特許第5885329号(P5885329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885329
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20160301BHJP
   B60R 21/2342 20110101ALI20160301BHJP
   B60R 21/239 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   B60R21/2338
   B60R21/2342
   B60R21/239
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-159723(P2011-159723)
(22)【出願日】2011年7月21日
(65)【公開番号】特開2013-23076(P2013-23076A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】米山 恭平
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−069149(JP,A)
【文献】 特開2007−076619(JP,A)
【文献】 特開平09−164892(JP,A)
【文献】 特開平07−205738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳まれて収納され、膨張ガスの導入により乗員に向けて膨張展開するエアバッグ本体部を備えたエアバッグであって、
エアバッグ本体部は、
乗員に対向する対向面部と、
この対向面部の両側から反乗員方向に向かう側面部と、
これら対向面部及び側面部の上側を互いに連結する上面部と、
対向面部及び側面部の下側を互いに連結する下面部と、
前記側面部の上下寸法を短くした状態でこの側面部に形成された横折り部と、
所定の展開圧力によって展開するように前記横折り部の折り形状を保持する保持制御部と、
前記下面部の展開を前記横折り部の展開よりも遅延させる遅延制御部とを有し、
前記遅延制御部は、
前記下面部の寸法を短くした状態でこの下面部に形成された下面折り込み部と、
この下面折り込み部が前記横折り部よりも遅れて展開するように折り形状を保持する保持部とを有している
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
遅延制御部の下面折り込み部は、下面部の左右寸法を短くした状態でこの下面部に形成された縦折り部である
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項3】
遅延制御部の下面折り込み部は、下面部の前後寸法を短くした状態でこの下面部に形成された前後折り部である
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項4】
横折り部は、側面部を折り重ねた状態で形成され、
前記側面部は、前記横折り部に位置するベントホールを備えている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折り畳まれて収納され、膨張ガスの導入により乗員に向けて膨張展開するエアバッグ本体部を備えたエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車のインストルメントパネル部に備えられる助手席乗員用のエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置は、膨張ガスを供給するインフレータと、所定の形状に折り畳まれた袋状のエアバッグ本体部を有するエアバッグとを備えている。そして、自動車の衝突などの際には、インフレータから膨張ガスを供給して、助手席に着いた乗員の前方にエアバッグ本体部を膨張展開させ、乗員に加わる衝撃を緩和するようになっている。
【0003】
このようなエアバッグ装置のエアバッグにおいて、ウインドシールドすなわちフロントガラス側と乗員側とをそれぞれ個別に蛇腹状に折り畳むとともに、乗員側を所定の展開圧力により破断する制御用縫製によって縫合し、乗員側の展開をフロントガラス側に対して非対称に遅らせるようにしている構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、このエアバッグでは、フロントガラス側がフロントガラスに沿って、乗員側の蛇腹状の折り畳みを引っ張りながら乗員側よりも早く展開し、次いで、この膨張するフロントガラス側に乗員側が順次引き出されるように、エアバッグ本体部の展開挙動を段階的にすることで、膨張前のエアバッグ本体部の一時的な伸張を減少させ、エアバッグ本体部の安定的な膨張を図っている。
【0004】
また、エアバッグ本体部の上部に、このエアバッグ本体部の上部の展開を規制するとともに所定の展開圧力により破断するストラップを配置した構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。すなわち、このエアバッグでは、ストラップによりエアバッグ本体部を前後方向に矯正することにより、展開初期での乗員側への展開を早め、その後にエアバッグ本体部全体が展開するように展開挙動を制御することで、インフレータの出力を小さくしても乗員を保護できるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−205750号公報 (第2−4頁、図1及び図5
【特許文献2】特開平7−69149号公報 (第3−4頁、図1及び図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1記載の構成では、エアバッグ本体部の展開初期において、フロントガラス側がフロントガラスに沿って先に展開するものの、乗員を確実に拘束する乗員拘束面部の面積を向上することが容易でない。
【0007】
また、上述の特許文献2記載の構成では、エアバッグ本体部の上部の前後方向のストロークが縮み、頭部を拘束するタイミングを早めることが容易でなく、頭部が持つエネルギの吸収性を向上することが容易でない。
【0008】
したがって、乗員拘束面部をより迅速に形成し、かつ、その面積をより向上するなど、乗員拘束性能のより一層の向上が求められている。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、乗員拘束性能をより向上したエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のエアバッグは、折り畳まれて収納され、膨張ガスの導入により乗員に向けて膨張展開するエアバッグ本体部を備えたエアバッグであって、エアバッグ本体部は、乗員に対向する対向面部と、この対向面部の両側から反乗員方向に向かう側面部と、これら対向面部及び側面部の上側を互いに連結する上面部と、対向面部及び側面部の下側を互いに連結する下面部と、前記側面部の上下寸法を短くした状態でこの側面部に形成された横折り部と、所定の展開圧力によって展開するように前記横折り部の折り形状を保持する保持制御部と、前記下面部の展開を前記横折り部の展開よりも遅延させる遅延制御部とを有し、前記遅延制御部は、前記下面部の寸法を短くした状態でこの下面部に形成された下面折り込み部と、この下面折り込み部が前記横折り部よりも遅れて展開するように折り形状を保持する保持部とを有しているものである。
【0011】
請求項2記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、遅延制御部の下面折り込み部は、下面部の左右寸法を短くした状態でこの下面部に形成された縦折り部であるものである。
【0012】
請求項3記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、遅延制御部の下面折り込み部は、下面部の前後寸法を短くした状態でこの下面部に形成された前後折り部であるものである。
【0013】
請求項4記載のエアバッグは、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグにおいて、横折り部は、側面部を折り重ねた状態で形成され、前記側面部は、前記横折り部に位置するベントホールを備えているものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のエアバッグによれば、側面部の上下寸法を短くする横折り部の折り形状を所定の展開圧力によって展開するように保持制御部によって保持するとともに、下面部の寸法を短くした状態でこの下面部に形成した下面折り込み部を、横折り部よりも遅れて展開するように保持部で保持する遅延制御部によって下面部の展開を横折り部の展開よりも遅延させることにより、横折り部の折り形状の保持によって展開初期ではエアバッグ本体部の容積を抑制して迅速に展開させ、横折り部及び下面部の順次展開によって対向面部の面積を段階的に拡大するとともにエアバッグ本体部の容積を段階的に増加させ、簡単な構成で乗員の各部をそれぞれ異なる拘束力で効率よく、かつ、確実に拘束でき、乗員拘束性能をより向上できる。また、下面部の展開を横折り部の展開よりも遅延させる遅延制御部をより容易に構成できるとともに、下面部の展開のタイミングを遅延制御部によって、より容易に設定できる。
【0015】
請求項2記載のエアバッグによれば、請求項1記載のエアバッグの効果に加え、遅延制御部の下面折り込み部を、下面部の左右寸法を短くした状態でこの下面部に形成した縦折り部とすることで、この縦折り部を、横折り部よりも遅れて展開するように保持部で保持することにより、下面部の展開を横折り部の展開よりも遅延させる遅延制御部をより容易に構成できるとともに、下面部の展開のタイミングを遅延制御部によって、より容易に設定できる。
【0016】
請求項3記載のエアバッグによれば、請求項1記載のエアバッグの効果に加え、遅延制御部の下面折り込み部を、下面部の前後寸法を短くした状態でこの下面部に形成した前後折り部とすることで、この前後折り部を、横折り部よりも遅れて展開するように保持部で保持することにより、下面部の展開を横折り部の展開よりも遅延させる遅延制御部をより容易に構成できるとともに、下面部の展開のタイミングを遅延制御部によって、より容易に設定できる。
【0017】
請求項4記載のエアバッグによれば、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグの効果に加え、側面部を折り重ねた状態で形成した横折り部にベントホールを位置させることにより、エアバッグ本体部が所定の展開圧力になる前の展開初期では、ベントホールからエアバッグ本体部内の膨張ガスが排気されないため、対向面部をより迅速に形成できるとともに、エアバッグ本体部の内圧を適切に保ち、乗員の少なくとも頭部を適切な反力で確実かつ効果的に拘束できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のエアバッグの第1の実施の形態の展開挙動を(a)ないし(c)の順に模式的に示す斜視図である。
図2図1のA−A相当位置の断面図である。
図3図1のB−B相当位置の断面図である。
図4図1のC−C相当位置の断面図である。
図5】本発明のエアバッグの第2の実施の形態を模式的に示す縦断面図である。
図6】本発明のエアバッグの第3の実施の形態を模式的に示す縦断面図である。
図7】本発明のエアバッグの第4の実施の形態を模式的に示す縦断面図である。
図8】本発明のエアバッグの第5の実施の形態を模式的に示す縦断面図である。
図9】本発明のエアバッグの第6の実施の形態を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のエアバッグの第1の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1ないし図4において、10はエアバッグ装置で、このエアバッグ装置10は、移動体である車両としての自動車の助手席、すなわち被保護物としての助手席の乗員Pの前方に位置する被設置部としてのインストルメントパネル部の内側に配置され、助手席乗員用のエアバッグ装置10を構成している。なお、以下、前後方向、両側方向、及び上下方向は、それぞれエアバッグ装置10を自動車に取り付けた状態における自動車の直進方向を基準として説明する。
【0021】
そして、このエアバッグ装置10は、エアバッグモジュールとも呼び得るもので、基布にて構成された袋状の外殻部であるエアバッグ本体部11などを有するエアバッグ12、エアバッグ本体部11にガスを供給する図示しないインフレータ、これらエアバッグ12とインフレータとなどが取り付けられる図示しないケース体、図示しないリテーナ、展開前のエアバッグ12を覆う図示しないカバー体、及びインフレータの動作を制御する図示しない制御手段などを備えている。さらに、このエアバッグ装置10は、自動車のインストルメントパネル部に取り付けられ、センサなどを備えた制御装置に電気的に接続して構成される。
【0022】
ケース体は、略箱状に形成され、正面側あるいはインストルメントパネル部の上方に連続するウインドシールドである図示しないフロントガラスに向かう上側を開口部である矩形状の突出口とし、内側が、折り畳んだエアバッグ本体部11(エアバッグ12)を収納するエアバッグ収納部とされている。また、このケース体の底部には、インフレータの取り付け用の取付孔が形成されている。そして、この突出口は、通常時は、カバー体により覆われている。
【0023】
また、インフレータは、例えば円盤状をなす本体部を備え、この本体部の高さ方向の下側寄りの位置から、四角板状のフランジ部が突設され、このフランジ部の四隅には通孔が形成されている。そして、この本体部の上側部、すなわちフランジ部の上方に位置して、本体部の外周面に、複数の図示しないガス噴射口が形成されている。そして、本体部の内側には、点火器及び薬剤が収納され、底部に接続されたコネクタを介して伝えられる制御手段からの電気信号により、点火器が薬剤を燃焼させ、ガス噴射口から膨張用のガスを急速に供給するようになっている。そして、このインフレータは、ガス噴射口を設けた本体部をエアバッグ本体部11の内側に挿入した状態で、ケース体の底部に取り付けられている。なお、インフレータは、種々の形状があり、例えば、円柱状の本体部をエアバッグ本体部11の内側に配置する構成を採ることもできる。
【0024】
また、リテーナは、枠状に形成されており、エアバッグ本体部11(エアバッグ12)とともにインフレータを取り付けるための図示しない取付ボルトが突設されている。
【0025】
また、カバー体は、樹脂にてインストルメントパネル部と一体あるいは別体をなして形成され、他の部分より薄肉で容易に破断するテアラインが平面略H字状などに形成されている。
【0026】
そして、エアバッグ本体部11は、単数、あるいは複数の基布を縫製、接着あるいは溶着などにより組み合わせて接合することで全体としては袋状に形成され、展開状態で乗員Pに対向して上下方向及び左右方向(幅方向)に延びる対向面部である乗員拘束面部21を後端部に有し、この乗員拘束面部21の両側から反乗員P側すなわち乗員P側と反対側、換言すれば前側に前後方向に沿って延びる側面部22,22が連続し、これら乗員拘束面部21及び側面部22,22の上部間に前後方向に沿って延びる上面部23が連続し、かつ、乗員拘束面部21及び側面部22,22の下部間に前後方向に沿って延びる下面部24が連続している。
【0027】
乗員拘束面部21は、前方へ移動してきた乗員Pに対して反力を与えることで乗員Pを拘束する部分であり、最大に展開した状態で乗員Pの頭部P1、胸部P2及び腹部P3に亘る面積を有している。
【0028】
また、各側面部22には、膨張ガスの排出を許容する円形状のベントホール27がそれぞれ上下方向の上側寄りの位置に形成されている。これらベントホール27は、エアバッグ12(エアバッグ本体部11)の展開状態での余剰の膨張ガスを排出することでエアバッグ本体部11の内圧を適切に設定するものである。さらに、各側面部22には、ベントホール27に対応する位置である展開状態での乗員Pの頭部P1と胸部P2との間の位置に、左右幅方向の中央側(内側)へと折り込まれて折り重ねられた(タッキングされた)側面折り込み部としての横折り部28が前後方向に沿ってそれぞれ形成される(図2)。これら横折り部28は、エアバッグ本体部11の上下寸法を短くすることでエアバッグ本体部11の展開初期の上下方向の容積を抑制することを目的として形成されるものであり、乗員拘束面部21の近傍から前側に亘って形成され、エアバッグ本体部11の折り畳み状態から展開初期の間にのみ存在し、その後は開放される部分である。すなわち、これら横折り部28は、保持制御部としての第1の制御部である第1の制御用縫製部29により仮縫いされることにより折り形状が保持されており、これら第1の制御用縫製部29がエアバッグ本体部11の所定の展開圧力によって破断することにより展開するように構成されている。そして、各横折り部28によって、ベントホール27はエアバッグ本体部11の内側に隠れるように折り込まれる。
【0029】
ここで、第1の制御用縫製部29は、各横折り部28につき複数ずつ、例えば3つずつ形成されており、各横折り部28の外縁部から内側を経由して再度外縁部へと連続する、平面視コ字状に形成されている(図3)。
【0030】
また、上面部23は、展開状態でフロントガラスに対向する部分であり、下面部24の上方に対向している。
【0031】
そして、下面部24は、乗員拘束面部21及び側面部22,22の下側を下方に突出した状態で連結する、すなわち下方へと膨出する形状に形成されている。また、この下面部24には、インストルメントパネル部に対向する位置である前側に、インフレータのガス噴射口から噴射された膨張ガスがエアバッグ本体部11の内部へと供給される図示しないガス導入口が形成されている。また、この下面部24は、ガス導入口の周縁部がインフレータとともにケース体のエアバッグ収納部に一体的に固定されている。さらに、この下面部24の左右幅方向の中央部には、上方へと折り込まれて折り重ねられた(タッキングされた)下面折り込み部としての縦折り部31が前後方向に沿って形成される(図4)。この縦折り部31は、エアバッグ本体部11の左右寸法を短くすることでエアバッグ本体部11の展開初期から展開終期に至るまでのエアバッグ本体部11の左右方向の容積を抑制することを目的として形成されるものであり、乗員拘束面部21から前側に亘って形成され、エアバッグ本体部11の折り畳み状態から展開初期及び各横折り部28が開放する展開中期までの間にのみ存在し、その後は開放される部分である。すなわち、この縦折り部31は、保持部としての接合部である第2の制御用縫製部32により仮縫いされることにより折り形状が保持されており、この第2の制御用縫製部32がエアバッグ本体部11の所定の展開圧力によって破断することにより展開するように構成されている。
【0032】
ここで、第2の制御用縫製部32は、本実施の形態では、縦折り部31の後端から前端に亘って連続する縫製部であり、各第1の制御用縫製部29よりも長い縫製距離に形成されている。したがって、この第2の制御用縫製部32は、各第1の制御用縫製部29と比較して応力を分散できることにより、第1の制御用縫製部29よりも遅れて破断するように構成されている。そして、縦折り部31及び第2の制御用縫製部32により、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させる第2の制御部である遅延制御部34が構成されている。
【0033】
次に、エアバッグ装置10の展開挙動を説明する。
【0034】
このエアバッグ装置10の動作の概略としては、自動車の衝突などの際に、制御装置がインフレータを作動させ、このインフレータから膨張ガスを噴射させると、折り畳み状態でエアバッグ収納部に収納されたエアバッグ本体部11が、ガス導入口からの膨張ガスの流入に伴い膨張展開してカバー体のテアラインを破断して突出口から突出し、乗員P側へと展開する。
【0035】
この展開初期において、エアバッグ本体部11は、各横折り部28及び縦折り部31がそれぞれ第1及び第2の制御用縫製部29,32によって保持されているため、上下方向及び左右方向の容積が最終的なエアバッグ本体部11の容積よりも低減されて比較的小型となっていることにより、供給された膨張ガスに対してエアバッグ本体部11が前後方向に迅速に膨張展開する(図1(a))。このとき、乗員拘束面部21は、乗員Pの頭部P1のみ、あるいは頭部P1及び胸部P2に対向する初期乗員拘束面部21aとなり、比較的大きい反力で乗員Pの頭部P1、あるいは頭部P1及び胸部P2を確実に拘束する。すなわち、少なくとも乗員Pの頭部P1を展開初期の段階から拘束することが可能になる。
【0036】
続く展開中期において、膨張ガスの充填量の増加によってエアバッグ本体部11の内圧が所定の展開圧力となることにより、各第1の制御用縫製部29がそれぞれ破断して、各横折り部28が展開して各側面部22が完全に展開する(図1(b))。この結果、エアバッグ本体部11の容積が増加するとともに、各ベントホール27が各側面部22に露出して膨張ガスの一部がエアバッグ本体部11の外部へと排出されることにより、乗員拘束面部21は、初期乗員拘束面部21aに対して上下方向に面積が拡大した中期乗員拘束面部21bとなり、エアバッグ本体部11の内圧が低下し、展開初期よりも抑制された反力で乗員Pの頭部P1及び胸部P2のエネルギを確実に、かつ効率よく吸収する。
【0037】
そして、展開終期において、さらに膨張ガスの充填量の増加によって第2の制御用縫製部32が破断して、縦折り部31が展開して下面部24が完全に展開する(図1(c))。この結果、エアバッグ本体部11の容積がさらに増加して最大容積となるとともに、各ベントホール27から膨張ガスの一部がエアバッグ本体部11の外部へとさらに排出されることにより、乗員拘束面部21が中期乗員拘束面部21bに対して上下方向及び左右方向に面積が最大に拡大した終期乗員拘束面部21cとなり、エアバッグ本体部11の内圧がさらに低下して拘束に最適な内圧となり、展開中期よりも抑制された反力となる最終的な展開状態となり、乗員Pの頭部P1、胸部P2及び腹部P3を拘束し、これらのエネルギを確実に、かつ効率よく吸収する。
【0038】
このように本実施の形態によれば、側面部22の上下寸法を短くする各横折り部28の折り形状を所定の展開圧力によって展開するように各第1の制御用縫製部29によって保持することにより、各横折り部28の折り形状の保持によって展開初期ではエアバッグ本体部11の容積を抑制して迅速に展開させ、その後、各横折り部28の展開によって乗員拘束面部21の面積を拡大するとともにエアバッグ本体部11の容積を増加させ、簡単な構成で乗員Pの各部、すなわち頭部P1及び胸部P2と腹部P3とをそれぞれ異なる拘束力で効率よく、かつ、確実に拘束でき、乗員拘束性能をより向上できる。
【0039】
また、遅延制御部34によって下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させることにより、各横折り部28及び下面部24が順次展開するので、乗員拘束面部21の面積を段階的に拡大させるとともにエアバッグ本体部11の容積を段階的に増加させることができ、簡単な構成で乗員Pの頭部P1及び胸部P2と腹部P3などとをそれぞれ段階的に異なる拘束力で効率よく、かつ、確実に拘束できる。すなわち、各横折り部28と縦折り部31とを、時間差を生じさせつつ開放することによって、エアバッグ本体部11の容積及び乗員拘束面部21の大きさをそれぞれ展開初期から展開終期に至るまで段階的に順次制御することにより、早期に拘束したい箇所である乗員Pの頭部P1あるいは頭部P1及び胸部P2については展開初期から充分な拘束面積を確保して迅速に拘束し、より小さい反力で拘束したい箇所である乗員Pの腹部P3については、エアバッグ本体部11の容積が相対的に大きくなって内圧が相対的に低下し反力が抑制された展開終期で拘束するなど、各部位に適したタイミング、拘束面積及び拘束力で乗員Pを拘束できる。
【0040】
しかも、エアバッグ本体部11は、その容積の制御により展開初期では比較的硬く、展開終期では比較的軟らかくなるので、効率のよいエネルギ吸収を行うことができる。
【0041】
また、下面部24の左右寸法を短くするようにこの下面部24を折った縦折り部31を、各横折り部28よりも遅れて展開するように第2の制御用縫製部32で保持することにより、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させる遅延制御部34をより容易に構成できるとともに、遅延制御部34による下面部24の展開のタイミングを第2の制御用縫製部32によって、より容易に設定できる。
【0042】
さらに、各ベントホール27を各横折り部28に位置させることにより、エアバッグ本体部11が所定の展開圧力になる前の展開初期では、ベントホール27からエアバッグ本体部11内の膨張ガスが排気されないため、乗員拘束面部21をより迅速に形成できるとともに、内圧を適切に保ち、乗員Pの頭部P1あるいは頭部P1及び胸部P2を、適切な反力で確実かつ効果的に拘束できる。
【0043】
そして、破断可能な縫製によって各横折り部28を接合する第1の制御用縫製部29を用いることにより、各横折り部28が展開するタイミングをより容易に設定できる。
【0044】
同様に、破断可能な縫製によって縦折り部31を接合する第2の制御用縫製部32を用いることにより、縦折り部31が展開するタイミング、すなわち下面部24が展開するタイミングをより容易に設定できる。
【0045】
次に、第2の実施の形態を図5を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態の縦折り部31に代えて、遅延制御部34が、下面折り込み部としての下面横折り部36,36を備えるものである。
【0047】
これら下面横折り部36は、下面部24の上下寸法を短くすることでエアバッグ本体部11の展開初期の上下方向の容積を抑制することを目的として形成されるものであり、展開状態で下面部24となる部分に左右幅方向の中央側(内側)へと折り込まれて折り重ねられて(タッキングされて)いる。また、これら下面横折り部36は、乗員拘束面部21の近傍から前側に亘って、前後方向に沿ってそれぞれ形成され、エアバッグ本体部11の折り畳み状態から展開初期及び展開中期までの間にのみ存在し、その後は開放される部分である。すなわち、これら下面横折り部36は、第2の制御用縫製部32により仮縫いされることにより折り形状が保持されており、これら第2の制御用縫製部32がエアバッグ本体部11の所定の展開圧力によって破断することにより展開するように構成されている。
【0048】
この第2の制御用縫製部32は、本実施の形態では、各下面横折り部36の後端近傍の外縁部から内側を経由して前端近傍の外縁部と連続する、平面視コ字状に形成された縫製部であり、各第1の制御用縫製部29よりも長い縫製距離に形成されている。したがって、これら第2の制御用縫製部32は、各第1の制御用縫製部29と比較して応力を分散できることにより、第1の制御用縫製部29よりも遅れて破断するように構成されている。
【0049】
そして、エアバッグ本体部11が展開する際には、各横折り部28及び下面横折り部36がそれぞれ第1及び第2の制御用縫製部29,32によって保持され展開初期及び各第1の制御用縫製部29がそれぞれ破断して各横折り部28が展開して側面部22が完全に展開する展開中期の後の展開終期において、膨張ガスによる所定の展開圧力により、各第2の制御用縫製部32が破断して、各下面横折り部36が展開して下面部24が下方へと完全に展開して乗員拘束面部21が中期乗員拘束面部21bに対して上下方向及び左右方向に面積が拡大した終期乗員拘束面部21cとなり、エアバッグ本体部11の内圧がさらに低下し、展開中期よりも抑制された反力となる最終的な展開状態となり、展開中期よりも抑制された反力で乗員Pの頭部P1、胸部P2及び腹部P3を拘束し、これらのエネルギを確実に、かつ効率よく吸収する。
【0050】
このように、本実施の形態によれば、下面部24の上下寸法を短くするように折った下面横折り部36,36を、各横折り部28よりも遅れて展開するように第2の制御用縫製部32,32で折り形状を保持することにより、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させる遅延制御部34をより容易に構成できるとともに、遅延制御部34による下面部24の展開のタイミングを第2の制御用縫製部32によって、より容易に設定できる。
【0051】
次に、第3の実施の形態を図6を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0052】
この第3の実施の形態は、上記第1の実施の形態の縦折り部31に代えて、遅延制御部34が、下面折り込み部としての前後折り部38を備えるものである。
【0053】
この前後折り部38は、下面部24の前後寸法を短くすることでエアバッグ本体部11の展開初期の前後方向の容積を抑制することを目的として形成されるものであり、展開状態で下面部24となる部分の前後方向の中央部が中央側(内側)へと折り込まれて折り重ねられて(タッキングされて)いる。また、この前後折り部38は、乗員拘束面部21の前方に位置して左右両側に亘って形成され、エアバッグ本体部11の折り畳み状態から展開初期及び展開中期までの間にのみ存在し、その後は開放される部分である。すなわち、この前後折り部38は、第2の制御用縫製部32により仮縫いされることにより折り形状が保持されており、これら第2の制御用縫製部32がエアバッグ本体部11の所定の展開圧力によって破断することにより展開するように構成されている。
【0054】
この第2の制御用縫製部32は、本実施の形態では、前後折り部38の一側の下端部から内側を経由して他側の下端部と連続する、正面視コ字状に形成された縫製部であり、各第1の制御用縫製部29よりも長い縫製距離に形成されている。したがって、これら第2の制御用縫製部32は、各第1の制御用縫製部29と比較して応力を分散できることにより、第1の制御用縫製部29よりも遅れて破断するように構成されている。
【0055】
そして、エアバッグ本体部11が展開する際には、各横折り部28及び前後折り部38がそれぞれ第1及び第2の制御用縫製部29,32によって保持され展開初期及び各第1の制御用縫製部29がそれぞれ破断して各横折り部28が展開して側面部22が完全に展開する展開中期の後の展開終期において、膨張ガスによる所定の展開圧力により、第2の制御用縫製部32が破断して、前後折り部38が展開して下面部24が下方へと完全に展開して乗員拘束面部21が中期乗員拘束面部21bに対して上下方向及び左右方向に面積が拡大した終期乗員拘束面部21cとなり、エアバッグ本体部11の内圧がさらに低下し、展開中期よりも抑制された反力となる最終的な展開状態となり、展開中期よりも抑制された反力で乗員Pの頭部P1、胸部P2及び腹部P3を拘束し、これらのエネルギを確実に、かつ効率よく吸収する。
【0056】
このように、本実施の形態によれば、下面部24の前後寸法を短くするように折った前後折り部38を、各横折り部28よりも遅れて展開するように第2の制御用縫製部32で折り形状を保持することにより、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させる遅延制御部34をより容易に構成できるとともに、遅延制御部34による下面部24の展開のタイミングを第2の制御用縫製部32によって、より容易に設定できる。
【0057】
なお、上記の第1ないし第3の実施の形態において、第1の制御用縫製部29の強度と第2の制御用縫製部32の強度との相違は、縫製距離を変えるなどの縫製方法以外でも、糸の強度や運針数の調整によって制御することもできる。
【0058】
また、第2の制御用縫製部32に代えて、例えば接着剤あるいは溶着などを用いて接合する構成としてもよい。
【0059】
次に、第4の実施の形態を図7を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0060】
この第4の実施の形態は、上記第1ないし第4の実施の形態の遅延制御部34に代えて、遅延制御部としての連結手段であるテザーベルト41,41を備えるものである。
【0061】
これらテザーベルト41は、本実施の形態において、各横折り部28と下面部24とを連結することで、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させるものである。すなわち、これらテザーベルト41は、上端部がベントホール27に対向する位置で各横折り部28の下部に対して例えば縫製により接合された第1の接合部41aとなっており、下端部が下面部24に対して例えば縫製により接合された第2の接合部41bとなっている。また、各テザーベルト41の両端間の中央部近傍には、このテザーベルト41を破断させるための破断部としての弱部であるスリット42が形成されている。このスリット42は、テザーベルト41の幅方向に沿って形成されており、各第1の制御用縫製部29を破断させる所定の展開圧力よりも大きい展開圧力によって破断する、すなわち第1の制御用縫製部29よりも遅れて破断するように構成されている。
【0062】
そして、エアバッグ本体部11が展開する際には、各横折り部28及び下面部24がそれぞれ各第1の制御用縫製部29及び各テザーベルト41によって保持され展開初期及び各第1の制御用縫製部29がそれぞれ破断して各横折り部28が展開して側面部22が完全に展開する展開中期の後の展開終期において、膨張ガスによる所定の展開圧力により、各テザーベルト41がスリット42からそれぞれ破断して、下面部24が下方へと完全に展開して乗員拘束面部21が中期乗員拘束面部21bに対して上下方向及び左右方向に面積が拡大した終期乗員拘束面部21cとなり、エアバッグ本体部11の内圧がさらに低下し、展開中期よりも抑制された反力となる最終的な展開状態となり、展開中期よりも抑制された反力で乗員Pの頭部P1、胸部P2及び腹部P3を拘束し、これらのエネルギを確実に、かつ効率よく吸収する。
【0063】
このように、本実施の形態によれば、下面部24と各横折り部28とを、各横折り部28よりも下面部24が遅れて展開するように連結するテザーベルト41を用いることにより、下面部24の展開を各横折り部28の展開よりも遅延させる遅延制御部をより容易に構成できる。
【0064】
なお、上記第4の実施の形態のテザーベルト41は、例えば図8に示す第5の実施の形態のように、上面部23と下面部24との間に亘って連結されていても同様の作用効果を奏することができる。
【0065】
また、上記の第4及び第5の実施の形態の各構成を組み合わせて図9に示す第6の実施の形態のように構成してもよい。
【0066】
さらに、上記の第4ないし第6の実施の形態において、テザーベルト41は、スリット42を設ける代わりに、エアバッグ本体部11を構成する基布との接続部である接合部41a,41bの少なくともいずれか一方が第1の制御用縫製部29よりも遅れて破断するように構成してもよい。この場合には、第1の制御用縫製部29の強度と接合部41a,41bのいずれか一方との強度との相違は、例えば糸の強度、あるいは運針数の調整などによって制御することもできる。
【0067】
また、テザーベルト41は、各横折り部28よりも下面部24の展開を遅延させるように構成されていれば、縫製以外でも、例えば接着剤あるいは溶着などを用いてエアバッグ本体部11を構成する基布と接合したり、複数の基布を互いに接着剤あるいは溶着などを用いて接合したりする構成としてもよい。
【0068】
そして、上記の各実施の形態において、第1の制御用縫製部29に代えて、例えば接着剤あるいは溶着などを用いて接合する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば助手席乗員用のインストルメントパネル部に備えるエアバッグとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
11 エアバッグ本体部
12 エアバッグ
21 対向面部である乗員拘束面部
22 側面部
23 上面部
24 下面部
27 ベントホール
28 横折り部
29 保持制御部としての第1の制御用縫製部
31 下面折り込み部としての縦折り部
32 保持部としての第2の制御用縫製部
34 遅延制御部
38 下面折り込み部としての前後折り部
41 遅延制御部としてのテザーベルト
P 乗員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9