特許第5884792号(P5884792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884792
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】織機における捨耳用開口装置
(51)【国際特許分類】
   D03C 7/00 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
   D03C7/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-175701(P2013-175701)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45096(P2015-45096A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】島崎 春雄
【審査官】 山本 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−106782(JP,U)
【文献】 特開2010−100974(JP,A)
【文献】 実開昭60−189579(JP,U)
【文献】 特開2007−107128(JP,A)
【文献】 特開2006−336171(JP,A)
【文献】 米国特許第4103714(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03C 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽歯車と前記太陽歯車の周囲を公転する遊星歯車とを有する遊星歯車方式のもじり耳形成装置を備えた織機における捨耳用開口装置であって、
前記もじり耳形成装置はブラケットに取り付けられており、
前記捨耳用開口装置は、捨耳糸を開口する対を成すスイングレバーを備え、前記遊星歯車を支持する回転支持体の駆動軸が前記ブラケットを貫通してブラケットに対してもじり耳形成装置の配設側と反対に突出するように形成されており、前記スイングレバーに対する駆動力を前記駆動軸の前記突出した部分からクランク方式で伝達することを特徴とする織機における捨耳用開口装置。
【請求項2】
前記クランク方式のクランク機構は、
前記中心軸に第1端部が一体回転可能に連結されたクランクと、
前記スイングレバーに回動力を伝達する駆動レバーと、
前記クランクの第2端部と前記駆動レバーとの間に連結されたコンロッドと
を備え、
前記クランクの偏心量と、前記駆動レバーの長さとの比が1未満である請求項1に記載の織機における捨耳用開口装置。
【請求項3】
前記クランクの偏心量と、前記駆動レバーの長さとの比は1/3以下である請求項2に記載の織機における捨耳用開口装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機における捨耳用開口装置に係り、詳しくはボビンから耳糸を引き出しながらもじり耳を形成するもじり耳形成装置を備えた織機における捨耳用開口装置に関する。
【背景技術】
【0002】
もじり耳を形成するもじり耳形成装置を備えた流体噴射式織機においては、織機の緯入側及び反緯入側にもじり耳を形成するとともに、もじり耳を形成する部分の外側に捨耳を形成する場合がある。一般にもじり耳形成装置は、太陽歯車及び遊星歯車を備えた遊星歯車機構を用いて一対の糸ガイドを公転させ、各糸ガイドから耳糸を引き出しながらもじり耳を形成する。
【0003】
従来、遊星歯車機構を用いた方式のもじり耳形成装置を備えた織機のキャッチコード開口装置(捨耳用開口装置)として、図9及び図10に示す装置が特許文献1に提案されている。図9及び図10に示すように、キャッチコード開口装置100は、織機の反緯入側に設けられる遊星耳組装置200(もじり耳形成装置)に隣接して配設されている。
【0004】
図示しない左右のサイドフレーム間にビーム204が架設され、ビーム204の上面にはレール205が固定されている。レール205の上面には遊星耳組装置200のフレーム203が載置され、遊星耳組装置200は、織布幅の変更に対応して織幅方向位置を調整可能に、図示しないボルトによってレール205に固定されている。レール205よりも送出側に織幅方向に延在する駆動軸206が、レール205に対して平行に設けられ、駆動軸206は回転伝達装置によって、織機の主軸の回転に連動して回転される。
【0005】
遊星耳組装置200の遊星歯車208等が支持される支持体210は、フレーム203に回転可能に支持された回転軸214に固定され、駆動タイミングプーリ209、従動タイミングプーリ215、タイミングベルト216を介して、駆動軸206によって回転される。支持体210には太陽歯車217と噛合する中継歯車218が、支持体210の軸心を対称点として点対称に設けられ、遊星歯車208は、太陽歯車217の歯数の1/2の歯数に形成され、中継歯車218と互いに噛み合う。
【0006】
キャッチコード開口装置100は、第1のスイングレバー111、112を第1のスイングレバーホルダ132を介して支持する第1の軸101、及び第2のスイングレバー113、114を第2のスイングレバーホルダ133を介して支持する第2の軸102が、遊星耳組装置200のフレーム203に支持されている。駆動軸206には、駆動タイミングプーリ209よりも経糸列側に、内周面の軸心と外周面の軸心とが互いに異なる偏心ブッシュ127が嵌合されている。偏心ブッシュ127は、駆動軸206に対して軸線方向位置の変更、および円周方向位置、即ち位相の変更を可能に固定されている。
【0007】
偏心ブッシュ127には揺動アーム130の第1端部が回動可能に支持され、揺動アーム130の第2端部と第1のスイングレバーホルダ132とは、それぞれリンクとしてピン134を介して互いに連結されている。第1のスイングレバーホルダ132と第2のスイングレバーホルダ133とは、第1の軸101及び第2の軸102によってそれぞれ揺動可能に支持されるとともに、第1のスイングレバーホルダ132と第2のスイングレバーホルダ133とが、連結リンク139を介して互いに連結されている。
【0008】
そして、駆動軸206が回転すると、偏心ブッシュ127、揺動アーム130を介して第1のスイングレバーホルダ132が揺動し、第1のスイングレバーホルダ132の揺動により連結リンク139を介して第2のスイングレバーホルダ133が逆方向に揺動されるようになっている。
【0009】
また、特許文献2には、スプリングやカムを使用した消極駆動方式である捨耳用開口装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−100974号公報
【特許文献2】実開昭63−106782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の捨耳用開口装置は、特許文献2のようにスプリングやカムを使用しない積極駆動方式である。スプリングやカムを使用した消極駆動方式である特許文献2の捨耳用開口装置は、もじり耳形成装置本体の装着したカムの慣性モーメントが大きく、大きな負荷の増加となる。また、スプリングによる負荷もまた、積極駆動方式と比較し、大きな負荷となるため、積極駆動方式の優位性が大きい。
【0012】
ところが、特許文献1の捨耳用開口装置では、もじり耳糸形成装置(遊星耳組装置200)の太陽歯車217の軸と別体の駆動軸206に捨耳用開口装置(キャッチコード開口装置100)の駆動源となる偏心ブッシュ127と、もじり耳糸形成装置に駆動力を伝達する駆動タイミングプーリ209とが取り付けられている。そのため、織幅調整の際には、駆動タイミングプーリ209の固定部材と、偏心ブッシュ127の固定部材とを緩め、移動後に両方の固定部材を締め付ける作業が必要である。また、各々のタイミングを再調整する必要がある。そのため、織幅調整に手間が掛かる。
【0013】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、捨耳用開口装置の駆動負荷を低減するとともに、織幅調整に手間が掛からない織機における捨耳用開口装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する織機における捨耳用開口装置は、太陽歯車と前記太陽歯車の周囲を公転する遊星歯車とを有する遊星歯車方式のもじり耳形成装置を備えた織機における捨耳用開口装置であって、前記もじり耳形成装置はブラケットに取り付けられており、前記捨耳用開口装置は、捨耳糸を開口する対を成すスイングレバーを備え、前記遊星歯車を支持する回転支持体の駆動軸が前記ブラケットを貫通してブラケットに対してもじり耳形成装置の配設側と反対に突出するように形成されており、前記スイングレバーに対する駆動力を前記駆動軸の前記突出した部分からクランク方式で伝達する。
【0015】
この構成によれば、スイングレバーに対する駆動力をもじり耳形成装置が有する遊星歯車機構の遊星歯車を支持する回転支持体の中心軸からクランク方式で伝達するため、織幅調整の際に、もじり耳形成装置を移動させると、捨耳用開口装置の駆動源である駆動軸も一体に移動される。そのため、織幅調整に手間が掛からず、もじり耳形成装置と捨耳用開口装置のタイミングを変化させずに、織幅調整のためにもじり耳形成装置及び捨耳用開口装置を移動させることができる。さらに、消極駆動方式のようにカムやスプリングを使用しないため、捨耳用開口装置の駆動負荷が低減する。
【0016】
前記クランク方式のクランク機構は、前記中心軸に第1端部が一体回転可能に連結されたクランクと、前記スイングレバーに回動力を伝達する駆動レバーと、前記クランクの第2端部と前記駆動レバーとの間に連結されたコンロッドとを備え、前記クランクの偏心量と、前記駆動レバーの長さとの比が1未満であることが好ましい。ここで、「クランクの偏心量」とは、前記駆動軸の軸心と、クランクに連結されたコンロッドのクランクに対する回動中心との距離を意味する。また、「駆動レバーの長さ」とは、駆動レバーのコンロッドに対する連結部の回動中心と、駆動レバーの他方の回動中心との距離を意味する。
【0017】
この構成によれば、捨耳用開口装置の駆動レバーの中心軸周りの慣性モーメントによるクランク軸の回転トルクは、クランクの偏心量と、駆動レバーの長さとの比(レバー比)の2乗以下になる。そのため、レバー比を1未満にすることにより、クランク軸の回転トルクを低減することができる。
【0018】
前記クランクの偏心量と、前記駆動レバーの長さとの比は1/3以下であることが好ましい。クランク軸の回転トルクは、クランクの偏心量と、駆動レバーの長さとの比(レバー比)の2乗以下になり、レバー比が1/3の場合は、クランク軸の回転トルクはレバー比1の場合の1/9以下となる。したがって、レバー比を1/3以下にすれば、駆動力を大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、捨耳用開口装置の駆動負荷を低減するとともに、もじり耳形成装置及び捨耳用開口装置の織幅調整に手間が掛からない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】もじり耳形成装置と捨耳用開口装置との関係を示す一部破断模式正面図。
図2】捨耳用開口装置の概略側面図。
図3】捨耳用開口装置の側面図。
図4】捨耳用開口装置の各レバー等の支持関係を示す展開状態の一部省略断面図。
図5図3の状態から駆動軸が反時計方向に90°回転した状態を示す側面図。
図6図5の状態から駆動軸が反時計方向に90°回転した状態を示す側面図。
図7図6の状態から駆動軸が反時計方向に90°回転した状態を示す側面図。
図8】捨耳糸の開口状態とスイングレバーとの位置関係を示す側面図。
図9】従来技術のキャッチコード開口装置の側面図。
図10】従来技術のキャッチコード開口装置の一部破断平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、織機駆動モータから独立した電動モータを用いたもじり耳形成装置を備えた織機における捨耳用開口装置に具体化した一実施形態を図1図8にしたがって説明する。
【0022】
図1に示すように、捨耳用開口装置10は、織機の反緯入側に設けられるもじり耳形成装置70に隣接して配設されている。もじり耳形成装置70を構成するブラケット71は、図示しない織機の右側のサイドフレームと、織機の左側のサイドフレームとの間に架設された補強バー上に敷設されたレールに沿って取り付け位置を調整可能に固定されたスタンドに止着されている。スタンドは、図示しないねじ止め手段によってレールに締め付け固定され、ねじ止め手段による締め付けを解除すれば、もじり耳形成装置70及び捨耳用開口装置10は、レールに沿って取り付け位置を調整できるようになっている。
【0023】
もじり耳形成装置70は、基本的に特開2004−250816号公報に開示された装置と同様に構成されておりブラケット71には筒状の基枠72が止着されており、基枠72には太陽歯車73が止着されている。太陽歯車73の中空軸部73aには回転支持体74の中心軸としての駆動軸74aがベアリング75を介して回転可能に支持されている。即ち、駆動軸74aは太陽歯車73の軸心と軸心が一致する。
【0024】
回転支持体74の背面には一対の中継歯車76が180°の角度差を置いた回転対称位置に回転可能に支持されている。また、回転支持体74の背面には一対の遊星歯車77,78が180°の角度差を置いた回転対称位置に回転可能に支持されている。各中継歯車76は、太陽歯車73及び遊星歯車77,78の両方に噛合している。
【0025】
回転支持体74の前面には一対のボビンホルダ79A,79Bが配置されている。ボビンホルダ79Aは、遊星歯車77と一体的に自転可能に遊星歯車77に結合されており、ボビンホルダ79Bは、遊星歯車78と一体的に自転可能に遊星歯車78に結合されている。
【0026】
ボビンホルダ79A,79Bの保持枠791には支持ピン792が抜き出し可能に支持されている。支持ピン792にはボビン(図示せず)が回動可能に支持されている。支持ピン792を挿入する保持枠791の一側にはスライドガイド81が止着されており、スライドガイド81にはばね製のストッパ82が装着されている。スライドガイド81及びストッパ82は、支持ピン792に対する抜け止め機構を構成する。
【0027】
保持枠791には軸83が固定支持されており、軸83にはガイド831が固定されていると共に、テンションプレート832が回動可能に支持されている。テンションプレート832にはテンションアーム833が一体に突設されており、テンションプレート832と保持枠791との間には引っ張りばね84が張設されている。ボビンから引き出される耳糸Ya,Ybは、軸83、ガイド831及びテンションアーム833と摺接してガイド孔85から導出される。引っ張りばね84は、ガイド孔85から導出される耳糸Ya,Ybに対してテンションアーム833を介して張力を付与する。
【0028】
軸83にはラチェット86が止着されている。ラチェット86は、ボビンに止着されたラチェットホイール87に対して引っ張りばね84のばね作用によって係合可能である。耳糸Ya,Ybの張力が大きくなると軸83が引っ張りばね84のばね作用に抗して回動し、ラチェット86がラチェットホイール87から外れてボビンが回動可能となる。その結果、耳糸Ya,Ybがボビンから引き出され、回転支持体74の回転によって耳糸Ya,Ybがもじられる。
【0029】
ブラケット71には、捨耳用開口装置10及びもじり耳形成装置70を駆動する電動モータMが取り付けられている。電動モータMの出力軸89には駆動ギヤ90が止着されている。回転支持体74の駆動軸74aには被動ギヤ91が止着されている。駆動ギヤ90は、基枠72の筒内で被動ギヤ91に噛合されている。電動モータMが回転すると、回転支持体74が回転する。製織時には回転支持体74は、織機の1回転に対して1/2回転するようになっている。回転支持体74が1/2回転すると、遊星歯車77,78が1/2回公転すると共に、太陽歯車73に対して回転支持体74の回転方向とは逆方向へ1回自転する。これによりボビンホルダ79A,79Bに装着されたボビンの耳糸Ya,Ybがガイド孔85を経由して引き出されると共にもじられる。即ち、捨耳用開口装置10は、太陽歯車73と太陽歯車73の周囲を公転する遊星歯車77,78とを有する遊星歯車方式のもじり耳形成装置70を備えた織機における捨耳用開口装置である。
【0030】
図2図3及び図4に示すように、捨耳用開口装置10は、捨耳糸(捨耳用経糸)を開口する対を成すスイングレバーとして、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14を備えている。そして、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14に対する駆動力を、回転支持体74の駆動軸74aからクランク方式で伝達する。詳述すると、回転支持体74の駆動軸74aがブラケット71を貫通してブラケット71に対してもじり耳形成装置70の配設側と反対に突出するように形成されており、その突出した部分からクランク方式で駆動力を伝達する。各スイングレバー11〜14は同じ長さに形成され、各スイングレバー11〜14は、それぞれ先端部に捨耳糸が挿通される捨耳糸挿通孔11a,12a,13a,14aを有する。第2のスイングレバー12は、第1のスイングレバー11及び第1のスイングレバー13の間を通過可能に配置され、第1のスイングレバー13は第2のスイングレバー12及び第2のスイングレバー14の間を通過可能に配置されている。
【0031】
図4に示すように、ブラケット71に固定された筒状支持体15を貫通する状態で第1の回動軸16及び第2の回動軸17が同心状に相対回動可能に支持されている。第1の回動軸16は円柱状に形成され、第2の回動軸17は、第1の回動軸16の外側に回動可能に遊嵌された円筒部材で構成されている。両第1のスイングレバー11,13は、第1の回動軸16に一体回転可能に設けられた支持部材18に対して、互いに平行な状態で基端部において固定されている。両第2のスイングレバー12,14は、第1の回動軸16と同心に設けられた第2の回動軸17に一体回転可能に設けられた支持部材19に対して、互いに平行な状態で基端部において固定されている。第2の回動軸17は、ブラケット71に固定された筒状支持体15を貫通する状態で筒状支持体15を介してブラケット71に支持されている。
【0032】
第1のスイングレバー11,13に対する駆動力、即ち第1の回動軸16に対する駆動力は、駆動軸74aからクランク20と、コンロッド21と、駆動レバー22と、第1セクタギヤ24と、第2セクタギヤ25とを介して伝達される。
【0033】
詳述すると、クランク20は、第1端部において駆動軸74aにボルト26により締め付け固定されている。クランク20の第1端部にはすり割り部が設けられ、駆動軸74aに対してラジアル方向の任意の位置で固定が可能である。コンロッド21は、クランク20の第2端部と駆動レバー22との間に連結されている。コンロッド21の第1端部は、クランク20に螺合されるとともに軸を兼ねたボルト27に軸受け28を介して回動可能に連結され、コンロッド21の第2端部は、駆動レバー22の第1端部に軸受け29及び軸を兼ねたボルト29aを介して回動可能に連結されている。クランク20の偏心量Rと、駆動レバー22の長さLとの比R/Lが1未満であることが好ましく、比R/Lは1/3以下であることがより好ましい。クランク20の偏心量Rとは、駆動軸74aの軸心と、クランク20に連結されたコンロッド21のクランク20に対する回動中心との距離を意味する。また、駆動レバー22の長さLとは、駆動レバー22のコンロッド21に対する連結部の回動中心と、駆動レバー22の他方の回動中心との距離を意味する。
【0034】
図3及び図4に示すように、駆動レバー22の第2端部は、ボルト30を介して回動レバーとしての第1セクタギヤ24に一体回動可能に連結されている。第1セクタギヤ24は、ブラケット71に固定された筒状支持体31を貫通する状態で筒状支持体31に支持された支持軸23の端部に回動可能に支持されている。支持軸23は、駆動レバー22の第2端部の回動中心としても機能する。第1セクタギヤ24と噛合する第2セクタギヤ25は基端部において第1の回動軸16に一体回転可能に固定されている。
【0035】
第2のスイングレバー12,14に対する駆動力、即ち第2の回動軸17に対する駆動力は、駆動軸74aからクランク20と、コンロッド21と、駆動レバー22と、回動レバー32と、リンク33と、連結レバー34とを介して伝達される。
【0036】
詳述すると、駆動レバー22の第2端部は、ボルト30を介して第1セクタギヤ24及び回動レバー32に一体回動可能に連結されている。回動レバー32は、ボルト35及び軸受け36を介してリンク33の第1端部に回動可能に連結されている。リンク33の第2端部は、ボルト37及び軸受け38を介して連結レバー34に回動可能に連結されている。連結レバー34は、図示しないボルトにより第2の回動軸17に一体回動可能に締め付け固定されている。
【0037】
次に前記のように構成された捨耳用開口装置10の作用を説明する。
図3及び図8は、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14の捨耳糸挿通孔11a,12a等がワープラインWL(図8にのみ図示)上に位置し、捨耳用開口装置10における捨耳糸50の閉口位置に配置された状態を示す。この閉口位置は、綜絖による経糸開口の閉口位置に一致している。この状態から電動モータMの駆動により、図3の状態から駆動軸74aが図3の反時計方向に90°回転されると、クランク20が駆動軸74aと共に反時計方向に90°回転され、コンロッド21は駆動レバー22を支持軸23を中心にして反時計方向へ図5に示す状態まで回動させる。
【0038】
駆動レバー22が図3に示す位置から図5に示す位置まで回動する間に、第1セクタギヤ24及び回動レバー32が駆動レバー22と一体的に支持軸23を中心に図3の反時計方向に回動される。第1セクタギヤ24が支持軸23を中心に図3の反時計方向に回動されると、第1セクタギヤ24と噛合する第2セクタギヤ25が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図3の時計方向に回動される。そして、第1の回動軸16に支持部材18を介して一体回動可能に支持された第1のスイングレバー11,13が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図3の時計方向に回動され、図5に示すように、第1のスイングレバー11,13は、その先端が最上昇位置に配置される。
【0039】
一方、回動レバー32が支持軸23を中心に図3の反時計方向に回動されると、リンク33を介して連結レバー34が第2の回動軸17と共に第1の回動軸16を中心にして図3の反時計方向に回動される。そして、第2の回動軸17に支持部材19を介して一体回動可能に支持された第2のスイングレバー12,14が第1の回動軸16を中心に図3の反時計方向に回動され、図5に示すように、第2のスイングレバー12,14は、その先端が最下降位置に配置される。その結果、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14は、捨耳糸開口の開口状態となる。
【0040】
次に図5の状態から駆動軸74aが図5の反時計方向に90°回転されると、クランク20が駆動軸74aと共に反時計方向に90°回転され、コンロッド21は駆動レバー22を支持軸23を中心にして時計方向へ図6に示す状態まで回動させる。駆動レバー22が図5に示す位置から図6に示す位置まで回動する間に、第1セクタギヤ24及び回動レバー32が駆動レバー22と一体的に支持軸23を中心に図5の時計方向に回動される。第1セクタギヤ24が支持軸23を中心に図5の時計方向に回動されると、第1セクタギヤ24と噛合する第2セクタギヤ25が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図5の反時計方向に回動される。そして、第1の回動軸16に支持部材18を介して一体回動可能に支持された第1のスイングレバー11,13が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図5の反時計方向に回動される。
【0041】
一方、回動レバー32が支持軸23を中心に図5の時計方向に回動されると、リンク33を介して連結レバー34が第2の回動軸17と共に第1の回動軸16を中心にして図5の時計方向に回動される。そして、第2の回動軸17に支持部材19を介して一体回動可能に支持された第2のスイングレバー12,14が第1の回動軸16を中心に図5の時計方向に回動される。その結果、図6に示すように、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14は、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14の捨耳糸挿通孔11a,12a等がワープラインWL上に位置し、捨耳用開口装置10における捨耳糸50の閉口位置に配置された状態になる。
【0042】
次に図6の状態から駆動軸74aが図6の反時計方向に90°回転されると、クランク20が駆動軸74aと共に反時計方向に90°回転され、コンロッド21は駆動レバー22を支持軸23を中心にして時計方向へ図7に示す状態まで回動させる。駆動レバー22が図6に示す位置から図7に示す位置まで回動する間に、第1セクタギヤ24及び回動レバー32が駆動レバー22と一体的に支持軸23を中心に図6の時計方向に回動される。第1セクタギヤ24が支持軸23を中心に図6の時計方向に回動されると、第1セクタギヤ24と噛合する第2セクタギヤ25が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図6の反時計方向に回動される。そして、第1の回動軸16に支持部材18を介して一体回動可能に支持された第1のスイングレバー11,13が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図6の反時計方向に回動される。
【0043】
一方、回動レバー32が支持軸23を中心に図6の時計方向に回動されると、リンク33を介して連結レバー34が第2の回動軸17と共に第1の回動軸16を中心にして図6の時計方向に回動される。そして、第2の回動軸17に支持部材19を介して一体回動可能に支持された第2のスイングレバー12,14が第1の回動軸16を中心に図6の時計方向に回動される。その結果、図7に示すように、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14は、第1のスイングレバー11,13の先端が最下降位置に配置され、第2のスイングレバー12,14の先端が最上昇位置に配置された捨耳糸開口の開口状態となる。
【0044】
次に図7の状態から駆動軸74aが図7の反時計方向に90°回転されると、クランク20が駆動軸74aと共に反時計方向に90°回転され、コンロッド21は駆動レバー22を支持軸23を中心にして反時計方向へ図3に示す状態まで回動させる。駆動レバー22が図7に示す位置から図3に示す位置まで回動する間に、第1セクタギヤ24及び回動レバー32が駆動レバー22と一体的に支持軸23を中心に図7の反時計方向に回動される。第1セクタギヤ24が支持軸23を中心に図7の反時計方向に回動されると、第1セクタギヤ24と噛合する第2セクタギヤ25が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図7の時計方向に回動される。そして、第1の回動軸16に支持部材18を介して一体回動可能に支持された第1のスイングレバー11,13が第1の回動軸16と共に第1の回動軸16を中心に図7の時計方向に回動される。
【0045】
一方、回動レバー32が支持軸23を中心に図7の反時計方向に回動されると、リンク33を介して連結レバー34が第2の回動軸17と共に第1の回動軸16を中心にして図7の反時計方向に回動される。そして、第2の回動軸17に支持部材19を介して一体回動可能に支持された第2のスイングレバー12,14が第1の回動軸16を中心に図7の反時計方向に回動される。そして、第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14は、その捨耳糸挿通孔11a,12a等がワープラインWL上に位置し、捨耳用開口装置10における捨耳糸50の閉口位置に配置された図3に示す状態に復帰する。以下、駆動軸74aが1回転する毎に同様な開口、閉口動作が繰り返される。
【0046】
捨耳用開口装置10は、クランク20の偏心量Rと、駆動レバー22の長さLとの比(レバー比=R/L)を適切にすることにより、捨耳用開口装置10の駆動レバー22の中心軸周りの慣性モーメントによるクランク20の軸、即ち駆動軸74aの回転トルクを大幅に低減することが可能になる。具体的には、駆動軸74aの回転トルクは、クランク20の偏心量Rと、駆動レバー22の長さLとの比(レバー比=R/L)の2乗以下になる。そのため、レバー比を1未満にすることにより、駆動軸74aの回転トルクを低減することができる。例えば、レバー比(R/L)が0.5の場合の駆動軸74aの回転トルクはレバー比1の場合の0.25以下、1/3の場合は1/9以下となり、駆動力を大幅に低減できる。そのため、もじり耳形成装置70を電動モータMで駆動される電動もじり装置とした場合、電動モータの容量をUPせずに駆動することが可能である。スペース上の制限があるが、レバー比は1/3から1/6が適正である。なお、レバー比の設定による回転トルク低減効果を十分に発揮させるために、コンロッド21の長さは、駆動軸74aの中心とボルト29aの中心とを結ぶ線分Xと、ボルト29aの中心と支持軸23の中心とを結ぶ線分Yとが略直交するように設定されることが好ましい。
【0047】
レバー比が1/6の場合について、捨耳用開口装置10を設けた場合と、捨耳用開口装置10を設けない場合について電動モータMの駆動トルクを計測した。レバー比が1/6の場合、計算上のトルクは(0.167)=0.028以下となり、計算値と実験値とは合致した。
【0048】
なお、電動もじり装置の慣性モーメントを1としたときに 捨耳用開口装置10の駆動レバー22の軸周りの慣性モーメントは1.05である。そのため、レバー比を1とした場合は全体の駆動トルクは2倍以上となり、モータ容量の増加が必須となる。
【0049】
織機の織幅調整を行う場合、もじり耳形成装置70を移動させると、捨耳用開口装置10の駆動源である駆動軸74aも一体に移動される。そのため、従来技術と異なり、織幅調整の際に、捨耳用開口装置10の駆動部の移動が不要になり、もじり耳形成装置70と捨耳用開口装置10のタイミング調整も不要となる。なお、捨耳用開口装置10の閉口タイミング調整は、もじり耳形成装置70のタイミング調整後に、クランク20のラジアル位置を変更することで可能である。
【0050】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)捨耳用開口装置10は、太陽歯車73と太陽歯車73の周囲を公転する遊星歯車77,78とを有する遊星歯車方式のもじり耳形成装置70を備えた織機における捨耳用開口装置である。そして、捨耳用開口装置10は、捨耳糸50を開口する対を成すスイングレバー(第1のスイングレバー11,13及び第2のスイングレバー12,14)を備え、スイングレバーに対する駆動力を太陽歯車73の軸心と軸心が一致する駆動軸74aからクランク方式で伝達する。そのため、織幅調整の際に、もじり耳形成装置70を移動させると、捨耳用開口装置10の駆動源である駆動軸74aも一体に移動される。したがって、織幅調整に手間が掛からず、もじり耳形成装置70と捨耳用開口装置10のタイミングを変化させずに、織幅調整のためにもじり耳形成装置70を移動させることができる。さらに、織幅調整時に駆動軸74aとクランク20との直角配置状態が崩れず、クランク機構にこじりが生じることもない。
【0051】
(2)クランク方式のクランク機構は、駆動軸74aに対する偏心状態で第1端部が回転可能に支持されたコンロッド21と、コンロッド21の第2端部に第1端部が回動可能に連結され、かつスイングレバーに回動力を伝達する回動レバー(第1セクタギヤ24及び回動レバー32)に第2端部が一体回転可能に固定された駆動レバー22とを備えている。そして、クランク20の偏心量と、駆動レバー22の長さとの比が1未満である。
【0052】
この構成によれば、捨耳用開口装置10の駆動レバー22の中心軸周りの慣性モーメントによるクランク軸(駆動軸74a)の回転トルクは、クランク20の偏心量と、駆動レバー22の長さとの比(レバー比)の2乗以下になる。そのため、レバー比を1未満にすることにより、クランク軸(駆動軸74a)の回転トルクを低減することができる。
【0053】
(3)クランク20の偏心量と、駆動レバー22の長さとの比は1/3以下である。クランク軸の回転トルクは、クランク20の偏心量と、駆動レバー22の長さとの比(レバー比)の2乗以下になり、レバー比が1/3の場合は、クランク軸の回転トルクはレバー比1の場合の1/9以下となる。したがって、レバー比を1/3以下にすれば、駆動力を大幅に低減することができる。
【0054】
(4)第1のスイングレバー11,13を駆動する第1の回動軸16と、第2のスイングレバー12,14を駆動する第2の回動軸17とが同心状態に設けられている。そのため、第1の回動軸16と第2の回動軸17とが平行に設けられた構成に比べて、捨耳用開口装置10をコンパクトにすることが可能になる。
【0055】
(5)もじり耳形成装置70は、織機駆動用モータと独立した電動モータMにより駆動される。したがって、回転伝達装置を用いて織機から動力を受ける構成に比べて、織幅調整の作業が容易になる。
【0056】
(6)クランク20の第1端部にはすり割り部が設けられ、すり割り部において駆動軸74aに対してボルト26により締め付け固定されている。したがって、捨耳用開口装置10の閉口タイミング調整は、もじり耳形成装置70のタイミング調整後に、クランク20のラジアル位置を変更することで可能である。
【0057】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ もじり耳形成装置70は、織機駆動用モータと独立した電動モータMにより駆動される構成に限らず、回転伝達装置を用いて織機から動力を受ける構成であってもよい。
【0058】
○ 第1のスイングレバー11,13を駆動する第1の回動軸16と、第2のスイングレバー12,14を駆動する第2の回動軸17とは同心状態に限らず、第1の回動軸16と第2の回動軸17とが平行に配置された構成であってもよい。
【0059】
○ 遊星歯車機構を構成する中継歯車76や遊星歯車77,78が支持された回転支持体74は、駆動軸74aに止着された被動ギヤ91を電動モータMの出力軸89に止着された駆動ギヤ90で駆動される構成に限らない。例えば、被動ギヤ91を設ける代わりに、回転支持体74の外周面にギヤ部を設け、そのギヤ部を駆動ギヤ90と噛合する構成として、電動モータMにより回転支持体74を駆動する構成としてもよい。この場合、回転支持体74の中心からブラケット71を貫通してブラケット71に対してもじり耳形成装置70の配設側と反対に突出する中心軸を設け、これにクランク20を連結する。
【0060】
○ 各スイングレバー11〜14は同じ長さに形成される必要はない。例えば、第1のスイングレバー11と第2のスイングレバー14は同じ長さで、第1のスイングレバー13と第2のスイングレバー12とは同じ長さで、かつ第1のスイングレバー11の方が第1のスイングレバー13より長く形成してもよい。また、第1のスイングレバー11はその先端部が第1のスイングレバー13から離間する方向に屈曲し、第2のスイングレバー12はその先端部が第2のスイングレバー14から離間する方向に屈曲するようにしてもよい。
【0061】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記もじり耳形成装置は、織機の左右のサイドフレーム間に設けられたレールに沿って取り付け位置を調整可能に設けられたブラケット上に設けられ、前記捨耳用開口装置も前記ブラケット上に設けられている。
【符号の説明】
【0062】
L…長さ、R…偏心量、10…捨耳用開口装置、11…第1のスイングレバー、12…第2のスイングレバー、13…第1のスイングレバー、14…第2のスイングレバー、20…クランク、21…コンロッド、22…駆動レバー、50…捨耳糸、70…もじり耳形成装置、73…太陽歯車、74…回転支持体、74a…中心軸としての駆動軸、77,78…遊星歯車。
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