特許第5884551号(P5884551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884551
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/023 20060101AFI20160301BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   G03F7/023
   G03F7/004 501
【請求項の数】3
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-39855(P2012-39855)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-174774(P2013-174774A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 寛之
(72)【発明者】
【氏名】二戸 吉徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 行浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修一
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−032729(JP,A)
【文献】 特開2011−081302(JP,A)
【文献】 特開2010−181827(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/136557(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す成分(A)と、多官能フェノール性化合物とキノンジアジド化合物とのキノンジアジド基を有するエステル化物(B)と、2個以上のエポキシ基を有する化合物(C)と、下記式(5)で表されるフェノール化合物(D)と、を含有し、
各成分(A)〜(D)の構成割合が、成分(A)100質量部に対して、成分(B)5〜50質量部、成分(C)10〜70質量部、および成分(D)1〜40質量部である感光性樹脂組成物であって、
前記成分(A)は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)と、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)と、下記式(3)で表される(メタ)アクリル酸単量体から誘導される構成単位(a3)と、下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)と、を有する共重合体であり、
前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)の合計質量に対して、前記構成単位(a1)が15〜95質量%、前記構成単位(a2)が85〜5質量%であり、
前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)の合計100質量部に対して、前記構成単位(a3)が5〜150質量部であり、前記構成単位(a4)が1〜140質量部であることを特徴とする、感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化4】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基、又は主環構成炭素数3〜12の脂環式炭化水素基)
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、R、R、R10はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基。l、m、n、o、は1〜2の整数。R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1〜2のアルキル基)
【請求項2】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物から得られるパターン膜を有する、フラットパネルディスプレイ。
【請求項3】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物から得られるパターン膜を有する、半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジ型レジスト、層間絶縁膜、平坦化膜等として利用される感光性樹脂組成物およびその用途に関する。さらに詳細には、フォトリソグラフィー技術を用いることによりパターン膜を形成することが可能な感光性樹脂組成物、さらに当該感光性樹脂組成物からなるパターン膜を備えたフラットパネルディスプレイ(FPD)および半導体デバイス(LSI)に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの半導体集積回路や、FPDの表示面の製造、サーマルヘッドなどの回路基板の製造等を初めとする幅広い分野において、微細素子の形成或いは微細加工を行うために、従来からフォトリソグラフィー技術が利用されている。該フォトリソグラフィー技術においては、レジストパターンを形成するため、感光性樹脂組成物が用いられている。近年、これら感光性樹脂組成物の新たな用途として、半導体集積回路やFPDなどの層間絶縁膜や平坦化膜の形成技術が注目されている。特に、FPD表示面の高精細化やTFT(ThinFilm Transistor)液晶などに代表される半導体素子の製造プロセスの短縮化に対する市場の要望は強いものがある。
【0003】
このFPD表示面の高精細化を達成するためには、回路内において伝送損失を抑えることが重要であり、それには低誘電特性に優れた微細パターンを有する層間絶縁膜や平坦化膜が必須材料とされている。また、半導体素子の製造プロセスの短縮化については、ソースやゲート電極を保護する目的で、真空蒸着法にて窒化珪素(SiNx)等の無機層間絶縁膜を形成せず、ウェットプロセスで容易に形成可能な有機層間絶縁膜への代替が望まれている。そのため、有機層間絶縁膜は、窒化珪素と同等の絶縁性が必須であり、誘電率が3.0を下回るような、低誘電特性の層間絶縁膜が必要とされている。
【0004】
また、これら材料の形成プロセスにおいては、現像液として従来の0.4質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液からTFT素子の形成等に用いられる、2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に統一することによるプロセス短縮も望まれている。前記の低誘電特性を有する層間絶縁膜や平坦化膜を得るためには、感光性樹脂組成物におけるアルカリ可溶性樹脂の役割は多大であり、このような用途に用いられる感光性樹脂組成物に関して多くの研究がなされている。
【0005】
例えば特許文献1では、層間絶縁膜または平坦化膜用の感光性樹脂組成物のアルカリ可溶性樹脂として不飽和カルボン酸とエポキシ基を有するラジカル重合性化合物とを用いることにより、良好な現像性を有し、かつ高解像度のパターン膜が形成される技術が開示されている。一方、特許文献2には、層間絶縁膜または平坦化膜用の感光性樹脂組成物のアルカリ可溶性樹脂として、スチレン類、(メタ)アクリル酸およびヒドロキシアルキルエステルを構成単位として有する共重合体を用いることにより、良好な低誘電特性が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−248629号公報
【特許文献2】特開2004−4233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では前記アルカリ可溶性樹脂に含まれる構成単位は(メタ)アクリロイル基で構成されているため、十分な低誘電特性を得ることができないことが一般的に知られている。また、特許文献2のようにスチレン類を樹脂中に多量に導入した場合、樹脂の疎水性が高くなるため、現像時の残膜率を高く維持することはできるが、現像残渣が多くなり、十分な現像性を得ることができないという問題がある。
【0008】
このような問題を解決するために、FPDや半導体デバイスなどの層間絶縁膜または平坦化膜に用いられる感光性樹脂組成物において、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、現像性が良く、低誘電特性に優れる高解像度のパターン膜を形成することが求められている。
【0009】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものである。その目的は、パターン膜の形成工程において、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を現像液として用いても、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、高温ベーキング後においても光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、低誘電特性に優れたパターン膜を形成することができる感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、下記に示す成分(A)と、多官能フェノール性化合物とキノンジアジド化合物とをエステル化反応させて得られるキノンジアジド基を有するエステル化物(B)と、2個以上のエポキシ基を有する化合物(C)と、下記式(5)で表されるフェノール化合物(D)と、を含有する感光性樹脂組成物である。各成分(A)〜(D)の構成割合は、成分(A)100質量部に対して、成分(B)5〜50質量部、成分(C)10〜70質量部、および成分(D)1〜40質量部である感光性樹脂組成物である。前記成分(A)は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)と、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)と、下記式(3)で表される(メタ)アクリル酸単量体から誘導される構成単位(a3)と、下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)と、を有する共重合体である。そして、前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)の合計質量に対して、前記構成単位(a1)が15〜95質量%、前記構成単位(a2)が85〜5質量%であり、かつ前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)の合計100質量部に対して、前記構成単位(a3)が5〜150質量部であり、前記構成単位(a4)が1〜140質量部であることを特徴とする。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、又は置換分岐シクロアルキル基)
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化4】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基、又は主環構成炭素数3〜12の脂環式炭化水素基)
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、R、R、R10はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基。l、m、n、o、は1〜2の整数。R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1〜2のアルキル基)
【0011】
第2の発明は、第1の発明の感光性樹脂組成物から得られるパターン膜を有するフラットパネルディスプレイ(FPD)である。第3の発明は、第1の発明の感光性樹脂組成物から得られるパターン膜を有する半導体デバイス(LSI)である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の感光性樹脂組成物によれば、フォトリソグラフィー技術を用いたパターン膜を形成する現像工程において、2.38質量%テトラメチルアンモニウム水溶液を現像液に用いても、高い残膜率を維持したまま、現像残渣がなく、ポストベイクなどの高温ベーキング後においても光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、低誘電特性に優れたパターン膜を形成することができる。さらに、本発明の感光性樹脂組成物によれば、窒化珪素等の無機層間絶縁膜を形成することなく、有機層間絶縁膜をウェットプロセスにて容易に形成可能である。
【0013】
そして、該感光性樹脂組成物を用いてパターン膜を形成することにより、優れた特性を有するFPDおよび半導体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。本実施形態の感光性樹脂組成物は、下記に示す成分(A)、(B)、(C)および(D)を含有する。
成分(A):特定の共重合体
成分(B):キノンジアジド基を有するエステル化物
成分(C):2個以上のエポキシ基を有する化合物
成分(D):特定の骨格を有するフェノール化合物
以下に各成分(A)、(B)、(C)および(D)について順に説明する。
【0015】
<成分(A):特定の共重合体>
成分(A)は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)と、下記式(2)で表される芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)と、下記式(3)で表される(メタ)アクリル酸単量体から誘導される構成単位(a3)と、下記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)と、を有する共重合体である。
【0016】
【化6】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基、又は置換分岐シクロアルキル基)
【化7】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化8】

(式中、Rは水素原子又はメチル基)
【化9】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基、又は主環構成炭素数3〜12の脂環式炭化水素基)
【0017】
前記式(1)〜(4)で表される構成単位は、それぞれ下記式(1)’〜(4)’で表される単量体(各構成単位用単量体)から誘導される。
【化10】

(式中、R及びRは、それぞれ式(1)におけるものと同じである。)
【化11】

(式中、Rは式(2)におけるものと同じである。)
【化12】

(式中のRは式(3)におけるものと同じである。)
【化13】

(式中のR、Rは式(4)におけるものと同じである。)
【0018】
〔フマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)〕
フマル酸ジエステル単量体から誘導される構成単位(a1)は、主鎖構造となる部分にメチレン基を有さず主鎖の炭素上に置換基が結合していることにより、フマル酸ジエステルで構成される重合体は剛直な主鎖構造を有する。そのため、主鎖の分子鎖運動性が抑制されることにより、特定の周波数帯域において熱エネルギーへの損失がないため、良好な低誘電性を得ることができる。
【0019】
前記式(1)におけるR及びRは、それぞれ独立して炭素数3〜8の分岐アルキル基、炭素数4〜12のシクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基である。R及びRとして好ましくは炭素数3〜5の分岐アルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基である。分岐アルキル基の炭素数が8を超えると重合性が低下してしまい不都合な場合が生ずる。また、シクロアルキル基又は置換分岐シクロアルキル基の炭素数が12を超えると、十分な現像性が得られないという問題がある。前記式(1)におけるR及びRは、同一の置換基であっても、異なる置換基であっても良いが、入手性の面から同一の構造であることが好ましい。
【0020】
構成単位(a1)は、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計量に対して15〜95質量%含まれ、現像性と低誘電特性の両立の面から好ましくは35〜60質量%含まれる。構成単位(a1)の含有量が15質量%を下回ると、十分な低誘電特性が得られない。その一方、構成単位(a1)の含有量が95質量%を上回ると、現像性が低下し現像残渣が発生する。
【0021】
〔芳香族ビニル単量体から誘導される構成単位(a2)〕
構成単位(a2)を誘導する芳香族ビニル単量体は、重合時に構成単位(a1)を誘導するフマル酸ジエステル単量体と、構成単位(a3)を誘導する(メタ)アクリル酸単量体および構成単位(a4)を誘導する(メタ)アクリル酸エステル単量体との共重合性を向上させることができる。構成単位(a2)を誘導する芳香族ビニル単量体は、前記式(1)′のフマル酸ジエステル単量体、式(3)′の(メタ)アクリル酸単量体、および式(4)′の(メタ)アクリル酸エステル単量体の3者のいずれの単量体とも共重合性が良好である。このため、重合反応時に共重合性の異なる単量体から誘導される各構成単位を円滑に重合体中に導入することができ、共重合組成に分布の偏りがなく、均一な性質を有する共重合体を得ることができる。前記式(2)におけるRは水素原子又はメチル基である。
【0022】
構成単位(a2)は、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計量に対して85〜5質量%含まれ、現像性の面から好ましくは40〜65質量%含まれる。構成単位(a2)の含有量が5質量%を下回る、または85質量%を上回ると共重合性のバランスが崩れ、所望とする共重合体が得られなくなる。加えて、構成単位(a2)の含有量が85質量%を超えると現像性が低下し、現像残渣が発生する。
【0023】
〔(メタ)アクリル酸単量体から誘導される構成単位(a3)〕
この(メタ)アクリル酸単量体から誘導される構成単位(a3)は、現像工程において現像性に寄与する成分である。前記式(3)におけるRは水素原子またはメチル基であり、感光性樹脂組成物について耐熱性の面からRとしてメチル基が好ましい。
【0024】
構成単位(a3)は、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計100質量部に対して5〜150質量部含まれ、感光性樹脂組成物の現像性と低誘電特性の両立の面から好ましくは10〜50質量部含まれる。構成単位(a3)の含有量が5質量部を下回ると、現像液への溶解性が得られず現像残渣が発生する場合がある。一方、構成単位(a3)の含有量が150質量部を上回ると、現像液への感光性樹脂組成物の溶解性が高くなり過ぎるため残膜率の低下やパターン不良を生じる。
【0025】
〔(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)〕
(メタ)アクリル酸エステル単量体から誘導される構成単位(a4)は、現像性の調整、特に現像時の残膜率や解像度の調整を目的として加えることができる。前記式(4)におけるRは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基または主環構成炭素数3〜12の脂環式炭化水素基である。耐熱性の面からRとしてメチル基が好ましい。Rの炭素数が12を超えると、共重合性が低下し問題となる。構成単位(a4)を誘導するこれらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、現像性を調整する目的で1種のみまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
この構成単位(a4)は、構成単位(a1)と構成単位(a2)の合計100質量部に対して好ましくは1〜140質量部含まれる。構成単位(a4)の含有量が1質量部を下回ると、構成単位(a4)に基づく機能発現が不十分となる。その一方、140質量部を上回ると、他成分との相溶性が悪化し、白濁や透明性の低下を招く。
【0027】
成分(A)は、上記に示した構成単位(a1)〜(a4)からなる共重合体であることにより、誘電率、現像性、残膜率、透明性および耐溶剤性に優れた感光性樹脂組成物を提供することができる。なお、成分(A)にその他の構成単位として、例えば酢酸ビニルに代表される脂肪族ビニル単量体から誘導される構成単位が含まれると、上記物性のバランスが崩れる結果を招くおそれがある。
【0028】
〔成分(A)の共重合体の合成法〕
この共重合体を合成するに際しては、公知のラジカル重合法を適用することができる。その際、共重合成分である構成単位(a1)、(a2)、(a3)および(a4)を形成する単量体は、重合釜に一括で仕込むことも、分割して反応系中に滴下することもできる。成分(A)の共重合体を得るために用いられる重合用溶剤としては、一般的に知られている溶剤を用いることができる。
【0029】
成分(A)の共重合体を得るために用いられる重合開始剤としては、一般的にラジカル重合開始剤として知られているものを使用することができる。その具体例としては、アゾ系重合開始剤、シアノ基を有さないアゾ系重合開始剤、または有機過酸化物および過酸化水素等を用いることができる。ラジカル重合開始剤として過酸化物を使用する場合には、これと還元剤とを組み合わせてレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0030】
成分(A)の共重合体の重量平均分子量(質量平均分子量)は、好ましくは5,000〜60,000、現像性の面からさらに好ましくは5,000〜30,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合には、ポストベイク時にパターンフローが起こり、パターン膜の十分な解像度が得られないおそれや溶剤耐性の悪化を招く。他方、重量平均分子量が60,000を超える場合には、現像液に対する溶解性に乏しく、十分な現像性が得られず現像残渣が発生する。
【0031】
<成分(B):キノンジアジド基を有するエステル化物>
成分(B)のキノンジアジド基を有するエステル化物(感光剤)は、フォトリソグラフィーによる露光工程においてフォトマスクを介して露光する際、露光部ではキノンジアジド基を有するエステル化物の光異性化反応が起こることにより、カルボキシル基を生成し、その後の現像工程において現像液に対して溶解させることができる。一方、未露光部は、現像液に対して溶解抑止能を有しているため、膜を形成することができる。つまり、キノンジアジド基を有するエステル化物は、フォトマスクを介して露光することにより、その後の現像工程にて現像液に対する溶解性の差を発現することができるため、パターン膜を得ることができる。
【0032】
キノンジアジド基を有するエステル化物のエステル化率は、好ましくは20〜90モル%、残膜率の面からさらに好ましくは25〜50モル%である。ただし、エステル化率は多官能フェノール由来のヒドロキシル基に対するキノンジアジド化合物のモル%を表す。エステル化率が20モル%を下回ると現像性の低下を招き、現像残渣が発生するおそれがあり、90モル%を上回るとキノンジアジド基を有するエステル化物と共重合体との相溶性が悪化してパターン膜が相分離し、白濁や透明性の低下を招くおそれがある。
【0033】
成分(B)のキノンジアジド基を有するエステル化物は、キノンジアジド化合物とフェノール性化合物とをエステル化反応させて得ることができる。キノンジアジド化合物としては、1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホニルクロリド、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルホニルクロリド等に代表されるナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドや、ベンゾキノンジアジドスルホン酸クロリドに代表されるベンゾキノンジアジドスルホン酸ハライドが用いられる。フェノール性化合物としては、下記式(6)または(7)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【化14】

(式中、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R17及びR18は、それぞれ独立して炭素数1〜2のアルキル基を表す。)
【化15】

(式中、R19、R20、R21、R22、R23、R24及びR25は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は下記式(8)を表す。mおよびnはそれぞれ独立して0〜2の整数である。)
【化16】

(式中、R26は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、a、b、c、d、e、f、gおよびhは、a+b≦6を満たす0〜6の整数であり、c+d≦5、e+f≦5、g+h≦5を満たす0〜5の整数であり、iは0〜2の整数である。)
【0035】
前記式(6)で示されるフェノール性化合物としては、例えば下記式(6a)〜(6c)のような化合物が挙げられる。
【化17】

【化18】

【化19】
【0036】
また、前記式(7)で示されるフェノール性化合物としては、下記式(7a)または下記式(7b)で表される化合物が好ましい。
【化20】

【化21】
【0037】
感光性樹脂組成物における、成分(B)のキノンジアジド基を有するエステル化物の構成割合は、成分(A)の共重合体100質量部に対して5〜50質量部、現像性と透明性の面から好ましくは15〜35質量部である。この構成割合が5質量部を下回る場合には、現像性が低下し、現像残渣が発生する。一方、50質量部を上回る場合には、成分(B)と共重合体との相溶性が悪化し、白濁や透明性の低下を招く。
【0038】
<成分(C):2個以上のエポキシ基を有する化合物>
2個以上のエポキシ基を有する化合物のエポキシ基は、成分(A)共重合体の側鎖のカルボキシル基と高温ベーキング時に熱硬化反応を起こし、架橋膜を形成することができる。エポキシ樹脂の中でも、下記式(9)、(11)または(12)で表されるエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0039】
【化22】

(式中、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または下記式(10)を表す。j、lは0〜4の整数であり、kは0〜6の整数であり、o、pは0〜2の整数である。)
【化23】


(式中、R34は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、qは0〜2の整数であり、rは0〜4の整数である。)
【0040】
【化24】

(式中のR35は炭素数1〜10の炭化水素基、sおよびtはそれぞれ1〜30、1〜6の整数)
【化25】

(式中、R36、R37、R38、R39、R40、R41、R42、R43は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基を表し、u、v、w、xはそれぞれ独立して0〜4の整数であり、yは0〜3の整数である。)
【0041】
式(9)で表されるエポキシ樹脂の中でも、(株)プリンテック製のVG3101Lが好ましく、式(11)で表されるエポキシ樹脂の中でもダイセル化学工業(株)製のEHPE−3150が好ましく、式(12)で表されるエポキシ樹脂の中でもジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート828、エピコート834、エピコート1001が好ましい。
【0042】
感光性樹脂組成物における、成分(C)の構成割合は、成分(A)の共重合体100質量部に対して10〜70質量部であり、成分(C)と共重合体との相溶性、成分(C)に基づく溶剤耐性の面から好ましくは30〜65質量部である。この構成割合が10質量部を下回るとパターン膜(硬化膜)の溶剤耐性が不十分になり、70質量部を上回ると成分(C)と共重合体との相溶性が悪化し、パターン膜の相分離が起こり、白濁や透明性の低下を招く。
【0043】
<成分(D):特定の骨格を有するフェノール化合物>
感光性樹脂組成物に用いられる特定の骨格を有するフェノール化合物は、光が照射されない未露光部において、成分(B)の感光剤のジアゾ基とアゾカップリング反応を起こして、成分(B)の溶解抑止効果を高めることができる。その結果、アルカリ性の高い現像液、例えば2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液や、0.5質量%水酸化カリウム水溶液等に対しても高い残膜率を維持することができる。
【0044】
特定の骨格を有するフェノール化合物は下記式(5)で表される。
【化26】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。R、R、R10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。l、m、n、o、はそれぞれ、1〜2の整数を表す。R11およびR12は、それぞれ独立して炭素数1〜2のアルキル基を表す。)
【0045】
特定の骨格を有するフェノール化合物の具体例としては、(5a)〜(5g)の化合物が挙げられる。中でも、現像性の面から、(5d)の化合物が特に好ましい。例示した骨格を有するフェノール化合物以外、例えば前記式(7a)、(7b)に示されるアルカリ現像液に対する溶解性が高いフェノール化合物では、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液や、0.5質量%水酸化カリウム水溶液等を現像液に用いると膜減りが大きく、残膜率を維持できなくなる。
【0046】
【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

【化33】
【0047】
感光性樹脂組成物における、成分(D)の構成割合は、成分(A)の共重合体100質量部に対して、1〜40質量部であり、感光性樹脂組成物の現像性、成分(D)と共重合体との相溶性の面から好ましくは10〜30質量部である。この構成割合が1質量部を下回ると、未露光部の溶解抑止能力が低下し、大きな膜減りが起こる。一方、40質量部を上回ると、相溶性や現像性の低下を招く。
【0048】
<その他の添加成分>
感光性樹脂組成物には、溶剤、硬化促進剤、密着性向上助剤、界面活性剤等のその他の添加成分を配合することができる。
【0049】
(溶剤)
溶剤は、感光性樹脂組成物に利用できる公知の溶剤を用いることができる。
【0050】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、前記成分(C)のエポキシ基と成分(A)共重合体の側鎖のカルボキシル基との架橋反応を促進させることができる。硬化促進剤としては、例えば三新化学工業(株)製のサンエイドSI−45L、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L、サンエイドSI−110L、サンエイドSI−150L等の芳香族スルホニウム塩、サンアプロ(株)製のU−CAT SA102、U−CAT SA106、U−CAT SA506、U−CAT SA603、U−CAT 5002等のジアザビシクロウンデセン塩、サンアプロ(株)製のCPI−100P、CPI−101A、CPI−200k、CPI−210s等の光酸発生剤、四国化成工業(株)製のキュアゾール1B2PZ等のイミダゾール類等が挙げられる。硬化促進剤の構成割合は、成分(C)の100質量部に対し、通常0.1〜15質量部である。
【0051】
(密着性向上助剤)
密着性向上助剤としては、例えばアルキルイミダゾリン、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルメチルエーテル、t−ブチルノボラック、エポキシシラン、シランカップリング剤等が用いられる。
【0052】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えばモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製のTSF−431、TSF−433、TSF−437、住友3M(株)製の<ノベック>HFE、大日本インキ化学工業(株)製のメガファックF−477、F−483、F−554、TF−1434、TEGO製のGlide−410、Glide−440、Glide−450、Glide−B1484等が用いられる。
【0053】
<感光性樹脂組成物の調製法>
感光性樹脂組成物は、前記成分(A)、(B)、(C)、(D)及びその他の添加成分を混合することにより調製することができる。この際、前記成分(A)、(B)、(C)および(D)をはじめとする各成分を一括配合してもよいし、各成分を溶剤に溶解した後に逐次配合してもよい。また、配合する際の投入順序や作業条件は特に制約されない。例えば、全成分を同時に溶剤に溶解して感光性樹脂組成物を調製してもよいし、必要に応じて各成分を適宜2つ以上の溶液としておいて、使用時(塗布時)にこれらの溶液を混合して感光性樹脂組成物を調製してもよい。
【0054】
<フラットパネルディスプレイおよび半導体デバイス>
フラットパネルディスプレイおよび半導体デバイスは、前記感光性樹脂組成物を硬化した層、すなわち平坦化膜または層間絶縁膜を有する。平坦化膜および層間絶縁膜の形成に際しては、通常感光性樹脂組成物の溶液を基板上に塗布し、プリベイクを行って感光性樹脂組成物の塗膜を形成する。このとき、感光性樹脂組成物が塗布される基板は、ガラス、シリコンなど従来FPD用または半導体デバイス形成用の基板など公知のいずれの基板であってもよい。基板はベアな基板でも、酸化膜、窒化膜、金属膜などが形成されている基板でも、さらには回路パターン或いは半導体デバイスなどが形成されている基板であってもよい。また、プリベイクの温度は通常40〜140℃で、時間は15分以内程度である。
【0055】
次いで、塗膜に所定のマスクを介してパターン露光を行った後、アルカリ現像液を用いて現像処理し、必要に応じリンス処理を行って、感光性樹脂組成物の膜を形成する。このようにして形成された膜は、全面露光された後、ポストベイクされてパターン膜が形成される。全面露光の際の露光量は、通常500mJ/cm以上であればよい。また、ポストベイク温度は通常150〜250℃、好ましくは180〜230℃、ポストベイク時間は通常30〜90分である。
【0056】
感光性樹脂組成物を用いて形成されたパターン膜は、半導体デバイスや液晶表示装置、プラズマディスプレイなどのFPDの平坦化膜或いは層間絶縁膜などとして利用される。なお、全面にパターン膜を形成する場合には、パターン露光、現像などは行わなくてよい。ここで、平坦化膜と層間絶縁膜とは全く独立したものではなく、感光性樹脂組成物により形成されたパターン膜は、平坦化膜としても、層間絶縁膜としても利用し得るものである。そして、半導体デバイスなどにおいては、そのような膜は層間絶縁膜としても平坦化膜としても機能する。
【0057】
前記パターン膜の形成において、感光性樹脂組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、ランドコート法、スプレー法、流延塗布法、浸漬塗布法、スリット塗布法など任意の方法を用いればよい。また、露光に用いられる放射線としては、例えばg線、h線、i線などの紫外線、KrFエキシマレーザー光或いはArFエキシマレーザー光などの遠紫外線、X線、電子線などが挙げられる。
【0058】
現像法としては、パドル現像法、浸漬現像法、揺動浸漬現像法、シャワー式現像法など従来フォトレジストを現像する際に用いられている方法によればよい。また現像剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、アンモニア等の無機アルカリ、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリエチルアミン等の有機アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アミンなどを所定の濃度に調整した水溶液を用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお「部」および「%」は、特に断りがない限り全て質量基準である。以下に、各実施例および各比較例で用いた測定方法および評価方法を示す。
【0060】
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、カラムとして昭和電工(株)製SHODEX K801を用い、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とし、RI検出器により測定して分子量既知のポリスチレン標準体によって得られる検量線を用いた換算により求めた。
【0061】
〔合成例1、共重合体A−1の合成〕
温度計、攪拌機および冷却管を備えた2000mLの4つ口フラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を263.0g仕込み、窒素置換した後、オイルバスで液温が90℃になるまで昇温した。他方、単量体(a1)としてのフマル酸ジsecブチル(DsBF)46.5g、単量体(a2)としてのスチレン(St)53.5g、単量体(a3)としてのメタクリル酸(MAA)28.1g、単量体(a4)としてのメタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)38.5g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔日油(株)製の過酸化物重合開始剤〕11.7g、およびPGMEA46.4gを予め均一混合した滴下成分を調製した。そして、この滴下成分を前記90℃に昇温した)PGMEAに2時間かけて滴下ロートより等速滴下した後、同温度に8時間維持し、共重合体A−1を得た。
【0062】
〔合成例2〜23、共重合体A−2〜A−23〕
表1〜3に記載した仕込み種および量、滴下および重合温度に変更した以外は合成例1と同様の手法にて共重合体の合成を行った。なお、表1〜3中の「(a3)/(a1+a2)」欄や「(a4)/(a1+a2)」欄は、a1とa2の合計100質量部に対するa3やa4の質量部を表す。
【0063】
〔比較合成例1〜4、共重合体A’−1〜A’−4〕
表3に記載した仕込み種および量、滴下および重合温度に変更した以外は合成例1と同様の手法にて共重合体の合成を行った。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表1〜3における略号の意味は次の通りである。
DiPF:フマル酸ジイソプロピル
DsBF:フマル酸ジsecブチル
DcHF:フマル酸ジシクロヘキシル
DsAF:フマル酸ジsecアミル
St:スチレン
α−St:α−メチルスチレン
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
HPMA:メタクリル酸ヒドロキシプロピル
LMA:メタクリル酸ラウリル
MMA:メタクリル酸メチル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
パーヘキシルO:t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油(株)製の過酸化物系重合開始剤
パーブチルO:t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油(株)製の過酸化物系重合開始剤
AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル〔アゾ系重合開始剤、和光純薬工業(株)製〕
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
EDM:ジエチレングリコールエチルメチルエーテル
【0068】
<実施例1>
成分(A)として合成例1で得られた共重合体A−1を100g、成分(B)として前記式(7a)で表される化合物と1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホニルクロライドとのエステル化物25.0g、成分(C)としてエポキシ樹脂EHPE−3150〔ダイセル化学工業(株)製〕40.0g、成分(D)として前記式(5d)で表される化合物10.0g、回転塗布の際にレジスト膜上にできる放射線状のしわ、いわゆるストリエーションを防止するため、さらにシリコーン系界面活性剤であるG−B1484〔TEGO社製〕0.5gを適量のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させて攪拌した後、0.2μmのフィルターで濾過して、感光性樹脂組成物を調製した。
【0069】
(薄膜パターンの形成)
上記の感光性樹脂組成物を4インチシリコンウエハー上に回転塗布し、100℃、90秒間ホットプレートにてベイク後、約3.3μm厚の薄膜(A)を得た。この薄膜(A)にキヤノン(株)製g+h+i線マスクアライナー(PLA−501F)にてラインとスペース幅が1:1となった種々の線幅およびコンタクトホールのテストパターンを最適露光量で露光し、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液で23℃、60秒間現像することで、ラインとスペース幅が1:1のライン&スペースパターンおよびコンタクトホールパターンが形成された薄膜(B)を得た。この薄膜(B)をPLA−501Fにて全面露光した後、オーブン中で220℃、60分間加熱することによりポストベイク処理を行い、約3.0μm厚のパターン付き薄膜(パターン膜)を得た。
【0070】
(現像性の評価)
上記で作製したパターンの中で、3μmのホールパターンをSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察した。ホール内部に残渣が見られ、アッシング工程後も残渣が観られる場合には×、ホール内部に僅かに残渣が見られるがアッシング工程により残渣が除去できるものを○、残渣が見られない場合には◎として現像性を評価した。その結果を表4に示した。
【0071】
(残膜率の評価)
上記の手法にて得られた薄膜(A)と薄膜(B)の膜厚から、以下の式より残膜率を算出した。
残膜率(%)=〔薄膜(B)の膜厚(μm)/薄膜(A)の膜厚(μm)〕×100
【0072】
(誘電率の評価)
PLA−501Fにてテストパターンを露光しない以外は上記と同様の操作を行うことにより、パターンのない、3.0μm厚の薄膜を4インチシリコンウエハー上に得た。この薄膜上に電極を形成し、室温、10kHzにおける条件で、安藤電気(株)製LCRメータ(AG−4311)を用いて得られた静電容量から誘電率を算出した。その結果を表4に示した。
【0073】
(透過率の評価)
縦70mm、横70mmサイズの石英ガラス基板を用い、テストパターンを露光しない以外は上記と同様の操作を行うことにより、パターンのない薄膜をガラス基板上に得た。この薄膜について光の波長400nmにおける透過率を、紫外−可視光分光光度計CARY4E〔バリアン(株)製〕を用いて測定した。その結果を表4に示した。
【0074】
(耐溶剤性の評価)
透過率の評価と同様の操作を行うことで得たガラス基板を、RemoverN−321〔ナガセケムテックス(株)製〕中に60℃、1分間浸漬した後、純水リンスを行い、200℃、15分間の再ベイク処理を行った。そして、溶剤浸漬前の透過率と再ベイク処理後の透過率差が2%未満の場合には○、透過率差が2〜4%の場合には△、透過率差が4%を超える場合には×として評価した。その結果を表4に示した。
【0075】
<実施例2〜38>
表4〜表7に示した成分(A)の共重合体、成分(B)のエステル化物、成分(C)のエポキシ化合物、成分(D)のフェノール化合物およびその他添加剤等を用いること以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより感光性樹脂組成物を調製した。この感光性樹脂組成物について、実施例1と同様の物性を評価し、それらの結果を表4〜表7に示した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
<比較例1〜9>
表8に示した成分(A)の共重合体、成分(B)のエステル化物、成分(C)のエポキシ化合物、成分(D)のフェノール化合物およびその他添加剤等を用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、感光性樹脂組成物を調製した。この感光性樹脂組成物について、実施例1と同様の物性を評価し、それらの結果を表8に示した。
【0081】
【表8】
【0082】
表8中の成分(D)としての化合物(X)〜(Z)は、下記の通りである。
【化34】

【化35】

【化36】
【0083】
また、表4〜8中の略号の意味は次の通りである。
CPI−210S:サンアプロ社製の光酸発生剤
VG3101L:プリンテック社製のエポキシ樹脂
エピコート828:ジャパンエポキシレジン社製のエポキシ樹脂
F−483:大日本インキ化学工業社製の界面活性剤
【0084】
表4〜表7に示した結果より、実施例1〜38においては、パターン膜を形成する現像工程において現像残渣がなく、高温ベーキング後においても光透過率、耐溶剤性等の塗膜物性を損なうことなく、現像性および低誘電特性に優れていることを確認することができた。なお、実施例1〜38においては、表4〜表7に示されていないがパターン膜の平坦性も良好であった。
【0085】
一方、表8に示した結果より、比較例1〜3では成分(D)のフェノール化合物として上記化合物(X)、(Y)、(Z)を用いたため、残膜率が悪化した。比較例4、5では成分(D)のフェノール化合物として式(7a)、(7b)で表される化合物を用いたため、残膜率が低下した。比較例6では成分(A)の共重合体中に構成単位(a4)が過剰に含まれているため、透過率が低下した。比較例7では成分(A)の共重合体中に構成単位(a1)が含まれていないため、誘電率(低誘電性)が悪化した。比較例8では成分(A)の共重合体中に構成単位(a3)が過剰に含まれているため、残膜率が低下した。比較例9では成分(A)の共重合体中に構成単位(a1)が過剰に含まれているため、現像性が不良となる結果を招いた。