(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記整列部により整列されたデータの欠損が生じている場合に、欠損したデータよりも前のデータを用いて欠損したデータを推定して補完する補完部を備えることを特徴とする請求項1記載の通信装置。
前記補完部は、データの欠損が予め規定された回数連続した場合には、欠損したデータの補完を停止して前回値を維持することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の通信装置。
前記補完部は、データの欠損が連続する場合には、前回推定したデータに対する変化量が徐々に小さくなるように今回のデータを推定することを特徴とする請求項2から請求項5の何れか一項に記載の通信装置。
前記通信装置は、フィードバック制御に必要な操作を行うフィールド機器であり、前記通信相手から送信される前記フィードバック制御に係るデータとしての制御データを整列させることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載の通信装置。
前記設定装置によって前記制御用途であると設定されたフィールド機器について、送信エラーが生じた場合における前記無線ネットワークを介したデータの再送可能回数を増加させる管理装置を備えることを特徴とする請求項9記載の無線通信システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した分散制御システムでは、フィードバック制御によって工業プロセスにおける各種の状態量(例えば、圧力、温度、流量等)が制御されている。ここで、分散制御システムにおけるフィードバック制御とは、フィールド機器(測定器)で測定された状態量の測定信号(フィードバック信号)を制御装置が取得し、取得したフィードバック信号が目標値に一致するように制御装置がフィールド機器(操作器)を操作することによって、上記の各種状態量を制御する制御方式である。
【0007】
このようなフィードバック制御が行われる分散制御システムにおいて、フィールド機器(測定器)の測定結果を示すデータや、フィールド機器(操作器)に対する操作量を示すデータの欠損が生ずると、フィードバック制御に誤動作が生ずる虞が考えられる。また、データの遅延時間の変動が生ずる場合には、フィードバック制御における無駄時間が大きくなってフィードバック制御に誤動作が生ずる虞が考えられる。尚、ここでの無駄時間とは、制御装置からフィールド機器(操作器)に操作信号が出力されてから、フィードバック信号にその影響が現れるまでの時間をいう。
【0008】
ここで、上述した特許文献1に開示された技術を用いれば、パケットロスが生じた場合であってもフィールド機器(アクチュエータ)の操作量が補正されるため、安定したプロセス制御を実現することは可能である。しかしながら、上述した特許文献1では、フィールド機器(アクチュエータ)の操作量を補正するために複雑な演算が必要になり、制御装置の負荷が増大する虞が考えられる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、負荷を増大させることなく簡易にデータの欠損や通信遅延の変動に対応することが可能な通信装置及び無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の通信装置は、フィードバック制御に係るデータを一定の時間間隔で送信する通信相手(11a、15)と無線ネットワーク(N1)が含まれる通信経路を介して通信を行う通信装置(15、11c)において、前記無線ネットワークを介して前記通信相手から送信されてくる前記データを一時的に記憶する記憶部(22)と、前記記憶部に記憶された前記データを読み出して前記通信相手が前記データを送信する時間間隔に整列させる整列部(23)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、通信相手(例えば、工業プロセスのフィードバック制御に係るデータを一定の時間間隔で送信する通信相手)から無線ネットワークを介して送信されてきたデータは、記憶部に一時的に記憶された後に整列部により読み出されて通信相手がデータを送信する時間間隔に整列させられる。
また、本発明の通信装置は、前記整列部により整列されたデータの欠損が生じている場合に、欠損したデータよりも前のデータを用いて欠損したデータを推定して補完する補完部(25)を備えることを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記補完部が、データの欠損が生ずる直前におけるデータの変化量を求め、該変化量を用いて欠損したデータを推定することを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記補完部が、データの欠損が予め規定された回数連続した場合には、欠損したデータの補完を停止して前回値を維持することを特徴としている。
ここで、本発明の通信装置は、上位装置(16)に向けてアラームを送信するアラーム送信部(27)を備えており、前記補完部が、データの欠損が予め規定された回数連続した場合に、前記アラーム送信部にアラームを送信させることを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記補完部が、データの欠損が連続する場合には、前回推定したデータに対する変化量が徐々に小さくなるように今回のデータを推定することを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記通信相手が、前記フィードバック制御に必要な測定を行うフィールド機器(11a)であり、前記フィードバック制御に係るデータが、前記フィールド機器で測定された測定データであることを特徴としている。
或いは、本発明の通信装置は、フィードバック制御に必要な操作を行うフィールド機器であり、前記通信相手から送信される前記フィードバック制御に係るデータとしての制御データを整列させることを特徴としている。
本発明の無線通信システムは、無線ネットワーク(N1)を介した無線通信が可能な無線通信システム(1)において、前記無線ネットワークが含まれる通信経路を介した通信を行う上記の通信装置(15)と、前記無線ネットワークを介した無線通信が可能なフィールド機器(11)と、前記フィールド機器が制御用途であるか否かの設定を行う設定装置(17)とを備えており、前記通信装置が、前記設定装置の設定内容に応じて、前記フィールド機器から送信されてきたデータを整列させるか否かを切り替えることを特徴としている。
また、本発明の無線通信システムは、前記設定装置によって前記制御用途であると設定されたフィールド機器について、送信エラーが生じた場合における前記無線ネットワークを介したデータの再送可能回数を増加させる管理装置(14)を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通信相手(工業プロセスのフィードバック制御に係るデータを一定の時間間隔で送信する通信相手)から無線ネットワークを介して送信されてきたデータを記憶部に一時的に記憶し、記憶部に記憶されたデータを整列部が読み出して通信相手がデータを送信する時間間隔に整列するようにしている。このため、負荷を増大させることなく簡易に通信遅延の変動に対応することが可能であるという効果がある。
また、整列部により整列されたデータの欠損が生じている場合に、欠損したデータよりも前のデータを用いて欠損したデータを推定して補完するようにしているため、負荷を増大させることなく簡易にデータの欠損に対応することが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による通信装置及び無線通信システムについて詳細に説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
〈無線通信システムの全体構成〉
図1は、本発明の第1実施形態による無線通信システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の無線通信システム1は、無線デバイス11(フィールド機器)、無線ルータ12、バックボーンルータ13a,13b、システムマネージャ14(管理装置)、ゲートウェイ15(通信装置)、監視制御装置16、及び端末装置17(設定装置)を備えており、無線ネットワークN1を介したTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)方式による無線通信が可能である。この無線通信システム1は、例えばプラントや工場等(以下、これらを総称する場合には、単に「プラント」という)に構築される。
【0015】
ここで、無線通信システム1が構築されるプラントには、無線ネットワークN1、バックボーンネットワークN2、及び制御ネットワークN3が設けられている。無線ネットワークN1は、プラントの現場に設置された無線デバイス11、無線ルータ12、及びバックボーンルータ13a,13bによって実現されて、システムマネージャ14によって管理されるネットワークである。尚、無線ネットワークN1を形成する無線デバイス、無線ルータ、及びバックボーンルータの数は任意である。
【0016】
バックボーンネットワークN2は、無線通信システム1の基幹となる有線ネットワークであり、バックボーンルータ13a,13b、システムマネージャ14、及びゲートウェイ15が接続される。制御ネットワークN3は、バックボーンネットワークN2の上位に位置づけられる有線ネットワークであり、ゲートウェイ15、監視制御装置16、及び端末装置17が接続される。
【0017】
無線デバイス11は、プラントの現場に設置されて監視制御装置16の制御の下で工業プロセスの制御に必要な測定や操作を行うフィールド機器(無線フィールド機器)である。具体的に、無線デバイス11は、例えば流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器、プラント内の状況や対象物を撮影するカメラやビデオ等の撮像機器、プラント内の異音等を収集したり警報音等を発したりするマイクやスピーカ等の音響機器、各機器の位置情報を出力する位置検出機器、その他の機器である。この無線デバイス11は、電池を電源として省電力動作(例えば、間欠動作)を行い、ISA100.11aに準拠したTDMA方式による無線通信が可能である。
【0018】
ここで、本実施形態では、理解を容易にするために、制御すべき工業プロセスにおける状態量が流体の流量である場合を例に挙げて説明する。このため、
図1においては、流量の測定を行う無線デバイス11であるセンサ機器11aと、流量の操作を行う無線デバイス11であるバルブ機器11bとを1つずつ図示している。センサ機器11aは、流量の測定データを一定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で送信し、バルブ機器11bは、監視制御装置16から一定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で出力されてゲートウェイ15を介して送信されてくる制御データに基づいてバルブの開度を操作する。これらセンサ機器11a及びバルブ機器11bは何れも、フィードバック制御に用いられる。
【0019】
無線ルータ12は、無線デバイス11及びバックボーンルータ13a,13bとの間でISA100.11aに準拠した無線通信を行い、無線デバイス11及びバックボーンルータ13a,13bとの間で送受信されるデータを中継する。バックボーンルータ13a,13bは、無線ネットワークN1とバックボーンネットワークN2とを接続し、無線ネットワークN1とバックボーンネットワークN2との間で送受信されるデータの中継を行う。尚、これらバックボーンルータ13a,13bも、上記の無線通信規格ISA100.11aに準拠した無線通信を行う。
【0020】
システムマネージャ14は、無線ネットワークN1を介して行われる無線通信の制御を行う。具体的には、無線デバイス11、無線ルータ12、バックボーンルータ13a,13b、及びゲートウェイ15に対する通信リソース(タイムスロット及びチャネル)の割り当て制御を行って、無線ネットワークN1を介したTDMAによる無線通信を実現する。尚、システムマネージャ14は、無線ネットワークN1に対して無線デバイス11、無線ルータ12、及びバックボーンルータ13a,13bを参入させる処理も行う。
【0021】
また、システムマネージャ14は、端末装置17によって設定される内容(詳細は後述するが、無線デバイス11が制御用であるのか、或いは監視用であるのかを示す内容)に応じて、データの再送のためのタイムスロットをより多く割り当てるか否かを制御する。具体的に、システムマネージャ14は、制御用であると設定されている無線デバイス11については上記のタイムスロットをより多く割り当てる。
【0022】
このような制御を行うのは、送信エラーが生じた場合における無線ネットワークN1を介したデータの再送可能回数を増加させることで、遅延時間の変動を小さくするとともに、データの欠損が発生する割合を低減するためである。尚、監視用のフィールド機器については、データの再送のためのタイムスロットが多く割り当てられないため、データの再送が頻繁に行われることによって生ずる無駄な電池の消費を抑えることができる。
【0023】
ゲートウェイ15は、バックボーンネットワークN2と制御ネットワークN3とを接続し、無線デバイス11及びシステムマネージャ14等と、監視制御装置16及び端末装置17との間で送受信される各種データの中継を行う。このゲートウェイ15を設けることで、セキュリティを維持しつつ、バックボーンネットワークN2と制御ネットワークN3とを相互に接続することができる。
【0024】
ここで、ゲートウェイ15は、端末装置17によって設定される内容(無線デバイス11が制御用であるのか、或いは監視用であるのかを示す内容)に応じて無線デバイス11から送信されてくるデータを一定の時間間隔に整列させるか否かを切り替える。例えば、フィードバック制御に用いられるセンサ機器11aから送信されてくる測定データについては、一定の時間間隔(センサ機器11aが測定データを送信する時間間隔)に整列させるとともに、測定データに欠損が生じている場合には、欠損した測定データを推定して補完する処理を行う。このような処理を行うのは、センサ機器11aからの測定データが無線ネットワークN1を介して送信される際に生ずる欠損や通信遅延の変動に対応することにより、フィードバック制御に誤動作が生ずるのを防止するためである。
【0025】
監視制御装置16は、無線デバイス11等の監視及び管理を行う。具体的に、監視制御装置16は、ゲートウェイ15を介して無線デバイス11から測定データ(例えば、流量値)を収集することによって無線デバイス11等の監視を行う。また、監視制御装置16は、収集した測定データに基づいて無線デバイス11の制御量(例えば、バルブ機器の弁開度)を求め、この制御量を示す制御データを、ゲートウェイ15を介して無線デバイス11に一定の時間間隔で送信することによってバルブ機器11bを制御する。つまり、監視制御装置16は、フィードバック制御によって工業プロセスにおける流量等の各種の状態量を制御する。
【0026】
端末装置17は、例えばプラントの運転員によって操作され、無線デバイス11の監視及び制御を行うために用いられる。具体的に、端末装置17は、キーボードやポインティングデバイス等の入力装置、液晶表示装置等の表示装置を備えており、監視制御装置16で得られた無線デバイス11の監視結果を表示装置に表示して運転員に提供するとともに、運転員が入力装置を操作して入力した指示を監視制御装置16に出力して、その指示に基づいた制御を監視制御装置16に行わせる。
【0027】
また、端末装置17は、無線通信システム1の各種設定を行うためにも用いられる。端末装置17によって行われる設定としては、例えば以下のものが挙げられる。
・無線デバイス11の種別
・センサ機器11aの測定周期
・ゲートウェイ15における遅延時間
・ゲートウェイ15で行われる補完の最大連続数
【0028】
ここで、無線デバイス11は、フィードバック制御に用いられるもの(制御用のフィールド機器)と、撮像機器や音響機器等の監視用に用いられるもの(監視用のフィールド機器)とに区分される。上記の無線デバイス11の種別とは、制御用のフィールド機器であるのか、或いは監視用のフィールド機器であるのかを示すものである。尚、本実施形態では、説明を簡単にするために、センサ機器11a及びバルブ機器11bは、制御用のフィールド機器として設定されているものとする。
【0029】
〈ゲートウェイの構成〉
図2は、本発明の第1実施形態による通信装置としてのゲートウェイの要部構成を示すブロック図である。
図2に示す通り、ゲートウェイ15は、通信部21、記憶部22、データ整列部23(整列部)、遅延タイマ24、データ補完部25(補完部)、前回値記憶部26、アラーム送信部27、及び通信部28を備える。尚、ゲートウェイ15は、前述の通りバックボーンネットワークN2と制御ネットワークN3とを相互に接続するものであるため、これらのネットワーク間で授受されるデータの変換処理を行う処理部が設けられるが、
図2では図示を省略している。
【0030】
通信部21は、バックボーンネットワークN2に接続され、バックボーンネットワークN2を介して送信されてくるデータを受信するとともに、バックボーンネッワークN2に送信すべきデータをバックボーンネッワークN2に送信する。尚、上記のバックボーンネットワークN2を介して送信されてくるデータは、例えばセンサ機器11aからの測定データであり、上記のバックボーンネッワークN2に送信すべきデータは、例えばバルブ機器11bへ送信すべき制御データである。
【0031】
記憶部22は、例えば揮発性又は不揮発性のメモリを備えており、通信部21で受信したデータ(例えば、センサ機器11aからの測定データ)を一時的に記憶する。ここで、センサ機器11aからの測定データ等には、送信順番を示す「送信シーケンス番号」と送信時刻を示す「送信タイムスタンプ」とが付加されている。従って、測定データ等の欠損が生じていない場合には、記憶部22に記憶される測定データは、送信シーケンス番号順(或いは送信時刻順)に並んだものとなる。
【0032】
データ整列部23は、遅延タイマ24から出力される時刻情報を用いて記憶部22に記憶されたデータを読み出すことにより、記憶部22に記憶されたデータを一定の時間間隔(センサ機器11aが測定データを送信する時間間隔)に整列させる。具体的に、データ整列部23は、遅延タイマ24から出力される時刻情報で示される時刻よりも古い時刻を示す「送信タイムスタンプ」が付されたデータが記憶部22に記憶されているか否かを判断する。そして、そのようなデータが記憶部22に記憶されていると判断した場合には、記憶部22から読み出してデータ補完部25に出力する一方で、記憶部22に記憶されていないと判断した場合には、予め規定された空のデータをデータ補完部25に出力する。
【0033】
遅延タイマ24は、実際の時刻から予め規定された遅延時間Δtだけ遅延した時刻を示す時刻情報を、一定の時間間隔(センサ機器11aが測定データを送信する時間間隔)でデータ整列部23に出力する。ここで、遅延タイマ24に設定される遅延時間Δtは、無線ネットワークN1の遅延特性を考慮して規定される。例えば、無線ネットワークN1での遅延が大きくなるほど長い遅延時間Δtが設定され、逆に無線ネットワークN1での遅延が小さくなるほど短い遅延時間Δtが設定される。このような遅延タイマ24を用いるのは、通信遅延の変動が生じた場合であっても、データ整列部23がデータを整列できるようにするためである。
【0034】
データ補完部25は、データ整列部23から出力されるデータの欠損が生じている場合に、欠損したデータよりも前のデータを用いて欠損したデータを推定して補完し、補完したデータを前回値記憶部26に記憶させるとともに通信部28に出力する。具体的に、データ補完部25は、データ整列部23からの空データ(「送信シーケンス番号」が付されていないデータ)が出力された場合に、前回値記憶部26に記憶されたデータの変化量を求め、その変化量を用いて欠損したデータを推定する。
【0035】
図3は、本発明の第1実施形態におけるデータの補完方法を説明するための図である。ここで、
図3(a)は、ゲートウェイ15で行われる基本的な補完処理を示す図であり、
図3(b)はデータの欠損が連続して生じた場合にゲートウェイ15行われる補完処理を示す図である。尚、
図3(a),(b)に示すグラフは横軸に時間をとり、縦軸にデータの値をとってある。また、
図3(a),(b)では、説明を簡単にするために、通信遅延の変動が生じておらず、ゲートウェイ15では一定の時間間隔Tでデータ(データD1〜D4)が受信されるとする。
【0036】
図3(a)に示す通り、時刻t1〜t4においてデータD1〜D4がそれぞれ受信された後の時刻t5においてデータD5の欠損が生じたとする。ゲートウェイ15のデータ補完部25は、前回値記憶部26に記憶されている前回値(データD4の値V4)と前々回値(データD3の値V3)とを読み出し、以下に示す式を用いて欠損したデータD5の値V5を推定する。
V5=(V4−V3
)/T×T+V4
このように、データ補完部25は、前回値記憶部26に記憶されたデータD3,D4の変化量θ(θ=(V4−V3)/T)を求め、この変化量θを用いて欠損したデータを推定する。尚、上記データD3,D4の変化量θは、データの欠損(データD5の欠損)が生ずる直前におけるデータの変化量である。
【0037】
ここで、
図3(b)に示す通り、データ補完部25は、データの欠損が連続する場合であっても、基本的には
図3(a)を用いて説明した方法と同様の方法で欠損したデータを推定して補完する。但し、データ補完部25は、データの欠損が予め定められた規定回数Nだけ連続した場合には、欠損したデータの補完を停止して前回値を維持する。例えば、上記の規定回数Nが「3」に設定されており、
図3(b)に示す通り連続する3つのデータD5〜D7が欠損した場合には、データ補完部25は、3番目のデータD7の値をデータD6の値V6(前回値)に維持する。
【0038】
このような処理を行うのは、データの補完を連続して行うと実際のデータの値からのずれが大きくなると考えられることから、安全を考慮してデータの連続した補完を制限したものである。また、データ補完部25は、データの欠損が規定回数Nだけ連続した場合には、アラーム送信部27を制御して、上位装置(監視制御装置16)に向けてアラームを送信させる。
【0039】
尚、
図3(b)に示す通り、連続してデータD5〜D7が欠損した場合に、データ補完部25で推定されるデータD5〜D7の値V5〜V7をまとめると以下の式で表される。
V5=θ×T+V4
V6=θ×T+V5
V7=V6
【0040】
ここで、上記の式を参照すると、データが連続して欠損した場合に推定されるデータの値(値V5,V6)は変化量θずつ単調増加又は単調減少するものとなる。このような補完を行うと、推定されたデータの値(値V5,V6)と実際のデータの値とのずれが大きくなる場合が考えられる。このため、データ補完部25は、データの欠損が連続する場合には、以下で説明する他の補完方法を用いて前回推定したデータに対する変化量θが徐々に小さくなるように今回のデータを推定するようにしても良い。
【0041】
図4は、本発明の第1実施形態におけるデータの他の補完方法を説明するための図である。尚、
図4に示すグラフは、
図3(b)に示すグラフと同様に、横軸に時間をとり、縦軸にデータの値をとってある。また、
図4においても、説明を簡単にするために、通信遅延の変動が生じておらず、ゲートウェイ15では一定の時間間隔Tでデータ(データD1〜D4)が受信されるとする。
【0042】
図4に示す通り、データ補完部25は、減衰係数α(0<α<1)を用いて、変化量が徐々に小さくなるように今回のデータを推定する。尚、データ補完部25は、
図3を用いて説明した補完方法と同様に、データの欠損が規定回数Nだけ連続した場合には、欠損したデータの補完を停止して前回値を維持する。
図4に示す補完方法を用いた場合に、データ補完部25で推定されるデータD5〜D7の値V5〜V7をまとめると以下の式で表される。
V5=α×θ×T+V4
V6=α
2×θ×T+V5
V7=V6
【0043】
尚、データ補完部25は、データ整列部23から出力されるデータが記憶部22から読み出されたデータ(「送信シーケンス番号」等が付されたデータ)である場合には、そのデータを前回値記憶部26に記憶させるとともに通信部28に出力する。つまり、データ整列部23から出力されるデータが記憶部22から読み出されたデータである場合には、データ補完部25での上述した補完の処理は省略される。
【0044】
前回値記憶部26は、データ補完部25から通信部28に出力されたデータの前回値と前々回値との2つを記憶する。尚、前回値記憶部26に記憶されるデータ(前回値、前々回値)は、データ補完部25から通信部28に新たなデータが出力される度に更新される。アラーム送信部27は、データ補完部25の制御により、上位装置である監視制御装置16に向けてアラーム(データの欠損が規定回数Nだけ連続した旨を示すアラーム)を送信する。
【0045】
通信部28は、制御ネットワークN3に接続され、制御ネットワークN3を介して送信されてくるデータを受信するとともに、制御ネットワークN3に送信すべきデータを制御ネットワークN3に送信する。尚、上記の制御ネットワークN3を介して送信されてくるデータは、例えばバルブ機器11bへ送信すべき制御データであり、上記の制御ネットワークN3に送信すべきデータは、例えばデータ補完部25から出力されるデータ(測定データ)やアラーム送信部27から出力されるアラーム等である。
【0046】
〈無線通信システムの動作〉
次に、上記構成における無線通信システム1で行われるフィードバック制御の動作について説明する。
図5は、本発明の第1実施形態による無線通信システムの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図5に示す通り、センサ機器11aからは監視制御装置16に向けて一定の時間間隔Tで測定データD11〜D15が順次送信される。
【0047】
センサ機器11aから順次送信された測定データD11〜D15は、無線ネットワークN1、バックボーンルータ13a(或いは、バックボーンルータ13b)、及びバックボーンネットワークN2を順に介してゲートウェイ15に入力され、
図2に示す通信部21で受信されて記憶部22に順次記憶される。但し、
図5に示す例では、測定データD11〜D15は、センサ機器11aから一定の時間間隔Tで送信されてはいるものの、無線ネットワークN1で生ずる遅延によって、ゲートウェイ15では一定の時間間隔Tで受信されてはいない。また、
図5に示す例では、測定データD14は欠損してしまいゲートウェイ15では受信されていないため、測定データD14は記憶部22には記憶されない。
【0048】
また、ゲートウェイ15では、記憶部22に記憶された測定データを一定の時間間隔(センサ機器11aが測定データを送信する時間間隔T)に整列させる整列動作、及び欠損した測定データを補完する補完動作が行われる。
図6は、本発明の第1実施形態においてゲートウェイのデータ整列部で行われる処理を示すフローチャートである。また、
図7は、本発明の第1実施形態においてゲートウェイのデータ補完部で行われる処理を示すフローチャートである。尚、
図6に示すフローチャートは、遅延タイマ24からデータ整列部23に時刻情報が出力される度に行われ、
図7に示すフローチャートは、データ整列部23からデータ補完部25にデータが出力される度に行われる。
【0049】
図6に示すフローチャートの処理が開始されると、まず遅延タイマ24から出力される時刻情報を取得する処理がデータ整列部23で行われる(ステップS11)。次に、記憶部22を検索して、ステップS11で取得した時刻情報で示される時刻よりも前のデータが記憶部22に記憶されているか否かを判断する処理がデータ整列部23で行われる(ステップS12)。具体的には、ステップS11で取得した時刻情報で示される時刻よりも古い時刻を示す「送信タイムスタンプ」が付された測定データの有無が判断される。
【0050】
ステップS11で取得した時刻情報で示される時刻よりも前の測定データが記憶部22に記憶されていると判断された場合(ステップS12の判断結果が「YES」の場合)には、その測定データを記憶部22から読み出す処理がデータ整列部23で行われる(ステップS13)。そして、読み出した測定データをデータ補完部25に出力する処理がデータ整列部23で行われ(ステップS14)、
図6に示す一連の処理が終了する。尚、
図6に示すフローチャートは、
遅延タイマ24から時刻情報が出力される度に行われるため、データ整列部23に読み出されてデータ補完部25に出力された測定データは、一定の時間間隔(センサ機器11aが測定データを送信する時間間隔T)で整列されたものとなる。
【0051】
これに対し、ステップS11で取得した時刻情報で示される時刻よりも前の測定データが記憶部22に記憶されていないと判断された場合(ステップS12の判断結果が「NO」の場合)には、記憶部22からの測定データの読み出しを前回行ってから、時間間隔Tが経過したか否かがデータ整列部23で判断される(ステップS15)。
【0052】
上記の時間間隔Tが経過したと判断した場合(ステップS15の判断結果が「YES」の場合)には、空のデータをデータ補完部25に出力する処理がデータ整列部23で行われ(ステップS16)、
図6に示す一連の処理が終了する。これに対し、上記の時間間隔Tが経過していないと判断された場合(ステップS15の判断結果が「NO」の場合)には、ステップS16の処理は行われずに、
図6に示す一連の処理が終了する。
【0053】
また、上述したステップS14の処理によってデータ整列部23からデータ補完部25に測定データが出力され、或いは上述したステップS16の処理によってデータ整列部23からデータ補完部25に空のデータが出力されると
図7に示すフローチャートの処理が開始される。
図7に示すフローチャートの処理が開始されると、まずデータ整列部23から出力されたデータが空のデータであるか否かがデータ補完部25で判断される(ステップS21)。
【0054】
データ整列部23からのデータが空のデータではないと判断した場合(ステップS21の判断結果が「NO」の場合)には、データ整列部23からのデータ(測定データ)を通信部28に出力する処理がデータ補完部25で行われる(ステップS22)。次に、データの補完が連続して行われた回数を示すカウンタ(連続補完回数カウンタ)の値を「0」に設定し(ステップS23)、データ整列部23からのデータ(測定データ)を前回値記憶部26に記憶させる処理がデータ補完部25で行われる(ステップS24)。
【0055】
続いて、連続補完回数カウンタの値が、前述した規定回数N以上であるか否かかがデータ補完部25で判断される(ステップS25)。尚、ここでは、ステップS23の処理にて連続補完回数カウンタの値が「0」に設定されているため、ステップS25の判断結果は「NO」になり、
図7に示す一連の処理が終了する。
【0056】
他方、ステップS21の処理にて、データ整列部23からのデータが空のデータであると判断した場合(判断結果が「YES」の場合)には、前回値記憶部26に記憶されているデータ(前回値及び前々回値)を読み出し、欠損した測定データ(今回値)を推定する処理がデータ補完部25で行われる(ステップS26)。具体的には、
図3又は
図4を用いて説明した補完方法で欠損した測定データが推定される。
【0057】
次に、推定された測定データを通信部28に出力する処理がデータ補完部25で行われる(ステップS27)。続いて、連続補完回数カウンタをインクリメントし(ステップS28)、推定したデータを前回値記憶部26に記憶させる処理がデータ補完部25で行われる(ステップS24)。
【0058】
続いて、連続補完回数カウンタの値が、前述した規定回数N以上であるか否かかがデータ補完部25で判断される(ステップS25)。連続補完回数カウンタの値が規定回数Nよりも小さいと判断した場合(ステップS25の判断結果が「NO」の場合)には、
図7に示す一連の処理が終了する。これに対し、連続補完回数カウンタの値が規定回数N以上であると判断した場合(ステップS25の判断結果が「YES」の場合)には、アラーム送信部27を制御して上位装置(監視制御装置16)に向けてアラームを送信させる処理がデータ補完部25で行われ(ステップ
S29)、
図7に示す一連の処理が終了する。
【0059】
以上の処理が行われることによって、
図5に示す通り、ゲートウェイ15からは一定の時間間隔Tで測定データD11〜D15が出力される。ここで、欠損した測定データD14は、ゲートウェイ15で補完されて測定データD14aとして出力される。従って、監視制御装置16では、センサ機器11aから測定データD11〜D15が出力される時間間隔Tと同じ時間間隔で、測定データD11〜D13,D14a,D15が受信されることとなる。
【0060】
センサ機器11aからの測定データD11〜D15(補完された測定データD14aを含む)を受信すると、それら測定データD11〜D15を用いてバルブ機器11bの操作量を算出する処理が監視制御装置16で行われる。そして、算出されたバルブ機器11bの操作量を示す制御データが、監視制御装置16から一定の時間間隔Tでバルブ機器11bに向けて順次送信される。
【0061】
監視制御装置16から送信された制御データは、制御ネットワークN3、ゲートウェイ15、バックボーンネットワークN2、バックボーンルータ13a(或いは、バックボーンルータ13b)、及び無線ネットワークN1を順に介してバルブ機器11bに受信される。そして、監視制御装置16からの制御データに基づいてバルブの開度を調整する操作がバルブ機器11bで行われる。以上のフィードバック制御が繰り返され、工業プロセスにおける状態量(例えば、流量)の制御が行われる。
【0062】
以上の通り、本実施形態では、センサ機器11aから一定の時間間隔Tで出力されて無線ネットワークN1を介して送信されてきた測定データを、ゲートウェイ15で整列させるとともに、測定データに欠損が生じている場合には、欠損した測定データを推定して補完するようにしている。このため、監視制御装置16の負荷を増大させることなく簡易に測定データの欠損や通信遅延の変動に対応することが可能である。
【0063】
〔第2実施形態〕
図8は、本発明の第2実施形態による無線通信システムで用いられる無線デバイスの要部構成を示すブロック図である。
図8に示す無線デバイス11は、流量の操作を行うバルブ機器11c(通信装置)である。尚、
図8においては、
図2に示したブロックと同様のブロックについては同一の符号を付してある。また、本実施形態における無線通信システムの全体構成は、
図1に示す無線通信システムと同様である。
【0064】
図8に示す通り、バルブ機器11cは、
図2に示す記憶部22〜アラーム送信部27に加えて、アンテナAT、無線通信部31、及びバルブ操作部32を備える。アンテナATは、無線通信部31に接続されており、無線信号の送受信を行う。無線通信部31は、アンテナATで受信された無線信号の受信処理を行うとともに、アンテナATから送信させるべき信号に対する送信処理を行う。バルブ操作部32は、データ補完部25から出力されるデータに基づいてバルブ(図示省略)の開度を操作する。
【0065】
このような構成のバルブ機器11cは、
図2に示すゲートウェイ15と同様に、データの整列及び補完を行う。具体的に、バルブ機器11cは、監視制御装置16から出力されてゲートウェイ15及び無線ネットワークN1等を介して送信されてくる制御データを、一定の時間間隔(監視制御装置16が制御データを送信する時間間隔)に整列させるとともに、制御データに欠損が生じている場合には、欠損した制御データを推定して補完する処理を行う。尚、バルブ機器11cで行われる処理は、基本的にはゲートウェイ15で行われる処理と同様の処理であるため、詳細な説明は省略する。
【0066】
次に、本実施形態の無線通信システムで行われるフィードバック制御の動作について説明する。
図9は、本発明の第2実施形態による無線通信システムの動作を説明するためのタイミングチャートである。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、センサ機器11aから監視制御装置16に向けて一定の時間間隔Tで測定データが送信され、測定データを用いたバルブ機器11cの操作量の算出が監視制御装置16で行われている。このため、
図9に示す通り、監視制御装置16からはバルブ機器11cに向けて一定の時間間隔Tで制御データD21〜D25が順次送信される。
【0067】
監視制御装置16から順次送信された制御データD21〜D25は、制御ネットワークN3、ゲートウェイ15、バックボーンネットワークN2、バックボーンルータ13a(或いは、バックボーンルータ13b)、及び無線ネットワークN1を順に介してバルブ機器11cで受信され、
図8に示す無線通信部31で受信処理されて記憶部22に順次記憶される。
【0068】
但し、
図9に示す通り、制御データD21〜D25は、監視制御装置16及びゲートウェイ15から一定の時間間隔Tで送信されてはいるものの、無線ネットワークN1で生ずる遅延によって、バルブ機器11cでは一定の時間間隔Tで受信されてはいない。また、
図9に示す例では、制御データD24は欠損してしまいバルブ機器11cでは受信されていないため、制御データD24は記憶部22には記憶されない。
【0069】
ここで、バルブ機器11cでは、
図2に示すゲートウェイ15と同様の処理が行われる。つまり、
図6及び
図7を用いて説明した動作と同様の処理が行われる。このため、
図9に示す通り、バルブ機器11cのバルブ操作部32には、一定の時間間隔Tで制御データD21〜D25が入力される。ここで、欠損した制御データD24は、バルブ機器11cの内部で補完されてバルブ操作部32に入力される。従って、バルブ機器11cが備えるバルブ操作部32によって、バルブは監視制御装置16から制御データD21〜D25が出力される時間間隔と同じ時間間隔で操作されることとなる。以上のフィードバック制御が繰り返され、工業プロセスにおける状態量(例えば、流量)の制御が行われる。
【0070】
以上の通り、本実施形態では、監視制御装置16及びゲートウェイ15から一定の時間間隔Tで出力されて無線ネットワークN1を介して送信されてきた制御データを、バルブ機器11cで整列させるとともに、制御データに欠損が生じている場合には、欠損した制御データを推定して補完するようにしている。このため、監視制御装置16等の負荷を増大させることなく簡易に制御データの欠損や通信遅延の変動に対応することが可能である。
【0071】
以上、本発明の実施形態による通信装置及び無線通信システムについて説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、ゲートウェイ15とシステムマネージャ14が別々の装置として設けられていたが、これらは1つの装置として設けられていても良い。また、上述した第1実施形態では、センサ機器11aからの測定データの整列及び補完をゲートウェイ15で行うようにしていたが、監視制御装置16で行うようにしても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、ISA100.11aに準拠した無線通信を行う無線通信システムを例に挙げて説明したが、本発明はWirelessHART(登録商標)に準拠した無線通信を行う無線通信システムにも適用することができる。