特許第5884984号(P5884984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884984
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】成膜装置および成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
   C23C14/32 H
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-98300(P2012-98300)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-227596(P2013-227596A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】イム チョルムン
(72)【発明者】
【氏名】高井 健志
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116597(JP,A)
【文献】 特開2009−280843(JP,A)
【文献】 特開2004−076113(JP,A)
【文献】 特開2002−180240(JP,A)
【文献】 特開2010−150595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーと、
前記真空チャンバーの底部より蒸着材料を供給する支持ロッドを備えたハースと、
前記蒸着材料を昇華させるプラズマを発生させるガンと、
前記ガンに電力を供給する電源と、
を具備し、
前記真空チャンバーと前記ガンとの間に第1のコイルが、前記真空チャンバー外の底部に第2のコイルがそれぞれ配置されており、かつ前記ハースの内部には磁石が設けられている成膜装置であって、
前記ハースおよび前記支持ロッドが共に導線を介して前記電源と接続されており、かつ前記ハースと前記支持ロッドとを前記導線とは異なる導線を介して接続することで前記ハースと前記支持ロッドとの間で前記プラズマによる電流が通電可能にされていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置を用いる成膜方法であって、前記蒸着材料を前記ハース内に装填させた後、前記ハースおよび前記支持ロッドを前記蒸着材料に接触させた状態で前記ガンから発生するプラズマを前記蒸着材料に照射させて成膜することを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に薄膜を形成する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体部品や太陽電池などの製造に利用されている薄膜の形成方法には、イオンプレーティング法やスパッタリング法などがある。中でも、電子銃から発せられるプラズマビーム(以下、プラズマという)を用いて成膜を行うイオンプレーティング法は、酸化膜等の薄膜形成に多用されている。
【0003】
蒸着材料がプラズマに照射されると、プラズマ電流が蒸着材料から支持ロッド(蒸着材料を底部から真空チャンバー内へと押し上げる部品)を通じて成膜装置の外部へ流れていく。例えば、特許文献1では蒸着材料とハースとの間に絶縁材料を配置することで、蒸着材料から支持ロッドを通じてプラズマ電流を外部電源へ積極的に流していく成膜装置が開示されている(同文献の図3等参照)。
【0004】
しかしながら、当該成膜装置を用いて連続成膜を行う場合には、蒸着材料を製造できる長さには限界があるので、短い蒸着材料を複数個積層させて成膜を行うことになる。この場合、蒸着材料同士の接触面は完全な平滑面ではなく、微小な凹凸が存在するので積層する蒸着材料間で接触しない部分、いわゆる微小な間隙部分が生じる。そのため、成膜中に当該間隙部分にプラズマ照射による電子が集まり、電位差が生じると、終には異常放電が発生する。その結果、蒸着材料の一部が溶融したり、変質したりすることで薄膜の特性が変化する。したがって、複数個の短い蒸着材料を積層させて成膜を行うと、長時間の連続成膜が困難になるという問題があった。
【0005】
また、ある程度の長さを有した1個の蒸着材料を使い終わると、その度に成膜装置の電源を遮断した上で新たな蒸着材料と交換する必要があり、結果的にロールツーロール法(ロール状態から巻き出されたフィルム状基材に対して成膜した後、当該フィルム状基材を再びロール状態に巻き取る成膜方法)の様な連続成膜が行なえず、成膜工程の作業効率も大幅に低下するという問題もあった。
【0006】
そこで、特許文献2には短い蒸着材料をハース内で複数個積層させて、連続成膜が可能である成膜装置が開示されている。当該成膜装置は、蒸着材料にプラズマが照射されると、プラズマ電流が蒸着材料からハースを通じて外部電源へ流れていく方式を採用している(同文献の図1等参照)。
【0007】
しかしながら、ハースが外部電源と電気的に接続されていることでプラズマが蒸着材料およびハースに照射されると、プラズマ電流は蒸着材料よりも電気的に安定なハースへ流れていくので、蒸着材料の昇華効率が低下する。そこで、プラズマ電流を積極的に蒸着材料へ集中させるためにハースの周囲に大型の電磁石を配置して、その電磁石から発生する磁場を利用することでプラズマ中の電子を強制的に蒸着材料へ集中させている。その結果、ハース周辺の構造が複雑になり、製作コストも上昇するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−116597号公報
【特許文献2】特開2005−272965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明においては成膜装置のサイズおよび薄膜(皮膜)の製造コストを抑制しつつ、長時間の連続成膜が可能である成膜装置および成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、前述の課題を解決するため本発明において、真空チャンバーと、真空チャンバーの底部より蒸着材料を供給する支持ロッドを備えたハースと、蒸着材料を昇華させるプラズマを発生するガンと、ガンに電力を供給する電源と、を具備
し、真空チャンバーとガンとの間に第1のコイルが、真空チャンバー外の底部に第2のコイルがそれぞれ配置されており、かつハースの内部には磁石が設けられている成膜装置であって、ハースおよび支持ロッドが共に導線を介して電源と接続されており、かつハースと支持ロッドとを前記導線とは異なる導線を介して接続することでハースと支持ロッドとの間でプラズマによる電流が通電可能にされている成膜装置とした。
【0011】
かかる構成により本発明に係る成膜装置は、ハース内に設置している磁石によりハース上部に磁界が発生することで、プラズマ電流が蒸着材料へ集中する。また、ガンから発生するプラズマが蒸着材料に照射すると、プラズマ電流が蒸着材料から支持ロッドやハースへ流れて、その後導線を介して外部電源へ流れると同時に、支持ロッドからハースを通しても外部電源へ流れていく。以下、ハースとその内部に設置される磁石との位置関係について詳述する。
【0012】
本発明に係る成膜装置内のハース(るつぼ)と、そのハース内部に配置する磁石との位置関係は、ハースにて昇華する蒸着材料に対するプラズマの照射面より下方に磁石を配置する。例えば、中空部を有する電磁石やリング型の永久磁石を用いる場合、磁石の中空部が蒸着材料の鉛直下方になるか、または当該中空部内に蒸着材料を下方から上方に向けて貫通するように配置する。また、蒸着材料と磁石との配置間隔については磁石の有する磁力の大きさにより異なるが、磁石から発生する磁界が蒸着材料に影響を及ぼす範囲内とする。そのように配置することで、蒸着材料近傍に発生する磁界を制御して、蒸着材料に対するプラズマの照射位置の調節が可能となる。
【0013】
ここで、ハースとは金属製の支持ロッド(支持棒、突き上げ棒)を介して蒸着材料を外部から真空チャンバー内へ供給できる孔部を中央に有している部品である。成膜中は陽極(アノード)としての役割を果たし、ガンから発生するプラズマを蒸着材料へ照射させることで蒸着材料を昇華させる部位である。ハースの材質はステンレス鋼などの導電性を有する材料で作製できる。支持ロッドおよびハースは共に銅線などの導線を介して外部の電源と接続されており、プラズマ照射された蒸着材料はプラズマ電流を外部電源へ送ることができる。
【0014】
また、磁石とは銅などの通電可能な材質の線材を幾重にも巻き取られたコイルを通電することで磁界を発生させる電磁石やJIS C2502に規定される永久磁石材料より成る永久磁石をいう。例えば、永久磁石の場合にはサマリウム・コバルト磁石やネオジム・鉄・ボロン磁石等の希土類系磁石、酸化鉄を主成分とするフェライト磁石、アルミニウム・ニッケル・コバルトなどを主成分とするアルニコ磁石等が使用可能である。永久磁石の全体形状については円柱型磁石の中央部に皿穴を設けた円柱型皿穴付き磁石や角型磁石の中央部に皿穴を設けた角型皿穴付き磁石などが使用可能であり、中空部の形状は円形、楕円形および多角形状などが適用できる。
【0015】
次に、ハースとハース内部で上下方向に摺動可能である支持ロッドとの位置関係について詳述する。ハースには成膜装置の外部から真空チャンバー内へ蒸着材料を供給できる上下方向に貫通した孔部が設けられており、複数個の蒸着材料を積層させた支持ロッドがその孔部において上下方向に移動することで蒸着材料を連続的に供給できる構造となっている。この時、ハースと支持ロッドとは互いに電気的に接続されている。
【0016】
電気的に接続されている形態としては、例えばハースの孔部と支持ロッドの外周部とが物理的に接触していることでプラズマ電流がハースと支持ロッドの間に通電される形態がある。接触箇所については、例えば摺動部全面で接触している場合や摺動部の一部のみで部分的に接触している場合のいずれも適用可能である。また、ハースの孔部と支持ロッドの外周部との間に間隙が存在し、その間隙が数mm程度以上である場合にはハースと支持ロッドとを銅線などの導線で別途に短絡(接続)させることで、その導線を通じてプラズマ電流が通電可能になる。
【0017】
また、前述した成膜装置の真空チャンバーとガンとの間に第1のコイルを配置して、真空チャンバー外の底部に第2のコイルを配置した。第1のコイルに通電することで磁界が発生し、ガンから発生するプラズマの向きが当該磁界により真空チャンバー底部へ向けて曲げられる。また、第2のコイルに通電することで発生する磁界により、前述の曲げられたプラズマがハース周辺に収束する。
【0018】
本発明に係る成膜装置の真空チャンバーと、第2のコイルとの位置関係は、真空チャンバーの外部でかつ底部に第2のコイルを配置する。また、第2のコイルの内側には、第2のコイルと同心状もしくは偏心状となるようにハースを配置する。また、第2のコイルとはJIS C5602に規定される磁心を用いないコイルであり、導線を密に長く巻いた円筒形のコイル(空芯コイル)をいう。導線の大きさ(太さ)、材質および巻数などの諸条件を自由に調節することで、所望する磁界の大きさを得ることができる。
【0019】
さらに、請求項に係る発明は、前述の成膜装置を用いる成膜方法であって、蒸着材料をハース内に装填した後、ハースおよび支持ロッドを蒸着材料に接触させた状態にてガンから発生するプラズマを蒸着材料へ照射して成膜する成膜方法とした。すなわち、前述の成膜装置のハース内に装填された蒸着材料は、その周囲でハース内部と接触していると同時に、下方(複数個の蒸着材料が積層された状態に有る場合には最下層にある蒸着材料)では支持ロッドと接触している状態とする。この状態でガンから発生するプラズマを蒸着材料の表面(プラズマ照射面)に照射させると、本発明に係る成膜方法により蒸着材料のプラズマ照射面が均一に昇華する。
【0020】
なお、本発明に係る成膜装置および成膜方法に使用する蒸着材料とは、JIS H0211に規定される蒸着の対象となる材料をいう。具体的には、Ti、Ta、Nbなどの単一元素から成る場合には高純度のインゴットから加工されたもの、ZnO、ITO(酸化インジウムスズ)、AlTi合金などの二以上の元素から成る場合には焼結等されたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明に係る成膜装置は、ハース内に設置している磁石によってハース上部に磁界が発生して、プラズマ中の電子が蒸着材料へ集中する。また、ガンから発生するプラズマが蒸着材料に照射すると、プラズマ電流が蒸着材料から支持ロッドやハースを流れて、導線を介して外部の電源へ流れていく。同時に、支持ロッドからハースを通しても外部の電源へ移動する。
【0022】
その結果、従来の成膜装置の様にプラズマ電流を蒸着材料へ集中させるための電磁石をハースとは別個に設ける必要がなく、装置サイズおよび製造コストを抑制できる。同時に効率的にプラズマ中の電子を蒸着材料へ集中して昇華させて、ハースや支持ロッドには電子が部分的に集積せず、外部の電源へ電子を移動させることができるので、蒸着材料の均一な消耗と長時間にわたる成膜が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る成膜装置1の実施の形態を示す模式図(縦断面図)である。
図2】本発明に係る成膜装置1のハース7の縦断面拡大図(第1の形態)である。
図3図2に示すハース7の孔部に蒸着材料13を装填した時の縦断面拡大図(第1の形態)である。
図4】本発明に係る成膜装置1のハース7の縦断面拡大図(第2の形態)である。
図5図4に示すハース7の別形態の縦断面拡大図(第3の形態)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態の一例を図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る成膜装置1の実施の形態を示す模式図(縦断面図)である。図1に示すように、本発明に係る成膜装置1は基板10に成膜を行う真空チャンバー2と、真空チャンバー2の側方に設置されてプラズマを発生させるHCD(ホロカソード)ガン3と、真空チャンバー2の底部に設置されて薄膜(皮膜)の成分となる蒸着材料13を設置および保持するハース7と、HCDガン3へ電力を供給する外部電源6と、を具備している。また、その他に真空チャンバー2内の減圧を行う真空ポンプ12と、真空チャンバー2とHCDガン3との間に設置されて、HCDガン3より発生したプラズマの方向をコントロールするコイル(第1のコイル)4と、真空チャンバー2外の底部でハース7の外側を取り囲んで配置された空芯コイル(第2のコイル)5と、真空チャンバー2内部に設置されて成膜を行う基板10を支える基板保持台11(基板保持手段)と、を備えている。
【0025】
図2は本発明に係る成膜装置1のハース7の縦断面拡大図(第1の形態)、図3図2に示すハース7の孔部に蒸着材料13を装填した時の縦断面拡大図(第1の形態)である。図2よりハース7は真空チャンバー2の底部に設けられており、その中央部に貫通した孔部を有している。また、図3よりその孔部には上下方向に移動可能(摺動可能)とすることで真空チャンバー2の下方から蒸着材料13を連続的に供給できる支持ロッド8が備えられている。ハース7内の中空部にはリング型の永久磁石9が上方(真空チャンバー2側)に固定されており、図示しない循環ポンプ等を用いてハース7外部から冷却水を導入させることで、ハース7の過熱を防止している。ハース7および支持ロッド8は互いに接触しており、ハース7および支持ロッド8共に導線20を介して外部の電源6と接続している。
【0026】
図4は、本発明に係る成膜装置1の別形態のハース7の縦断面拡大図(第2の形態)である。図4より、ハース7、支持ロッド8および永久磁石9の間の相互の位置関係に関しては図2に示した形態と共通している。例えば、ハース7の孔部の周囲と支持ロッド8との間に間隙が一部存在し、物理的に相互に接触していない部分が存在する場合でも、ハース7と支持ロッド8とを導線20を介して接続する(短絡する)ことでハース7と支持ロッド8との間でプラズマ電流が通電可能になる。また、図5図4に示すハース7の別形態の縦断面拡大図(第3の形態)である。図5より、ハース7と支持ロッド8とが導線20を介して接続している(短絡している)場合には、支持ロッド8が外部の電源6と直接的に接続されていない場合でもプラズマ電流はハース7を経由して外部の電源6へ放出することができる。
【0027】
次に、本発明に係る成膜装置を用いた成膜方法について説明する。図3に示す複数個の蒸着材料13を支持ロッド8の上部に積層した状態で真空チャンバー2の下方より押し上げて、蒸着材料13がハース7および支持ロッド8と接触した状態で装填する。ハース7内に蒸着材料13の装填が完了すると、外部電源6を操作してHCDガン3にプラズマを発生させて、プラズマ発生を確認した後、真空チャンバー2内部へプラズマを投入する。
【0028】
その後、HCDガン3から発生したプラズマは、ハース7内に配置されたリング型の永久磁石9から生じる磁界により、ハース7に設置した蒸着材料13に均等に照射される。その結果、蒸着材料13を構成する元素が均一に昇華して、基板10表面に均質な成膜を施すことができる。
【実施例1】
【0029】
成膜装置1のハース7および支持ロッド8の通電の可否による成膜状態および皮膜特性の違いについて成膜試験を行った。その結果について図1および表1を用いて説明する。本試験に用いた本発明に係る成膜装置(以下、本発明装置という)は、図1に示すとおり蒸着材料13がハース7内に装填されており、ハース7と蒸着材料13を下方から支える支持ロッド8とが共に外部電源6と電気的に導線20を介して接続している。これに対して、本試験に用いた本発明外の成膜装置(以下、比較装置という)は、蒸着材料13がハース7内に装填されており、ハース7は外部電源6と接続されているが、支持ロッド8と外部電源6とは接続されていない成膜装置である。
【0030】
なお、本発明装置および比較装置共に蒸着材料13にはハクスイテック株式会社製の透明導電膜材料酸化亜鉛(ZnO)タブレット(3Gawt%含有:φ20mm×20mmH)を用いて、ハース7の孔部内に8個の蒸着材料13を積層させた状態で装填した。また、成膜条件として成膜時間は90〜180秒、減圧操作完了時の圧力であるベース圧力は5.0×10−3Pa以下、真空チャンバー内への酸素ガス導入量は5〜30sccmとした。
【0031】
表1は、本発明装置および比較装置の各装置を用いて、前述の成膜条件にて計11回の成膜試験を行った後に蒸着材料に異常放電が発生した回数を示したものである。ここで、異常放電とはプラズマ強度に不均一な分布が生じる現象をいい、特に本実施例においては成膜装置を構成するハースや蒸着材料などの一部に局部的なアーキングが発生する現象をいう。蒸着材料における異常放電の有無については、各成膜試験後に各装置の電源を遮断した後、蒸着材料の上下面(他の蒸着材料との接触面)や側面に焼け焦げた黒い痕跡がある場合には、成膜中にその箇所で異常放電が起こったと判断できるので、その様な痕跡の有無を以って異常放電の発生の有無を判断した。すなわち、各成膜試験後の蒸着材料に前述の痕跡がある場合に異常放電回数を1回と数えて、その場合には痕跡の有った蒸着材料を新しい蒸着材料と交換して、次の成膜試験を行った。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、成膜装置のハースおよび支持ロッドが共に外部の電源と通電可能な本発明装置を用いて行った全11回の成膜試験において、蒸着材料の側面や上下面には焼け焦げた黒い痕跡が認められなかった。この結果から成膜試験中の異常放電は一度も発生せず、プラズマが照射された蒸着材料は成膜中において正常な昇華が行われたと判断できる。これに対して、成膜装置のハースのみが外部の電源と接続されている(支持ロッドと外部の電源とは接続されていない)比較装置では蒸着材料の側面に焼け焦げた黒い痕跡の発生が2回、および他の蒸着材料との接触面である上下面に焼け焦げた黒い痕跡の発生が3回、最終的には全11回の成膜試験を通じて計5回の異常放電が確認された。この結果から、比較装置を用いた本試験において約半分の割合で蒸着材料に異常放電が発生したと判断できる。
【0034】
異常放電が発生する原因は、比較装置には支持ロッドと外部の電源が導線等を介して接続されていないので、プラズマが照射された蒸着材料はプラズマ電流がハースを通じて外部(電源)へ流れる。また、蒸着材料が複数個積層されている状態ではプラズマ電流が蒸着材料の上下方向(積層方向)にも流れるが、蒸着材料を支える支持ロッドは外部と接続されていないので、当該電子の一部が蒸着材料内に蓄積される場合がある。その場合、蒸着材料間に電位差が生じて最終的に異常放電が発生する。
【0035】
以上の結果より、成膜装置のハース内部に磁石を設けて、ハースと支持ロッドとを電気的に接続し、かつハースおよび支持ロッドを共に外部の電源と接続することで蒸着材料に対して異常放電の発生を抑制し、プラズマ照射面を均一に昇華できる。
【実施例2】
【0036】
次に、前述の成膜試験にて成膜した基板の皮膜特性を調査したので、その調査結果について説明する。調査した皮膜特性は、本発明装置および比較装置を用いて成膜した皮膜の成膜速度(単位:nm/min)および比抵抗(単位:Ω・cm)の各項目である。ここで、成膜速度(nm/min)とは、単位時間当たりに基板上に形成される薄膜の膜厚をいう。この値が大きいほど、短時間で一定膜厚の薄膜を形成できるため、成膜装置として薄膜の生産性が高いことを示す。また、比抵抗(Ω・cm)とは、比電気抵抗の略語であり、電気の流れにくさを表す値である。比抵抗の値が小さいほど、その物質は電気が流れやすいことを示す。成膜速度および比抵抗についての調査結果を以下に説明する。
【0037】
成膜速度(成膜レート)については、本発明装置を用いて成膜した皮膜の場合には80.0〜90.0nm/minであった。これに対して、比較装置を用いて成膜した皮膜の場合には68.5〜76.0nm/minであった。これらの結果より、本発明装置は比較装置に比べて、約1.2倍の速度で成膜可能であることがわかった。
【0038】
比抵抗については、本発明装置を用いて成膜した皮膜の場合には、4.35×10−4(Ω・cm)が最小値となった。これに対して、比較装置を用いて成膜した皮膜の場合には4.56×10−4(Ω・cm)が最小値であった。これらの結果より、本発明装置は比較装置に比べて、電気特性の優れた皮膜も成膜可能であることがわかった。これは、比較装置では成膜中に蒸着材料で異常放電が発生するために、皮膜の原料たる蒸着材料の昇華がプラズマ照射面から均一に行われなかったことが原因であると考えられる。
【実施例3】
【0039】
次に、実施例1の成膜試験で用いた本発明装置および比較装置の各装置を用いて、成膜時間(180秒)および真空チャンバー内への酸素ガス導入量(15sccm)を統一して、成膜試験を行った。その皮膜特性を調査したので、その結果について表2を用いて説明する。表2は、本発明装置および比較装置の各装置を用いて行った成膜試験後の皮膜の成膜速度および比抵抗の測定結果を示したものである。本成膜試験は、本発明装置および比較装置の各々において計3回の試験(本発明装置:試料No.A1〜A3、比較装置:試料No.B1〜B3)を行い、各試験終了後に蒸着材料を取り替えて新たに次の試験を行うものとした。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、本発明装置を用いて成膜した皮膜の成膜速度は85.5〜88.3nm/minであり、計3回の成膜試験を通じて85.0nm/min以上の成膜速度が得られ、そのばらつき幅(成膜速度の最大値と最小値の差)は2.8nm/minであった。これに対して、比較装置を用いて成膜した皮膜の成膜速度は51.0〜77.7nm/minであり、計3回の成膜試験全てにおいて80.0nm/min以下の成膜速度であり、そのばらつき幅は26.7nm/minであり、本発明装置のばらつき幅に比べて約10倍のばらつき幅であった。
【0042】
比抵抗については、本発明装置を用いて成膜した皮膜が4.85〜4.86×10−4(Ω・cm)の範囲であるのに対して、比較装置を用いて成膜した皮膜が4.79×10−4 〜1.34×10−3(Ω・cm)の範囲であった。これらの結果をばらつき幅で比較すると、本発明装置を用いて成膜した皮膜の場合には0.01×10−4(Ω・cm)であるのに対して、比較装置を用いて成膜した皮膜の場合は4.66×10−4(Ω・cm)のばらつき幅であり、本発明のばらつき幅に比べて100倍以上のばらつき幅であった。
【0043】
以上の結果より、本発明装置または本発明に係る成膜方法により成膜した皮膜は、成膜中においては蒸着材料にて安定した放電を行うことで、蒸着材料の均一な昇華を実現し、結果として効率的な成膜を行い、比抵抗等の諸特性に優れた皮膜を得ることができた。
【0044】
なお、本実施例では前述した第1の形態、すなわちハースの孔部と支持ロッドの外周部とが物理的に接触しているタイプの成膜装置を用いて成膜試験を行ったが、ハースの孔部と支持ロッドの外周部との間に間隙が一部に存在していても、ハースと支持ロッドを導線で短絡しており、プラズマ電流が流れる形態(前述の第2および第3の形態)の成膜装置であっても同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0045】
また、本発明に係る成膜装置を構成する基板保持部材の方式として、図1で示す方式の他に、真空チャンバー内の上方から基板を吊り下げて保持する方式または基板の支持部材にローラー等の搬送手段を設けて、真空チャンバー内で基板を垂直方向または平行方向に移動できる方式なども用いることができる。真空チャンバー内で基板を垂直方向または平行方向に移動できる方式により基板を保持する場合は、例えばロールツーロール法によりシート状の基板面に連続成膜が行える点で有効である。
【符号の説明】
【0046】
1 成膜装置
2 真空チャンバー
3 HCD(ホロカソード)ガン
4 コイル(第1のコイル)
5 空芯コイル(第2のコイル)
6 外部電源
7 ハース
8 支持ロッド
9 永久磁石
13 蒸着材料
図1
図2
図3
図4
図5