(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、紙支持体の片面に少なくとも1層以上の樹脂層を設けた紙製食品容器用積層体において、紙支持体の樹脂層を設けていない面(以下、「非樹脂層面」ともいう。)に、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう。)が
2層以上であり、且つPVA層の塗工量の合計が0.10〜0.70g/m2塗工されていることを特徴とする紙製食品容器用積層体、およびそれを用いた紙製食品容器に関する。
【0009】
本発明において、紙支持体の非樹脂層面にはPVAが塗工される。
本発明で用いるPVAとしては、完全ケン化型PVA、部分ケン化型PVA、カルボキシ変性PVA、カチオン変性PVAなどの変性PVAなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、PVAのケン化度、重合度などの物性は特に限定されるものではないが、耐水性、皮膜強度などの点から、ケン化度が95%以上、重合度が1000〜2400である完全ケン化型PVAを使用することが好ましい。
【0010】
本発明において、紙支持体の非樹脂層面にPVAが
2層以上であり、且つPVA層の塗工量の合計が0.10〜0.70g/m2塗工されることにより、優れた効果が得られる理由は明らかではないが、次のように推測される。
紙支持体の非樹脂層面に
PVA層が2層以上且つPVA層の塗工量の合計が0.10〜0.70g/m2塗工されることにより、PVAが紙支持体を構成するパルプ同士の接着性を向上させると共に、紙支持体の表面に強度が高い皮膜が形成されるため、紙支持体の表面強度が増加し、割れを防止しているものと推測される。なお、この効果はPVA特有のものであり、他の水溶性高分子であるデンプン等ではこの効果は見られない。
【0011】
本発明において、紙支持体の非樹脂層面へのPVAの塗工には、カレンダーサイジング、2ロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等の各種塗工機や、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、スクリーン印刷機等の各種印刷機を使用することができる。
【0012】
本発明において、紙支持体の非樹脂層面へのPVAの乾燥塗工量は、割れの防止効果および成形・加工性の点から0.05〜0.80g/m
2であることが好ましく、より好ましくは0.10〜0.70g/m
2である。紙支持体の非樹脂層面へのPVAの乾燥塗工量が0.80g/m
2を超えると割れの防止効果は飽和するため、コストアップにつながる。また、成形・加工性が低下する可能性がある。
また、割れ防止効果および成形・加工性の点から、PVAは1層よりも2層以上塗工されている方が好ましい。PVAが2層以上塗工される場合、最初に塗工された(1層目の)PVAが紙支持体の表面に皮膜を形成した後に、更にその上に塗工された(2層目以降の)PVAが皮膜を形成するため、紙支持体の表面に1層塗工の場合より強固な皮膜が形成され、紙支持体の表面強度が更に増加し、効果的に割れが防止可能となるものと推測される。
【0013】
本発明において、紙支持体の非樹脂層面に塗工された前記PVA
層の上に、更にカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ということがある。)
層が塗工され
、且つポリビニルアルコール層とカルボキシメチルセルロース層の塗工量の合計が0.10〜1.20g/m2であると、割れ防止効果および成形・加工性の点から好ましい。
CMCのエーテル化度、重合度などの物性は特に限定されるものではないが、溶解性や安定性などの点から、エーテル化度が0.55〜1.0mol/C6の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明において、PVAの上にCMCが塗工され
且つポリビニルアルコール層とカルボキシメチルセルロース層の塗工量の合計が0.10〜1.20g/m2であることにより、更に優れた効果が得られる理由は明らかではないが、PVAの上に更に保水性の高いCMCが塗工されることにより、紙支持体の水分低下が効果的に抑制され、紙支持体の非樹脂層面の割れ防止効果が更に向上するものと推測される。
【0015】
本発明において、PVAの上へのCMCの塗工には、カレンダーサイジング、2ロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等の各種塗工機や、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、スクリーン印刷機等の各種印刷機を使用することができる。これらの中では、紙支持体の表面を均一、且つ低塗工量で処理できる印刷機を使用してCMCを塗工することが好ましく、グラビア印刷機を使用することがより好ましい。
本発明において、CMCの乾燥塗工量は、割れの防止効果および成形・加工性の点から0.02〜0.40g/m
2であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.30g/m
2である。CMCの乾燥塗工量が0.30g/m
2を超えると割れの防止効果は飽和するため、コストアップにつながる。また、成形・加工性が低下する可能性がある。
【0016】
本発明において、PVAの上にCMCが塗工される場合、PVAの乾燥塗工量とCMCの乾燥塗工量の合計は、割れの防止効果および成形・加工性の点から0.10〜1.20g/m
2であることが好ましく、より好ましくは0.15〜1.00g/m
2である。
【0017】
本発明において、紙支持体としては、一般的な製造方法で得られた単層、あるいは多層の紙を用いることができる。紙支持体の製造方法は特に限定されるものではないが、木材パルプ(化学パルプ、機械パルプ等)、非木材パルプ、古紙パルプ等のパルプと、必要に応じて添加する填料やその他の薬品等を水に分散した紙料を、抄紙機のワイヤー上に噴射し、ワイヤーパートで脱水、ドライヤーパートで乾燥して製造される。また、必要に応じて、紙に強度や耐水性を付与するために表面サイズ剤、耐水化剤、紙力増強剤等の薬品を、単独又は2種類以上組み合わせてサイズプレス等で紙表面を処理することや、紙の凹凸を整えるためにカレンダー処理を施すことも可能である。
【0018】
本発明の紙支持体の坪量は、100〜400g/m
2であることが好ましい。紙支持体の坪量が100g/m
2未満であると、紙製食品容器用積層体の剛性が不足するため、安定した形状の紙製食品容器を得ることが困難である。一方、400g/m
2を超えると、紙製食品容器用積層体の剛性が強すぎるため、成形・加工性が低下する可能性がある。
【0019】
本発明の紙支持体は、成形性の点から、縦方向の伸び率が2.0〜3.5%、且つ横方向の伸び率が4.5〜6.0%であることが好ましい。また、水分量は5.0〜8.0%であることが好ましい。なお、本発明において、紙支持体の伸び率および水分量は、JIS P8113およびJIS P8124に準拠して測定する。
【0020】
本発明において、紙支持体上に設ける樹脂層を構成する樹脂の種類、および樹脂層の厚さなどは、耐水性、耐油性、耐熱性等の品質要求に合わせて適宜選択することが好ましい。
本発明において使用する樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等を例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができるが、これらに限定されるものではない。
また、樹脂層の厚さは特に限定されないが、耐熱性、耐油性、耐熱性、成形・加工性等が良好であるため、通常15〜40μm程度である。
紙支持体上に樹脂層を設ける方法は、押出しラミネーション、ウェットラミネーション、ドライラミネーション、ホットメルトラミネーション、サーマールラミネーション等の各種方法が使用可能であり、特に限定されない。
【0021】
本発明の紙製食品容器用積層体は、紙支持体の片面に少なくとも1層以上の樹脂層を設け、非樹脂層面にPVAが
2層以上であり、且つポリビニルアルコール層の塗工量の合計が0.10〜0.70g/m2であることを必須の構成要因としてあればよく、紙支持体の樹脂層を設ける面(以下、「樹脂層面」ともいう。)にPVAが塗工されていてもよい。
また、紙支持体の樹脂層面やPVA塗工面(すなわち非樹脂層面)、あるいは
PVAを塗工した面上に、美麗性等を付与するための各種印刷を施すことも可能である。
【0022】
本発明において、紙製食品容器用積層体を使用した紙製食品容器を成形する方法は特に限定されるものではないが、一例として、抜き加工した罫線つきの紙製食品容器用積層体や成形機で罫線加工を施した紙製食品容器用積層体を、雄金型と雌金型からなるプレス成形機で絞込み、食品容器を成形する方法を挙げることができる。
さらに、コストや生産効率の面からは、ロール状の紙製食品容器用積層体を用いて、雄金型と雌金型からなるプレス成形機で罫線加工と打ち抜きプレス加工を連続して行い、食品容器を成形する方法であると好ましい。抜き加工した罫線つきの枚葉紙製食品容器用積層原紙を別工程でプレス加工して食品容器を成形する方法であると、工程が一つ増えることによりコストアップや生産効率低下につながる。また、工程間の運搬・保管に時間を要することにより、枚葉紙製食品容器用積層原紙にカールが生じて不良品の発生率が上がるといった問題が生じる。
【実施例】
【0023】
以下に本願の発明を詳細に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
[
参考例1]
【0024】
[参考例2]
[参考例3]
[参考例4]
[参考例5]
[参考例6]
【0025】
[参考例8]
[参考例9]
[参考例12]
[参考例13]
【0026】
[比較例1]
PVAをデンプン(SK−20、日本コーンスターチ社製)に変更した以外は実施例2と同様にして紙製食品容器を得た。
[比較例2]
PVAを塗工しなかった以外は実施例1と同様にして紙製食品容器を得た。
[比較例3]
PVAをデンプン(SK−20、日本コーンスターチ社製)をに変更し、デンプンの上にCMC(商品名:サンローズF10LC、エーテル化度:0.60mol/C6、日本製紙ケミカル社製)を乾燥塗工量が0.05g/m
2となるようにグラビア輪転印刷機(機名・型番:グラビア輪転8色機 L950 ボブストチャンブレン社製)で塗工した以外は実施例2と同様にして紙製食品容器を得た。なお、CMCは乾燥させたデンプン上に塗工した。
[比較例4]
坪量300g/m
2の紙支持体(伸び率(縦/横)=2.3%/5.1%、水分量=6.8%)の一方の面(非樹脂層面)に、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117、ケン化度:98%、クラレ社製)を乾燥塗工量が0.40g/m
2となるようにエアナイフコーターで塗工・乾燥した。
次に、グラビア輪転印刷機(機名・型番:グラビア輪転8色機 L950 ボブストチャンブレン社製)を用いて紙支持体の両面に印刷を施し、紙支持体のPVAが塗工されていない面側の印刷面上にポリブチレンテレフタレート(商品名:500FP、ウィンテックポリマー社製)を厚さ25μmとなるように押し出しラミネートした(これを、「ポリブチレンテレフタレート層A」とする。)。
次に、紙支持体のPVAが塗工されている面側の印刷面上にポリブチレンテレフタレート(商品名:500FP、ウィンテックポリマー社製)を厚さ25μmとなるように押し出しラミネートして(これを、「ポリブチレンテレフタレート層B」とする。)ロール状に巻き取り、ポリブチレンテレフタレート層A/印刷/紙支持体/PVA層/印刷/ポリブチレンテレフタレート層Bからなるロール状の紙製食品用積層体を得た。
次に、得られたロール状の紙製食品用積層体を、打ち抜き・プレス成形機(機名・型番:SDE−6016C/B0、アマダ社製)を用いて放射状の凹凸となるように容器成形用の罫線を設け、続けて非樹脂層面が紙製食品容器の外面に、樹脂層面が内面になるように縁巻きトレー形状(
図1、
図2)に抜き、成形加工をして、紙製食品容器を得た。
【0027】
以上のようにして得られた紙製食品容器について以下の評価を行った。
<割れ>
比較例4で得た紙製食品容器以外の紙製食品容器については非樹脂層面の割れの状態を、比較例4で得た紙製食品容器についてはポリブチレンテレフタレート層B面の割れの状態を、それぞれ目視で観察して評価した。
A:割れがない。
B:極く微細なひびや毛羽立ちが部分的に見られるが、割れはない。
C:点状の微細な割れが見られるが、実用上支障がない。
D:線状の割れがある(最大の割れの長さが5mm未満)。
E:線状の割れがある(最大の割れの長さが5mm以上)。
<デラミネーション>
得られた紙製食品容器を200℃で5分間加熱した後、比較例4で得た紙製食品容器以外の紙製食品容器については非樹脂層面のデラミネーション(紙支持体と樹脂層の剥離)の状態を、比較例4で得た紙製食品容器についてはポリブチレンテレフタレート層B面のデラミネーションの状態を、それぞれ目視で観察して評価した。
A:デラミネーションがない。
B:僅かにデラミネーションがあるが、実用上支障がない。
C:デラミネーションがある。
【0028】
[表1]
【0029】
【表2】