特許第5885320号(P5885320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5885320
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】ムラサキの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/00 20060101AFI20160301BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   A01G1/00 301Z
   A01G7/00 605A
   A01G7/00 604Z
【請求項の数】17
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-175179(P2015-175179)
(22)【出願日】2015年9月4日
【審査請求日】2015年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-264216(P2014-264216)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500094543
【氏名又は名称】新日本製薬 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達文
(72)【発明者】
【氏名】末岡 昭宣
(72)【発明者】
【氏名】天内 和人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 美保
(72)【発明者】
【氏名】草野 源次郎
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3099165(JP,U)
【文献】 特開平05−137461(JP,A)
【文献】 特開2004−290033(JP,A)
【文献】 特開2004−267092(JP,A)
【文献】 特開2011−217675(JP,A)
【文献】 紫根のできるまで,日本,農業組合法人紫草の里営農組合,2014年 3月19日,URL,http://taketa-murasaki.com/?page_id=14
【文献】 薬用植物の筒栽培1 ムラサキの試験栽培1,薬用植物研究,日本,薬用植物栽培研究会,2009年,Vol.31 No.1,p.36-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌胞子を感染させて、苗を形成する接種育苗工程と、
該接種育苗工程で形成した苗を露地またはハウス内の土壌で栽培する栽培工程とを備え、
前記ムラサキのシコニンの含有量を増加させる
ムラサキの栽培方法。
【請求項2】
前記接種育苗工程は、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土にムラサキの種子を播種または苗を植える
請求項1に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項3】
前記接種育苗工程は、底面に孔が形成された略円筒状のセルを複数有するセルトレイで苗を育成する
請求項1または請求項2に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項4】
前記接種育苗工程は、前記培土にムラサキの種子を播種する
請求項2または請求項3に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項5】
前記接種育苗工程は、前記培土に播種したムラサキの種子を湿潤状態に保持する
請求項4に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項6】
前記接種育苗工程は、前記培土に播種したムラサキの種子を湿度90%以上の環境下で2週間〜1か月間保持する
請求項5に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項7】
前記接種育苗工程は、前記培土にムラサキの種子を播種して同培土に散水し、前記セルトレイをビニール袋に入れる
請求項4、請求項5または請求項6に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項8】
前記接種育苗工程は、培土にムラサキの種子を播種し低温処理を施す
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項9】
前記低温処理は0〜10℃の温度範囲である
請求項8に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項10】
前記低温処理は3〜7℃の温度範囲である
請求項9に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項11】
前記栽培工程は、孔が形成された底面を有する略円筒状の栽培用筒体に培土を充填したものに前記接種育苗工程で形成した苗を移植し、ハウス内の土壌で栽培する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項12】
前記栽培用筒体は天然パルプで形成された
請求項11に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項13】
前記栽培工程は、露地の土壌に畝を形成し、該畝の上部をマルチシートで覆い、該マルチシートの上から前記接種育苗工程で形成した苗を移植して栽培する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項14】
前記マルチシートは白色のマルチシートである
請求項13に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項15】
前記栽培工程は、ムラサキを植えた土壌に生える雑草の地上部を切断して雑草を除去する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10、請求項11、請求項12、請求項13または請求項14に記載のムラサキの栽培方法。
【請求項16】
培土に播種したムラサキの種子を湿度90%以上の環境下で2週間〜1か月間保持する育苗工程を備える
ムラサキの栽培方法。
【請求項17】
前記育苗工程は、0〜10℃の温度範囲で行う
請求項16に記載のムラサキの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はムラサキの栽培方法に関する。詳しくは、ムラサキの生存率を高め、かつ、有効成分の含有量を増加させることが可能なムラサキの栽培方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon Sieb.et Zucc.)はムラサキ科の多年生草本である。ムラサキの根はシコン(紫根または硬紫根)と呼ばれ、シコンが有する紫色の色素を用いた染料や、漢方薬、医薬品、化粧品等の原料として使用されている。
【0003】
シコンは古くから外傷、腫瘍、火傷、湿疹等に処方されてきた。シコンの有効成分は、シコニン(shikonin)と呼ばれるナフトキノン系赤色色素を母核としたその誘導体であるとされ、抗腫瘍作用や抗菌作用等を有する点が報告されている。なお、以下で表記する「シコニン」とは、シコニン誘導体またはシコニン類を含めたシコンの有効成分を意味するものである。
【0004】
シコニンは、ムラサキの根のコルク層及び表皮細胞に蓄積する二次代謝産物であり、表皮細胞にシコニンの合成分泌サイトが存在すると考えられている。根の一部が損傷を受けると、その部位を覆うようにコルク層が発達し、シコニンが蓄積する。
【0005】
このシコニンは、土壌中のバクテリアに対して抗菌性を示す生理活性物質である。ムラサキの根端部は細胞が若く、細胞壁の膜厚化が進んでいないため、土壌中のバクテリア等の攻撃を受けやすい。
【0006】
そこで、バクテリア等から損傷を受けた根が、シコニンを分泌して抗菌性を示すことで、根端部の防御機能として作用する。そのため、根端部表皮から分泌されるシコニンはファイトアレキシンの一種とも考えられている。
【0007】
ムラサキは、わが国では絶滅危惧種IBに指定され、セイヨウムラサキL.officinalis L.との交配も進んでおり、純系ムラサキは激減している。そのため、シコンの供給は、中国や韓国等からの野生品の輸入に依存しているのが現状である。
【0008】
しかしながら、中国国内での需要増加、価格高騰及び野生資源の減少等が原因で、持続的なシコンの入手が困難になりつつある。これを受けて、日本国内でのムラサキ栽培を行い、シコンを確保することが試みられている。
【0009】
ここで、ムラサキはウイルス等の病害に弱く、根腐れを起こしやすいため生存率が低く、栽培が非常に難しいことが問題となっている。また、露地栽培したムラサキはシコニンの含有量が低く、有効成分を充分量得られないものとなっている。
【0010】
更に、ムラサキは生育環境や栽培条件の影響を受けやすい植物体であり、環境等により形態やシコニン含有量が変化してしまう。そのため、生存率を高め、一定量以上のシコニンを含有したシコンを再現性高く得られる栽培方法の確立が求められている。
【0011】
こうしたなか、ムラサキの種子からの発芽率を高め、順調な生育を試みた栽培方法が提案されており、例えば、特許文献1に記載のムラサキの栽培方法が存在する。
【0012】
ここで、特許文献1には、有底筒状の育苗容器に砂を入れ、その砂の上にムラサキの種子を数粒撒き、低温処理を施す栽培方法が記載されている。この方法では、育苗容器でムラサキを発芽させ、その後、育苗容器から農地に移植し、移植後は農地にて育成、開花させて種子を採取する方法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−217675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の栽培方法は、農地に移植した後の工程において、生存率を高めることについて特に言及がなされていない。ムラサキは発芽率を高めることも重要であるが、一年生または二年生の植物体を栽培するための土壌や環境も重要であると考えられる。
【0015】
発明者自身も経験があるが、育苗したムラサキを農地に移植し、露地栽培またはハウス栽培を行った場合に、病害の影響を受けることがある。例えば、ムラサキの地上部の葉や茎に対して、Pytophthora属菌が感染するムラサキ疫病や、糸状菌が感染する白絹病が発生し、ムラサキが枯死してしまう。
【0016】
既知のムラサキの栽培方法には、これらの病害からムラサキを保護する効率的な方法はほとんど存在していない。また、染料用途以外のムラサキの栽培に対しては、農薬取締法上、使用可能な登録農薬が存在しないため、病害に対応しうる農薬を使用できない問題もある。
【0017】
また、土壌中に一般的に存在するFusarium属菌がムラサキの根に侵入し、根の組織を腐敗させることがある。また、ムラサキの根は水分の影響で根腐れを起こしやすく、この点も生存率を下げる要因となっている。
【0018】
上記のようなムラサキに対する病害菌や水分の調整についても、従来のムラサキの栽培方法には、充分な対処がなされていないものとなっている。
【0019】
更に、特許文献1に記載の栽培方法では、ムラサキの種子の発芽率が高まることが記載されているが、具体的にどの程度の発芽率が達成しうるかが不明である。発芽率を高め、栽培全体の収量を向上させる点にも改良の余地があると考えられた。
【0020】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、生存率を高め、かつ、有効成分の含有量を増加させることが可能なムラサキの栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明のムラサキの栽培方法は、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌胞子を感染させて、苗を形成する接種育苗工程と、該接種育苗工程で形成した苗を露地またはハウス内の土壌で栽培する栽培工程とを備える。
【0022】
ここで、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌胞子を感染させることによって、菌根を形成し、ムラサキの生存率を高めることができる。具体的には、土壌中のリン酸や亜鉛等のミネラルといった植物体の生育に必要な成分がアーバスキュラー菌根菌の菌糸を通して根に運ばれ、成分の吸収を促進させることができる。また、病害抵抗性や水分ストレスへの耐性を向上させることができる。また、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌の菌糸が侵入する際に、根の表皮細胞からシコニンが分泌されることが推測され、シコニンの含有量を高めることができる。なお、菌根とは、菌類が植物の根に侵入して形成する特有の構造を持った菌類と植物根の共生体を意味するものである。
【0023】
また、接種育苗工程で形成した苗を露地またはハウス内の土壌で栽培する栽培工程によって、ムラサキの苗を一年生または二年生の植物体に成長させることができる。
【0024】
また、接種育苗工程で、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土にムラサキの種子を播種または苗を植える場合には、培土の中でムラサキの根と胞子を接触させ、感染させることが可能となる。
【0025】
また、接種育苗工程で、底面に孔が形成された略円筒状のセルを複数有するセルトレイで苗を育成する場合には、複数の苗を大量に形成することが可能となり、効率よく栽培することが可能となる。また、培土とセルトレイの内側面の間に根が伸長し、その後、ムラサキの根を複数本に分岐させやすいものとなる。この結果、分岐した根が肥大化し、コルク層が発達することで根の表面積が増え、収穫時のシコニンの含有量を高めることができる。
【0026】
また、接種育苗工程で、培土にムラサキの種子を播種する場合には、ムラサキの根とアーバスキュラー菌根菌胞子の接触する効率がより高まることとなり、菌根の形成を促すことができる。
【0027】
また、接種育苗工程で、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土に播種したムラサキの種子を湿潤状態に保持する場合には、種子の発芽率を高めることが可能となる。
【0028】
また、接種育苗工程で、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土に播種したムラサキの種子を湿度90%以上の環境下で2週間〜1か月間保持する場合には、より種子の発芽率を高めることができる。
【0029】
また、接種育苗工程は、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土にムラサキの種子を播種して培土に散水し、セルトレイをビニール袋に入れる場合には、より確実に種子を湿潤環境下におくものとなり、より種子の発芽率を高めることができる。
【0030】
また、接種育苗工程で、培土にムラサキの種子を播種し低温処理を施す場合には、ムラサキの発芽率を高めることができる。
【0031】
低温処理は0〜10℃の温度範囲である場合には、より種子の発芽率を高めることができる。
【0032】
ここで、低温処理が0℃未満で施された場合には、種子が凍って発芽率が下がってしまう現象が生じるものとなる。一方、低温処理が10℃を超えて施された場合には、低温の影響が少なくなり、種子の発芽率を高めることができないものとなる。
【0033】
低温処理は3〜7℃の温度範囲である場合には、更に一層、種子の発芽率を高めることができる。
【0034】
また、栽培工程で、孔が形成された底面を有する略円筒状の栽培用筒体に培土を充填したものに接種育苗工程で形成した苗を移植し、ハウス内の土壌で栽培する場合には、水分を調節してムラサキを生育させることが可能となる。即ち、栽培用筒とハウスによって乾燥した状態を作りやすくなり、生育に適した水分を与えやすいものとなる。この結果、水分量に起因する枯死が生じにくくすることができる。
【0035】
また、栽培用筒が天然パルプで形成された場合には、筒内部での通気性が確保されやすくなり、水分が溜まることによる根腐れが生じにくいものとなる。例えば、天然パルプとして、牛乳パックの原紙を使用することで、塩ビ等の樹脂で形成した栽培用筒に比べ、より通気性の高いものとなる。
【0036】
また、栽培工程で、露地の土壌に畝を形成し、畝の上部をマルチシートで覆い、マルチシートの上から接種育苗工程で形成した苗を移植して栽培する場合には、雨による植物体への影響を減らことができる。例えば、畝内部への水分の浸透量を減らし、畝内部を適度な水分環境にすることができる。また、この結果、水溶性のシコニンの雨水への溶出を低減させることが可能となる。更に、地表面での雨水のはねかえりによるムラサキの地上部への損傷や、雨水に起因した病害の発生を少なくすることができる。
【0037】
また、マルチシートが白色のマルチシートである場合には、日照により土壌温度が高くなりすぎることを抑えることができる。即ち、暑さに弱いムラサキを高温による温度障害から保護しやすいものとなる。
【0038】
また、栽培工程で、ムラサキを植えた土壌に生える雑草の地上部を切断して雑草を除去する場合には、ムラサキの根に損傷が生じにくいものとなる。即ち、雑草を根ごと引き抜く除去方法に比して、雑草の根の近傍に位置するムラサキの根が傷つかなくなり、生存率を高めることができる。
【0039】
また、上記の目的を達成するために、本発明のムラサキの栽培方法は、培土に播種したムラサキの種子を湿度90%以上の環境下で2週間〜1か月間保持する育苗工程を備える。
【0040】
ここで、培土に播種したムラサキの種子を湿度90%以上の環境下で保持する場合には、種子の発芽率を高めることが可能となる。
【0041】
また、育苗工程を、0〜10℃の温度範囲で行う場合には、より一層ムラサキの発芽率を高めることができる。
【0042】
ここで、低温処理が0℃未満で施された場合には、種子が凍って発芽率が下がってしまう現象が生じるものとなる。一方、低温処理が10℃を超えて施された場合には、低温の影響が少なくなり、種子の発芽率を高めることができないものとなる。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係るムラサキの栽培方法は、ムラサキの生存率を高め、かつ、有効成分の含有量を増加させることが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】セルトレイを示す概略図(a)及び、セルトレイ成型苗を示す概略図(b)である。
図2】栽培用筒の構造を示す概略図である。
図3】ハウス内での栽培用筒を用いた栽培を示す概略図である。
図4】栽培用筒の内部及びムラサキの根部を示す概略図である。
図5】栽培用ポットを示す概略図(a)及び、ポット苗を示す概略図(b)である。
図6】感染根観察方法のイメージを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、本発明の内容は以下に示す実施の形態の内容に限定されるものではなく、ここに示すものはあくまで本発明の内容を一例である。
【0046】
本発明の第1の実施の形態であるムラサキの栽培方法は、ムラサキの種子を播種する播種工程と、苗を育てる育苗工程と、栽培用筒体でムラサキを育てる筒栽培工程を備える。
【0047】
ムラサキの種子を播種する播種工程では、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合させた培土を使用する。混合するアーバスキュラー菌根菌胞子は、市販の微生物資材を利用することができる。
【0048】
この微生物資材は、VA菌根菌資材とも呼ばれ、アーバスキュラー菌根菌胞子を含むものである。ここでは、単独のVA菌根菌資材の利用だけでなく、複数のVA菌根菌資材を混合して、複数種のアーバスキュラー菌根菌胞子が混在するものとしてもよい。
【0049】
また、培土に対するVA菌根菌資材の混合量は、そのVA菌根菌資材で推奨される使用量に準じて使用する。例えば、培土1Lあたり20gといった形で使用する。使用量は適宜、変更することができる。
【0050】
VA菌根菌資材の一例として、Drキンコン(登録商標:出光興産株式会社製)、CK−100(商品名:出光興産株式会社製)、セラキンコン(登録商標:セントラル硝子株式会社製)、VA200(商品名:株式会社白崎コーポレーション社製)、BICOM VA(商品名:株式会社バイコム社製)等が挙げられる。
【0051】
また、アーバスキュラー菌根菌は、グロムス門Glomeromycotaに属する150種程度の菌類で構成されると言われているが、本栽培方法においては、ムラサキの根との間にアーバスキュラー菌根を形成可能な菌種であれば、特に限定されるものではない。
【0052】
播種工程では、播種前に微酸性電解水で種子を洗浄し、種子表面に殺菌処理を施す。また、図1に示すように、72穴〜200穴セルトレイ1に培土を充填し、各セルに1粒〜数粒のムラサキの種子を播種する。また、種子は培土に深さ1cm未満の孔を開けて播種する。
【0053】
ここで、必ずしも、200穴セルトレイにムラサキの種子を播種する必要はない。例えば、栽培ポットに培土を充填して、播種を行うことができる。また、その他のサイズのセルトレイを採用することもできる。
【0054】
また、必ずしも、播種工程に用いる培土にアーバスキュラー菌根菌胞子を混合させる必要はなく、ムラサキの苗を育苗する培土に胞子を混合させる方法も採用しうる。但し、発芽前の培土に胞子が存在し、菌根を形成する確率が高まる点から、播種工程に用いる培土にアーバスキュラー菌根菌胞子を混合させることが好ましい。
【0055】
また、必ずしも、種子を播種する孔の深さが1cm未満とされる必要はない。但し、発芽時の培土上に芽が出る動きを阻害しにくく、発芽率を高めやすくなる点から、種子を播種する孔の深さが1cm未満とされることが好ましい。
【0056】
第1の実施の形態であるムラサキの栽培方法では、播種後の種子を湿潤環境下におき、5℃前後の低温で一定期間保管した後に、種子を15〜25℃の温度下で育てる。
【0057】
播種した箇所に覆土して、再度、培土に水をかけて、セルトレイをビニール袋に密閉封入する。ビニール袋に封入したセルトレイを5℃に設定した冷蔵庫に入れ、その状態で2週間から1か月の期間、低温で保管する。ビニール袋内は、湿度90%以上の湿潤状態が保たれるものとなる。
【0058】
低温での保管後、セルトレイをビニール袋より出し、15〜25℃の温度環境下のハウスにてセルトレイを保管する。種子はハウスへの移動後10日〜1か月程の期間で発芽する。ハウス移動後は、種子の表面が乾燥しない程度の頻度で灌水を行う。例えば、1日おき程度の頻度である。発芽したムラサキの苗はそのままセルトレイ上で1か月〜2か月の期間育苗する。
【0059】
ここで、必ずしも、ムラサキの種子を培土に播種した後に、覆土する必要はない。但し、低温処理後にセルトレイをハウスへ移した後に、ムラサキの根が乾燥することを防ぎやすくなる点から、ムラサキの種子を培土に播種した後に、覆土することが好ましい。
【0060】
また、必ずしも、低温処理の際にセルトレイが湿度90%以上の湿潤状態に保管される必要はない。但し、種子の乾燥を防ぎ、種子の発芽率をより一層高めやすくなる点から、低温処理の際にセルトレイが湿度90%以上の湿潤状態に保管されることが好ましい。
【0061】
また、必ずしも、ビニール袋に封入したセルトレイを5℃に設定した冷蔵庫に入れる必要はない。例えば、セルトレイをビニール袋に入れず、湿度管理が可能なインキュベーター内にて低温及び湿潤環境に置く方法も採用しうる。
【0062】
また、必ずしも、低温処理後のセルトレイがハウスに移される必要はない。例えば、15〜25℃の温度環境にある恒温槽にセルトレイを入れて保管してもよい。
【0063】
また、ハウス移動後に種子が10日〜1か月程度で発芽するという点の期間はあくまで目安である。ハウス移動後に1か月を超えて発芽する場合もあり、この点を除く趣旨ではない。
【0064】
また、必ずしも低温処理が5℃前後の温度に限定される必要はない。例えば、0〜10℃の範囲内であれば、低温処理を行わない場合の栽培方法に比べ、発芽率を向上させることができる。また、3〜7℃の温度範囲であれば、より一層、発芽率を高めることが可能となる。低温処理を施すことで、休眠打破を促し、種子の発芽を促すことが可能となる。
【0065】
第1の実施の形態では、培土に播種したムラサキの種子を湿潤状態にて保管することで、種子の発芽率を高めることができる。
【0066】
第1の実施の形態では、播種後の種子に低温処理を施すことで、種子の発芽率を高めることができる。
【0067】
更に、第1の実施の形態の育苗工程では、セルトレイ内でムラサキを育苗してセル成型苗を形成する。セルトレイ内で発芽したムラサキをハウス内にて引き続き一定期間育てる。灌水を行いつつ、ムラサキの苗を大きくし、セルトレイの底面の孔からムラサキの根が貫通して出る状態まで育てる。図1(b)にセルトレイ内で育苗したセル成型苗2を示す。
【0068】
また、育苗工程では、ムラサキの苗の生育に伴い、ムラサキの根が根鉢を形成する。ムラサキの根はセルトレイの内壁面と培土の間に位置して伸長し、培土の外周面を抱え込む形状となる。
【0069】
セルトレイや栽培ポットで苗を生産する場合、ムラサキの主根がセルトレイや栽培ポットの底面の孔に達して空気に触れ、根の先端部が乾燥し、その生長が止まる。これにより、ムラサキの根部から二次根や三次根の側根が発達し、根が分岐して根鉢が形成されるものとなる。その後、根が肥大化し、コルク層が発達してムラサキの根部の表面積が大きくなり、一植物体が含有するシコニンの含有量を増加させることができる。
【0070】
筒栽培工程では、ムラサキのセル成型苗を栽培用筒体に移植し、栽培用筒内で栽培を継続する。
【0071】
栽培用筒体は、図2に示すような栽培用筒3である。栽培用筒3は、内側が筒状で培土を充填する筒本体4、筒本体4の一端側を閉塞し、複数の孔5を有する底面キャップ6で構成される。また、筒本体4の底面キャップ6と接する端部の外周には、筒本体4を立てた状態を支持する補助筒部7が配置される。
【0072】
また、栽培用筒3は、高さ50cm〜80cmのものが使用される。また、底面キャップ6の孔5は直径5mm〜10mmとなっている。孔5は灌水により筒本体4の内部の培土に浸透する水分の排水孔と、伸長したムラサキの根部を通す孔の役目を果たすものとなる。
【0073】
図3に示すように、ムラサキのセル成型苗を、培土を充填した筒本体4に移植し、栽培用筒3をハウス8内の土壌に設けた畝9に立設する。筒本体4は天然パルプの一種である針葉樹さらしパルプ(NBKP)で形成されている。
【0074】
ここで、必ずしも、筒本体4が針葉樹さらしパルプで形成される必要はなく、例えば、塩化ビニル樹脂で形成することもできる。但し、適度な通気性を有し、栽培用筒の内部に充填した培土を乾燥させやすくなる点から、筒本体4が針葉樹さらしパルプで形成されることが好ましい。
【0075】
また、栽培用筒3には、点滴灌水(図示せず)によって灌水を行う。点滴灌水を行うことで、栽培株全体の潅水量を均一にし、潅水ムラや過潅水を低減させ、栽培を安定化させることができる。
【0076】
栽培用筒3への移植後は、ムラサキの根が充分に活着するまで1〜2日毎に灌水する。その後は地上部の状態を確認しながら、1〜5日毎に灌水を継続して行う。
【0077】
また、図4に示すように、筒本体4の内部でムラサキの根10は、底面方向に伸長していくものとなる。栽培用筒3の内部で筒の底面キャップ6側に伸長したムラサキの根10は、底面キャップ6の孔5の部分を通過し、更に、畝9の土壌内部に伸長するものとなる。
【0078】
筒栽培工程では、ハウス内で栽培を継続して行い、一年生または二年生のムラサキを生産する。例えば、一年生のムラサキであれば、4月中旬にセル成型苗を栽培用筒体に移植し、栽培用筒3で10月まで栽培したものを収穫することができる。また、二年生のムラサキであれば、更に、栽培用筒で栽培を継続し、一年後の植物体を収穫するものとなる。
【0079】
続いて、本発明の第2の実施の形態であるムラサキの栽培方法について説明する。
【0080】
第2の実施の形態では、播種工程及び育苗工程については、第1の実施の形態と同様であり、内容の説明は省略する。第2の実施の形態では、露地栽培工程を有するものとなっている。
【0081】
露地栽培工程では、セル成型苗を図5(a)に示す栽培用ポットに鉢上げをして、露地圃場へ移植する。栽培用ポットは、例えば、直径6cmのポット11や、直径7.5cmのポット12等を使用する。なお、図5(b)には、ポットで育てたポット苗13を示している。
【0082】
また、露地圃場には畝を形成し、その畝の表面はポリエチレン製の白マルチで覆われている。白マルチには、ムラサキの地上部を通す孔が設けられ、ムラサキの根元の土を覆うものとなる。
【0083】
白マルチで畝の表面が覆われたことで、雨の畝内部への過剰な浸透が抑制される。これにより、畝の内部に適度な水分環境を創出しやすくなり、ムラサキの根に対して水分過多の状態となることを防ぎ、根腐れが生じにくいものとなる。また、ムラサキの根の表面に蓄積したシコニンが水分に溶出して、蓄積量が減少しにくいものとなる。
【0084】
また、白マルチは太陽光の日照を反射するため、畝内部の温度を適度に保つ役割を果たす。この結果、暑さに弱いムラサキが高温の影響で枯死する確率を減らすことができるものとなっている。
【0085】
第2の実施の形態でも、露地圃場への移植後に一年生または二年生のムラサキの植物体を栽培することができる。
【0086】
続いて、本発明の第3の実施の形態であるムラサキの栽培方法について説明する。
【0087】
第3の実施の形態では、栽培工程は第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様に行うものであり、内容の説明は省略する。第3の実施の形態では、播種工程及び育苗工程が上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態と異なるものとなっている。
【0088】
第3の実施の形態のムラサキの種子を播種する播種工程では、培土にムラサキの種子を播種するが、第1の実施の形態及び第2の実施の形態とは異なり、アーバスキュラー菌根菌胞子を利用しない。
【0089】
播種工程では、播種前に微酸性電解水で種子を洗浄し、種子表面に殺菌処理を施す。また、図1に示すように、72穴〜200穴セルトレイ1に培土を充填し、各セルに1粒〜数粒のムラサキの種子を播種する。また、種子は培土に深さ1cm未満の孔を開けて播種する。
【0090】
ここで、必ずしも、200穴セルトレイにムラサキの種子を播種する必要はない。例えば、栽培ポットに培土を充填して、播種を行うことができる。また、その他のサイズのセルトレイを採用することもできる。
【0091】
また、必ずしも、種子を播種する孔の深さが1cm未満とされる必要はない。但し、発芽時の培土上に芽が出る動きを阻害しにくく、発芽率を高めやすくなる点から、種子を播種する孔の深さが1cm未満とされることが好ましい。
【0092】
第3の実施の形態であるムラサキの栽培方法では、播種後の種子を湿潤環境下におき、5℃前後の低温で一定期間保管した後に、種子を15〜25℃の温度下で育てる。
【0093】
播種した箇所に覆土して、再度、培土に水をかけて、セルトレイをビニール袋に密閉封入する。ビニール袋に封入したセルトレイを5℃に設定した冷蔵庫に入れ、その状態で2週間から1か月の期間、低温で保管する。ビニール袋内は、湿度90%以上の湿潤状態が保たれるものとなる。
【0094】
低温での保管後、セルトレイをビニール袋より出し、15〜25℃の温度環境下のハウスにてセルトレイを保管する。種子はハウスへの移動後10日〜1か月程の期間で発芽する。ハウス移動後は、種子の表面が乾燥しない程度の頻度で灌水を行う。例えば、1日おき程度の頻度である。発芽したムラサキの苗はそのままセルトレイ上で1か月〜2か月の期間育苗する。
【0095】
ここで、必ずしも、ムラサキの種子を培土に播種した後に、覆土する必要はない。但し、低温処理後にセルトレイをハウスへ移した後に、ムラサキの根が乾燥することを防ぎやすくなる点から、ムラサキの種子を培土に播種した後に、覆土することが好ましい。
【0096】
また、必ずしも、低温処理の際にセルトレイが湿度90%以上の湿潤状態に保管される必要はない。但し、種子の乾燥を防ぎ、種子の発芽率をより一層高めやすくなる点から、低温処理の際にセルトレイが湿度90%以上の湿潤状態に保管されることが好ましい。
【0097】
また、必ずしも、ビニール袋に封入したセルトレイを5℃に設定した冷蔵庫に入れる必要はない。例えば、セルトレイをビニール袋に入れず、湿度管理が可能なインキュベーター内にて低温及び湿潤環境に置く方法も採用しうる。
【0098】
また、必ずしも、低温処理後のセルトレイがハウスに移される必要はない。例えば、15〜25℃の温度環境にある恒温槽にセルトレイを入れて保管してもよい。
【0099】
また、ハウス移動後に種子が10日〜1か月程度で発芽するという点の期間はあくまで目安である。ハウス移動後に1か月を超えて発芽する場合もあり、この点を除く趣旨ではない。
【0100】
また、必ずしも低温処理が5℃前後の温度に限定される必要はない。例えば、0〜10℃の範囲内であれば、低温処理を行わない場合の栽培方法に比べ、発芽率を向上させることができる。また、3〜7℃の温度範囲であれば、より一層、発芽率を高めることが可能となる。低温処理を施すことで、休眠打破を促し、種子の発芽を促すことが可能となる。
【0101】
第3の実施の形態では、培土に播種したムラサキの種子を湿潤状態にて保管することで、種子の発芽率を高めることができる。
【0102】
第3の実施の形態では、播種後の種子に低温処理を施すことで、種子の発芽率を高めることができる。
【0103】
更に、第3の実施の形態の育苗工程では、セルトレイ内でムラサキを育苗してセル成型苗を形成する。セルトレイ内で発芽したムラサキをハウス内にて引き続き一定期間育てる。灌水を行いつつ、ムラサキの苗を大きくし、セルトレイの底面の孔からムラサキの根が貫通して出る状態まで育てる。図1(b)にセルトレイ内で育苗したセル成型苗2を示す。
【0104】
また、育苗工程では、ムラサキの苗の生育に伴い、ムラサキの根が根鉢を形成する。ムラサキの根はセルトレイの内壁面と培土の間に位置して伸長し、培土の外周面を抱え込む形状となる。
【0105】
セルトレイや栽培ポットで苗を生産する場合、ムラサキの主根がセルトレイや栽培ポットの底面の孔に達して空気に触れ、根の先端部が乾燥し、その生長が止まる。これにより、ムラサキの根部から二次根や三次根の側根が発達し、根が分岐して根鉢が形成されるものとなる。その後、根が肥大化し、コルク層が発達してムラサキの根部の表面積が大きくなり、一植物体が含有するシコニンの含有量を増加させることができる。
【0106】
この後の栽培工程は、上述した第1の実施の形態における筒栽培や、第2の実施の形態の露地栽培を採用することができる。
【0107】
また、本発明は以下に示す第4の実施の形態も採用しうる。
【0108】
第4の実施の形態では、播種工程において、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合させた培土を使用する。混合するアーバスキュラー菌根菌胞子は、市販の微生物資材を利用することができる。
【0109】
播種工程では、播種前に微酸性電解水で種子を洗浄し、種子表面に殺菌処理を施す。また、72穴〜200穴セルトレイ1に培土を充填し、各セルに1粒〜数粒のムラサキの種子を播種する。また、種子は培土に深さ1cm未満の孔を開けて播種する。
【0110】
播種した箇所に覆土して、再度、培土に水をかけて、15〜25℃の温度環境下のハウスにてセルトレイを保管する。種子はハウスへの移動後、1か月程度の期間をかけて発芽させる。ハウス移動後は、種子の表面が乾燥しない程度の頻度で灌水を行う。例えば、1日おき程度の頻度である。発芽したムラサキの苗はそのままセルトレイ上で1か月〜2か月の期間育苗する。この後の栽培工程は、上述した第1の実施の形態における筒栽培や、第2の実施の形態の露地栽培を採用することができる。
【0111】
上述した第4の実施の形態では、播種工程で培土にアーバスキュラー菌根菌の胞子を混合させることで、発芽後のムラサキの生育率を高めることができるものとなっている。また、第1の実施の形態と異なり、播種後の培土の湿潤環境下での低温処理を要しないものとなっている。
【0112】
以上までで説明した本発明を適用したムラサキの栽培方法では、以下のメリットが存在する。
【0113】
本発明を適用したムラサキの栽培方法では、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌胞子を接種して栽培することにより、有効成分シコニンの含有量を増加させることができる。
【0114】
その増加量は1.0%を超える場合もあり、地上部の生育は未接種のものと大差ないので、生育状況による差以外の理由が存在すると考えられる。有効成分シコニンは根の表面部分に蓄積し、ナフトキノン類のシコニンは抗菌活性を示す化合物である。
【0115】
シコニンをムラサキのファイトアレキシンであると仮定すると、根は菌糸の侵入に対して抵抗する為にシコニンを増産しているとも考えられる。この仮説が正しければ、アグロバクテリウム属に属するアグロバクテリウム・リゾゲネスなどの菌に感染した場合も同様の結果が生じる可能性があることが考えられる。
【0116】
また、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌胞子を接種して栽培することにより、栽培用筒を用いたハウス栽培および露地栽培のどちらにおいても菌根菌未接種の株よりも枯死率が改善された。この点は、菌根の形成により、水分ストレス抵抗性向上効果や病害抵抗性向上効果が現れたものと考えられる。
【0117】
また、本発明の栽培方法では、栽培用筒とハウスを利用することで、ムラサキの生育に適した乾燥した環境を創出しやすいものとなっている。また、ムラサキに与える水分をコントロールしやすく、水分の影響による枯死を生じにくくすることができる。
【0118】
また、セルトレイや栽培ポットで苗を形成することで、ムラサキの根を複数本に分岐させやすいものとなっている。また、分岐した根が肥大し、コルク層が発達することで、シコニンの含有量を増加させることができる。一年生や二年生の植物体の長さ70〜80cmの根が十数本分岐する場合もある。
【0119】
また、露地栽培においても、マルチを使用することで、ムラサキの生育に適した水分環境を創出しやすいものとなっている。更に、ムラサキの根や地上部への雨による影響を減らし、水分をコントロールすることができる。また、白マルチの使用により、畝内部の温度を適切に保ち、高温による温度障害が生じにくいものとなっている。
【0120】
更に、播種工程で種子を湿潤状態で保管することで種子の発芽率を高めることができるものとなっている。また、種子に低温処理を施すことで種子の発芽率を高めることができるものとなっている。
【実施例】
【0121】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0122】
本発明の第1の実施の形態によるムラサキの栽培方法によって実施例1〜4を栽培し、アーバスキュラー菌根の形成領域割合の確認、枯死率の測定、シコニン含有量の測定、及び地上部の生育状況の観察を行った。
【0123】
また、本発明の第2の実施の形態によるムラサキの栽培方法によって実施例5を栽培し、枯死率の測定、シコニン含有量の測定、及び地上部の生育状況の観察を行った。
【0124】
(1)実施例1〜4及び比較例1の栽培
前述した第1の実施の形態のムラサキの栽培方法によって、実施例1〜4のムラサキを栽培した。また、実施例1〜4は、播種を行う培土に単独のVA菌根菌資材を混合したものである。実施例1はセラキンコン、実施例2はCK−100、実施例3はDrキンコン及び実施例4はVA200をそれぞれ使用した。一方、培土にアーバスキュラー菌根菌胞子を混合しないものを比較例1とした。
【0125】
(2)実施例5及び比較例2の栽培
前述した第2の実施の形態のムラサキの栽培方法によって、実施例5のムラサキを栽培した。実施例5は、播種を行う培土に4種類(セラキンコン、CK−100、Drキンコン、VA200)のVA菌根菌資材を混合したものである。一方、培土にアーバスキュラー菌根菌胞子を混合せずに、栽培用ポットで育成した苗を同じ露地圃場で栽培したものを比較例2とした。
【0126】
(3)アーバスキュラー菌根の形成領域割合の確認
実施例1〜4及び比較例1について、播種から2ヶ月以上経過した時点で、ムラサキの根(シコン)をサンプリングし、トリパンブルー染色を施した後、交点法によりアーバスキュラー菌根の形成領域割合を測定した。以下にその方法を示す。
【0127】
a)感染根のサンプリング及びトリパンブルー染色
バットに水道水をため,その中に土ごとポットから取り出したシコンを漬け、根をゆるやかにほぐした。ある程度ほぐれてきたら、流水で根に付着した土粒子などを洗い流しながら根を取り出す。この作業は根を切らないように注意深く行った。
サンプリングした根を試験管にいれ、10%水酸化カリウム(KOH)溶液を根が十分浸る程度注いだ。その試験管を沸騰水につけ、根が透明感を持つまで15分程度加熱する。加熱後、KOH溶液を捨て、黄色い色が消失するまで水道水で根をよく洗い、5%の塩酸に約5分間根を浸し、中和した後塩酸を捨てる。その後、1%トリパンブルー溶液を乳酸で20倍に希釈したものを入れ、沸騰水につけて10分間加熱し、感染根の染色を行う。染色後トリパンブルー溶液を捨て、ラクトグリセロール溶液(乳酸:グリセロール:水、85.7:6.3:8.0)を入れて2日以上放置し、脱色した後、顕微鏡を用いて観察を行った。
また、根のサンプリング後、すぐに染色操作を行わない場合は、乾燥しないようチャックつきのビニール袋に保存し、−20℃で保存した。
b)交点法による菌根の形成領域割合の測定
ラクトグリセロール溶液を少量入れたシャーレに染色した根を広げて入れ、シャーレの下にOHPシートに格子をコピーしたものを敷く。その後、実体顕微鏡を用いて格子の線と根が交わっている部分が感染しているか否かを観察し、それぞれの数をカウントした。
感染根観察方法のイメージを図6に示す。図6中の符号14はムラサキの根、符号15は感染が確認できる領域、符号16は感染が確認されない領域を示すものである。また、菌根の形成領域割合であるCは式(1)により求める。
C=(Cc/Ca)×100・・・式(1)
ここで、Cは菌根の形成領域割合(%)、Ccは感染の認められた交差数、Caは全交差数を表す。また、Caは100以上である必要があり、もし100に満たない場合は、格子の目の粗さを変更し計測をやり直した。格子の目の間隔は、1mm、2mm、3mmの3種類を用いた。
【0128】
【表1】
【0129】
表1は、実施例1〜4及び比較例1における菌根の形成領域割合を示した結果である。
実施例1〜4の植物体には、ムラサキの根にアーバスキュラー菌根菌が感染し、アーバスキュラー菌根が形成されていることが確認された。
【0130】
(4)枯死率の測定
実施例1〜4及び比較例1について、各種類の植物体を4月中旬に栽培用筒に移植した段階での全体の株数を100%とし、同年の10月時点での生育した株数をもって枯死率を算出した。
また、実施例5及び比較例2については、6月29日にムラサキの苗を露地圃場に移植した段階での全体の株数を100%とし、同年の8月30日、9月30日、10月29日及び12月2日の段階の時点での生育した株数をもって枯死率を算出した。
【0131】
【表2】
【0132】
表2は、実施例1〜4及び比較例1における枯死率を示した結果である。
実施例1〜4の植物体は、いずれも枯死率が低く、ムラサキが充分に生育していることが確認された。比較例1では、枯死率が10%を超えるものとなっていた。
【0133】
【表3】
【0134】
表3は、実施例5及び比較例2における枯死率を示した結果である。
実施例5の植物体は、各調査段階で比較例2よりも枯死率が充分に低いものとなっていた。比較例2では、枯死率が40%を超える高いものとなっていた。
【0135】
(5)シコニン含有量の測定
以下の方法でサンプルを調製し、液体クロマトグラフ法により試験を行った。
a)試料溶液の調整法
1)シコンの根頭部を除き、全体を裁断、乾燥させ均一にした後サンプリングし、ワンダーブレンダーで粉砕する。その後、ふるいにかけ、250mg精秤する。
2)1)にジエチルエーテル50mLを加え超音波で10分抽出し、抽出液を回収する。
3)2)と同様の操作を繰り返す。
4)2)と同様の操作を繰り返す。
5)4)に2NNaOH20mLを加え、3分間震とうする。
6)5)の水層(青色を呈する)を回収し、残ったエーテル層に蒸留水30mLを加え3分間振とうする。
7)6)の水層を回収し、2NNaOH10mLを加え3分間振とうし、水層を回収する。
8)回収した水層にジエチルエーテル30mL、2NHCl30mLを加え3分間振とうする。
9)赤色に呈色したジエチルエーテル層を回収し、水層にジエチルエーテルを40mL加え振とうし、ジエチルエーテル層を回収する。
10)回収したジエチルエーテル層を合わせて減圧下、水浴中で溶媒を留去する。
11)10)にメタノール10mLを加え試料溶液とした。
なお、実施例1〜4及び比較例1については一年生の植物体についてn=5で一植物体あたりのシコニン含有量を算出した。また、実施例5及び比較例2の一年生の植物体はn=5、同二年生の植物体はn=3で一植物体あたりのシコニン含有量を算出した。
b)標準溶液の調製法
シコニン標準品を10mg精秤し、メタノールで25mLにメスアップする。
c)液クロ操作条件
検出器:紫外線吸光光度計(波長:273nm)
カラム:Wakosil−2 5C18HG(4.6×150mm)
カラム温度:40℃
注入量:5μl
移動相:アセトニトリル/水=7/3
流速:1.5ml/min
d)含量算出法
シコニンの含有量(%)=25×Cs×As/Ss×試料量(mg)
Cs:成分含量測定用シコニンの成分量(mg)
Ss:標準物質中のシコニンのピーク面積
As:試料に含まれているシコニンのピーク面積
【0136】
【表4】
【0137】
表4は、実施例1〜4及び比較例1における一植物体あたりのシコニン含有量を示した結果である。
実施例1〜4の植物体は、いずれもシコニン含有量が高いものとなっていた。比較例1では、シコニン含有量が1%を下回っていた。
【0138】
【表5】
【0139】
表5は、実施例5及び比較例2における一植物体のシコニン含有量を示した結果である。
実施例5の植物体は、各調査段階で比較例2よりもシコニン含有量が高いものとなっていた。
【0140】
(6)地上部の生育状況の観察
実施例1〜4及び比較例1について、栽培用筒で栽培したムラサキの地上部の生育状況を観察した。
また、実施例5及び比較例2について、露地圃場で栽培したムラサキの地上部の生育状況を観察した。
【0141】
実施例1〜4及び比較例1では、ムラサキの地上部の生育状況に差異は認められなかった。
また、実施例5及び比較例2では、ムラサキの地上部の生育状況に差異は認められなかった。
【0142】
以下、本発明の実施例として、播種工程における手順の違いによる種子の発芽率について示す。
【0143】
本発明の第3の実施の形態によるムラサキの栽培方法によってムラサキの種子を播種したものを実施例6〜9とし、発芽率の確認を行った。
【0144】
(7)実施例6及び比較例3〜4の栽培
前述した第3の実施の形態のムラサキの栽培方法によって、実施例6のムラサキを栽培した。より詳細には、セルトレイ上の培土に水をかけ、播種して覆土し、更に水をかけ、セルトレイをビニール袋に密封封入し、5℃の低温にて1か月保管した。一方、種子を濡れたガーゼに包んで5℃の低温にて1か月保管したものをセルトレイ上のアーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土に水をかけ播種して覆土したものを比較例4とした。更に、セルトレイ上のアーバスキュラー菌根菌胞子を混合した培土に水をかけ、無処理種子を播種して覆土し、常温にて保管したものを比較例3とした。更に、種子を濡れたガーゼに包んで5℃の低温にて1か月保管したものをセルトレイ上の通常の培土に水をかけ播種して覆土したものを比較例6とした。更に、セルトレイ上の通常の培土に水をかけ、無処理種子を播種して覆土し、常温にて保管したものを比較例5とした。
【0145】
(8)実施例7〜9及び比較例7〜8の栽培
前述した第3の実施の形態のムラサキの栽培方法によって、実施例7〜9のムラサキを栽培した。実施例7〜9は、上述した実施例6の方法において、低温保管時の温度のみが異なるものであり、実施例7は0〜3℃の温度範囲、実施例8は3〜7℃の温度範囲及び実施例9は10℃の温度で保管したものである。一方、同様に、比較例7は−7℃〜−3℃の温度範囲、比較例8は15℃の温度でセルトレイを保管した。実施例7〜9及び比較例7〜8はいずれもセルトレイをビニール袋で密閉封入している。なお、実施例7、8及び比較例5の温度で示された温度範囲は、各サンプルを保管した冷蔵庫の温度上のばらつきを反映したものである。
【0146】
(9)種子の発芽率の確認
実施例6〜9及び比較例3〜8について、セルトレイを15〜25℃の温度のハウスに移動し、保管1か月後のセルトレイでの発芽率を確認した。1つのサンプルにつき、200個の種子を播種し、発芽したムラサキの数から発芽率を算出した。
【0147】
【表6】
【0148】
表6は、実施例6及び比較例3〜4における発芽率を示した結果である。
実施例6では、90%という高い発芽率が確認された。比較例3〜6では、20〜30%という低い発芽率であった。
【0149】
【表7】
【0150】
表7は、実施例7〜9及び比較例5〜6における発芽率を示した結果である。
実施例7〜9では、50%以上の発芽率を示し、更に実施例8では90%という高い発芽率が確認された。比較例7〜8では、20〜25%という低い発芽率であった。
【0151】
以上のように、本発明のムラサキの栽培方法は、ムラサキの生存率を高め、かつ、有効成分の含有量を増加させることが可能なものとなっている。
【符号の説明】
【0152】
1 200穴セルトレイ
2 セル成型苗
3 栽培用筒
4 筒本体
5 孔
6 底面キャップ
7 補助筒部
8 ハウス
9 畝
10 ムラサキの根
11 ポット
12 ポット
13 ポット苗
14 ムラサキの根
15 感染が確認できる領域
16 感染が確認されない領域
【要約】
【課題】ムラサキの生存率を高め、かつ、有効成分の含有量を増加させることが可能なムラサキの栽培方法を提供する。
【解決手段】本発明の第1の実施の形態であるムラサキの栽培方法は、ムラサキの種子を播種する播種工程と、苗を育てる育苗工程と、栽培用筒体でムラサキを育てる筒栽培工程を備える。ムラサキの種子を植える播種工程では、アーバスキュラー菌根菌胞子を混合させた培土を使用する。混合するアーバスキュラー菌根菌胞子は、市販の微生物資材を利用することができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6