【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。なお、合金組成、合金混合割合の%は、特に明示する場合を除き、質量%である。
【0069】
1.負極活物質の作製
表1に示す合金組成となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を高周波誘導炉を用いて加熱、溶解し、合金溶湯とした。ガスアトマイズ法により、上記得られた合金溶湯から粉末状の負極活物質を作製した。なお、合金溶湯作製時およびガスアトマイズ時の雰囲気はアルゴン雰囲気とした。また、ガスアトマイズ時には、噴霧チャンバ内を棒状に落下する合金溶湯に対して、高圧(4MPa)のアルゴンガスを噴き付けた。
得られた粉末を篩いを用いて25μm以下に分級したものを活物質して用いた。
表1に、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定した活物質の平均粒度(d50)の値が示してある。
尚実施例1〜6については、25μm以下に分級したアトマイズ粉を更に遊星型ボールミルを用いて微粉砕したものを活物質として用いた。
【0070】
2.負極活物質の組織観察等
各実施例,比較例に係る負極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行った。またエネルギー分散X線分光法(EDX)による元素分析及びXRD(X線回折)による分析も併せて行った。
図1(A)に、マトリクス相中にSi相が分散しており、またマトリクス相として、Si相周りにSi-Fe化合物相が、更にSi相及びSi-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相がそれぞれ晶出している負極活物質の代表例として、実施例7に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡による二次電子像を示した。
また
図1(B)に、比較例1の負極活物質の走査型電子顕微鏡による二次電子像を示した。
更に実施例7に係る負極活物質のXRDによる分析結果を
図2に示した。
尚
図1(C)は、
図1中の一部(4角い点線の枠で囲んだ部分)を拡大して、これを模式図として表した図である。
【0071】
図1(A)から分かるように、実施例7に係る負極活物質では、マトリクス相中にSi相が多数分散しており、そしてSi相周りにSi-Fe化合物相が晶出し、更にそれら全体を取り囲むようにSn-Cu化合物相が晶出した組織構造を備えていることが確認された。
尚比較例1に係る負極活物質もまた、Si相周りにSi-Fe化合物相が、更にその全体を取り囲むようにしてSn-Cu化合物相がそれぞれマトリクス相として晶出した組織構造をなしているが、実施例7に係る負極活物質では、比較例1の負極活物質に比べて、Si相周りにSi-Fe化合物相がより多く晶出した組織構造をなしている。
また
図2に示すXRD分析結果では、Si,SiFe化合物,SnCu化合物,Snそれぞれの固有のピークが表れており、
図1(A)に示す組織中に、これらSi,SiFe化合物,SnCu化合物の相が生じていること、更にマトリクス相中にはSn相もまた生じていることが確認された。
尚、XRD分析はCo管球を用いて120°〜20°の角度の範囲を1分間に20°の速度で測定することにより行った。
【0072】
また、各負極活物質につき、Si結晶子の大きさを測定した。なお、Si結晶子の大きさは、SEM像(1視野)の任意のSi結晶子20個について測定したSi結晶子の大きさの平均値である。
それらの値が表1に併せて示してある。
【0073】
【表1】
【0074】
3.負極活物質における各相の面積率の測定
実施例,比較例の各負極活物質に晶出したSi相,Si-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相のそれぞれの面積率を次のようにして求めた。
尚、Si相の面積率は活物質全体に対する面積比率であり、他のSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相の面積比率は、マトリクス全体に対する比率である。
各負極活物質の断面組織(倍率5000倍)に対して、EPMA装置(電子線マイクロアナライザ)を用いてSi,Fe,Sn,Cuの元素分析を行い、各元素の濃度分布を調べた。
そしてそのEPMA分析によるデータを基に画像解析を行って各相の面積を求め、それら面積に基づいて各相の面積率を算出した。
尚画像解析は三谷商事株式会社製の画像解析ソフト(WinRoof)を用いて行った。
代表例として、実施例7の負極活物質についての画像解析の結果を
図3に示している。
具体的な面積率の求め方は以下の通りである。
【0075】
下記のように、EPMA分析の結果Fe量(濃度)が25〜50質量%である範囲をSi-Fe、つまりSi-Fe(Si
2Fe)化合物相の存在範囲とし、Cu量(濃度)が30〜45質量%である範囲をSn-Cu(Sn
5Cu
6)化合物相の存在範囲とし、Sn量(濃度)が90〜100質量%である範囲をSn相の存在範囲として、それぞれの面積を求め、また全体からそれらSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相の面積を差し引いた残りの部分をSi相の面積として求めた。
Si
2Fe相:Fe分析結果のFe量が25〜50質量%の範囲
Sn
5Cu
6相:Cu分析結果のCu量が30〜45質量%の範囲
Sn相:Sn分析結果のSn量が90〜100質量%の範囲
Si相:全体からSi
2Fe,Sn
5Cu
6,Snの面積を差し引いた残りの部分
表2に、代表例としての実施例7の負極活物質について、それら各相の具体的な面積測定結果、及びこれから算出される面積率が示してある。
ここで面積率に関しては、1種類の活物質粉末に対して5視野の画像から算出し、その平均値を面積率として表1に示した。
尚XRD,SEM-EDXを用いて晶出相の同定をし、解析範囲に所定の相が晶出していることを確認している。
【0076】
【表2】
【0077】
4.負極活物質の評価
4.1 充放電試験用コイン型電池の作製
初めに、各負極活物質100質量部と、導電助材としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、d50=36nm)6質量部と、結着剤としてのポリイミド(熱可塑性樹脂)バインダ19質量部とを配合し、これを溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合し、各負極活物質を含む各ペーストを作製した。
【0078】
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、負極活物質を用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。先ず、負極集電体となる銅箔(厚み18μm)表面に、ドクターブレード法を用いて、50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極活物質層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。これにより、実施例および比較例に係る試験極を作製した。
【0079】
次いで、実施例および比較例に係る試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
【0080】
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各正極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPF
6を1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0081】
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに(各試験極はリチウム二次電池では負極となるべきものであるが、対極をLi箔としたときにはLi箔が負極となり、試験極が正極となる)、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。
【0082】
次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
【0083】
4.2 充放電試験
各コイン型半電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル分実施し、この放電容量を初期容量C
0とした。2サイクル目以降は、1/5Cレートで充放電試験を実施した(Cレート:電極を(充)放電するのに要する電気量C
0を1時間で(充)放電する電流値を1Cとする。5Cならば12分で、1/5Cならば5時間で(充)放電することとなる。)。この放電時に使用した容量(mAh)を活物質量(g)で割った値を各放電容量(mAh/g)とした。
【0084】
本実施例では、上記充放電サイクルを100回行うことにより、サイクル特性の評価を行った。
【0085】
そして、得られた各放電容量から容量維持率(50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)×100、100サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の充電容量)×100)を求めた。その結果を表3及び
図4に示した。
【0086】
【表3】
【0087】
表3の結果から次のことが分かる。
即ち、比較例1では、Si-Fe化合物相の面積比率が23%で本発明の下限値の35%よりも低い値であり、またSn相の面積比率が63%と高く、このためにサイクル特性が悪い。
比較例2は、そもそもSi-Fe化合物相もSn-Cu化合物相も晶出しておらず、マトリクス相全体がSn相単独となっている。そのためにサイクル特性が比較例1に比べても格段と悪い。この比較例2ではまた、Si相の面積比率も86%と高く、マトリクス相の面積比率も小さい。
【0088】
比較例3は、Si-Fe化合物相が15%と低く、サイクル特性が悪い。
比較例4は、逆にSi-Fe化合物相が95%と過剰であり、サイクル特性が同じく悪い。
比較例5は、Si-Fe化合物相の面積比率が15%で低く、サイクル特性が悪い。
また比較例6は、Si-Fe化合物相が93%と過剰であり、サイクル特性が悪い。
これに対し、Si相の面積率が35〜80%の範囲内にあり、またマトリクス相としてSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相が晶出し、且つSi-Fe化合物相の面積比率が35〜90%の範囲内にあり、更にSnの面積率が15%以下である実施例1〜24は、何れも目標とする初期放電容量500(mAh/g)以上,50サイクル後の目標とする容量維持率70%以上を満たしており、高い初期放電容量,良好なサイクル特性を有している。
【0089】
図4は、比較例3,4及び実施例7〜実施例12についてSi-Fe化合物相の面積比率と、50サイクル後の容量維持率との関係を表したもので、
図4に示しているように、マトリクス相中のSi-Fe化合物相の面積比率が多くなるのに伴って、容量維持率が高くなって行き、そしてあるところを境にして、Si-Fe化合物相の面積割合が多くなるのに伴って容量維持率が低下する方向に転じる。
結果として、Si-Fe化合物相の面積比率としては35〜90%の範囲内が良好であり、特に60〜85%の範囲内にあるとき、より良好なサイクル特性が得られることが分かる。
【0090】
表3の結果において、Si相の面積比率が50%よりも低い実施例13,14,15,16では、初期の放電容量がより望ましい目標値である1000(mAh/g)以上を満たしていないのに対し、Si相の面積比率が50〜80%の範囲内にある他の実施例では初期放電容量が1000(mAh/g)以上を満たしており、Si相の面積比率が50〜80%の範囲内である場合において、より高い初期放電容量が得られることが分かる。
【0091】
またSi-Fe化合物相の面積比率が60〜85%を外れた実施例7,12,17では、50サイクル後の容量維持率としてより望ましい目標値である80%以上を満たしていないが、Si-Fe化合物相の面積比率が60〜85%である他の実施例では、容量維持率が80%以上を満たしており、Si-Fe化合物相の面積率を60〜85%とすることで、より良好なサイクル特性が得られることがわかる。
更に表3において、ガスアトマイズ粉を更に微粉砕して粒径(平均粒径)を1〜10μmの範囲内となしてある実施例1〜6については、特に高いサイクル特性を有していることが見て取れる。
【0092】
以上、本発明に係るリチウムイオン電池用負極活物質、リチウムイオン電池用負極について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。