特許第5884821号(P5884821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5884821生体材料用ガラス繊維、ヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維製品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884821
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】生体材料用ガラス繊維、ヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20160301BHJP
   C03C 25/42 20060101ALI20160301BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   C03C13/00
   C03C25/02 T
   A61L27/00 K
   A61L27/00 J
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-503537(P2013-503537)
(86)(22)【出願日】2012年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2012055551
(87)【国際公開番号】WO2012121210
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2014年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-49868(P2011-49868)
(32)【優先日】2011年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 和明
(72)【発明者】
【氏名】大澤 将司
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−141645(JP,A)
【文献】 特開平06−327757(JP,A)
【文献】 特表平10−512227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを65〜87質量%、及びNaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物を7〜30質量%含み、残部はガラス組成物に許容される材料であり、Al及びPを含まないことを特徴とする生体材料用ガラス繊維。
【請求項2】
アルカリ金属の酸化物としてNaOと、KO又はLiOのどちらか一方もしくは両方を7〜30質量%含むことを特徴とする請求項1記載の生体材料用ガラス繊維。
【請求項3】
アルカリ金属の酸化物として、NaOに加え、KOとLiOを合わせて0〜10質量%の含むことを特徴とする請求項1記載の生体材料用ガラス繊維。
【請求項4】
CaO又はMgOのどちらか一方もしくは両方を、合計して0〜27質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維。
【請求項5】
CaOを2〜20質量%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維。
【請求項6】
MgOを0〜7質量%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維の直径が3〜30μmであることを特徴とする生体材料用ガラス繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維にヒドロキシアパタイトを被覆したことを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維からなる製品であって、該製品がチョップドストランド、ヤーン、ロービング、マット、クロス、ミルドファイバー、編物、ガラスパウダーの形態であることを特徴とする生体材料用ガラス繊維製品。
【請求項10】
請求項9記載の生体材料用ガラス製品にヒドロキシアパタイトを被覆したことを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維製品。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体材料用ガラス繊維を、少なくともCa2+を2.5〜20.0mM、かつHPO2−を1.0〜10.0mM含み、pHが5.0〜7.5である処理溶液に、0〜90℃の範囲の温度で、5分〜1週間の間浸漬させることにより、ヒドロキシアパタイトを該ガラス繊維表面に析出させることを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の生体材料用ガラス繊維製品を、少なくともCa2+を2.5〜20.0mM、かつHPO2−を1.0〜10.0mM含み、pHが5.0〜7.5である処理溶液に、0〜90℃の範囲の温度で、5分〜1週間の間浸漬させることにより、ヒドロキシアパタイトを該ガラス繊維表面に析出させることを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体利用可能なガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維、ヒドロキシアパタイトで被覆されたガラス繊維及びヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工靭帯や人工軟骨、メンブレン等の生体材料に用いられている材料として、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の合成樹脂フィルムやコラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の天然高分子が知られている(特許文献1)。
【0003】
これらの材料には、生体活性と柔軟性が求められる。しかし、合成樹脂フィルムは生体活性を有せず、生体になじまないために完治後摘出手術が必要である。一方、天然高分子は生体活性を有するが、完治前に吸収されやすい。また、これら合成樹脂フィルム、天然高分子とも患部を補強するには機械的強度が低いという問題点があった。そこで患部を十分に補強できる強度を持つ生体材料が求められている。
【0004】
前記生体材料として、生体活性を有するガラス繊維を得ることができれば、摘出手術の必要も無く、十分な強度と柔軟性を備える材料を提供することが可能になると考えられる。
【0005】
人工骨としてリンやカルシウムを含み,生体液中でヒドロキシアパタイトを形成することができるバイオガラスや、水酸化アパタイト焼結体を生体材料に応用する試みが図られている。しかし、バイオガラスや水酸化アパタイト焼結体は紡糸して繊維化することが非常に困難なことから、人工靭帯や人工軟骨、メンブレン等の用途として、現在実用化されているガラス繊維製品はない。
【0006】
従来、生体活性を持つガラス繊維として、SiOを40〜60モル%、CaOを10〜21モル%、Pを0〜4モル%、NaOを少なくとも19モル%、及びAlを0.2モル%を超えて含むものが、知られている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、前記従来の生体活性を持つガラス繊維は、その組成の紡糸性が悪く繊維を連続生産するには不向きであり、ガラス繊維自体患部を補強するのに十分な強度ではなく、実用に耐えるレベルの生体活性ガラス繊維は得られていない。そこで生体活性を持ち、柔軟で、強度の高いガラス繊維が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−143290号公報
【特許文献2】特表平11−506948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生体液又は疑似体液中においてその表面にヒドロキシアパタイトを形成し、生体材料として用いることが可能なガラス繊維を紡糸することができるガラス組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の目的は、生体材料として用いることが可能なガラス繊維、ヒドロキシアパタイトで被覆されたガラス繊維及びその製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の生体材料用ガラス繊維用ガラス組成物は、SiOを65〜87質量%、及びNaOを7〜30質量%含み、NaOの一部をKO又はLiOで代替してもよく、残部はガラス組成物に許容される材料であり、Al及びPを含まないことを特徴とする。ここで、「Al及びPを含まない」とは、Al及びPを添加しないことを意味し、実質的にAl及びPの濃度が、0〜0.1質量%であることを意味する。
【0012】
本発明のガラス組成物によれば、十分な強度のガラス繊維を紡糸することができる。
【0013】
本発明のガラス組成物は、ガラスの主骨格となる成分として、65〜87質量%のSiOを含む。SiOの含有量が65質量%未満では、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、該ガラス繊維において所要の機械的強度を得ることができない。また、SiOの含有量が87質量%を超えると、前記ガラス組成物の溶融温度が高くなり、ガラス繊維を得ることができなくなる。
【0014】
また、本発明のガラス組成物は、NaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物を7〜30質量%含む。
【0015】
本発明のガラス組成物に含まれるNaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物が、7質量%未満では、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、Ca2+とHPO2−とを含む生体液中、又は疑似体液中において、該ガラス表面をアルカリ性にすることができない。したがって、ヒドロキシアパタイトによって被覆することができない。また、NaO等の含有量が30質量%を超えると、前記ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、該ガラス繊維において所要の機械的強度を得ることができない。
【0016】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、実質的にP、Alを含まない。
【0017】
本発明のガラス組成物は、Pを実質的に含まないことから、低い液相温度、広い作業温度範囲及び紡糸可能な粘度を同時に実現することができる。
【0018】
さらに、本発明のガラス組成物は、Alを実質的に含まないことから、生体に利用可能なガラス繊維を得ることができる。
【0019】
また、NaOと同様のアルカリ金属の酸化物であるKO又はLiOは、Ca2+とHPO2−とを含む溶液中において、該溶液中にK又はLiを溶出させ、ガラス繊維表面をアルカリ性とすることができる。そこで、本発明のガラス組成物において、前記NaOの一部をKO又はLiOで代替するようにしてもよい。
【0020】
前記NaOの一部をKO又はLiOで代替する場合、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、NaO、KO及びLiOを合計で7〜30質量%含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物において、KOが0〜10質量%の範囲で含まれていることが好ましい。10質量%以下のKOを含むことにより溶融温度を下げることができるため溶融性、紡糸性が向上するからである。
【0022】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物において、0〜10質量%のLiOを含むことが好ましい。10質量%以下のLiOを含むことにより、溶融温度の低下と粘度を低下させることができるからである。
【0023】
また、本発明のガラス組成物においては、CaO又はMgOが0〜27質量%の範囲で含まれていることが好ましい。
【0024】
CaO又はMgOを含むことにより、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、ガラス繊維表面にヒドロキシアパタイトを均一に形成させることができるからである。
【0025】
また、このとき、前記ガラス組成物は、CaOを2〜20質量%の範囲で含むことが好ましい。前記ガラス組成物は、CaOを2〜20質量%含むことにより、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、該ガラス表面に均一にヒドロキシアパタイトを析出することができるからである。
【0026】
また、このとき、前記ガラス組成物は、MgOを0〜7質量%の範囲で含むことが好ましい。前記ガラス組成物は、MgOを加えることでガラス中の成分の偏りである分相現象(ガラスの相分離現象)を抑えることができるため溶融性・紡糸性の向上という効果が得られるからである。
【0027】
さらに、本発明の生体材料用ガラス繊維は、前記生体材料用ガラス繊維用ガラス組成物からなるヒドロキシアパタイト形成能を有するガラス繊維であることを特徴とする。
【0028】
本発明のガラス組成物から得られたガラス繊維は、組成にNaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物を含むことから、例えば生体液又は疑似体液等のCa2+とHPO2−とを含む溶液中において、該溶液中にNaを溶出させ、ガラス繊維表面をアルカリ性とすることができる。この結果、前記溶液中のCa2+が、HPO2−及びOHと反応してヒドロキシアパタイトを生成し、前記ガラス繊維の表面にヒドロキシアパタイトが析出する。従って、その表面がヒドロキシアパタイトにより被覆されたガラス繊維を得ることができる。
【0029】
なお、前記疑似体液とは、ヒトの血漿に近い無機イオン組成を有する水溶液である。
【0030】
本発明のヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維は、前記ヒドロキシアパタイト形成能を有するガラス繊維にヒドロキシアパタイトを被覆したことを特徴とする。
【0031】
これによれば、ヒドロキシアパタイトで被覆されていることによりヒドロキシアパタイトと骨が結合する骨伝導性を付与することができるため、より生体適合性が高いガラス繊維が得られる。
【0032】
本発明のガラス繊維の形態としては、チョップドストランド、ヤーン、ロービング、マット、クロス、ミルドファイバー、編物、ガラスパウダー等が挙げられる。本発明のガラス繊維のフィラメント径としては、特に制限は無いが、3〜30μmで使用される。
【0033】
本発明のヒドロキシアパタイト被覆ガラス繊維は、前記ヒドロキシアパタイト形成能を有するガラス繊維を、少なくともCa2+を2.5〜20.0mM、かつHPO2−を1.0〜10.0mM含み、pHが5.0〜7.5である処理液に0〜90℃の範囲の温度で、5分〜1週間の間浸漬させることによりヒドロキシアパタイトを該ガラス繊維表面に析出させることを特徴とする製造方法により有利に製造することができる。
【0034】
前記処理液は、Ca2+を2.5〜20.0mM、HPO2−を1.0〜10.0mM含むことにより、前記ガラス繊維表面に均一にヒドロキシアパタイトを生成させることができ、ヒドロキシアパタイトを沈殿物として液中に過剰に生成させることがない。処理温度は0〜90℃、時間は5分〜1週間である。
【0035】
前記製造方法によれば、生体外で処理することができるので、高温処理により迅速にアパタイトを形成させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1はヒドロキシアパタイト形成メカニズムを示す図である。
図2図2は本発明の実施例1のヒドロキシアパタイト析出試験の結果を示す図である。
図3図3は本発明の実施例2のヒドロキシアパタイト析出試験の結果を示す図である。
図4図4はEガラス繊維のヒドロキシアパタイト析出試験の結果を示す図である。
図5図5はラットの骨再生におけるガラスクロスの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0038】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は65〜87質量%のSiOを含む。さらに、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは70〜87質量%のSiOを含む。SiOの含有量が70質量%以上の方が機械的強度の強いガラス繊維組成物を得やすいからである。また、SiOの含有量が87質量%を超えると溶融に長時間を要するなど、組成によって溶融性が悪くなる場合がある。
【0039】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは、72〜80質量%のSiOを含む。SiOの含有量が前記範囲であることにより、良好な溶融性を得ることができると共に、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、十分な機械的強度を得ることができる。
【0040】
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、実質的にP、Alを含まない。
【0041】
本発明のガラス組成物は、Pを実質的に含まないことから、低い液相温度、広い作業温度範囲及び紡糸可能な粘度を同時に実現することができる。前記ガラス組成物は、Pを含むときには溶融粘度が著しく低下し、ガラス繊維を得ることができなくなる。
【0042】
また、Pは、ガラスの溶融温度を著しく低下させることが知られており、本発明者らの検討により、ガラス繊維におけるヒドロキシアパタイト形成に必須ではないことが明らかとなった。
【0043】
さらに、本発明のガラス組成物は、Alを実質的に含まないことから、生体に利用可能なガラス繊維を得ることができる。前記ガラス組成物は、Alを含むときには、Alが生体に同化できないことから、得られたガラス繊維を生体に利用した場合、十分な骨伝導性を付与することができない。また、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、アルカリ成分の溶出を阻害するため、ガラス繊維表面がアルカリ性となることを阻害し、ヒドロキシアパタイト形成能を低下させる。
【0044】
また、本実施形態のガラス組成物は、NaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物を7〜30質量%含む。
【0045】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは10〜25質量%のNaOを含む。NaOの含有量が10質量%未満では、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、該ガラス表面をアルカリ性にする作用が得られにくくなる。また、NaOの含有量が25質量%を超えると、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、十分な機械的強度が得られない場合がある。
【0046】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは15〜22質量%のNaOを含む。NaOの含有量が前記範囲であることにより、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、十分な機械的強度を得ることができると共に、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、該ガラス表面を確実にアルカリ性にすることができる。
【0047】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、NaOと、KO及び/又はLiOを合計で10〜25質量%含むことがより好ましく、15〜22質量%含むことがさらに好ましい。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、合計で前記範囲のNaOと、KO及び/又はLiOを含むことにより、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、該ガラス表面を確実にアルカリ性にすることができる。また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、対薬品性および強度特性を両立させることができる。
【0048】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、KOが0〜10質量%の範囲で含まれていることが好ましい。このとき、前記ガラス組成物は、10質量%以下のKOを含むことにより溶融温度を下げることができるため溶融性、紡糸性が向上できる。ただし、KOの含有量が10質量%を超えると、溶融温度が下がりすぎてしまい繊維化が困難となる場合がある。
【0049】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは5質量%以下のKOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のKOを含むことにより、溶融性を向上させることができる。
【0050】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは2質量%以下のKOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のKOを含むことにより、溶融性を向上させることができると共に、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、該ガラス表面を確実にアルカリ性にすることができる。
【0051】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物において、LiOは、溶融温度の低下と粘度を低下させるという効果がある。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記効果を得るために、好ましくは0〜10質量%のLiOを含む。このとき、前記ガラス組成物は、10質量%以下のLiOを含むことにより、溶融温度の低下と粘度を低下させることができる。ただし、LiOの含有量が10質量%を超えると、ガラスの成分が均一に混ざりにくくなることから、成分に偏りが出てしまい、結果的にガラス化が困難となることがある。
【0052】
また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは5質量%以下のLiOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のLiOを含むことにより、溶融粘度が低くなり、繊維化をしやすくすることができると共に、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、該ガラス表面を確実にアルカリ性にすることができる。
【0053】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは3質量%以下のLiOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のLiOを含むことにより、溶融粘度及び、結晶析出する温度を低下することができ、非常に繊維化しやすくなると共に、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、より効率的にヒドロキシアパタイトを形成するために好適な量である。
【0054】
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、CaO又はMgOのどちらか一方もしくは両方を、合計して0〜27質量%含むことを特徴とする。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、より好ましくは、2〜20質量%、さらに好ましくは4〜10質量%のCaO及びMgOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のCaO及びMgOを含むことにより、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、ガラス繊維表面にヒドロキシアパタイトを均一に形成させることができる。
【0055】
このとき、前記ガラス組成物は、CaOを2〜20質量%の範囲で含むことが好ましい。前記ガラス組成物は、CaOを2〜20質量%含むことにより、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、該ガラス表面に均一にヒドロキシアパタイトを析出することができる。
【0056】
CaOの含有量が2質量%未満では、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物の溶融性が低下したり、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、十分なヒドロキシアパタイト形成能が得られなくなる場合がある。
【0057】
一方、CaOの含有量が20質量%を超えるときにはヒドロキシアパタイトの形成量が多すぎ、表面状態の平滑性が損なわれたり、欠陥が増加したりすることで、屈曲に対して弱くなるため、ガラス繊維の持つ柔軟性が損なわれることがある。
【0058】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは4〜10質量%のCaOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のCaOを含むことにより、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、該ガラス繊維表面に均一にヒドロキシアパタイトを形成することができる。
【0059】
また、このとき、前記ガラス組成物は、MgOを0〜7質量%の範囲で含むことが好ましい。前記ガラス組成物は、MgOを加えることでガラス中の成分の偏りである分相現象(ガラスの相分離現象)を抑えることができるため溶融性・紡糸性の向上という効果が得られる。MgOの含有量が7質量%を超えるときには、溶融温度の上昇や粘度の上昇による紡糸性の悪化の原因となることがある。
【0060】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、好ましくは0〜5質量%のMgOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のMgOを含むことにより、溶融性を向上させることができる。
【0061】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、さらに好ましくは0〜2質量%のMgOを含む。本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、前記範囲のMgOを含むことにより、溶融性を向上させることができると共に、該ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、ヒドロキシアパタイト形成能を向上させることができる。
【0062】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物は、SiOを65〜87質量%、及びNaOを含む1以上のアルカリ金属の酸化物を7〜30質量%含み、実質的にAl及びPを含まないことを特徴とする。ここで、「Al及びPを含まない」とは、Al及びPを添加しないことを意味し、実質的にAl及びPの濃度が、0〜0.1質量%であることを意味する。
【0063】
ガラスにNaOを含ませることにより、Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液、例えば生体液又は疑似体液中にNaが溶出し、ガラス表面がアルカリ性となり、処理溶液中のCa2+とHPO2−がガラス表面で反応することによりヒドロキシアパタイトが形成されると考えられる(図1)。
【0064】
CaO及びMgOは、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物からガラス繊維を得たときに、前記Ca2+とHPO2−とを含む処理溶液中において、より効率的にヒドロキシアパタイトを形成するために好適な成分である。
【0065】
本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物によれば、液相温度(溶融ガラス中に結晶が析出しない最低温度)が十分低く、液相温度とガラスの溶融粘度が100Pa・秒となる温度との差である作業温度の範囲が広いので、該ガラス組成物を溶融して容易にガラス繊維を紡糸することができる。また、本実施形態のガラス繊維用ガラス組成物を用いることにより、ヒドロキシアパタイトをガラス表面に析出させることができる、生体材料用ガラス繊維を得ることができる。
【0066】
上記の各組成のガラス繊維用ガラス組成物は当業者に公知のガラスの製造方法により製造することができる。すなわち、原料を計量し、混合後、溶融炉に送って溶融させて溶融ガラスとする。前記溶融ガラスをバブラーによりバブリングし、清澄槽で清澄化した後、作業槽で白金ノズルを通す。前記白金ノズル近傍には冷却プレートが設置してあり、ノズルを通ったガラスは急冷されながら集束剤が塗布され、紡糸機により巻き取られる。この結果、ガラス繊維を得ることができる。
【0067】
前述のようにして得られた本実施形態のガラス繊維は、例えば、過飽和のHPO2−とCa2+を含有する処理溶液中に浸漬することにより、該ガラス繊維表面からNa、K又はLiが溶け出し、該ガラス繊維表面にヒドロキシアパタイトを析出させることができる。
【0068】
前記処理溶液は、例えば、Ca2+を2.5〜20.0mM、HPO2−を1.0〜10.0mMを含むことが好ましい。pHは5.0〜7.5が好ましい。前記処理溶液は、より好ましくは、Ca2+2.5〜10.0mM、HPO2−1.0〜6.0mMを含む。
【0069】
pHを5.0〜7.5に調整するには、一般的な酸・アルカリを使用することができるが、ヒドロキシアパタイト形成への影響を考えると、酸は1Mの塩酸(1M−HCl)、アルカリは28%アンモニア水(NHOH)を使用することが好ましい。
【0070】
前記処理溶液中には、処理溶液としてヒドロキシアパタイト形成能を損うことがなく、体内に入ったときに、生体に悪影響を示すことのないイオンが含まれていてもよい。このようなイオンとして、例えば、塩素イオン(Cl)、炭酸イオン(HCO)、リン酸イオン(HPO2−)、硫酸イオン(SO2−)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、アンモニアイオン(NH)等を挙げることができる。
【0071】
前記処理溶液は、例えば生体液であってもよく、疑似体液であってもよい。
【0072】
次に、図1を参照して、前記処理溶液として疑似体液を用いたときに、該擬似体液中でヒドロキシアパタイトがガラス繊維上に析出するメカニズムについて説明する。図1はヒドロキシアパタイト生成のメカニズムを模式的に表したものである。
【0073】
図1において、前記疑似体液は、2.5〜20.0mMのCa2+と、1.0〜10.0mMのHPO2−との他、Cl、HCO、Na、SO2−を含んでおり、pHは5.0〜7.5の範囲に調整されている。一方、ガラス繊維(図1には単に「ガラス」として示す)は、65〜93質量%のSiOと、7〜30質量%のNaOとを含んでいる。SiOは主骨格を形成し、ガラス繊維組成物中のSiO以外の他の成分である、NaやCaはNa+、Ca2+して主骨格の間に存在すると考えられている。
【0074】
ここで、図1に示すように、ガラス中に含まれるNaはアルカリ土類金属であるCa2+等よりも、酸素を引きつける力が小さい。また電気陰性度が小さく、酸素との結合は、イオン結合的であり、結合力が弱いため、主骨格であるSiOの酸素原子との結合が弱く、溶媒中に容易に溶出する。ガラスに含まれるNaが溶出することによって、ガラス表面にSi−OH基が形成され、ガラス表面はアルカリ性となる。
【0075】
また、ガラス組成中のカルシウムイオンの擬似体液中への溶出によるカルシウムイオンの過飽和度の上昇と、ガラス表面のSi−OH基の存在がヒドロキシアパタイトの核形成を誘起し、核が材料表面のSi−OH基の位置に選択的に生成される。
【0076】
ヒドロキシアパタイト生成のメカニズムは、少なくともCa2+を2.5〜20.0mM、HPO2−を1.0〜10.0mM含む処理溶液であれば、どのような処理溶液であっても同様と考えられる。
【0077】
また、このヒドロキシアパタイトの組成は、主としてCa10(PO(OH)(Ca/P=1.67)である。しかしながら、体液、あるいは疑似体液の組成によって、Caの一部がMgに置換されているものや、PO2−の一部がCO2-に置き換わったもの等も存在し、例えば、CaMg(PO(OH)のような組成でも存在するものと考えられる。また、Ca/Pの比も1.67に限らない。例えば、Ca(PO(OH)のような組成が存在していても良く、疑似体液中でヒドロキシアパタイトを生成させる場合には、Ca/P=1.60〜1.74の範囲になるように、疑似体液を調整すればよい。
【0078】
前記処理溶液中で、ガラス繊維の表面にヒドロキシアパタイトを析出させる温度は、0〜90℃であればよく、30〜80℃がより好ましい。更に好ましくは36〜60℃である。
【0079】
従来のバイオガラスは生体中でヒドロキシアパタイトを析出させていたため、生体で可能な温度範囲でしか析出させることができなかった。しかし、本発明においては、生体外の処理溶液中でヒドロキシアパタイトを析出させることができる。したがって、体内環境よりも高温で反応させることもでき、より短時間でヒドロキシアパタイトを析出させることができる。
【0080】
本実施形態において、前記ガラス繊維を前記処理溶液に浸漬する時間は、特に限定は無いが、温度条件によって5分〜1週間程度であればよい。前記ガラス繊維を前記処理溶液に浸漬する時間は、好ましくは30分〜24時間である。
【0081】
ヒドロキシアパタイトで被覆するガラス繊維の形態としては、例えば、チョップドストランド、ヤーン、ロービング、マット、クロス、ミルドファイバー、編物、ガラスパウダー等が挙げられるがこれらに限られない。ガラス繊維の太さとしては、3〜30μmが好ましい。
【0082】
次に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0083】
〔実施例1〜15〕
まず、表1に示す各試料のガラス組成になるように調合したバッチを、白金ルツボに入れ電気炉中で1400〜1600℃で8時間の条件で、攪拌を加えながら溶融した。次にこの溶融ガラスをカーボン板に流し出し、ガラスカレットを作製した。いずれのガラス組成においても、結晶物の析出や溶け残りは無く、ガラスを得ることができた。結果を「ガラス化」として、表1に示す。
【0084】
次に、前記ガラスカレットをガラス繊維製造炉に投入し、1080〜1200℃で溶融し、紡糸を行なうことで3〜30μmの径を有する繊維を得た。いずれのガラス組成においても、結晶物の析出による切断や繊維径のばらつきは見られず、容易に繊維化することできた。結果を「繊維化」として、表1に示す。
【0085】
次に、前記ガラス繊維2gを、表2に示す組成を備え、pHが7.3〜7.4の範囲である擬似体液(SBF)に100mLに浸漬し、37℃で24時間保温することにより、ヒドロキシアパタイトの析出の有無を評価した(ヒドロキシアパタイト析出実験1)。
【0086】
次に、前記ガラス繊維2gを、表3に示す組成を備え、pHが5.5〜5.8の範囲である、硝酸カルシウム(Ca(NO)及びリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を含む溶液(CP溶液)100mLに浸漬し、60℃で30分間保温することにより、ヒドロキシアパタイトの析出の有無を評価した(ヒドロキシアパタイト析出実験2)。
【0087】
次に、前記ヒドロキシアパタイト析出実験により得られたガラス繊維の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;商品名S−3400N)により、観察した。また、エネルギー分散型分光分析装置(EDS)(株式会社堀場製作所製;商品名EMAX)にて表面元素分析を行った。
【0088】
SEMの表面分析の結果、析出物が付着していることが確認できる。また、EDSによりこの付着物の元素分析を行なったところ、ガラス組成物には含まれないP原子の存在が確認できたことからヒドロキシアパタイトがガラス繊維表面に析出していることが確認された。結果を表1、HAp析出実験の欄に、ヒドロキシアパタイトが析出したものを○で示す。
【0089】
また、実施例1のガラス組成物から得られたガラス繊維に対して、ヒドロキシアパタイト析出実験1の方法によりヒドロキシアパタイトが被覆されたガラス繊維表面のSEM写真を、図2に示す。実施例2のガラス組成物から得られたガラス繊維に対して、ヒドロキシアパタイト析出実験1の方法によりヒドロキシアパタイトが被覆されたガラス繊維表面のSEM写真を、図3に示す。
【0090】
図2、3の表面には、疑似体液に浸漬前には観察されない微小な析出物が付着しているのが確認される。
【0091】
【表1】
【0092】
なお、表中HAはヒドロキシアパタイト示し、温度は摂氏(℃)、引張強度はGPaを単位としている。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
〔比較例1〜10〕
表4に示す各試料のガラス組成になるように調合したバッチを用いた以外は、実施例1〜15と全く同一にして、ガラスカレットを作製した。比較例1〜3、9、10においては、溶け残りのあるものや、結晶析出するものがあり、ガラス化することができなかった。結果を「ガラス化」として、表4に示す。
【0096】
ガラス化できた比較例4〜8について、作製したガラスカレットをガラス繊維製造炉に投入後、1080〜1400℃で溶融し、紡糸を行なうことで繊維を得た。比較例7においてはガラス化、繊維化とも可能であったが、比較例4〜6においては、紡糸作業に最適な粘度である100Pa・秒の温度(表4に「1000ポイズ温度」として示す)が、結晶が析出する温度である液相温度に近く、紡糸中に結晶の析出が起こるため連続的に繊維を得ることは非常に困難であり、繊維化することができなかった。結果を「繊維化」として、表4に示す。
【0097】
次に、比較例7で得られたガラス繊維を用いた以外は、実施例1〜15と全く同一にしてヒドロキシアパタイトの析出実験1,2を行い、得られたガラス繊維の表面を実施例1〜15と全く同一にして観察すると共に、表面元素分析を行った。
【0098】
SEMによる表面分析の結果、析出物は確認されなかった。また、EDSによりガラス繊維表面の元素分析を行なったが、検出された元素はガラス組成元素のみであり、ヒドロキシアパタイトの析出は確認することができなかった。結果を表4に示す。
【0099】
また、比較例7のガラス組成物から得られたガラス繊維に対して、ヒドロキシアパタイト析出実験1の方法によりヒドロキシアパタイトの被覆を試みたガラス繊維表面のSEM写真を、図4に示す。
【0100】
ヒドロキシアパタイトが析出していることが確認された図2、3のガラス繊維表面と比較して、図4のガラス繊維表面は平滑なままであり、ヒドロキシアパタイトの析出が観察されない。
【0101】
【表4】
【0102】
次に細胞毒性を解析した。生体内で用いるためには、ガラス繊維が毒性を持たないことが必要条件である。そこで、生体活性を解析する前に、培養細胞を用いた細胞毒性評価を行った。
【0103】
実施例2及び比較例7のガラス繊維を用いてガラスクロスを作成し、10mLあたり1gのガラスクロスを培地に24時間浸漬した。この培地を用いてチャイニーズハムスター由来細胞株V79を培養し、6日後に細胞がコロニー形成能を有するか否かにより、毒性の有無の評価を行った。
【0104】
結果を表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
ガラスクロスを浸漬していない培地をコントロール培地とし、ガラスクロス浸漬培地で形成されたコロニー数を、コントロール培地で形成されたコロニー数の割合(コロニー数比%)として表している。実施例2、比較例7のガラスクロスを浸漬した培地でも、コントロール培地と同程度以上のコロニー数が観察された。したがって、実施例、比較例ともに細胞毒性は認められず、本願発明のガラス繊維は生体内でも安全に使用可能であることが確かめられた。
【0107】
さらに、これらガラス繊維の生体活性を解析するために、ラットに、上記生体毒性の見られなかった実施例2、比較例7のガラスクロスを埋入し、骨再生及び周囲の細胞への影響を調べた。
【0108】
11週齢のラットの両後脚の脛骨に直径2mmの貫通孔を開け、右後脚骨欠損部には実施例2のガラスクロス、左後脚骨欠損部には比較例7のガラスクロスを孔を覆うように設置した。ガラスクロス埋入から2週間経過後、被験部を摘出し、切片を作成し、細胞染色を行い光学顕微鏡により観察した。図5の(A)〜(C)は実施例を、(D)〜(F)は比較例を示す。
【0109】
図5に示すように、実施例2のガラスクロスを巻いた骨は、新生骨の形成が見られるとともに、骨形成を促す赤色骨髄が豊富であることが観察された。それに対し、比較例7のガラスクロスを巻いた骨は、新生骨の形成がほとんど見られなかった。図(A)、(B)(D)、(E)中、矢印で示したのは、骨欠損部である。骨欠損から2週間経過後も、比較例のガラスクロスを埋入したものでは、骨の再生が見られないのに対し、実施例2のガラスクロスを用いたものでは、骨が再生しているのが観察される。さらに、拡大して観察すると、実施例のガラスクロスを埋入したものでは(図5(C))、骨形成骨髄である赤色骨髄が観察されるのに対し、比較例のガラスクロスを埋入したものでは(図5(F))、線維性組織が観察されることから、ガラスクロスを異物として認識しているものと考えられる(各図矢印で示した箇所)。
【0110】
ラット埋入試験の結果からも、生体内でもヒドロキシアパタイトを形成することから、本願発明によるガラス繊維は生体適合性に優れ、生体材料として患部を補強する目的で使用可能であることが確認された。
【0111】
上述のように、本願発明によるガラス繊維は、十分な強度を有し、紡糸性に優れ、また、生体液又は疑似体液中においてその表面にヒドロキシアパタイトを形成することから、生体適合性を有するものである。
図1
図2
図3
図4
図5