特許第5885512号(P5885512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885512
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】採熱管の施工方法
(51)【国際特許分類】
   F24J 3/08 20060101AFI20160301BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20160301BHJP
   E02D 11/00 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   F24J3/08
   E02D7/22
   E02D11/00
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-5278(P2012-5278)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-145072(P2013-145072A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】塚田 義明
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康之
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−228419(JP,A)
【文献】 特開2002−303088(JP,A)
【文献】 特開2004−052538(JP,A)
【文献】 特開2006−009313(JP,A)
【文献】 特開2011−133194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J 3/00− 3/08
E02D 7/22
E02D11/00
E21B 7/20
E21B17/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に採熱管を施工する方法において、
掘削治具を構成するケーシングを、該ケーシングの先端開口部を閉塞した状態で当該地盤の所定深度まで回転埋設し、
該ケーシング内への採熱管の挿入と、前記ケーシング内への所定量の水溶液の注入とを実施し、
前記ケーシングを回転させながら前記地盤から引き抜く際、前記先端開口部を開いた状態として当該ケーシング内から前記採熱管と前記水溶液の一部を抜き、前記ケーシング内に充填材を投入し、さらに前記ケーシングを前記地盤から引き抜き、これら採熱管と充填材を地盤中に埋設することを特徴とする、採熱管の施工方法。
【請求項2】
地盤中に採熱管を施工する方法において、
掘削治具を構成するケーシングを、該ケーシングの先端開口部を閉塞した状態で当該地盤の所定深度まで回転埋設し、
該ケーシング内への採熱管の挿入と、前記ケーシング内への所定量の水溶液の注入と必要な充填材の投入とを実施し、
前記ケーシングを回転させながら前記地盤から引き抜く際、前記先端開口部を開いた状態として当該ケーシング内から前記採熱管と前記充填材等を抜き、これら採熱管と充填材を地盤中に埋設することを特徴とする、採熱管の施工方法。
【請求項3】
前記ケーシングとして、前記先端開口部に係脱可能な閉塞蓋を備えたものを用いる、請求項1または2に記載の採熱管の施工方法。
【請求項4】
前記閉塞蓋は、前記ケーシング内からの圧力を受けて脱落可能な状態で該ケーシングの先端に係止しているものである、請求項3に記載の採熱管の施工方法。
【請求項5】
前記ケーシングとして、該ケーシングの外周面に螺旋状羽根又は螺旋状溝を備えたものを用いる、請求項1から4のいずれか一項に記載の採熱管の施工方法。
【請求項6】
前記水溶液の注入後、前記充填材を前記ケーシング内へ投入する、請求項1から5のいずれか一項に記載の採熱管の施工方法。
【請求項7】
前記先端開口部を開いた状態とした後、前記ケーシングへ前記充填材を投入する、請求項6に記載の採熱管の施工方法。
【請求項8】
前記螺旋状羽根の羽根径をDw(m)、前記ケーシングの外径をD(m)、前記螺旋状羽根のピッチをP(m)、前記ケーシングの回転数をR(rpm)、前記ケーシングの引き上げ速度をF(m/min)とした時に、前記ケーシングを逆回転することにより下向きの力を受ける前記地盤中の土砂の体積を
【数7】
とし(ただし、αは、土砂の土質によって異なる排土率)、
外径がD(m)のロッドが逆回転しながら引き上げられることによって前記地盤中に生ずる空洞部の体積を
【数8】
としたとき、
【数9】
となるように、前記ケーシングの回転数Rと引き上げ速度Fを設定して当該ケーシングを前記地盤から引き抜くことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の採熱管の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採熱管の施工方法および施工用掘削治具に関する。さらに詳述すると、本発明は、地盤を掘削して採熱管を施工する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中熱を融雪や空調等に使用するための手段として、当該地中熱を地中から採取する採熱管(地中熱交換器)が利用されている。このような採熱管を施工する技術としては、例えば、地中に形成した掘削穴に、直線状の往路管と復路管の下端部同士を連結流路で連結して構成したU字管を配設するようにしたもの等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−174073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のごとき施工技術によると、地盤掘削時に泥水や泥土が発生することから、これらを処理する必要が生じる。また、地盤を掘削する機械としてボーリングマシンを用いることが多いのだが、このようなマシンによると比較的小径の孔しか掘削することができず、往路管と復路管の間隔が狭い幅狭のU字管しか施工できないことがある。
【0005】
そこで、本発明は、低排土もしくは無排土で掘削することができ、尚かつ幅広の採熱管の施工に適した採熱管の施工方法および施工用掘削治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。例えば、ケーシングを掘削治具として用いれば、低排土もしくは無排土で掘削することが可能となり、また、掘削孔を大型化して幅広の採熱管を地中に施工することも可能となる。ところが、反面、ケーシングを用いると従来にはなかった特有の問題が生じるため、このような問題にも同時に対処しなければならない。これらの問題に対処しつつ課題を解決することについてさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0007】
本発明はこの新たな知見に基づくものであり、地盤中に採熱管を施工する方法において、掘削治具を構成するケーシングを、該ケーシングの先端開口部を閉塞した状態で当該地盤の所定深度まで回転埋設し、該ケーシング内への採熱管の挿入と、ケーシング内への所定量の水溶液の注入とを実施し、ケーシングを回転させながら地盤から引き抜く際、先端開口部を開いた状態として当該ケーシング内から採熱管と水溶液の一部を抜き、ケーシング内に充填材を投入し、さらにケーシングを地盤から引き抜き、これら採熱管と充填材を地盤中に埋設することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、地盤中に採熱管を施工する方法において、掘削治具を構成するケーシングを、該ケーシングの先端開口部を閉塞した状態で当該地盤の所定深度まで回転埋設し、該ケーシング内への採熱管の挿入と、ケーシング内への所定量の水溶液の注入と必要な充填材の投入とを実施し、ケーシングを回転させながら地盤から引き抜く際、先端開口部を開いた状態として当該ケーシング内から採熱管と充填材等を抜き、これら採熱管と充填材を地盤中に埋設することを特徴とする。
【0009】
このようにケーシングを用いて地盤を掘削すれば、低排土もしくは無排土で地盤を掘削することが可能となる。また、このようにケーシングを用いて地盤を掘削すれば、掘削孔を大型化して幅広の採熱管を地中に施工することも可能となる。
【0010】
さらには、従来のごとくボーリングマシンを使うとすれば、掘削孔の大径化に伴って高コスト化と施工効率の低下を招きかねないが、この点、ケーシングを使って施工する本発明によれば、高コスト化と施工効率の低下を招くことなく掘削孔を大径化することができる。したがって、この点においても、幅広の採熱管を施工する工法として好適である。
【0011】
また、施工工程において、ケーシング挿入工程と掘削工程とが別々の場合、施工に要する時間が長くなり、これに応じてコストが上昇することがある。この点、本発明によれば、ケーシングを、その先端開口部を閉塞した状態で地盤の所定深度まで回転埋設することから、ケーシング挿入工程と掘削工程とが同時である。このため、施工に要する時間が短く、したがってコストを低下させることができる。
【0012】
さらに、本発明においては、ケーシングを回転させながら地盤から引き抜く際、閉塞蓋を解放して当該ケーシングの先端開口部から採熱管と水溶液や充填材とを抜き、最終的にこれら採熱管と充填材を地盤中に埋設するようにしている。これによれば、採熱管を共上がりさせることなく地盤からケーシングを引き抜き、充填材と採熱管を地中部に埋設することができる。
【0013】
加えて、ケーシングを用いることによる特有の問題については以下のとおりである。すなわち、埋設したケーシング内に採熱管を挿入し、さらに充填材を投入した後でケーシングを回転させながら地盤から引き抜こうとすると、採熱管に回転しようとする力が作用し、当該採熱管に捻れを生じさせてしまうおそれがある。この点、本発明では、ケーシング内に所定量の水溶液を注入した後に充填材を投入することとし、これにより、水溶液中を充填材が落下する状態として該充填材の自由落下速度を低下させ、もって、ケーシング内の充填材の充填密度が下がるようにしている。このように充填材の密度を下げることで、ケーシングを回転させながら引き抜いても採熱管が共上がりしなくなり、尚かつ、採熱管に捻れが生じることもなくなる。ケーシング内に所定量の水溶液を注入した後に充填材を投入するばかりでなく、水溶液を注入しながら充填材を投入してもよい。
【0014】
同時に、充填材が水溶液中にあることで、充填材に浮力が作用することにより、管内の充填材に作用する拘束圧が減少し、ケーシング内側面と接触面における摩擦抵抗力が減少し、共回りしづらくなる効果も得られる。共回りを防ぐこの作用は、充填材の内部摩擦角やアーチ効果を発生させる充填材の寸法形状、充填量に依存する拘束圧の大きさと水溶液の水位によって検討されるもので様々な組み合わせが考えられる。
【0015】
上述の施工方法においては、ケーシングとして、先端開口部に係脱可能な閉塞蓋を備えたものを用いることが好ましい。この場合、閉塞蓋は、ケーシング内からの圧力を受けて脱落可能な状態で該ケーシングの先端に係止しているものであることが好ましい。
【0016】
また、ケーシングとして、該ケーシングの外周面に螺旋状羽根や螺旋状溝を備えたものを用いることも好ましい。
【0017】
また、上述の施工方法においては、水溶液の注入後、充填材をケーシング内へ投入することが好ましい。この場合、先端開口部を開いた状態とした後、ケーシングへ充填材を投入することが好ましい。
【0018】
さらに、本発明は、採熱管の施工時、ケーシングを用いて地盤を掘削する掘削治具であって、当該ケーシングの先端に係脱可能であり、ケーシング内の圧力を受けて脱落可能な状態で該ケーシングの先端に係止する閉塞蓋と、当該ケーシングの外周面に形成された螺旋状羽根又は螺旋状溝と、を備え、地盤の所定深度まで埋設された後の当該ケーシング内に投入された水溶液、あるいは水溶液および充填材の重量による圧力により、該ケーシングの引き抜き時に閉塞蓋を脱落させるというものである。
【0019】
このような掘削治具において、ケーシングと地盤との摩擦抵抗を減少させるためにケーシングの外周面に、地盤を撹拌する突起ないしは撹拌翼が設けられていることが好ましい。
【0020】
螺旋状羽根のあるケーシングを引き抜く工程においては、逆回転で引き抜くことで、土砂の排出を抑えることが可能となる。しかしながら、施工条件によっては土砂を過剰に下向きに押し付けることとなり、採熱管に余計な力が作用することとなるだけでなく、ケーシング内にも土砂が入り込み、閉塞されることで採熱管とケーシングが共回りしてしまうおそれがある。この点を考慮すると、本発明のごとくケーシングの回転数と引き上げ速度を設定して当該ケーシングを地盤から引き抜くことが好ましい。すなわち、螺旋状羽根の羽根径をDw(m)、ケーシングの外径をD(m)、螺旋状羽根のピッチをP(m)、ケーシングの回転数をR(rpm)、ケーシングの引き上げ速度をF(m/min)とした時に、ケーシングを逆回転することにより下向きの力を受ける地盤中の土砂の体積を
【数1】
とし(ただし、αは、土砂の土質によって異なる排土率)、
外径がD(m)のロッドが逆回転しながら引き上げられることによって地盤中に生ずる空洞部の体積を
【数2】
としたとき、
【数3】
となるように、ケーシングの回転数Rと引き上げ速度Fを設定して当該ケーシングを地盤から引き抜くことが好ましい。このように設定してケーシングを地盤から引き抜くことにより、土砂を下向きに押し付けることなく施工することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低排土もしくは無排土で掘削することができ、尚かつ幅広の採熱管の施工に適した採熱管の施工方法および施工用掘削治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る採熱管の施工方法の概略を(A)〜(D)の順に示す図である。
図2】本発明の一実施形態において、(I)地盤を掘削する工程、(II)掘削治具により所定の深度まで地盤を掘削する工程を示す図である。
図3】(III)ケーシング内に水溶液を注入し、採熱管を挿入する工程、(IV)ケーシングを逆回転させて地盤からの引き抜きを開始する工程を示す図である。
図4】(V)閉塞蓋が解放されて先端開口部が開いた状態で、基端開口部から充填材を投入する工程、(VI)ケーシングを逆回転させて地盤からさらに引き上げ、尚かつ充填材をさらに充填する工程を示す図である。
図5】(VII)ケーシング内に水を注入する工程、(VIII)ケーシング内に充填材を投入する工程を示す図である。
図6】(IX)上述した(VI)〜(VIII)の工程を繰り返し、掘削孔内に充填材を充填し、地盤からケーシングを引き抜く工程を示す図である。
図7】(A)先端部近傍が先端に向かって徐々に拡径したケーシングおよび該ケーシングに取り付けられた閉塞蓋を示す図、(B)当該ケーシングの先端開口部から充填材等が抜ける様子を示す図である。
図8】回転止めが設けられたケーシングと閉塞蓋の一例を示す図である。
図9】ケーシングと、該ケーシングの先端開口部に嵌合する傾斜抑止部が形成された閉塞蓋の構造例を示す図である。
図10】ケーシングと、該ケーシングの先端開口部に嵌合する傾斜抑止部が形成された閉塞蓋の他の構造例を示す図である。
図11】閉塞蓋の一方向への回転止めであって、ケーシングを逆方向に回転させた際には閉塞蓋を脱落しやすくする係合部の構造例を示す、(A)ケーシングの先端開口部付近の斜視図、(B)閉塞蓋が取り付けられた状態のケーシングの縦断面図、(C)閉塞蓋が脱落した状態のケーシングの縦断面図である。
図12】(A)ケーシング内に充填材が密に詰められた状態、(B)ケーシングを逆回転しながら引き上げた際に採熱管が共上がりしながら捻れた状態 を参考として示す図である。
図13】排土率αの考え方を示す図である。
図14】排土率α=1の場合について説明する図である。
図15】排土率α=0.5の場合について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1等に本発明の実施形態を示す。本実施形態では、ケーシング2からなる掘削治具1を用い、該ケーシング2をその先端開口部2aを閉塞した状態で当該地盤Gの所定深度まで回転埋設し、該ケーシング2内に採熱管30を挿入した後、当該ケーシング2を回転させながら地盤Gから引き抜くことによって当該採熱管30を施工するというものである(図1参照)。
【0025】
ケーシング2は、閉塞蓋3、螺旋状羽根2fを備えており、地盤Gの所定深度まで埋設された後の当該ケーシング2内に投入された水溶液40、あるいは該水溶液40と充填材50の重量よる圧力により、該ケーシング2の引き抜き時に閉塞蓋3を脱落させるように構成されている(図1等参照)。本実施形態のケーシング2は、筒状の本体部2bと、該本体部2bの両端に形成された先端開口部2aおよび基端開口部2cとを有しており(図1(A)等参照)、その外周には螺旋状羽根2fが形成されている。なお、ここでは周回数が1程度の螺旋状羽根2fを有するケーシング2を例示しているが(図1参照)、周回数が複数連続スパイラル状のケーシング2を用いることもできる(図2等参照)。また、特に図示していないが、ケーシング2の先端開口部2aの近傍に掘削爪を設けて掘削性能をさらに向上させるようにしてもよい。
【0026】
閉塞蓋3は、ケーシング2の先端開口部2aを閉塞する部材であり、当該先端開口部2aに係脱可能となっている(図1(C)等参照)。なお、本明細書でいう閉塞とは、(1)ケーシング2の先端開口部2aが完全に塞がれた状態の他、(2) 先端開口部2aが完全に塞がれているわけではないが閉塞蓋3がない場合と比べればケーシング2内への土砂の侵入を減少させることができる状態 をも含む。
【0027】
また、閉塞蓋3は、ケーシング2内の圧力を受けて脱落可能な状態で先端開口部2aに係止される。一例として、図1等では、閉塞蓋3の周縁と先端開口部2aとの間にOリング4を介在させ、該閉塞蓋3を、圧力を受けた際に先端開口部2aから脱落する程度の嵌め合い強さで係止させている。
【0028】
続いて、本実施形態の掘削治具1を用いた施工時における作業の流れの一例を示す。なお、図1に示したのは本発明の概略であり、以下ではより詳細な作業の内容を示した図2図6を参照しながら説明する。
【0029】
(I) ケーシング2の先端開口部2aを閉塞蓋3で閉塞した状態の掘削治具1を用い、地盤Gを掘削する(図2(I)参照)。特に詳しく図示していないが、リーダー、オーガー、振れ止め装置などを備えた杭打機を用いてケーシング2を回転させて無排土で地盤G中に圧入させるほか、振動圧入を実施して掘削することもできる。掘削状況に応じ、ケーシング2の基端に継ぎ足し用ケーシング20を接続して継ぎ足しながら施工が進められる。接続方法としては、溶接や機械式継手等を採用することができる。
【0030】
(II)掘削治具1により所定の深度まで地盤Gを掘削する(図2(II)参照)。本実施形態では、ケーシング2を正転方向(時計回り)に回転させて掘進させている。
【0031】
(III)ケーシング2の基端開口部2cからケーシング2内に水溶液40を注入し、採熱管30を挿入する(図3(I)参照)。なお、本明細書でいう「水溶液」は、何らかの成分が混在しあるいは混合していない工業用水など、採熱管30の周囲に投入された充填材50と混合させるに適するあらゆる用水を含む(以下、単に水ともいう)。本実施形態においては、水の注入、採熱管30の挿入を、状況に応じて継ぎ足し用ケーシング20を通じて行う。
【0032】
(IV)ケーシング2を逆回転(反時計回り)させ、地盤Gからの引き抜きを開始する。引き抜き開始後、掘削孔内でケーシング2が引き上げられると、水40の重量による作用(水圧の作用)で閉塞蓋3が先端開口部2aから外れ、解放される(図3(II)参照)。
【0033】
(V)閉塞蓋3が解放されて先端開口部2aが開いた状態で、基端開口部2cから充填材50を投入する(図4(I)参照)。本実施形態では伝熱効果の高い充填材50として硅砂を用いているが、これは充填材50の一例にすぎないことはいうまでもない。また、本実施形態では、所定量の充填材50をケーシング2内に投入し、ケーシング2を所定量引き上げ、再び所定量の充填材50をケーシング2内に投入するというように、充填材50の投入とケーシング2の引き上げとを順番に行うこととしている。ただし、これは施工の手間を考慮した手順であって、可能であるならばケーシング2の引き上げと充填材50の投入とを同時に行うようにしてもよい。
【0034】
本実施形態のごとく、水40を注入した後で充填材(硅砂)50を投入した場合、充填材50の落下時に作用する抵抗や浮力の影響により当該充填材50の落下速度が低下する。また、ケーシング2内における充填材50の充填密度が下がる。
【0035】
(VI)ケーシング2を逆回転させて地盤Gからさらに引き上げ、尚かつ充填材50をさらに充填する(図4(II)参照)。上述のように、本実施形態の施工方法によればケーシング2内における充填材50の充填密度を下げることができる。この結果、採熱管30が充填材50から受ける摩擦抵抗が小さくなることから、ケーシング2を逆回転させながら地盤Gから引き上げる際に当該採熱管30が共上がりしなくなり、尚かつ、採熱管30に捻れが生じることもなくなる。
【0036】
このようにケーシング2を逆回転させて地盤Gからさらに引き上げる際、硅砂の上端面をケーシング2の先端開口部2aの位置よりも上方に位置させた状態でケーシング2の引き上げをいったん停止させることが好ましい。硅砂の上端面が先端開口部2aの位置(ケーシング2の先端面)よりも下がると、周辺地盤Gがケーシング2内に入り込み、目詰まり等によって、採熱管30の共上がりやねじれが生じるおそれがあるが、このように硅砂の上端面を先端開口部2aよりも上に維持することによって、このような事態を回避することができる。なお、継ぎ足し用ケーシング20は、適時ケーシング2から取り外すことができる。
【0037】
(VII)ケーシング2内に水40を注入する(図5(I)参照)。ここで追加注入された水40は、この後の工程で投入される充填材(例えば硅砂)50の落下時に抵抗や浮力を作用させ、当該充填材50の落下速度を低下させ、ケーシング2内における充填材50の充填密度を低下させる。
【0038】
(VIII)ケーシング2内に充填材50を投入する(図5(II)参照)。本実施形態は、およそケーシングの1本分に相当する量の充填材50を投入する。ここでは、ケーシング2内の水40の抵抗や浮力の作用により充填材50の落下速度が低くなり、しケーシング2内における当該充填材50の充填密度が低下する。
【0039】
(IX)上述した(VI)〜(VIII)の工程を繰り返すことにより、ケーシング2を引き上げつつ、充填材50の充填量を増やしていく(図6(I)参照)。
【0040】
(X)掘削孔内に充填材50を充填し、地盤Gからケーシング2を引き抜く。掘削孔内に採熱管30が挿入されており、尚かつ該採熱管30の周囲に充填材50が充填された状態として、一連の施工が終了する(図6(II)参照)。
【0041】
ここまで説明したように、本実施形態によれば、先端開口部2aが閉塞蓋3で閉塞された形態のケーシング2を圧入させるといった手法により、低排土もしくは無排土で地盤Gを掘削することができる。
【0042】
また、ケーシング2内に充填材50が密に詰められた状態となっている場合、掘削孔からケーシング2を逆回転しながら引き上げると、採熱管が共上がりしたり捻れたりするおそれがあるが(図12参照、該図12中では、本実施形態における符号と対応する符号に’を付して表している)、この点、ケーシング2内に投入された充填材50の密度を下げるようにした本実施形態によれば、採熱管30が共上がりしたり捻れたりすることなく施工を完了させることができる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、水40の重量による作用(場合によっては、さらに充填材50の重量が加わった作用)により、掘削孔内の閉塞蓋3が自動的に解放されるようにした構造の掘削治具1を利用している。したがって、ロック機構やジョイント等の複雑な機構を必要としない、比較的簡単な構造の掘削治具1を実現することが可能となっている。
【0044】
なお、螺旋状羽根2fのあるケーシング2を引き抜く工程においては、逆回転させながら引き抜くことで、地盤G中の土砂が排出されるのを抑えることが可能となる。ただし、施工条件によっては土砂を過剰に下向きに押し付けることとなり、採熱管30に余計な力が作用することとなるだけでなく、ケーシング2内にも土砂が入り込み、閉塞されることで採熱管30とケーシング2が共回りしてしまうおそれが生じる。この点を考慮し、本実施形態では、ケーシング2の回転数と引き上げ速度を適宜設定することとしている。すなわち、具体的には、螺旋状羽根2fの羽根径(羽根部分の最大径)をDw(m)、ケーシング2の外径をD(m)、螺旋状羽根2fのピッチ(隣り合う羽根どうしの設置間隔)をP(m)、ケーシング2の回転数をR(rpm)、ケーシング2の引き上げ速度をF(m/min)とした時に、ケーシング2を逆回転することにより下向きの力を受ける地盤中Gの土砂の体積を
【数4】
とし(ただし、αは、土砂の土質によって異なる排土率)、さらに、外径がD(m)の仮想的なロッドが逆回転しながら引き上げられることによって地盤G中に生ずる空洞部の体積を
【数5】
としたとき、
【数6】
となるように、ケーシング2の回転数Rと引き上げ速度Fを設定して当該ケーシング2を地盤Gから引き抜く。このように設定したうえでケーシング2を引き抜くこととすれば、土砂を下向きに押し付けることなく施工することが可能となる。
【0045】
ここで、「排土率α」は、ケーシング2が1回転する間に地盤G中に置いてくる土砂体積のピッチに対する割合(螺旋状羽根2f間の1ピッチ分の体積に対する割合)をいう(図13参照)。α=1の場合には、ケーシング2が逆方向(反時計回り)に1回転する間に置いてくる土砂体積Vsは、Vs=V (Vは、螺旋状羽根2fの1ピッチあたりの土砂体積)となり、1回転で1ピッチ分の土砂をすべて地盤中に置いてくる(戻してくる)状況となる(図14の特にハッチング部分を参照)。また、α=0.5の場合には、ケーシング2が逆方向(反時計回り)に1回転する間に置いてくる土砂体積Vsは、Vs=0.5V となり、1回転で0.5ピッチ分の土砂を地盤中に置いてくる(戻してくる)状況となる(図15の特にハッチング部分を参照)。
【0046】
なお、土質によって異なる排土率αは、0<α<2の範囲にて設定することとする。それぞれの土質における好適な例として、粘性土においては、粘性土が崩壊しづらく、ケーシング2の1回転あたりで粘性土を1ピッチ分戻すことが可能であるため0.8≦α≦1の範囲内、砂質土においては、砂質土が粘性土より崩壊しやすく、礫質土よりは崩壊しづらい(砂質土の崩壊しやすさ(しづらさ)が粘性土と礫質土の中間である)ため0.6≦α≦0.9、礫質土においては、礫質土が崩壊しやすく、ケーシング2の1回転あたりで礫質土を1ピッチ分戻すことが難しいため0.6≦α≦0.8の範囲内にて設定したうえでケーシング2を引き抜くこととすれば、土砂を下向きに押付けることなく施工することが可能となる。
【0047】
ここで、ケーシング2に閉塞蓋3を係脱可能に取り付けるようにした構造の好適例を以下に示す(図7図11参照)。
【0048】
ケーシング2の先端部近傍を先端に向かって徐々に拡径させた掘削治具1は、ケーシング2内から充填材50等をさらに抜けやすくしうる点で好適である(図7(B)参照)。また、ケーシング2の先端部形状に合わせ、閉塞蓋3の周縁をテーパー状とすれば、閉塞蓋3の周面とケーシング2の傾斜した内周との両方にOリング4を密着させやすくなるといった利点がある(図7(A))。
【0049】
また、掘削治具1に、閉塞蓋3の回転止めを設けておくことも好適である。このような掘削治具1においては、ケーシング2が回転する際、閉塞蓋3が相対的に回転するのを抑止して同量回転させることができる(図8参照)。これによれば、閉塞蓋3が相対回転してOリング4を潰しながらケーシング2の先端開口部2aに嵌り込むといった事態や、相対回転した閉塞蓋3が傾いて外れるといった事態を回避することができる。このような回転止めは、例えば、ケーシング2の先端開口部2aに設けた突起2gや、該突起2gが嵌合するように閉塞蓋3に設けた切り欠き3aなどで構成することができる。
【0050】
また、閉塞蓋3に、ケーシング2の先端開口部2aに嵌合する傾斜抑止部3bを当該閉塞蓋3の上面から立ち上がるように形成することも好適である(図9図10参照)。このような傾斜抑止部3bは、ケーシング2の先端開口部2aに嵌合した状態となることによって、当該閉塞蓋3が相対的に傾いてケーシング2から外れる事態を抑止する。
【0051】
さらには、掘削治具1に、閉塞蓋3の一方向への回転止めであって、ケーシング2を逆方向に回転させた際には閉塞蓋3を脱落しやすくする係合部を設けておくことも好適である。このような係合部は、例えば、ケーシング2の先端開口部2aに設けた、傾斜辺2sを備えた切り欠き2hと、該切り欠き2hに嵌合する、傾斜辺3sを備えた突起3cとで構成することができる。このような係合部を備えた掘削治具1においては、係合部が、ケーシング2が埋設される方向に回転している間は閉塞蓋3の相対的回転を抑止し、さらにケーシング2が逆回転する際には、傾斜辺2sと傾斜辺3sとの間に、ケーシング2から閉塞蓋3を強制的に引き離す(脱落させる)力を作用させて該閉塞蓋3を解放しやすくする(図11参照)。
【0052】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、図2図6に示した実施形態では、(a)ケーシング2内に注水してから閉塞蓋3を解放し、ケーシング2内に充填材50を投入したが、これは好適例にすぎず、この他、(b)注水しながら充填材50を同時に投入し、それから閉塞蓋3を解放する (c)注水後、充填材50を投入し、それから閉塞蓋3を解放するようにすることもできる。
【0053】
また、上述した実施形態において、閉塞蓋3の先端形状(鉛直下方を向く面の形状)を錐形状としたり、該錐形状の表面にさらに螺旋状羽根を付けたり、あるいは掘削刃や爪を付けたりすることによって掘削性能を向上させることもできる。
【0054】
また、ケーシング2の外周面に撹拌翼2kをさらに設け、ケーシング2を回転埋設する際、掘削した地盤Gを同時に撹拌できるようにすることも好ましい(図1(A)中の二点鎖線参照)。
【0055】
また、上述した実施形態においては、螺旋状羽根2fを備えてケーシング2を例示したが(図1等参照)、このようなケーシング2は、螺旋状羽根2fと螺旋状羽根2fとの間に螺旋状溝(図2において符号2eで示す)が形成されているものと捉えることもできる。要は、いずれにせよ、当該ケーシング2を回転させたときに軸方向への所望の推進力(掘進力、引き上げ力)を作用させうるものであれば羽根でも溝でもよく、さらにはその具体的な形態がとくに限定されることもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、地盤を掘削して採熱管を施工するための技術として好適である。
【符号の説明】
【0057】
1…掘削治具
2…ケーシング
2a…先端開口部
2e…螺旋状溝
2f…螺旋状羽根
2k…撹拌翼
3…閉塞蓋
30…採熱管
40…水(水溶液)
50…充填材
G…地盤
図1
図2
図3
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図15