特許第5885424号(P5885424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5885424熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885424
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20160301BHJP
   B21C 23/00 20060101ALI20160301BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   B21C23/00 A
   F28F21/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-176642(P2011-176642)
(22)【出願日】2011年8月12日
(65)【公開番号】特開2013-40360(P2013-40360A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】海老原 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】津田 晋一
(72)【発明者】
【氏名】笹田 総一
(72)【発明者】
【氏名】与田 道広
(72)【発明者】
【氏名】古村 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 靖憲
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−087162(JP,A)
【文献】 特開平08−060280(JP,A)
【文献】 特開2008−188616(JP,A)
【文献】 特開平11−315335(JP,A)
【文献】 特開2005−298913(JP,A)
【文献】 特開平11−140571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
B21C 23/00
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:0.4〜0.7質量%、Mn:0.8〜1.7質量%、Zr:0.01〜0.3質量%、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金ビレットを熱間押出してパイプ部材を製造することを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法
【請求項2】
さらに、Fe:0.6質量%以下、Si:0.6質量%以下、Mg:0.05質量%以下、Cr:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.05質量%以下を含有することを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の配管、ヘッダパイプ、マニフォールド、リキッドタンク、モジュレータタンク、レシーバタンク等の押出パイプ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンなどに用いられている熱交換器には、冷媒が通る配管、熱交換するためのチューブへ冷媒を分配するためのマニフォールド、冷媒の気液を分離するためのレシーバタンクなどのパイプ状の部材からなる部品が多数使用されている。
特許文献1には、コンデンサの一部を構成するヘッダパイプに結合ブラケットを介して結合されたリキッドタンクが示されている。
このリキッドタンクは高圧の冷媒が内部に入るため、高強度の材料であることが求められる。また、使用中の腐食による耐圧強度低下や冷媒漏れを防ぐために、優れた耐食性も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−122705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなパイプ部材を製造する方法として、ポートホール押出法がある。このポートホール押出法は、マンドレルとダイスとがブリッジにより連結状態とされ、これらの間に形成される複数のポート穴を経由してアルミニウム合金素材を押し出してパイプを形成する方法である。アルミニウム合金素材はポート穴で分断された後に合流し、再び溶着して一体化するため、数本のウエルドラインと呼ばれる溶着部がパイプの長さ方向に沿う線状に形成される。
【0005】
この押出法によって製造されたパイプ部材は、その後引抜き加工が施されればウエルドラインは消失するが、断面が円形でなく異形状である場合など、押出加工のまま製品となるものでは、ウエルドラインが残った状態となる。また、製造コスト低減のため、引抜き加工を省略する場合もある。
このようなパイプ部材において、環境問題対策から部材の更なる薄肉化や、より長い耐食寿命が求められているが、一般的に使用されているJIS3003合金を用いた押出パイプでは、それら要求特性を十分に満足することができず、ウエルドラインが優先的に腐食する傾向にある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、強度及び耐食性に優れ、薄肉化と長い耐食寿命を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような押出パイプ部材は、前述したように高圧の流体による圧力がかかるために強度が必要である。その強度向上のためにはCuの含有が効果的であり、Cuは、アルミニウムに固溶し、あるいはAl−Cu金属間化合物を析出して、固溶強化と析出強化により、強度を向上させる。一方、ウエルドラインが優先腐食する原因は、その界面で固溶成分が析出するためと考えられ、その主成分となる存在としてCuが挙げられる。
このため、Cuは強度向上のためには有効であるものの、その含有量が多いと耐食性を
損なうことになる。したがって、Cuの含有量は所定値以上に多くすることはできない。
そこで、本発明は、この強度向上とウエルドラインの優先腐食防止との両方の特性をともに満足させるために、以下の解決手段とした。
すなわち、本発明の熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法は、Cu:0.4〜0.7質量%、Mn:0.8〜1.7質量%、Zr:0.01〜0.3質量%、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金ビレットを熱間押出してパイプ部材を製造することを特徴とする。
【0008】
Cuは、前述したようにアルミニウム合金の強度を向上させる。また、アルミニウムに固溶したCuは腐食電位を貴にして耐食性向上に寄与する。しかし、多過ぎると、粒界への析出量が多くなって粒界腐食が起こり易くなるとともに、ウエルドラインでの優先腐食が生じ、また、押出加工性も低下する。このため、Cuの含有量としては、0.4〜0.7質量%に抑えた状態とし、その分の強度向上を補うために、Mn及びZrを添加する。
これらMn及びZrは、いずれも耐食性を低下させることなく強度向上させることができ、Cuの含有量を抑えた分の強度向上を補うことができる。しかしながら、Mnは多過ぎると押出加工性が低下する。このため、Mnの含有量は0.8〜1.7質量%とする。また、Zrも、多過ぎると、析出物が多く生成され、押出加工性が低下する。このため、Zrの含有量は0.01〜0.3質量%とする。
このように、Cu、Mn、Zrを必須成分として上記の範囲の量で含有することにより、強度と耐食性とを向上させ、薄肉化と長い耐食寿命とを達成することができる。
【0009】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法において、さらに、Fe:0.6質量%以下、Si:0.6質量%以下、Mg:0.05質量%以下、Cr:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.05質量%以下を含有するとよい。
【0010】
これらの成分は、いずれも耐食性向上のために若干量であれば含まれていてもよい。しかし、Fe、Znは多過ぎると、腐食速度が増加して耐食性を低下させる。Siは多過ぎると押出ダイスからのピックアップ発生により押出加工性が低下する。Mg、Cr、Tiは多過ぎると押出加工性の低下によりウエルドラインでの優先腐食を招く。よって、それぞれ上記の含有量以下とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の製造方法によれば、Cu、Mn、Zrを所定量含有させたことにより、パイプ部材として必要な強度確保と押出加工に伴うウエルドラインでの優先腐食防止との両方の特性を満足するものとなり、薄肉化と長い耐食寿命とを達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材の実施形態を説明する。
この熱交換器用アルミニウム合金製押出パイプ部材(以下、単にパイプ部材という)は、Cu:0.4〜0.7質量%、Mn:0.8〜1.7質量%、Zr:0.01〜0.3質量%、残部がAl及び不可避不純物から構成される。
【0013】
<Cu>
Cuは、アルミニウムに固溶し、あるいはAl−Cu金属間化合物を析出して、固溶強化と析出強化により、強度を向上させる。また、アルミニウムに固溶したCuは腐食電位を貴にして耐食性向上に寄与する。その含有量が0.4質量%未満では十分な効果が得られない。しかし、0.7質量%を超えて多く含有し過ぎると、変形抵抗が大きくなって押出加工性が低下し、また粒界への析出量が多くなって粒界腐食が起こり易くなるとともに、ウエルドラインでの優先腐食が生じて、耐食性を損なうことになる。このため、Cuの含有量を0.4〜0.7質量%とする。
【0014】
<Mn>
Mnは、適切な量含有することにより、耐食性を低下させることなく、アルミニウムへの固溶強化とAl−Mn金属間化合物の析出強化とにより強度を向上させることができる。また、Mnの添加は組織をファイバー状にし易く、大きな強度を得ることができる。その含有量が0.8質量%未満では十分な効果が得られない。しかし、1.7質量%を超えて多く含有し過ぎると、粗大なAl−Mn化合物が多数生成され、高温での変形抵抗が高くなって押出加工性が低下する。このため、Mnの含有量を0.8〜1.7質量%とする。
【0015】
<Zr>
Zrは、Mnと同様、耐食性を低下させることなく強度向上させることができ、また、ファイバー状組織となり易く、大きな強度を得ることができる。その含有量が0.01質量%未満では十分な効果が得られない。しかし、0.3質量%を超えて多く含有し過ぎると、析出物が多く生成され、押出加工時にピックアップと呼ばれるむしれ状の欠陥が表面に発生し易く、また押し出しのための圧力が上昇するなど、押出加工性が低下する。このため、Zrの含有量を0.01〜0.3質量%とする。
【0016】
また、上記以外の成分については、Fe:0.6質量%以下、Si:0.6質量%以下、Mg:0.05質量%以下、Cr:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.05質量%以下であるとよい。
これらの成分は、いずれも耐食性向上のために若干量であれば含まれていてもよい。しかし、Feは多過ぎると、Al−Fe金属間化合物が多数生成され、腐食速度が増加して耐食性を低下させる。Siは多過ぎると押出ダイスからのピックアップ発生により押出加工性が低下する。Znは多過ぎると、腐食速度が増加して耐食性を低下させる。Mg、Cr、Tiは多過ぎると押出加工性の低下によりウエルドラインでの優先腐食を招く。よって、それぞれ上記の含有量以下とする。
【0017】
このような組成のパイプ部材は、アルミニウム合金ビレットを半連続鋳造法によって作製し、熱間押出を行う、通常の製造方法によって製造される。このパイプ部材が前述したリキッドタンクのように、内周面が円形で外周部が異形状に形成され、部分的に肉厚が異なる断面形状のものである場合には、最も薄い部分の肉厚が0.5〜3.0mm程度に設定される。また、ヘッダパイプ等にろう付けによって固着される。
Cu、Mn、Zrを所定量含有させたことにより、パイプ部材として必要な強度確保と押出加工に伴うウエルドラインでの優先腐食防止との両方の特性を満足するものとなり、薄肉化と長い耐食寿命とを達成することができる。
【実施例】
【0018】
表1に示す組成のアルミニウム合金を使用して作製したビレットを用い、均質化処理、熱間押出を行って内径27mm、外径30mmのパイプ部材を作製した。
このパイプ部材に対して、表面品質、機械的特性、腐食深さをそれぞれ評価した。
表面品質は、パイプ部材を外観検査して、ピックアップの有無を確認した。
機械的特性としては、パイプ部材からJIS5号試験片を切り出して、JIS Z2241に規定する引張試験法にしたがって、引張強さを測定した。なお、引張り強さは、ろう付熱処理相当(600℃×3分)後のものである。
腐食深さは、ASTM G85規格のSWAATにて12日間暴露した後に断面を顕微鏡観察して腐食深さを測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
この表1に示されるように、実施例のパイプ部材は、パイプ部材の表面品質が高く、押出加工性に優れることがわかる。また、機械的強度が高く、腐食深さも小さいものであった。したがって、実施例のパイプ部材は、その高い強度と耐食性により、薄肉化と長い耐食寿命とを達成することができることがわかる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。