特許第5884979号(P5884979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JSR株式会社の特許一覧

特許5884979(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884979
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
   C07D493/04 101A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-52575(P2012-52575)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184943(P2013-184943A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】樫下 幸志
(72)【発明者】
【氏名】林 英治
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−286706(JP,A)
【文献】 特開2009−191253(JP,A)
【文献】 特開2011−170321(JP,A)
【文献】 FANG, X. et al.,Synthesis and properties of polyimides derived from cis- and trans-1,2,3,4-cyclohexanetetracarboxylic dianhydrides,Polymer,2004年,45(8),pp. 2539-2549
【文献】 FREIFELDER, M. et al.,Low-Pressure Hydrogenation of Some Benzenepolycarboxylic Acids with Rhodium Catalyst,Journal of Organic Chemistry,1966年,31(10),pp. 3438-3439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 493/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸を、酸無水物の存在下において100℃未満の温度で脱水した後に100℃以上に加熱する工程を経ることを特徴とする、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項2】
上記(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が液晶配向剤に含有されるポリアミック酸またはポリイミドを合成するために用いられる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法に関する。さらに詳しくは、液晶配向剤に含有されるポリアミック酸またはポリイミドの原料として好適に用いられる(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を、簡易な工程によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子に用いられる液晶配向膜の材料は、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミック酸、ポリエステルなどの樹脂材料が知られている。なかでもポリアミック酸またはポリイミドからなる液晶配向膜は耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などに優れており、多くの液晶表示素子に使用されている(特許文献1および2)。ポリアミック酸はテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより合成することができ、上記ポリイミドはポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより合成することができる。
液晶配向膜材料としてのポリアミック酸またはポリイミドは、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物を原料として使用して得られたものが、汎用の溶媒に対する溶解性、液晶配向剤溶液の保存安定性などの点から有利であり、広く適用されている。特に、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用いて得られたポリアミック酸またはポリイミドを含有する液晶配向剤は保存安定性に優れ、形成される液晶配向膜は熱ストレス耐性が高いことから、工業的な展開が期待されている(特許文献3)。
【0003】
従来技術において、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、あまり効率的とはいえない方法によって製造されている。例えば特許文献4には、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を水酸化ナトリウムの存在下で一旦異性化して(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を合成し、次いでこれを無水酢酸の存在下で脱水閉環することによって(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を製造する方法が開示されている。この方法は目的生成物の収率があまり高くない欠点があるほか、この方法によって得られた生成物は、異性化触媒として使用する水酸化ナトリウムに由来するナトリウム原子を不純物として相当量含有しており、これをそのまま液晶配向剤の製造に用いると、最終の液晶表示素子の電気特性に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
一方、非特許文献1には、(1S,2R,3S,4R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水酢酸の存在下で脱水閉環することによって(1S,2R,3R,4S)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を製造する方法が開示されている。しかしながら、この1,2,3,4−体を用いて製造されたポリアミック酸またはポリイミドを液晶配向剤材料に適用すると、得られる液晶配向膜は液晶配向規制力が不足するものとなり、これを実用に供することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−153622号公報
【特許文献2】特開平11−258605号公報
【特許文献3】特開2011−170321号公報
【特許文献4】特開2009−286706号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】polymer,45,2004,pp2539−2549
【非特許文献2】J.Org.Chem.,1966,VOL.31,PP3438−3439
【非特許文献3】Bull.Chem.Soc.Jpn.,41(1),1968,p265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液晶配向剤に含有されるポリアミック酸またはポリイミドの原料として好適に用いられる(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を、簡易な工程によって製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸を、酸無水物の存在下において100℃未満の温度で脱水した後に100℃以上に加熱する工程を経ることを特徴とする、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によると、液晶配向剤に含有されるポリアミック酸またはポリイミドの原料として好適に用いられる(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を、簡易な工程によって製造することができる。
本発明の方法によって製造された(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は不純物としてのナトリウム原子の含量が極めて低いから、これを用いて合成されたポリアミック酸またはポリイミドからなる液晶配向膜を具備する液晶表示素子は電気特性に優れ、焼き付き耐性に優れることとなる。
さらに、本発明の方法は極めて低廉なプロセスコストで実施することができるから、本発明の方法によって製造される(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は安価であり、従って本発明は液晶表示素子の製造コスト削減にも資する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法は、一旦(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成するための前段階の反応をまず行ってから酸無水物の存在下における加熱工程を行う2段階反応(方法2)である。
すなわち、上記方法2の本発明方法は、
(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸を、酸無水物の存在下において100℃未満の温度で脱水した後に100℃以上に加熱する工程を経ることを特徴とする、(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法である。
【0011】
上記方法2において原料として用いられる(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸は、公知の方法によって合成することができる。例えば非特許文献2(J.Org.Chem.,1966,VOL.31,PP3438−3439)に記載された如く、ピロメリット酸二無水物の有する酸無水物基の加水分解およびベンゼン環の接触水素化を行うことにより、得ることができる。
【0012】
上記方法2は、好ましくは
(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸を、酸無水物の存在下において100℃未満の温度で脱水した後に100℃以上に加熱する工程を経る方法である。
使用することのできる酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。この酸無水物は、取扱いの便宜から室温において液体状であり、且つ常圧における沸点が100℃以上、好ましくは120℃以上である化合物が好ましく、従って特に好ましくは無水酢酸である。酸無水物の使用割合は、(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物100重量部に対して50重量部以上とすることが好ましく、より好ましくは100〜2,000重量部であり、特に100〜1,000重量部であることが好ましい。
方法2においては、酸無水物とともに、脱水閉環触媒として例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどを併用してもよい。脱水閉環触媒の使用割合は、酸無水物1モルに対して10モル以下とすることが好ましく、2モル以下とすることが好ましく、これを使用しないことが最も好ましい。
方法2は、必要に応じて適当な溶媒の存在下で行うことができるが、溶媒を使用しないことが好ましい。
方法2においては、上記のような成分を含有する反応系中で、100℃未満の温度における脱水反応からなる第一工程と、100℃以上に加熱する第二工程と、を行う。この第一工程において、原料の(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸の有するカルボキシ基が脱水閉環されて(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物となり、これに引き続いて行われる第二工程において、(1S,2R,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物に異性化するものと信じられる。
方法2における第一反応の反応温度は、100℃未満であり、好ましくは50〜95℃であり、より好ましくは60〜90℃である。反応時間は、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは3〜8時間である。
方法2において、第一反応に引き続いて行われる第二反応の反応温度は、100℃以上であり、好ましくは110〜200℃であり、より好ましくは120〜160℃である。反応時間は、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜6時間である。
【0014】
以上のようにして得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、必要に応じて公の方法によって単離・精製を行ったうえ、使用することが好ましい。
【0015】
本発明の方法は、異性化触媒として強塩基、例えば水酸化ナトリウム、を用いる必要がない。従って、本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、ナトリウム原子の含有割合が極めて低いことが特徴である。本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物におけるナトリウム原子の含有割合は、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm以下であり、特に好ましくは0.5ppm以下であり、就中0.3ppm以下とすることができる。ここで、「ppm」は重量基準の値である。
従来技術において知られている方法によって上記のような低いナトリウム含量を実現しようとすると、生成物を再結晶などの方法によって高度に精製する必要があり、コスト削減の障害になっていた。これに対して本発明の方法は、反応時の周囲環境をコントロールすることを要さず、反応終了後にコストのかさむ精製を行わずとも、低いナトリウム原子含量を上記のような低いレベルに維持することが可能である。従って、生成物の単離に伴う精製操作も、ごく簡易的なもので足りる。
【0016】
本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、液晶配向膜材料としてのポリアミック酸またはポリイミドを合成するために、特に好適である。
以下に、本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を、液晶配向膜材料に適用する場合の、好ましい態様について説明する。
【0017】
上記ポリアミック酸は、本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られる。上記ポリイミドは、上記のポリアミック酸を脱水閉環して得ることができる。
ポリアミック酸またはポリイミドを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物のみを使用してもよく、これとともに他のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。
ここで使用することのできる他のテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらのうち、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましく、より好ましくは2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物および1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することがより好ましい。
ポリアミック酸またはポリイミドを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、本発明の方法によって得られた(1R,2S,4S,5R)シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を、テトラカルボン酸二無水物の全部に対して、50モル%以上含有するものであることが好ましく、75モル%以上含有するものであることがより好ましい。
【0018】
ポリアミック酸またはポリイミドを合成するために用いられるジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0019】
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは適当な溶媒中において、好ましくは−20〜150℃、より好ましくは0〜100℃の温度条件下において、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは2〜10時間行われる。ここで使用される溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
ポリイミドは、上記の如くして得られたポリアミック酸の有するアミック酸構造を脱水閉環してイミド化することにより合成することができる。ポリアミック酸の脱水閉環は、ポリアミック酸を加熱する方法により、またはポリアミック酸を適当な溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行うことができるが、後者の方法によることが好ましい。脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸構造単位の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができ、これらのうちから選択される少なくとも1種を、脱水剤1モルに対して0.01〜10モルの範囲で使用することが好ましい。
脱水閉環反応に用いられる溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃であり、反応時間は好ましくは0.5〜20時間であり、より好ましくは1〜8時間である。
【0020】
上記のようにして得られたポリアミック酸またはポリイミドは、これを適当な溶媒に溶解した溶液状の液晶配向剤として好ましく用いられる。液晶配向剤に用いられる溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられる溶媒として上記に例示したもののほか、プロピレングリコールモノメチルエーテールアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、2,3−ペンタンジオン、1,2−ジメトキシエタン、1,1−ジエトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどを使用することができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
液晶配向剤の固形分濃度(液晶配向剤中の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。
【0021】
このようにして調製された液晶配向剤は、保存安定性に優れる。
上記の液晶配向剤は、公知の方法によって基板上に塗布して塗膜を形成し、必要に応じて該塗膜に公知のラビング処理を施すことによって、液晶配向膜とすることができる。この液晶配向膜を具備する液晶表示素子は電気特性に優れ、焼き付き耐性に優れる。
【実施例】
【0022】
合成例1(本発明の方法による(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の合成例)
先ず、非特許文献2(J.Org.Chem.,1966,VOL.31,PP3438−3439)に記載された方法に従い、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を合成した。ピロメリット酸二無水物465g、5重量%ロジウム/カーボン触媒175gおよび蒸留水2,940gを容積5Lの撹拌機付きSUS316製オートクレーブに入れ、反応温度60℃、水素圧5MPaで、酸無水物基の加水分解およびベンゼン環の水素化を行った。1.5時間後、反応液を抜き出し、触媒をろ別して除去した後、反応液をエバポレーターによって乾固し、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸449gを得た。
次いで、還流管を備えた3L三口フラスコ中で上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸260.2g(0.1モル)および無水酢酸1,200gを混合し、窒素雰囲気下、80℃において5時間無水化反応を行って、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とした。この反応液を140℃まで昇温し、窒素雰囲気下、還流下において、4時間異性化反応を行った。反応後、反応液を30℃まで冷却し、析出した固体をろ取することにより、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物183.8g(0.082モル)を得た。
(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸から(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物にかかるモル収率は82%であった。
上記で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物について、プラズマ質量分析法(ICP−MS)によって測定したナトリウム含量は0.280ppm(重量基準)であった。
【0023】
合成例2(ポリイミドの合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記合成例1で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)および2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物11.2g(0.05モル)ならびにジアミンとして3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル5.2g(0.01モル)、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン4.9g(0.01モル)およびp−フェニレンジアミン8.7g(0.08モル)をN−メチル−2−ピロリドン165gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えて重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は70mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン383gを追加し、ピリジン7.9gおよび無水酢酸10.2gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約48%のポリイミド(PI−1)を約15重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は99mPa・sであった。
上記で得られたポリイミド(固形分)について、ICP−MSによって測定したナトリウム含量は0.290ppm(重量基準)であった。
この重合体溶液を20℃において3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0024】
合成例3(ポリアミック酸の合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記合成例1で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物18.0g(0.08モル)およびピロメリット酸二無水物4.4g(0.02モル)ならびにジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル16g(0.08モル)およびp−フェニレンジアミン11g(0.02モル)をN−メチル−2−ピロリドン230gに溶解し、40℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(PAA−1)を15重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
この重合体溶液を20℃において3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0025】
比較合成例1(従来技術の方法による(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の合成例)
特許文献4(特開2009−286706号公報)に記載された方法に従い、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成した。
先ず、上記合成例1前段と同様にして、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸449gを得た。
次いで、上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸260.2g(1.0モル)、水酸化ナトリウム164g(4.1モル)および蒸留水740gを容積1,000mLの撹拌機付きSUS316製オートクレーブに入れ、窒素雰囲気下、230℃において5時間、異性化反応を行った。異性化反応後の反応液を30℃まで冷却した後、当該反応液を容積500mLの三つ口フラスコに移して、撹拌しながら35重量%塩酸432g(4.15モル)をゆっくりと滴下したところ、白色の析出物が生じた。さらにそのまま1時間撹拌を続けた。
吸引ろ過法により攪拌後の反応液から回収した白色の析出物を、80℃において5時間、減圧乾燥して、(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸221.2gを得た。
次に、ジムロートを装着した容積200mLのフラスコに上記で得られた(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸200gおよび無水酢酸800gを入れ、窒素で置換した後攪拌しながら昇温し、3時間還流を行った。その後、反応液を冷却して析出した結晶をろ取してトルエンでリンスした後に減圧にて溶媒を除去することにより、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物121gを得た。
(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸から(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物にかかるモル収率は59.7%であった。
上記で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物について、ICP−MSによって測定したナトリウム含量は1,876ppm(重量基準)であった。
【0026】
比較合成例2(ポリイミドの合成例)
テトラカルボン酸二無水物として上記比較合成例2で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物112g(0.50モル)および2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物112g(0.50モル)ならびにジアミンとして3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル52g(0.10モル)、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン49g(0.10モル)およびp−フェニレンジアミン87g(0.80モル)をN−メチル−2−ピロリドン1,652gに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えて重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は78mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液にN−メチル−2−ピロリドン3,835gを追加し、ピリジン79gおよび無水酢酸102gを添加して110℃で4時間脱水閉環を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換することにより、イミド化率約48%のポリイミド(PI−2)を約15重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は101mPa・sであった。
上記で得られたポリイミド(固形分)について、ICP−MSによって測定したナトリウム含量は1,675ppm(重量基準)であった。
【0027】
比較合成例3((1S,2R,3S,4R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の合成例)
先ず、非特許文献3(Bull.Chem.Soc.Jpn.,41(1),1968,p265)の記載に従って、(1S,2R,3S,4R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を合成した。始めに、50℃において、1,3−シクロヘキサンジエンとマレイン酸無水物とのディールスアルダー反応を行って、ビシクロ[2,2,2]−5−オクテン−2,3−酸無水物を得た。次に、五酸化二バナジウム存在下、上記で得られたビシクロ[2,2,2]−5−オクテン−2,3−酸無水物を硝酸と55℃において12時間反応させることにより、(1S,2R,3S,4R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を得た。
次いで、非特許文献1(polymer,45,2004,pp2539−2549)の記載に従って、上記で得られた(1S,2R,3S,4R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水酢酸中で4時間還流することにより、(1S,2R,3R,4S)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を得た。
【0028】
比較合成例4(ポリアミック酸の合成)
テトラカルボン酸二無水物として上記比較合成例3で得られた(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物112g(0.80モル)およびピロメリット酸二無水物44g(0.20モル)ならびにジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル160g(0.80モル)およびp−フェニレンジアミン110g(0.20モル)をN−メチル−2−ピロリドン2,300gに溶解し、40℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(PAA−2)を15重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は58mPa・sであった。
この重合体溶液を20℃において3日間静置したところ、ゲル化することはなく、保存安定性は良好であった。
【0029】
参考例1
<液晶配向剤の調製および評価>
[印刷性評価用液晶配向剤の調製]
重合体として、上記合成例2で得られたポリイミド(PI−1)を含有する溶液に、N−メチル−2−ピロリドンおよびブチルセロソルブを加え、さらにエポキシ化合物としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンを、使用した重合体の100重量部に対して5重量部加えて十分に攪拌し、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(重量比)、固形分濃度6.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、印刷性評価用液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤につき、25℃で測定した溶液粘度は20mPa・sであった。
[印刷性の評価]
液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製、型式「オングストローマーS40L−532」)を用い、アニロックスロールへの液晶配向剤滴下量が往復20滴(約0.2g)である条件で、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に上記で調製した印刷性評価用液晶配向剤を塗布した。上記の液晶配向剤の滴下量は、同型の印刷機について通常採用される滴下量(往復30滴(約0.3g))と比較して液量が少なく、より厳しい印刷条件である。
塗布後の基板につき、80℃で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、180℃で10分間加熱(ポストベーク)することにより、膜厚約80nmの塗膜を形成した。この塗膜を目視で観察してハジキおよび塗布ムラの有無を調べたところ、塗膜の全領域について印刷ムラおよびピンホールとも観察されず、上記液晶配向剤の印刷性は「良好」であった。
【0030】
<垂直配向型液晶配向剤の調製および評価>
[液晶配向剤の調製]
上記「印刷性評価用液晶配向剤の調製」において、溶液の固形分濃度を3.5重量%とした以外は「印刷性評価用液晶配向剤の調製」と同様にして、液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製した。
[垂直配向型液晶表示素子の製造]
厚さ1mmのガラス基板の片面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に、上記で調製した液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、ホットプレート上80℃で1分間のプレベークを行い、次いでホットプレート上210℃で30分間ポストベークすることにより、膜厚80nmの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を2枚(一対)得た。
次に、上記一対の基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布し、一対の基板を各液晶配向膜が相対するように対向させて圧着した後、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より基板間に、ネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを製造した。
【0031】
[液晶配向性の評価]
(1)液晶配向性の評価
上記で製造した垂直配向型液晶表示素子につき、クロスニコル下で電圧をオン・オフしたときの異常ドメインの有無を、顕微鏡により観察し、異常ドメインが観察されなかった場合を液晶配向性「良好」、異常ドメインが観察された場合を液晶配向性「不良」として評価したところ、この垂直配向型液晶表示素子の液晶配向性は「良好」であった。
(2)残像特性の評価
上記と同様にして製造した液晶表示素子につき、100℃の環境温度において直流17Vの電圧を20時間印加し、直流電圧を切った直後の液晶セル内に残留した電圧(残留DC電圧)を、フリッカー消去法により求めた。この液晶表示素子の残留DC電圧の値は800mVであった。
この残留DC電圧の値が500mV以下であるとき、残像特性が良好であることが経験的に明らかになっている。
【0032】
比較参考例1
上記参考例1において、ポリイミド(PI−1)を含有する溶液の代わりに上記比較合成例2で得たポリイミド(PI−2)を含有する溶液を用いたほかは参考例1と同様にして印刷性評価用液晶配向剤を調製して印刷性を評価し、さらに液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製し、これを用いて垂直配向型液晶表示素子を製造して評価した。
その結果、印刷性および垂直配向型液晶表示素子の液晶配向性は共に良好であり、一方、残留DC電圧は5,000mVであった。この大きな残留DC電圧の値は、比較合成例1の異性化工程において使用した水酸化ナトリウムに由来するナトリウム原子に起因するものと推測される。
上記参考例1および比較参考例1の結果から、本発明の方法により製造された(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用いて製造された液晶表示素子は、従来技術の液晶表示素子に比べて残留DC電圧値が小さく、従って残像特性が良好であり、高い表示品位を有することが確認された。
【0033】
参考例2
<横電界型液晶配向剤の調製および評価>
[液晶配向剤の調製]
重合体として上記合成例3で得られたポリアミック酸(PAA−1)を含有する溶液に、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンを加え、さらにエポキシ化合物としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(分子量約400)を、上記溶液に含有される重合体の100重量部に対して5重量加え、N−メチル−2−ピロリドン:γ−ブチロラクトンの重量比が80:20、固形分濃度が4重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製した。
【0034】
[横電界方式の液晶表示素子の製造]
片面にそれぞれが櫛歯状である一対のクロム電極を有する厚さ1mmのガラス基板上に、上記で調製した液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、膜厚約800Åの塗膜を形成した。次いで、形成された塗膜面に対し、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数1,000rpm、ステージの移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を行い、塗膜に液晶配向能を付与した。さらにこの基板を超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のクリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、クロム電極を有する面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。
これとは別に、電極を有さない厚さ1mmのガラス基板の片面に、上記と同様にして液晶配向膜形成用組成物の塗膜を形成し、ラビング処理を行い、洗浄、乾燥して、片面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。
続いて上記のうちの1枚の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、各液晶配向膜におけるラビング方向が逆平行となるように2枚の基板を間隙を介して対向配置し、外縁部同士を当接して圧着して接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマティック型液晶(メルク社、MLC−2042)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、さらに基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、横電界方式の液晶表示素子を得た。
【0035】
[横電界方式液晶表示素子の評価]
(1)リタデーションの測定
上記で製造した液晶表示素子につき、(株)モリテックス製の配向膜検査システム「LayScan」を使用してリタデーション(nm)を測定し、得られた値が0.025nm以上であった場合リタデーション「良好」、0.025nm未満であった場合リタデーション「不良」として評価した。その結果、この液晶表示素子のリタデーションの値は0.036nmであり、「良好」と評価された。
(2)最小相対透過率の測定
光源と光量検出器との間に偏光子および検光子を配置した装置を使用して、下記数式(1)で表される最小相対透過率(%)を測定した。
最小相対透過率(%)=(β−B0)/(B100−B0)×100 (1)
(数式(1)中、B0はクロスニコル下におけるブランクの光の透過量であり;
B100はパラニコル下におけるブランクの光の透過量であり;そして
βは偏光子と検光子との間に液晶表示素子を挟んだ場合のクロスニコル下における光透過量の最小値である。)
暗状態の黒レベルは液晶表示素子の最小相対透過率で表され、横電界方式の場合は暗状態における黒レベル(最小相対透過率)が小さいほどコントラストが優れる。最小相対透過率が0.5%未満であった場合最少相対透過率「良好」、0.5%以上であった場合最少相対透過率「不良」として評価した。その結果、この液晶表示素子の最小相対透過率は0.2%であり、「良好」と評価された。
【0036】
比較参考例2
上記参考例2において、ポリアミック酸(PAA−1)を含有する溶液の代わりに上記比較合成例4で得たポリアミック酸(PAA−2)を含有する溶液を用いたほかは参考例2と同様にして液晶表示素子製造用液晶配向剤を調製し、これを用いて横電界型液晶表示素子を製造して評価した。
その結果、この液晶表示素子のリタデーションの値は0.019nmであり、最小相対透過率は0.55%であった。
上記参考例2および比較参考例2の結果から、本発明の方法により製造された(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用いて製造された横電界方式液晶表示素子は、従来技術の横電界方式液晶表示素子に比べてリタデーション値が大きく、最少相対透過率が小さいことから、液晶の応答速度が速く、明暗のコントラストが向上されたものであることが確認された。