(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884972
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】直流電磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 7/16 20060101AFI20160301BHJP
H01F 7/127 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
H01F7/16 Q
H01F7/16 D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-258436(P2011-258436)
(22)【出願日】2011年11月28日
(65)【公開番号】特開2013-115159(P2013-115159A)
(43)【公開日】2013年6月10日
【審査請求日】2014年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】奥出 敏史
【審査官】
井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−092907(JP,U)
【文献】
特開2002−071045(JP,A)
【文献】
特開平09−283331(JP,A)
【文献】
実開平06−060109(JP,U)
【文献】
特開平11−241783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/127
H01F 7/16
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定鉄心と、前記固定鉄心に向けて遠近移動できるようにした可動鉄心と、通電により前記可動鉄心を移動できるようにしたコイルとを有し、前記可動鉄心は当該側面に軸線方向に長く両端を開口する油路が形成されていると共に、筒状の中空管内に収容されており、
前記中空管の一方には前記固定鉄心が配置・固定され、前記固定鉄心には透孔が穿設されており、前記透孔には前記可動鉄心の作動によって被動せられるようにロッドが挿通されており、前記可動鉄心及び前記ロッドの作動時には前記透孔と前記ロッドとの間、前記固定鉄心と前記可動鉄心との間、及び前記油路を通して油の流通が行われるようにしてある直流電磁石において、
前記可動鉄心は吸着端面の小径部がテーパ面を有する凹形状であり、前記固定鉄心は前記可動鉄心の凹形状と補合するように小径部がテーパ面を有する凸形状であって、
前記固定鉄心の大径部と小径部の段部には溝部が設けられ、
非磁性材料で形成されたC字形状のスペーサの内周側が前記溝部に嵌まり込まれており、
前記スペーサは周面の一部を切欠開口部となした適宜幅のC字形状を有した本体と、前記適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に少なくとも2個設けた第1の溝と、前記第1の溝の一端から前記本体の中心に向けて形成され前記適宜幅の内方に導通する第2の溝と、前記第1及び第2の溝により形成された舌片部と、を備えたスペーサであって、かつ前記スペーサの内径は前記固定鉄心の小径部より小さく、前記スペーサの外径と前記中空管との間に相当の隙間が残っていることを特徴とする直流電磁石。
【請求項2】
固定鉄心と、前記固定鉄心に向けて遠近移動できるようにした可動鉄心と、通電により前記可動鉄心を移動できるようにしたコイルとを有し、前記可動鉄心は当該側面に軸線方向に長く両端を開口する油路が形成されていると共に、筒状の中空管内に収容されており、
前記中空管の一方には前記固定鉄心が配置・固定され、前記固定鉄心には透孔が穿設されており、前記透孔には前記可動鉄心の作動によって被動せられるようにロッドが挿通されており、前記可動鉄心及び前記ロッドの作動時には前記透孔と前記ロッドとの間、前記固定鉄心と前記可動鉄心との間、及び前記油路を通して油の流通が行われるようにしてある直流電磁石において、
前記可動鉄心は吸着端面の小径部がテーパ面を有する凹形状であり、前記固定鉄心は前記可動鉄心の凹形状と補合するように小径部がテーパ面を有する凸形状であって、
前記固定鉄心の大径部と小径部の段部には溝部が設けられ、非磁性材料で形成された円形状のスペーサの内周側が前記溝部に嵌まり込まれており、
前記スペーサは円形状を有した本体と、前記適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に少なくとも2個設けた第1の溝と、前記第1の溝の一端から前記本体の中心に向けて形成され適宜幅の内方に導通する第2の溝と、前記第1及び第2の溝により形成された舌片部と、を備えたスペーサであって、かつ前記スペーサの内径は前記固定鉄心の小径部より小さく、前記スペーサの外径と前記中空管との間に相当の隙間が残っていることを特徴とする直流電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械等に使用される
直流電磁石に関し、さらに詳細にはDCソレノイドにおける固定鉄心と可動鉄心の吸着端面形状の最適化と密着防止のために設ける非磁性スペーサを取付、固定を改良した直流電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電磁石は、通電
時に可動鉄心と固定鉄心を直接吸着させると、通電を切った時に残留磁束のために可動鉄心が固定鉄心から離れにくくなる。この現象を防止するため、通常、非磁性体から成るスペーサを固定鉄心と可動鉄心との間に介在させる。また、スペーサの可動鉄心の移動方向の寸法(厚さ)が小さいほど、電磁石の発揮しうる吸引力を大きく出来ることから、可能な限り厚さを
薄くしたい。そこで、従来この種の直流電磁石では、スペーサ37(特許文献1に記載の符号を示す、以下同じ)の形状としてC字形形状と、馬蹄形スペーサ48が記載されている(例えば、特許文献1。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平5−25203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているスペーサの形状の場合、該スペーサを外方向に一旦押し広げた後、固定鉄心の溝に装着している。このため、スペーサの厚さが充分な場合、押し広げたときにスペーサに作用する応力は材料の弾性限度内に収まるので、スペーサの外径は押し広げる前の寸法に戻り、大きく拡大することはない。
しかしながら、スペーサの厚さを
薄くしていくと、押し広げた際の応力が材料の弾性限度を超え塑性変形領域に達するため、スペーサの外径が大きく拡大した状態になって、スペーサの拡大した外径に他の部品が干渉し、次工程の組立作業の継続が不可能になってしまう
恐れがあり、問題であった。
本発明は、係る課題を解決するためになされたもので直流電磁石における可動鉄心と固定鉄心との相互の端面形状の最適化と併せ、両鉄心の密着防止のために用いる非磁性スペーサとして、スペーサ内径側に意図的に変形しやすい部分を設け、電磁石の軸方向にも変形しうるようにしたスペーサを有する直流電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するため
請求項1記載の本発明は、固定鉄心と、前記固定鉄心に向けて遠近移動できるようにした可動鉄心と、通電により前記可動鉄心を移動できるようにしたコイルとを有し、前記可動鉄心は当該側面に軸線方向に長く両端を開口する油路が形成されていると共に、筒状の中空管内に収容されており、
前記中空管の一方には前記固定鉄心が配置・固定され、前記固定鉄心には透孔が穿設されており、前記透孔には前記可動鉄心の作動によって被動せられるようにロッドが挿通されており、前記可動鉄心及び前記ロッドの作動時には前記透孔と前記ロッドとの間、前記固定鉄心と前記可動鉄心との間、及び前記油路を通して油の流通が行われるようにしてある直流電磁石において、前記可動鉄心は吸着端面の小径部がテーパ面を有する凹形状であり、前記固定鉄心は前記可動鉄心の凹形状と補合するように小径部がテーパ面を有する凸形状であって、前記固定鉄心の大径部と小径部の段部には溝部が設けられ、非磁性材料で形成されたC字形状のスペーサの内周側が前記溝部に嵌まり込まれており、前記スペーサは周面の一部を切欠開口部となした適宜幅のC字形状を有した本体と、前記適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に少なくとも2個設けた第1の溝と、前記第1の溝の一端から前記本体の中心に向けて形成され前記適宜幅の内方に導通する第2の溝と、前記第1及び第2の溝により形成された舌片部と、を備えたスペーサであって、かつ前記スペーサの内径は前記固定鉄心の小径部より小さく、前記スペーサの外径と前記中空管との間に相当の隙間を残すようにした直流電磁石とした。
また、請求項2に記載の発明は固定鉄心と、前記固定鉄心に向けて遠近移動できるようにした可動鉄心と、通電により前記可動鉄心を移動できるようにしたコイルとを有し、前記可動鉄心は当該側面に軸線方向に長く両端を開口する油路が形成されていると共に、筒状の中空管内に収容されており、
前記中空管の一方には前記固定鉄心が配置・固定され、前記固定鉄心には透孔が穿設されており、前記透孔には前記可動鉄心の作動によって被動せられるようにロッドが挿通されており、前記可動鉄心及び前記ロッドの作動時には前記透孔と前記ロッドとの間、前記固定鉄心と前記可動鉄心との間、及び前記油路を通して油の流通が行われるようにしてある直流電磁石において、
前記可動鉄心は吸着端面の小径部がテーパ面を有する凹形状であり、前記固定鉄心は前記可動鉄心の凹形状と補合するように小径部がテーパ面を有する凸形状であって、前記固定鉄心の大径部と小径部の段部には溝部が設けられ、非磁性材料で形成された円形状のスペーサの内周側が前記溝部に嵌まり込まれており、前記スペーサは円形状を有した本体と、前記適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に少なくとも2個設けた第1の溝と、前記第1の溝の一端から前記本体の中心に向けて形成され適宜幅の内方に導通する第2の溝と、前記第1及び第2の溝により形成された舌片部と、を備えたスペーサであって、かつ前記スペーサの内径は前記固定鉄心の小径部より小さく、前記スペーサの外径と前記中空管との間に相当の隙間を残すようにした直流電磁石とした。
【発明の効果】
【0006】
本発明は直流電磁石における可動鉄心と固定鉄心との相互の端面形状を最適化と併せ、両鉄心の密着防止のために用いる非磁性スペーサとして、スペーサ内径側に意図的に変形しやすい部分を設け、電磁石の軸方向にも変形しうるようにしたスペーサを有する直流電磁石にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施の形態に係る直流電磁石の略縦断面図である。
【
図4】第二の実施の形態に係るスペーサの拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態に係る直流電磁石について図面により詳細に説明する。
図1は
直流電磁石の正面概略図を示し、弁装置11において、参照符号12はバルブボディを示し、内部には油路13が形成されており、また油路13には周知のように被制御装置に接続される図示しないA,Bポート、圧力ポート、タンクポートなどが連通されている。参照符号14はスプールを示し、矢印方向に進退自在に備えられている。参照符号15はリテーナ、参照符号16はばね部材を示し、リテーナ15を介してスプール14を押圧するように構成されている。参照符号17はバルブボディ12の上に取付けられた端子箱、参照符号18は端子箱17内に設けられた端子金具、参照符号19は接続金具を示し、後述するコイル50のプラグピン53を接続できるように構成されており、該接続金具19には、外部から電源供給を受けるための図示しないリード線を接続できるようにされている。
【0009】
参照符号30は本発明の実施例の
直流電磁石を示し、該
直流電磁石30は特許文献1(実公平5−25203)と略同じ構造なので、主要な部品について符号を付して詳細な説明を省略する。
図1において
直流電磁石30はガイドアッセンブリ31の外周側に着脱自在に装着されたコイルアッセンブリ32を含む。ガイドアッセンブリ31には固定鉄心33が形成され、バルブボディ12に対してねじ部48で着脱自在に螺合されている。参照符号34は固定鉄心33に穿設された透孔で、ロッド35が挿通されている。参照符号36は透孔34とロッド35との間に油の流通を可能に構成された流路
(油路)を示す。
【0010】
図2において、固定鉄心33の可動鉄心45側の吸着端面35´は大径部Φa37と小径部Φb38を持つ凸形状に形成され、小径部Φb38はさらにテーパ形状に加工され先端寸法径Φc39が小径部Φb38より小さくなるようになっている。また、大径部Φa37と小径部Φb38の段部には、該小径部Φb38より小さい溝40が設けられており、溝径φ
dは、φbより小さくφcより大きくなるように加工されている。参照符号41は中空管で、非磁性リング42と磁性体である端部材43を溶接部61で溶接して構成されており、さらに固定鉄心33の溶接部62で溶接・固定されている。参照符号44は端部材43に穿設された透孔44´に挿入された手動操作用プッシュピンを示す。参照符号45は中空管31内に矢印方向に移動自在に内装された可動鉄心で、磁性材料で形成されている。
【0011】
可動鉄心45の固定鉄心側吸着面は凹形状に形成され、固定鉄心33の凸部と接触しない程度の
図2に示す隙間63ができるように加工されている。参照符号47は固定鉄心33の溝40に嵌り込むようにしたスペーサで、
図3に示すように周面の一部を切欠開口部となした
適宜幅のC字形状を有した本体47aと、前記適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に5個設けた第1の溝47bと、前記第1の溝47bの一端から前記本体47aの中心に向けて形成され適宜幅の内方に導通する第2の溝47cと、前記第1及び第2の溝47b、
47cにより形成された舌片部47dと、を備える。
図3に示すスペーサ47において、本体47aに設けた第1の溝47b、第2の溝47c及び舌片部47dの数は、実施例に限定されず少なくとも本体47aの円周方向に対向して少なくとも2個設ければよい。
ここで、スペーサ47の内径Φeは固定鉄心33の小径部38Φbより小さく、先端径Φcより大きく設計されており、固定鉄心33の溝40に嵌着し固定する構造になっている。なお、スペーサ47は非磁性体材料(ステンレス、燐青銅など)で形成されており、外径は中空管41との間に相当の隙間を残すようにされている。
【0012】
参照符号32はコイルアッセンブリを示すが、該コイルアッセンブリ32は特許文献1(実公平5−25203)と略同じ構造なので、主要な部品について符号を付して説明する。参照符号51はケース、参照符号50は内部にガイドアッセンブリ31を挿入させ得るよう筒状に形成されたコイルを示す。参照符号52はコイル50の端部に配設したヨークを示し、前記ケース51、前記ヨーク52は磁性材料で構成されている。参照符号53はプラグピンで、コイル50のマグネットワイヤに接続されている。
【0013】
本発明の実施の形態に係る直流電磁石
30は基本的に以上のように構成されているもので、次に動作について説明する。
端子金具18が図示しない電源に接続されると、該接続金具
19、プラグピン53を介してコイル50に通電される。また、コイル50の通電により可動鉄心45は固定鉄心33に吸着されスプール14が切換る。
さらに、可動鉄心45が固定鉄心33に吸着された場合、固定鉄心33と可動鉄心45との間にスペーサ47が介在するため、両鉄心33、45間に隙間63によって形成され油流通用の油路46が画成される。このため可動鉄心45が移動して、それによってロッド35が移動することによる油の流れ、すなわち弁装置11における油路13と中空管41の内部における可動鉄心45の端部材43側の空間57との間において油が油路36及び油路46を通して流れることが良好にして行われる。
【0014】
コイル50の通電を断つと可動鉄心45は開放される。すなわち
図1に示す弁装置11においてスプール14が図示しない側にばね部材の弾発力によりロッド35を介して可動鉄心45を
図1において左側へ移動させる。この場合、両鉄心33、45間のスペーサ47が介在して隙間63があるため、残留磁気や、プランジャ間への油の綴じ込みがなく、可動鉄心45はすぐに開放されて移動する。すなわちこの場合油路13と可動鉄心45の左側の空間57との間における油の流れも支障なく行われ可動鉄心45は円滑に作動するようにされている。
【0015】
特にスペーサ47は内径側に意図的に変形しやすいように適宜幅の略中央部に円周方向に沿って等間隔に円弧状の狭い溝を適宜長で形成し対向する位置に5個設けた第1の溝47bと、前記第1の溝47bの一端から前記本体47aの中心に向けて形成され適宜幅の内方に導通する第2の溝47cと、第1及び第2の溝47b、47cにより形成された舌片部47dとを形成して変形しやすい部分を設け、電磁石の軸方向にも変形し得るようにした。このため、外方向への押し広げ量が小さくなり、材料の応力を低減し、スペーサ47の外径の拡大を防止している。
【0016】
図4は
図2のスペーサ47の変形例であるスペーサ67を示す。スペーサ67は基本的には、スペーサ47と同じ構成であって、スペーサ47と同一構成要素には、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図4に示すスペーサ67は、円形状をしているため、該スペーサ67の外径拡大量をさらに低減させることできる。
【符号の説明】
【0017】
11 弁装置
12 バルブボディ 13
、36、46 油路
14 スプール 15 リテーナ
16 ばね部材 17 端子箱
30
直流電磁石 31 ガイドアッセンブリ
32
コイルアッセンブリ 33 固定鉄心
35 ロッド 45 可動鉄心
47、67 スペーサ