特許第5884660号(P5884660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884660
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】燃料フィルターのブラケット
(51)【国際特許分類】
   B60K 15/077 20060101AFI20160301BHJP
   F02M 37/22 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   B60K15/077 D
   F02M37/22 H
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-149025(P2012-149025)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-8940(P2014-8940A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄隆
(72)【発明者】
【氏名】位田 計人
(72)【発明者】
【氏名】大泉 洋
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直美
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−199102(JP,A)
【文献】 特開2007−261349(JP,A)
【文献】 実開平02−024062(JP,U)
【文献】 特開2006−132362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/077
F02M 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料フィルターを支持する支持部を有する第一ブラケット部と、
車体に固定される車体固定部を有し、前記第一ブラケット部にも固定される第二ブラケット部と、
前記第一ブラケット部に設けられ、前記燃料フィルターのニップルに近接する位置で前記ニップルと前記燃料フィルターの隣接部品との間を区画するように設けられた腕部と、
前記第二ブラケット部に設けられ、外力による前記隣接部品と前記腕部との接触時に変形する変形部と
を備えたことを特徴とする、燃料フィルターのブラケット。
【請求項2】
前記腕部が、前記ニップルと前記隣接部品との間で先端側を前記ニップル側に屈曲させた形状に形成される
ことを特徴とする、請求項1記載の燃料フィルターのブラケット。
【請求項3】
前記腕部から前記隣接部品に向かう方向に突設され、前記腕部の先端から前記支持部にかけて線状に設けられるビード部を備えた
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の燃料フィルターのブラケット。
【請求項4】
前記第一ブラケット部と前記第二ブラケット部とを固定する第一固定部と、
前記第一ブラケット部と前記第二ブラケット部とを固定し、前記第一固定部よりも前記腕部に近い位置に設けられた第二固定部とを備え、
前記支持部が、前記第一固定部及び第二固定部間に設けられるとともに、
前記変形部が、前記第一固定部及び前記車体固定部間に設けられる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の燃料フィルターのブラケット。
【請求項5】
前記変形部が、上面視においてクランク形状に形成される
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の燃料フィルターのブラケット。
【請求項6】
前記燃料フィルターの外周を覆って設けられ、少なくとも前記第一固定部で前記第一ブラケット部及び前記第二ブラケット部に固定されるプロテクター部を備えた
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の燃料フィルターのブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料フィルターを車体に取り付けるためのブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃料配管系統に設けられる燃料系部品をエンジンルーム内に取り付けるためのブラケットとして、外力による燃料系部品の損傷を軽減するための構造を備えたものが開発されている。とりわけ、燃料系部品のうちフューエルフィルターやセジメンターといった燃料フィルターには、燃料配管を介して常に燃料が流入する。そのため、これらの燃料フィルター用のブラケットには、単に燃料フィルターを車体に固定する機能だけでなく、車両衝突時の燃料漏れを防止する機能が求められる。
【0003】
例えば、燃料フィルターの上部及び下部を車体に対して固定するブラケットにおいて、エンジンの干渉を受けにくい部位を上部の固定部とし、エンジンの干渉を受けやすい部位を下部の固定部とするものが提案されている(特許文献1参照)。ブラケットの固定対象となる車体とエンジンとの関係で、干渉の受けやすさを基準として固定部の位置を設定することで、燃料フィルターの上部を大きく変位させることなく、その下部を後方に変位させることが可能となり、燃料フィルターの保護性を高めることができる。
【0004】
また、燃料フィルターの周囲に緩衝材としてのプロテクターを配置し、プロテクターと車体とを締結するための固定用穴を車体前後方向に延びる長穴とすることも提案されている(特許文献2参照)。このような構造により、プロテクターへの衝撃作用時に燃料フィルターを車体後方に移動させることができ、衝撃を緩衝して燃料フィルターの保護性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−132362号公報
【特許文献2】特開2006−199102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、燃料フィルター自体が無傷であっても、燃料フィルターと燃料配管との接続部位に僅かな損傷を受けただけで、燃料漏れが発生するおそれがある。特に、ニップルを介して燃料を出し入れする汎用の燃料フィルターでは、ニップルがフィルター本体から外側に突出して設けられる場合があり、外力による損傷を受けやすい。そのため、燃料フィルターのみの保護性を向上させるたけでなく、燃料配管材との接続部位の保護性も向上させうるブラケット構造が待望されている。
【0007】
なお、燃料フィルターと燃料配管材との接続部位の構造をより堅固にすることで、損傷を受けにくくすることも考えられる。しかしこの場合、燃料フィルター及び燃料配管材の双方の設計を変更しなければならず、製造コストを削減することが困難となる。また、構造的な強度や剛性を高めることで、装置サイズや重量が大きくなりやすいというデメリットが生じる。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、燃料フィルターのブラケットに関し、燃料フィルターと燃料配管との接続部位の保護性を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する燃料フィルターのブラケットは、燃料フィルターを支持する支持部を有する第一ブラケット部と、車体に固定される車体固定部を有し、前記第一ブラケット部にも固定される第二ブラケット部とを備える。
また、前記第一ブラケット部に設けられ、前記燃料フィルターのニップルに近接する位置で前記ニップルと前記燃料フィルターの隣接部品との間を区画するように設けられた腕部を備える。さらに、前記第二ブラケット部に設けられ、外力による前記隣接部品と前記腕部との接触時に変形する変形部を備える。
【0010】
前記燃料フィルターには、燃料中に含まれる異物を濾過するためのフューエルフィルターや燃料中に水分を除去するためのセジメンター等が含まれる。
前記燃料フィルターに外力が作用した結果、前記腕部が前記隣接部品と接触すると、その前記接触箇所が前記第一ブラケット部の回転中心となる。前記第一ブラケット部は、前記外力による前記変形部の変形量に応じて、前記接触箇所を中心として回動方向に移動する。また、前記ニップルは前記第一ブラケット及び前記燃料フィルターとともに回動方向に移動し、前記ニップルと前記腕部との間の距離が維持される。前記ニップルが前記腕部に近接する位置にあるため、回動方向への移動距離は僅かとなる。
【0011】
(2)また、前記腕部が、前記ニップルと前記隣接部品との間で先端側を前記ニップル側に屈曲させた形状に形成されることが好ましい。この場合、前記腕部の屈曲点が前記回動中心として機能しやすくなる。
(3)また、前記腕部から前記隣接部品に向かう方向に突設され、前記腕部の先端から前記支持部にかけて線状に設けられるビード部を備えることが好ましい。この場合、前記腕部の剛性が高まり、前記腕部の変形が抑制されるため、前記第一ブラケット部が回動方向に移動しやすくなる。さらに、前記ビード部によって前記腕部と前記隣接部品との接触面積が減少し、前記第一ブラケット部の回動性(回動方向への移動のしやすさ)が向上する。
【0012】
(4)また、前記第一ブラケット部と前記第二ブラケット部とを固定する第一固定部と、前記第一ブラケット部と前記第二ブラケット部とを固定し、前記第一固定部よりも前記腕部に近い位置に設けられた第二固定部とを備えることが好ましい。この場合、前記支持部が、前記第一固定部及び第二固定部間に設けられるとともに、前記変形部が、前記第一固定部及び前記車体固定部間に設けられることが好ましい。
つまり、前記変形部が、前記腕部から離れた位置に設けられることが好ましい。なお、前記変形部の変形量は、前記第一ブラケット部の回動角度に対応する。
【0013】
(5)また、前記変形部が、上面視においてクランク形状に形成されることが好ましい。この場合、前記外力による前記変形部の変形しやすさが高まり、前記第一ブラケット部の回動性がさらに向上する。
ここでいう「上面視」とは、前記外力の作用方向に垂直な方向から見ることであり、例えば鉛直下方を見下ろすことを意味する。なお、前記第二ブラケット部の前記車体に対する固定方向によっては、前記上面視が水平方向に眺めることを意味する場合もある。
【0014】
(6)また、前記燃料フィルターの外周を覆って設けられ、少なくとも前記第一固定部で前記第一ブラケット部及び前記第二ブラケット部に固定されるプロテクター部を備えることが好ましい。これにより、前記プロテクター部に作用する外力が前記第一固定部を介して前記変形部に伝達されやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
開示の燃料フィルターのブラケットによれば、燃料フィルターに外力が作用したときに、隣接部品と腕部との接触箇所を中心として第一ブラケット部を回動方向へ移動させることができる。これにより、ニップルと腕部との距離を維持することができる。また、腕部に近接した位置に設けられたニップルの移動量を減少させることができ、ニップルと隣接部品との接触を防止することができる。したがって、燃料フィルターと燃料配管との接続部位の保護性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る燃料フィルターのブラケットが適用されたエンジンルームの内部を例示する上面図である。
図2図1の燃料フィルターの周囲を示す斜視図である。
図3図1の燃料フィルターのフィルターヘッドを示す斜視図である。
図4図1のブラケットの構成を説明するための三面図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図5図4の第一ブラケットの三面図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図6図4の第二ブラケットの三面図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図7】外力作用時の燃料フィルターの状態を説明するための上面図であり、(a)は外力の作用前の状態を示し、(b)は外力の作用後の状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して燃料フィルターのブラケットについて説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
[1.全体構成]
図1は、一実施形態に係る燃料フィルターのブラケット10が適用された車両について、ボンネットを透視してエンジンルーム20内を示す図である。エンジンルーム20内には、エンジン11とその冷却装置,吸気ダクト12,排気ダクト,バッテリー等が配置される。エンジンの種類や形式は任意であるが、本実施形態のエンジン11はコモンレール式のディーゼルエンジンである。
【0019】
エンジン11に隣接した車両後方側には、エンジン11の各シリンダーに燃料を供給するためのサプライポンプ13が配置される。サプライポンプ13は、コモンレール内の燃料圧力(いわゆる燃圧)を上昇させるための加圧装置である。また、サプライポンプ13と燃料タンク(図示省略)とを接続する燃料配管上には、燃料フィルター8が介装される。これにより、燃料フィルター8で濾過された燃料がサプライポンプ13で加圧され、エンジン11に供給される。
【0020】
図2に示すように、燃料フィルター8は、サプライポンプ13の後方において、ブラケット10を介して車体14に取り付けられる。また、サプライポンプ13と燃料フィルター8との間の空間には、吸気ダクト12が配置される。なお、図2では吸気ダクト12を部分的に取り外した状態が示されている。
燃料フィルター8に隣接してその左側方(図2紙面上での右側)には、ブレーキブースター9が配置される。ブレーキブースター9に入力されたブレーキ踏力は、マスターバック9a内の負圧によって生じるアシスト力とともに、マスターシリンダー9bに伝達される。また、マスターシリンダー9bに入力された押圧力は油圧(ブレーキ油圧)に変換され、車内の各所に設けられたブレーキ装置に伝達される。
【0021】
図3に示すように、燃料フィルター8には、中空円筒状のフィルターケース8aと、その上部に固定されたフィルターヘッド8bとが設けられる。フィルターケース8aは、フィルターエレメント(濾過装置)を内蔵する容器である。エンジン11に供給される全ての燃料は、フィルターケース8a内で濾過される。また、フィルターヘッド8bは、フィルターケース8aの上端面を開閉可能とする蓋として機能するものである。このフィルターヘッド8bには、燃料の出入口となるニップル8c,燃料フィルター8を車体14に取り付けるための固定金具8d,フィルターエレメント用の電装装置8e等が設けられる。
【0022】
固定金具8dは、燃料フィルター8とブラケット10とを互いに固定するための金具である。本実施形態の燃料フィルター8は、固定金具8dを介してブラケット10に固定され、そのブラケット10が車体14に対して固定される。
電装装置8eとは、例えば寒冷環境でフィルターエレメント上に析出しうる燃料中の固形成分(ワックス)を溶融させるための昇温装置や、燃料中への水分の混入を検知するセンサー装置等であり、電源ソケット8fへの給電を受けて作動するものである。
【0023】
ニップル8cは、燃料フィルター8に燃料配管材15を繋ぐための接続管であり、フィルターヘッド8bから外側に向かって延びるように設けられる。ニップル8cの位置は、電装装置8eや電源ソケット8f,給電用のケーブル等と干渉しない位置に設定される。また、電装装置8eと燃料配管材15との離隔距離を確保すべく、ニップル8cと燃料配管材15との接続箇所は燃料フィルター8の上面視においてその筒面よりも外側(筒軸から放射方向に外側)とされ、かつ燃料フィルター8の側面視においてフィルターケース8aの上面(フィルターヘッド8bの下面)よりも下方とされる。なお、ニップル8cの先端は、図3に示すように、下方に向かって屈曲している。燃料配管材15は、フィルターケース8aの筒面に沿ってほぼ鉛直に配設され、ニップル8cの先端に接続される。
【0024】
[2.ブラケット構成]
[2−1.概要]
ブラケット10を介して車体14に取り付けられた燃料フィルター8を、図4(a)〜(c)に示す。このブラケット10は、第一ブラケット1,第二ブラケット2及びプロテクター3の三部材を組み合わせて形成される。
【0025】
第一ブラケット1は、燃料フィルター8に固定される部材であり、車両前方から見て燃料フィルター8の背面に配置される。一方、プロテクター3は、燃料フィルター8の正面及び側面を覆うように設けられ、第一ブラケット1に対して固定される保護部材である。図4(a)に示すように、燃料フィルター8は、上面視で第一ブラケット1とプロテクター3とによって囲まれた状態で保持される。
【0026】
第二ブラケット2は、第一ブラケット1と車体14との間を接続する部材である。第二ブラケット2及び第一ブラケット1の接続位置は、第一ブラケット1及びプロテクター3の接続位置と同じ位置とされる。つまり、ブラケット10は、第一ブラケット1,第二ブラケット2及びプロテクター3の三者が重ねられた位置を締結具で締結することによって、車体14に対して固定される。締結具による締結箇所は、正面視で燃料フィルター8の左右に一箇所ずつ設けられる。
【0027】
以下、図4(a),(b)に示すように、正面視で燃料フィルター8の左側に位置する締結具を第一締結具4aと呼び、燃料フィルター8の右側に位置する締結具を第二締結具5aと呼ぶ。また、第一締結具4aによって第一ブラケット1,第二ブラケット2及びプロテクター3の各部材が互いに固定される部位のことを第一固定部4と呼び、第二締結具5aによって第一ブラケット1,第二ブラケット2及びプロテクター3の各部材が互いに固定される部位のことを第二固定部5と呼ぶ。
【0028】
[2−2.第一ブラケット]
図5(a)〜(c)に示すように、第一ブラケット1(第一ブラケット部)には、板材を屏風状に屈曲させてなる本体支持部1a(支持部)と、本体支持部1aから水平方向に延設された腕部6とが設けられる。本体支持部1aは、端辺が鉛直向きに配置された複数の平面又は曲面を水平方向に連設した構造を持つ。例えば、本体支持部1aには、第二ブラケット2及びプロテクター3に対して面接触する部位となる固定面1b,1cや、燃料フィルター8の固定金具8dが固定される支持面1d等が含まれる。
【0029】
固定面1bは第一固定部4に対応する部位であり、固定面1cは第二固定部5に対応する部位である。図5(b)に示すように、固定面1bには第一締結具4aを挿通するための固定穴1eが設けられ、固定面1cには第二締結具5aを挿通するための固定穴1fが設けられる。固定穴1e,1fのうち少なくとも何れか一方は、取り付け誤差を吸収すべく長穴に形成される。同様に、支持面1dにも固定金具8dに対応する一対の固定穴1hが穿孔される。これらの固定穴1hのうち少なくとも何れか一方は、長穴として形成される。
【0030】
腕部6は、図5(b)に示すように、短冊形の板材を横にして本体支持部1aの側端辺から延出させた形状を持つ部位である。腕部6をその上面から見ると、図4(a),図5(a)に示すように、燃料フィルター8に隣接して配置されるマスターバック9aの前面で、くの字型に屈曲した形状である。つまり、腕部6はその先端側を燃料フィルター8の位置する方向(すなわち、ニップル8cが存在する側であって車両前方の方向)に屈曲させた形状に形成される。このように、腕部6は、燃料フィルター8のニップル8cに近接する位置で、ニップル8cとマスターバック9aとの間を区画するように設けられる。なお、図5(a)に示すように、屈曲部6aにおける屈曲角θ1は、直角よりもやや小さい角度である。
【0031】
また、腕部6の表面には、図5(b),(c)に示すように、マスターバック9aが存在する方向に向かって凸形状に突設されたビード部6bが設けられる。このビード部6bは、腕部6をなす短冊形の板材をその長手方向に沿って屈曲させることで形成された部位であり、腕部6の先端から第一ブラケット1の本体支持部1aにかけて、一本の線状に設けられる。これにより、腕部6の断面形状も上面視における形状と同様に、くの字に屈曲した形状となる。腕部6の長手方向に沿ってビード部6bを設けることで、本体支持部1aから腕部6の先端までの剛性が高まり、支持面1dから腕部6にかけての変形に対する強度が増大する。
【0032】
以下、ビード部6bにおける屈曲の頂点(ビード部6bがくの字に屈曲した部位)のことを、膨出点6cと呼ぶ。図5(b)に示すように、腕部6の膨出点6cから固定穴1fまでの距離は、膨出点6cから固定穴1eまでの距離よりも短い距離となっている。巨視的に見れば、第二固定部5は第一固定部4よりも腕部6に近い位置に設けられる。したがって、例えば第一固定部4と第二固定部5とに同一の外力(車両前方から後方に向かう方向の外力)が作用したときには、第二固定部5側の外力よりも第一固定部4側の外力の方が膨出点6cに対して大きなモーメントを発生させることになり、第一ブラケット1の回転運動に対して優位に作用する。
【0033】
[2−3.第二ブラケット]
第二ブラケット2(第二ブラケット部)は、板材を多段階に屈曲させることによって形成される。図6(a)に示すように、上面視での第二ブラケット2の形状は、ほぼ階段状である。言うなれば、第二ブラケット2のうち、第一ブラケット1の固定面1b,1cと面接触する部位が階段の接地面に相当し、車体14に対して固定される面が階段の頂面に相当する。以下、車体14に固定される面のことを車体固定部2aと呼び、第一ブラケット1の固定面1b,1cと接触するそれぞれの面のことを固定面2b,2cと呼ぶ。
【0034】
また、車体固定部2aと固定面2bとの間には変形部7が設けられ、車体固定部2aと固定面2cとの間には支持面2dが設けられる。支持面2dは、図6(a),(b)に示すように、正面視で車体固定部2aの右端辺と固定面2cの左端辺とを接続する面であり、車体固定部2a及び固定面2cのそれぞれに対してほぼ直角に配置される。したがって支持面2dは、第二固定部5に対して入力されうる外力(車両前方から後方に向かう方向の外力)に対し、比較的高い剛性,強度を持つ。
【0035】
これに対して変形部7には、外力に対して支持面2dよりも比較的変形しやすい特性が与えられる。図6(a)に示すように、上面視での変形部7の形状はクランク形状であり、一対の接続部7a,7bとクランク部7cとを組み合わせて構成される。接続部7aは、正面視で固定面2bの右端辺に接続され、固定面2bに対してほぼ垂直に配置される部位である。同様に、接続部7bは、正面視で車体固定部2aの左端辺に接続され、車体固定部2aに対してほぼ垂直に配置される。
【0036】
一方、クランク部7cは、接続部7a,7bのそれぞれに対して所定の屈曲角θ2,θ3をなし、これらの接続部7a,7bの間を接続するように配置される。第一ブラケット1に対するクランク部7cの角度は、固定面2bに対する接続部7aの屈曲角度や、車体固定部2aに対する接続部7bの屈曲角度に応じて変化する。したがって、変形部7は第一固定部4に対して入力されうる外力(車両前方から後方に向かう方向の外力)に応じて変形しやすい特性を持つ。なお、図6(a)は、屈曲角θ2と屈曲角θ3とがほぼ同一であり、直角よりもやや小さい角度である場合を示すが、屈曲角θ2,θ3の具体的な大きさはこれに限定されない。
【0037】
図6(b)に示すように、固定面2bには、第一締結具4aを挿通するための固定穴2eが設けられ、固定面2cには第二締結具5aを挿通するための固定穴2fが設けられる。また、車体固定部2aには、図示しない締結金具を挿通するための固定穴2hが穿孔される。これらの固定穴2hに挿通される締結金具によって、第二ブラケット2が車体14に対して締結固定される。
【0038】
[2−4.プロテクター]
プロテクター3(プロテクター部)は、他のブラケット1,2と同様に、板材を屈曲させることによって形成される。このプロテクター3には、図4(a)に示すように、上面視において燃料フィルター8の周囲の三方を取り囲むように垣根状に張り巡らされた囲い部3aと、その両端に設けられる固定面3b,3cとが設けられる。固定面3bは、第一ブラケット1の固定面1bと面接触する部位であり、固定面3cは第一ブラケット1の固定面1cと面接触する部位である。これらの固定面3b,3cはそれぞれ、第二ブラケット2の固定面2b,2cとの間に第一ブラケット1の固定面1b,1cを挟み込んだ状態で、締結具4a,5aによって締結される。
【0039】
[3.作用,効果]
図7(a)は、上記のブラケット10を用いて車体14に固定された燃料フィルター8の上面図である。燃料フィルター8が固定された状態では、第一ブラケット1の腕部6がニップル8cに近接する位置で、ニップル8cとマスターバック9aとの間を区画するように配置される。また、腕部6の先端がニップル8c側に屈曲しているため、膨出点6cはマスターバック9aと対向する側に突出した状態で配置されることになる。
【0040】
このような状態で、図7(a)中に矢印Aで示すように、車両前方から後方への外力が作用した場合、その外力は燃料フィルター8のフィルターケース8aから本体支持部1aを介して、あるいは、プロテクター3を介して、第一ブラケット1に作用する。これにより、第一ブラケット1の全体が車両後方に移動すると、腕部6の膨出点6cがマスターバック9aの前面に当接する。
【0041】
この膨出点6cは、ビード部6bにおける屈曲の頂点であるため、マスターバック9aからの反力が狭隘な面積に集中することになり、膨出点6cが「てこの支点」として作用する。一方、第一ブラケット1に作用した外力は、第一固定部4及び第二固定部5を介して第二ブラケット2に伝達される。つまり、第二ブラケット2に伝達される外力の伝達経路が二系統となる。
【0042】
ここで、第二ブラケット2の支持面2dは比較的高い剛性を持つのに対し、変形部7には変形しやすい特性が与えられている。したがって、第一固定部4側から第二ブラケット2に入力された外力によって変形部7が変形し、第二ブラケット2の固定面2bが車両方向へとさらに移動する。このような変形部7の変形によって、第一固定部4が「てこの力点」として作用し、第一ブラケット1が膨出点6cを中心として回転方向に移動する。
【0043】
その結果、図7(b)中に矢印Bで示すように、第一ブラケット1に固定された燃料フィルター8も、第一ブラケット1とともに回転方向に移動する。このとき、ニップル8cは第一ブラケット1や燃料フィルター8とともに回動方向に移動するため、ニップル8cと腕部6との間の距離が維持される。さらに、ニップル8cは腕部6に近接する位置にあるため、回動方向への移動距離は僅かである。このように、燃料フィルター8の回転移動の前後で、ニップル8cと腕部6との間の距離は変化せず、かつ、移動距離自体も小さいため、ニップル8cやこれに接続された燃料配管材15がマスターバック9a等の隣接部品に接触することがなく、損傷が防止される。
【0044】
図7(b)中に矢印Cで示す部位が「てこの支点」となる部位であり、第一ブラケット1の回動の中心となる。また、変形部7は、図7(b)中に矢印Dで示すように、クランク形状をなしていた接続部7a,7b及びクランク部7cの相対的な角度が変化するように変形し、車両前後方向に押し潰された形状となる。
【0045】
(1)上記の通り、本実施形態の燃料フィルター8のブラケット10では、第一ブラケット1に腕部6が設けられており、燃料フィルター8に車両前方からの外力が作用したとしても、腕部6がマスターバック9aの前面に接触する。この腕部6は、ニップル8cとマスターバック9aとの間を区画するように配置されるため、ニップル8cとマスターバック9aとの接触を阻止することができ、ニップル8cの保護性や、燃料フィルター8と燃料配管材15との接続部位の保護性を向上させることができる。
【0046】
また、腕部6は第一ブラケット1の本体支持部1aから水平方向に延設されているため、マスターバック9aと当接したときに、燃料フィルター8を回転方向に移動させる支点として機能する。一方、燃料フィルター8を回転方向に移動させたとしても、回転中心の近傍に位置するニップル8cの移動量は僅かであり、かつ、その回転中心からニップル8cまでの距離は変化しない。したがって、ニップル8cとマスターバック9aとの接触を確実に阻止することができ、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0047】
なお、上記のブラケット10の適用対象である燃料フィルター8は、図3に示すように、フィルターヘッド8bに電装装置8eや電源ソケット8f,給電用のケーブル等が配置されるため、フィルターヘッド8bの頂面にニップル8cを設けることが難しく、上面視においてその筒面よりも外側にニップル8cが配置されている。このようなタイプの燃料フィルター8は、燃料フィルター8の周囲に配置される隣接部品とニップル8cとが干渉しやすく、外力作用時に燃料フィルター8が意図しない方向に押圧されてニップル8cが損傷を受ける可能性が生じてしまう。
【0048】
このような課題に対し、上記のブラケット10によれば、外力作用時に燃料フィルター8を回転方向に移動させることができ、かつ、その移動方向を適切に誘導することができる。したがって、ニップル8cの損傷や隣接部品との干渉を確実に防止することができる。
【0049】
(2)また、上記のブラケット10の第二ブラケット2には、燃料フィルター8に外力が作用した時に変形しやすい特性を有する変形部7が設けられる。これにより、第一ブラケット1の固定面1b側を車両後方に移動させて、第一ブラケット1を回転移動させやすくすることができる。したがって、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0050】
また、上記の第一ブラケット1及び第二ブラケット2は、第一固定部4及び第二固定部5の二箇所で固定されており、第二固定部5から車体固定部2aまでの間を接続する支持面2dは、変形部7側と比較して剛性,強度が高く設定される。これにより、第二ブラケット2の変形部7が変形した後であっても第一ブラケット1を車体14に対して確実に固定しておくことができる。つまり、第一ブラケット1が回転方向に移動した拍子に車体14への固定が外れて、エンジンルーム20内の意図しない場所に飛散してしまうようなことを防止できる。
【0051】
なお、変形部7の変形量は、第一ブラケット1の固定面1b側の移動量に対応し、この移動量は第一ブラケット1の回転方向への移動角度に対応する。したがって、変形部7の変形量(すなわち、変形部7の変形量を与える剛性や強度)を調節することで、外力作用時における第一ブラケット1の回転角度を制御することができる。
【0052】
(3)さらに、上記の第二ブラケット2の変形部7は、第一固定部4に固定される固定面2bと車体固定部2aとの間に設けられている。このような構造により、例えば第二固定部5に固定される固定面2cと車体固定部2aとの間に変形部7を設けた場合と比較して、第一ブラケット1を矢印B方向に回転させやすくすることができる。
【0053】
つまり、第一ブラケット1の回転中心となる膨出点6cからの距離が遠い位置に変形部7を設けることで、外力作用時における第二ブラケット2の変形しやすさを高めることができる。これにより、第一ブラケット1を回転移動させやすくすることができ、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0054】
(4)また、上記のブラケット10では、図7(a)に示すように、腕部6の先端側がニップル8c側に屈曲した形状とされている。このような構造により、屈曲部6aを持たない腕部6を用いた場合と比較して、第一ブラケット1を回動させやすくすることができ、腕部6とマスターバック9aとの接触時における「てこの支点(上面視における回動の支点)」としての機能を向上させることができる。したがって、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0055】
(5)さらに、上記の腕部6にはビード部6bが設けられ、膨出点6cの断面形状が垂直方向についても水平方向についてもマスターバック9a側に向かって突き出た形状となる。これにより、第一ブラケット1が三次元的にも「点」で支えられることになり、第一ブラケット1の回動方向の自由度を高めることができる。したがって、ニップル8cの保護性を向上させることができる。
また、このビード部6bは、腕部6の先端から本体支持部1aにかけて線状に設けられており、腕部6を構造的に補強する(腕部6の長手方向の剛性を高める)ように機能する。これにより、外力作用時に第一ブラケット1の全体を回動方向に移動させることができ、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0056】
(6)また、上記のブラケット10の変形部7は、図6(a)に示すように、上面視でクランク形状に形成される。このような構造により、外力作用時に変形部7を変形させやすくすることができ、すなわち第一ブラケット1を回転方向に移動させやすくすることができる。したがって、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0057】
(7)また、上記のブラケット10のプロテクター3は、第一ブラケット1の固定面1b,1cと面接触するように設けられ、すなわち第一固定部4及び第二固定部5に対して固定される。これにより、例えば車両衝突時に外力がプロテクター3のみに入力された場合であっても、その外力を第一固定部4及び第二固定部5に作用させることができる。これにより、第二ブラケット2の変形部7を変形させつつ第一ブラケット1を回転させることができ、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0058】
[4.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。例えば、上述の実施形態では、ブラケット10が第一ブラケット1,第二ブラケット2及びプロテクター3の三部材からなるものを例示したが、作業性や施工性を考慮してこれらの各部材をさらに分割してもよいし、反対に各部材の一部又は全部を一体に形成してもよい。少なくとも、上述の実施形態の第一ブラケット1,第二ブラケット2及び腕部6として機能する部位を備えたものであれば、ニップル8cや接続部位の保護性を向上させることができる。
【0059】
また、上述の実施形態では、変形部7がクランク形状に形成された第二ブラケット2を例示したが、変形部7の具体的な形状はこれに限定されない。少なくとも、車両前方から後方に向かう外力が作用した時に変形して、第一ブラケット1の固定面1b側の一端と車体14との距離を短縮させうる形状であればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 第一ブラケット(第一ブラケット部)
1a 本体支持部(支持部)
2 第二ブラケット(第二ブラケット部)
2a 車体固定部
3 プロテクター(プロテクター部)
4 第一固定部
5 第二固定部
6 腕部
6a 屈曲部
6b ビード部
7 変形部
8 燃料フィルター
8c ニップル
9 ブレーキブースター
9a マスターバック
10 ブラケット
14 車体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7