乱光を増強させるもの、あるいは、増強電磁場形成層40(金属微粒子)の表面上に直接あるいはスペーサーを介して担持させた発光性化学種に対する励起光照射による発光(例えば蛍光)を増強させるものである。
【0016】
基板15の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、金属などを例示することができる。後述するように、光増強素子10の作製工程において加熱処理(例えば200℃以上の加熱)が行われる場合には、例えばガラス、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有するものであることが好ましい。
また、基板15の高反射層20側の表面は、平面である必要はなく、例えば曲面、小球面などとされていてもよい。
【0017】
高反射層20は、例えば、可視領域全域、または少なくとも500nm以上の波長領域、具体的には、発光性化学種およびラマン活性化学種などの分析対象物を励起させる励起光の波長域で高い反射率を有する材質であることが好ましく、具体的には例えば、銀、金、アルミニウムあるいは銅を例示することができる。
高反射層20の厚みは、可視領域全域または500nm以上の波長領域で90%以上の反射率が得られる大きさであることが好ましい。
また、高反射層20における誘電体層30側の表面は、光学的に平滑な面であってもよいが、粗面とされていることが好ましい。具体的には例えば、表面粗さRaが10〜30nm程度である荒れた面であることが好ましい。これにより、一層高い光増強効果が得られる。
【0018】
誘電体層30は、励起光に対して光透過性を有する材料により構成されており、後述するように、光増強素子10の作製工程において加熱処理(例えば200℃以上の加熱)が行われる場合には、耐熱性を有する材料により構成されていることが好ましい。具体的には例えば、酸化珪素を主成分としたSOG(スピンオングラス)材料、テトラエトキシシラン(TEOS)およびジメチルシロキサンなどのシロキサン系材料などを例示することができる。また、誘電体層30がSOG材料を焼成して得られる焼成体(SOG膜)により構成されている場合には、SOG膜の表面は比較的強い疎水性を有するため、必要に応じてアルカリ処理もしくはプラズマ処理による親水化処理がなされたものであることが好ましい。
誘電体層30の厚みは、例えば50nm以上であることが好ましく、より好ましくは60〜90nmである。誘電体層30の厚みが過小である場合には、十分な光増強効果を得ることができない。
【0019】
増強電磁場形成層40は、例えば積重されていない多数の金属微粒子により構成されていることが好ましい。
増強電磁場形成40を構成する金属微粒子としては、例えば銀を好適に用いることができるが、励起光の照射により励起されて表面プラズモンを励起しうるものであればよく、例えば金、銅などが用いられてもよい。
金属微粒子の形状としては、例えば扁平な球形状、平板状の形状など、形状異方性を有するものを好適に用いることができる。
【0020】
増強電磁場形成層40を構成する金属微粒子としては、粒径が励起光の波長以下の大きさのものが好適に用いられる。ここに、本明細書において「粒径」とは、顕微鏡法による投影面積円相当径をいう。具体的には、次のようにして求められる。すなわち、光増強素子(増強電磁場形成層40)の表面における任意に選ばれる領域について、長さ2μmの線分が長さ6cmに拡大(倍率30K倍)されるよう観察される走査型顕微鏡の視野領域(例えば1.5μm×2μm)を撮像領域として、光増強素子10における当該領域の二次電子像を得、明るさの指標(256段階)が100程度以上の金属微粒子の各々について、金属微粒子の面積と同一面積の真円の直径が当該金属微粒子の粒径として取得される。
【0021】
而して、上記の光増強素子10における増強電磁場形成層40は、当該増強電磁場形成層40を構成する金属微粒子の粒径を横軸にとり、この横軸を10nm間隔で複数の階級に分けた個数基準の粒径分布を示すヒストグラムを作成したとき、粒径が10nm以上80nm未満の範囲内と、粒径が80nm以上300nm以下の範囲内とにそれぞれピーク(P1,P2)が存在する2山分布となる粒径分布を有する金属微粒子、すなわち、粒径が10nm以上80nm未満の範囲内にある比較的粒径の小さい小径金属微粒子51Aおよび粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある比較的粒径の大きい大径金属微粒子51Bにより構成されている(
図3参照。)。
ここに、個数基準のヒストグラムにおいて、小径金属微粒子51Aに係るピークは、例えば20〜40nmの範囲内、大径金属微粒子51Bに係るピークは、例えば90〜120nmの範囲内に存在することが好ましい。
【0022】
この光増強素子10における増強電磁場形成層40は、
図2に示すように、誘電体層30の表面30Aにおいて、大径金属微粒子51Bが小径金属微粒子51A群中に散在するよう、各金属微粒子が互いに接触することなく独立した状態で分布されて構成されている。具体的には、大径金属微粒子51Bおよび小径金属微粒子51Aが相互に離間して誘電体層30の表面30Aが露出される状態で、各々の大径金属微粒子51Bの周囲に、複数の小径金属微粒子51Aが存在するよう構成されている。なお、
図2においては、便宜上、大径金属微粒子51Bに斜線が付してある。
増強電磁場形成層40を構成する金属微粒子における大径金属微粒子51Bと小径金属微粒子51Aとの個数比(大径金属微粒子51B:小径金属微粒子51A)は、例えば1:10〜1:200であることが好ましく、また、例えば直径1μmの円領域内に存在する大径金属微粒子51Bの個数は、5〜100個であることが好ましい。大径金属微粒子51Bがこのような散在状態で分布した構成とされていることにより、所期の光増強効果を確実に得ることができる。
また、隣接する金属微粒子間の間隔は、いわゆる「ギャップモード」による増強効果の得られる当該間隔より大きいことが好ましく、例えば10〜80nmである。
【0023】
上記の光増強素子10における増強電磁場形成層40は、粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある大径金属微粒子51Bを誘電体層30の表面30A上において散点状に形成する大径金属微粒子形成過程、および、誘電体層30の表面30Aにおける隣接する大径金属微粒子51B間に、粒径が10nm以上70nm未満の範囲内にある小径金属微粒子51Aを形成する小径金属微粒子形成過程が例えばこの順で行われることによって(二段階で)形成される。
大径金属微粒子形成過程および小径金属微粒子形成過程は、いずれも、例えば誘電体層30の表面30A(大径金属微粒子51Bが形成された状態を含む)上に金属膜を形成し、これを加熱処理することにより粒子化させるものであって、形成すべき金属微粒子の粒径は、加熱処理条件を適宜変更することにより調整することができる。
大径金属微粒子形成過程および小径金属微粒子形成過程において誘電体層の表面上に金属膜を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属微粒子が適宜の溶媒に分散された分散液をスピンコート法により塗布して加熱する方法、ディッピングして加熱する方法、あるいは、真空蒸着法やスパッタリングなどの物理的蒸着法などを好適に用いることができる。
【0024】
この光増強素子10を使用するに際しては、上述したように、分析対象物が、増強電磁場形成層40上、具体的には金属微粒子の表面上に直接あるいはスペーサーを介して担持される。ここに、分析対象物が例えば蛍光物質である場合には、蛍光物質の濃度が大きくなると、蛍光物質間で励起エネルギーが移動して非放射過程の確率が増し、蛍光の強さが減少してしまう(自己消光効果)。従って、自己消光効果をなるべく小さくするために、蛍光物質は可能な限り低濃度で(薄く)担持されることが望ましい。一方、分析対象物がラマン活性化学種である場合には、高いS/N比のラマン信号が得られることから、分析対象物が金属微粒子の表面上に直接担持されることが望ましい。
そして、励起光照射により分析対象物から発せられる蛍光またはラマン散乱光を適宜の分光器により検出することにより分光分析が行われる。
【0025】
スペーサーは、金属微粒子の表面と分析対象物との間の距離を調整するためのものであり、例えばSOG膜などの誘電体により構成することができる。
スペーサーの厚みは、例えば10nm以下であることが好ましく、特に1nm程度、あるいはそれ以下である場合に、光増強効果が最大となる。
【0026】
而して、上記の光増強素子10によれば、増強電磁場形成層40を構成する金属微粒子が、比較的粒径の小さい多数の小径金属微粒子51Aと比較的粒径の大きい少数の大径金属微粒子51Bとを含み、大径金属微粒子51Bおよび小径金属微粒子51Aが相互に離間して誘電体層30の表面30Aが露出される状態で、各々の大径金属微粒子51Bの周囲に、複数の小径金属微粒子51Aが存在するよう、大径金属微粒子51Bが小径金属微粒子51A群中に散在した構成とされていることにより、後述する実験例の結果に示されるように、金属微粒子の近傍において、増強電磁場形成層が小径金属微粒子または大径金属微粒子のいずれか単独の粒子で構成されたものより強い増強電磁場が形成されるので、十分に高い光増強効果が得られる。
【0027】
また、誘電体層30が光透過性を有し、誘電体層30と基板15との間に高反射層20が介在された構成とされていることにより、励起用光源から入射される励起光を受けた金属微粒子から増強電磁場形成層40の裏面側に放出される光が高反射層20によって反射されて当該反射光も励起光として金属微粒子に入射させることができるので、一層高い光増強効果を得ることができる。
【0028】
以下、本発明に係る光増強素子の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0029】
<実験例1>
〔光増強素子(10)の作製例1〕
図1に示す構成に従って、本発明に係る光増強素子を次のようにして作製した。
基板(15)として数cm角の大きさのスライドガラスを用い、このスライドガラスの表面上に、標準的な抵抗加熱型真空蒸着法により高反射層(20)としての銀膜を形成した。得られた銀膜の厚さは0.2μm以上で透過率は可視領域で実質的にゼロであった。また実測反射率は、可視領域のほぼ全域で98%以上の、バルク銀の光学定数を用いて理論的に計算した値と一致する、高い反射率を示すことがわかった。
次いで、市販のジメチルシロキサン溶液をエタノールで適宜希釈した溶液を、銀膜の粗面化された表面上に3000回転でスピンコートし、その後200〜250℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより誘電体層(30)としての誘電体膜(屈折率1.3〜1.4)を約80nmの厚みで形成した。そして、得られた誘電体膜の表面に対して、プラズマ処理による親水化処理を行った。
その後、保護膜フリー銀ナノ粒子(体積平均粒径約15nm)のアセトン分散液(濃度約0.4wt%)を誘電体膜の親水化処理した表面上に3000回転でスピンコートして大径金属微粒子形成用銀膜を形成し、その後約250℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより粒子化させて大径銀微粒子を形成した(大径金属微粒子形成過程)。次いで、ION SPUTTER装置「JFC−1100」(日本電子社製)を用いて、銀をターゲットとして下記条件でスパッタを行うことにより、大径銀微粒子が形成された誘電体膜の表面上に、小径金属微粒子形成用銀膜を堆積させ、約200℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより粒子化させて小径銀微粒子を形成し(小径金属微粒子形成過程)、これにより、増強電磁場形成層(40)としての、積重されていない多数の銀微粒子よりなる銀微粒子層(銀微粒子単層膜)を形成した。得られた銀微粒子層を構成する銀微粒子の個数基準の粒度分布を
図3に示す。
図3から明らかなように、この銀微粒子層は、銀微粒子の粒径が5〜200nmの広い範囲で存在しており、小径銀微粒子に係るピーク(最頻階級)P1が20〜30nm、大径銀微粒子に係るピーク(最頻階級)P2が100〜110nmであり、大径銀微粒子と小径銀微粒子との個数比(大径銀微粒子:小径銀微粒子)が1:50であった。
また、この銀微粒子層においては、1μmの円領域内に存在する大径銀微粒子の数が8〜16個、隣接する銀微粒子間の間隔は10〜50nm、大径銀微粒子の厚さが平均で約70〜80nm、小径銀微粒子の厚さが平均で約15〜30nmであった。
<スパッタ条件>
・ターゲットから誘電体膜の表面までの離間距離:40mm、
・雰囲気:Ar;0.15Torr、
・放電電流:9〜10mA、
・ターゲット電圧:−0.8kV、
・時間:6分程度
【0030】
〔試料(分析対象物)の担持〕
ローダミン6G(Rh6G)色素の希薄エタノール溶液を、作製した光増強素子における銀微粒子層の表面上に3000回転でスピンコートすることにより、色素分子を銀微粒子の表面上に担持させた。ここに、光増強素子の表面に担持される色素分子の密度とスピンコートに用いた溶液の色素濃度との関係は、ローダミン6Gの濃度が0.3mMである場合に、色素分子の担持量は7×10
13個/cm
2 である。
【0031】
〔ラマン散乱光の測定〕
上記のようにして作製した光増強素子について、励起光照射により試料(色素分子)から発せられるラマン散乱光(ラマン散乱強度)を
図4に示す構成の測定システムにより測定した。結果を
図5において曲線(A)で示す。
図4において、符号60は、ラマン散乱光の測定における励起用光源として用いた、出力1mW未満のHe−Neレーザー(波長632.8nm)であり、フィルタ61を介して非集光(エネルギー密度約300mW/cm
2 )もしくは反集光(デフォーカスされた,エネルギー密度約10mW/cm
2 以下)励起光として光増強素子10に照射する。励起用光源60よりの励起光は、光増強素子10に対して45°の入射角度で入射させ、光増強素子10に担持された色素分子による90°の角度方向に散乱されるラマン散乱光を、集光レンズ62によって、電子冷却型ダイオードアレイ検出器65の受光ヘッド64にフィルタ63を介して集光した。
【0032】
<比較実験例1>
〔比較用光増強素子の作製例1〕
上記実験例1に示す光増強素子の作製例1において、誘電体膜の親水化処理した表面上に、ION SPUTTER装置「JFC−1100」(日本電子社製)を用いて、銀をターゲットとして上記実験例1と同一の条件でスパッタを行うことにより銀膜を堆積させ、約200℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより粒子化させ、これにより、増強電磁場形成層としての銀微粒子層を形成したことの他は、上記実験例1に示す光増強素子の作製例1と同様の方法により、比較用の光増強素子(以下、「比較用光増強素子(1)という。」)を作製した。この比較用光増強素子(1)における銀微粒子層は、個数平均粒径が約30nm、厚さが平均で約20nmである銀微粒子(本発明に係る光増強素子における小径銀微粒子に相当)が10
10〜10
12個/cm
2 の分布状態で二次元的にランダムに配列されてなるものである。また、隣接する銀微粒子間の間隔は5〜40nmであった。
この比較用光増強素子(1)について、上記実験例1と同様の方法により、励起光照射により試料(色素分子)から発せられるラマン散乱光(ラマン散乱強度)を測定した。結果を
図5において曲線(B)で示す。
【0033】
<比較実験例2>
〔比較用光増強素子の作製例2〕
上記実験例1に示す光増強素子の作製例1において、誘電体膜の親水化処理した表面上に、保護膜フリー銀ナノ粒子(体積平均粒径約15nm)のアセトン分散液(濃度約0.4wt%)を3000回転でスピンコートし、その後約250℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより粒子化させ、これにより、増強電磁場形成層としての銀微粒子層を形成したことの他は、上記実験例1に示す光増強素子の作製例1と同様の方法により、比較用の光増強素子(以下、「比較用光増強素子(2)という。」)を作製した。この比較用光増強素子(2)における銀微粒子層は、個数基準の平均粒径が約100nm、厚さが平均で約70〜80nmである銀微粒子(本発明に係る光増強素子における大径銀微粒子に相当)が10
8 〜10
10個/cm
2 の分布状態で二次元的にランダムに配列されてなるものである。また、隣接する銀微粒子間の間隔は20〜300nmであった。
この比較用光増強素子(2)について、上記実験例1と同様の方法により、励起光照射により試料(色素分子)から発せられるラマン散乱光(ラマン散乱強度)を測定した。結果を
図5において曲線(C)で示す。
【0034】
図5に示される結果より、比較用光増強素子(2)においては、増強電磁場形成層を構成する比較的粒径の大きい銀微粒子の各々は、表面に多くの電場増強サイトが存在するものの、銀微粒子自体の数が少ないために実効的なラマン増強は小さく、また、比較用光増強素子(1)においては、増強電磁場形成層を構成する比較的粒径の小さい個々の銀微粒子自体は、表面にさほど多くの電場増強サイトが存在するわけではないが、銀微粒子自体の数が多いために実効的なラマン増強は比較用光増強素子(2)よりも大きいことが理解される。このことから、本発明に係る光増強素子のように、増強電磁場形成層を構成する銀微粒子が大径銀微粒子および小径銀微粒子を含み、大径銀微粒子が小径銀微粒子中に散在した構成とされると、銀微粒子の数が小径銀微粒子のみで形成されたものに比して減少することから、実効的なラマン増強は小さくなるものと予想されるが、本発明に係る光増強素子によれば、比較用光増強素子(1)よりも実効的なラマン増強が逆に大きくなることが確認された。この理由としては、明確ではないが、次のように推測される。
すなわち、本発明に係る光増強素子は、基板と誘電体膜との間に高反射層が介在された構成とされていることにより、励起光として入射した光、および、励起光を受けた銀微粒子から放たれた光が高反射層によって反射され、その一部が再度銀微粒子に入射されて励起させる。このことが多重現象として起こり巨大な増強効果が得られるわけであるが、本発明に係る光増強素子では、各々の大径銀微粒子の周りに小径銀微粒子がひしめいており、大径銀微粒子から放たれた強力な光が二次的な励起光として小径銀微粒子に入射された際に、更に大きな増強を起こすためであると推測される。