(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱ロールと、冷却ロールと、該加熱ロールと該冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型とを有する微細構造転写フィルムの製造装置を用い、少なくとも一方の面に被転写層を有するフィルムを、少なくとも以下の[I]〜[V]の工程を以下の[A]〜[C]の制御の下でこの順に通すことにより加工する微細構造転写フィルムの製造方法。
[I]転写金型を、背面から加熱ロールで加熱する転写金型加熱工程
[II]フィルムの被転写層と前記転写金型の微細構造を有する面とを対向させて、前記加熱ロールと平行に配置された、表面に弾性体の層を有するニップロールにより加圧し、前記フィルムと前記転写金型とを密着させる加圧密着工程
[III]前記転写金型と前記フィルムを密着させた状態で冷却ロールまで搬送する搬送工程
[IV]前記冷却ロールで前記転写金型と前記フィルムを密着させた状態で前記転写金型側から冷却する冷却工程
[V]前記冷却ロールに近接して平行に配置され、前記冷却ロールと逆方向に回転する剥離ロールにより前記転写金型から前記フィルムを剥離するフィルム剥離工程
[A]前記冷却ロールに、前記転写金型の搬送方向の位置を調整する手段と、前記転写金型に加わる張力を検出する手段とを設置し、前記転写金型に加わる張力を常に所定の範囲内となるように、前記冷却ロールの位置を制御する。
[B]前記転写金型に幅方向の位置を検出する蛇行検出センサーと、前記冷却ロールの角度を調整する手段とを設置し、前記転写金型の幅方向の位置が常に所定の範囲内となるように、前記冷却ロールの角度を制御する。
[C]前記フィルム剥離工程において、前記剥離ロールを、前記冷却ロールとの平行度を保持するように制御する。
加熱ロールと、冷却ロールと、該加熱ロールと該冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型とを有する微細構造転写フィルムの製造装置であって、少なくとも以下の[i]〜[v]の基本構成と、以下の[a]〜[c]の制御手段を有する微細構造転写フィルムの製造装置。
[i]転写金型の背面に接する前記加熱ロールに設けられた加熱手段
[ii]前記加熱ロールと、該加熱ロールと平行に配置され、表面に弾性体の層を有するニップロールと、前記加熱ロールと前記ニップロールの少なくとも一方に設けられた加圧機構とを備えた加圧手段
[iii]前記加熱ロールおよび/または前記冷却ロールを駆動させて、前記転写金型を搬送する搬送手段
[iv]前記転写金型の背面に接する冷却ロールに設けられた冷却手段
[v]前記冷却ロールに近接して平行に配置され、前記冷却ロールと逆方向に回転する剥離ロールを備えた剥離手段
[a]前記転写金型を懸架する冷却ロールが前記転写金型の搬送方向にスライド可能な架台に設置されており、前記架台と前記架台をスライドさせる可動手段が荷重検出器を介して連結されており、前記荷重検出器から得られる前記転写金型に加わる張力が常に所定の範囲内となるように前記可動手段による前記架台のスライド量を調整する制御手段。
[b]前記転写金型の幅方向位置を検出する蛇行検出センサーと、前記架台に設置された前記冷却ロールの角度を調整するロール傾動手段が設置されており、前記蛇行検出センサーから得られる前記転写金型の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように前記冷却ロールの傾動量を調整する制御手段。
[c]前記剥離ロールが、前記冷却ロールのロール傾動手段により、前記冷却ロールと同時に角度を調整される制御手段。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の微細構造転写フィルムの製造方法において、エンドレスベルトからなる転写金型が加熱工程における熱膨張によって伸びると、張力が低下して前記転写金型にたるみが生じ、フィルムと前記転写金型との密着状態の乱れによる成形不良や、前記転写金型とロールの間の空転といった問題が起きることがわかった。
【0006】
また成形開始前の予熱時や成形条件変更時など、前記転写金型の温度状態が変化する際に前記転写金型の幅方向で温度ムラが存在すると、熱膨張のばらつきにより、幅方向の張力不均一によって前記転写金型の蛇行が発生するという問題が生じることもわかった。
【0007】
本発明の目的はこれらの問題を解決することであり、少なくとも一方の面に被転写層を有するフィルムに、表面に微細構造を形成したエンドレスベルトからなる転写金型を押し当てて、フィルムの表面に微細構造を連続的に転写する微細構造転写フィルムの製造方法および製造装置において、成形中の前記転写金型の張力が変動することなく一定であり、前記転写金型の蛇行を抑え安定的に連続して成形できる微細構造転写フィルムの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。すなわち、
(1)加熱ロールと、冷却ロールと、該加熱ロールと該冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型とを有する微細構造転写フィルムの製造装置を用い、少なくとも一方の面に被転写層を有するフィルムを、少なくとも以下の[I]〜[V]の工程を以下の[A]
〜[C]の制御の下でこの順に通すことにより加工する微細構造転写フィルムの製造方法。
[I]転写金型を、背面から加熱ロールで加熱する転写金型加熱工程
[II]フィルムの被転写層と前記転写金型の微細構造を有する面とを対向させて、前記加熱ロールと平行に配置された、表面に弾性体の層を有するニップロールにより加圧し、前記フィルムと前記転写金型とを密着させる加圧密着工程
[III]前記転写金型と前記フィルムを密着させた状態で冷却ロールまで搬送する搬送工程
[IV]前記冷却ロールで前記転写金型と前記フィルムを密着させた状態で前記転写金型側から冷却する冷却工程
[V]前記冷却ロールに近接して平行に配置され、前記冷却ロールと逆方向に回転する剥離ロールにより前記転写金型から前記フィルムを剥離するフィルム剥離工程
[A]前記冷却ロールに、前記転写金型の搬送方向の位置を調整する手段と、前記転写金型に加わる張力を検出する手段とを設置し、前記転写金型に加わる張力を常に所定の範囲内となるように、前記冷却ロールの位置を制御する。
[B]前記転写金型に幅方向の位置を検出する蛇行検出センサーと、前記冷却ロールの角度を調整する手段とを設置し、前記転写金型の幅方向の位置が常に所定の範囲内となるように、前記冷却ロールの角度を制御する。
[C]前記フィルム剥離工程において、前記剥離ロールを、前記冷却ロールとの平行度を保持するように制御する。
【0009】
(2)さらに以下の[C1]または[C2]を満たす条件の下で加工を行う(1)に記載の微細構造転写フィルムの製造方法。
[C1]前記フィルムの幅が、前記転写金型の幅よりも広く、かつ、前記加圧密着工程において、前記フィルムの幅方向両端部が前記加熱ロールに対し離間している。
[C2]前記転写金型の幅が、前記フィルムの幅よりも広く、かつ、前記加圧密着工程において、前記フィルムが加圧される領域の幅が、前記フィルムの幅よりも狭い。
【0011】
(
3)前記冷却ロールの角度を調整する手段が、前記冷却ロールを支持する一方あるいは両方の軸受を、前記金型の搬送方向に移動させるものである(1)
または(2)に記載の微細構造転写フィルムの製造方法。
(
4)前記冷却ロールの角度調整の分解能が0.005度以下である(1)〜(
3)のいずれかに記載の微細構造転写フィルムの製造方法。
(
5)フィルムの被転写層のガラス転移温度をTgとしたとき、
前記転写金型加熱工程において、加熱後の前記転写金型の表面温度をTg+50℃からTg+100℃の範囲に、
前記加圧密着工程において、フィルムに負荷される線圧を400kN/m以上に、
前記冷却工程において、冷却後の前記転写金型表面温度をTg−40℃からTg−100℃の範囲に調整する(1)〜(
4)のいずれかに記載の微細構造転写フィルムの製造方法。
(
6)加熱ロールと、冷却ロールと、該加熱ロールと該冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型とを有する微細構造転写フィルムの製造装置であって、少なくとも以下の[i]〜[v]の基本構成と、以下の[a]
〜[c]の制御手段を有する微細構造転写フィルムの製造装置。
[i]転写金型の背面に接する前記加熱ロールに設けられた加熱手段
[ii]前記加熱ロールと、該加熱ロールと平行に配置され、表面に弾性体の層を有するニップロールと、前記
加熱ロールと前記ニップロールの少なくとも一方に設けられた加圧機構とを備えた加圧手段
[iii]前記加熱ロールおよび/または前記冷却ロールを駆動させて、前記転写金型を搬送する搬送手段
[iv]前記転写金型の背面に接する冷却ロールに設けられた冷却手段
[v]前記冷却ロールに近接して平行に配置され、前記冷却ロールと逆方向に回転する剥離ロールを備えた剥離手段
[a]前記転写金型を懸架する冷却ロールが前記転写金型の搬送方向にスライド可能な架台に設置されており、前記架台と前記架台をスライドさせる可動手段が荷重検出器を介して連結されており、前記荷重検出器から得られる前記転写金型に加わる張力が常に所定の範囲内となるように前記可動手段による前記架台のスライド量を調整する制御手段。
[b]前記転写金型の幅方向位置を検出する蛇行検出センサーと、前記架台に設置された前記冷却ロールの角度を調整するロール傾動手段が設置されており、前記蛇行検出センサーから得られる前記転写金型の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように前記冷却ロールの傾動量を調整する制御手段。
[c]前記剥離ロールが、前記冷却ロールのロール傾動手段により、前記冷却ロールと同時に角度を調整される制御手段。
(
7)さらに以下の[c1]または[c2]を満たす(
6)に記載の微細構造転写フィルムの製造装置。
[c1]前記加熱ロールと前記転写金型との接触部の幅方向両端部において、幅方向外側でロール径が小さくなるように前記加熱ロールの表面に段差を有する。
[c2]前記転写金型の幅が、前記ニップロールの幅よりも広い。
(
8)前記架台をスライドさせる可動手段がサーボモーターと送りねじからなる
(6)または(7)に記載の微細構造転写フィルムの製造装置。
(
9)前記架台をスライドさせる可動手段が流体圧シリンダからなる(
6)〜(
8)のいずれかに記載の微細構造転写フィルムの製造装置。
(
10)前記冷却ロール
のロール傾動手段が、サーボモーターと送りねじを用いて、前記冷却ロールを支持する一方あるいは両方の軸受を、前記金型の搬送方向に移動させる移動手段からなる(
6)〜(
9)のいずれかに記載の微細構造転写フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも一方の面に被転写層を有するフィルムに、表面に微細構造を形成したエンドレスベルトからなる転写金型を押し当てて、フィルムの表面に微細構造を連続的に転写する微細構造転写フィルムの製造方法および製造装置において、転写金型の張力変動や蛇行を抑え、安定的に高い生産性で高性能な微細構造転写フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の微細構造転写フィルムの製造装置は、加熱ロールと、冷却ロールと、該加熱ロールと該冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型とを有する微細構造転写フィルムの製造装置であって、少なくとも以下の[i]〜[v]の基本構成と、以下の[a][b]の制御手段を有するものである。
[i]転写金型の背面に接する加熱ロールに設けられた加熱手段
[ii]前記加熱ロールと、加熱ロールと平行に配置され表面に弾性体の層を有するニップロールと、前記両ロールの少なくとも一方に設けられた加圧機構とを備えた加圧手段
[iii]前記加熱ロールおよび/または前記冷却ロールを駆動させて、前記転写金型を搬送する搬送手段
[iv]前記転写金型の背面に接する冷却ロールに設けられた冷却手段
[v]前記冷却ロールに近接して平行に配置され、前記冷却ロールと逆方向に回転する剥離ロールを少なくとも備えた剥離手段
[a]前記転写金型を懸架する冷却ロールが前記転写金型の搬送方向にスライド可能な架台に設置されており、前記架台と前記架台をスライドさせる可動手段が荷重検出器を介して連結されており、前記荷重検出器から得られる前記転写金型に加わる張力が常に所定の範囲内となるように前記可動手段による前記架台のスライド量を調整する制御手段
[b]前記転写金型の幅方向位置を検出する蛇行検出センサーと、前記架台に設置された前記冷却ロールの角度を調整するロール傾動手段が設置されており、前記蛇行検出センサーから得られる前記転写金型の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように前記冷却ロールの傾動量を調整する制御手段
[微細構造転写フィルムの製造装置の基本構成]
図1に、本発明の実施形態を示すため、本発明の適用対象である微細構造転写フィルムの製造装置1の主要部分(基本構成)をフィルム幅方向から見た概略断面図を示す。
【0015】
図1に示すように、本発明の適用対象である微細構造転写フィルムの製造装置1の主要部分は、以下のとおりである。加熱ロール4と、冷却ロール5と、該加熱ロール4と該冷却ロール5に懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状である転写金型3とから構成される。該転写金型3の背面に接する加熱ロール4に加熱手段(図示せず)が設けられており、転写金型加熱工程が、実行される。前記加熱ロール4と、該加熱ロール4と平行に配置され、表面に弾性体の層10を有するニップロール6と、前記ニップロール6に設けられた加圧機構12とを備えた加圧手段とを有し、これにより、フィルム2の被転写層が設けられている面2aと前記転写金型3の微細構造を有する面3aとを対向させて、前記加熱ロールと平行に配置された、表面に弾性体の層を有するニップロール6により加圧し、前記フィルム2と前記転写金型3とを密着させる加圧密着工程が実行される。加圧機構12は、
図1では、ニップロール6にのみ設けられているが、加熱ロール4のみに設けても、加熱ロール4とニップロール6の両ロールに設けられていても良い。前記加熱ロール4および/または前記冷却ロール5は駆動させて、前記転写金型3を搬送する搬送手段としての機能を有し、前記転写金型3と前記フィルム2を密着させた状態で冷却ロール5まで搬送する搬送工程が実行される。また、前記転写金型3の背面に接する冷却ロール5には冷却手段(図示せず)が設けられており、これにより、前記冷却ロール5で前記転写金型3と前記フィルム2を密着させた状態で前記転写金型3側から冷却する冷却工程が実行される。また、前記フィルム2を前記転写金型3より剥離する剥離手段として、前記冷却ロール5に近接して平行に配置され、前記冷却ロール5と逆方向に回転する剥離ロール7を備えており、これにより、前記転写金型3から前記フィルム2を剥離するフィルム剥離工程が実行される。また、フィルムの搬送装置として、巻出ロール8、巻取ロール9を備えていることが好ましく、さらに、必要に応じて図示しないガイドロールを1本ないしは複数本備えていても良い。
[転写金型の張力制御および蛇行防止機構]
本発明の特徴部分である、エンドレスベルト状の転写金型の張力制御および蛇行防止機構について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
本発明の微細構造転写フィルムの製造装置における、転写金型の張力制御および蛇行防止機構の第1の実施形態の概略平面図を
図2に、フィルム幅方向から見た概略側面図を
図3に示す。
[張力制御機構]
エンドレスベルト状の転写金型3が加熱ロール4と冷却ロール5に懸架されていることは、前述のとおりであるが、本発明において、前記転写金型3を懸架する冷却ロール5は前記転写金型の搬送方向にスライド可能な架台15上に設置されており、前記架台15と前記架台15をスライドさせる可動手段19が荷重検出器20を介して連結されている。そして、前記荷重検出器20から得られる前記転写金型3に加わる張力が常に所定の範囲内となるように前記可動手段19によって前記架台15のスライド量を調整する制御手段を構成している。このように、前記可動手段19を前記転写金型の搬送方向の位置を調整する手段として、前記荷重検出器20を前記転写金型に加わる張力を検出する手段として設置されていることから、これ他を用いて前記転写金型に加わる張力を常に所定の範囲内となるように、前記冷却ロールの位置を制御することができる。かかる制御は、手動でも自動でも行うことができるが、自動で行うことが好ましい。前記架台15の移動はサーボモーター17と送りねじ18からなる可動手段19によってなされることが好ましい。また可動手段19の別の例として前記架台15の移動は油圧や空気圧を作動流体とする流体圧シリンダ(
図4の符号25)からなる可動手段19によってなされることもまた好ましい。
[蛇行防止機構]
本発明の微細構造転写フィルムの製造装置における、転写金型の蛇行防止機構としては、前記転写金型3の幅方向位置を検出する蛇行検出センサー24と、前記架台15に設置された前記冷却ロール5の角度を調整する冷却ロール傾動手段23が設置されており、前記蛇行検出センサー24から得られる前記転写金型3の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように前記冷却ロール5の傾動量を調整する制御手段を有するものである。ここで、冷却ロール傾動手段23として、例えば、冷却ロール5の両端を支持する軸受13、14のうち、一方あるいは両方の軸受を架台15上で転写金型3の搬送方向に移動させる移動手段を有しており、これにより前記冷却ロールの角度を調整するものが挙げられる。
図2および
図3に示す態様においては、一方の軸受14に移動手段を有する例を示している。かかる移動手段として、軸受14をサーボモーター21と送りねじ22を組み合わせた移動手段23を用いることが好ましい。このような機構を有することにより、転写金型3の幅方向位置が蛇行によってずれた際に、この軸受14の移動によって冷却ロール5が軸受13を支点に傾動し、転写金型3の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように調整することができる。転写金型3の幅方向位置のずれは前記蛇行検出センサー24によって検出され、そのずれ量に応じて冷却ロール傾動手段23の移動量が制御され、冷却ロール5が傾動して転写金型3の幅方向位置が常に所定の範囲内となるように維持される。かかる制御は、手動でも自動でも行うことができるが、自動で行うことが好ましい。
【0017】
従来技術では、転写金型3を懸架する際の冷却ロール5の固定位置で転写金型3の張力を調整するとともに、運転前の静止時に加熱ロール4と冷却ロール5の平行度を高精度に合わせて固定することで蛇行の発生を防止してきた。しかしながら、その場合、組立調整時の常温の状態では望んだ張力で蛇行の発生無しに運転できても、微細構造転写フィルムの製造のために加熱していった場合に、転写金型3の熱膨張による張力変動や蛇行の発生は防止できなかった。このように熱による蛇行が発生した場合に、微細構造転写フィルムの製造時の装置が運転状態にあるときにロールの固定位置を調整するのは危険を伴い、仮に調整できたとしても、転写金型3が熱膨張で伸びた状態に合わせて張力を調整した場合、微細構造転写フィルムの製造が終了して常温に戻ったときに転写金型3に過剰な張力が加わり寿命を縮めるという問題があった。
【0018】
本発明では、転写金型3を懸架するロールの一方である冷却ロール5を転写金型3の搬送方向に移動可能な架台15上に設置するとともに、荷重検出器20によって転写金型3に加わる張力を検出し、可動手段19で位置を制御することで、転写金型3の熱膨張による周長の変化に関わらず転写金型3の張力を常に所定の範囲内となるように保つことができる。また、冷却ロール5を架台15上で傾動させる機構と、転写金型3の幅方向位置を検出するセンサーを備え、転写金型3の蛇行を防止することができる。そして、本発明の最大の特徴として、これらの転写金型3の張力制御および蛇行防止を微細構造転写フィルムの製造をしながら行うことができる。その結果、微細構造転写フィルムの製造時の転写金型3の張力変動や蛇行などのばらつきを抑え、高精度な微細構造転写フィルムを安定して高い生産性で製造することが可能となる。
【0019】
図4に本発明の第2の構成例を示す。架台15と流体圧シリンダ25が荷重検出器20を介して連結されており、荷重検出器20にて検出された値に応じて流体圧シリンダ25の圧力が制御される。可動手段に流体圧シリンダを使用する場合も荷重検出器を連結する理由は、シリンダの劣化による摺動抵抗の変動や作動流体の圧力不安定によらずに転写金型3の張力を一定にするため、および、転写金型の張力を視覚的にわかりやすく表示するためである。また、
図4の構成例は、冷却ロール5を支持する軸受13、14の両方をそれぞれ架台15上で移動可能とした場合を示す。これにより、一方の軸受のみを移動可能とした場合よりも、より微細な精度で冷却ロール5の角度を調整することが可能となる。
[加圧部の構成による蛇行防止]
上記の冷却ロール5の移動および傾動に加え、転写金型3の蛇行防止においては、転写金型3だけでなくフィルム2の蛇行も防止することが好ましい。転写金型3がフィルム2と密着したまま搬送する搬送工程において、フィルム2の蛇行に引っ張られて転写金型3が一緒に蛇行してしまう場合があるためである。発明者らは、加圧密着工程においてフィルム2が高温の加熱ロール4に直接接触すると、フィルム2と加熱ロール4が局所的に粘着し、フィルム2の搬送張力が幅方向で不均一となり蛇行を引き起こすことが原因であろうとの仮説の下、フィルム2の蛇行を防止するために、フィルム2と加熱ロール4が直接接触しないようにした構成を適用することにより、さらに顕著な効果が得られることを見出したものである。かかる構成について図を基に説明する。フィルム2と加熱ロール4が直接接触しないようにする構成としては、
図5、6に示される、2種の構成が挙げられる。
【0020】
まず、共通の事項から説明する。
図5、6はいずれも、前述したようにフィルム2の被転写層と転写金型3の微細構造を有する面3aとを対向させて、加熱ロール4と平行に配置されたニップロール6により加圧する加圧密着工程における加圧の状況を示している。
図5、6はともに加熱ロール4と、加熱ロール4に対向するニップロール6により、フィルム2が転写金型3に加圧される構造を、フィルム2の搬送方向から見た側面図である。
【0022】
図5は、前記加熱ロール4と前記転写金型3との接触部の幅方向両端部において、幅方向外側でロール径が小さくなるように前記加熱ロール4の表面に段差を有する構成である。かかる構成を適用し、前記フィルム2の幅を転写金型3の幅より広くすることで、加熱ロール4の両端部の段差部4aにおいて、フィルム2の幅方向両端部を前記加熱ロール4に対して罹患させることができ、これによりフィルム2と加熱ロール4が直接接触しないようにすることができる。
【0023】
また製造方法としての観点から、加圧密着工程においてフィルム2の幅を転写金型3の幅より広くする条件を採ることは、高温に加熱された転写金型3の微細構造を有する面3aにニップロール6が直接接触すると、ニップロール6表面の弾性体の層10の熱損傷や、転写金型3の微細構造を有する面3aのキズの発生といった問題が生じることを防止するために好ましい条件となる。このような理由から、前記フィルム2の幅が、前記転写金型3の幅より広く、かつ、前記の段差部4aを設けることで、フィルム2の両端部が前記加熱ロール4と離間する条件を採ることで、フィルム2と加熱ロール4が局所的に粘着することを防止でき、フィルム2が蛇行することを抑え安定した搬送を行うことが可能となる。
【0024】
図6は、前記転写金型3の幅が、前記ニップロール4の幅よりも広い構成である。かかる構成を採ることにより、転写金型3の幅をフィルム2の幅より広くし、かつ、ニップロール6による加圧される領域の幅をフィルム2の幅より狭くする条件(
図6に図示)を採ることができる。かかる条件を適用することにより、フィルム2が幅方向全面で転写金型3によって支持されるため、フィルム2と加熱ロール4が粘着することを抑え、連続的に安定した張力状態が確保でき、フィルム2が蛇行することを抑え安定した搬送を行うことができる。
[剥離ロールの傾動]
転写金型3の蛇行防止において冷却ロール5の角度を制御する際には、剥離ロール7を、冷却ロール5との平行度を保持するように制御することが好ましい。冷却ロール5に対して剥離ロール7が傾いていた場合、転写金型3よりフィルム2が剥離するときの剥離位置が幅方向で異なり、フィルム2の幅方向で剥離温度ムラが生じたり、剥離張力の不均一によるフィルム2や転写金型3の蛇行が発生する場合がある。かかる目的のために好ましく適用される張力制御および蛇行防止機構の第3の構成例の概略平面図を
図7に、フィルム幅方向から見た概略側面図を
図8に示す。剥離ロール7が架台15上に冷却ロール5と近接して平行に設置され、剥離ロール7を支持する軸受26、27のうち一方の軸受27が、冷却ロール5を支持する一方の軸受14とともに、サーボモーター21と送りねじ22からなる冷却ロール傾動手段23によって、架台15上で転写金型3の搬送方向に移動させる移動手段を有している。これにより、前記転写金型3の蛇行防止のために前記冷却ロール5を傾動させたときに、前記剥離ロール7が前記冷却ロール5の前記ロール傾動手段23により、前記冷却ロール5と同時に角度を調整される。かかる装置構成を適用することにより、前記フィルム2は幅方向に均一な温度および剥離張力で剥離される。かかる構成を採る場合には、前記冷却ロール傾動手段23によって前記冷却ロール5と前記剥離ロール7を傾動させたときに、両ロールの平行を保つために前記剥離ロール7の軸受26,27の間の距離が前記冷却ロール5の軸受13,14の間の距離と等しく、かつ、両ロールの中心が前記転写金型3の幅方向中心断面上に位置するように設置される必要がある。
【0025】
なお、
図7、8において剥離ロール7はフィルム2の冷却ロール5に対する抱き付き角が90度となるように配置されているが、0〜180度となる範囲で他の位置に配置されていても良い。フィルム2の冷却ロール5に対する抱き付き角が大きくなるほど、フィルム2が冷却される時間が長くなり、フィルム2を十分に冷やすことが可能となる。
【0026】
以下に各構成部材の構造について説明する。本発明において用いられる転写金型3は、表面に微細構造を有する面を加工されたエンドレスベルト状の転写金型である。材質は強度と熱伝導率が高い金属が好ましく、例えばニッケルや鋼、ステンレス鋼、銅などが好ましい。また、上記の金属ベルトの表面に鍍金を施したものを使用してもよい。
【0027】
転写金型3の表面に微細構造を形成する方法については、金属ベルトの表面に直接切削やレーザー加工を施工する方法、金属ベルトの表面に形成した鍍金皮膜に直接切削やレーザー加工を施工する方法、微細構造を内面に有する円筒状の原版に電気鋳造を施す方法、金属ベルトの表面に微細構造面を有する薄板を連続して張り付ける方法などが挙げられる。
【0028】
エンドレスベルト状の金属ベルトは、所定の厚み、長さを持つ金属板の端部同士を突き合わせ溶接する方法、所定の倍の厚みの金属板を所定の半分の長さで溶接してエンドレス状にした後に圧延する方法、などによって製造される。このとき、厚みは金属ベルトの強度とハンドリング性等の理由により、0.1〜0.4mmの範囲とすることが好ましい。この範囲よりも厚みが小さくなると、加熱ロール4と冷却ロール5によって懸架されるときに与えられる張力により、金属ベルトが破断あるいは塑性変形する場合がある。一方、この範囲よりも厚みが大きい場合、金属ベルトの曲げ剛性が大きくなりすぎて、加熱ロール4および冷却ロール5に懸架したり、これらのロールに懸架した状態で搬送させることが難しくなる。
【0029】
エンドレス状の金属ベルトの表面に鍍金を施す場合は、鍍金の材質はニッケルや銅などが好ましい。また、金属ベルトの厚みは0.1〜0.3mm、鍍金の厚みは0.03〜0.1mmの範囲とすることが好ましい。金属ベルトの厚みに対して鍍金の厚みが大きくなると、金属ベルトと鍍金の境界面で剥離が発生する恐れがある。一方、鍍金の厚みが小さすぎると、微細構造を精度よく加工することが困難となる。
【0030】
エンドレスベルト状の転写金型の製造方法の一例を以下に示す。
まず、薄肉のステンレス鋼板の端部を突き合わせ溶接し、エンドレス状の金属ベルトに加工する。続いて、この金属ベルトをロールにはめて固定し、表面にニッケル鍍金処理を施す。その後、旋盤加工機にて金属ベルトの鍍金層に所定の微細構造を切削加工する。そして、切削加工を施した金属ベルトをロールより取外すことで、表面に所定の微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型が得られる。
【0031】
微細構造とは、高さ10nm〜1mmの凸形状がピッチ10nm〜1mm、より好ましくは高さ1μm〜100μmの凸形状がピッチ1μm〜100μmで周期的に繰り返された形状のことを示し、例えば、三角形状の溝が複数個ストライプ状に並んでいるものであったり、矩形、半円形状もしくは半楕円形状等でも良い。さらには溝が直線である必要はなく、曲線のストライプパターンでも良い。また、その稜線方向はベルトの周方向に限らず幅方向であっても良い。さらに、微細構造は他にも直線状あるいは曲線状に連続したものに限られず、半球や円錐や直方体などの凸形状あるいは凹形状がドット状に離散的に配置されたものでも良い。
【0032】
図2、3に示すように、転写金型3は加熱ロール4と冷却ロール5に懸架され、冷却ロール5は軸受13、14によって回転可能なように支持された状態で架台15上に設置される。そして架台15はスライドレール16により、転写金型3の搬送方向に移動可能となっている。このとき、架台15およびスライドレール16は水平な面に設置されており、可動方向の外力に対して極めて小さい抵抗で移動することが好ましい。架台15はサーボモーター17と送りねじ18を組み合わせてなる可動手段19と荷重検出器20を介して連結されており、荷重検出器20は架台15の可動方向に加わる力を測定する向きで接続されている。よって、架台15が移動し、転写金型3が加熱ロール4と冷却ロール5の間にテンションのかかった状態で懸架されたとき、荷重検出器20には転写金型3の上下面に加わっている張力とほぼ同等の力が負荷される。サーボモーター17と荷重検出器20は図示しない制御回路によって接続され、荷重検出器20の検出値の変動に合わせて可動手段19の移動量が制御され、転写金型3に加わる張力を所定の範囲内となるように保たれる。
【0033】
冷却ロール5を支持する軸受のうち一方の軸受14は、架台15上に設置されたサーボモーター21と送りねじ22の組み合わせからなる冷却ロール傾動手段23によって、架台15上で更に転写金型3の搬送方向に移動可能となっている。このとき、もう一方の軸受13は架台15上に固定されており、軸受14が架台15上で移動することで、冷却ロール5の回転軸が軸受13を支点に回転し、加熱ロール4に対して傾動する。冷却ロール5の回転軸の角度を決める軸受14の位置は転写金型3の幅方向位置に合わせて制御され、
図2において、加熱ロール4と冷却ロール5が平行なときの軸受14の位置を基準とし、転写金型3の幅方向位置が
図2のy1方向にずれたとき軸受14はx1方向に調整され、転写金型3がy2方向にずれたとき軸受14はx2方向に調整されることでずれを修正される。転写金型3の幅方向位置の変動は蛇行検出センサー24によって監視される。
図9に蛇行検出センサー24と転写金型3を、フィルム搬送方向下流側から見たときの概略側面図を示す。蛇行検出センサー24は発信側と受信側に分かれた光量検出式等の非接触のラインセンサーであり、発信光量の一部が転写金型3によって遮られるように、転写金型3の幅方向端部に被さるように設置される。そして、受信側が受け取る光量の大小によって転写金型3の幅方向位置を検出する。サーボモーター21と蛇行検出センサー24は図示しない制御回路によって接続され、蛇行検出センサー24の検出値に合わせて冷却ロール傾動手段23の移動量が定められる。その結果、冷却ロール5の角度が制御され、転写金型3の蛇行が防止される。
【0034】
なお、転写金型3の幅方向位置を高精度に位置決めするために、冷却ロール5の角度を高精度に制御することが好ましく、具体的には冷却ロール5の角度分解能を0.005度以下とすることが好ましい。ここで冷却ロール5の角度分解能とは、転写金型3の蛇行修正のために冷却ロール5を傾動させる際に、加熱ロール4の回転軸に対して冷却ロール5の回転軸の角度が変化する最小量のことを示す。冷却ロール5の角度分解能を0.005度以下とすることで、蛇行修正時に転写金型3の幅方向位置が揺動・発散することなく、中心の基準位置に速やかに収束させることができるため好ましい。その結果、転写金型3が常に幅方向の中心に位置し、微細構造転写フィルムを安定して連続的に製造することが可能となる。冷却ロール5の角度分解能は両軸受13、14の支点間距離と軸受14の移動分解能によって定まり、例えば支点間距離が600mmであれば、軸受14の移動分解能を0.05mmとすると、冷却ロール5の角度分解能は約0.0048度となる。
【0035】
続いて各ロール部材の構成について説明する。
ニップロール6は芯層の外表面に弾性体の層10を有する構造である。芯層は、強度および加工精度が求められ、例えば鋼や繊維強化樹脂、セラミックス、アルミ合金などが適用される。また、弾性体の層10は、加圧により変形する層であり、ゴム、樹脂、もしくはエラストマー材質等が好ましく適用される。芯層はその両端部で軸受11によって回転可能なように支持されており、さらに前記軸受11は、シリンダなどの加圧機構12と接続されている。ニップロール6はこの加圧機構12のストロークにより開閉し、フィルム2を加圧または開放する。
【0036】
また、ニップロール6は所望のプロセスやフィルム材質に合わせて、温調機構を有しても良い。温調機構としては、ロール内部を中空にしてカートリッジヒーターや誘導加熱装置を埋め込んだり、内部に流路を加工して油や水、蒸気等の熱媒を流すことにより、ロール内部から加熱する構造でも良い。また、ロール外表面付近に赤外線加熱ヒーターを設置して、ロール外表面から加熱する構造でも良い。
【0037】
ニップロール6の加工精度は、JIS B 0621(改訂年1984)にて定義される円筒度公差において0.03mm以下、円周振れ公差において0.03mm以下であることが好ましい。これらの値が大きくなりすぎると、加圧時の加熱ロール4とニップロール6の間に部分的な隙間ができるため、フィルム2を均一に加圧できなくなり、フィルム2の被転写層が設けられている面2aに転写ムラが生じる場合がある。また、弾性体の層10の表面粗さは、JIS B 0601(改訂年2001)にて定義される、算術平均粗さRaが1.6μm以下のものが好ましい。Raが1.6μmを超えると、加圧時にフィルム2の裏面に、弾性体の層10の表面形状が転写してしまう場合があるためである。
【0038】
ニップロール6の弾性体の層10の耐熱性は、160℃以上の耐熱温度を有するものが好ましく、さらに好ましくは180℃以上の耐熱温度を有するものが好ましい。ここで耐熱温度とはその温度で24時間放置したときの引張強さの変化率が10%を超えるときの温度を言う。
【0039】
弾性体の層10の材質としては、例えばゴムを用いる場合には、シリコーンゴムやEDPM(エチレンプロピレンジエンゴム)、ネオプレン、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)、ウレタンゴム、NBR(ニトリルゴム)、エボナイトなどを用いることができる。更に高い弾性率と硬度を求める場合には、カレンダーローラ用樹脂としてゴムメーカ各社から上記ゴムに特殊な処方を用いたものや、じん性を向上させた硬質耐圧樹脂(例:ポリエステル樹脂)を用いることができる。
図10は加圧力が与えられたときのニップロール6のみを取り出して、フィルム2の幅方向から見た概略側面図である。このとき、弾性体の層10の厚さ方向には変形が生じ(その際の変形量δとする)、これにともないニップロール6とフィルム2は接触幅Bをもって接触する。弾性体の層10の変形量δを制御するために、好ましくは弾性体の層10のゴム硬度がASTM D2240:2005(ショアD)規格で70〜97°の範囲であることが好ましい。これは、前記硬度が70°を下回ると弾性体の層10の変形量δが大きくなり、フィルム2との接触幅Bが大きくなりすぎて、微細構造の転写に必要な圧力を確保することができなくなる恐れがあり、また硬度が97°を超えると、逆に該層の変形量δが小さくなり、接触幅Bが小さくなりすぎて、微細構造の転写に必要な加圧時間が確保できない恐れがあるためである。
【0040】
次に、ニップロール6と転写金型3を挟んで対向する加熱ロール4について説明する。加熱ロール4はニップ時に荷重を受けるので、強度および加工精度が求められ、さらに加熱手段を含む。材質としては、例えば鋼や繊維強化樹脂、セラミックス、アルミ合金などが考えられる。また、加熱手段としては内部を中空にしてカートリッジヒーターや誘導加熱装置を設置したり、内部に流路を加工して油や水、蒸気等の熱媒を流すことにより、ロール内部から加熱する構造でも良い。また、ロール外表面付近に赤外線加熱ヒーターや誘導加熱装置を設置して、ロール外表面から加熱する構造でも良い。
【0041】
加熱ロール4の加工精度も、前述したニップロール6と同じく、JIS B 0621(改訂年1984)にて定義される円筒度公差において0.03mm以下、円周振れ公差において0.03mm以下であることが好ましい。これらの値が大きくなりすぎると、加圧時の加熱ロール4とニップロール6の間に部分的な隙間ができるため、フィルム2を均一に加圧できなくなり、フィルム2の被転写層が設けられている面2aに転写ムラが生じる場合がある。また、加熱ロール4の表面粗さは、JIS B 0601(改訂年2001)にて定義される、算術平均粗さRaが0.2μm以下のものが好ましい。Raが0.2μmを超えると、転写金型3の裏面に加熱ロール4の形状が転写し、さらにそれがフィルム2の被転写層が設けられている面2aに転写してしまう場合があるためである。
【0042】
加熱ロール4の表面には、硬質クロムめっき、セラミック溶射、ダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティングなどの高硬度皮膜の形成処理を施すことが好ましい。なぜなら、加熱ロール4は常に転写金型3と接触しているうえ、ニップロール6による加圧力を受けるため、その表面は非常に磨耗しやすく、加熱ロール4の表面が磨耗したり、傷がはいったりすると、前述したようなフィルムの転写ムラや、フィルムへのロール表面形状の転写といった問題が生じるためである。
これらの好ましい加圧条件について以下に説明する。
【0043】
加熱ロール4とニップロール6の相対位置精度は、JIS B 0621(改訂年1984)にて定義される平行度公差において、0.1mm以下とすることが好ましい。平行度公差が0.1mm超となった場合、フィルム2に負荷される加圧力が幅方向で均一とならず、転写ムラが生じたり、フィルムの蛇行が発生する場合がある。
【0044】
また、両ロールの加圧時のたわみ量の合計は、ニップロール6と転写金型3によるフィルム2の加圧領域の幅方向長さW内において50μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは30μm以下とすることが好ましい。たわみ量が50μm超となると、ニップロール6の弾性体の層10が変形に追従しきれなくなり、フィルム2に負荷される加圧力が不均一となる。
【0045】
好ましいニップ圧は、
図10に示されるように、加圧機構12によりニップロール6に与えられる力P、フィルム2とニップロール6の接触長さBとし、
図5、6に示されるようにフィルム2が加圧される領域の幅をWとしたときに、σ=P/BWで定義される見かけのニップ圧σを80MPa以上とすることが好ましく、さらに好ましくは100MPa以上とすることが好ましい。また、弾性体の層10の加圧距離、すなわち接触長さBは、4〜8mmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは5〜7mmの範囲内であることが好ましい。接触長さBが4mmよりも狭くなると、フィルム2への微細構造転写に十分な加圧時間が確保できなくなる。一方、8mmよりも広くなると、前述のニップ圧を十分な値で確保することが難しくなる。また、ニップロールに与えられる力Pを加圧領域の幅Wで割ったP/Wは線圧と定義され、この値は単位幅あたりに加わるニップ荷重を示す。線圧P/Wの範囲は400kN/m以上とすることが好ましく、さらに好ましくは500kN/m以上とすることが好ましい。
【0046】
冷却ロール5は例えば内部に通水路が設けられ、一定の温度の水を連続して循環させる水冷式の冷却手段などによって冷却されることが好ましい。そして転写金型3との接触面における熱伝導により転写金型3を冷却する。
【0047】
剥離ロール7は冷却ロール5と同様に冷却手段を内蔵しており、フィルム2を裏面(転写金型と接していない側の面)側から冷却し、転写金型3からの剥離を補助する役割を果たす。また、剥離ロール7は流体圧シリンダなどにより冷却ロール5に対して押し当てられる構造であってもよい。剥離ロール7のフィルム2に対する加圧力は特に制限されず、剥離ロール7の周面がフィルム2の裏面に密着していればよい。
【0048】
巻出ロール8および巻取ロール9はともにフィルム2を巻きつけるコアを固定できる構造となっており、端部はモータ等の駆動手段と連結され、速度を制御しながら回転可能となっている。また、トルク制御により、フィルム2に与えられる張力を調整できることが好ましい。
【0049】
各ロールの端部は、ころがり軸受などにより回転支持される。加熱ロール4はモータ等の駆動手段と連結され、速度を制御しながら回転可能となっている。また冷却ロール5はエンドレスベルト状の転写金型3を通じて、加熱ロール4の駆動力により回転することが好ましい。搬送速度は微細構造の転写性と微細構造転写フィルムの生産性のバランスを考慮して決定されるが、微細構造を高精度に転写しながら生産性を高くするために、速度は1〜30m/分の範囲より決定されることが好ましい。ニップロール6の駆動手段は、加熱ロール4の端部とチェーンまたはベルトなどで連結し、加熱ロール4と連動して回転できるようにしたり、あるいは、加熱ロール4と速度を同期可能なモータなどを用いて独立して回転させることが好ましいが、回転自在の構造とし、フィルム2との摩擦によって回転されるようにしても良い。
【0050】
なお、各ロールを支持する軸受は、そのロールの質量や受ける負荷、回転速度などに応じて設計されるが、冷却ロール5および剥離ロール7を支持する軸受には調心式の軸受を用いることが望ましい。これらのロールに調心式でない軸受を用いた場合、ロールが傾動したときに軸受をこじって損傷する場合がある。
【0051】
上記の装置を用いて微細構造が表面に形成されたフィルムの製造方法の一例を
図1、2、6を用いてを説明する。
【0052】
まず製造方法の準備段階として、フィルム2を巻出ロール8より引き出し、ニップロール6を開放した状態で、加熱ロール4と冷却ロール5に懸架された転写金型3上に沿わせ、剥離ロール7を経由し、巻取ロール9で巻き取っている状態とする。なお、加圧密着工程におけるフィルム2の蛇行を防止するため、該加圧密着工程における加圧の状況は
図6に示すように転写金型3の幅が加圧領域の幅より広く、フィルム2が全面で転写金型3に支持される構成とする。
【0053】
続いて、駆動手段によりフィルム2を低速で搬送しながら、加熱ロール4の加熱手段及び冷却ロール5の冷却手段を作動し、加熱ロール4及び冷却ロール5を介してそれぞれのロール上での転写金型の表面温度が所定の温度になるまで温調する。搬送しながら温調する理由は、転写金型は搬送状態において加熱及び冷却を繰り返して各位置での温度が平衡状態となる必要があること、搬送していないとフィルム2の加熱ロール4上に位置する部分が蓄熱し、そこでフィルムが溶けて破れてしまうからである。加熱ロール4上での転写金型の表面温度、冷却ロール5上での転写金型の表面温度の条件は、フィルム2の材質、転写金型3の微細構造の形状、アスペクト比等に依存する。フィルム2の被転写層のガラス転移温度をTgとしたとき、加熱ロール4上での転写金型の表面温度はTg+50℃からTg+100℃、冷却ロール5上での転写金型の表面温度はTg−40℃からTg−100℃の範囲で設定されることが好ましい。また、温調中の搬送速度は0.1〜5m/分とすることが好ましく、更に好ましくは0.1〜1m/分とすることが好ましい。
【0054】
加熱ロール4及び冷却ロール5の表面温度が設定値まで温調されたら、微細構造転写フィルムの製造速度で搬送すると同時に、ニップロール6を閉じ、加熱ロール4とニップロール6でフィルム2及び転写金型3を加圧し、転写金型3の微細構造面3aの形状をフィルム2の被転写層が設けられている面2aに加圧により密着させる。このときの条件として、微細構造転写フィルムの製造速度は1〜30m/分、線圧は400kN/m以上の範囲で設定されることが好ましい。
【0055】
微細構造転写フィルムの製造方法は、転写金型の周回動作に合わせて各工程を並べると、転写金型加熱工程、加圧密着工程、搬送工程、冷却工程、フィルム剥離工程から構成される。転写金型3は加熱ロール4と接触する部分において、常に高温の加熱ロール4からの熱伝導により加熱され、被転写層を有するフィルムと共に加熱ロール4とニップロール6によって被転写層を有するフィルムと共に加圧されるまでに、転写金型3の温度は加熱ロール4の表面温度まで昇温される(転写金型加熱工程)。被転写層を有するフィルム2は、加熱ロール4とニップロール6による加圧部において、加熱された転写金型3に被転写層を有する面を押し当てられて密着し、軟化したフィルムを構成する樹脂が転写金型3の微細構造面3aのパターン内に充填される(加圧密着工程)。転写金型3に加圧されたフィルムは、転写金型3と密着したまま冷却ゾーンまで搬送される(搬送工程)。ここで冷却ゾーンとは転写金型3と冷却ロール5が接触している範囲を示す。前記フィルム2は該冷却ゾーンにおいて、冷却ロール5との熱伝導により、転写金型3ごとフィルムを構成する樹脂のガラス転移点以下まで冷却される(冷却工程)。冷却後のフィルムは剥離ロール7により、冷却ロール5から連続的に剥がすように離型される(フィルム剥離工程)。剥離後のフィルムは巻取ロール9に巻き取られる。
【0056】
そして上記の方法にて微細構造転写フィルムを製造している間中、
図2に示す荷重検出器20によって転写金型3にかかる張力が、蛇行検出センサー24によって転写金型3の幅方向位置が、それぞれ監視される。そして、それぞれの検出値が予め設定された所定の範囲内となるように、可動手段19、冷却ロール傾動手段23の移動量が制御され、その結果、転写金型3の張力および幅方向位置が常に所定の範囲内に保たれる。
【0057】
本発明に適用されるフィルム2に用いられる被転写層の材料は、熱可塑性樹脂を主たる成分とした熱可塑性樹脂が用いられ、具体的に好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。このなかで共重合するモノマー種が多様であり、かつそのことによって材料物性の調整が容易であるなどの理由から特にポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂またはこれらの混合物から選ばれる熱可塑性樹脂を主成分として含有いることが好ましく、上述の熱可塑性樹脂の含有率は50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
フィルム2は上述の樹脂の単体からなるフィルムであっても構わないし、複数の樹脂層からなる積層体であってもよい。単体からなるフィルムの場合、両表面に被転写層を有するフィルムとして扱う。複数の樹脂層からなる積層体の場合、単体フィルムと比べて、易滑性や耐摩擦性などの表面特性や、機械的強度、耐熱性を付与することができる。このように複数の樹脂層からなる積層体とした場合はフィルム全体が前述の熱可塑性樹脂を主たる成分とする要件を満たすことが好ましいが、フィルム全体としては前記要件を満たしていなくても、少なくとも前記要件を満たす層が表層に形成されていれば容易に表面を形成することができる。特に、微細構造転写フィルムの加工性を良くするために転写金型温度を高温にしたい場合は、表層にガラス転移点が低く微細構造を転写しやすい樹脂、芯層にガラス転移点が高く強度の強い樹脂、という構成のフィルムを用いることで、フィルムの平面性を維持しつつ、フィルムの加工性を高めることができる。
【0059】
以上の微細構造転写フィルムの製造方法を用いれば、加熱ロールと冷却ロールに懸架された表面に微細構造を有するエンドレスベルト状の転写金型を用い、フィルムの表面に微細構造を連続的に転写する際に、転写金型の張力変動や蛇行を抑え、安定的に連続して高い生産性で高精度な転写フィルムを製造することができる。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
転写金型の張力制御および蛇行防止機構として
図2の構成を、加圧手段として
図5の構成を有する装置を用いた。
【0061】
フィルム2には、ポリカーボネート樹脂を芯層とし、その両面に被転写層としてPMMA樹脂を積層した、3層積層フィルムを共押出しにより作成し用いた。該フィルムの総厚みは200μm、各層の積層比(厚み比)はおよそ1:8:1であり、幅は220mmとした。
【0062】
転写金型3は厚み0.2mmのステンレス鋼ベルトの表面に厚み0.1mmのニッケル鍍金をしたものに、ピッチ40μm、深さ20μmのV溝形状を該ベルトの周方向と平行に切削加工して作成した。また、該ベルトの幅は200mm、周長は1200mmとした。そして、転写金型3に加える張力は6kN/mとし、装置運転中は常にこの値を保つように架台15の位置を制御した。また、転写金型3の幅方向位置を蛇行検出センサー24で監視し、転写金型3の幅方向位置が常に中央となるように、冷却ロール5の角度を0.005度単位で制御した。
加熱ロール4は炭素鋼からなる筒状の芯材の表面に硬質クロム鍍金をしたものを用いた。加熱ロール4の転写金型3を懸架する中央部の外径は180mm、幅方向長さは220mmとした。また、加熱手段には加熱ロール内部に備えた誘導加熱装置を用い、微細構造転写フィルムの製造時に加熱ロール4の表面温度を180℃まで加熱した。
【0063】
冷却ロール5は加熱ロール4と同様に、炭素鋼を芯材とし、表面に硬質クロム鍍金をしたものを用いた。冷却ロール5は内部を循環する流水により、常に表面温度20℃に保った。
ニップロール6は外径が160mmの炭素鋼からなる筒状の芯材表面に、弾性体の層10としてポリエステル樹脂(硬度:ショアD86°)を20mmの厚みで被膜したものを用いた。加圧領域の幅は220mmとし、転写金型3の全幅(200mm)にまたがってフィルム2を加圧する構成とした。
【0064】
加圧機構12には空気圧シリンダを用い、ニップロール6に対し加圧力100kNを負荷した(線圧:500kN/m)。このとき、ニップロール6とフィルム2との接触幅Bを、圧力測定フィルム(プレスケール、富士フイルム株式会社製)を用いて確認したところ5mmであった。これより、フィルム2に負荷される見かけのニップ圧σ=100MPaと計算された。
【0065】
製造条件は次の通りとした。まず、室温状態で微細構造転写フィルムの製造速度1m/分で10分間、加圧も加熱もなしでフィルムを搬送した。次に、1m/分でフィルムの搬送を続けながら、加熱ロール4の表面温度を180℃まで30分かけて加熱した。そして加熱ロール4の加熱完了後、速度を10m/分にしてニップロール6で加圧し、10分間連続で微細構造転写フィルムを製造した。なお、装置運転中は常に蛇行検出センサー24で転写金型3の幅方向位置を監視し、もし転写金型3が幅方向どちらかに対して10mm以上蛇行した場合は装置を停止するものとした。
【0066】
本実施例では、転写金型3の表面温度を180℃まで加熱するまではほぼ蛇行を抑えることができ、ニップロール6で加圧を始めてからはフィルム2の僅かな蛇行が見られたものの、転写金型3が幅方向で10mm以上蛇行することはなく、10分間連続で微細構造転写フィルムを製造している間、搬送することができた。製造中の転写金型3の張力のばらつきは設定値の±10%以内であり、蛇行は中心の基準位置から±3mm以内であった。
【0067】
(実施例2)
転写金型の張力制御および蛇行防止機構として
図2の構成を、加圧手段として
図6の構成を有する装置を用いた。
【0068】
フィルム2の幅を180mm、ニップロール6の加圧領域の幅を160mmとし、フィルム2が全面で転写金型3(幅200mm)に支持され、フィルムの幅よりも狭い範囲で加圧される構成とした。また、加圧機構12によって負荷する圧力は80kN(線圧500kN/m)とした。このとき、ニップロール6とフィルム2の接触幅Bは5mmであり、見かけのニップ圧σ=100MPaであった。その他の構成および製造条件については実施例1と同様である。
本実施例では、最初の室温状態での搬送から10分間連続で微細構造転写フィルムの製造を完了するまで、転写金型3およびフィルム2の大きな蛇行無しに、安定して連続して製造することができた。また、10分間連続で微細構造転写フィルムを製造している間の転写金型3の張力のばらつきは設定値の±5%以内であり、蛇行は中心の基準位置から±1mm以内であった。
比較例
転写金型3の張力を最初に室温状態で6kN/mに設定し、装置運転中は荷重検出器20による検出は行うが、張力の制御は行わないこと、また、冷却ロール5の角度調整も同様に、最初に室温状態で転写金型3が中心の基準位置にある状態で、加熱ロール4と冷却ロール5が平行になる角度に合わせ、装置運転中の角度制御は行わないこととした以外は、実施例2と同じ条件で、微細構造転写フィルムを製造した。
【0069】
本例においては、最初のフィルム搬送のみのときは安定して搬送されたが、加熱ロール4の加熱が始まってから徐々に転写金型3の張力低下と蛇行が始まり、10m/分での製造を開始してから約2分後に、転写金型3の幅方向位置が10mm以上蛇行し装置を停止した。また、装置停止直前には転写金型3の張力は2kN/mまで低下していた。