特許第5884738号(P5884738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5884738-キシリレンジアミンの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884738
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】キシリレンジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/48 20060101AFI20160301BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20160301BHJP
   B01J 23/74 20060101ALN20160301BHJP
   B01J 27/199 20060101ALN20160301BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160301BHJP
【FI】
   C07C209/48
   C07C211/27
   !B01J23/74 Z
   !B01J27/199 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-555864(P2012-555864)
(86)(22)【出願日】2012年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2012051993
(87)【国際公開番号】WO2012105498
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-19156(P2011-19156)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】熊野 達之
(72)【発明者】
【氏名】井比 幸也
(72)【発明者】
【氏名】荒砂 久仁章
(72)【発明者】
【氏名】長尾 伸一
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/026920(WO,A1)
【文献】 特開2010−168374(JP,A)
【文献】 特表2007−505066(JP,A)
【文献】 特表2008−531521(JP,A)
【文献】 特開2003−038956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/00
C07C 211/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の順次工程:
(1)ジシアノベンゼンを含有するキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶媒と直接接触させ、ジシアノベンゼンを有機溶媒中に吸収する吸収工程
(2)吸収工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を20℃〜140℃の温度条件下において接触させ、ジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類と塩基との中和反応により生成する水可溶性の塩を水相に抽出する抽出工程
(3)抽出工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液の混合液を有機相と水相に分離させる液-液分離工程
(4)液-液分離工程からの有機相を蒸留し、有機溶媒を含むジシアノベンゼンよりも低い沸点を有する成分の一部または全部を分離し、溶融状のジシアノベンゼンを得る低沸分離工程
(5)低沸分離工程からの溶融状ジシアノベンゼンを溶媒に溶解させた後、ニッケル含有触媒の存在下、液相で水素化する水素化工程
からなることを特徴とするキシリレンジアミン製造方法。
【請求項2】
キシレンがメタ−キシレンであり、ジシアノベンゼンがイソフタロニトリルである請求項1に記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項3】
前記抽出工程(3)において、塩基としてアンモニアを使用する請求項1〜2のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項4】
前記抽出工程(3)において、塩基性水溶液に無機酸のアンモニウム塩及び/又はカルバミン酸のアンモニウム塩を共存させる請求項1〜3のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項5】
前記抽出工程(3)において、ジシアノベンゼン吸収液に含まれるカルボン酸類のモル数の合計の1〜50倍のモル数のアンモニアを塩基として使用する請求項1〜4のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項6】
アンモ酸化反応で用いる触媒がバナジウム及び/またはクロムを含有する触媒である請求項1〜5のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項7】
前記吸収工程(1)のジシアノベンゼンを吸収する有機溶媒が、アルキルベンゼン、複素環化合物、芳香族ニトリル化合物及び複素環ニトリル化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒である請求項1〜6のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項8】
前記水素化工程(5)の溶媒が、液体アンモニア溶媒、キシリレンジアミンと液体アンモニアの混合溶媒、芳香族炭化水素と液体アンモニアの混合溶媒、又はキシリレンジアミン及び芳香族炭化水素と液体アンモニアの混合溶媒である請求項1〜7のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【請求項9】
前記水素化工程(5)のジシアノベンゼンの水素化を固定床反応器で行う請求項1〜8のいずれかに記載のキシリレンジアミン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシレンをアンモ酸化して得られるジシアノベンゼンの水素化によりキシリレンジアミンを製造する方法に関する。キシリレンジアミンはポリアミド樹脂、硬化剤等の原料、及びイソシアネート樹脂等の中間原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
ジシアノベンゼンはキシレン(オルト−キシレン、メタ−キシレン、パラ−キシレン)をアンモ酸化する公知の方法により製造することが可能であり、例えば、特許文献1〜8に記載されている方法で製造することが出来る。
ジシアノベンゼンを触媒の存在下、液相で水素化してキシリレンジアミンを製造する方法は種々開示されている。例えば特許文献9には、ジシアノベンゼンをアルコール系溶媒中で微量の苛性アルカリ剤と共にラネーニッケルやラネーコバルトを用い、オートクレーブによる回分水素化反応を行い対応するキシリレンジアミンを得ることが記載されている。特許文献10にはニッケル−銅−モリブデン系触媒によりジシアノベンゼンを液相下水素で接触還元することが記載されており、固定床方式による連続水素化が例示されている。
【0003】
特許文献11にはメタキシレンのアンモ酸化反応で得られたイソフタロニトリルからイソフタロニトリルより高沸点の不純物を第1蒸留工程で分離し、第2蒸留工程で有機溶媒を分離して塔底から得られるイソフタロニトリルに特定の溶媒と液体アンモニアを加えて水素化するメタ−キシリレンジアミンの製造方法が記載されている。特許文献12にはキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶剤又は溶融ジシアノベンゼンに接触させ、得られた有機溶剤溶液もしくは懸濁液またはジシアノベンゼン溶融物から、ジシアノベンゼンよりも低沸点の成分を分離し、続いてジシアノベンゼンよりも高沸点の成分を除いた後、水素化を行うキシリレンジアミンの製造方法が記載されている。
特許文献13にはジシアノベンゼンの水素化に際し、ジシアノベンゼンよりも高沸点の不純物であるベンズアミド類又は安息香酸類を蒸留で分離し、水素化反応液中のベンズアミド類又は安息香酸類の濃度を特定値以下に抑えることにより高収率でキシリレンジアミンが得られ且つ長い触媒寿命が得られることが記載されている。特許文献14にはキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶媒と接触させて得られる有機溶媒溶液からジシアノベンゼンよりも低沸点の成分を蒸留分離後、液体アンモニアを含む溶媒に溶融状のジシアノベンゼンを溶解させ、ジシアノベンゼン多量体群を含む析出物を固液分離し、水素化するキシリレンジアミンの製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献15にはキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶媒と接触させ、有機溶媒に吸収したジシアノベンゼンを分離することなく液体アンモニアを加えて水素化反応させてキシリレンジアミンを製造する方法が記載されている。特許文献16にはキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶剤又は溶融ジシアノベンゼンに接触させ、得られた有機溶剤溶液もしくは懸濁液またはジシアノベンゼン溶融物から、ジシアノベンゼンよりも低沸点の成分を分離後、ジシアノベンゼンよりも高沸点の成分を除去せずに水素化するキシリレンジアミンの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭49−45860号公報
【特許文献2】特開昭49−13141号公報
【特許文献3】特開昭63−190646号公報
【特許文献4】特開平1−275551号公報
【特許文献5】特開平5−170724号公報
【特許文献6】特開平9−71561号公報
【特許文献7】特開平11−246506号公報
【特許文献8】特開2003−267942号公報
【特許文献9】特公昭38−8719号公報
【特許文献10】特公昭53−20969号公報
【特許文献11】特開2003−26639号公報
【特許文献12】特表2007−505068号公報
【特許文献13】特開2004−35427号公報
【特許文献14】特開2010−168374号公報
【特許文献15】特開2002−105035号公報
【特許文献16】特表2007−505067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジシアノベンゼンの水素化では、ニトリル基のアミノメチル基への水素化反応の進行度合いを高める(例えば、ニトリル基の転化率とアミノメチル基の選択率を高くする)ことでキシリレンジアミンを収率良く生成させることが出来る。従って、ジシアノベンゼンの水素化によりキシリレンジアミンを長期に効率良く製造する為には、水素化触媒の失活を抑えて水素化反応の進行度合いが高い状態を出来るだけ長期間保たなければならない。具体的には、水素化触媒の失活が進むにつれて水素化反応後に得られる液中のジシアノベンゼン及びシアノベンジルアミンの濃度が高まる為、これらの濃度を低い状態に長期間保ち、より多くのジシアノベンゼンを水素化することでキシリレンジアミンを長期に高収率で得ることが出来る。
【0007】
ジシアノベンゼンに含まれるジシアノベンゼンよりも高沸点の化合物(以下、高沸点化合物と略記)による水素化触媒の失活は、特許文献11〜13に記載されている様に、高沸点化合物を蒸留により分離することで回避することが可能である。しかし、蒸留による高沸点化合物の分離は、蒸留塔の建設費用及び蒸留の為のエネルギーを要するだけでなく、蒸留の際にジシアノベンゼンの一部が熱による重合で変質する為、経済的には不利である。例えば特許文献11の実施例1には、イソフタロニトリルの高沸分離蒸留を塔底温度204℃で行うと、2%のイソフタロニトリルが熱により変質したことが記載されている。一方、高沸点化合物の蒸留分離を行わない特許文献14に記載の方法では、ジシアノベンゼンよりも低沸点の化合物(以下、低沸点化合物と略記)を蒸留分離する際に生成するフタロニトリル多量体に関しては除去可能であるが、水素化触媒を失活させる他の高沸点化合物、例えば、シアノ安息香酸に代表されるカルボン酸類を除去することは出来ないという課題があった。
従って、キシリレンジアミンを経済的に製造する為には、水素化触媒を失活させる高沸点化合物群を高選択的に除去する方法の開発が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、キシレンをアンモ酸化して得られるジシアノベンゼンの水素化によりキシリレンジアミンを製造するに際して、高収率、長い触媒寿命をもって安定的に、且つ経済的にキシリレンジアミンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはジシアノベンゼンの水素化によるキシリレンジアミン製造の検討を進めるうちに、アンモ酸化反応ガスを有機溶媒と接触させて得られるジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させ、ジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類と塩基との中和反応により生成する水可溶性の塩を含有する水相を形成させた後、有機相と水相を液-液分離して水相を除去することによりジシアノベンゼン吸収液に含まれるカルボン酸類を高選択的に除去することができ、且つこの操作を140℃以下の温度条件下で実施することで、ジシアノベンゼンからのシアノベンズアミド、シアノ安息香酸、およびフタルアミド類の生成及びジシアノベンゼンの水相への溶解を抑制できることを見出した。塩基性条件下においてはジシアノベンゼンの水和反応によりシアノベンズアミドが多量に生成してしまうことが特開2000−86610号公報及び特開昭52−39648号公報等で知られていた為、本発明におけるこの様な効果は予想し得ないものであった。また、本発明は上述の塩基性水溶液との接触から分離までの操作を溶液状態のジシアノベンゼンに対して実施出来ることを見出しており、工業的に優位な製造法を提供するものである。例えば、固体のジシアノベンゼンに含まれるカルボン酸類を、塩基性水溶液を用いた固-液抽出により除去する方法は、精製効果が固体表面でしか得られず、更に固-液抽出の後に必要な操作、例えば固-液分離や乾燥等の設備投資費用が発生すると共に、固体或いはスラリー状態のジシアノベンゼンの移送に際して移送配管の閉塞が生じ易く、工業的には不向きである。また、例えば、溶融状態のジシアノベンゼンと塩基性水溶液を接触させる方法は、ジシアノベンゼンの融点が高い為に接触する際の温度が高くなる為、ジシアノベンゼンからのシアノベンズアミド、シアノ安息香酸、およびフタルアミド類の生成量が増加する点や操作圧力が高くなることにより設備投資費用が増加する点で工業的に不利である。
本発明では、更に、液-液分離後の有機相から低沸点化合物を減圧下で蒸留分離して得られた原料ジシアノベンゼンを水素化に供することにより、キシリレンジアミンが高収率で得られながら且つ水素化触媒の失活を抑えられることを発見した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の工程:
(1)ジシアノベンゼンを含有するキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶媒と直接接触させ、ジシアノベンゼンを有機溶媒中に吸収する吸収工程。
(2)吸収工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を140℃以下の温度条件下において接触させ、ジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類と塩基との中和反応により生成する水可溶性の塩を水相に抽出する抽出工程。
(3)抽出工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液の混合液を有機相と水相に分離させる液-液分離工程。
(4)液-液分離工程からの有機相を蒸留し、有機溶媒を含むジシアノベンゼンよりも低い沸点を有する成分の一部または全部を分離し、溶融状のジシアノベンゼンを得る低沸分離工程。
(5)低沸分離工程からの溶融状ジシアノベンゼンを溶媒に溶解させた後、触媒の存在下、液相で水素化する水素化工程。
からなることを特徴とするキシリレンジアミンの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キシレンをアンモ酸化させて得られるジシアノベンゼンの水素化によりキシリレンジアミンを製造するに際して、高収率、長い触媒寿命をもって安定的に、且つ経済的にキシリレンジアミンの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の一態様、すなわち、アンモ酸化反応によりイソフタロニトリルを製造し、ついでイソフタロニトリルの水素化反応によりメタ−キシリレンジアミンを製造する工程を示すプロセスフローシートである。図1においてAはアンモ酸化反応器、Bはイソフタロニトリル吸収塔、Cは混合槽、Dは液-液分離槽、Eは蒸留塔、Fは溶解槽、Gは濾過器、およびHは水素化反応器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるジシアノベンゼンとは、フタロニトリル(1,2−ジシアノベンゼン)、イソフタロニトリル(1,3−ジシアノベンゼン)、テレフタロニトリル(1,4−ジシアノベンゼン)の3種の異性体を指し、それぞれ対応するキシレンであるオルト−キシレン、メタ−キシレン、パラ−キシレンから、公知のアンモ酸化方法により製造される。ジシアノベンゼンを水素化することにより、対応するキシリレンジアミンであるオルト−キシリレンジアミン、メタ−キシリレンジアミン、パラ−キシリレンジアミンが得られる。本発明の方法はメタ−キシレンをアンモ酸化させて得られるイソフタロニトリルの水素化によるメタ−キシリレンジアミンの製造に特に好適に用いられる。
【0014】
本発明の製造方法は以下に示す工程を含む。
(1)吸収工程
ジシアノベンゼンを含有するキシレンのアンモ酸化反応ガスを有機溶媒と直接接触させてジシアノベンゼンを有機溶媒に吸収する。
アンモ酸化反応は公知の方法で行うことが可能であり、アンモ酸化の触媒に、キシレン、酸素、アンモニアを混合した反応原料を供給し、後述する条件で反応させることにより行うことができる。アンモ酸化反応の形式は流動床または固定床のいずれも可能である。アンモ酸化の触媒は公知の触媒、例えば特許文献1、4、5、7または8に記載の触媒を使用することが出来るが、バナジウム及び/またはクロムを含有する触媒が特に好ましい。アンモニア使用量はキシレン1モルに対して好ましくは2〜20モル、より好ましくは6〜15モルの範囲である。使用量が上記範囲内であるとジシアノベンゼンの収率が良好であり、空時収率も高い。アンモ酸化反応ガスに含まれる未反応アンモニアは回収し、反応に再使用しても良い。酸素の使用量は、キシレン1モルに対して好ましくは3モル以上、より好ましくは3〜100モル、さらに好ましくは4〜100モルの範囲である。上記範囲内であるとジシアノベンゼンの収率が良好であり、空時収率も高い。酸素の供給源として空気を使用してもよい。アンモ酸化の反応温度は好ましくは300〜500℃、より好ましくは330〜470℃の範囲である。上記範囲内であるとキシレンの転化率が良好であり、炭酸ガス、シアン化水素等の生成が抑制され、ジシアノベンゼンを良好な収率で製造することができる。アンモ酸化の反応圧力は常圧、加圧或いは減圧のいずれでも良いが、常圧(大気圧)〜300kPaの範囲が好ましく、反応原料の空間速度(Gas Hourly Space Velocity=GHSV)は500〜5000h-1であるのが好ましい。
【0015】
この工程において、「ジシアノベンゼンを有機溶媒中に吸収する」とは、アンモ酸化反応ガス中のジシアノベンゼンを、有機溶媒中に溶解させることを意味する。ジシアノベンゼンの吸収に用いる有機溶媒とはジシアノベンゼンよりも沸点が低く、ジシアノベンゼンの溶解度が比較的高く且つジシアノベンゼンに対して不活性なものを指す。これらの条件を満たす有機溶媒としては、キシレン(オルト−体、メタ−体、パラ−体)、プソイドキュメン、メシチレン、エチルベンゼン等のアルキルベンゼン、メチルピリジン等の複素環化合物、トルニトリル(オルト−体、メタ−体、パラ−体)及びベンゾニトリル等の芳香族ニトリル化合物及びシアノピリジン等の複素環ニトリル化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒が好ましく、特にトルニトリルが本発明に適している。吸収工程では80〜200℃の有機溶媒にアンモ酸化反応ガスを1〜30秒接触させるのが好ましい。有機溶媒の使用量はジシアノベンゼン1重量部に対して0.5〜20重量部が好ましい。有機溶媒とアンモ酸化反応ガスを接触させる態様は、気液接触装置等により行うことが可能であり、向流式、並流式のいずれでもよい。また、例えば有機溶媒を含む容器の底部にガス吹込み口を設けて、アンモ酸化反応ガスを溶媒溶液中に送り込むことによって両者を接触させることもできる。
【0016】
(2)抽出工程
吸収工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させ、ジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類と、塩基との中和反応により生成する水可溶性の塩を水相に抽出する。ここでいうカルボン酸類とは、シアノ安息香酸(オルト−体、メタ−体、パラ−体)、メチル安息香酸(オルト−体、メタ−体、パラ−体)、フタル酸(オルト−体、メタ−体、パラ−体)を指す。ジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を効率良く接触させるには、撹拌機を有する混合槽を用いても良いし、スタティックミキサー等の管型混合機を用いても良い。抽出工程の形式は回分式、半回分式、連続式の何れでも良い。塩基性水溶液に含まれる塩基は、ジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類との中和反応により生成する塩が水に可溶であれば特に制限は無く、好ましい具体例としてアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等が挙げられる。これらの塩基の中でも、特にアンモニアは安価に入手可能で有り、且つ効率良くジシアノベンゼン吸収液中のカルボン酸類を中和することが出来ることから好ましい塩基である。塩基の使用量(モル数)はジシアノベンゼン吸収液に含まれるカルボン酸類のモル数の合計と同等以上であれば良いが、例えばアンモニアを用いる場合のモル数はカルボン酸類のモル数の合計の1〜50倍が好ましく、2〜30倍がさらに好ましく、3〜15倍が特に好適である。塩基性水溶液における塩基の濃度は用いる塩基の種類により適宜調整すれば良く、例えばアンモニア水溶液を用いる場合は0.1〜20wt%が好ましく、0.1〜10wt%が特に好適である。
【0017】
ジシアノベンゼン吸収液に対する塩基性水溶液の使用量は特に限定されないが、ジシアノベンゼン吸収液と等量以下が工業的には望ましく、例えばアンモニア水溶液を用いる場合はジシアノベンゼン吸収液の1〜100wt%が好ましく、2〜100wt%、例えば2〜50wt%がさらに好ましく、5〜100wt%、例えば5〜30wt%が特に好適である。塩基性水溶液の一部或いは全部に、次工程の液-液分離工程で回収される水相を使用しても良い。塩基性水溶液には次工程の液-液分離操作を考慮し、1種類以上のアンモニウム塩を予め共存させておくことが望ましい。アンモニウム塩を塩基性水溶液に溶解し塩基と共存させることにより、カルボン酸類の抽出に悪影響を与えること無く、液-液分離を速めることが出来る。アンモニウム塩は無機酸のアンモニウム塩又はカルバミン酸のアンモニウム塩の何れでも良く、前記無機酸は、水溶液の塩基性を保つことが出来る無機酸であることが好ましい。塩基性水溶液のpH(25℃)は、例えば8〜14であり、より好ましくは9〜13である。アンモニウム塩は、好ましくは炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、カルバミン酸炭酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムがそれぞれ単独或いは任意の組み合わせで用いられる。アンモニウム塩の使用量は液-液分離工程で求められる分離速度に応じて適宜調整されるが、通常は塩基性水溶液中の溶解量が1〜30wt%になる様調整される。アンモニウム塩を含む塩基性水溶液のうち、特に炭酸アンモニウム及びアンモニアが溶解した水溶液は、アンモニア水中に二酸化炭素を含むガスを通気することにより安価且つ容易に調製することが出来る為、工業的に好ましい塩基性水溶液である。
【0018】
ジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させる温度は140℃以下が好ましく、130℃以下がさらに好ましく、120℃以下、例えば110℃が特に好適である。例えば、90℃〜140℃、好ましくは90℃〜130℃、より好ましくは90℃〜120℃の範囲とすることができる。140℃よりも高温の場合はジシアノベンゼンからシアノベンズアミド、シアノ安息香酸、およびフタルアミド類が多量に生成し且つジシアノベンゼンの水相への溶解性も高まる為、本操作により多量のジシアノベンゼンを損失してしまう。接触温度の下限はジシアノベンゼン吸収液においてジシアノベンゼンが溶解状態を保つことが出来る温度範囲であれば特に問題は無い。例えばイソフタロニトリルをメタ−トルニトリルで吸収したイソフタロニトリル濃度が25wt%の溶液の場合は、イソフタロニトリルの析出を防ぐ為に90℃以上の液温で制御しなければならない。低温条件下(例えば5〜50℃、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜30℃)でジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させる為に、接触前或いは接触時においてジシアノベンゼン吸収液に有機溶媒を新たに添加しても良い。廃水量低減の為に次工程の液-液分離工程で回収される水相を前述の塩基性水溶液の一部或いは全部として使用しても良いが、この回収水相に有機溶媒を添加してエマルジョンとし、このエマルジョンをジシアノベンゼン吸収液と接触させても良い。添加する有機溶媒はキシレン(オルト−体、メタ−体、パラ−体)、プソイドキュメン、メシチレン、エチルベンゼン等のアルキルベンゼン、メチルピリジン等の複素環化合物、トルニトリル(オルト−体、メタ−体、パラ−体)及びベンゾニトリル等の芳香族ニトリル化合物及びシアノピリジン等の複素環ニトリル化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒が好ましく、吸収工程で使用した有機溶媒が最も好適である。ジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させる際の圧力は、温度条件及び使用する塩基、アンモニウム塩の種類により大気圧〜加圧状態に適宜調整されるが、塩基性水溶液が液相を保ち且つ必要量の塩基が水相に存在していれば良く、必要に応じて窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを共存せしめても良い。ジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液の接触に要する時間は用いる塩基により異なるが、例えば2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内とすることができる。ジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液を接触させる方法にもよるが、通常は数秒〜30分で充分である。
【0019】
(3)液-液分離工程
抽出工程からのジシアノベンゼン吸収液と塩基性水溶液の混合液を有機相と水相に分離させる。混合液を静置して相分離させる方法以外に、遠心分離機、コアレッサーとセパレーターの併用等の公知の方法で実施することが出来る。液-液分離の温度及び圧力条件は抽出時の条件と同程度が望ましい。温度や圧力が大幅に低下するとジシアノベンゼンが有機相において析出するだけでなく、水相においても微量溶解していたジシアノベンゼンが析出し配管閉塞等の原因となる。
【0020】
(4)低沸分離工程
液-液分離工程からの有機相を蒸留して、有機溶媒を含む低沸点化合物の一部または全部を除去し、溶融状ジシアノベンゼンを得る。有機溶媒を含む低沸点化合物の一部または全部を除去でき、溶融状ジシアノベンゼンを得ることが出来る限り蒸留方法は特に限定されず、回分式または連続式のいずれかの方法を用いることが出来る。例えば、該工程を蒸留塔を用いて行う場合、有機溶媒を含む低沸点化合物は塔頂または塔頂とサイドカット部(濃縮部)の双方から除去される。回収した溶液を、吸収工程において、アンモ酸化反応ガスに含まれるジシアノベンゼンを吸収する為の有機溶媒として使用しても良い。蒸留塔を用いた蒸留は減圧下(例えば、塔頂圧力1〜30kPa)、濃縮部(原料供給部より上部)においてジシアノベンゼンが析出しない温度で行うのが好ましく、蒸留塔の塔底からジシアノベンゼンを溶融状で得る。塔底温度はジシアノベンゼン多量体群の熱による生成を抑える為にジシアノベンゼンの融点以上の温度で且つ出来るだけ低温にするのが好ましい。具体的に塔底温度は、ジシアノベンゼンがフタロニトリルの場合150〜200℃が好ましく、150〜180℃がさらに好ましく、150〜170℃が特に好ましい。イソフタロニトリルの場合170〜220℃が好ましく、170〜200℃がさらに好ましく、170〜190℃が特に好ましい。テレフタロニトリルの場合240〜290℃が好ましく、240〜270℃がさらに好ましく、240〜260℃が特に好ましい。また、塔底においてジシアノベンゼン多量体群の生成を抑える為、溶融状ジシアノベンゼンの滞留時間は短い方が好ましく、例えば、180分以内、例えば5〜180分、好ましくは10〜120分、より好ましくは15〜60分、特に好ましくは20〜30分とすることができる。また、蒸留塔の設計に際しては塔底容積を蒸留塔の運転に支障が出ない範囲で出来るだけ小さくすることが好ましい。
【0021】
(5)水素化工程
低沸分離工程からの溶融状ジシアノベンゼンを溶媒に溶解させた後、触媒の存在下、液相でジシアノベンゼンの水素化を行う。溶媒として、液体アンモニア溶媒、キシリレンジアミンと液体アンモニアの混合溶媒、芳香族炭化水素と液体アンモニアの混合溶媒、キシリレンジアミン及び芳香族炭化水素と液体アンモニアの混合溶媒等が挙げられる。
溶媒中の液体アンモニア濃度が高いほど水素化反応の収率を高めることが出来る為、溶媒中の液体アンモニア濃度は高い方が好ましい(例えば、60wt%以上(100wt%を含む))。水素化反応時の溶媒量はジシアノベンゼン1重量部に対して1〜99重量部の範囲が好ましく、3〜99重量部がさらに好ましく、5〜99重量部の範囲が特に好ましい。溶媒使用量が上記範囲内であると溶媒回収に要するエネルギーが少なくて経済的に有利であり、水素化反応におけるキシリレンジアミンの選択率も良好である。溶融状ジシアノベンゼンの溶解操作はスタティックミキサー等の管型混合機を用いて行うことも出来るが、析出した不溶成分付着によりミキサー内が閉塞する可能性がある為、溶解槽内にて前記溶媒と混合して溶解させることが好ましい。溶解槽内に溶融状ジシアノベンゼンと溶媒を供給することで特に攪拌しなくても溶解させることが可能だが、必要であれば攪拌を行っても良い。溶解槽内の圧力及び温度は溶媒が液相を保つように選択される。溶解槽内の圧力は0.5〜15MPaが好ましく、0.7〜10MPaがさらに好ましく、1〜8MPaが特に好ましい。溶解槽内の溶液温度は3〜140℃が好ましく、5〜120℃がさらに好ましく、10〜100℃が特に好ましい。溶液中に不溶成分が生じた場合、その一部または全部を水素化反応器に供給する前に固液分離により除去しても良い。固液分離としては濾過、遠心分離、沈降分離等の公知の方法を用いることが出来るが、濾過が好ましく、焼結金属フィルター及び/又はストレーナーによるろ過が特に簡便で好適である。
水素化に供する水素は反応に関与しない不純物、例えばメタン、窒素等を含んでいても良いが、不純物濃度が高いと必要な水素分圧を確保するために反応全圧を高める必要が有り工業的に不利となる為、水素濃度は50モル%以上が好ましい。
水素化反応の触媒としては、公知の担持金属触媒、非担持金属触媒、ラネー触媒、貴金属触媒等を使用できる。特にニッケル及び/又はコバルトを含有する触媒が好適に用いられる。触媒の使用量は公知のジシアノベンゼンの液相水素化に使用されている量であればよく、本発明では特に制限されない。
水素化反応の形式は固定床、懸濁床のいずれも可能である。また、回分式、連続式の何れの方法も可能である。固定床の反応形式で連続流通反応を行う場合、水素化反応器出口から得られる水素化反応液の一部を水素化反応器に連続的に戻す循環方式を採用しても良く、循環方式単独で或いは特開2008−31155号公報に記載されている様に循環方式とワンパス方式を組み合わせて用いても良い。回分式で行う場合、水素化反応時間は0.5〜8時間が好ましく、連続式で行う場合、反応原料の空間速度(Liquid Hourly Space Velocity=LHSV)は0.1〜10h-1であるのが好ましい。
水素化反応の圧力及び温度は溶媒が液相を保つように選択される。水素化反応の温度は20〜200℃が好ましく、30〜150℃がさらに好ましく、40〜120℃が特に好ましい。水素圧力は1〜30MPaが好ましく、2〜25MPaがさらに好ましく、3〜20MPaが特に好ましい。
【0022】
ジシアノベンゼンの水素化でキシリレンジアミンを効率良く製造する為にはニトリル基のアミノメチル基への水素化反応の進行度合いを高めることが必須であり、水素化反応後に得られる液中のジシアノベンゼン及びシアノベンジルアミンの濃度を低い状態に保つ反応条件を選択することが好ましい。具体的には、水素化反応後に得られる液中でのキシリレンジアミンに対するシアノベンジルアミンの量を5.0wt%以下に保つことが好ましく、1.0wt%以下に保つことがさらに好ましく、0.2wt%以下に保つことが特に好ましい。また、ジシアノベンゼンの転化率は99.50%以上が好ましく、99.90%以上がさらに好ましく、99.95%以上が特に好ましい。上記した各反応条件(溶媒、触媒、原料、水素圧、反応形式等)の組み合わせにおいて温度或いは時間を適宜選択することにより該水素化反応の進行度合いを上記のように保つことができる。
【0023】
水素化で生成したキシリレンジアミンは蒸留等の公知の方法によって精製可能である。より高純度のキシリレンジアミンを得たい場合はキシリレンジアミンに含まれるシアノベンジルアミンを除去する必要があるが、シアノベンジルアミンは一般に対応するキシリレンジアミンとの沸点差が小さく通常の蒸留による分離が困難である為、蒸留精製工程の前に蒸留以外のシアノベンジルアミン除去工程を設けても良い。この際のシアノベンジルアミンの除去方法は特に限定されるものではないが、例えば、水和反応によりシアノベンジルアミンを比較的容易に蒸留分離が可能なシアノベンズアミドへと変換する方法や、特開2007−332135号公報に記載されている様に水素化溶媒の液体アンモニアを留去した後に触媒の存在下でシアノベンジルアミンを接触水素化し、シアノベンジルアミンの量を低減させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
次に以下の実施例によって本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。尚、ジシアノベンゼンに含まれる不純物(シアノ安息香酸を含む)の分析には液体クロマトグラフィーを用い、ジシアノベンゼンの分析及び水素化反応生成液の組成分析にはガスクロマトグラフィーを用いた。
【0025】
(1)液体クロマトグラフィー分析
資生堂(株)製CAPCELL PAK C18のLCカラムを備え付けた島津製作所製UV−VIS検出器付き高圧グラジエントLCシステムを用い、和光純薬製特級のアセトニトリルと0.5重量%リン酸水溶液の混合液を溶媒及び移動相として使用し、カラムオーブン35℃、移動相の流速1.0mL/分の条件下で分析を実施した。
【0026】
(2)ガスクロマトグラフィー分析
J&W社製DB−1のGCカラムを備え付けた、Agilent社製6890型GC分析装置により分析を行った。温度設定は注入口230℃、検出器295℃、カラムオーブン100℃→280℃(100℃で10分間保持した後、昇温速度5℃/分で昇温実施)とした。尚、GC測定サンプルは、水素化原料液または水素化反応生成液のサンプリング液2mlから加熱によりアンモニア(三菱ガス化学製品)を除いた後、内部標準としてジフェニルメタン(和光純薬製、特級)0.1gを添加し、メタノール溶媒またはジオキサン溶媒10g(共に和光純薬製、特級)に溶解させることにより調合した。
【0027】
<実施例1>
(1)吸収工程
(1−1)アンモ酸化
五酸化バナジウム(和光純薬製、特級)229gに水(蒸留水)500mLを加え、80〜90℃に加熱し攪拌しながらシュウ酸(和光純薬製、特級)477gを加え溶解した。またシュウ酸963gに水400mLを加え50〜60℃に加熱し、無水クロム酸(和光純薬製、特級)252gを水200mLに加えた溶液を良く攪拌しながら加え溶解した。得られたシュウ酸バナジウムの溶液にシュウ酸クロムの溶液を50〜60℃にて混合しバナジウム−クロム溶液を得た。この溶液にリンモリブデン酸(日本無機化学工業製)H3(PMo1240)・20H2O 41.1gを水100mLに溶解して加え、更に、酢酸カリウム(和光純薬製、特級)4.0gを水100mLに溶解して加えた。次いで20wt%水性シリカゾル(Na2Oを0.02wt%含有)2500gを加えた。このスラリー溶液にホウ酸78gを加え良く混合し液量が約3800gになるまで加熱、濃縮した。この触媒溶液を入口温度250℃、出口温度130℃に保ちながら噴霧乾燥した。130℃の乾燥機で12時間乾燥後、400℃で0.5時間焼成し、550℃で8時間空気流通下焼成した。この触媒の原子比は、V:Cr:B:Mo:P:Na:Kが1:1:0.5:0.086:0.007:0.009:0.020の割合で含有され、その触媒濃度は50wt%であった。
【0028】
以下、図1に示したフローに従って各工程を行った。アンモ酸化反応器Aに上記で調製した流動触媒6Lを充填し、空気、メタ−キシレン(以下、MXと略す、三菱ガス化学製品)及びアンモニア(三菱ガス化学製品)を混合した後、温度350℃に予熱し該反応器に供給した。仕込み条件は、MX供給量を350g/h、アンモニア/MXのモル比を10、酸素/MXのモル比を5.4、空間速度GHSVを630h-1とした。反応温度は420℃、反応圧力は0.2MPaとした。
【0029】
(1−2)吸収
アンモ酸化反応器A頂部からの反応生成ガスをイソフタロニトリル吸収塔Bに導入し、反応生成ガス中のイソフタロニトリルをメタ−トルニトリル(三菱ガス化学製品)溶媒中に吸収した。イソフタロニトリル吸収塔BはSUS304製で、上部に排気用の配管を備え、胴体部が内径100mmΦ、高さ800mmで、胴体部の下部450mmは2重管として蒸気加熱できる構造とし、底部にガス吹込み口を設けた。該吸収塔にメタ−トルニトリル2kgを入れ140℃とし、上記アンモ酸化反応生成ガスの吸収を2時間行った。吸収終了時のイソフタロニトリル吸収液には、メタ−トルニトリル 74.0wt%、イソフタロニトリル 25.0wt%、3−シアノ安息香酸 0.131wt%、3−シアノベンズアミド0.504wt%、イソフタルアミド0.021wt%が含まれていた。
【0030】
(2)抽出工程
次にイソフタロニトリル吸収液100gを混合槽Cに仕込み、気密後、液温が110℃になる様に1000rpmの速度で撹拌しながら温度調整を行った。混合槽Cにはヒーター及び撹拌機付きのオートクレーブ(容積250mL、底部抜出しノズル付き、SUS304製)を用いた。イソフタロニトリル吸収液を所定の温度に昇温後、窒素にて0.1MPaG迄昇圧した。続いて25%アンモニア水(和光純薬製、特級)0.80g及び炭酸アンモニウム(和光純薬製、特級)2.00gを純水17.20gに溶解させて調製した塩基性水溶液20.0gを混合槽Cの底部ノズルより供給後、再び液温を110℃に調整し、1000rpmの撹拌状態を保ったまま10分間保持した。
【0031】
(3)液-液分離工程
混合槽Cでの撹拌を停止し、イソフタロニトリル吸収液と塩基性水溶液の混合液を液温110℃の状態を保ちながら10分間静置し、有機相(上層)と水相(下層)に分離させた(混合槽Cを液-液分離槽Dとしても使用)。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 74.0wt%、イソフタロニトリル 24.9wt%、3−シアノ安息香酸 0.020wt%、3−シアノベンズアミド 0.545wt%、イソフタルアミド0.022wt%が含まれており、水相20.0gには、メタ−トルニトリル 0.166wt%、イソフタロニトリル 0.154wt%、3−シアノ安息香酸 0.732wt%、3−シアノベンズアミド 0.207wt%、イソフタルアミド0.051wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0032】
(4)低沸分離工程
液-液分離された有機相を低沸分離用の連続式の蒸留塔Eの中段に供給した。蒸留塔の蒸留条件は塔頂圧力5kPa、塔頂温度120℃、塔底温度175℃、塔底での滞留時間20分とし、メタ−トルニトリルおよび他の低沸分を蒸留塔の塔頂から留去すると共に溶融状イソフタロニトリルを塔底より抜き出した。塔底より得られた溶融状イソフタロニトリルには、メタ−トルニトリル 0.20wt%、イソフタロニトリル 96.9wt%、3−シアノ安息香酸 0.08wt%、3−シアノベンズアミド 2.59wt%が含まれていた。
【0033】
(5)水素化工程
得られた溶融状イソフタロニトリル1重量部を、溶解槽F(SUS304製)において、9重量部の液体アンモニアに2MPa、25℃の条件下で溶解させた。次いで溶解槽Fの底部より不溶成分を含んだ溶液を抜出し、濾過器Gとして焼結金属フィルター(ポア・サイズ40μm、ステンレス製)を用いて圧力差を利用した液移送による濾過を行い、水素化原料液を得た。
管状縦型水素化反応器H(SUS304製、内径13mmφ、容量50mL)にニッケル含量50wt%である市販の担持ニッケル/珪藻土触媒(円柱状、直径3mmΦ、高さ3mm)を破砕して大きさを揃えたもの(12−22mesh/JIS規格)を15.0g充填し、水素気流下200℃で還元して活性化させた。冷却後、反応器内に水素ガスを圧入して一定圧力8MPaに保ち、外部からの加熱により触媒層温度を80℃に維持した。反応器上部より水素ガスを18NL/hの流速で流通させながら、前記の水素化原料液を、反応器上部より33.0g/hの速度で連続的に供給した。反応中間体である3−シアノベンジルアミンの生成量は経時的に増加した。水素化反応液に含まれる3−シアノベンジルアミンのメタ−キシリレンジアミンに対する量が2.3wt%に達した時点での反応成績と反応器へのイソフタロニトリル合計通液量を表2に示す。
水素化反応液から液体アンモニアを単蒸留で分離し、さらに窒素ガスでバブリングして残存アンモニアを除去した後、脱アンモニアした反応液を市販のニッケル含量50wt%の担持ニッケル/珪藻土触媒を用いて固定床の反応形式で再度接触水素化させ(WHSV(weight hourly space velocity)=0.5h-1、反応温度80℃、反応圧力2MPa)、粗メタ−キシリレンジアミンを得た。次いで粗メタ−キシリレンジアミンを、理論段数10段の蒸留塔を用い、6kPaの減圧下で蒸留を行い、純度99.99%に精製したメタ−キシリレンジアミンを得た。尚、得られたメタ−キシリレンジアミン中の3−シアノベンジルアミン含量は0.001wt%以下であった。
【0034】
<実施例2>
抽出工程での液温を130℃にした以外は実施例1と同様の条件で液-液分離工程まで行った。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 73.9wt%、イソフタロニトリル 24.7wt%、3−シアノ安息香酸 0.018wt%、3−シアノベンズアミド 0.639wt%、イソフタルアミド0.024wt%が含まれており、水相20.0gにはメタ−トルニトリル 0.401wt%、イソフタロニトリル 0.478wt%、3−シアノ安息香酸 0.750wt%、3−シアノベンズアミド 0.386wt%、イソフタルアミド0.151wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0035】
<実施例3>
抽出工程での液温を140℃にした以外は実施例1と同様の条件で液-液分離工程まで行った。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 73.8wt%、イソフタロニトリル 24.4wt%、3−シアノ安息香酸 0.016wt%、3−シアノベンズアミド 0.736wt%、イソフタルアミド0.030wt%が含まれており、水相20.0gにはメタ−トルニトリル 0.944wt%、イソフタロニトリル 1.20wt%、3−シアノ安息香酸 0.874wt%、3−シアノベンズアミド 0.476wt%、イソフタルアミド0.156wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0036】
<実施例4>
抽出工程において、水酸化ナトリウム(和光純薬製、特級)0.10g及び炭酸アンモニウム(和光純薬製、特級)2.00gを純水17.90gに溶解させて調製した塩基性水溶液20.0gを使用した以外は実施例1と同様の条件で液-液分離工程まで行った。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 73.9wt%、イソフタロニトリル 24.9wt%、3−シアノ安息香酸 0.007wt%、3−シアノベンズアミド 0.475wt%、イソフタルアミド0.029wt%が含まれており、水相20.0gにはメタ−トルニトリル 0.167wt%、イソフタロニトリル 0.154wt%、3−シアノ安息香酸 0.877wt%、3−シアノベンズアミド 0.213wt%、イソフタルアミド0.096wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率は0.51wt%であった。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0037】
<実施例5>
抽出工程において、吸収工程で得られたイソフタロニトリル吸収液12.8gをメタ−トルニトリル(和光純薬製、特級)87.2gで希釈して100gとし、且つ水酸化ナトリウム(和光純薬製、特級)1.00gを純水19.00gに溶解させて調製した塩基性水溶液20.0gを使用し、且つ液温20℃の大気圧条件下で実施した以外は実施例1と同様の条件で液-液分離工程まで行った。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 96.6wt%、イソフタロニトリル 3.15wt%、3−シアノベンズアミド 0.063wt%、イソフタルアミド0.002wt%が含まれており、水相20.0gにはメタ−トルニトリル 0.310wt%、イソフタロニトリル 0.004wt%、3−シアノ安息香酸 0.079wt%、3−シアノベンズアミド 0.016wt%、イソフタルアミド0.019wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率は1.62wt%であった。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0038】
<比較例1>
吸収工程で得られたイソフタロニトリル吸収液を低沸分離工程に供給した以外は実施例1と同様にして水素化工程まで行った。ここで、低沸分離工程で蒸留塔塔底より得られた溶融状イソフタロニトリルには、メタ−トルニトリル 0.20wt%、イソフタロニトリル 96.6wt%、3−シアノ安息香酸 0.53wt%、3−シアノベンズアミド 2.48wt%が含まれていた。
水素化反応液に含まれる3−シアノベンジルアミンのメタ−キシリレンジアミンに対する量が実施例1と同じ2.3wt%に達した時点での反応成績と反応器へのイソフタロニトリル合計通液量を表2に示す。
【0039】
<比較例2>
抽出工程での液温を150℃にした以外は実施例1と同様の条件で液-液分離工程まで行った。液-液分離された有機相100gには、メタ−トルニトリル 73.6wt%、イソフタロニトリル 24.1wt%、3−シアノ安息香酸 0.015wt%、3−シアノベンズアミド 0.938wt%、イソフタルアミド0.030wt%が含まれており、水相20.0gにはメタ−トルニトリル 1.79wt%、イソフタロニトリル 1.84wt%、3−シアノ安息香酸 0.955wt%、3−シアノベンズアミド 0.700wt%、イソフタルアミド0.183wt%が含まれていた。有機相の組成及び抽出工程から液-液分離工程にかけてのイソフタロニトリルの損失率を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、キシレンをアンモ酸化させて得られるジシアノベンゼンの水素化によりキシリレンジアミンを製造するに際して、高収率、長い触媒寿命をもって安定的に、且つ経済的にキシリレンジアミンの製造が可能となる。
【符号の説明】
【0043】
A アンモ酸化反応器
B イソフタロニトリル吸収塔
C 混合槽
D 液-液分離槽
E 蒸留塔
F 溶解槽
G 濾過器
H 水素化反応器
図1